AMD Ryzen 5 7520C ベンチマークまとめ

CPU-AMD-Ryzen CPU・SoC

はじめに

AMD Ryzen 5 7520Cは、特にChromebook市場向けに設計・最適化されたプロセッサであり、Ryzen/Athlon 7020 Cシリーズの一部として発表されました 1。このプロセッサは、従来のChromebook向けCPUと比較して、性能向上とバッテリー駆動時間の延長を実現することを目標としています 3

本レポートは、主に日本語のウェブサイトからの情報および関連する技術データに基づき、AMD Ryzen 5 7520Cの基本的な仕様、ベンチマークテストによる性能、競合製品との比較、そして実際の利用シーンにおけるパフォーマンスを包括的に分析することを目的としています。

このプロセッサは、主にChromebook、特にGoogleが提唱する高性能基準「Chromebook Plus」に準拠するモデルに搭載されています 4。したがって、本レポートの分析は、Chromebookプラットフォームにおける同プロセッサの能力評価に重点を置きます。

AMD Ryzen 5 7520C: 基本仕様

AMD Ryzen 5 7520Cは、効率性とパフォーマンスのバランスを重視した設計思想に基づいています。以下にその主要な技術仕様を詳述します。

アーキテクチャとプロセス

  • CPUコア: 実績のある「Zen 2」アーキテクチャを採用しています 1。これはRyzen 4000シリーズなどで広く使用されたアーキテクチャですが、AMDの最新世代(Zen 4など 7)ではありません。
  • 製造プロセス: TSMCの6nm FinFETプロセスで製造されています 1。これは、従来のZen 2コアで主流だった7nmプロセスよりも微細化されており、同一アーキテクチャでも消費電力効率の向上が期待できます。
  • コードネーム: 「Mendocino」というコードネームで開発されました 1

コアとスレッド

  • 構成: 4つのCPUコアと、SMT(Simultaneous Multithreading)技術により同時に処理可能な8つのスレッドを備えています 1。これにより、複数のタスクを同時に実行する際のパフォーマンスが向上します。

クロック速度

  • ベースクロック: 2.8 GHzで動作します 1
  • 最大ブーストクロック: 負荷に応じて、単一コアで最大4.3 GHzまでクロック速度を引き上げることが可能です 1。これは、アプリケーションの起動速度や応答性など、シングルスレッド性能に影響します。

キャッシュ構成

  • L1キャッシュ: 合計256 KB(各コアに32KBの命令キャッシュと32KBのデータキャッシュ)1
  • L2キャッシュ: 合計2 MB(各コアに512KB)1
  • L3キャッシュ: 合計4 MB(全コアで共有)1。これはZen 2アーキテクチャとしては標準的な容量ですが、最新のハイエンドCPUと比較すると少なめです。

TDP (Thermal Design Power)

  • デフォルトTDP: 15Wに設定されています 1。これは、ファンレス設計や薄型・軽量のChromebookに適した低消費電力設計であることを示しています。

メモリサポート

  • タイプ: 高速なLPDDR5メモリをサポートします 1。これは、システム全体の応答性、特に内蔵グラフィックスの性能に大きく寄与します。
  • 最大速度: LPDDR5-5500に対応しています 1
  • チャンネル数: デュアルチャンネル(2チャンネル)構成をサポートします 1
  • 最大容量: 最大16 GBまでサポートします 1。これは多くのChromebookの用途には十分な容量です。

このプロセッサは、成熟したZen 2コアアーキテクチャと、最新の高速LPDDR5メモリおよび効率的な6nm製造プロセスを組み合わせています 1。この組み合わせは、コスト効率(Zen 2コアの利用)と性能(LPDDR5の高帯域幅、6nmプロセスの効率)のバランスを取るための戦略的な選択と考えられます。特に、内蔵グラフィックスはシステムメモリを共有するため、LPDDR5の高帯域幅がグラフィックス性能を引き出す上で重要となります。結果として、7520CはミドルレンジのChromebookに適した性能、コスト、消費電力の目標を達成することを目指しています。

