AMD Radeon PRO W7800 48GB ベンチマークまとめ

GPU・グラフィックボード

2025.03.22

1. はじめに
2. プロフェッショナルアプリケーションにおけるベンチマーク結果
3. ゲームにおけるベンチマーク結果とプロフェッショナル用途との性能差
4. 異なる環境でのベンチマーク結果の比較検討
5. システム構成要素との関連性
6. 消費電力、発熱、価格
7. 結論

1. はじめに

AMD Radeon PRO W7800 は、プロフェッショナルなワークステーション向けに設計された高性能グラフィックボードです。¹ 特に、CAD、DCC（デジタルコンテンツ制作）、レンダリングなどの高負荷な作業を必要とするユーザーをターゲットとしており、その性能と価格のバランスが注目されています。³ 本レポートでは、この Radeon PRO W7800 のベンチマーク結果を網羅的に調査し、その性能特性、プロフェッショナル用途における強み、ゲーム性能、競合製品との比較、消費電力、発熱、価格などを詳細に分析します。これにより、Radeon PRO W7800 の導入を検討しているプロフェッショナルユーザーにとって、有益な情報を提供することを目的とします。なお、一部情報源では 32GB モデルに関する記述も見られますが、本レポートでは特に指定がない限り、48GB モデル（Gigabyte Radeon PRO W7800 AI TOP 48G GPU ⁴）に関する情報も可能な範囲で含めて考察します。ただし、多くのベンチマークデータは 32GB モデルに基づいているため、その点も考慮して分析を進めます。

2. プロフェッショナルアプリケーションにおけるベンチマーク結果

2.1. SPECviewperf 2020

SPECviewperf 2020 は、OpenGL および DirectX アプリケーションインターフェース下で動作するプロフェッショナルアプリケーションのグラフィック性能を測定するための世界的な標準ベンチマークです。⁶ このベンチマークに含まれる viewset は、実際のアプリケーションのグラフィックコンテンツと動作を代表しており、個々のアプリケーションをインストールすることなく性能を評価できます。

Viewsets	AMD Radeon PRO W7900	AMD Radeon PRO W7800	NVIDIA RTX A6000
Maya-06	301.14	230.9
Medical-03	75.78	56.26
Snx-04	322.58	282.52
Solidworks-05	204.29	153.82
3dsmax-07			112.84
Catia-06			19.01
Creo-03	150.26	125.2	150.26
Energy-03	67.22	49.99	67.22

SPECviewperf 2020 の結果 ⁶ を見ると、Radeon PRO W7800 は、より高性能な W7900 に次ぐ性能を示しており、多くの viewset で良好なスコアを記録しています。特に Maya や Solidworks などのアプリケーションに関連するテストでは、高いパフォーマンスを発揮していることがわかります。一方、NVIDIA の RTX A6000 との比較では、アプリケーションによって優劣が分かれる傾向が見られます。例えば、Creo-03 や Energy-03 では同程度の性能を示していますが、他の viewset では RTX A6000 がより高いスコアを示す場合もあります。この結果から、Radeon PRO W7800 は、多様なプロフェッショナルアプリケーションにおいて、高いレベルのグラフィック処理能力を提供できると考えられます。

2.2. PugetBench

Puget Systems 社が提供する PugetBench は、Adobe After Effects、Premiere Pro、DaVinci Resolve などの主要なコンテンツ制作アプリケーションに特化したベンチマークです。⁷ これらのベンチマークは、実際のワークフローを想定したテストを実行し、GPU の性能を詳細に評価します。

Adobe After Effects: PugetBench for After Effects において、Radeon PRO W7800 は良好なスコアを示しています。⁷ 特に GPU スコアは、マルチコアスコアや RAM プレビュー、レンダースコアと比較して高い傾向にあります。これは、After Effects における GPU アクセラレーションの効果が高いことを示唆しています。

Adobe Premiere Pro: PugetBench for Premiere Pro では、Radeon PRO W7800 は、LongGOP、Intraframe、RAW など、様々なコーデックやワークフローにおいて安定した性能を発揮しています。⁷ 特に H.264 や HEVC コーデックを使用した場合、NVIDIA の競合製品と比較して優れた性能を示す場合もあります。⁸

DaVinci Resolve: PugetBench for Resolve において、Radeon PRO W7800 は高い総合スコアを記録しており、特に GPU Effects や Fusion のスコアが高いことが特徴です。⁷ これは、DaVinci Resolve のようなカラーグレーディングやビデオ編集に特化したアプリケーションにおいて、Radeon PRO W7800 がその性能を最大限に発揮できることを示唆しています。

これらの PugetBench の結果から、Radeon PRO W7800 は、ビデオ編集、モーショングラフィックス、カラーグレーディングなどのコンテンツ制作ワークフローにおいて、非常に強力なパフォーマンスを提供できることがわかります。

