AMD Radeon RX 9070 XT ベンチマークまとめ

GPU・グラフィックボード

2025.06.14

I. エグゼクティブサマリー：AMDによるメインストリーム市場への計算された一撃
II. アーキテクチャ分析：RDNA 4のモノリシックコア
III. ゲーミング性能ベンチマークの統合分析
IV. 機能エコシステム：FSR 4とAdrenalinソフトウェアスイート
1. FidelityFX Super Resolution 4：AI時代の幕開け
2. ソフトウェアとドライバ：賛否両論の体験
V. ゲームを超えて：コンテンツ制作能力の評価
1. プロフェッショナルワークロードにおける性能
VI. AIBパートナーモデル詳細分析：冷却、静音性、設計
VII. 市場分析と戦略的評価
VIII. 結論：重大な注意点を伴う、響き渡る成功

I. エグゼクティブサマリー：AMDによるメインストリーム市場への計算された一撃

2025年3月6日に希望小売価格（SEP）599米ドルで発売されたAMD Radeon RX 9070 XTは、AMDの戦略における極めて重要な転換点を象徴する製品である ¹。AMDは、超ハイエンドの「ハロープロダクト」セグメントで競合するのではなく、RDNA 4アーキテクチャの焦点を、メインストリームからパフォーマンス市場において卓越した価値と性能を提供することに合わせた。これにより、500ドルから750ドルという極めて重要な価格帯におけるNVIDIAの支配に直接的な挑戦状を叩きつけている ²。

性能面では、RX 9070 XTは魅力的な1440pおよびエントリーレベルの4Kゲーミング性能を提供し、従来のラスタライゼーションにおいては、より高価なNVIDIA GeForce RTX 5070 Tiとしばしば互角に渡り合い、あるいはそれを上回ることさえある ⁴。RDNA 3世代の先行モデルと比較して、レイトレーシング（RT）およびAI能力において世代的な大飛躍を遂げており、これによりRTゲーミングやAIを活用したアップスケーリングといった機能が、AMD製カードで初めて真に実用的なものとなった ²。

しかし、このカードの最大の強みである、希望小売価格（MSRP）における卓越したコストパフォーマンスは、実際の市場環境によって著しく損なわれている。広範な品不足と大幅な価格高騰により、その理論上の価値と消費者が実際に支払うコストとの間に大きな隔たりが生まれている ²。

結論として、RX 9070 XTは技術的な偉業であり、理論上は見事に市場に投入された製品である。しかし、その成功は二つの市場の物語によって語られる。一つは、その挑戦的なMSRPによって定義される市場。もう一つは、供給と需要の厳しい現実によって定義される市場である。本レポートでは、この二面性を徹底的に分析し、購入を検討しているユーザーに対して決定的な評価を提供する。

II. アーキテクチャ分析：RDNA 4のモノリシックコア

The Navi 48 GPU: モノリシック設計への回帰

RX 9070 XTは、TSMCのN4Pプロセスノードで製造されたNavi 48 GPUを基盤としている ⁷。これは、ハイエンドのRDNA 3（Navi 3X）シリーズで採用されたチップレットベースの設計から戦略的に脱却し、より伝統的なモノリシックダイへと回帰したことを示している ⁹。

この方針転換は、歩留まりを改善し、製造コストを削減することで、599ドルという挑戦的な価格設定を可能にすることを目的としている可能性が高い。AMDは、53.9億個のトランジスタを搭載した356.5 mm²のダイサイズを採用することで、平方ミリメートルあたりの性能とコスト効率に焦点を合わせている ⁸。これは、販売数量の多いメインストリームセグメントでの収益性を最大化するための計算された動きである。

世代間の進化：より少ないリソースで、より多くを成し遂げる

RX 9070 XTは、64基のコンピュートユニット（CU）、4,096基のストリームプロセッサ、64基の第3世代Ray Accelerator、そして128基の第2世代AI Acceleratorを搭載している ¹¹。

ここでの重要な点は、アーキテクチャの効率性が brute force（物量）を上回っていることである。RX 9070 XTは、前世代のフラッグシップモデルであるRX 7900 XTXよりも大幅に少ないCU（64基対96基）と、より狭いメモリバス（256-bit対384-bit）しか持たないにもかかわらず、同等かそれ以上の性能を達成している ⁵。これは、RDNA 4におけるクロックあたりの命令実行数（IPC）の大幅な向上、より高いクロック速度（最大2970 MHzのブーストクロック）、そして全体的なアーキテクチャ効率の改善を示唆している ⁴。AMD自身も、RDNA 3と比較して最大40%高いゲーミング性能向上を謳っている ¹³。

