AMD Ryzen 5 5600U ベンチマークまとめ

CPU-AMD-Ryzen CPU・SoC

1. はじめに

本レポートは、AMD Ryzen 5 5600Uモバイルプロセッサの性能特性について、ベンチマークテストのデータと実際の使用感に関するレビュー、特に日本語の情報源に基づいて詳細に分析することを目的とします。

Ryzen 5 5600Uは、AMDのZen 3アーキテクチャを採用し、薄型軽量ノートPC向けに設計されたプロセッサとして、2021年初頭に市場に投入されました 1。当時のモバイルCPU市場において、優れた処理性能と電力効率のバランスを提供する重要な選択肢の一つとして位置づけられていました。本レポートでは、このプロセッサの性能を客観的なデータに基づいて評価し、競合製品との比較分析、さらには実際のユーザー体験に関する情報を統合して、その特性を明らかにします。

調査は、まずプロセッサの基本的な仕様を確認することから始めました。次に、性能評価に一般的に用いられるベンチマークソフトウェアを特定し、日本語のレビューサイトや技術フォーラムを中心に、具体的なベンチマークスコアを収集しました。さらに、競合となるCPUとの性能比較結果や、Ryzen 5 5600Uを搭載したPCの実使用感に関するレビュー情報を集約しました。これらの情報を基に性能特性を分析し、報告書としてまとめました。引用した情報については、可能な限り出典元のウェブサイト名を明記しています。

2. AMD Ryzen 5 5600U: 基本仕様

AMD Ryzen 5 5600Uプロセッサの性能を理解する上で、その基本的な技術仕様を把握することが不可欠です。

  • コアアーキテクチャ (Core Architecture): 本プロセッサは、AMDの「Zen 3」マイクロアーキテクチャを採用しています 1。Zen 3は、前世代のZen 2アーキテクチャと比較してIPC(クロックあたりの命令実行数)が大幅に向上しており、これによりシングルスレッド性能とマルチスレッド性能の両方が強化されています。
  • 製造プロセス (Manufacturing Process): 台湾のTSMC社が提供する7nmプロセス技術を用いて製造されています 1。微細化されたプロセスは、トランジスタ密度を高め、結果として性能向上と消費電力削減に寄与します。
  • CPUコア数とスレッド数 (CPU Cores and Threads): 6個の物理コアと、SMT(Simultaneous Multi-Threading)技術による12個の論理スレッドを備えています 2。この構成により、複数のアプリケーションを同時に実行したり、マルチスレッド処理に最適化されたタスクを実行したりする際に高いパフォーマンスを発揮します。
  • クロック速度 (Clock Speeds): 標準のベースクロックは2.3 GHzで動作し、負荷に応じて最大4.2 GHzまでクロック速度を引き上げるブースト機能に対応しています 2。ただし、実際の動作クロックは、搭載されるノートPCの冷却システムの能力や、メーカーによって設定されるTDP(熱設計電力)の値によって変動します。
  • キャッシュメモリ (Cache): 高速なデータアクセスを実現するために、多層のキャッシュメモリを搭載しています。
  • L1キャッシュ: 各コアに64KB(命令キャッシュ32KB + データキャッシュ32KB) 2
  • L2キャッシュ: 各コアに512KB(合計3MB) 2
  • L3キャッシュ: 全コアで共有される16MBの大容量キャッシュ 2。 この16MBというL3キャッシュ容量は、プロセッサがメインメモリへアクセスする頻度を減らし、データアクセス速度を向上させる上で重要な要素です。特にゲームや一部のクリエイティブ系アプリケーションなど、キャッシュメモリのヒット率が性能に直接影響するような処理において、その効果を発揮します。比較対象として、後の世代のIntel Core UシリーズCPU、例えばCore i7-1265U(12MB L3)4 や Core i7-1355U(12MB L3)5 と比べても大容量であり、これはRyzenアーキテクチャがキャッシュ容量を重視する設計思想を持っていることを示しています。
  • TDP (Thermal Design Power): 標準のTDPは15Wに設定されています 2。これはプロセッサの標準的な消費電力と発熱量の目安となる値です。しかし、ノートPCメーカーは、製品の設計(薄型化、冷却能力など)に合わせて、このTDP値を構成可能TDP(cTDP)として調整することができます。具体的には、TDP-downとして10W、TDP-upとして25Wの範囲で設定が可能です 1。 このTDP設定の柔軟性(10W~25W)は、同じRyzen 5 5600Uを搭載するノートPCであっても、モデルによって実際のパフォーマンスが大きく異なる可能性があることを意味する極めて重要な点です。TDPはCPUが持続的に消費できる電力と、それに伴う発熱の上限を直接的に決定します。高いTDP設定(例: 25W, 28W, 30W 6)を許容する冷却能力の高いノートPCでは、CPUは高負荷時でも高いクロック速度を維持しやすくなり、持続的な高性能を発揮できます。逆に、非常に薄型軽量なモデルでは、冷却能力の制約からTDPが低く設定され(例: 12W 6)、パフォーマンスが抑制されることがあります。このTDP設定の違いは、公開されているベンチマークスコアに見られるばらつき 6 や、実際の使用感(処理速度、ファンの動作音など)の差 7 に直接結びつくため、ユーザーは同じCPU名であっても性能が一律ではないことを理解する必要があります。
  • 内蔵グラフィックス (Integrated Graphics – iGPU): AMD Radeon RX Vega 7 グラフィックスがプロセッサに統合されています 9。このiGPUは7つのグラフィックスコア(Execution Units)を持ち、最大1800 MHz(1.8 GHz)のクロック速度で動作します 1
  • メモリサポート (Memory Support): DDR4-3200規格、またはより高速なLPDDR4x-4266規格のメモリに対応しています 1。搭載されるメモリの種類と速度、そしてシングルチャネルかデュアルチャネルかという構成は、システム全体の性能、特に内蔵グラフィックスの性能に影響を与えます。
  • ソケット (Socket): FP6というモバイル向けのBGA(Ball Grid Array)パッケージを採用しています 2。これはCPUがマザーボードに直接はんだ付けされる形式であり、デスクトップPCのように交換することはできません。

