1. はじめに
AMD Ryzen 7 5825Uは、薄型軽量ノートPCや近年注目を集めるミニPC市場を主眼に置いて開発されたモバイル向けプロセッサーです。このプロセッサーは、高い評価を得ているAMDの「Zen 3」マイクロアーキテクチャを基盤とし、8つのCPUコアと16のスレッド処理能力を備えています。これにより、複数のタスクを同時に処理するマルチタスク性能と、モバイルデバイスに不可欠な電力効率の良好なバランスを実現している点が大きな特徴です 1。Ryzen 7 5825Uは2022年初頭に市場に投入され 3、既存のRyzen 5000モバイルシリーズのラインナップを拡充・補完するモデルとして位置づけられています。
本レポートは、主に日本語の技術レビューサイト、ベンチマークデータベース、ユーザーレビューなどのウェブ情報を中心に収集・分析し、AMD Ryzen 7 5825Uの技術的な詳細、各種ベンチマークテストにおける性能、競合となるIntelプロセッサーやAMDの前世代モデルとの比較、内蔵されているRadeonグラフィックスの能力、そして実際のコンピューティングシーンにおける使用感について深く掘り下げます。さらに、これらの分析結果に基づき、Ryzen 7 5825Uがどのような用途やユーザー層に最適であるかを考察します。各セクションでは、客観的なデータと、そこから導き出される分析的洞察を提示することを目的とします。
2. 技術仕様
AMD Ryzen 7 5825Uの性能と特性を理解する上で、その基盤となる技術仕様の把握は不可欠です。以下に主要なスペックを詳述します。
- アーキテクチャと製造プロセス:
- Ryzen 7 5825Uは、前世代のZen 2からIPC(クロックサイクルあたりの命令実行数)を大幅に向上させたAMDの「Zen 3」マイクロアーキテクチャを採用しています 3。このアーキテクチャは、既に多くの製品でその高性能と効率性が証明されています。
- 開発コードネームは「Barcelo」と呼ばれており 3、これは先行する「Cezanne」アーキテクチャ(Ryzen 7 5800Uなど)をベースとしたリフレッシュ版にあたります。基本的な設計思想は共通していますが、製造プロセスの成熟や微細な最適化が加えられている可能性があります。この戦略は、AMDがZen 3アーキテクチャの成功を背景に、次世代(Zen 4)への移行期間においても、実績のある設計を再活用して製品ラインナップを維持・強化するために採用されました。Barceloは、Cezanneの設計を流用しつつ、わずかなクロック向上などの最適化を行うことで、開発コストを抑制しながら迅速な市場投入を可能にし、Intelの第12世代(Alder Lake)が登場する中でも、ミドルレンジ市場で8コア/16スレッド製品を提供し続けることを可能にしました。
- 製造プロセスには、台湾のファウンドリTSMCが提供する7nmプロセス技術が用いられています 3。この微細プロセスは、プロセッサーの性能密度と電力効率のバランスを高める上で重要な役割を果たしています。
- コア構成とクロック周波数:
- 物理的なCPUコアを8基搭載し、AMD Simultaneous Multithreading (SMT) 技術により、最大16個の論理スレッドを同時に処理することが可能です 1。これにより、特に複数のアプリケーションを同時に実行するようなマルチタスク環境において高い処理能力を発揮します。
- 基本的な動作周波数であるベースクロックは2.0 GHzに設定されていますが、プロセッサーの負荷状況や冷却状態に応じて、最大で4.5 GHzまでクロック周波数を自動的に引き上げるブースト機能に対応しています 1。
- キャッシュ:
- CPUコアが高速にデータアクセスを行うための中間記憶領域であるキャッシュメモリは、L2キャッシュが各コアに512KB(合計4MB)、L3キャッシュが全コアで共有する形で16MB搭載されています 1。十分なキャッシュ容量は、データアクセスのボトルネックを軽減し、特にマルチスレッド処理や一部のゲーム性能に好影響を与えます。
- TDP (Thermal Design Power):
- プロセッサーの標準的な熱設計電力(TDP)は15Wに設定されています 3。これは、薄型軽量ノートPCで一般的に採用される値であり、バッテリー駆動時間とパフォーマンスのバランスを重視した設計です。
- ただし、搭載されるデバイスの冷却設計によっては、より高いパフォーマンスを発揮させるために、設定可能TDP (cTDP) として最大25Wまで構成することが可能です 3。
- 実際に、一部のミニPC製品では、筐体の冷却能力に合わせて、メーカー側で最大消費電力が30W前後に制限されている例も報告されています 8。