内蔵グラフィックス: AMD Radeon 610M

  • モデル名: AMD Radeon™ 610M グラフィックスを内蔵しています 1
  • アーキテクチャ: AMDの最新グラフィックスアーキテクチャの一つである「RDNA 2」を採用しています 3
  • コア数: 2つのCU(Compute Units)、合計128個のシェーダープロセッサを搭載しています 1。このCU数は、RDNA 2アーキテクチャとしては非常に少なく、グラフィックス性能が限定的であることを示唆しています。
  • 周波数: 最大1900 MHzで動作します 1
  • ディスプレイ出力: DisplayPort 1.4およびHDMI 2.1といった最新のディスプレイ出力規格に対応し、最大で4台の外部ディスプレイを接続可能です 1

接続性

  • PCI Express: PCIe® 3.0規格に対応し、主にNVMe SSDなどの接続用に4レーンが利用可能です 1。最新のPCIe 4.0には対応していません。
  • USB: ネイティブでUSB 3.2 Gen 2 (10Gbps)を1ポート、USB 3.2 Gen 1 (5Gbps)を1ポート、USB 2.0を3ポートサポートします 1

OSサポート

  • 最適化: ChromeOS向けに最適化されている点が特徴です 1。これは、主にWindowsをターゲットとする姉妹モデルのRyzen 5 7520U 10 とは異なる点です。

表1: AMD Ryzen 5 7520C 主要スペック一覧

項目仕様出典例
アーキテクチャZen 21
製造プロセスTSMC 6nm FinFET1
コア/スレッド4 / 81
ベースクロック2.8 GHz1
最大ブーストクロック最大 4.3 GHz1
L1キャッシュ256 KB (32KB I + 32KB D) x 41
L2キャッシュ2 MB (512KB x 4)1
L3キャッシュ4 MB (共有)1
TDP15W1
メモリサポートLPDDR5-5500 (デュアルチャンネル, 最大16GB)1
内蔵グラフィックスAMD Radeon™ 610M1
グラフィックスCU数21
グラフィックス周波数最大 1900 MHz1
PCIeバージョンPCIe® 3.0 (x4 利用可能)1

ベンチマークによる性能評価

各種ベンチマークテストの結果から、AMD Ryzen 5 7520Cの性能特性を評価します。なお、7520Cは主にChromebookに搭載されるため、情報が限られる場合があります。そのため、基本的なハードウェア仕様が同一である姉妹モデルRyzen 5 7520Uのスコアも参考に、性能レベルを推定します 9

CPU性能

Ryzen 5 7520C(および7520U)のベンチマークスコアは、ChromebookやエントリークラスのノートPCとしては十分な性能を示しています。特に4コア8スレッド構成によるマルチコア性能は、同クラスのプロセッサと比較して強みとなります。

  • Cinebench:
  • Cinebench R23 (Multi-Core): 7520Cを搭載したプロトタイプ機で約5117ポイントという記録があります 17。姉妹モデルの7520Uでは、テスト環境により約5149ポイント 15 から5310ポイント 19 まで幅が見られますが、概ね5100~5300ポイントの範囲と考えられます。これは、旧世代のIntel Core i3/i5モバイルCPUや、同世代で下位のRyzen 3 7320U/C(Cinebench R23 Multiで約4413ポイント 16)を上回るスコアです。
  • Cinebench R23 (Single-Core): 7520Uでのスコアは約1113~1171ポイントです 15。これは、Intel Core i3-1215U(約1581ポイント 21)のような新しいアーキテクチャを採用したCPUと比較すると低い値であり、Zen 2アーキテクチャのシングルスレッド性能の限界を示しています。
  • Geekbench:
  • Geekbench 6 (Multi-Core): ASUS Chromebook CM34 Flip (7520C搭載) で3834ポイントという報告があります 13。7520Uでは約2744ポイント 16 から4479ポイント 19 まで、テスト環境や測定ツールによってばらつきが見られますが、3000点台後半から4000点台前半が一般的な性能レベルと推測されます。これは、Intel Core i3-1315U 22 やCore i3-1215U 21 には及ばないものの、Chromebookでの一般的なマルチタスクには十分な性能を示唆しています。
  • Geekbench 6 (Single-Core): ASUS Chromebook CM34 Flip (7520C搭載) で1237ポイント 13。7520Uでは約797ポイント 16 から1415ポイント 19 と、こちらもばらつきが大きいですが、1200~1400ポイント程度が中心的な値と考えられます。ここでもZen 2コアの特性が現れており、最新コア(例: Core i3-1315Uで約1989ポイント 22)と比較すると大きな差があります。
  • Geekbench 5 (Multi-Core): AMDは、下位モデルのRyzen 3 7320Cが旧世代のRyzen 3 3250Cと比較してGeekbench 5 Multi-Coreで135%性能が向上したと主張しています 23。Ryzen 5 7520Cも同様の世代間性能向上が期待できます。7520Uでは約3968ポイントの記録があります 16
  • PassMark:
  • CPU Mark (Multi-Core): 7520Uのスコアは約9149ポイントです 14。これは、Intel Core i5-1135G7(約9617ポイント 14)やCore i7-1165G7(約10060ポイント 14)よりはやや低いものの、Core i5-10300H(約8289ポイント 14)よりは高く、下位モデルのRyzen 3 7320C(約8265ポイント 14)よりは明確に高性能です。
  • Single Thread Rating: 7520Uのスコアは約2443ポイントです 14。これも最新世代のCPUと比較すると低い値です。