表2.1: AMD Ryzen 5 5600U 主要仕様一覧

機能 (Feature)仕様 (Specification)出典 (Source)
アーキテクチャ (Architecture)Zen 31
製造プロセス (Process)7 nm1
コア/スレッド (Cores/Threads)6 / 122
ベースクロック (Base Clock)2.3 GHz2
ブーストクロック (Boost Clock)4.2 GHz2
L1キャッシュ (L1 Cache)64 KB / コア (32KB I + 32KB D)2
L2キャッシュ (L2 Cache)512 KB / コア (合計 3 MB)2
L3キャッシュ (L3 Cache)16 MB (共有)2
標準TDP (Standard TDP)15 W2
設定可能TDP範囲 (Configurable TDP)10 W – 25 W1
内蔵GPU (Integrated GPU)AMD Radeon RX Vega 79
iGPUコア数 (iGPU Cores)71
iGPU最大クロック (iGPU Max Clock)1800 MHz (1.8 GHz)1
メモリサポート (Memory Support)DDR4-3200 / LPDDR4x-42661
ソケット (Socket)FP6 (BGA)2

この表は、Ryzen 5 5600Uの主要な技術的特徴をまとめたものであり、後述する性能評価や比較の基礎となります。

3. ベンチマークによる性能評価

Ryzen 5 5600Uの性能を客観的に評価するため、広く利用されているベンチマークソフトウェアによる測定結果を分析します。ここでは、CPUの演算性能(シングルコアおよびマルチコア)、内蔵グラフィックスの描画性能、そしてシステム全体の総合的なパフォーマンスを示すスコアを取り上げます。

3.1. 主要ベンチマークソフトと日本での使用例

Ryzen 5 5600Uの性能評価には、様々なベンチマークソフトウェアが用いられています。日本のレビューサイトや技術関連フォーラムで特に頻繁に参照される主なソフトウェアは以下の通りです。

  • Cinebench (特に R23): CPUの3Dレンダリング性能を測定するための定番ベンチマークソフトです。マルチコア性能とシングルコア性能の両方を個別に評価できるため、CPUの純粋な計算能力を測る指標として広く用いられています 11。例えば、ASCII.jpの記事 11 では、HP ProBook 635 Aero G8のレビューにおいてCinebench R23のスコアが掲載されています。
  • Geekbench (特に 5): 様々なプラットフォーム(Windows, macOS, Linux, Android, iOS)で動作するクロスプラットフォーム対応のベンチマークです。CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定し、異なるデバイス間での性能比較に利用されることがあります 10
  • PassMark (CPU Mark): CPUの整数演算、浮動小数点演算、データ圧縮、暗号化など、様々な演算能力を総合的に測定し、単一のスコア(CPU Mark)として示すベンチマークです 3。okiniiripasokon.com 14 や jiyunagomataro.com 12 のような比較サイトで、CPU性能の目安として頻繁に引用されています。
  • PCMark 10: 日常的なPC利用シーンをシミュレートし、システム全体の総合性能を評価するベンチマークです。具体的には、アプリケーションの起動速度、ウェブブラウジング、文書作成や表計算(オフィスソフト利用)、写真編集やビデオ会議(簡単なコンテンツ作成)といったタスクのパフォーマンスを測定します 11。ASCII.jpの記事 11 では、Essentials(基本性能)、Productivity(生産性)、Digital Content Creation(デジタルコンテンツ作成)といった詳細なスコアが示され、実用的な快適さの指標として用いられています。
  • 3DMark: 主にグラフィックスカード(GPU)の性能を測定するためのベンチマークスイートですが、内蔵グラフィックス(iGPU)の性能評価にも広く利用されます 11。ASCII.jp 11 や for-real.jp 15 のレビュー記事で使用例が見られます。
  • ゲームベンチマーク (Game Benchmarks): 特定のゲームタイトルに付属、または単体で提供されるベンチマークソフトを使用し、実際のゲームプレイにおけるフレームレート(fps)や快適さを評価します。日本では、「ドラゴンクエストX」や「ファイナルファンタジーXIV」といった人気のオンラインゲームのベンチマークがよく用いられます 7。tonkichichannel.wordpress.com 7 や for-real.jp 15 で、これらのベンチマーク結果が報告されています。

日本のレビュー記事においては、CinebenchやPassMarkのようなCPUの理論性能を示す定番ベンチマークに加え、PCMark 10のような実用的なタスクに基づいた総合性能評価や、国内でプレイヤー人口の多いゲーム(ドラゴンクエストX、ファイナルファンタジーXIVなど)のベンチマーク結果が重視される傾向が見られます 7。これは、単にCPUの計算速度だけでなく、ウェブ閲覧、オフィス作業、そして軽めのゲームプレイといった、ユーザーが実際にPCを使用する場面での快適さを具体的に評価しようとする意図の表れと考えられます。

3.2. CPU性能

3.2.1. マルチコア

マルチコア性能は、複数のコアとスレッドを同時に活用するタスク(動画エンコード、3Dレンダリング、複数のアプリケーションの同時実行など)の処理速度に直結します。

  • Cinebench R23 Multi-Core:
  • ASCII.jp 11 がレビューしたHP ProBook 635 Aero G8(Ryzen 5 5600U搭載)では、7793 pts というスコアを記録しました。これは6コア12スレッドのCPUとしては非常に高いスコアであり、ビジネス用途はもちろん、ある程度のマルチタスク処理も快適に行える性能であると評価されています。
  • Notebookcheck 6 は、複数の異なるデバイスで測定された結果を集計し、平均スコアとして 7929 pts を報告しています。ただし、最小スコアは6871 pts、最大スコアは9345 ptsと、測定結果には大きな幅があります。このスコアのばらつきは、前述したノートPCごとのTDP設定(10W~25W、あるいはそれ以上 6)の違いが主な原因と考えられます。TDPが高く設定され、冷却が十分なデバイスほど高いスコアを出す傾向があります。
  • 比較サイトのNanoreview.net 17 では、比較データとして 7582 pts という値が示されています。
  • Geekbench 5 Multi-Core:
  • Geekbench Browser 10 に登録されているデータによると、Ryzen 5 5600Uの平均スコアは 5780点 とされています。
  • PassMark CPU Mark:
  • cpubenchmark.net 3 が集計したデータでは、平均スコアとして 15647点 を記録しています。これは、多くのノートPC向けプロセッサの中で上位に位置するスコアであり、Ryzen 5 5600Uの高い総合的な演算能力を示しています。

