AMD Athlon Silver 7120U ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.14

はじめに
1. AMD Athlon Silver 7120U: 仕様詳細
1. 1.1. CPUアーキテクチャと基本スペック
2. 1.2. 内蔵GPU: AMD Radeon 610M
2. CPU性能ベンチマーク分析
3. 競合プロセッサとの比較分析
4. 内蔵GPU (AMD Radeon 610M) の性能評価
1. 4.1. グラフィックベンチマーク結果 (3DMark)
2. 4.2. 実用的なグラフィック性能: 軽いゲームと動画再生
5. 実使用感とユーザー評価
6. 総合評価と推奨用途
7. 結論

はじめに

AMD Athlon Silver 7120Uは、エントリーレベルのモバイルプロセッサ市場をターゲットとして、2022年後半に発表されたAMDの「Mendocino」APUシリーズの一翼を担う製品です ¹。このプロセッサは、特に価格を重視するユーザー向けのノートパソコンに搭載されることを想定しており、日本の家電量販店（例: ノジマ ³）やPCメーカー（例: HP Japan ⁶）が販売する低価格帯モデルで採用例が見られます。

本レポートは、AMD Athlon Silver 7120Uの性能特性について、主に日本語の技術情報サイト、製品レビュー、ベンチマークデータベースから得られた情報を中心に、国際的なベンチマークデータも参照しながら詳細な分析を行うことを目的としています。特に、基本的な仕様からCPUおよび内蔵GPUのベンチマーク結果、競合製品との比較、そして実際の使用感に至るまでを網羅的に評価します。

この分析を通じて、Athlon Silver 7120Uがターゲットとするユーザー層（学生、基本的なPC作業を主とするユーザーなど）に対して十分な性能を提供できるのか、また、同価格帯の競合プロセッサと比較してどのような位置づけにあるのかを明らかにします。

1. AMD Athlon Silver 7120U: 仕様詳細

1.1. CPUアーキテクチャと基本スペック

AMD Athlon Silver 7120Uは、低消費電力モバイルプラットフォーム向けに設計されたプロセッサであり、その基盤となるアーキテクチャとスペックは以下の通りです。

コアアーキテクチャ: プロセッサコアには、Ryzen 4000モバイルシリーズで採用された実績のあるZen 2アーキテクチャが用いられています ¹。これは最新世代のアーキテクチャ（Zen 3やZen 4）ではありませんが、エントリークラスとしては比較的新しい設計です。製造プロセスにはTSMCの6nm FinFETプロセスが採用されており ¹、これは良好な電力効率をもたらす可能性があります。開発コードネームは「Mendocino」として知られています ¹。
コア数/スレッド数: 本プロセッサの最大の特徴であり、同時に性能上の大きな制約となるのが、2コア構成である点です。さらに重要な点として、Simultaneous Multithreading (SMT)、いわゆるハイパースレッディングに非対応であるため、物理コア数と同じ2スレッドしか同時に処理できません ¹。
この2コア/2スレッドという構成は、現代のコンピューティング環境においては非常に少ない部類に入ります。最新のオペレーティングシステムや多くのアプリケーションは、バックグラウンドタスクの処理や全体的な応答性を向上させるために複数のスレッドを活用するように設計されています。利用可能なスレッド数が2つしかないため、複数のアプリケーションを切り替えながら使用したり、OSのアップデートやセキュリティソフトのスキャンといったバックグラウンド処理が実行されたりすると、顕著なパフォーマンス低下やもたつきが発生する可能性が高くなります。たとえ単一のタスクに対するシングルコア性能が十分であっても、マルチタスク性能はこのスレッド数の少なさによって大きく制限されます。これは、同じ2コアでもSMTに対応して4スレッドを持つ旧世代のAthlon Goldや一部のIntel Core i3プロセッサと比較しても、不利な点となります。

クロック周波数: ベースクロックは2.4 GHz、最大ブーストクロック（シングルコア時）は3.5 GHzに達します ¹。
キャッシュ: キャッシュ構成は非常に限定的です。L1キャッシュはコアごとに命令32KB、データ32KB（合計64KB/コア）、L2キャッシュはコアごとに512KB、そして共有L3キャッシュはわずか2MBとなっています ¹。
この2MBというL3キャッシュ容量は、同じZen 2世代の上位CPU（多くは4MBや8MBを搭載）や、同時代の競合製品（例: Intel N100は6MBのIntel Smart Cacheを搭載 ¹²）と比較しても極めて小さい値です。L3キャッシュはCPUコアがメインメモリへアクセスする頻度を減らし、レイテンシを短縮するために重要な役割を果たします。この容量の小ささは、CPUコアが必要とするデータがキャッシュ内に見つからない（キャッシュミス）頻度を高め、結果としてアプリケーションのロード時間や複雑な処理における応答性に影響を与える可能性があります。これは、クロック周波数だけでは測れない性能上のボトルネックとなり得ます。

