1. AMD Ryzen 5 5600H:主要スペック概要
導入
AMD Ryzen 5 5600Hは、ノートPC向けに開発された高性能プロセッサであり、特にその登場時期において、ゲーミングノートPCやパフォーマンスを要求されるモバイルワークステーションの分野で注目を集めました。本セクションでは、このCPUの根幹を成す技術仕様について詳細に解説します。
アーキテクチャとプロセス技術
Ryzen 5 5600Hは、AMDの「Zen 3」マイクロアーキテクチャを採用しています 1。このアーキテクチャは、前世代のZen 2と比較してクロックあたりの命令実行数(IPC)を大幅に向上させ、シングルスレッド性能の強化と電力効率の改善に大きく貢献しました 2。製造には、TSMC社の7nm FinFETプロセス技術が用いられており 3、当時の最先端プロセスによる高密度実装と効率化が実現されています。
コア数とスレッド数
本プロセッサは、6つの物理コアと12個の論理スレッド(Simultaneous Multithreading, SMT)で構成されています 1。この構成により、複数のタスクを同時に処理するマルチタスク能力や、動画編集、3Dレンダリング、最新のゲームタイトルなど、並列処理能力が重要となるアプリケーションにおいて高いパフォーマンスを発揮する基盤を備えています。
クロック周波数(ベース/ブースト)
定格のベースクロック周波数は3.3 GHzに設定されています 1。一方で、負荷状況に応じて自動的にクロックを引き上げる最大ブーストクロックは、最大4.2 GHzに達します 1。ただし、実際に達成・維持される動作クロックは、搭載されるノートPCの冷却システムの能力や、メーカーによって設定される電力制限(TDP)の値に大きく依存する点には注意が必要です(詳細は後述)。
キャッシュ構成(L2/L3)
キャッシュメモリは、L2キャッシュが合計3MB(各コアに512KB)、L3キャッシュが合計16MB搭載されています 1。Zen 3アーキテクチャの重要な特徴として、この16MBのL3キャッシュは搭載されている6コアすべてから直接アクセス可能な共有設計となっており、これによりキャッシュへのアクセス速度が向上し、データアクセスの遅延(レイテンシ)が削減されます。これは特に、頻繁なデータアクセスが発生するゲーミングパフォーマンスの向上に寄与します 2。
TDP(標準および設定可能範囲)
標準の熱設計電力(TDP)は45Wに設定されています 1。これは、高性能ノートPC向けCPU(末尾がHのシリーズ)としては一般的な値であり、相応の冷却能力を持つ筐体設計を前提としています 1。さらに、ノートPCメーカーは設計に応じてTDPを調整可能(Configurable TDP, cTDP)で、35Wから54Wの範囲で設定される場合があります 3。このTDP設定の違いが、同じRyzen 5 5600Hを搭載していても、ノートPCのモデルによって実際のパフォーマンスが異なる要因の一つとなります。
内蔵グラフィックス(iGPU)
CPUパッケージ内には、AMD Radeon RX Vega 7 グラフィックスが統合されています 3。この内蔵GPUは7つのグラフィックスコアを持ち、最大1800 MHzのクロックで動作します 4。基本的なデスクトップ表示、ウェブブラウジング、動画再生、軽度のグラフィック作業には十分な性能を提供しますが、高度な3Dレンダリングや要求スペックの高い最新ゲームを快適にプレイするには、別途搭載されるディスクリートGPU(dGPU)の性能が不可欠です 9。
ソケット
Ryzen 5 5600Hは、FP6と呼ばれるソケット規格に対応しています 5。これはモバイル向けのBGA(Ball Grid Array)パッケージであり、CPUがマザーボードに直接はんだ付けされる形態をとります。そのため、デスクトップPCのようにユーザーが後からCPUを交換することは想定されていません。
「H」サフィックスの意味合いと冷却の重要性
プロセッサ名の末尾にある「H」は、単に高性能であることを示すだけでなく、その性能を発揮するための前提条件を示唆しています 1。標準TDPが45Wと、省電力性を重視した「U」シリーズ(例: Ryzen 7 4800UのTDP 15W 8)と比較して大幅に高く設定されていることは、より高いクロック周波数での持続的な動作を可能にする一方で、それに伴う発熱量も大きいことを意味します 1。したがって、「H」シリーズCPUの性能を最大限に引き出すためには、十分な冷却能力を持つノートPC筐体が必要不可欠であり、薄型軽量デザインよりも、ある程度の厚みと強力な冷却ファン、ヒートパイプなどを備えたゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCでの採用が主となります。
表1: AMD Ryzen 5 5600H 主要スペック
項目 | 仕様 | 出典例 |
アーキテクチャ | Zen 3 | 1 |
コア/スレッド数 | 6コア / 12スレッド | 1 |
ベースクロック | 3.3 GHz | 1 |
最大ブーストクロック | 最大 4.2 GHz | 1 |
L3キャッシュ | 16 MB (共有) | 1 |
L2キャッシュ | 3 MB (6 x 512 KB) | 1 |
標準TDP | 45 W | 1 |
設定可能TDP (cTDP) | 35 W – 54 W | 3 |
内蔵グラフィックス (iGPU) | AMD Radeon RX Vega 7 (最大 1800 MHz) | 3 |
製造プロセス | TSMC 7nm FinFET | 3 |
ソケット | FP6 (BGA) | 5 |
2. 主要ベンチマークにおける性能評価
導入