これらのベンチマーク結果から、AMD Ryzen 5 5600Uは、標準TDP 15Wクラスのモバイルプロセッサとしては卓越したマルチコア性能を持っていることがわかります。特にCinebench R23のスコアは、同世代のIntel Core i5 Uシリーズプロセッサを明確に上回り、場合によっては当時のCore i7 Uシリーズに匹敵するか、それを超えるパフォーマンスを示すこともあります 11。この高いマルチコア性能は、Zen 3アーキテクチャの高い効率性と6コア12スレッドという物理的な構成によって実現されています。ただし、繰り返しになりますが、搭載されるノートPCのTDP設定によって実際の性能が大きく変動する点 6 には、十分な注意が必要です。

3.2.2. シングルコア

シングルコア性能は、OSの応答性や、ウェブブラウジング、オフィスソフトの操作感、多くのゲームなど、単一のスレッドに処理が集中しやすいタスクの快適さに影響します。

  • Cinebench R23 Single-Core:
  • ASCII.jp 11 のレビューでは、1365 pts を記録しました。この記事では、このスコアが前世代のRyzen 5 4500Uや、競合製品であるIntel Core i5-1135G7をも上回るものであると評価されています。
  • Notebookcheck 6 の集計データでは、平均スコアは 1365 pts と報告されており、ASCII.jpの結果と一致しています。最小スコアは1345 pts、最大スコアは1376 ptsと、マルチコアほどの大きなばらつきはありませんが、わずかな変動が見られます。
  • Nanoreview.net 17 では、比較データとして 1372 pts が示されています。
  • PassMark Single Thread Rating:
  • cpubenchmark.net 3 では、シングルスレッド性能の指標として 2905点 を記録しています。これもまた、モバイルプロセッサとしては高いレベルのスコアです。

シングルコア性能に関しても、Ryzen 5 5600UはZen 3アーキテクチャの恩恵を大きく受けており、前世代のZen 2アーキテクチャから大幅に向上しています 11。これにより、OSの起動やアプリケーションの読み込み、ウェブページの表示といった日常的な操作がよりスムーズになり、体感的な応答性が改善されています。多くのベンチマークテストにおいて、同世代のIntel Core i5 Uシリーズプロセッサを上回るスコアを示しており 11、シングルスレッド性能においても高い競争力を持っていたことがうかがえます。

表3.1: Ryzen 5 5600U CPUベンチマークスコア概要

ベンチマーク (Benchmark)スコア種別 (Score Type)スコア (Score) (代表値/平均値)出典ウェブサイト (Source Website)
Cinebench R23Multi-Core7793 pts / 7929 ptsASCII.jp 11, Notebookcheck 6
Cinebench R23Single-Core1365 ptsASCII.jp 11, Notebookcheck 6
PassMark CPU MarkOverall15647 ptscpubenchmark.net 3
PassMark Single Thread RatingSingle Thread2905 ptscpubenchmark.net 3

この表は、Ryzen 5 5600Uの主要なCPUベンチマークスコアをまとめたものです。マルチコア、シングルコア共に高い性能を示していることが分かります。

3.3. 内蔵グラフィックス性能

Ryzen 5 5600Uには、ディスクリートGPU(dGPU)を搭載しないノートPCでもグラフィックス処理を可能にするため、CPUダイに統合されたグラフィックスプロセッシングユニット(iGPU)が含まれています。

  • GPU詳細 (GPU Details): 搭載されているのはAMD Radeon RX Vega 7グラフィックスです 1。このiGPUは、7つのコンピュートユニット(CU)を持ち、最大で1.8 GHz(1800 MHz)のクロック周波数で動作します 1。アーキテクチャとしてはVega世代であり、後のRDNA世代のiGPUとは異なります。
  • 3DMark:
  • ASCII.jp 11 のレビューでは、グラフィックス性能をチェックするために3DMarkを実行したと言及されていますが、具体的なスコアは記載されていませんでした。
  • for-real.jp 15 のRyzen 5 5625U(Vega 7搭載で5600Uとほぼ同等の性能を持つ)のレビューでは、UL ProcyonのOffice Productivity Benchmark内の「3D Graphics Mark」スコアとして 2021点 が報告されています。同記事内では、比較対象としてのRyzen 5 5600Uのスコアが 2101点 と記載されており、ほぼ同レベルの性能であることが示唆されています。
  • Notebookcheck 6 のデータを見ると、3DMarkの各種テスト(例: Fire Strike Graphics, Time Spy Graphics)のスコアは、テスト対象となったノートPCのTDP設定や搭載されているメモリの構成(速度、チャネル数)によって変動することが示されています。
  • ゲームベンチマーク (日本語情報源より) (Game Benchmarks – Japanese Sources):
  • ドラゴンクエストX ベンチマーク:
  • tonkichichannel.wordpress.com 7 がレビューしたThinkBook 14 Gen3(Ryzen 5 5600U搭載)では、メモリが8GB(おそらくシングルチャネル)の状態では、最高品質・フルHD(1920×1080)設定で スコア6902、評価は「快適」でした。しかし、メモリを16GB(おそらくデュアルチャネル)に増設したところ、スコアは ほぼ2倍 に向上し、評価も「すごく快適」に変わったと報告されています。これは、メモリ構成がiGPU性能に与える影響の大きさを示す非常に重要な結果です。
  • for-real.jp 15 の比較データでは、Ryzen 5 5600Uを搭載したマシンがドラゴンクエストXベンチマーク(標準品質・FHD)で 10000点を超えるスコア を出す可能性が示唆されています(同記事でテストされた5625Uは10747点を記録)。
  • ファイナルファンタジーXV ベンチマーク:
  • tonkichichannel.wordpress.com 7 のレビューによると、グラフィックス負荷が非常に高いこのゲームでは、フルHD解像度・標準品質設定では「重い」という評価でした。しかし、解像度を720p(1280×720)に下げ、画質設定を軽量品質にすることで、「普通」レベルの評価になったと報告されています。
  • ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク:
  • for-real.jp 15 の比較データからは、Ryzen 5 5600U搭載機がこのベンチマーク(標準品質・ノートPC設定)で 4000点台、評価としては「普通」レベルのスコアを出すことが示唆されています(同記事でテストされた5625Uは4254点を記録)。