- メモリとPCIe:
- メモリは、デュアルチャネル構成のDDR4-3200規格、または省電力版のLPDDR4x-4267規格に対応しています 1。デュアルチャネル構成にすることで、メモリ帯域幅が向上し、CPUおよび内蔵グラフィックスの性能を最大限に引き出すことができます。
- NVMe SSDやグラフィックカードなどの拡張コンポーネントとの接続には、PCI Express Gen 3.0インターフェースが使用されます 3。これは、Ryzen 7 5825Uの基盤となるCezanne/Barceloプラットフォームが元々PCIe 3.0世代の設計であるためです。リフレッシュモデルとして開発期間短縮やコスト抑制を優先した結果、PCIe世代のアップグレードは見送られました。最新のPCIe 4.0対応NVMe SSDを使用した場合、その理論上の最大転送速度を発揮することはできませんが、一般的なノートPCの用途(オフィスワーク、ウェブブラウジング、軽度のクリエイティブ作業など)においては、PCIe 3.0の帯域幅でも十分高速であり、体感上の性能差は限定的と考えられます。
- 内蔵グラフィックス (iGPU):
- CPUダイには、「AMD Radeon Graphics」と呼ばれる内蔵グラフィックス機能が統合されています 1。これは実績のあるVegaアーキテクチャをベースとしており、8つのグラフィックス演算ユニット(Compute Units)を備えています 1。グラフィックスの動作周波数は、製品の実装により若干異なる可能性がありますが、最大で1900 MHz 10 または 2000 MHz 6 と報告されています。詳細な性能については、「6. 内蔵グラフィックス性能」セクションで後述します。
表1: AMD Ryzen 7 5825U 技術仕様一覧
項目 | 仕様 | 出典例 |
プロセッサー名 | AMD Ryzen™ 7 5825U | 1 |
コードネーム | Barcelo | 3 |
アーキテクチャ | Zen 3 | 3 |
製造プロセス | TSMC 7nm | 3 |
コア数 / スレッド数 | 8コア / 16スレッド | 1 |
ベースクロック | 2.0 GHz | 1 |
最大ブーストクロック | 最大 4.5 GHz | 1 |
L2キャッシュ | 4MB (512KB/コア) | 5 |
L3キャッシュ | 16MB (共有) | 1 |
標準TDP | 15W | 3 |
設定可能TDP | 15-25W | 3 |
対応メモリ | DDR4-3200 (デュアルチャネル), LPDDR4x-4267 (デュアルチャネル) | 1 |
PCIe世代 | Gen 3.0 | 3 |
内蔵グラフィックス | AMD Radeon™ Graphics (Vega 8 アーキテクチャ, 最大1900/2000 MHz) | 1 |
3. ベンチマーク性能分析
プロセッサーの絶対的な性能を客観的に評価するためには、標準化されたベンチマークテストのスコアが重要な指標となります。ここでは、主要なベンチマークにおけるRyzen 7 5825Uのスコアと、そこから読み取れる性能特性について分析します。
- 主要ベンチマークスコア:
- Geekbench 5: CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定する一般的なベンチマークです。Ryzen 7 5825Uのシングルコアスコアは、Geekbench Browserのデータによると約1721点とされています 11。これは多くのモバイル向けRyzenプロセッサーと比較しても良好なスコアですが、最新世代のハイエンドCPUや、特定の競合製品(後述)には及ばない場合があります。マルチコアスコアについては、同サイトのリストには直接的な平均値が見当たりませんが、他の情報源では約5,500点から6,000点程度が示唆されており 12、8コア16スレッド構成の恩恵を受けて高いスコアを示すことが期待されます。
- Cinebench R23: 3Dレンダリング処理を通じてCPUのマルチコア性能を測定するベンチマークであり、特にクリエイティブな作業における性能指標として重視されます。日本語レビューサイトLaptopmedia.com JPの比較記事によると、Ryzen 7 5825Uを搭載したASUS Zenbook 14は、マルチコアテストで10230点を記録しました 9。これは、比較対象とされたIntel Core i7-1255U搭載機(MSI Modern 15)のスコア9317点を上回っており、純粋なCPUレンダリングタスクにおけるRyzen 7 5825Uのマルチスレッド性能の高さを明確に示しています。