CPUの潜在的な演算能力を客観的に評価する上で、標準化されたベンチマークテストの結果は重要な指標となります。ここでは、Cinebench、PassMark CPU Mark、Geekbench、CPU-Zといった広く用いられているベンチマークソフトウェアにおけるAMD Ryzen 5 5600Hのスコアを、日本語のレビューサイトやデータベースからの情報を中心に整理し、その性能水準を明らかにします。
2.1. Cinebench (R20, R23, 2024) スコア
Cinebenchは、Maxon Cinema 4Dをベースとした3Dレンダリング性能を測定するベンチマークであり、CPUのマルチコア性能とシングルコア性能を評価する上で広く利用されています。
- Cinebench R20:
- シングルコア: 528 pts (出典: rawcom.jp 6)
- マルチコア: 3607 pts (出典: rawcom.jp 6)
- Cinebench R23:
- シングルコア: 複数の情報源から、おおむね 1360点台 のスコアが報告されています (例: 1367 pts 14, 平均 1363 pts 16)。
- マルチコア: スコアは 9400点から9700点 の範囲で見られます (例: 9699 pts 14, 9621 pts 17, 平均 9466 pts 16)。ただし、テスト環境によっては8815 pts 18 のようなスコアも報告されており、変動が見られます。
- Cinebench 2024: (比較的新しいバージョン)
- シングルコア: 約 77 pts 14
- マルチコア: 約 467 pts 14。参考値として 439 pts 19 もあります。
2.2. PassMark CPU Mark スコア
PassMark CPU Markは、整数演算、浮動小数点演算、データ圧縮、暗号化など、多岐にわたるテストを通じてCPUの総合的な演算性能を評価します。
- 総合スコア (CPU Mark): 複数の情報源を総合すると、平均して 約16800点から17700点 の範囲に収まるスコアが一般的です (例: 16813 pts 5, 17681 pts 6, 16902 pts 8)。おおむね17000点前後が一つの目安と言えるでしょう。
- シングルスレッド評価: シングルコアの性能評価では、約2920点から2940点 のスコアが報告されています (例: 2927 pts 5, 2935 pts 8)。
2.3. Geekbench (v5, v6) スコア
Geekbenchは、クロスプラットフォーム(Windows, macOS, Linux, Android, iOS)での性能比較が可能なベンチマークであり、実際のアプリケーションで使われるような処理をシミュレートしてスコアを算出します。
- Geekbench 5:
- シングルコア: スコアには幅が見られ、約1370点から1470点 の範囲で報告されています (例: 1372 pts 21, 最大 1379 pts 22, 1472 pts 23, 平均 1412 pts 16)。これはテスト環境による影響が大きいことを示唆しています。
- マルチコア: シングルコア以上にスコアの変動幅が大きく、約5600点から8000点 の範囲に分布しています (例: 5713 pts 21, 最大 6086 pts 22, 5641 pts 24, 8054 pts 23, 平均 6521 pts 16)。特にマルチコア性能は、後述する冷却性能やTDP設定の影響を強く受けるため、注意が必要です。
- Geekbench 6: (v5よりも新しいバージョン)
- シングルコア: 約 1850 pts 14
- マルチコア: 約 6779 pts 14
2.4. CPU-Z ベンチマークスコア
CPU-Zは、CPUやマザーボード、メモリなどの情報を表示するツールですが、簡易的なベンチマーク機能も備えています。
- シングルスレッド: 558.6 pts (出典: rawcom.jp 6)。ただし、別のデータベースでは 536 pts 25 という結果も見られます。
- マルチスレッド: 4256.8 pts (出典: rawcom.jp 6)。
ベンチマークスコアの分散とその要因
ここまで見てきたように、特にCinebench R23 MultiやGeekbench 5 Multiなどのマルチコア性能を測るベンチマークにおいて、同じRyzen 5 5600Hでもスコアにかなりの幅が見られます 14。これはモバイルCPUの特性を理解する上で非常に重要な点です。ノートPCに搭載されるCPUの性能は、CPU自体のスペックだけでなく、それが実装される「器」であるノートPC本体の設計に大きく左右されます。
主な要因として、冷却システムの性能が挙げられます。高負荷が続くとCPUは発熱しますが、冷却が追いつかない場合、CPUは自身を保護するために動作クロックを自動的に下げます(サーマルスロットリング)。実際にCinebench実行中にCPU温度が98℃に達したという報告 26 や、「モバイルは筐体の冷却性能への依存度が高い」という指摘 27 があります。
もう一つの大きな要因は、メーカーによるTDP設定です。前述の通り、Ryzen 5 5600HのTDPは35Wから54Wの範囲で設定可能であり 3、メーカーがどの値を採用するかによって、持続可能なパフォーマンスレベルが変わってきます。TDPが高く設定されていれば、より高い性能を発揮できますが、それには強力な冷却が伴わなければなりません。
したがって、Ryzen 5 5600Hのベンチマークスコアは、絶対的な固定値としてではなく、達成可能な「潜在的な性能範囲」を示すものとして捉えるべきです。実際のパフォーマンスは、個々のノートPCモデルの冷却設計、TDP設定、さらにはOSやドライバのバージョン、動作環境(室温など)によって変動します。レビュー記事を参照する際には、単にスコアを見るだけでなく、テストに使用された具体的なノートPCモデルや、可能であればテスト中の動作クロック、温度などの情報も併せて確認することが、より正確な性能評価につながります。