この性能向上の背景をたどると、以下の点が浮かび上がる。

仕様上、RX 9070 XTはRX 7900 XTXに比べてコア数が24-33%少なく、キャッシュやメモリ帯域幅も劣っている ⁷。
しかし、ベンチマークでは、特にRT性能において、しばしば7900 XTXに匹敵するか、それを上回る結果を示している ²。
この性能を支える主な要因は、仕様表には現れないアーキテクチャの改良にあるはずである。情報源は、再設計されたCU、メモリ要求のためのアウトオブオーダーキュー、そしてCUあたりの使用率と性能を向上させる改良されたスケジューラを指摘している ¹⁵。
したがって、RDNA 4の物語は、単にユニット数を増やすのではなく、各ユニットをより賢く、より速くすることであり、これは性能向上へのより持続可能でコスト効率の高い道筋と言える。

主要仕様表

以下の表は、RX 9070 XTとその主要な比較対象の仕様を一覧にしたものである。これにより、技術的なベースラインが明確になり、後述する性能ベンチマークの文脈を理解する助けとなる。

機能	Radeon RX 9070 XT	Radeon RX 9070	Radeon RX 7900 XTX	NVIDIA GeForce RTX 5070 Ti
GPU	Navi 48 XT	Navi 48 XL	Navi 31	GB203 (cut-down)
アーキテクチャ	RDNA 4	RDNA 4	RDNA 3	Blackwell
プロセスノード	TSMC N4P	TSMC N4P	TSMC N5/N6	TSMC 4N
トランジスタ数	53.9 B	53.9 B	57.7 B	45.6 B
ダイサイズ	356.5 mm²	356.5 mm²	529 mm² (GCD+MCD)	378 mm²
コンピュートユニット	64	56	96	70 SM (8960 CUDA Cores)
ストリームプロセッサ	4,096	3,584	6,144	N/A
Ray Accelerator	64 (第3世代)	56 (第3世代)	96 (第2世代)	70 (第4世代 RTコア)
AI Accelerator	128 (第2世代)	112 (第2世代)	192 (第1世代)	280 (第5世代 Tensorコア)
ゲームクロック (MHz)	2400	2070	2300	~2340
ブーストクロック (MHz)	2970	2520	2498	~2610
VRAM	16 GB GDDR6	16 GB GDDR6	24 GB GDDR6	16 GB GDDR7
メモリインターフェース	256-bit	256-bit	384-bit	256-bit
メモリ帯域幅	640 GB/s	640 GB/s	960 GB/s	896 GB/s
Infinity Cache	64 MB	64 MB	96 MB	N/A (L2 Cache: 64MB)
TBP (W)	304	220	355	285-292
発売時MSRP (USD)	$599	$549	$999	$749
出典: ⁴

III. ゲーミング性能ベンチマークの統合分析

ラスタライゼーションの強者：1440pおよび4K性能

RX 9070 XTは、その核心において卓越したラスタライゼーションカードである。IGN、TechSpot、TechRadarなどの複数のレビューでは、高リフレッシュレートの1440pゲーミングにおける最高の選択肢の一つであり、4Kゲーミングへの非常に有能なエントリーポイントとして確立されている ⁴。

競合製品とのラスタライゼーション性能比較は、ゲームタイトルに大きく依存する。Red Dead Redemption 2のようなVulkan APIを強力に活用するタイトルでは、9070 XTはRTX 5070 Tiを大幅に上回る性能を示す（125 fps対110 fps）⁴。

StarfieldやThe Last of Us Part Iのような他のタイトルでも、同様に圧倒的なリードを見せつける ¹⁶。しかし、

Counter-Strike 2やStalker 2のようなゲームでは、RTX 5070 Tiに最大10-16%遅れをとることもある ¹⁰。

ゲームによって性能が大きく変動するこの事実は、発売当初のAMDのドライバが全てのゲームエンジンに対して完全に最適化されていなかった可能性を示唆している。多くの分野で強力な性能を発揮する一方で、明確な弱点も存在する。TechSpotが更新されたドライバで再レビューを行ったところ、Call of Duty: Black Ops 6で14%の性能向上が見られたことは、性能が流動的であり、Adrenalinソフトウェアの成熟とともに時間経過で改善する可能性が高いことを示している ¹⁶。これは長期的な価値を考える上で重要な考慮事項である。