- PassMark CPU Mark: CPUの総合的な性能を評価するベンチマークスイートです。PassMarkのウェブサイトにおける比較データでは、Ryzen 7 5825Uは競合のIntel Core i7-1255Uよりも高いスコアを示す傾向が見られます 7(スコアはデータベースの更新により変動するため、参照時点での確認が必要です)。また、前世代にあたるRyzen 7 5800Uのスコアも公開されており 13、Ryzen 7 5825Uも同等レベルの総合性能を持つと推測されます。
- 性能特性:
- マルチコア性能: 8コア16スレッドという構成は、Ryzen 7 5825Uの最大の強みの一つです。これにより、動画エンコード、3D CGレンダリング、仮想マシンの実行、あるいは多数のアプリケーションを同時に起動して行うマルチタスク処理において、優れたパフォーマンスを発揮します。Cinebench R23の結果 9 や、実際の使用感に関するレビュー 8 は、このマルチコア性能の高さを裏付けています。
- シングルコア性能: 一方、単一のコア(スレッド)の性能に依存するタスクにおけるパフォーマンス、すなわちシングルコア性能については、Geekbench 5のスコア 11 や競合製品との比較 9 から、良好なレベルではあるものの、同時期に登場したIntelの第12世代Coreプロセッサー(Alder Lake)が持つ高性能コア(P-core)のような、クラス最高の性能には達していない可能性があります。これは、ウェブページの読み込み速度、アプリケーションの起動時間、古いゲームなど、シングルスレッド性能がボトルネックとなりやすい場面で、わずかながら体感差として現れる可能性があります。
このマルチコア性能とシングルコア性能の特性差は、両プロセッサーの設計思想の違いに起因します。Ryzen 7 5825Uは、8つの同等な高性能Zen 3コアを搭載し、すべてのコアが高負荷処理を分担するマルチスレッドタスクで性能を発揮するように設計されています。対照的に、Intel Core i7-1255Uは、2つの高性能なPコアと8つの高効率なEコアを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを採用しています 9。Pコアは非常に高いシングルスレッド性能を発揮するように特化されており、Eコアはマルチスレッド性能と電力効率を補助します。そのため、Cinebench R23のように全コアをフル活用するテストではRyzenが優位に立ちやすく 9、Geekbench 5 Single-Coreのように単一コアのピーク性能を測るテストではIntelが優位または拮抗する傾向が見られるのです 12。この違いは、ユーザーの主な用途によって、どちらのCPUがより適しているかが異なることを意味します。動画編集のエンコード、ソフトウェア開発におけるコンパイル、仮想環境の多重実行など、マルチスレッド処理の恩恵が大きい作業を主に行うユーザーにとっては、Ryzen 7 5825Uが魅力的な選択肢となるでしょう。一方で、ウェブブラウジングの機敏さ、オフィスソフトの素早い起動、シングルスレッド処理に依存する古いアプリケーションやゲームの快適性を最優先する場合には、Core i7-1255Uの方が有利な場面も考えられます。
表2: 主要ベンチマークスコア概要(代表値・比較)
ベンチマーク名 | Ryzen 7 5825U (代表値/出典例) | Core i7-1255U (代表値/出典例) | Ryzen 7 5800U (代表値/出典例) |
Cinebench R23 Multi | 10230 9 | 9317 9 | 約10000前後 (5825Uと同等) 15 |
Geekbench 5 Single | 約1721 11 | 約1500-1600 12 | 約1400-1500 (5825Uと同等) 13 |
Geekbench 5 Multi | 約5500-6000 12 | 約7000-8000 (推定) | 約8000前後 (5825Uと同等) 13 |
PassMark CPU Mark | 18000-19000台 (傾向) 7 | 16000-17000台 (傾向) 7 | 約18300 13 |
注意: ベンチマークスコアはテスト環境(メモリ、冷却、OS設定など)やバージョンによって変動します。上記は各出典から得られた代表的な値または傾向を示すものです。
4. 競合プロセッサーとの比較