表2: Ryzen 5 5600H ベンチマークスコア概要
ベンチマーク | スコア種別 | 代表的なスコア範囲/平均値 | 出典例 |
Cinebench R23 | マルチコア | 約 9400 – 9700 pts | 14 (nanoreview.net, laptopmedia.com, notebookcheck.net) |
シングルコア | 約 1360 – 1370 pts | 14 (nanoreview.net, notebookcheck.net) | |
PassMark CPU Mark | 総合 | 約 16800 – 17700 pts | 5 (cpubenchmark.net, rawcom.jp, dosparaplus.com) |
シングル | 約 2920 – 2940 pts | 5 (cpubenchmark.net, dosparaplus.com) | |
Geekbench 6 | マルチコア | 約 6779 pts | 14 (nanoreview.net) |
シングルコア | 約 1850 pts | 14 (nanoreview.net) | |
Geekbench 5 | マルチコア | 約 5600 – 8000 pts | 16 (fudzilla.com, tomshardware.com, geekbench.com, notebookcheck.net) |
シングルコア | 約 1370 – 1470 pts | 16 (fudzilla.com, tomshardware.com, notebookcheck.net) | |
CPU-Z | マルチスレッド | 約 4257 pts | 6 (rawcom.jp) |
シングルスレッド | 約 536 – 559 pts | 6 (rawcom.jp, valid.x86.fr) |
3. 競合および旧世代CPUとの性能比較
導入
あるCPUの性能を正しく位置づけるためには、同世代の直接的な競合製品や、アップグレード元となりうる旧世代モデルとの比較が不可欠です。ここでは、AMD Ryzen 5 5600Hの主な比較対象として、Intel Core i5-11400Hと、前世代にあたるAMD Ryzen 5 4600Hを取り上げ、各種ベンチマークスコアに基づいた性能差を詳細に分析します。
3.1. vs Intel Core i5-11400H
Core i5-11400Hは、Ryzen 5 5600Hと同時期に登場したIntelの主要な対抗製品であり、同じく6コア12スレッド構成を持つ高性能モバイルCPUです。
- マルチコア性能:
- Cinebench R23 Multi: Ryzen 5 5600Hが約9466点から9621点であるのに対し、Core i5-11400Hは約8150点から8951点であり、Ryzen 5 5600Hが 約6%から16%高い スコアを示しています 16。
- Geekbench 5 Multi: Ryzen 5 5600H(平均約6521点)は、Core i5-11400H(平均約6131点)に対して 約6.4%優位 です 16。
- 分析: これらの結果から、3Dレンダリングや動画エンコード、複数のアプリケーションを同時に実行するような、マルチスレッド処理能力が重要となるタスクにおいては、Ryzen 5 5600HがCore i5-11400Hに対して有利な傾向があることがわかります。
- シングルコア性能:
- Cinebench R23 Single: Core i5-11400H(平均約1428点)は、Ryzen 5 5600H(約1363-1367点)に対して 約4-5%高い スコアです 16。
- Geekbench 5 Single: Core i5-11400H(平均約1478点)は、Ryzen 5 5600H(平均約1412点)に対して 約4.7%優位 です 16。
- PassMark Single Thread: Core i5-11400H(2986点)は、Ryzen 5 5600H(2927点)に対して わずかに高い スコアを示しています 20。
- 分析: シングルコア性能がパフォーマンスに大きく影響するタスク、例えば一部のゲームや、OS・アプリケーションの基本的な応答性においては、Core i5-11400HがRyzen 5 5600Hに対して若干有利な場面があると考えられます。
- アプリケーション性能比較:
- 3Dレンダリング (Cinebench): マルチコア性能を反映し、Ryzen 5 5600Hが優位です 17。
- 画像編集 (Photoshop): 特定のテストでは、Core i5-11400Hがわずかに高速という結果が出ています 17。
- ゲーミング: 実際のゲームにおけるパフォーマンスは、タイトル、グラフィック設定、解像度、そしてノートPCの電力設定や冷却性能によって優劣が変わる接戦となることが多いようです 28。
- 総合評価: notebookcheck.netによる複数のベンチマーク結果を平均化した評価では、Ryzen 5 5600HがCore i5-11400Hよりも全体として 約11%高い スコアとされています 16。一方で、LaptopMediaのレビュー 17 では、3DレンダリングはRyzen、2D処理(Photoshopなど)はIntelがわずかに有利としつつも、全体的な性能差はそれほど大きくなく、価格や入手性、個人の好みでどちらを選んでも大きな後悔はないだろう、と結論付けています。両者は非常に競争力のあるライバル関係にあったと言えます。
3.2. vs AMD Ryzen 5 4600H
Ryzen 5 4600Hは、Ryzen 5 5600Hの一世代前のモデルであり、同じ6コア12スレッド構成ですが、アーキテクチャはZen 2を採用しています。