レイトレーシング：大きな飛躍

RDNA 4は、AMDのレイトレーシング性能が真に競争力を持つようになった世代として記憶されるだろう。第3世代RT Acceleratorは、レイ/ボックスおよびレイ/トライアングルの交差判定率を2倍にし、より効率的なBVH8トラバーサルをサポートする ²。AMDは、RDNA 3と比較してCUあたりのスループットが2倍に向上したと主張している ¹³。

このアーキテクチャの進化は、具体的な性能向上に結びついている。3DMark Speed Wayベンチマークでは、9070 XTは7900 XTより18%高速である ⁴。RT負荷の高いワークロードでは依然としてRTX 5070 Tiに後れを取るものの（Speed Wayでは約18%）、RTを有効にした際の性能低下は、以前のRadeonカードよりもはるかに軽微になっている ⁴。

Black Myth WukongのようなRTとラスタライゼーションが混在する一部のタイトルでは、RTX 5070 Tiを打ち負かすことさえある ⁴。

ここでの評価は「支配」ではなく「実用性」である。RX 9070 XTはNVIDIAの得意分野で勝利を収めるわけではないが、その差を、AMDユーザーにとってレイトレーシングを有効にすることが致命的な妥協ではなくなるレベルまで縮めた。これにより、はるかに機能が完全で、将来性のある製品となっている。議論の焦点は「レイトレーシングができるか？」から「競合と比較してどの程度うまくできるか？」へと移行したのである。

ゲーミング性能サマリー

以下の表は、複数の情報源からのベンチマークデータを統合し、性能の概要を明確に示している。

ゲームタイトル	解像度	RX 9070 XT (平均FPS)	RTX 5070 Ti (平均FPS)	性能差 (%)
Red Dead Redemption 2	4K	125	110	+13.6% (9070 XT Lead)
God of War Ragnarök	1440p	~1% faster	N/A	~1% (9070 XT Lead)
Starfield	1440p	31% faster	N/A	31% (9070 XT Lead vs 5070)
The Last of Us Part I	1440p	24% faster	N/A	24% (9070 XT Lead vs 5070)
Marvel Rivals	1440p	88	N/A	-7% (vs 5070 Ti)
Stalker 2	1440p	N/A	N/A	-9% (vs 5070 Ti)
Counter-Strike 2	1440p	N/A	N/A	-10% (vs 5070 Ti)
Cyberpunk 2077 (High, no RT)	1440p	25% faster	N/A	25% (9070 XT Lead vs 5070)
注: RTX 5070 Tiとの直接比較データがない場合は、RTX 5070との比較を記載。性能差はゲームによって大きく変動する。
出典: ⁴

IV. 機能エコシステム：FSR 4とAdrenalinソフトウェアスイート

FidelityFX Super Resolution 4：AI時代の幕開け

FSR 4は、AMDが初めて専用のAI Acceleratorを活用したアップスケーラーであり、従来のテンポラルアルゴリズムから機械学習（ML）ベースのアプローチ（おそらく畳み込みニューラルネットワーク、CNN）へと移行した ³。これは、NVIDIAが長年DLSSで築いてきた優位性に対する直接的な回答である。

レビューによれば、FSR 3.1と比較して画質が大幅に向上し、時間的な安定性が改善され、ゴーストアーティファクトが減少している ⁴。しかし、これには代償が伴う。MLベースのモデルは計算負荷が高く、同じ「パフォーマンス」モードでFSR 3.1と比較して10-20%の性能低下を引き起こす ⁴。AMDの立場は、画質の向上がこのトレードオフを正当化するというものである ⁴。

これにより、ユーザーには新たな戦略的選択肢がもたらされる。Adrenalinソフトウェアのトグルスイッチを介して、新しいAIモデルの優れた画質を優先するか、古いFSR 3.1テンポラルモデルのより高いフレームレートを優先するかを選択できるようになった ⁴。これは、NVIDIAのオールインワンアプローチとは異なる哲学である。