これらのベンチマーク結果から、Ryzen 5 7520Cの性能特性が見えてきます。4コア8スレッドの設計は、Chromebookで一般的な複数のウェブタブを開いたり、バックグラウンドでアプリケーションを実行したりするようなマルチタスク処理において、十分な並列処理能力を提供します 1。15WというTDP枠内で6nmプロセスを採用していることも、熱的な制約の中で持続的なマルチコア性能を発揮するのに寄与しています。一方で、基盤となるZen 2アーキテクチャのIPC(クロックあたりの命令実行数)は、Intelの第12世代/第13世代CoreプロセッサやAMD自身のZen 3/Zen 4といった新しい設計と比較して低いです。そのため、最大4.3GHzという高いブーストクロック 1 を持っていても、シングルスレッド性能が重視されるタスク(アプリケーションの起動、複雑なウェブページのレンダリングなど)においては、より新しいCPUほどの機敏さは感じられない可能性があります。結論として、Ryzen 5 7520Cは、その電力バジェット内で良好なマルチスレッド処理能力を提供するように最適化されており、典型的なChromebookのマルチタスク用途には十分対応可能です。しかし、シングルスレッド性能を最重視するユーザーは、より新しいアーキテクチャを持つCPUとの比較を検討する必要があります。

内蔵グラフィックス性能 (Radeon 610M)

Radeon 610Mは、アーキテクチャこそ最新のRDNA 2世代ですが、搭載されているCU(Compute Unit)がわずか2基であるため、その3Dグラフィックス性能は非常に限定的です 1

  • 3DMark:
  • Time Spy (Graphics Score): 複数のテスト結果を平均すると約593ポイント、範囲としては261~779ポイント程度です 24。LaptopMediaのテストでは537~554ポイントと報告されています 26。これは、Intel UHD Graphics(例: UHD Graphics 600 27)よりは高性能ですが、Intel Iris Xe Graphics(80 EU搭載モデルなど 24)や、より多くのCUを持つ上位のRadeon内蔵グラフィックス(例: Ryzen 5 8600GのRadeon 760Mは8 CU 8)には大きく劣ります。
  • Wild Life Extreme (Unlimited Score): 約1041~1078ポイントという記録があります 26。ただし、ASUS Chromebook CM34 Flip (7520C搭載) では707ポイントという報告もあり 13、テスト環境やドライバによる影響が大きい可能性があります。
  • ゲーム性能:
  • Team Fortress 2、League of Legends、Rocket League、World of Tanksといった比較的負荷の軽いゲームであれば、グラフィック設定を低くすることでプレイ可能です 28
  • Grand Theft Auto V(GTA V)が、Normal(標準)設定で平均約44 FPSで動作したという報告もあります 28。これは、このクラスの内蔵グラフィックスとしては健闘していると言えます。

Radeon 610MがRDNA 2アーキテクチャを採用しながらも2 CU構成に留まっている理由は、性能とコスト、消費電力のバランスにあると考えられます。RDNA 2は、旧世代のVegaアーキテクチャと比較して電力効率や、最新のビデオコーデック対応、ディスプレイ出力機能 1 などで優れています。しかし、CU数を大幅に削減することで、3D描画性能と引き換えにダイサイズ(チップ面積)と消費電力を大幅に抑制し、Mendocinoプラットフォームの15W TDP枠 1 とターゲットコストに適合させています。この限られたCUを効果的に動作させるためには、LPDDR5メモリの高帯域幅 1 が不可欠です。したがって、Radeon 610Mは、ChromeOSのデスクトップ表示や動画再生支援を効率的に行うことを主目的として設計されており、本格的な3Dゲームやグラフィック制作には適していません。7520C搭載デバイスを選択する際には、3Dグラフィックス性能に大きな期待は禁物です。