これらの結果を総合すると、Ryzen 5 5600Uに内蔵されたRadeon RX Vega 7グラフィックスは、発売当時の統合GPUとしては良好な性能を提供していたと言えます。ウェブブラウジング、高解像度動画の再生、Officeアプリケーションの利用といった日常的なタスクは全く問題なく快適にこなせます。さらに、「ドラゴンクエストX」のような比較的負荷の軽いゲームであれば、画質設定を調整することで十分にプレイ可能です 7。

しかし、ここで特筆すべきはメモリ構成の影響です。tonkichichannelのレビュー 7 が明確に示したように、内蔵GPUは専用のビデオメモリ(VRAM)を持たず、システムのメインメモリを共有して使用します。そのため、メモリの帯域幅(メモリチャネル数 × メモリ速度)がiGPUの性能を直接的に左右します。特に、メモリがシングルチャネル構成(例: 8GBメモリが1枚だけ搭載されている場合)だと、メモリ帯域幅がボトルネックとなり、iGPUの潜在的な性能を十分に引き出せません。デュアルチャネル構成(例: 8GBメモリが2枚搭載され合計16GBとなっている場合)にすることでメモリ帯域幅が倍増し、ドラゴンクエストXのスコアがほぼ倍になった 7 ことからもわかるように、グラフィックス性能が大幅に向上します。したがって、Ryzen 5 5600U搭載ノートPCで少しでもゲームやグラフィックス処理を行いたい場合は、デュアルチャネルメモリ構成のモデルを選ぶことが強く推奨されます。

一方で、ファイナルファンタジーXVのような最新のAAAタイトルを高画質・高フレームレートでプレイするには、Radeon Vega 7の性能では明らかに不足しています 7。

表3.2: Ryzen 5 5600U 内蔵グラフィックス ベンチマーク例 (日本語ソース中心)

ベンチマーク (Benchmark)設定 (Setting)スコア/結果 (Score/Result)メモリ構成 (Memory Config) (判明分)出典ウェブサイト (Source Website)
ドラゴンクエストX ベンチマーク最高品質, フルHD (1920×1080)6902 (快適)8GB (おそらくSingle)tonkichichannel 7
ドラゴンクエストX ベンチマーク最高品質, フルHD (1920×1080)約2倍に向上 (すごく快適)16GB (おそらくDual)tonkichichannel 7
ドラゴンクエストX ベンチマーク標準品質, フルHD (1920×1080)10000点超の可能性不明for-real.jp 15 (参考値)
ファイナルファンタジーXIV (暁月のフィナーレ)標準品質 (ノートPC), フルHD (1920×1080)4000点台 (普通)不明for-real.jp 15 (参考値)
ファイナルファンタジーXV ベンチマーク標準品質, フルHD (1920×1080)重い8GB/16GBtonkichichannel 7
ファイナルファンタジーXV ベンチマーク軽量品質, 720p (1280×720)普通8GB/16GBtonkichichannel 7
3D Graphics Mark (UL Procyon Office)2101点 (参考値)不明for-real.jp 15 (参考値)

この表は、特に日本のユーザーにとって関心の高いゲームベンチマークの結果を中心に、Ryzen 5 5600Uの内蔵グラフィックス性能を示しています。メモリ構成による性能差が大きい点が注目されます。

3.4. 総合システム性能

CPUやGPU単体の性能だけでなく、実際のPC利用における総合的な快適さを評価するために、PCMark 10のようなベンチマークが用いられます。これは、ファイル操作、アプリケーション起動、ウェブブラウジング、オフィス作業、マルチメディアコンテンツの扱いなど、多様なタスクを組み合わせたシナリオを実行し、システム全体の応答性や処理能力を測定します。

  • PCMark 10:
  • ASCII.jp 11 がレビューしたHP ProBook 635 Aero G8(Ryzen 5 5600U, 16GB RAM, 256GB NVMe SSD構成)では、以下のスコアが記録されました。
  • 総合スコア (Overall Score): 5311
  • Essentials (アプリ起動、ビデオ会議、ウェブ閲覧などの基本性能): 9606 (快適さの目安: 4100以上)
  • Productivity (文書作成や表計算などのオフィス作業性能): 8559 (快適さの目安: 4500以上)
  • Digital Content Creation (写真編集、動画編集、レンダリングなどのコンテンツ作成性能): 4945 (快適さの目安: 3450以上)
  • このレビューでは、すべての項目で快適さの目安とされるスコアを大幅に上回っており、ビジネス用途はもちろん、写真編集のようなクリエイティブ系の作業も快適に行える性能を持っていると結論づけられています 11

PCMark 10の結果 11 は、Ryzen 5 5600Uが、多くのユーザーにとって主要な用途であるウェブブラウジング、Officeスイート(Word, Excel, PowerPointなど)の利用、オンライン会議といった日常的なビジネスや学習の場面において、非常にスムーズで快適なパフォーマンスを提供することを示しています。Digital Content Creationのスコアも目安を大きく超えていることから、プロフェッショナルレベルの重い作業は難しいものの、趣味レベルの写真編集や簡単な動画編集といった、比較的軽いクリエイティブなタスクにも十分対応できる能力があることがわかります。

PCMark 10のスコアは、CPU性能だけでなく、搭載されているメモリの速度や容量、ストレージ(SSD/HDD)のアクセス速度といった、システム全体の構成要素が複合的に影響します。Ryzen 5 5600U自体の高いCPU性能(特にマルチコア性能)と、それがサポートする高速なメモリ規格(DDR4-3200やLPDDR4x-4266 1)、そしてレビュー機に搭載されていたような高速なNVMe SSD 11 が組み合わさることによって、個々のコンポーネントの性能が引き出され、システム全体の応答性が高まり、様々なタスクにおいてバランスの取れた快適な使用感につながっていると考えられます。

4. 競合プロセッサとの性能比較

Ryzen 5 5600Uの性能をより深く理解するためには、同時期に市場に存在した、あるいはその後に登場した競合プロセッサとの性能比較が不可欠です。ここでは、主にIntel Coreシリーズや、他のAMD Ryzenモバイルプロセッサとの比較を行います。