FSR 4の画質は、今やNVIDIAのDLSS、特に古いCNNモデルと非常に競争力がある。以前のFSRバージョンを悩ませていた視覚的なアーティファクトをほぼ解消している ¹⁸。しかし、NVIDIAの最新のDLSS 4は、その「Transformer」モデルにより、一部のシナリオではよりシャープで詳細な画像を生成することができる ¹⁹。純粋な性能向上率では、FSR 4がDLSS 4を上回ることもある ¹⁹。DLSSの最大の利点は、依然としてより広範なゲームサポートである ¹⁹。

ソフトウェアとドライバ：賛否両論の体験

Adrenalinソフトウェアスイートは、HYPR-RXやAnti-Lagといった機能を含め、そのユーザー中心のインターフェースと機能セットで概ね賞賛されている ²¹。

一方で、ドライバの安定性は大きな懸念事項であり、ユーザーフォーラムで繰り返しテーマとなっている。一部のユーザーは完璧で「バターのように滑らかな」体験を報告しているが ²⁴、他の多くのユーザーは、システムのフリーズ、ブラックスクリーン、ドライバのタイムアウト、さらにはハードウェア認識の問題といった深刻な問題を詳述している ²⁵。これらの問題は、様々なAIBモデルやゲームで発生しているようである。

ユーザー報告の安定性におけるこの格差は、AMDが長年抱える課題を浮き彫りにしている。ハードウェアは強力であるものの、初期のユーザー体験は一貫性に欠けることがある。問題は特定のドライババージョン（例：25.3.1、25.6.1）で悪化するようで、クリーンインストール（DDUを使用）、BIOSアップデート、あるいはOSの再インストールで解決する場合がある ²⁴。この「調整の手間」は、プラグアンドプレイの信頼性を求めるユーザーにとっては、購入をためらわせる要因となり得、NVIDIAにソフトウェアの成熟度という点で知覚的な優位性を与えている。

Linuxサポートについては、RDNA 4の初期のLinuxドライバ体験は、アップストリームのカーネルとMesaのサポートにより、過去のAMDのローンチと比較して非常に安定しており、スムーズであると評価されている ²⁹。しかし、Linuxでの初期性能はWindowsに比べて遅れており、時間とともに最適化が進むことが期待される ²⁹。

V. ゲームを超えて：コンテンツ制作能力の評価

プロフェッショナルワークロードにおける性能

ここはRX 9070 XTの最も大きな弱点である。ゲーミングでは強力な性能を発揮するものの、多くのプロフェッショナルなクリエイティブアプリケーションにおける性能は一貫性がなく、しばしば期待外れな結果となる。

Blender: Blenderレンダリングにおいて、RX 9070 XTはNVIDIAの競合製品に比べて著しく遅い。PC Watchのベンチマークでは、RTX 5070 Tiに44-48%の差をつけられている ³¹。さらに懸念されるのは、Reddit上のユーザーベンチマークで、前世代のRX 7900 XTXよりも遅いことが示唆されており、これはBlenderのHIPレンダーパスにおける新アーキテクチャ特有のソフトウェアまたはドライバの最適化問題を示している ³²。
動画編集 (Premiere Pro / DaVinci Resolve): ここでの評価はより複雑である。sanj.devが引用するPuget Systemsのベンチマークによれば、Adobe Premiere ProではRTX 5070が9070 XTよりも30%速くタイムラインをレンダリングする ³³。しかし、
ITmediaのベンチマークでは、9070 XTが前世代の7900 XT/XTXよりも大幅に速く4Kプロジェクトをエンコードしており、メディアエンジンが大幅に改善されたことを示している ³⁴。DaVinci Resolveでは、7900 XTXがすでにNVIDIAの40シリーズと競合していたため、9070 XTは特にRAWワークフローで強力な性能が期待される ³⁵。
AIワークロード: Geekbench AIのような合成AIベンチマークでは、9070 XTは非常に良い性能を発揮し、上位にランクインする ³⁶。しかし、UL Procyonのテキスト生成のような実世界アプリケーションでは、競合に後れを取っており、これもソフトウェアの最適化ギャップを示唆している ³⁶。