TDP (Thermal Design Power): 標準TDPは15Wとされており、薄型軽量ノートPCへの搭載に適した設計です ¹。構成によっては8WまでTDPを下げて運用することも可能とされています ¹。
メモリサポート: メモリは高速なLPDDR5規格をサポートしており、一般的には最大5500 MHzのものが使用されます ¹。これは最新のメモリ規格であり、高い帯域幅を提供します。
接続性: ソケットはFP6 ¹⁰、PCI ExpressはGen 3に対応しています ¹⁰。

表1: AMD Athlon Silver 7120U 仕様概要

項目	仕様	出典例
アーキテクチャ	Zen 2 (Mendocino)	¹
製造プロセス	6nm FinFET (TSMC)	¹
コア数/スレッド数	2コア / 2スレッド (SMT非対応)	¹
ベースクロック	2.4 GHz	¹⁰
最大ブーストクロック	3.5 GHz (シングルコア)	¹
L1キャッシュ	64 KB/コア (命令32KB + データ32KB)	¹⁰
L2キャッシュ	512 KB/コア	¹⁰
L3キャッシュ	2 MB (共有)	¹
標準TDP	15 W (8W-15W configurable)	¹
内蔵GPU	AMD Radeon 610M	¹¹
メモリサポート	LPDDR5 (最大 5500 MHz)	¹
ソケット	FP6	¹⁰
PCIeサポート	PCIe Gen 3	¹⁰

1.2. 内蔵GPU: AMD Radeon 610M

Athlon Silver 7120Uに統合されているグラフィックス機能は、AMD Radeon 610Mです。その主な特徴は以下の通りです。

アーキテクチャ: AMDの最新世代ディスクリートGPUや上位APUにも採用されているRDNA 2アーキテクチャをベースとしています ¹。これは、旧世代のAthlonプロセッサに搭載されていたVegaアーキテクチャからの大きな進化点です。
実行ユニット: グラフィックス性能を決定づけるコンピュートユニット（CU）数は、わずか2基に留まります。これは128個のシェーダーコアに相当します ¹。
クロック速度: GPUコアのクロック速度は最大1900 MHzに達するとされています ¹。一部資料では最大2200 MHzの可能性も示唆されていますが ¹⁶、7120UのようなUシリーズでは1900 MHzが一般的な上限と考えられます。HP Japanの製品仕様でもRadeon 610Mの搭載が確認されています ⁶。
メモリ: グラフィックスメモリとしては、システムメモリ（LPDDR5）を共有する方式（UMA: Unified Memory Architecture）を採用しています ¹⁵。利用可能なメモリ帯域幅は、搭載されているシステムメモリの構成（容量や速度）に依存します。
RDNA 2アーキテクチャ自体はモダンで電力効率に優れていますが、CU数が2基というのは、統合グラフィックスとしても極めて少ない数です。例えば、競合するIntel N100の内蔵UHD Graphicsは24基の実行ユニット（EU）を持ち、AMDの上位APU（Ryzen 7040シリーズなど）では最大12基のCUを搭載しています。このため、Radeon 610Mの3Dレンダリング能力は非常に限定的であり、基本的な画面表示、動画再生支援、そしてごく軽量な2D/3Dアクセラレーションに用途が限られます。後述するベンチマーク結果も、この点を裏付けています。

2. CPU性能ベンチマーク分析

Athlon Silver 7120UのCPU性能を客観的に評価するため、複数の標準的なベンチマークテストの結果を分析します。

2.1. 総合ベンチマークスコア (PassMark, PCMark 10)