4.1. 対 Intel Core i5 Uシリーズ

IntelのCore i5 Uシリーズは、薄型ノートPC向けのミドルレンジCPUとして、Ryzen 5 Uシリーズの直接的な競合相手となります。

  • 対 Core i5-1135G7 (第11世代 Tiger Lake):
  • CPU性能: Ryzen 5 5600U (6コア/12スレッド) は、Core i5-1135G7 (4コア/8スレッド) に対して、特にマルチコア性能で明確な優位性を示します 3。PassMark CPU Markのスコア比較では、5600Uが約15600点であるのに対し、i5-1135G7は約10700点と、大きな差がついています 3。ASCII.jp 11 のレビューでも、Cinebench R23において5600Uがi5-1135G7を凌ぐと評価されています。シングルコア性能についても、多くのベンチマークで5600Uが同等か、わずかに上回る結果を示しています 3
  • iGPU性能: Core i5-1135G7に統合されているIntel Iris Xe Graphics (80 EUs) と、Ryzen 5 5600UのRadeon Vega 7の性能は比較的近いレベルにあり、実行するベンチマークテストやゲームタイトル、そしてメモリ構成によってどちらが優位かは変動します。for-real.jp 15 の3D Graphics Mark比較データでは、5600U(2101点)がやや低い可能性も示唆されていますが(ただし直接比較ではない)、同サイトのドラゴンクエストXベンチマーク比較では、5600U搭載機の方が高いスコアを示す例も見られます。メモリ帯域幅の影響が大きい領域です。
  • 対 Core i5-1235U / i5-1240P (第12世代 Alder Lake):
  • CPU性能: Intelの第12世代プロセッサでは、高性能コア(P-core)と高効率コア(E-core)を組み合わせたハイブリッドアーキテクチャが採用され、特にマルチコア性能が飛躍的に向上しました。Core i5-1235U (2P+8E=10コア/12スレッド) や、よりTDPが高いCore i5-1240P (4P+8E=12コア/16スレッド) は、マルチコアベンチマークにおいてRyzen 5 5600Uを上回るスコアを出す傾向があります 6。シングルコア性能に関しても、P-coreの性能向上により、5600Uに肉薄するか、上回る場合があります 6
  • iGPU性能: 第12世代のCore i5 U/Pシリーズに搭載されるIris Xe Graphics (80 EUs) は、Radeon Vega 7と同等か、やや優位な性能を示すことが多いようです 15
  • 対 Core i5-1335U (第13世代 Raptor Lake):
  • CPU性能: 第13世代は第12世代の改良版であり、Core i5-1335Uも同様のハイブリッド構成 (2P+8E=10コア/12スレッド) を持ちます。動作クロックの向上や最適化により、マルチコア・シングルコア性能共にRyzen 5 5600Uを上回ります [24 (比較動画の文脈より)]。

総括すると、Ryzen 5 5600Uは、発売当時の同世代競合製品であったIntel第11世代Core i5 Uシリーズに対して、特にマルチコア性能において明確なアドバンテージを持っていました 3。しかし、Intelがハイブリッドアーキテクチャを導入した第12世代以降のCore i5 UシリーズやPシリーズに対しては、特にマルチコア性能において後塵を拝する場面が多くなっています 6

4.2. 対 Intel Core i7 U/Hシリーズ

より上位のCore i7シリーズとの比較も、Ryzen 5 5600Uの位置づけを理解する上で参考になります。

  • 対 Core i7-1165G7 / i7-1185G7 / i7-1195G7 (第11世代 Tiger Lake U):
  • CPU性能: これらの第11世代Core i7 Uシリーズは4コア/8スレッド構成です。そのため、マルチコア性能においては、6コア/12スレッドのRyzen 5 5600Uの方が優位に立つことが多いです 6。一方、シングルコア性能では、これらのCore i7モデルはより高いブーストクロックを持つため、Ryzen 5 5600Uに匹敵するか、わずかに上回る場合があります 6
  • iGPU性能: これらのCore i7モデルに搭載されるIntel Iris Xe Graphics G7 (96 EUs) は、Core i5モデルの80 EUs版よりも高性能であり、Ryzen 5 5600UのRadeon Vega 7よりも一般的に高いグラフィックス性能を発揮します 4
  • 対 Core i7-10750H / i7-10850H (第10世代 Comet Lake-H):
  • CPU性能: これらはTDPが45Wクラスと高く設定された、主にゲーミングノートPCやモバイルワークステーション向けのHシリーズプロセッサです(6コア/12スレッド)。しかし、PassMark CPU Markのスコアを見ると、Ryzen 5 5600U(15Wクラス、約15600点)が、Core i7-10750H(45Wクラス、約14100点)を上回っています 3。これは、Ryzen 5 5600Uが採用するZen 3アーキテクチャが、世代の古いComet Lake(Skylakeアーキテクチャの改良版)に対して、電力効率およびIPC(クロックあたりの性能)で大きなアドバンテージを持っていることを示しています。
  • 対 Core i7-1265U / i7-1355U / i7-1360P (第12/13世代 U/Pシリーズ):
  • CPU性能: これらの新しい世代のCore i7プロセッサは、高性能なP-coreと多数のE-coreを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを採用しています。これにより、マルチコア性能ではRyzen 5 5600Uを大幅に上回ります 4。シングルコア性能においても、P-coreの性能向上により優位に立っています 17
  • iGPU性能: 搭載されるIris Xe Graphics G7 (96 EUs) は、引き続きRadeon Vega 7よりも高性能です 4

まとめると、Ryzen 5 5600Uは、同世代(第11世代)のIntel Core i7 Uシリーズ(4コア)に対してはマルチコア性能で優位性を示しましたが、シングルコア性能や内蔵グラフィックス性能では劣る場合がありました。より新しい世代(第12世代以降)のIntel Core i7プロセッサに対しては、ハイブリッドアーキテクチャの採用により、CPU性能全般で見劣りする結果となっています。