これらの結果から、NVIDIAのCUDA APIへの長期的な投資と、Adobeのようなソフトウェア開発者とのパートナーシップが、依然として大きな利益をもたらしていることがわかる ³²。主な、あるいは副次的な用途として3DレンダリングやAIアクセラレーションを多用するビデオエフェクトを扱うユーザーにとって、NVIDIAは依然としてより安全で、多くの場合より高速な選択肢である。RX 9070 XTは、クリエイティブ作業も

こなせるゲーミングカードであり、ハイブリッドなワークホースではない。

VI. AIBパートナーモデル詳細分析：冷却、静音性、設計

リファレンスデザイン不在：AIBのランドスケープ

AMDはRX 9070 XTのリファレンス「Made by AMD」（MBA）デザインをリリースしないことを選択した。これは、市場に出回るすべてのカードがSapphire、ASUS、XFX、ASRock、PowerColorといったアドインボード（AIB）パートナーによるカスタムモデルであることを意味する ¹。したがって、これらのモデル間の違いを理解することは、購入者にとって極めて重要である。

AIBモデルは物理的なサイズが大きく異なり、PowerColor Reaperのような比較的小型の2スロットデザインから、XFXの巨大な3スロット、あるいは4スロットカードまで様々である ⁴。電源コネクタの選択も異なり、Sapphire NITRO+やASRock Taichiのようなプレミアムモデルは16ピンの12V-2×6コネクタを使用するが、他のほとんどのモデルは標準的なデュアル8ピンコネクタを使用している ³。

冷却とノイズの対決

冷却性能と静音性は、AIB間で大きく異なる。TechSpotのテストでは、ホットスポット温度がXFX Mercuryの低温な75°Cから、Sapphire Nitro+のはるかに高温な87°Cまで幅広い範囲に及ぶことが明らかになった ¹⁰。ノイズレベルも同様に多様で、ASRock TaichiとSapphire Pureは「ほぼ無音」であるのに対し、ASUS TUF Gamingは「著しく大きい」と評価されている ¹⁰。これは、ハイエンドのAIBモデルにプレミアムを支払うことで、冷却と静音性において具体的な利益が得られることを示している。

微妙だが注目すべき要因として、VRAMの製造元がある。テストにより、SK Hynix製のメモリモジュールを使用したモデルは、メモリタイミングがタイトであるため、Samsung製モジュールを搭載したモデルよりもベンチマークで一貫して1-2.6%優れた性能を示すことが明らかになった。ただし、この差が実際のゲーミングで体感できる可能性は低い ⁴⁰。

AIBモデルの冷却・静音性比較表

以下の表は、購入の際の現実的な判断材料として不可欠である。リファレンスモデルが存在しないため、購入者の体験全体はAIBの選択によって決まる。このデータは、最も重要なAIBの特性である冷却、ノイズ、物理的な互換性を直接比較することを可能にし、ユーザーが特定のモデルにプレミアムを支払うべきかどうかを判断するのに役立つ。

AIBモデル	GPUホットスポット温度 (°C)	ノイズレベル (定性的/dBA)	電源コネクタ	物理サイズ (スロット)
ASUS TUF Gaming	80	著しく大きいが、十分に静か	2x 8-pin	3.125-slot
Sapphire NITRO+	87	ほぼ無音	1x 16-pin 12V-2×6	3-slot
Sapphire Pure	81	ほぼ無音	2x 8-pin (モデルによる)	3-slot
XFX Mercury	75	非常に静か	2x 8-pin	3-slot (一部4-slot)
ASRock Taichi	85	ほぼ無音	1x 16-pin 12V-2×6	3-slot
PowerColor Hellhound	N/A	静か (ユーザー評価)	2x 8-pin	3-fan
出典: ³

VII. 市場分析と戦略的評価

価値提案：MSRP対実売価格

599ドルのMSRPにおいて、RX 9070 XTは「優れた価値」を提供し、749ドルのRTX 5070 Tiと比較した場合「考えるまでもない選択肢」と称賛されている ²。もし5070 Tiが自身のMSRPを上回る価格で販売されている場合、コストパフォーマンス（cost-per-frame）で約30%優れた価値を提供する ¹⁰。

しかし、この価値提案は大部分が理論上のものに過ぎない。発売当初から、RX 9070 XTは深刻な品不足と転売に悩まされ、価格はしばしば750ドル、900ドル、あるいはそれ以上に高騰した ²。スウェーデンでは、あるモデルが1150ユーロでリストされていた ⁵。AMDは、予想の10倍のカードを出荷したことを認めたが、それでも需要を満たすには至らなかった ⁵。