PassMark CPU Mark: このベンチマークは、CPUの全体的な演算性能を示す指標として広く参照されています。cpubenchmark.netによると、Athlon Silver 7120Uの平均スコアは3015と報告されています ¹¹。日本のレビューサイトでは、komameblog.jpが3088 ¹⁹、for-real.jpが3587 ²⁰ というスコアを挙げており、テスト環境による多少のばらつきが見られます。これらのスコアは、中価格帯以上のCPUはもちろん、数世代前のメインストリームCPUと比較しても低い水準にあります ¹¹。参考として、旧世代のAthlon Silver 3050U（スコア約2963 ¹¹）と比較しても、性能向上はわずかです。
PCMark 10: このベンチマークは、ウェブブラウジング、オフィスソフト利用、簡単なコンテンツ作成といった、より実用的なシナリオをシミュレートします。for-real.jp ²⁰ のレビューでは、総合スコア3047が報告されています。内訳を見ると、「Essentials」（アプリ起動、ウェブ閲覧、ビデオ会議）が5284、「Productivity」（表計算、文書作成）が5821と比較的高めのスコアである一方、「Digital Content Creation」（写真・動画編集、レンダリング）は2499と非常に低いスコアになっています。
PCMark 10の結果は、Athlon Silver 7120Uの特性をよく表しています。EssentialsやProductivityのスコアが示すように、ウェブ閲覧や基本的なオフィス作業といった、シングルスレッド性能や応答性が重要となる軽負荷タスクは、ある程度こなせる能力を持っています。これは最大3.5GHzのブーストクロックが寄与していると考えられます。しかし、Digital Content Creationのスコアが極端に低いことからもわかる通り、複数のコアや大容量キャッシュを必要とするコンテンツ作成系の作業には全く向いていません。for-real.jpが報告したProductivityスコア（5821）は、CPUのスペックから考えるとやや高すぎる印象もあり、同サイトも「不思議です」とコメントしているため ²⁰、特定のテスト条件下での結果である可能性も考慮すべきでしょう。総じて、PCMark 10は、このCPUが基本的なタスクに限定して使用されるべきであることを裏付けています。

2.2. マルチコア性能評価 (Cinebench R23 Multi, Geekbench Multi)

Cinebench R23 Multi-Core: CPUの全コア・全スレッドを使用した際のレンダリング性能を測るテストです。Athlon Silver 7120Uの直接的なスコア情報は限られていますが、Notebookcheckの比較データ ² によると、Intel Core i5-1135G7（平均4724）やAMD Ryzen 7 5825U（平均10198）といった中堅以上のCPUには遠く及ばず、エントリークラスのIntel Pentium N6000（平均1730）と同等か、それ以下の性能であることが示唆されています。for-real.jp ²⁰ では、具体的なスコアとして1686が報告されています。
Geekbench 6 Multi-Core: 様々な演算タスクを通じてマルチコア性能を評価するベンチマークです。特定のテスト実行例では、スコア1769が記録されています ²⁴。これは、最新のマルチコアCPU（多くが10000を超えるスコアを出す ²⁵）と比較すると非常に低い値です。Notebookcheckの比較では、Intel Celeron N5100（Geekbench 5 Multiスコア1788 ²⁶）よりも低い場合があることも示されています。
Cinebench R23 Multi（約1700点前後）およびGeekbench 6 Multi（約1770点）の結果は、2コア/2スレッド設計がいかにマルチスレッド性能を制限しているかを明確に示しています。これらのスコアは、4コア/4スレッド構成を持つIntel Celeron/Pentium Nシリーズ（例: N6000 ²³、N5100 ²⁶）と同等か、わずかに下回るレベルです。これは、マルチスレッド処理が有効なタスクにおいては、コア数の不利が、シングルコアのクロック周波数やアーキテクチャ（Zen 2 vs Intel Tremont）の潜在的な優位性を打ち消してしまうことを意味します。

2.3. シングルコア性能評価 (Cinebench R23 Single, Geekbench Single)

Cinebench R23 Single-Core: 単一コアの性能を測るテストです。ここでも直接的なスコアは少ないですが、Notebookcheckの比較 ² によると、i5-1135G7（平均1375）やR7 5825U（平均1447）、Ryzen 5 7520U（スコア1171）には大きく劣り、Pentium N6000（平均669）よりは高い性能を示す可能性があります。for-real.jp ²⁰ では、スコア893が報告されています。
Geekbench 6 Single-Core: 特定のテスト実行例では、スコア1034が記録されています ²⁴。これは、最大3.5GHzのブーストクロック ¹⁰ の恩恵を受け、エントリークラスCPUとしては比較的良好なスコアと言えます。旧世代のIntel Core i5-7287U（Geekbench 5スコア約900 ¹⁷）などを上回る可能性がありますが、より新しい世代のエントリーCPU（Ryzen 3 7320UやIntel N100など）と比較した場合の優位性は限定的かもしれません。
CPU-Z Benchmark: CPU-Zに内蔵されているベンチマークでは、シングルスレッドスコア327、マルチスレッドスコア331という結果が報告されています ²⁹。これらは、同ページにリストされている現代的なCPUと比較すると非常に低い値です。