表2: Ryzen 5 7520C / 7520U ベンチマークスコア概要 (代表値)

ベンチマークRyzen 5 7520C / 7520U スコア (概算)出典例
Cinebench R23 (Multi-Core)約 5100 – 5300 ポイント17
Cinebench R23 (Single-Core)約 1100 – 1200 ポイント15
Geekbench 6 (Multi-Core)約 3800 – 4400 ポイント*13
Geekbench 6 (Single-Core)約 1200 – 1400 ポイント*13
PassMark CPU Mark (Multi)約 9150 ポイント14
PassMark Single Thread約 2440 ポイント14
3DMark Time Spy (Graphics)約 500 – 600 ポイント25

* Geekbench 6のスコアはテスト環境によるばらつきが大きいため注意。

競合プロセッサとの性能比較

AMD Ryzen 5 7520Cの性能を、同クラスの低消費電力プロセッサと比較し、その位置づけを明確にします。

対 Intel Core i3/i5 (低消費電力モデル)

  • vs Intel Core i3-N305 (Alder Lake-N, 8 E-core/8 thread): PassMark CPU Markでは、7520U (約9149) はi3-N305 (約9843) よりやや低いスコアです 14。Cinebench R23 Multi-Coreでは、7520C/U (約5100-5300) はi3-N355 (N305相当と推定、約5262) と同等レベルです 17。E-core主体のため、シングルコア性能は7520C/Uが有利な可能性があります。
  • vs Intel Core i3-1125G4 (Tiger Lake, 4C/8T): Cinebench R23 Multi-Coreでは、7520C (約5117) とi3-1125G4 (約5100) はほぼ同等の性能です 17
  • vs Intel Core i5-1135G7 (Tiger Lake, 4C/8T): Cinebench R23 Multi-Coreでは、7520C (約5117) はi5-1135G7 (約6178) に劣ります 17。PassMark CPU Markでも7520U (約9149) はi5-1135G7 (約9617) より低いです 14。内蔵グラフィックス性能(Iris Xe 80EU)もi5-1135G7が大幅に上回ります。
  • vs Intel Core i3-1215U (Alder Lake, 2 P-core + 4 E-core / 8 thread): Cinebench R23 Multi-Coreでは、7520U (約5149) はi3-1215U (約5802) より低いです 21。特にGeekbench 6 Single-Coreでは、7520U (約1270) に対してi3-1215U (約2184) と大差がついており、P-coreの優位性が顕著です 21。PassMark CPU Markでも7520U (約9149) はi3-1215U (約10630) に劣ります 14
  • vs Intel Core i3-1315U (Raptor Lake, 2 P-core + 4 E-core / 8 thread): Geekbench 6 Single-Coreで、7520U (約1270) に対してi3-1315U (約1989) と大差があります 22。マルチコア性能においても、i3-1315Uが上回る可能性が高いです。

対 他のRyzen C/Uシリーズ

  • vs Ryzen 3 7320C (Mendocino, 4C/8T, 2.4-4.1 GHz): 7520Cはベースクロック、ブーストクロック共に高いため、性能で上回ります。PassMark CPU Markでは、7520U (約9149) が7320C (約8265) より約10%高いスコアです 14。AMDの主張によれば、7320C自体が旧世代の3250Cから大幅に性能向上しており 23、7020 Cシリーズ全体で性能の底上げが図られています。
  • vs Ryzen 5 7520U (Mendocino, 4C/8T, 2.8-4.3 GHz): 基本的なハードウェア仕様は同一であり 10、ベンチマークスコアもほぼ同等です 17。7520CはChromeOS環境に特化した最適化が施されている可能性がありますが 1、基本的な性能差は小さいと考えられます。
  • vs Ryzen 3 5300U (Lucienne, Zen 2, 4C/8T, 2.6-3.8 GHz): Cinebench R23 Multi-Coreでは、7520U (約5310) は5300U (約5582) よりわずかに低いスコアです 19。製造プロセス(6nm vs 7nm)とメモリ(LPDDR5 vs DDR4/LPDDR4X)の違いが影響している可能性があります。
  • vs Ryzen 5 5500U (Lucienne, Zen 2, 6C/12T, 2.1-4.0 GHz): 5500Uは6コア12スレッド構成のため、マルチコア性能では7520C/Uを大幅に上回ります。シングルコア性能ではクロックの高い7520C/Uが有利な場面もありますが、総合的なCPU性能では5500Uが格上です。