RX 9070 XTを巡る議論全体は、その価格に集約される。600ドルであれば、それは市場の破壊者である。800ドル以上になると、そのコストパフォーマンスの優位性が失われるため、購入は疑問視される。あるRedditユーザーが簡潔に述べたように、「悪い製品はない、悪い価格があるだけだ」⁵。したがって、このカードに対する最終的な評価は固定的ではなく、消費者が実際にどの価格で見つけられるかという条件付きのものとなる。

決定的な競合分析：RX 9070 XT 対 RTX 5070 Ti

性能: ラスタライゼーションでは、両者は非常に競争力があり、どちらが優位に立つかはゲームに依存する。レイトレーシングでは、RTX 5070 Tiが性能上の優位を維持しているが、その差は前世代から大幅に縮まっている ²。
機能: NVIDIAはソフトウェア機能と成熟度で優位に立っている。DLSSはFSR 4よりも広範なサポートを得ており、コンテンツ制作性能におけるNVIDIAのリードは否定できない ²。
価格: RX 9070 XTは150ドル低いMSRP（599ドル対749ドル）を持つ ⁴。これが最大の利点である。
電力と効率: RX 9070 XTはわずかに高いTBP（304W対RTX 5070 Tiの約292W）を持つ ¹²。
結論: もし両カードがMSRPで入手可能であれば、選択は難しいものとなるだろう。AMDで150ドル節約し、同等のラスタ性能を得るがRT/クリエイティブ機能で劣るか、NVIDIAのより成熟し機能豊富なエコシステムにプレミアムを支払うか。市場の現実を考えると、選択はしばしば、どちらのカードがより合理的な価格で実際に入手可能かという点に帰着する。

主要なユーザープロファイル別購入推奨

純粋な1440p/4Kゲーマー向け: RX 9070 XTをMSRPの599ドルかそれに近い価格で見つけることができれば、市場で最高の価値提案の一つであることは間違いない。そのラスタライゼーション性能は素晴らしく、RT性能も今やほとんどのユーザーにとって十分なレベルにある。
予算を重視するアップグレードユーザー向け: 549ドルの非XTモデルRX 9070も強力な候補だが、わずか50ドルの価格差は、在庫があればXTバージョンをはるかに魅力的な選択肢にする ²。もしXTが800ドル以上に高騰している場合、MSRPの非XTモデルやセール中の前世代カードの方が良い選択かもしれない。
ハイブリッドなゲーマー/クリエイター向け: 推奨は大きくNVIDIAに傾く。Blenderのようなアプリケーションでの性能差は、GPUを生産性のために利用する人にとって無視できないほど大きい。RTX 5070または5070 Tiは、価格が高くても、これらのユーザーにとってはより賢明な投資となるだろう ³⁷。

VIII. 結論：重大な注意点を伴う、響き渡る成功

AMD Radeon RX 9070 XTは、戦略的な製品ポジショニングの傑作である。市場の中心をターゲットに、MSRPにおいて卓越したコストパフォーマンスを提供する製品を投入することで、AMDはNVIDIAの高価な製品群に対する説得力のある代替案を生み出した。RDNA 4アーキテクチャの効率性の向上、特にレイトレーシングの大幅な改善と、FSR 4という競争力のあるAIアップスケーラーの導入は、これを近年で最もバランスが取れ、機能的に完全なメインストリームRadeonカードにしている。

しかし、その成功は仕様書を超えた市場の力に人質に取られている。慢性的な入手困難と rampant な価格吊り上げは、その主なセールスポイントである価値を大部分相殺してしまった。これは、消費者の意思決定を単純な性能比較から、在庫アラートと価格追跡という苛立たしいゲームへと変貌させている。

最終的に、RX 9070 XTはゲーマーにとって素晴らしいグラフィックスカードであるが、それは条件付きである。意図された価格に近い値段で幸運にも手に入れることができた者にとっては、議論の余地なきチャンピオンである。しかし、それ以外の人々にとっては、強力でありながらしばしば手の届かない、あり得たかもしれない未来の象徴として機能する。これは、PCハードウェアの世界において、偉大な製品の価値は、その価格と入手可能性によってのみ決まるという事実を浮き彫りにしている。