表2: CPUベンチマークスコア概要

ベンチマーク名	スコア (代表値/範囲)	出典サイト例
PassMark CPU Mark (Average)	3015 – 3587	cpubenchmark.net ¹¹, komameblog.jp ¹⁹, for-real.jp ²⁰
PCMark 10 Overall	3047	for-real.jp ²⁰
* PCMark 10 Essentials	5284	for-real.jp ²⁰
* PCMark 10 Productivity	5821	for-real.jp ²⁰
* PCMark 10 Digital Content	2499	for-real.jp ²⁰
Cinebench R23 Multi-Core	~1686	for-real.jp ²⁰, Notebookcheck (比較) ²³
Cinebench R23 Single-Core	~893	for-real.jp ²⁰, Notebookcheck (比較) ²³
Geekbench 6 Multi-Core	1769	Geekbench Browser ²⁴
Geekbench 6 Single-Core	1034	Geekbench Browser ²⁴
CPU-Z Benchmark Single/Multi	327 / 331	valid.x86.fr ²⁹

3. 競合プロセッサとの比較分析

Athlon Silver 7120Uの性能をより深く理解するために、同価格帯や類似セグメントの競合プロセッサと比較します。

3.1. Intel Celeron/Pentium Nシリーズとの性能比較

IntelのCeleron NおよびPentium Silver Nシリーズは、Athlon Silver 7120Uが直接競合する低価格・低消費電力プロセッサ群です。

Intel N100 (Alder Lake-N, 4コア/4スレッド, 6W TDP): 最新世代のエントリーCPUであるIntel N100との比較では、Athlon Silver 7120Uは性能面で大きく劣る傾向があります。PassMarkの比較データ ³¹ によると、N100の平均スコア（約5423）は7120U（約3069）を大幅に上回っています。PC Watchの記事 ³² でも、N100のTDPが6Wと7120Uの15Wよりも低いにも関わらず、N100の方が高いスコアを出す場合がある点に言及し、Intelの効率的なGracemontコアのアーキテクチャの優位性を示唆しています。Komameblog.jp ¹⁹ のデータでもN100が優位であることが示されています（ただし、引用されているスコア値は異なる）。Redditの議論 ³³ でも、AthlonシリーズとIntel Nシリーズの比較でAthlonが不利とされる意見が見られます。
N100がはるかに低いTDP（6W対15W）で、より優れたマルチコア性能を発揮するという事実は、重要な示唆を与えます。バッテリー持続時間と基本的なマルチタスク応答性を重視する予算重視のノートPCにおいては、多くの場合、Intel N100がAthlon Silver 7120Uよりも優れた選択肢となる可能性が高いです。これは、AMDにとってこのセグメントにおける大きな競争上の課題を意味します。7120Uの潜在的な利点は、わずかに高いシングルコアブーストクロックか、わずかに性能が良いとされる内蔵GPU（RDNA 2対Intel UHD）かもしれませんが、全体的なCPU性能と電力効率のバランスではN100が有利に見えます。
Intel Pentium Silver N6000 (Jasper Lake, 4コア/4スレッド, 6W TDP): 一世代前のN6000との比較では、より接戦となります。Cinebench R23 Multiのスコアでは、N6000（平均1730 ²³）は7120U（for-real.jp報告値1686 ²⁰）と同等か、わずかに上回るレベルです。一方、Cinebench R23 Singleでは、N6000（平均669 ²³）は7120U（for-real.jp報告値893 ²⁰）に劣る可能性があります。PassMarkの比較 ³⁶ では、N6000（平均3383）が7120U（平均3015 ¹¹）をやや上回っています。
N6000との比較は一長一短です。7120Uは、より高いブーストクロックとZen 2アーキテクチャにより、シングルコア性能では優位に立つ可能性があります。一方、N6000は4コア/4スレッド構成によりマルチコア性能で有利であり、TDPも6Wと低いため、電力効率やバッテリー持続時間では優れている可能性があります。したがって、瞬間的な応答性が重要なタスクでは7120U、軽いマルチタスクやバッテリー重視ならN6000、という選択肢が考えられます。
その他のCeleron (N4500, N4505, N5095, N5100): Notebookcheck ²⁶ での比較を見ると、これらのプロセッサも7120Uと同様の低パフォーマンス帯に位置づけられています。例えば、4コア/4スレッドのCeleron N5100は、Geekbench 5 Multiスコアで7120Uに近い値を示しています ²⁶。2コア/2スレッドのCeleron N4505 ³⁴ などは、さらに性能が低いと考えられます。