4.3. 対 旧世代/同世代Ryzenモバイル

AMD自身のラインナップ内での比較も重要です。

  • 対 Ryzen 5 4500U (Zen 2, 6コア/6スレッド):
  • CPU性能: Ryzen 5 5600Uは、アーキテクチャが新しいZen 3であること、そしてSMTに対応し12スレッド処理が可能であることにより、Zen 2ベースで6スレッドのRyzen 5 4500Uに対して、シングルコア・マルチコア性能共に大幅な向上を実現しています 11
  • 対 Ryzen 5 4600H (Zen 2, 6コア/12スレッド, 45W TDP):
  • CPU性能: 4600HはTDPが45Wと高いHシリーズですが、PassMark CPU Markの比較では、Ryzen 5 5600U(15W、約15600点)がRyzen 5 4600H(45W、約14300点)を約9%上回る結果となっています 3。これは、Zen 3アーキテクチャのIPC(クロックあたり性能)向上が、TDPの差を補って余りあることを示唆しています。
  • 対 Ryzen 5 5500U (Zen 2, 6コア/12スレッド):
  • CPU性能: Ryzen 5 5500Uは、型番が「5000番台」であるものの、その内部アーキテクチャは旧世代のZen 2(開発コード名: Lucienne)に基づいています。一方、Ryzen 5 5600Uは新しいZen 3(開発コード名: Cezanne)に基づいています。そのため、同じ6コア/12スレッド構成であっても、アーキテクチャの世代が新しい5600Uの方が、特にシングルコア性能において高いパフォーマンスを発揮します。for-real.jp 15 の比較データを見ても、PCMark 10のスコアなどで、5600Uとほぼ同等の性能を持つ5625U(Zen 3)が5500U(Zen 2)を上回っています。 この点は、Ryzen 5000モバイルシリーズを選ぶ上で注意が必要なポイントでした。シリーズ内にはZen 2ベースのモデル(コード名 Lucienne: Ryzen 3 5300U, Ryzen 5 5500U, Ryzen 7 5700U)と、Zen 3ベースのモデル(コード名 Cezanne: Ryzen 3 5400U, Ryzen 5 5600U, Ryzen 7 5800U)が混在していました。型番の数字だけを見ると性能差を誤解しやすく、例えば「5600U」と「5500U」では、数字の上ではわずかな差に見えても、内部アーキテクチャの違いから実際の性能特性、特にシングルコア性能には明確な差が存在します。購入を検討する際には、型番だけでなく、ベースとなっているアーキテクチャ(Zen 3かZen 2か)を確認することが重要でした。
  • 対 Ryzen 5 5600H (Zen 3, 6コア/12スレッド, 45W TDP):
  • CPU性能: Ryzen 5 5600Hは、5600Uと同じZen 3コアを搭載していますが、TDPが45Wと高く設定されているため、特に高負荷が持続するようなマルチコア処理においては、5600Uよりも高い性能を発揮します。PassMark CPU Markでは、5600H(約16800点)が5600U(約15600点)を約7%上回っています 3。Geekbench 5 Multi-Coreのスコアでも同様の傾向が見られます 10
  • 対 Ryzen 7 5800U (Zen 3, 8コア/16スレッド, 15W TDP):
  • CPU性能: Ryzen 7 5800Uは、5600Uと同じ15WのTDP枠内で、より多い8コア/16スレッド構成を実現しています。そのため、マルチコア性能においては、6コア/12スレッドの5600Uを上回ります。okiniiripasokon.com 14 の情報によると、PassMarkのマルチスレッドテストでは、5800Uは5600Uよりも約2割高性能であるとされています。一方で、PassMark Single Thread Ratingでは、5800U(3023点)と5600U(2909点)の差はわずかです 21
  • 対 Ryzen 5 5625U (Zen 3, 6コア/12スレッド, 15W TDP):
  • CPU性能: Ryzen 5 5625Uは、5600Uのマイナーチェンジ版(リフレッシュ版)と位置づけられており、基本的な仕様(Zen 3, 6C/12T, 15W TDP, Vega 7 iGPU)や性能は非常に近いです 15。ベンチマークスコアも、ほぼ同等レベルと考えてよいでしょう 15

AMDのラインナップ内での比較をまとめると、Ryzen 5 5600Uは、旧世代のRyzen 4000シリーズや、同じ5000シリーズでもZen 2アーキテクチャベースのモデル(例: 5500U)に対して、明確な性能向上を果たしています。同じZen 3世代の中では、より高いTDPを持つHシリーズ(例: 5600H)や、より多くのコアを持つ上位モデル(例: 5800U)には及びませんが、15Wクラスの薄型ノートPC向けCPUとしては非常に競争力のある性能を提供していました。

表4.1: Ryzen 5 5600U と主要競合CPUのベンチマーク比較 (代表値)

CPUモデル (CPU Model)アーキテクチャ (Architecture)コア/スレッド (Cores/Threads)TDP (W)Cinebench R23 Multi (Approx.)Cinebench R23 Single (Approx.)PassMark CPU Mark (Approx.)出典例 (Source Examples)
AMD Ryzen 5 5600UZen 36 / 1215~7800~1365~156003
Intel Core i5-1135G7Tiger Lake4 / 815-28~5000~1350~107003
Intel Core i5-1235UAlder Lake-U10 (2P+8E) / 1215~8000~1600~137006
Intel Core i7-1165G7Tiger Lake4 / 815-28~5500~1500~105006
Intel Core i7-1265UAlder Lake-U10 (2P+8E) / 1215~8500~1700~140004 (Comparison context), Nanoreview, Notebookcheck
AMD Ryzen 5 4600HZen 26 / 1245~8800~1200~143003
AMD Ryzen 5 5500UZen 2 (Lucienne)6 / 1215~7200~1180~1350015
AMD Ryzen 5 5600HZen 36 / 1245~9500~1400~168003
AMD Ryzen 7 5800UZen 38 / 1615~9000~1400~1800014

(注: 上記スコアはおおよその代表値であり、テスト環境やTDP設定によって変動します。)

この表は、Ryzen 5 5600Uを主要な競合製品と比較した際の、おおよその性能ポジションを示しています。同世代のCore i5 Uシリーズに対する優位性や、新しい世代のCPUとの性能差などが読み取れます。

5. 実使用感レビュー

ベンチマークスコアはCPUの潜在能力を示す重要な指標ですが、実際のPC利用における快適さは、スコアだけでは測れない側面も多く含みます。ここでは、日本語のレビューサイトやユーザーの声をもとに、Ryzen 5 5600Uを搭載したノートPCの実際の使用感について評価します。