- Geekbench 5:
- シングルコア: Ryzen 5 5600H(1372-1379点)は、Ryzen 5 4600H(996点)に対して 約38%という大幅な性能向上 を達成しています 21。
- マルチコア: Ryzen 5 5600H(5713-6086点)は、Ryzen 5 4600H(4837点)に対して 約18%から26%の性能向上 を示しています 21。
- PassMark CPU Mark:
- Ryzen 5 5600H(約17681点)は、Ryzen 5 4600H(約15022点)に対して 約18%高い スコアです 6。
- 分析: これらの比較から、Zen 2からZen 3アーキテクチャへの移行がいかに大きな進歩であったかが明確に示されています。特にシングルコア性能の飛躍的な向上は目覚ましく、これはゲームにおけるフレームレートの向上や、一般的なアプリケーションの応答性改善に直接的に貢献します。マルチコア性能も着実に強化されており、Ryzen 5 5600Hは前世代からの明確なアップグレードとなっています。
Zen 3世代の飛躍と当時の競争環境
Ryzen 5 4600Hからの性能向上率、特にシングルコア性能における約38%もの向上 21 は、Zen 3アーキテクチャで達成されたIPC(クロックあたりの命令実行数)の大幅な改善 2 が、モバイルプラットフォームにおいても極めて効果的であったことを物語っています。これにより、AMDは従来やや弱点とされていたシングルスレッド性能を大幅に強化し、Intelに対する競争力を一気に高めました。
しかし、競合であるIntelも手をこまねいていたわけではありません。Core i5-11400H(Tiger Lake-H世代)は、マルチコア性能ではRyzen 5 5600Hに譲る場面があるものの、シングルコア性能では互角か、わずかに上回る性能を示しました 16。アプリケーションによっては得意不得意が分かれる 17 など、一概にどちらかが絶対的に優れているとは言えない、非常に競争の激しい市場環境が形成されていました。
この状況は、Ryzen 5 5600HがAMDにとってモバイル市場での地位を確立する上で重要な製品であったことを示しています。前世代からの明確な性能向上は、既存のAMDユーザーにとって魅力的なアップグレードパスを提供し、特にマルチスレッド性能を重視するクリエイターやゲーマー層に強くアピールしました。一方で、Intelも強力な対抗製品を投入していたため、ユーザーは自身の主な用途(マルチタスクやレンダリングを重視するか、特定のゲームやアプリケーションでのシングルコア速度を重視するか)に応じて、最適なCPUを慎重に選択する必要がありました。
表3: Ryzen 5 5600H vs. 競合/旧世代 ベンチマーク比較
ベンチマーク | スコア種別 | Ryzen 5 5600H (代表値/範囲) | Core i5-11400H (代表値/範囲) | Ryzen 5 4600H (代表値/範囲) | 出典例 |
Cinebench R23 | マルチコア | 約 9466 – 9621 pts | 約 8150 – 8951 pts | N/A | 16 (laptopmedia.com, notebookcheck.net) |
シングルコア | 約 1363 – 1367 pts | 約 1428 pts | N/A | 16 (notebookcheck.net) | |
Geekbench 5 | マルチコア | 約 6521 pts (平均) | 約 6131 pts (平均) | 約 4837 pts | 16 (notebookcheck.net, tomshardware.com, fudzilla.com) |
シングルコア | 約 1412 pts (平均) | 約 1478 pts (平均) | 約 996 pts | 16 (notebookcheck.net, tomshardware.com, fudzilla.com) | |
PassMark CPU Mark | 総合 | 約 17681 pts | N/A | 約 15022 pts | 6 (rawcom.jp) |
PassMark Single | シングル | 約 2927 pts | 約 2986 pts | N/A | 20 (cpubenchmark.net) |
(N/A: 比較データが見つからなかった項目)
4. 実環境におけるパフォーマンス:ゲーミングと生産性
導入
標準化されたベンチマークスコアはCPUの理論的な性能ポテンシャルを示しますが、ユーザーが実際に体感するパフォーマンスは、使用するアプリケーションや具体的な作業内容によって大きく異なります。ここでは、AMD Ryzen 5 5600Hが実際のゲーミング環境や、動画編集、日常的なマルチタスクといった生産性関連のタスクにおいて、どのようなパフォーマンスを発揮するのかを、実機レビューや報告に基づいて評価します。
4.1. ゲーミング性能
- 内蔵GPU (Radeon Vega 7) の限界:
まず前提として、Ryzen 5 5600Hに統合されているRadeon Vega 7グラフィックス単体では、グラフィック負荷の高い最新のAAA(大作)ゲームや、高いフレームレートを要求する競技性の高いゲームを快適にプレイすることは困難です 9。参考として、より冷却に余裕のあるデスクトップ向けのAPUであるRyzen 5 5600Gのレビュー 29 を見ても、FortniteやValorantのような比較的軽量なタイトルであれば、グラフィック設定を低くし、解像度を720pや1080pに調整すればプレイ可能ですが、Apex LegendsやCyberpunk 2077といった中~重量級のタイトルではフレームレートが低く、快適なプレイは難しいという結果になっています。ノートPC向けの5600Hの内蔵GPU性能は、これと同等か、冷却の制約からそれ以下になる可能性が高いと考えられます。 - ディスクリートGPU (dGPU) との組み合わせ:
Ryzen 5 5600Hを搭載するゲーミングノートPCは、通常、NVIDIA GeForceやAMD Radeonといった高性能なディスクリートGPU(dGPU)と組み合わせて販売されています。実際のゲーミング性能は、このdGPUの性能に大きく依存します。 - vs GeForce GTX 1650 Laptop: エントリークラスのdGPUとの組み合わせ例です。(出典: okiniiripasokon.com 31)
- ファイナルファンタジーXIV (高品質, フルHD): 平均 87.5 FPS
- レインボーシックス シージ (高設定, フルHD): 平均 160 FPS
- Forza Horizon 5 (高設定, フルHD): 平均 59.9 FPS
- 評価: この組み合わせでも、多くの人気ゲームタイトルをフルHD(1920×1080)解像度、中~高程度のグラフィック設定で快適にプレイできる性能を持っていることがわかります。
- vs GeForce RTX 3050 / RTX 3050 Ti Laptop: ミドルレンジdGPUとの組み合わせ例です。
- Apex LegendsやValorantといったタイトルでは、Ultra設定でも100 FPS以上を達成可能という報告があります 32。しかし、同じ報告内で、CPU温度が高温(90℃前後)になるとフレームレートが10 FPS程度まで急落するサーマルスロットリング現象も指摘されています 32。また、CPU負荷が高いApex Legendsなどでは、CPUがボトルネック(性能の足かせ)となる可能性もユーザーから指摘されています 33。さらに、ドライバやOSの設定が原因で意図せずフレームレートが30 FPSに制限されてしまう問題も報告されています 34。
- 評価: RTX 3050/Tiクラスとの組み合わせは、より多くのゲームで高設定や高いフレームレートを目指せますが、CPU負荷の高いゲームや、ノートPCの冷却性能が十分でない場合には、CPUボトルネックやサーマルスロットリングによる性能低下のリスクが顕在化しやすくなります。
- vs GeForce RTX 3060 Laptop: より高性能なミドルレンジdGPUとの組み合わせ例です。(出典: makuring.jp 35, ameblo.jp/nyanpire-chu 36)
- Apex Legends (最高設定, フルHD): 約 120 FPS / (低設定, フルHD): 約 170 FPS 35
- Fortnite (最高設定, フルHD): 約 60 FPS / (中設定, フルHD): 約 140 FPS 35
- Battlefield 2042 (最高設定, フルHD): 約 70 FPS 35
- 評価: レビューでは、Ryzen 5 5600HはRTX 3060 Laptop GPUの性能を十分に引き出すことができると評価されています 36。多くの最新ゲームをフルHD解像度の高設定で60 FPS以上でプレイ可能であり、タイトルや設定によっては144Hzなどの高リフレッシュレートモニターを活かせるフレームレートも期待できます 35。
- vs GeForce RTX 3070 Laptop: ハイエンドに近いdGPUとの組み合わせについてです。
- Ryzen 5 5600Hは、RTX 3070のようなさらに高性能なGPUと組み合わせることも物理的には可能ですが、CPUの処理能力がGPUに対して追いつかず、CPUボトルネックが発生する可能性が高まります。関連するレビュー 38 では、RTX 3070搭載機にはより上位のRyzen 7 5800Hが搭載されており、ハイエンドGPUにはより強力なCPUがバランスとして望ましいケースがあることを示唆しています。
- ゲーミング性能まとめ: (HP Victus 16のレビュー 39 より)
- 非常に重い最新AAAタイトルは、画質設定を低めに調整すればプレイ可能。
- 中程度の重さのタイトル(例: Forza Horizon 5など)は、高画質設定でも快適に動作。
- 中量級のFPSゲーム(例: Apex Legendsなど)は、画質設定を調整することで100Hzから144Hz程度の高フレームレートを狙える。
- 軽量な競技系FPSゲーム(例: Valorant, Rainbow Six Siegeなど)は、dGPUの性能次第では外部ディスプレイ出力などを活用して240Hzでのプレイも視野に入る。
4.2. 生産性タスク性能
- 一般的な用途・マルチタスク:
- ウェブブラウジング、Officeスイート(Word, Excel, PowerPointなど)の利用、動画ストリーミング視聴といった日常的なタスクは、非常にスムーズかつ快適にこなすことができます 40。Zen 3アーキテクチャによるシングルコア性能の向上は、こうした軽作業における応答性の良さ(レスポンスの速さ)として体感できるとのレビューもあります 41。
- 動画編集 (Adobe Premiere Pro, DaVinci Resolve):
- フルHD(1920×1080)解像度の動画編集であれば、特にdGPUを搭載したモデルにおいては、カット編集、テロップ挿入、基本的なエフェクト適用などを快適に行えるレベルの性能を持っています 42。
- しかし、4K解像度の素材を扱う場合や、複雑なカラーグレーディング、多数のエフェクトを重ねる、長時間の動画をレンダリング(書き出し)するといった、CPUとGPUの両方に高い負荷がかかる作業では、デスクトップ向けのCPU(例: Ryzen 5 5600X 43)や、よりコア数の多い上位のモバイルCPU(Ryzen 7/9, Core i7/i9)と比較すると、処理に時間がかかる傾向があります。