3.2. 旧世代AMD Athlonプロセッサとの性能比較

旧世代のAthlonプロセッサと比較することで、世代間の進化を確認します。

Athlon Silver 3050U (Zen, 2コア/2スレッド, 15W): PassMarkのスコア比較 ¹¹ によると、7120U（スコア3015）は3050U（スコア2963）に対してわずか1.7%程度の性能向上しか見られません。
Athlon PRO 3045B (Zen, 2コア/2スレッド, 15W): 同様にPassMark ¹¹ では、7120U（スコア3015）は3045B（スコア2770）に対して約8%高速ですが、大きな差ではありません。
AMD 3020e (Zen, 2コア/2スレッド, 6W): 低TDPの3020e（スコア2413）と比較すると、7120U（スコア3015）は約20%高速であり、こちらは明確な差が見られます ¹¹。
これらの比較からわかることは、旧世代のAthlon Silver 3000シリーズ（Zen 1アーキテクチャ、14nmプロセス）から7120U（Zen 2アーキテクチャ、6nmプロセス）への移行において、アーキテクチャの更新やプロセス微細化にも関わらず、PassMarkのような総合ベンチマークスコアにおけるCPU性能の向上はごくわずかであるという点です。これは、性能が依然として2コア/2スレッド構成と小容量キャッシュによって強く制約されていることを示唆しています。世代交代による主なメリットは、CPU性能そのものよりも、電力効率の改善や、内蔵GPUがVegaからRDNA 2へ、メモリがDDR4からLPDDR5へと近代化された点にあるのかもしれません。

3.3. その他のエントリークラスCPUとの比較考察

Ryzen 3 3200U (Zen+, 2コア/4スレッド, 15W): やや旧世代ですがSMTに対応しているRyzen 3 3200U（PassMarkスコア3763）は、7120U（スコア3015）よりも約25%高速です ¹¹。スレッド数の差が性能に表れています。
旧世代Intel Core i CPU (例: i7-7600U, i5-7300U, i7-7500U): 興味深いことに、PassMarkの比較データ ¹¹ によると、約5～6年前（2017年頃）のIntel第7世代Core i5/i7 Uシリーズ（2コア/4スレッド）が、最新のAthlon Silver 7120Uよりも高いスコアを出すことがしばしばあります。例えば、Core i7-7600U（スコア3689）は7120U（スコア3015）より約22%高速です ¹¹。
Athlon Silver 7120Uが、数年前の（当時の）上位モバイルCPUに性能で劣る場合があるという事実は、このプロセッサの位置づけを明確に示しています。これは、絶対的なコスト削減が最優先される新品の超低価格システム向けであり、数年前のノートPCからのアップグレードであっても、当時の低価格帯（Celeron/Atom）からの移行でない限り、性能向上を体感できない可能性があることを意味します。これは購入者の期待値を管理する上で重要な情報です。Athlon Silverというブランド名は、現行世代の最下層の性能を示すものであり、必ずしも旧世代のすべてのハードウェアを上回るものではないのです。

表3: 主要競合プロセッサとの比較

プロセッサ名	コア/スレッド	TDP (W)	PassMark CPU Mark (平均)	出典サイト例
AMD Athlon Silver 7120U	2 / 2	15	~3015	cpubenchmark.net ¹¹
Intel N100	4 / 4	6	~5423	cpubenchmark.net ³¹, Intel ¹²
Intel Pentium Silver N6000	4 / 4	6	~3383	cpubenchmark.net ³⁶
AMD Athlon Silver 3050U	2 / 2	15	~2963	cpubenchmark.net ¹¹
Intel Core i7-7600U	2 / 4	15	~3689	cpubenchmark.net ¹¹

4. 内蔵GPU (AMD Radeon 610M) の性能評価

Athlon Silver 7120Uに統合されたRadeon 610Mグラフィックスの性能を評価します。

4.1. グラフィックベンチマーク結果 (3DMark)

標準的な3Dグラフィックスベンチマークである3DMarkのスコアは以下の通りです。

3DMark Scores: LaptopMedia ⁴¹ は、Time Spy Graphicsスコア約537、Wild Life Extreme Unlimitedスコア約1041、Steel Nomad Light Unlimitedスコア約493を報告しています。Notebookcheck ¹⁶ は、平均スコアとしてTime Spy Graphics約593、Fire Strike Graphics約1740を挙げています。これらのスコアは非常に低く、Radeon 610Mをエントリーレベルの中でも下位に位置づけます。旧世代のIntel Iris Plus Graphics 640 ¹⁶ よりも低い性能であることが示唆されています。for-real.jp ²⁰ も、特に4GB RAMと組み合わせた場合に性能が「ダントツで最下位」であると指摘しています。
比較コンテキスト: これらのスコアは、Radeon 610Mが基本的な画面出力、ハードウェアによる動画再生支援、そして非常にシンプルな3Dタスクには対応できるものの、現代的な3Dゲームをプレイするには全く不十分であることを示しています。