5.1. 一般的なタスク

ウェブブラウジング、メールの送受信、文書作成や表計算(Microsoft Officeなど)、動画視聴といった日常的なタスクに関しては、多くのレビューで「非常に快適」「サクサク動作する」といった肯定的な評価が見られます 7。ASCII.jp 11 が実施したPCMark 10のテスト結果でも、基本性能を示すEssentialsスコアや、ビジネスアプリケーションの性能を示すProductivityスコアが、快適さの目安とされる値を大幅に上回っており、これらのタスクをストレスなくこなせる性能を持っていることが裏付けられています。Zen 3アーキテクチャによるシングルコア性能の高さ 11 が、OSやアプリケーションの起動、ファイル操作といった基本的な操作の応答性の良さに貢献していると考えられます。

5.2. 軽度なゲームプレイ

内蔵されているRadeon Vega 7グラフィックスは、ディスクリートGPU(dGPU)ほどのパワーはありませんが、比較的負荷の軽いゲームであればプレイ可能です。特に、日本で人気の「ドラゴンクエストX」のようなタイトルは、画質設定を調整すれば快適に遊べるとの報告があります 7。tonkichichannel.wordpress.com 7 のレビューでは、メモリを16GB(デュアルチャネル構成と推測される)に増設することで、最高品質・フルHD設定でも「すごく快適」という評価を得ています。ただし、「ファイナルファンタジーXV」のようなグラフィックス負荷が非常に高いゲームを、高画質設定で快適にプレイすることは困難です 7。解像度や画質設定を大幅に下げることで、ようやく「普通」レベルでのプレイが可能になる程度であり、本格的なゲーミングには向いていません。ここでも、メモリ構成(特にデュアルチャネルであるか否か)がゲーム性能に大きく影響する点 7 は、繰り返し強調されるべき重要なポイントです。

5.3. コンテンツ作成

写真編集(Adobe LightroomやPhotoshopでの基本的な調整など)のような、比較的負荷の軽いクリエイティブ作業については、快適に行えるレベルの性能を持っています 11。PCMark 10のDigital Content Creationスコアが目安を上回っていること 11 や、製品紹介でクリエイティブ作業での利用が想定されている例 23 も、これを裏付けています。しかし、長時間の動画編集(4K編集や複雑なエフェクト処理など)や、高度な3Dモデリング、レンダリングといった、CPUとGPUの両方に継続的に高い負荷がかかるような重いタスクには、性能不足を感じる場面が多くなります。このような用途では、よりコア数の多いRyzen 7 5800U 14 や、TDPの高いHシリーズCPU、あるいは高性能なディスクリートGPUを搭載したマシンを選択する方が適しています。okiniiripasokon.com 14 の比較記事でも、クリエイティブな作業においては、Ryzen 7 5800Uの方がRyzen 5 5600Uよりも性能差が顕著になると指摘されています。

5.4. 動作音と発熱

CPUの動作に伴うファンの音や本体の発熱は、ユーザーの快適性に直接影響する要素ですが、これらはCPU自体の特性だけでなく、搭載されているノートPCやミニPCの冷却設計(ヒートシンクのサイズ、ファンの性能、エアフロー、ファン制御アルゴリズムなど)に大きく依存します。そのため、Ryzen 5 5600U搭載デバイスに関する評価は、レビュー対象の機種によって分かれる傾向があります。

  • 例えば、tonkichichannel.wordpress.com 7 がレビューしたLenovo ThinkBook 14 Gen3では、ウェブブラウジングや動画視聴といった軽い負荷の状況ではファンはほとんど回転せず、ほぼ無音に近い静かさであったと報告されています。ベンチマークテストのような高負荷時でも、ファンの騒音レベルは20dB~35dB程度で推移し、キーボード上部が温かくはなるものの、触れられないほど高温になることはなかった、と比較的良好な評価がなされています。
  • 一方で、Amazon.co.jpに寄せられたGMKtec NucBox9というミニPCのレビュー 8 を見ると、「静穏性が良い」という肯定的な意見がある一方で、「ファンの音がうるさい」「ブラウザを起動するだけでジェットエンジンのような騒音が出る」といった、正反対の否定的な意見も存在します。

これらの対照的なレビュー 7 は、同じRyzen 5 5600UというCPUを搭載していても、それが組み込まれるデバイスの設計、特に冷却システムとファン制御のチューニングがいかにユーザー体験(特に騒音と温度)に決定的な影響を与えるかを明確に示しています。薄型ノートPCと小型ミニPCでは冷却設計の制約も異なるため、一概にCPUだけで評価することはできません。したがって、Ryzen 5 5600U搭載デバイスの購入を検討する際には、CPU名だけでなく、関心のある具体的なモデルのレビューを調べ、その機種固有の冷却性能や静音性に関する評価を確認することが非常に重要です。

5.5. コストパフォーマンス

Ryzen 5 5600Uを搭載したノートPCは、その提供される性能に対して、比較的リーズナブルな価格設定がされているモデルが多く見られました。usshi-na-life.com 22 がレビューしたHP Pavilion Aero 13-beのように、軽量・高性能でありながら、キャンペーン価格などを利用すると10万円前後、あるいはそれを下回る価格で購入できるケースもあり、高いコストパフォーマンスが魅力の一つとして評価されています。同レビューでは、特にRyzen 5 5600Uと16GBメモリを組み合わせた構成が、価格と性能のバランスが良いとして推奨されています 22。発売当時、優れたマルチコア性能、十分なシングルコア性能、そして日常用途には困らない内蔵グラフィックス性能をバランス良く備え、競合するIntel Core i5搭載モデルと比較しても価格面で有利な場合が多かったため、ミドルレンジの薄型ノートPC市場において非常に強力な選択肢となっていました。