2.3. Blender Benchmark

Blender は、オープンソースの 3D モデリングおよびレンダリングソフトウェアであり、Blender Benchmark は、CPU および GPU のレンダリング性能を評価するために使用されます。⁷

シーン	AMD Radeon Pro W7800 (samples/分)	AMD Radeon Pro W7900 (samples/分)
Monster	1306.49	1095.48
Junkshop	688.44	969.55
Classroom	630.03	865.63

Blender Benchmark の結果 ⁷ を見ると、Radeon PRO W7800 は、シーンによって W7900 と比較して優位性を示す場合もありますが、全体的には W7900 の方が高い性能を発揮する傾向にあります。ただし、Radeon PRO W7800 も十分に高いレンダリング性能を備えており、複雑な 3D シーンのレンダリング作業を効率的に行うことができると考えられます。

2.4. Luxmark

Luxmark は、OpenCL を利用した GPU レンダリングのベンチマークです。⁶

カテゴリ	AMD Radeon PRO W7900	NVIDIA RTX A6000
hallbench	22,538	20,867
food	10,264	7,869

Luxmark の結果 ⁶ を見ると、Radeon PRO W7800 の直接的なデータは見当たりませんが、W7900 は RTX A6000 と比較して良好な性能を示しています。ただし、別の情報源 ⁹ によると、Radeon PRO W7800 は Luxmark において期待されたほどの性能を発揮できなかったとされています。これは、GPU のリソース差によるものと考えられます。

2.5. Solidworks

CAD ソフトウェアである Solidworks のベンチマーク結果 ¹⁰ を見ると、Radeon PRO W7800 の直接的な数値データは少ないですが、より下位モデルの W7500 や W7700 と比較することで、ある程度の推測が可能です。一般的に、多くの CAD および BIM ソフトウェアにおける 3D グラフィック性能は CPU にボトルネックが生じやすく、GPU がその性能を十分に発揮できない場合があります。¹⁰ しかし、RealView などのより高度な表示設定を有効にした場合や、高解像度での作業においては、高性能なプロフェッショナル GPU の恩恵を受けることができます。¹⁰ Radeon PRO W7800 の 32GB の大容量メモリは、複雑な CAD モデルの取り扱いにおいて有利に働くでしょう。⁹

2.6. ArcGIS Pro

地理空間情報システム (GIS) ソフトウェアである ArcGIS Pro のベンチマーク結果 ⁶ を見ると、Radeon PRO W7800 は、W7900 とほぼ同等の平均 FPS を記録しています。これは、特定の GIS ワークロードにおいては、W7800 でも十分な性能を発揮できることを示唆しています。ただし、NVIDIA RTX A6000 は、このベンチマークにおいて圧倒的な性能を示しています。

ベンチマーク	AMD Radeon PRO W7900	AMD Radeon PRO W7800	NVIDIA RTX A6000
ESRI ArcGIS Pro 2.3 Montreal	265.07	183.44	601.50
ESRI ArcGIS Pro 2.3 Philly	107.28	106.99	276.65

2.7. その他のプロフェッショナルアプリケーション

Radeon PRO W7800 は、Blackmagic RAW Speed Test ⁶ においても、8K GPU テストで W7900 とほぼ同等の性能を示しており、RAW ビデオの処理においても高い能力を発揮することが期待できます。また、メディアエンジンを2基搭載しており、AV1 コーデックのエンコード・デコードをフルサポートしているため、高解像度、広色域、ハイダイナミックレンジのコンテンツ制作においても有利です。¹

3. ゲームにおけるベンチマーク結果とプロフェッショナル用途との性能差

Radeon PRO W7800 は、プロフェッショナル用途を主なターゲットとしていますが、一部のレビューではゲーム性能についても触れられています。⁹ PCMag のレビュー ⁹ によると、Radeon PRO W7800 はゲームテストにおいて「fairly well（かなり良い）」な性能を発揮したとされています。ただし、同じ AMD の Radeon RX 7900 XTX と比較すると、約 15% 低い性能であり、NVIDIA GeForce RTX 4090 には及ばない結果となっています。これは、Radeon PRO W7800 が RX 7900 XTX の約 3 分の 2 の計算リソースしか持たないことに起因すると考えられます。⁹

プロフェッショナル用途とゲーム用途における性能差は、GPU の設計思想の違いに由来します。プロフェッショナル GPU は、特定のワークロードにおける安定性、信頼性、そして大容量のメモリを重視する傾向があります。一方、ゲーミング GPU は、高フレームレートでのゲームプレイを追求するために、ピーク性能を重視する傾向があります。Radeon PRO W7800 は、32GB (または Gigabyte モデルでは 48GB) という大容量の GDDR6 メモリを搭載しており ⁵，プロフェッショナルアプリケーションにおける複雑なデータセットの処理や高解像度テクスチャの利用において有利に働きます。また、ワークステーション環境での安定動作のために、認定されたドライバが提供されるなどの特徴もあります。³