Ryzen 7 5825Uの市場における位置づけを正確に理解するためには、主要な競合製品との比較が不可欠です。ここでは、特に同世代・同クラスのIntel製プロセッサーとの比較を行います。
- 対 Intel Core i7-1255U:
- アーキテクチャ: 最大の比較ポイントはアーキテクチャの違いです。Ryzen 7 5825Uが8つの高性能コア(Zen 3)を搭載するのに対し、Core i7-1255UはIntelのハイブリッドアーキテクチャ(Alder Lake-U)を採用し、2つの高性能コア(P-core)と8つの高効率コア(E-core)を搭載、合計10コアで12スレッドを処理します 9。この根本的な設計思想の違いが、性能特性に大きく影響します。
- マルチコア性能: 前述の通り、Cinebench R23のような全コアを使用するベンチマークでは、8つのフル性能コアを持つRyzen 7 5825Uが、Core i7-1255U(2P+8E)に対して優位性を示す傾向があります 9。PassMarkの総合スコアでも同様の傾向が見られます 7。
- シングルコア性能: 一方、Geekbench 5 Single-Coreなどのテストでは、Core i7-1255UのPコアが高いIPC(クロックあたりの命令実行数)と高いブーストクロックを発揮するため、Ryzen 7 5825Uを上回るスコアを記録することが多いです 12。
- グラフィックス: 内蔵グラフィックスは、Ryzen 7 5825UがAMD Radeon Graphics (Vega 8)、Core i7-1255UがIntel Iris Xe Graphics G7 (96EU) です 9。一般的には、Iris Xeの方が若干高いグラフィックス性能を持つと評価されることが多いですが、実際のアプリケーションやゲームにおける性能は、ドライバの最適化状況にも左右されます(詳細はセクション6参照)。
- その他: L3キャッシュ容量はRyzen (16MB) の方がCore i7 (12MB) より大きいですが、L1/L2キャッシュの合計ではCore i7の方が多い構成です 7。また、Core i7-1255Uは最新のDDR5メモリに対応していますが、Ryzen 7 5825UはDDR4までの対応です 9。標準TDPは両者とも15Wと同じです 9。PCIe世代はRyzenがGen 3、Core i7はGen 4に対応しています。
- 情報源: これらの比較情報は、Laptopmedia.com JP 9、Geekbench 11、PassMark 7、nanoreview.net 16 など、複数の技術情報サイトで確認できます。特にLaptopmedia.com JP 9 は具体的なテスト結果として、3Dレンダリング(Cinebench R23)ではRyzen 7が15%高速である一方、Adobe Photoshopの処理ではCore i7がわずかに(0.7秒差で)高速であったと報告しており、タスクによって得意不得意があることを示唆しています。
- 対 Intel Core i7-1195G7 (旧世代):
- Intelの第11世代Coreプロセッサー(Tiger Lake)の上位モデルであるCore i7-1195G7と比較した場合、Ryzen 7 5825Uは特にマルチコア性能において明確なアドバンテージを持ちます。Core i7-1195G7は4コア/8スレッド構成であり、Ryzen 7 5825Uの8コア/16スレッド構成との物理的なコア数の差が、マルチスレッド処理能力の大きな差となって現れます。Laptopmedia.com JP 17 でも両者の比較に関する言及が見られます。
これらの比較から、Ryzen 7 5825Uの市場における立ち位置が見えてきます。Intelの同世代(第12世代Alder Lake)Uシリーズ最上位であるCore i7-1255Uに対して、Ryzen 7 5825Uはマルチコア性能で強みを発揮するものの、シングルコア性能やDDR5メモリ、PCIe 4.0といった最新プラットフォーム機能への対応では譲る部分があります 3。これは、AMDがZen 3という強力なコアアーキテクチャを8つ搭載することでマルチスレッド性能を重視するユーザー層に訴求し、一方でIntelがハイブリッドアーキテクチャと最新規格への対応で対抗した結果と言えます。結果的に、Ryzen 7 5825Uは「実績のある強力なマルチコア性能を、比較的安価なプラットフォーム(DDR4, PCIe 3.0)で提供する」という、コストパフォーマンスに優れたポジションを確立しました。これは、特にマルチタスク処理や特定のクリエイティブ作業(レンダリングなど)を多用し、かつコストを重視するユーザーにとって非常に魅力的な選択肢となります。