対 MediaTek Kompanioシリーズ

MediaTek Kompanioシリーズ(例: Kompanio 520 30)はARMアーキテクチャを採用しており、x86アーキテクチャのRyzen 5 7520Cとは直接的な性能比較が難しい側面があります。一般的に、Kompanioの上位モデルは優れた電力効率と良好な性能を提供しますが、Ryzen 5 7520Cの持つ8スレッドのマルチスレッド能力は、多くのKompanioプロセッサに対して、特に並列処理が求められる場面で有利に働く可能性があります。ASCII.jpのレビューでは、7520C搭載機がモバイルSoCであるSnapdragon 8 Gen 1相当のマルチコア性能(Geekbench 6)を示したとされていますが 13、これはあくまで特定のベンチマークにおける比較であり、PC向けCPUとの比較とは異なる文脈である点に注意が必要です。

Ryzen 5 7520Cの競争上の強みは、手頃な価格帯のChromebookで一般的な15W TDPクラスにおいて、SMTによる8スレッド処理能力を提供できる点にあります 1。これにより、IntelのE-coreのみで構成されるプロセッサや、4コア4スレッドのプロセッサと比較して、バックグラウンドタスクの処理や中程度のマルチタスクをよりスムーズにこなすことが期待できます。一方で、Intelの新しいハイブリッドアーキテクチャ(P-core + E-core)を採用したCore i3プロセッサは、より高いピークシングルコア性能と、場合によってはマルチコア性能も提供しますが、搭載製品の価格帯がやや高くなる可能性があります 21。また、旧世代のRyzen Uシリーズとの比較からは、Mendocino(7020シリーズ)が、7nmプロセスとDDR4メモリを組み合わせた一部のRyzen 4000/5000 Uシリーズが示したような絶対的なZen 2スループットよりも、6nmプロセスとLPDDR5メモリの組み合わせによる電力効率とコスト効率を優先していることが示唆されます。

結論として、Ryzen 5 7520CはミドルレンジのChromebook市場において競争力のある選択肢です。エントリーレベルのIntelチップや一部のARMベースKompanioチップに対する主な利点は、堅牢な8スレッドマルチタスク能力です。しかし、最高のシングルコア応答性やより高い総合性能を求めるユーザーは、予算が許せばIntelの新しいCore i3や、旧世代のRyzen 5/7 Uシリーズを搭載したデバイスも検討に値します。

表3: Ryzen 5 7520C vs 競合プロセッサ性能比較 (代表的ベンチマーク)

プロセッサ名コア/スレッドTDPCinebench R23 Multi (概算)Geekbench 6 Multi (概算)PassMark CPU Mark (概算)出典例
AMD Ryzen 5 7520C4 / 815W5100 – 53003800 – 4400(9150)13
AMD Ryzen 3 7320C4 / 815W(4400)826514
AMD Ryzen 5 7520U4 / 815W5100 – 53002700 – 4500914914
Intel Core i3-N3058 / 8 (E-core)15W(5200)984314
Intel Core i3-1125G44 / 815W510017
Intel Core i5-1135G74 / 815W6178961714
Intel Core i3-1215U6 / 8 (2P+4E)15W5802(5000+)1063014

()内は関連モデルや推定値。スコアはテスト環境により変動します。

実利用シーンにおけるパフォーマンス

ベンチマークスコアだけでなく、実際の利用シーンにおけるRyzen 5 7520C搭載Chromebookのパフォーマンスについて考察します。

ターゲット用途

Ryzen 5 7520Cは、Chromebookの典型的な用途において快適なパフォーマンスを提供するように設計されています。これには以下のようなものが含まれます:

  • ウェブブラウジング: 複数のタブを開いた状態でのブラウジング。
  • ドキュメント作成: Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドなどのオフィススイートの利用。
  • 動画視聴: YouTubeや各種ストリーミングサービスでのHD動画再生。
  • 軽度のマルチタスク: 上記のような複数のアプリケーションやタスクの同時実行 5