表4: Radeon 610M グラフィックベンチマーク概要

ベンチマーク名	スコア (平均/代表値)	出典サイト例
3DMark Time Spy (Graphics)	~537 – 593	LaptopMedia ⁴¹, Notebookcheck ¹⁶
3DMark Fire Strike (Graphics)	~1740	Notebookcheck ¹⁶
3DMark Wild Life Extreme (Unltd.)	~1041	LaptopMedia ⁴¹
3DMark Steel Nomad Light (Unltd.)	~493	LaptopMedia ⁴¹

4.2. 実用的なグラフィック性能: 軽いゲームと動画再生

ベンチマークスコアは低いものの、特定の用途ではRadeon 610Mが役立つ場面もあります。

軽いゲーム: LaptopMedia ⁴¹ によるテストでは、古いタイトルや要求スペックの低いeスポーツタイトルであれば、1080p解像度・低設定で動作する可能性が示されていますが、多くの場合フレームレートは60fpsを下回ります。

League of Legends (Low): プレイ可能（報告値279 FPS ⁴¹ は異常に高く、誤記か特定状況の可能性。最高設定での40 FPSの方が実態に近いか）。
Valorant (Low): プレイ可能（約70 FPS ⁴¹）。
Counter-Strike: GO (High Perf): プレイ可能（約99 FPS ⁴¹、ただし高品質設定では29 FPSに低下）。
DOTA 2 (Med): かろうじてプレイ可能（約40 FPS ⁴¹、設定を上げると大幅に低下）。
Rocket League (Low): 境界線上（約52 FPS ⁴¹）。
Overwatch 2 (Low): 困難（約34 FPS ⁴¹）。 Notebookcheck ¹⁶ も、ゲーミングGPUではないとしつつ、Counter-Strike 2のような競技性の高いゲームや2019年以前の古いタイトルなら低設定で動作する可能性があるとしています（CS2で平均51.8 fps）。スペイン語のRedditスレッド ³³ でもゲーム性能に関する質問が見られます。
動画再生: Radeon 610Mが持つRDNA 2アーキテクチャの強みの一つは、最新のビデオデコーダーをハードウェアレベルでサポートしている点です。AVC (H.264)、HEVC (H.265)、VP9、そして最新のAV1コーデックのデコードに対応しています ¹⁶。
これは、YouTube（AV1を積極的に利用）や各種ストリーミングサービス（HEVCが多い）の高解像度動画（例: フルHD、4K）を再生する際に、CPUに大きな負荷をかけることなく、GPUの専用回路が効率的に処理できることを意味します。結果として、スムーズで電力効率の良い動画再生が期待できます。多くの搭載ノートPCがフルHD解像度のIPSディスプレイを採用していること ⁶ も、動画視聴が主要な用途の一つとして想定されていることを示唆しています。3D性能の低さとは対照的に、メディア再生能力はRadeon 610Mの明確な利点と言えるでしょう。

表5: Radeon 610M 軽量ゲーム性能 (1920×1080, 低設定)

ゲームタイトル	平均FPS (目安)	出典サイト例
League of Legends	40 (Max設定)	LaptopMedia ⁴¹
Valorant	~70	LaptopMedia ⁴¹
Counter-Strike: GO (HP)	~99	LaptopMedia ⁴¹
DOTA 2 (Med)	~40	LaptopMedia ⁴¹
Rocket League	~52	LaptopMedia ⁴¹
Overwatch 2	~34	LaptopMedia ⁴¹
Counter-Strike 2	~52	Notebookcheck ¹⁶

5. 実使用感とユーザー評価

ベンチマークスコアだけでは分からない、実際の使用感について、搭載ノートPCのレビューやユーザーの声から探ります。

5.1. 搭載ノートPCレビューからの洞察 (HP 14/15, Lenovo V14など)