一方で、あらゆる場面での最高の応答性や、最新技術への対応を最優先するユーザーは、Intelのプラットフォームを選択する可能性があります。Ryzen 7 5825U搭載ノートPCやミニPCは、しばしば同等のCore i7-1255U搭載機よりも価格競争力があるケースが見られ、ユーザーは自身の主な用途(マルチスレッド重視か、シングルスレッド/最新規格重視か)と予算を天秤にかけて、最適なCPUを選択することになります。5825Uは、いわば「枯れた技術」の安定性とコストメリット、そして依然として強力なマルチコア性能を両立させた、実用性の高い選択肢と言えるでしょう。
表3: Ryzen 7 5825U vs. Core i7-1255U 比較
項目 | Ryzen 7 5825U | Core i7-1255U |
アーキテクチャ | Zen 3 | Alder Lake-U (Hybrid: P-core + E-core) |
コア / スレッド | 8 / 16 | 10 (2P + 8E) / 12 |
ベース / ブーストクロック | 2.0 GHz / 最大 4.5 GHz | 1.7 GHz (P) / 1.2 GHz (E) / 最大 4.7 GHz (P) |
L3キャッシュ | 16MB | 12MB |
標準TDP | 15W | 15W |
iGPU | AMD Radeon Graphics (Vega 8) | Intel Iris Xe Graphics G7 (96EU) |
PCIe世代 | Gen 3.0 | Gen 4.0 |
対応メモリ | DDR4-3200, LPDDR4x-4267 | DDR5-4800, LPDDR5-5200, DDR4-3200, LPDDR4x-4267 |
ベンチマーク比較 | ||
Cinebench R23 Multi | 優位 9 | – |
Geekbench 5 Single | – | 優位傾向 12 |
Geekbench 5 Multi | 拮抗または用途による (コア構成差) | 拮抗または用途による (コア構成差) |
5. AMDプロセッサーラインナップ内での比較
Ryzen 7 5825Uを評価する上で、AMD自身の他のモバイルプロセッサーとの比較も重要です。特に、直接の前世代モデルや、同じアーキテクチャをベースとする他のモデルとの関係性を理解することで、その位置づけがより明確になります。
- 対 Ryzen 7 5800U (前世代/同世代Cezanne):
- 基本仕様: Ryzen 7 5800Uは、Ryzen 7 5825Uの直接的な先行モデルにあたります。両者は、アーキテクチャ(Zen 3)、コア/スレッド数(8コア/16スレッド)、L3キャッシュ容量(16MB)といった基本的な仕様において、ほぼ同一です 1。開発コードネームは異なりますが(5825U: Barcelo, 5800U: Cezanne)3、これは実質的に同じ設計のリフレッシュ版であることを示唆しています。最大ブーストクロックが5800Uの4.4GHzに対して5825Uは4.5GHzへとわずかに向上している点が、仕様上の主な違いです 1。
- 性能差: この仕様の類似性から、両者の実際の性能差は非常に小さい、あるいはほとんど無視できるレベルであると広く認識されています 14。Laptopmedia.com JPの比較記事 15 では、テストによってはわずかに5800Uが優位な結果(Cinebench 20で12%差、Photoshopで0.3秒差)も報告されていますが、これは特定のテスト条件下での結果や、テストに使用されたデバイスの個体差(冷却性能、メモリ速度など)の影響も考えられ、一貫して5825Uが劣るというわけではありません。実際に、Amazon.co.jpのユーザーレビューでは「性能差は殆ど無いみたいなのでこれはこれでよかった」といった声も見られます 14。PassMarkのCPU Markスコア比較でも、両者は非常に近い値を示しています 7。
- 消費電力: 電力効率に関しても、両者に大きな差はないと考えられます。PC Watchの記事 19 では、Ryzen 7 5800Uがその前の世代であるRyzen 7 4800Uよりも平均消費電力が改善されている可能性に言及しており、同じZen 3アーキテクチャと7nmプロセスを採用する5825Uも、同等の優れた電力効率を持つと期待されます。