- 例えば、DaVinci Resolveの推奨スペックとしてPassMarkスコア20000点以上が挙げられている例 45 もあり、Ryzen 5 5600H(PassMark約17000点)は、本格的なプロフェッショナルレベルの動画編集作業を主に行うには、やや力不足と感じられる可能性があります。Puget SystemsによるRyzen 5000シリーズ全体の評価は高いものの 46、5600H単体での詳細な動画編集ベンチマークデータは限られています。類似性能のCPUがCore i5-12400Fより遅いことを示唆するデータもあります 47。
- 評価: 趣味レベルの動画制作や、フルHD解像度を主体とした編集作業には十分対応可能ですが、4K編集や業務レベルでの高負荷な作業を頻繁に行うユーザーは、より上位のCPUを搭載したモデルを検討する方が、作業効率の面でメリットが大きいでしょう。
- RAW現像・写真編集:
- RAW現像や大量の写真に対する一括編集は、CPU負荷が高い作業とされています 6。Ryzen 5 5600Hの6コア12スレッド構成とZen 3アーキテクチャによる処理能力は、これらのタスクにある程度対応できますが、具体的なソフトウェア(Lightroom, Capture Oneなど)での処理速度に関するベンチマークデータは、提供された情報からは限定的です。快適性は、扱うRAWファイルのサイズや枚数、使用するソフトウェアの最適化状況に依存します。
- プログラミング・開発:
- ソフトウェアのコンパイル(ビルド)など、マルチスレッド性能が活きるタスクでは、6コア12スレッドの恩恵を受けることができます。仮想環境の利用や複数の開発ツールを同時に起動するような一般的な開発作業には、十分な性能を持っていると考えられます。
ディスクリートGPUの重要性とCPUとのバランス
これまでの分析、特にゲーミング 31 や動画編集 42 における性能評価は、Ryzen 5 5600HがどのディスクリートGPU(dGPU)と組み合わされているかに大きく依存していることを示しています。内蔵GPUの性能は限定的であり 9、グラフィック性能を要求される用途ではdGPUの存在が不可欠です。
一方で、CPUはdGPUに対して描画命令を送る(ドローコール)役割も担っており、CPUの性能が不足すると、いくら強力なdGPUを搭載してもその性能を十分に引き出せない「CPUボトルネック」が発生します。Ryzen 5 5600Hは、GeForce GTX 1650、RTX 3050/Ti、RTX 3060といったミドルレンジのdGPUとの組み合わせにおいて、良好なバランスを発揮すると言えます。しかし、RTX 3070のようなより高性能なdGPUを搭載する場合には、CPUボトルネックが発生する可能性が高まり、より上位のCPU(Ryzen 7/9やCore i7/i9)を検討する必要性が出てきます 33。
したがって、Ryzen 5 5600H搭載ノートPCの性能を評価する際には、CPU単体のスペックだけでなく、「どのdGPUと組み合わされているか」を必ず確認し、その組み合わせにおける性能バランスを考慮することが極めて重要です。
表4: Ryzen 5 5600H ゲーミングパフォーマンス例 (dGPU搭載機)
ゲームタイトル | テストされたdGPU | グラフィック設定 | 解像度 | 平均FPS (目安) | 出典サイト/スニペット例 |
ファイナルファンタジーXIV | GTX 1650 Laptop | 高品質 (ノートPC) | フルHD | 87.5 FPS | okiniiripasokon.com 31 |
レインボーシックス シージ | GTX 1650 Laptop | 高 | フルHD | 160 FPS | okiniiripasokon.com 31 |
Forza Horizon 5 | GTX 1650 Laptop | 高 | フルHD | 59.9 FPS | okiniiripasokon.com 31 |
Apex Legends | RTX 3060 Laptop | 最高 | フルHD | 約 120 FPS | makuring.jp 35 |
Apex Legends | RTX 3060 Laptop | 低 | フルHD | 約 170 FPS | makuring.jp 35 |
Fortnite | RTX 3060 Laptop | 最高 | フルHD | 約 60 FPS | makuring.jp 35 |
Fortnite | RTX 3060 Laptop | 中 | フルHD | 約 140 FPS | makuring.jp 35 |
Battlefield 2042 | RTX 3060 Laptop | 最高 | フルHD | 約 70 FPS | makuring.jp 35 |
Apex Legends / Valorant | RTX 3060 Laptop | Ultra | (不明) | 100+ FPS | Acer Nitro 5 ユーザー報告 32 (※スロットリング注意) |
レインボーシックス シージ | RTX 3070 Laptop (※) | 最高 (Vulkan) | フルHD | 274 FPS | komameblog.jp 39 (※Victus 16 / Ryzen 7機での参考値) |
ヴァロラント | RTX 3070 Laptop (※) | 最高 | フルHD | 140.6 FPS | komameblog.jp 39 (※Victus 16 / Ryzen 7機での参考値) |
(※印は、Ryzen 5 5600H搭載機での直接的な計測値ではないが、同クラスのノートPCにおける参考値として記載)
5. ノートPC実装と冷却性能の影響
導入