実際にASUSの製品レビューコメントでは、「日々の作業を効率よくこなせる」「マルチタスクもサクサクこなします」といった肯定的な評価が見られます 31。ASCII.jpのレビューでも、日常的な作業には十分な性能であると評価されています 13。ITmedia PC USERの記事でも、Ryzen 5 7520Cを搭載したASUS Chromebook CM34 Flipが紹介されており、コンバーチブル型としての利便性と共に、一般的な用途での快適な動作が期待できるモデルとして位置づけられています 32

Chromebook Plus 要件との関連

Googleが推進する「Chromebook Plus」は、従来のChromebookよりも高性能なハードウェアを備え、より高度な機能(例: AI機能、Adobe Photoshop on the webなど 5)を利用可能にすることを目的とした新しい基準です。この基準を満たすためには、CPU性能(AMD Ryzen 5000/7000シリーズまたはIntel Core i3 12th Gen以降)、8GB以上のRAM、128GB以上のストレージ、Full HD以上のディスプレイ解像度、1080p以上のWebカメラといった最低要件が定められています 5

Ryzen 5 7520CはこのCPU要件を満たしており 5、実際に「ASUS Chromebook Plus CM34 Flip」32 や「Acer Chromebook Plus 514」4 といったChromebook Plus認定モデルに採用されています。これは、Ryzen 5 7520Cが単なるエントリーレベルのCPUではなく、Chromebook Plusが目指す「より快適なユーザー体験」を実現するための重要な構成要素であることを意味します。特に、Chromebook Plusで必須とされる8GB以上のRAM 4 と組み合わせることで、7520Cの持つマルチタスク性能がより活かされ、従来のメモリ容量が少ないChromebookと比較して、より多くのタブやアプリケーションを同時に開いても動作が安定しやすくなります。

日本語レビューサイトからの評価

日本のテクノロジーレビューサイトや販売サイトからも、Ryzen 5 7520C搭載Chromebookに関する評価や情報が見られます。

  • ASCII.jp 13: ASUS Chromebook CM34 Flip(Ryzen 5 7520C搭載)のレビューで、Geekbench 6のスコア(Multi 3834, Single 1237)を提示し、これをSnapdragon 8 Gen 1相当のマルチコア性能と評価しています。日常的な作業には十分な性能であると結論付けています。
  • ビックカメラ.com 30: ASUS Chromebook CM34 Flip(Ryzen 5 7520C)を紹介するページで、「マルチモニター環境で効率よく作業したい方にもおすすめ」としています。これは、プロセッサの処理能力と、最大4画面出力に対応するRadeon 610Mのディスプレイ出力能力 1 を踏まえた評価と考えられます。
  • Office-Kabu.jp 33: ASUS Chromebook Plus CM34 Flip(Ryzen 5 7520C搭載モデルあり)をレビュー対象として取り上げており、Chromebook Plusとしての性能に注目しています。
  • Amazon.co.jp (ASUS CM3401FFAレビュー) 31: ユーザーレビューの抜粋として、「普段使いの作業(ウェブブラウジング、文書作成、ストリーミングなど)に十分なパフォーマンスを発揮してくれる」という肯定的な声が紹介されています。
  • ITmedia PC USER 32: ASUS Chromebook CM34 Flip(Ryzen 5 7520C)をレビュー対象機としてスペックを紹介し、その機能性に言及しています。

これらのレビューは、Ryzen 5 7520Cがターゲットとする用途において、ユーザーの期待に応える性能を提供していることを示唆しています。

バッテリー駆動時間

AMDは、Ryzen 7020 Cシリーズ全体として、最大19.5時間という長時間のバッテリー駆動時間を実現可能であると主張しています 3。これは、プロセッサ自体の省電力性(15W TDP、6nmプロセス)と、電力効率に優れたChromeOSとの組み合わせによるものです。

個別の製品例として、ASUS Chromebook CM34 Flip(Ryzen 5 7520C搭載、63Whバッテリー)のメーカー公称値は約13.5時間となっています 11。実際の駆動時間は使用状況(画面輝度、実行中のアプリケーション、Wi-Fi接続状況など)によって変動しますが、一日中の利用にも耐えうる、良好なバッテリー持続時間が期待できます。

まとめ

AMD Ryzen 5 7520Cは、Chromebook市場向けに、性能、電力効率、コストのバランスを考慮して設計されたプロセッサです。実績のあるZen 2アーキテクチャを、最新の6nm製造プロセスと高速なLPDDR5メモリで補強することにより、ターゲットとする利用シーンにおいて十分なパフォーマンスを提供します。