6. 性能特性分析: 強みと弱み

これまでの分析を踏まえ、AMD Ryzen 5 5600Uプロセッサの性能特性における強みと弱みをまとめます。

6.1. 強み

  • 卓越したマルチコア性能 (Excellent Multi-Core Performance): 6コア/12スレッド構成と効率的なZen 3アーキテクチャの組み合わせにより、標準TDP 15Wという枠内では非常に高いマルチコア性能を発揮します 3。これにより、複数のアプリケーションを同時に使用するマルチタスク環境や、動画エンコード、ソフトウェアのコンパイルといったCPU負荷の高い処理で有利です。
  • 競争力のあるシングルコア性能 (Competitive Single-Core Performance): Zen 3アーキテクチャにおけるIPC(クロックあたり命令実行数)の向上により、シングルコア性能も高く、OSやアプリケーションの応答性、ウェブブラウジングなどの体感速度が良好です 11。発売当時は、同世代のIntel Core i5 Uシリーズを多くの場面で上回る性能を示しました。
  • 良好な電力効率 (Good Power Efficiency): 先進的な7nm製造プロセスとZen 3アーキテクチャの採用により、性能あたりの消費電力が抑えられています。これは、ノートPCのバッテリー駆動時間の延長に貢献する要素となります(ただし、実際のバッテリー駆動時間はディスプレイ輝度や他のコンポーネント、使用状況にも大きく依存します)。
  • 十分な内蔵グラフィックス性能 (Sufficient Integrated Graphics Performance): 統合されたRadeon Vega 7グラフィックスは、日常的なデスクトップ表示、高解像度動画再生、そして「ドラゴンクエストX」のような比較的負荷の軽いゲームには十分な性能を提供します 7。特に、メモリをデュアルチャネル構成にすることで、その性能をさらに引き出すことができます 7
  • 高いコストパフォーマンス (High Cost-Performance): 提供される性能に対して、搭載製品の価格が比較的抑えられている場合が多く、優れたコストパフォーマンスを実現していました 22。予算を重視するユーザーにとって魅力的な選択肢でした。

6.2. 弱み

  • TDP設定による性能のばらつき (Performance Variation due to TDP Settings): ノートPCメーカーによるTDP設定(標準15W、構成により10W~25W、あるいはそれ以上)によって、同じRyzen 5 5600Uでも実際のパフォーマンスが大きく変動します 6。購入前には、検討している特定のノートPCモデルのレビューを参照し、どのようなTDP設定で動作するのかを確認することが推奨されます。
  • 最新世代CPUとの性能差 (Performance Gap with Latest Generation CPUs): その後の世代、特にIntelの第12世代以降で採用された高性能コアと高効率コアを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを持つCPU(特にPシリーズや上位のUシリーズ)と比較すると、マルチコア性能において見劣りする場面が多くなっています 6
  • 内蔵グラフィックスの限界 (Integrated Graphics Limitations): Radeon Vega 7グラフィックスは、最新のグラフィックス負荷が高いゲームを高画質設定でプレイしたり、プロフェッショナル向けの高度なGPUアクセラレーションを利用したりするには性能が不足しています 7。IntelのIris Xe Graphics (特に96 EUs版) 4 や、より新しいAMD Radeon Graphics (RDNAアーキテクチャベース) を搭載したプロセッサと比較すると、性能面で劣ります。
  • メモリ構成への依存性 (Dependency on Memory Configuration): 特に内蔵グラフィックスの性能は、システムメモリがシングルチャネル構成かデュアルチャネル構成かによって大きく左右されます 7。シングルチャネル構成の場合、メモリ帯域幅がボトルネックとなり、iGPUの性能が大幅に制限されてしまいます。

7. 総括

AMD Ryzen 5 5600Uは、2021年の発売当時において、薄型軽量ノートPC向けのプロセッサとして、性能、電力効率、価格のバランスが非常に取れた優れた製品でした。Zen 3アーキテクチャを基盤とする6コア/12スレッド構成は、標準TDP 15Wという省電力な枠組みの中で、当時の競合製品であったIntel第11世代Core i5 Uシリーズに対して明確なアドバンテージとなる強力なマルチコア性能と、十分に競争力のあるシングルコア性能を提供しました 3

内蔵されたRadeon Vega 7グラフィックスも、日常的なコンピューティングタスクや、比較的負荷の軽いゲーム(例: ドラゴンクエストX)には十分な能力を持っており 7、特にメモリをデュアルチャネル構成にすることで、そのパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能です 7。これにより、一般的な事務作業、ウェブブラウジング、動画視聴、オンライン会議といった用途では極めて快適な動作が期待でき 11、趣味レベルの写真編集のような軽いクリエイティブワークにも対応できる汎用性を持っていました。

しかし、このプロセッサを評価する上で考慮すべき点も存在します。最も重要なのは、搭載されるノートPCのメーカーによるTDP設定の違いが、実際のパフォーマンスに大きな影響を与えるという点です 6。同じ「Ryzen 5 5600U搭載」というスペック表記でも、モデルによって性能が異なる可能性があるため、注意が必要です。また、技術の進歩により、Intelの第12世代以降のプロセッサや、より新しいAMD Ryzenプロセッサと比較すると、特にマルチコア性能において性能差が見られるようになっています。さらに、実際の使用感、特に動作音や本体の発熱については、CPU自体の特性以上に、搭載されるノートPCの冷却設計やファン制御に大きく左右されるため、個別の製品レビューを確認することが不可欠です 7

結論として、AMD Ryzen 5 5600Uは、発売から時間は経過しているものの、依然として優れたマルチタスク性能と高いコストパフォーマンスを提供します。最新世代の最高性能を必ずしも必要とせず、日常的な作業や軽めのマルチメディア用途で快適に使えるノートPCを探しているユーザーにとっては、中古市場や一部の現行モデルにおいて、依然として魅力的な選択肢となり得ます。ただし、購入を検討する際には、関心のある具体的なノートPCモデルのレビューを十分に確認し、そのモデルのTDP設定、メモリ構成(シングル/デュアルチャネル、容量)、そして冷却性能や静音性に関する情報を把握した上で判断することが極めて重要です。

引用文献

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  8. Amazon.co.jp: GMKtec NucBox9ミニpc AMD Ryzen 5 5600U Windows 11 Pro 2.3GHZ – 4.2GHz 6コア/12スレッド 小型pc 16GB 512GB PCIe3.0 SSD Giga LAN(RJ45)*1 2.5G RZ608 WIFI6 BT5.2 Radeon4K@60Hz 3画面出力対応 4xUSB 1xType-C付き ミニパソコン, 4月 13, 2025にアクセス、 https://www.amazon.co.jp/GMKtec-NucBox9%E3%83%9F%E3%83%8Bpc-Windows-Pro-2-3GHZ/dp/B0BM97JT76
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