- 位置づけ: 結論として、Ryzen 7 5825UはRyzen 7 5800Uのマイナーチェンジまたはリフレッシュ版であり、技術的なブレークスルーではありません。市場では一時期、両モデル搭載製品が併売されていました。そのため、ユーザーがどちらのCPUを搭載した製品を選ぶかは、CPU単体のわずかな性能差よりも、搭載されるノートPCやミニPC全体の価格、メモリ容量、ストレージ性能、ディスプレイ品質、バッテリー駆動時間といった他の要素が、より重要な判断基準となります。
- 対 Ryzen 7 7730U (後継/Barcelo-R):
- Ryzen 7 7730Uは、Ryzen 7 5825Uのさらにリフレッシュ版にあたるプロセッサーで、コードネームは「Barcelo-R」とされています 4。これも基本アーキテクチャはZen 3であり、コア数、スレッド数、キャッシュ容量などの主要な仕様は5825Uと酷似しています 11。Geekbench 5のシングルコアスコアを見ると、7730U(1636点)が5825U(1721点)よりも若干低いスコアを示しているデータもありますが 11、これは測定誤差やテスト環境の違いによる可能性が高く、実質的な性能差は5800Uと5825Uの関係と同様に、非常に小さいと考えられます。新しい7000番台のモデルナンバーが付与されていますが、アーキテクチャ的には同世代のリフレッシュという位置づけです。
この5800Uから5825U、そして7730Uへと続く流れは、AMDがZen 3という非常に成功した8コア設計を長期間にわたって活用し、マイナーチェンジを繰り返しながら市場に供給し続けた戦略の現れです 4。Zen 3アーキテクチャは、特にマルチコア性能と電力効率のバランスにおいて高い評価を得ていました。AMDは、新しいアーキテクチャ(Zen 4以降)をハイエンド製品や新しいプラットフォーム(DDR5対応など)に投入する一方で、既存のZen 3設計をリフレッシュすることで、メインストリームおよびバリューセグメント(価格重視の市場)の需要に応え続けました。この戦略により、開発リソースを効率的に配分しつつ、幅広い価格帯で競争力のある製品を提供することが可能になりました。モデルナンバーを変更することは、マーケティング上の「新しさ」をアピールする意図もあったと考えられます。ユーザーにとっては、モデルナンバーの数字が大きいからといって必ずしも性能が大幅に向上しているとは限らないため、製品を選択する際には、実際のアーキテクチャ(この場合はZen 3)とコア数、クロック周波数などの具体的な仕様を確認することが重要です。5800U、5825U、7730Uの間では、性能差よりも搭載デバイスの価格や付加機能で選ぶべき状況が多いと言えるでしょう。AMDのこの戦略は、実績のある優れた設計を最大限に活用し、市場の多様なニーズに応えるための現実的かつ効果的なアプローチであったと評価できます。
表4: Ryzen 7 5825U vs. Ryzen 7 5800U 比較
項目 | Ryzen 7 5825U | Ryzen 7 5800U |
コードネーム | Barcelo | Cezanne |
アーキテクチャ | Zen 3 | Zen 3 |
コア / スレッド | 8 / 16 | 8 / 16 |
ベース / ブーストクロック | 2.0 GHz / 最大 4.5 GHz | 1.9 GHz / 最大 4.4 GHz |
L3キャッシュ | 16MB | 16MB |
標準TDP | 15W | 15W |
iGPU | AMD Radeon Graphics (Vega 8) | AMD Radeon Graphics (Vega 8) |
ベンチマーク比較 | ||
Cinebench R23 Multi | 性能差は小さい 15 | 性能差は小さい 15 |
Geekbench 5 Single | 性能差は小さい 13 | 性能差は小さい 13 |
Geekbench 5 Multi | 性能差は小さい 13 | 性能差は小さい 13 |
6. 内蔵グラフィックス性能
Ryzen 7 5825Uは、CPUコアと共に「AMD Radeon Graphics」と呼ばれる内蔵グラフィックスプロセッサー(iGPU)を同一のチップ上に搭載しています 1。これにより、別途グラフィックカードを追加することなく画面表示が可能です。
- 概要: この内蔵グラフィックスは、長年にわたりAMDのAPU(CPUとGPUを統合したプロセッサー)で採用されてきた「Vega」アーキテクチャに基づいています。具体的には、8つのグラフィックス演算ユニット(Compute Units, CUs)を搭載しており 1、「Vega 8」とも呼ばれます。グラフィックスコアの動作周波数は、最大で1900 MHz 10 または 2000 MHz 6 に達します。
- 性能評価:
- 日常タスク: ウェブブラウジング、オフィスソフト(Word, Excel, PowerPointなど)の利用、高解像度の動画ストリーミング再生 1、複数のモニターへの画面出力 20 といった、日常的なコンピューティングにおけるグラフィックスタスクは、全く問題なくスムーズにこなすことができます。
- 軽度のゲーム: ゲーム性能については、限定的です。YouTubeに投稿されたレビュー動画 8 によると、人気MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」のベンチマークテスト(フルHD解像度、軽量品質設定)では、スコア2400で「重い」という評価でした。また、人気バトルロイヤルゲーム「APEX Legends」のような比較的軽量な3Dゲームでも、グラフィック設定を最低レベルまで下げればプレイは可能ですが、フレームレートが不安定になりやすく、常時60FPSを維持するのは難しい場面もあるようです。より要求スペックの低い、いわゆる「軽い」ゲーム(例: League of Legends)であれば、設定次第で比較的快適に動作する可能性はありますが、「かなり軽いものじゃないと遊べないと思っておいた方が良さそう」との評価 8 もあり、過度な期待は禁物です。
- クリエイティブ作業: 写真編集ソフト(例: Photoshop, Lightroom)を使った画像編集作業は、ある程度快適に行うことが可能です 14。動画編集については、フルHD解像度程度の比較的単純な編集(カット、テロップ挿入など)であれば、実用的な速度で処理できる可能性が示唆されています。あるレビュー 8 では、約10分のフルHD動画の書き出しに約5分半かかったという例が挙げられており、これは一定の実用性を示しています。しかし、複雑なエフェクトを多用したり、4K解像度の動画を編集したりするには、性能不足となり、作業時間が長引いたり、プレビューがカクついたりする可能性が高いでしょう。
- 競合比較 (対 Intel Iris Xe):
- 競合となるIntel Core i7-1255Uなどに搭載されているIntel Iris Xe Graphics G7 (96EU) 9 と比較した場合、多くのベンチマークテストや実際のゲームタイトルにおいて、Iris Xeの方がやや優れた性能を示すことが多いと一般的に評価されています。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、特定のゲームやアプリケーション、あるいはドライバのバージョンや最適化状況によっては、Radeon Vega 8が同等か、わずかに上回るケースも存在し得ます。Vega 8も依然として一定水準の性能を持っており、用途によっては十分な能力を発揮します。
総じて、Ryzen 7 5825Uに内蔵されたRadeon Vega 8グラフィックスは、日常的なPC利用や、負荷の軽いグラフィックスタスクには十分な性能を提供します 1。しかし、Vegaアーキテクチャ自体は登場から時間が経過しており、AMD自身の新しいRDNAアーキテクチャやIntelのXeアーキテクチャと比較すると、性能や最新機能(例: レイトレーシング対応など)の面で見劣りします。Ryzen 7 5825Uは、CPU性能に重点を置いたメインストリーム向けのモバイルプロセッサーであり、内蔵GPUはあくまで基本的なグラフィックス表示能力を提供することが主目的とされています。内蔵GPUの性能は、システムメモリの速度と帯域幅にも大きく依存するため、デュアルチャネル構成の高速なメモリ(DDR4-3200やLPDDR4x-4267)を搭載することが性能を引き出す鍵となりますが、それでも専用のグラフィックカード(dGPU)の性能には遠く及びません。したがって、Ryzen 7 5825U搭載機は、本格的なゲーミングPCや、高度な3D CG制作、高解像度動画編集を行うクリエイター向けPCとしては適していません。しかし、主な用途が事務作業、ウェブ閲覧、動画視聴、軽い写真編集、ブラウザゲームやカジュアルゲームといった範囲であれば、別途グラフィックカードを追加する必要がなく、システム全体のコストと消費電力を抑えられるという大きなメリットがあります。ユーザーは、自身がPCで行うグラフィックスタスクの要求レベルを考慮し、この内蔵GPUで十分かどうかを判断する必要があります。
7. 実利用シーンにおける評価
ベンチマークスコアはCPUの潜在能力を示す重要な指標ですが、実際の使用感がどうであるかは、ユーザーにとって最も関心の高い点の一つです。ここでは、日本語のレビューサイトやオンラインストアのユーザーレビューから、Ryzen 7 5825U搭載PCの実際の使用感に関する評価をまとめます。