性能特性の要約

4コア8スレッド構成による良好なマルチタスク性能と、15W TDP設計および6nmプロセスによる優れた電力効率(結果として長時間のバッテリー駆動時間)が主な特徴です。一方で、シングルコア性能は最新のCPUアーキテクチャに劣り、内蔵グラフィックス(Radeon 610M)の3D性能も限定的です。しかし、これらはChromebookの主要な用途(ウェブブラウジング、ドキュメント作成、動画視聴など)においては、大きなボトルネックとはなりにくいレベルです。

長所

  • クラス内で競争力のあるマルチコア性能: 4コア8スレッドにより、マルチタスク処理に強い。
  • 優れた電力効率とバッテリー駆動時間: 6nmプロセス、15W TDP、LPDDR5メモリの組み合わせによる。
  • Chromebook Plus基準を満たす性能: より高性能なChromebook体験を実現。
  • 最新規格への対応: 高速なLPDDR5メモリ、HDMI 2.1やDisplayPort 1.4による多画面出力に対応。
  • コストパフォーマンス: 実績のあるZen 2コアの採用により、性能と価格のバランスが良い。

短所

  • 最新CPUに劣るシングルコア性能: Zen 2アーキテクチャのIPCの限界。
  • 限定的な内蔵グラフィックス性能: Radeon 610M (2 CU) は3Dゲームなどには不向き。
  • PCIe 3.0対応: 最新のPCIe 4.0/5.0には非対応。
  • 最大メモリ容量の制限: 16GBまで 1

ターゲットユーザーと最適な用途

Ryzen 5 7520Cを搭載したChromebookは、以下のようなユーザーや用途に最適です。

  • 標準的なエントリーレベルのChromebookよりも、より快適で高性能な動作を求めるユーザー。
  • ウェブブラウジング、Google WorkspaceなどのOffice系ウェブアプリ、動画視聴、オンライン会議などを中心に利用する学生やビジネスユーザー。
  • 複数のブラウザタブやアプリケーションを同時に開いて作業することが多い、マルチタスク重視のユーザー。
  • 外出先での利用が多く、バッテリー駆動時間を重視するユーザー。
  • Googleが推進する「Chromebook Plus」の機能や性能基準に関心のあるユーザー。

一方で、本格的なPCゲーム、高度な動画編集、CADソフトウェアの利用など、高いCPUおよびGPU性能を継続的に要求されるような重負荷な作業には適していません。

総じて、AMD Ryzen 5 7520Cは、ミドルレンジのChromebook市場において、優れたマルチタスク性能と長いバッテリー駆動時間を手頃な価格で提供する、競争力のあるプロセッサであると評価できます。