デスクトップPCとは異なり、ノートPCに搭載されるモバイルCPUの性能は、その薄型・軽量な筐体に実装される冷却システムの能力と、メーカーによる電力供給設定によって大きく左右されます。同じ「Ryzen 5 5600H」という型番のCPUを搭載していても、ノートPCのモデルが異なれば、実際のパフォーマンス、特に高負荷が持続する状況下での性能は大きく異なる可能性があります。ここでは、実機レビューの情報をもとに、冷却性能がRyzen 5 5600Hの実際の動作にどのように影響するかを考察します。
5.1. 実機レビューに見る動作クロックと温度
複数の実機レビューやユーザー報告から、Ryzen 5 5600Hが高負荷時に比較的高温で動作する傾向が見て取れます。
- 高温動作の報告例:
- Lenovo Ideapad Gaming 3において、Cinebench R23のストレステスト中にCPU温度が一時的に 98℃ に達したというユーザー報告があります 26。
- HP Victus 16(GTX 1650搭載モデル)のレビューでは、3DMark Fire Strikeベンチマーク実行中のCPU最大温度が 約94℃ であったと記録されています 31。
- Acer Nitro 5(RTX 3060搭載モデル)のユーザーは、ゲーム(The Witcher 3)プレイ中にCPU温度が80℃から90℃に達した後、フレームレートが10 FPS程度まで急落する現象を報告しています 32。
- 比較的安定した温度の報告例:
- 一方で、Minisforum社のNUC(小型デスクトップPC)タイプの製品レビューでは、高負荷時でもノイズや発熱がほとんど気にならないレベルであったと評価されています 48。ただし、これはノートPCよりも冷却に有利なデスクトップ筐体での結果であり、ノートPCの冷却性能を直接示すものではありません。
- 動作クロックへの影響: CPU温度が設計上の上限に近づくと、CPUは自身を保護するために動作クロック周波数を自動的に引き下げます。これが「サーマルスロットリング」と呼ばれる現象です。上記のAcer Nitro 5の報告 32 では、90℃に達した後にFPSが急落した際、同時にCPUのクロックスピードも低下したと述べられており、サーマルスロットリングが発生していたことが強く示唆されます。
5.2. 冷却設計とサーマルスロットリングの可能性
ノートPCの冷却設計は、モデルごとに千差万別です。ヒートパイプの数や太さ、ファンのサイズや数、吸気口と排気口の配置などがパフォーマンス維持能力に直結します。
- モデルによる設計差: Dell G15のように、上位ブランド(Alienware)の冷却技術を取り入れて設計されたモデル 49 もあれば、薄型化を優先するために冷却能力に制約があるモデルも存在します。
- 排気口の設計: HP Victus 16のレビュー 39 では、排気口がヒンジ(画面と本体の接合部)裏の一箇所のみである点について、レビュー執筆者が個人的な懸念(内部の熱がこもりやすいのではないか)を示しています。効果的な熱排出経路の確保は、持続的な高パフォーマンスを実現する上で極めて重要です。
- サーマルスロットリングのリスク: 上述した高温動作の報告 26 や、冷却設計に関する懸念 39 は、特にゲーミングや動画レンダリングのようにCPU負荷が高い状態が長時間続くシナリオにおいて、Ryzen 5 5600Hがサーマルスロットリングを起こしやすい可能性を示唆しています。スロットリングが発生すると、CPUが本来持つ性能ポテンシャルを十分に発揮できず、期待したパフォーマンスが得られない場合があります。
5.3. TDP設定がパフォーマンスに与える影響
CPUのパフォーマンスは、供給される電力、すなわちTDP(熱設計電力)の設定にも大きく依存します。
- 可変TDP: Ryzen 5 5600Hの標準TDPは45Wですが、ノートPCメーカーは製品の設計思想(性能重視か、バッテリー持続時間や静音性重視か)に応じて、これを35Wから54Wの範囲で調整して実装することが可能です 3。
- パフォーマンスへの影響: 一般的に、TDP設定が高いほど、CPUはより高いクロック周波数を維持しやすくなり、結果としてパフォーマンスが向上します。しかし、高いTDP設定はその分発熱量も増えるため、強力な冷却システムが不可欠となります。逆に、TDPが低く設定されているモデル(例えば、薄型ノートPCなど)では、ピーク性能は抑えられますが、発熱や消費電力は低減され、ファンノイズも静かになる傾向があります。notebookcheck.netのデータベース 4 には、様々なTDP設定(35W, 45W, 54W, 65Wなど)で動作するRyzen 5 5600H搭載機のベンチマーク結果が混在しており、これがスコアのばらつきを生む一因となっています。
- ユーザーによる調整: 一部のゲーミングノートPCなどでは、メーカー提供のユーティリティソフトウェア(例: OMEN Gaming Hub 38)を通じて、ユーザーが「パフォーマンスモード」や「静音モード」などを選択し、間接的にTDP設定やファン速度を調整できる場合があります。また、意図的にCPUのクロック周波数や電力供給を制限することで、発熱やファンノイズを抑えて使用するユーザーもいます 36。
「カタログスペック」だけでは判断できない実性能
これまでの分析で繰り返し明らかになったように、Ryzen 5 5600Hのベンチマークスコアに見られる分散(第2節)の根本的な原因は、搭載されるノートPCの冷却性能とTDP設定にあります。高温動作や性能低下(スロットリング)の報告 26、冷却設計の重要性 39、そしてTDP設定によるパフォーマンスへの影響 3 を踏まえると、「モバイルCPUの性能は、それが実装される筐体の冷却性能に大きく依存する」27 という指摘は、まさに核心を突いています。