HP 14/15シリーズ: 日本市場でAthlon Silver 7120Uを搭載した代表的なモデルであり、多くは4GBメモリと128GB SSDという構成で販売されています ⁵。これらのモデルのレビューでは、Wi-Fi 6対応、Bluetoothマウスの同梱、非光沢のフルHD IPSディスプレイ、指紋認証センサー（一部モデル）といった現代的な機能が評価されています ³。Yahoo!ショッピングのユーザーレビュー ¹⁵ では、SSDによる起動の速さ、初心者や基本的な用途（文書作成、ウェブ閲覧、FXのチャート表示など）には十分であること、価格対性能比の良さが挙げられています。一方で、初期設定の難しさ（特にWindows Sモード関連）、Sモードの制限に対する不満、そしてメモリ4GBへの後悔の声 ⁴ も見られます。
Lenovo V14 Gen 4: komameblog.jpによる詳細なレビュー ¹⁹（Mendocino世代の別CPUでのテストも含む可能性あり）では、CPU性能の低さ（PassMarkスコア引用）、そして特にメモリの問題点が指摘されています。内蔵GPUがシステムメモリの一部（最大2GB程度）を予約するため、4GBモデルではOSやユーザーが実際に利用できるメモリが2GB弱となり、これが大きなボトルネックになるとされています。キーボードは基本的な入力には十分だが、打鍵感は軽めで浅く、多少のたわみがあるとのこと。ディスプレイは旧モデルのTNパネルからIPSパネルに改善され見やすくなったものの、色域は狭いと評価されています。バッテリー駆動時間は、Ryzen 5モデルでのテストで約6時間（ビジネス作業）と、最近のノートPCとしては短いとされています。全体として、軽い作業には使えるものの、CPUとメモリの制約が大きいという評価です。
デザイン全般: 搭載ノートPCは、価格帯を考慮すると比較的薄型軽量 ⁴ で、デザインも安っぽさを感じさせない仕上がりになっているとの評価もあります ⁴⁶。

5.2. 日常タスクにおけるパフォーマンス (Web Browsing, Office Software, Video Conferencing)

Web Browsing: 基本的なウェブサイトの閲覧には問題ないとされています ¹⁵。しかし、メモリ容量（特に4GBモデル）とCPUのスレッド数が少ないため、多くのタブを開くと動作が重くなる可能性が高いです。
Office Software: Wordでの文書作成や簡単なExcelでの表計算といった基本的な作業には対応できると、ユーザーレビュー ¹³ やPCMarkのProductivityスコア ²⁰ は示唆しています。Office 2019/2021がプリインストールされているモデルも販売されており ⁴⁷、動作することが前提とされています。Nojimaの製品紹介 ³ でも基本性能を押さえているとされています。ただし、複雑な関数やマクロを含むファイル、多数のオブジェクトを含むPowerPointファイルなどでは、動作が遅くなることが予想されます。
Video Conferencing (例: Zoom): PCMark 10 Essentialsのスコア ²⁰ やレビューサイトの言及 ²⁰ から、ビデオ会議自体は可能であると考えられます。搭載ノートPCには通常、Webカメラ（多くはHD画質、約92万画素）とマイクが内蔵されています ⁶。Zoomがプリインストールソフトとしてリストアップされている例もあります ⁴⁸。
しかしながら、ここでもメモリとCPUの制約が現実的な問題となります。PCMarkのスコアやソフトウェアのバンドル状況は「動作可能」であることを示唆しますが、特に4GB RAMモデルにおける実際の使用感は、マルチタスク時に大きく損なわれる可能性があります。例えば、Zoomで会議に参加しながら、ウェブブラウザで資料を参照し、同時にWordでメモを取る、といった一般的な使い方をしようとすると、アプリケーション間の切り替えに時間がかかったり、全体的な動作が著しく遅くなったりする可能性が高いです。これは、2コア/2スレッドというCPUの処理能力の限界に加え、内蔵GPUによるメモリ予約 ¹⁹ によって実質的に利用可能なRAMが2GB程度まで減少することが原因です。この限られたリソースでは、複数のアプリケーションをスムーズに切り替えることが困難になります。したがって、基本的な生産性タスクであっても、ある程度のマルチタスクを快適に行いたいユーザーは、8GB RAM構成を選択するか、Intel N100のような競合CPUを検討することが強く推奨されます。

5.3. 日本のユーザーレビューに見る長所と短所

日本のユーザーレビュー ⁴ や製品情報 ³ から、以下の長所と短所が挙げられます。

長所 (Pros):

低価格: 最大の魅力であり、特にセール時には非常に高いコストパフォーマンスを発揮します ⁵。
SSDによる高速起動: HDD搭載の旧型PCと比較して、起動が速い点が評価されています ³。
基本的なタスクには十分: PC初心者や、ウェブ閲覧、簡単な文書作成といった軽作業が主目的であれば、十分な性能と見なされています ³。
最新OS・機能: Windows 11が搭載され、Wi-Fi 6やフルHD IPSディスプレイなど、比較的新しい機能が搭載されていることが多いです ³。
短所 (Cons):