引用文献

  1. AMD 锐龙5 7520C, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.amd.com/zh-cn/products/processors/laptop/ryzen/7000-series/amd-ryzen-5-7520c.html
  2. AMD Ryzen™ 5 7520C, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.amd.com/en/products/processors/laptop/ryzen/7000-series/amd-ryzen-5-7520c.html
  3. 最大 19.5時間駆動に対応する Chromebook向け CPU、AMD「Ryzen/Athlon 7020 C」, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.gdm.or.jp/pressrelease/2023/0524/489770
  4. Acer Chromebook Plus 514 CBE574-1 – 14″ – AMD Ryzen 5 – 7520C – 16 GB RAM – 256 GB SSD – US – NX.KREAA.003 – Laptops – CDW.com, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.cdw.com/product/acer-chromebook-plus-514-cbe574-1-14-amd-ryzen-5-7520c-16-gb-ram/7845838
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  7. AMD、小さくて高効率なZen 4cが入ったモバイルCPU「Ryzen 5 7545U」、「Ryzen 3 7440U」, 4月 14, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1543844.html
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  10. AMD Ryzen™ 5 7520U, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.amd.com/ja/products/processors/laptop/ryzen/7000-series/amd-ryzen-5-7520u.html
  11. 【楽天市場】【期間限定特別セール価格】2in1ノートパソコン ChromeOS 14型 1920×1200 タッチパネル Ryzen 5 7520C メモリ 8GB SSD 128GB Webカメラ WiFi 6 Bluetooth 日本語キーボード ペン付属 ASUS Chromebook Plus CM34 Flip CM3401FFA-LZ0211, 4月 14, 2025にアクセス、 https://item.rakuten.co.jp/asus-store/a940ux4/
  12. AMD Ryzen 5 7520U: benchmarks and specs | NR – NanoReview, 4月 14, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/cpu/amd-ryzen-5-7520u
  13. ASUSのRyzen搭載爆速マシン「Chromebook Plus CM34 Flip」実機レビュー – ASCII.jp, 4月 14, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/183/4183715/
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  15. AMD Ryzen 5 7520U vs AMD Ryzen 5 7520C – Notebookcheck, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/R5-7520U-vs-R5-7520C_14609_15040.247596.0.html
  16. AMD Ryzen 5 7520U: Datasheet and benchmarks – Rankbench, 4月 14, 2025にアクセス、 https://rankbench.com/cpus/amd-ryzen-5-7520u
  17. AMD Ryzen 5 7520C – 仕様、テスト、比較、およびノートパソコンのオファー | LaptopMedia 日本, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/processor/amd-ryzen-5-7520c/
  18. AMD Ryzen 5 7520C – Specs, Benchmark Tests, Comparisons, and Laptop Offers, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/processor/amd-ryzen-5-7520c/
  19. AMD Ryzen 5 7520U – 仕様、テスト、比較、およびノートパソコンのオファー | LaptopMedia 日本, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/processor/amd-ryzen-5-7520u/
  20. AMD Ryzen 5 7520U – Specs, Benchmark Tests, Comparisons, and Laptop Offers, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/processor/amd-ryzen-5-7520u/
  21. Intel Core i3 1215U vs AMD Ryzen 5 7520U: performance comparison – NanoReview, 4月 14, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/cpu-compare/intel-core-i3-1215u-vs-amd-ryzen-5-7520u
  22. Intel Core i3 1315U vs AMD Ryzen 5 7520U: performance comparison – NanoReview, 4月 14, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/cpu-compare/intel-core-i3-1315u-vs-amd-ryzen-5-7520u
  23. AMD Brings Zen 2 to 6nm Process With New Ryzen, Athlon Chromebook Chips, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.tomshardware.com/news/amd-ryzen-athlon-7020C-series-chromebook-chips
  24. AMD Radeon 610M vs Intel Iris Xe Graphics G7 80EUs – Notebookcheck, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.com/Radeon-610M-vs-Iris-Xe-G7-80EUs_11423_10395.247532.0.html
  25. AMD Radeon 610M GPU – Benchmarks and Specs – NotebookCheck.net Tech, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/AMD-Radeon-610M-GPU-Benchmarks-and-Specs.654293.0.html
  26. AMD Radeon 610M – スペック、テスト、比較、ノートPCのオファー | LaptopMedia 日本, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/video-card/amd-radeon-610m/
  27. AMD Radeon 610M vs Intel UHD Graphics 600 – Notebookcheck, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/Radeon-610M-vs-UHD-Graphics-600_11423_8272.247598.0.html
  28. AMD Radeon 610M、ベンチマークを含む26本のゲームプレイ動画に登場 – LaptopMedia, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/highlights/amd-radeon-610m-in-26-gameplay-videos-with-benchmarks/
  29. AMD Ryzen 7 5825C vs AMD Ryzen 5 7520C – Notebookcheck, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/R7-5825C-vs-R5-7520C_14392_15040.247596.0.html
  30. 【2025年】Chromebookのおすすめ11選 2in1などの人気モデルを紹介 | ビックカメラ.com, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.biccamera.com/bc/i/topics/osusume_chromebook/index.jsp
  31. Amazon.co.jp: ASUS Chromebook plus クロームブックプラス CM34 Flip 14型 タブレットモード タッチスクリーン 日本語キーボード 約1.85kg Ryzen 5 7520C カードリーダー ASUSペン付き CM3401FFA-LZ0211/A, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.amazon.co.jp/ASUS-Chromebook-%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9-%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%89-CM3401FFA-LZ0211/dp/B086ZSH6BL
  32. 「Chromebook Plus」って何だ? 「Chromebook」とは何が違う? ASUS JAPANの新モデルを試す(2/3 ページ) – ITmedia PC USER, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2403/01/news147_2.html
  33. [かぶ] ASUS Chromebook Plus CM34 Flip (CM3401) レビュー。パワーよりFlipやペン対応を重視したい方向け。, 4月 14, 2025にアクセス、 https://office-kabu.jp/chromebook/review-asus-cb-plus-cm3401-flip-01
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