4. 異なる環境でのベンチマーク結果の比較検討

複数のレビューサイトや技術系フォーラムの情報を収集すると、Radeon PRO W7800 のベンチマーク結果は、テストに使用されたシステム構成（CPU、メモリ、ストレージなど）やドライバのバージョンによってばらつきが見られます。² 例えば、Puget Systems のレビュー ⁸ では、AMD Ryzen Threadripper PRO 5975WX を搭載したシステムでテストが行われており、DaVinci Resolve や Premiere Pro などのコンテンツ制作アプリケーションにおいて、NVIDIA の RTX A5000 や A6000 と競合する性能を示しています。一方、PCMag のレビュー ⁹ では、Intel Core i9-12900K を搭載したシステムでテストが行われており、SPECworkstation 3.1 の一部テストでは RTX 4090 を上回る結果も見られます。

これらの違いを考慮すると、Radeon PRO W7800 の性能を評価する際には、テスト環境の詳細を確認し、自身の使用環境に近い条件でのベンチマーク結果を参考にすることが重要です。また、ドライバのアップデートによって性能が向上する可能性もあるため、最新のドライバ情報を確認することも推奨されます。

5. システム構成要素との関連性

ベンチマーク結果を分析する上で、CPU、メモリ、ストレージなどのシステム構成要素との関連性は非常に重要です。² 例えば、CPU の性能が低い場合、GPU の性能を十分に引き出すことができず、ベンチマークスコアが伸び悩む可能性があります。¹⁰ 特に CAD ソフトウェアなど、一部のアプリケーションでは CPU のシングルコア性能がボトルネックになることもあります。¹⁰

メモリ容量と速度も、GPU の性能に影響を与えます。Radeon PRO W7800 は、32GB (または 48GB) の GDDR6 メモリを搭載しており、これはプロフェッショナル用途においては十分な容量と言えます。⁵ 高速なメモリは、GPU が大量のデータを処理する際に有利に働きます。

ストレージの速度も、特に大容量のデータを扱うコンテンツ制作アプリケーションにおいては重要です。高速な NVMe SSD を使用することで、データの読み込みや書き出し時間を短縮し、ワークフロー全体の効率を向上させることができます。

6. 消費電力、発熱、価格

Radeon PRO W7800 の消費電力は 260W であり ¹，これは同じクラスの他のプロフェッショナル GPU と比較しても妥当な範囲です。PCMag のレビュー ⁹ によると、Radeon PRO W7800 は、RTX 4090 や RX 7900 XTX と比較して低い消費電力であり、電力効率が良いことが示唆されています。

発熱に関しては、Radeon PRO W7800 はブロワータイプの冷却ファンを搭載しており ³，これはワークステーションのように複数のカードを搭載する環境において、ケース内のエアフローを効率的に行うために適した設計です。HotHardware のレビュー ³ によると、通常の動作時や高負荷時においても、比較的静かで、温度も許容範囲内に収まっているとされています。ただし、Gtek.in のレビュー ²⁰ では、8K レンダリングを2時間行った際の GPU コア温度が最大 82℃、メモリジャンクション温度が最大 92℃に達しており、ブロワータイプのクーラーの限界も見られることが指摘されています。

Radeon PRO W7800 の MSRP（メーカー希望小売価格）は $2,499.00 です。⁹ これは、同程度の性能を持つ他のプロフェッショナル GPU と比較して、競争力のある価格設定と言えるでしょう。¹ ただし、市場価格は販売店によって変動する可能性があります。¹²

7. 結論

AMD Radeon PRO W7800 は、プロフェッショナルなワークステーション用途において、高い性能と電力効率、そして競争力のある価格を提供する魅力的なグラフィックボードです。特に、ビデオ編集、モーショングラフィックス、3D レンダリングなどのコンテンツ制作ワークフローにおいて、その性能を十分に発揮できることがベンチマーク結果から示唆されています。CAD や GIS などの分野でも一定の性能を発揮しますが、アプリケーションによっては NVIDIA の競合製品に及ばない場合もあります。

消費電力は比較的低く、ブロワータイプの冷却ファンにより、ワークステーション環境での利用に適した設計となっています。価格も同クラスの製品と比較して競争力があり、コストパフォーマンスを重視するプロフェッショナルユーザーにとって有力な選択肢となるでしょう。

ただし、ベンチマーク結果はシステム構成やドライババージョンによって変動するため、導入を検討する際には、自身の利用環境に近い条件でのテスト結果を参考にすることが重要です。また、一部のアプリケーションやワークロードにおいては、NVIDIA の製品の方が優れた性能を発揮する可能性もあるため、総合的な比較検討を行うことが推奨されます。