したがって、Ryzen 5 5600Hの真の性能を評価するためには、CPUの型番(カタログスペック)だけを見るのではなく、それが搭載されている「具体的なノートPCモデル」のレビュー、特に高負荷時の冷却性能とサーマルスロットリングの有無に関する評価を重視する必要があります。同じCPUを搭載していても、冷却システムが貧弱なモデルでは、高負荷時に性能が大幅に低下し、期待通りのパフォーマンスを発揮できない可能性があります。逆に、優れた冷却システムと適切なTDP設定を持つモデルは、CPUの持つポテンシャルを最大限に引き出し、安定した高性能を提供できます。ノートPCの購入を検討する際には、単にベンチマークスコアの高さだけでなく、「高負荷時にその性能を安定して維持できるか」という観点からのレビュー確認が不可欠です。
6. 総括:AMD Ryzen 5 5600H の性能特性と適性
導入
これまでのスペック分析、ベンチマーク比較、実環境でのパフォーマンス評価、そして実装形態による影響の考察を踏まえ、AMD Ryzen 5 5600Hの全体的な性能特性を総括し、どのような用途やユーザーに適しているかを評価します。
6.1. 強み
- 優れたマルチコア性能: 6コア12スレッド構成と効率的なZen 3アーキテクチャにより、同世代の主要な競合製品であったIntel Core i5-11400Hと比較しても、マルチスレッド処理能力において優位性を示しました 16。これにより、動画編集、3Dレンダリング、ソフトウェアのコンパイル、複数のアプリケーションを同時に使用するマルチタスク、そして最新のゲームタイトルなど、多くのコアを効率的に利用できる場面で高いパフォーマンスを発揮します。
- Zen 3アーキテクチャによる世代間の飛躍: 前世代のRyzen 5 4600H(Zen 2アーキテクチャ)と比較して、特にシングルコア性能が大幅に向上しました 21。これは、IPC(クロックあたりの命令実行数)の改善によるもので 2、OSやアプリケーションの応答性向上、そして多くのゲームにおけるフレームレート向上に大きく貢献しました。
- コストパフォーマンス: 登場当時、高性能な6コア12スレッドCPUとして、特にミドルレンジのゲーミングノートPC市場において、性能と価格のバランスが取れた、非常にコストパフォーマンスの高い選択肢を提供しました 6。
6.2. 弱み
- シングルコア性能の相対的な位置づけ: 絶対的な性能としては高いものの、競合のIntel Core i5-11400Hに対して、シングルコア性能が重要となる特定のベンチマークやタスクでは、わずかに劣る場面が見られました 16。シングルスレッド速度が最優先される特定の用途においては、Intel製品に分があった可能性があります。
- 冷却性能への高い依存度: モバイルCPUの宿命として、搭載されるノートPCの冷却設計とメーカーによるTDP設定によって、実際のパフォーマンス、特に持続性能が大きく変動します(第2節、第5節参照)。冷却能力が不十分な場合、サーマルスロットリングが発生し、CPUのポテンシャルを発揮できないリスクがあります 26。
- 内蔵グラフィックス性能の限界: CPUに統合されているRadeon Vega 7グラフィックスは、基本的な画面出力や軽作業には十分ですが、本格的な3DゲーミングやGPUアクセラレーションを多用するクリエイティブ作業には性能が不足しています(第4節参照)。これらの用途には、高性能なディスクリートGPU(dGPU)の搭載が実質的に必須となります。
6.3. 最適な用途
- ミドルレンジ・ゲーミング: GeForce RTX 3060、RTX 3050/Ti、GTX 1650/1660Tiといった、ミドルレンジクラスのディスクリートGPUと組み合わせることで、多くのPCゲームをフルHD(1920×1080)解像度で快適にプレイすることが可能です 31。性能と価格のバランスを重視するゲーマーにとって、魅力的な選択肢となるノートPCを構成する上で重要な役割を果たしました。
- クリエイティブ作業(エントリー~ミドルレベル): 写真編集(特にRAW現像)、フルHD解像度を中心とした動画編集、軽度な3DモデリングやCADなど、ある程度のCPU処理能力を必要とするクリエイティブな作業に対応可能です 6。ただし、4K動画編集や複雑なVFX、業務レベルでの高負荷なレンダリング作業を主に行う場合は、より上位のCPU(Ryzen 7/9やCore i7/i9)を搭載したモデルの方が快適な作業環境を提供します 45。
- 高性能な一般用途・マルチタスク: 日常的なウェブブラウジングやOfficeソフト利用に加えて、複数のアプリケーションを同時に起動して作業する、プログラミングやコーディングを行う、仮想環境を利用するなど、一般的なノートPCよりも高い処理能力と応答性を求めるユーザーに適しています 40。
最終評価
AMD Ryzen 5 5600Hは、画期的なZen 3アーキテクチャを採用することで、前世代から性能を飛躍的に向上させた、非常に優秀なモバイルプロセッサです。特に6コア12スレッドによる優れたマルチコア性能は、ゲーミングからクリエイティブ作業、マルチタスクまで幅広い用途でその能力を発揮し、登場時期においてはミドルレンジの高性能ノートPC市場におけるコストパフォーマンスの基準を引き上げました。
ただし、その性能を最大限に引き出すためには、ノートPC本体の冷却システムと適切な電力(TDP)設定が不可欠であるという点は、強く認識しておく必要があります。同じCPUを搭載していても、実装されるノートPCによってパフォーマンスは変動するため、購入を検討する際には、CPUの型番だけでなく、個別のノートPCモデルのレビュー、特に高負荷時の動作安定性や冷却性能に関する評価を注意深く確認することが、満足のいく選択をする上で極めて重要です。
引用文献
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