メモリ不足: 4GB構成が多く、これがボトルネックになっている、あるいは購入後に後悔したという声が複数見られます ⁴。
性能限界: 負荷の高い作業や本格的なマルチタスクには全く向いていません ¹⁹。CPU性能自体が低いと認識されています ¹⁹。
Windows Sモードの制約: アプリケーションのインストールがMicrosoft Store経由に限定されるため、不便を感じるユーザーがいます ¹⁵。初期設定が難しいと感じる場合もあります ⁴⁴。（Sモードは通常、解除可能です）
キーボード/その他: キーボードの打鍵感が軽すぎる、浅い、たわむといった指摘や、スピーカーの音質が平凡であるといった評価も見られます ¹⁹。

6. 総合評価と推奨用途

性能特性のまとめ

AMD Athlon Silver 7120Uは、6nmプロセスで製造されたZen 2ベースのプロセッサです。シングルコア性能は基本的なタスクをこなすには十分ですが、2コア/2スレッド構成と2MBという小さなL3キャッシュにより、マルチコア性能は著しく制限されます。最大の利点は低価格で提供される点と、RDNA 2ベースの内蔵GPUが持つ効率的なメディアエンジンによる良好な動画再生能力です。電力効率も潜在的な利点ですが、実際のバッテリー駆動時間は製品設計に依存します ¹⁹。

長所と短所

長所:

非常に低い製品価格を実現可能
最新の6nm製造プロセス
高速なLPDDR5メモリをサポート
RDNA 2アーキテクチャに基づく効率的なメディアエンジン（動画再生に有利）
搭載ノートPCにはWi-Fi 6などの最新機能が含まれることが多い
短所:

極めて低いマルチコア性能（2コア/2スレッド）
非常に小さいL3キャッシュ容量 (2MB)
限定的な3Dグラフィックス性能
標準的な4GBメモリ構成では、内蔵GPUによるメモリ予約もあり、深刻なメモリ不足に陥りやすい
競合するIntel N100などと比較して、マルチコア性能や電力効率で見劣りする

最適な利用シナリオ

推奨される主な用途:

ウェブ閲覧（タブを少数に限定）
電子メールの送受信
基本的な文書作成（Word、簡単なExcel）
動画ストリーミング再生（YouTube, Netflixなど）
セカンドデバイスとして
コンピューティング負荷が極めて低い作業を、最低限の予算で行いたいユーザー
PC操作に慣れていない完全な初心者 ⁴⁴
推奨されない用途:

あらゆる種類の現代的なゲーム（ごく古いか非常に軽量なものを除く）
写真編集、動画編集
プログラミング、ソフトウェア開発
仮想マシンの実行
複数のアプリケーションを同時に快適に利用するヘビーなマルチタスク
様々なアプリケーションでキビキビとした応答性を期待するユーザー
構成に関する推奨:
もしこのCPUを搭載したデバイスを選択する場合、可能な限り8GBのRAMを搭載したモデルを強く推奨します ⁵⁰。CPU性能が低くても、メモリ容量が倍増することで、特にマルチタスク時の全体的な使用感は4GBモデルと比較して大幅に改善される可能性が高いです。

7. 結論

AMD Athlon Silver 7120Uは、その名の通り、現代のプロセッサ市場におけるエントリーレベルの最下層に位置づけられる製品です。最新の6nmプロセスや効率的なメディアエンジンといった長所を持つ一方で、最大の足枷となっているのは2コア/2スレッドというCPU構成です。これによりマルチタスク性能は著しく低く、キャッシュ容量の小ささも相まって、基本的な作業以外では性能不足を感じる場面が多くなります。

特に、強力な競合製品であるIntel N100（4コア/4スレッド、低TDP）の存在は、Athlon Silver 7120Uの魅力を相対的に低下させています。多くの場合、N100の方が優れたマルチコア性能と電力効率を提供します。

さらに、このCPUが搭載される製品の多くが4GBという最低限のメモリしか搭載していない点は、実用上の大きな問題です。内蔵GPUがメモリの一部を使用するため、ユーザーが利用できるメモリはさらに少なくなり、わずかなマルチタスクでも容易に性能が頭打ちになります。

結論として、AMD Athlon Silver 7120Uは、ウェブ閲覧や動画視聴といったごく基本的なニーズを、可能な限り低いコストで満たすためのプロセッサです。しかし、購入を検討する際には、その性能限界を十分に理解し、特にメモリ容量（可能であれば8GBを選択）に注意する必要があります。より快適なコンピューティング体験を求めるのであれば、予算を少し上げてでも、Intel N100やAMD Ryzen 3 7020シリーズ（例: Ryzen 3 7320U）など、より多くのコア/スレッドを持つCPUを搭載したモデルを検討することが賢明でしょう。