- 全般的な快適性:
- 多くのユーザーレビューにおいて、ウェブブラウジング、メールの送受信、オフィスソフト(Word, Excelなど)の利用といった日常的な作業は、「非常に快適」「サクサク動く」「遅延を感じさせない」と高く評価されています 14。これは、CPUの基本的な処理能力が高いことを示唆しています。
- OSやアプリケーションの起動が速いという声も多く聞かれます 14。これは、多くの場合、高速なNVMe SSDが搭載されていることによる影響が大きいですが、CPU自体の応答性の良さも起動時間の短縮に寄与していると考えられます。
- マルチタスク:
- 8コア16スレッドという強力なマルチスレッド性能は、実際のマルチタスク環境でもその効果を発揮しているようです。複数のアプリケーションを同時に起動しても動作が重くなりにくく、快適に作業できるという評価が多く見られます 14。例えば、レビューでは「ペイントソフトと動画編集ソフトを同時に起動したりしましたが、現状特に不便はありません」14 といった具体的な使用例が挙げられています。複数のブラウザタブを開きながら他の作業を行うといった、現代の一般的なPC利用スタイルにも十分対応できる性能を持っていると言えます。
- 軽度のクリエイティブ作業:
- 写真や画像の編集を主な目的とするユーザーからは、「十分な性能」であるとの評価があります 14。
- 動画編集に関しても、前述の内蔵グラフィックス性能のセクションで触れたように、フルHD解像度程度の比較的簡単な編集であれば、実用的な範囲でこなせる可能性が示唆されています 8。ただし、あくまで「軽度」の作業に限られ、プロレベルのヘビーな編集作業には専用の高性能マシンが必要となるでしょう。
- 動作音と発熱:
- 特にミニPCのレビューにおいて、動作音に関する評価が多く見られます。「ファン音も静か」「起動時以外は静か」「使用中は気になるほどの音は出ない」といった、静音性に対する肯定的な意見が目立ちます 14。ただし、PC起動時や、CPUに高い負荷がかかる処理(例: ベンチマークテスト、重いソフトウェアのインストール、動画エンコードなど)を実行する際には、一時的に冷却ファンの回転数が上がり、音が大きくなることもあるようです 14。
- 発熱については、評価が分かれる側面もあります。「心配した発熱もなくほんのりとした温かさ」14 というレビューがある一方で、ベンチマークテスト中のCPU温度が80℃から96℃の範囲で推移したという技術的なレビュー報告 22 も存在します。これは、Intel製CPUが瞬間的に100℃近くまで達する場合と比較するとやや低いものの、高負荷時にはそれなりの発熱があることを示しています。実際の動作音や発熱の度合いは、Ryzen 7 5825Uを搭載するノートPCやミニPCの筐体設計、冷却ファンの性能、エアフローといった、デバイス側の冷却設計に大きく依存すると考えられます。
- ミニPCでの評価:
- Ryzen 7 5825Uは、その性能と消費電力のバランスから、多くのメーカーのミニPC製品に採用されています 1。ユーザーレビューでは、そのコンパクトなサイズにも関わらず比較的高性能である点が評価されており、「小型でこのスペック」「デスクトップ並みの性能を発揮」「驚きのコストパフォーマンス」といった肯定的なコメントが多く見られます 14。
これらの実利用シーンでの評価を総合すると、Ryzen 7 5825Uは、特にミニPCやメインストリームのノートPC市場において、非常にバランスの取れた「スイートスポット」を突いたプロセッサーであると言えます。8コア16スレッドのZen 3アーキテクチャは、専門的な超高負荷作業を除く、ほとんどの一般的なコンピューティングタスク(ブラウジング、オフィスワーク、メディア視聴、軽いクリエイティブ作業)に対して十分すぎるほどの処理能力を提供し、特にマルチタスク環境での快適さに貢献しています 14。15Wという標準TDP 3 は、メーカーがコンパクトな筐体設計(ミニPCや薄型ノートPC)を採用することを可能にし、比較的管理しやすい冷却ソリューションでの運用を実現します。ただし、持続的な高負荷やcTDPによる性能引き上げ時には、相応の発熱とファンノイズが発生する可能性はあります 8。また、Ryzen 7 5825UがZen 3アーキテクチャの成熟したリフレッシュモデルであることは、製造コストの面で有利に働き、メーカーがこのCPUを搭載したシステムを魅力的な価格で提供することを可能にしました(「驚きのコストパフォーマンス」14)。確立されたDDR4メモリとPCIe 3.0プラットフォーム 3 の採用も、比較的新しいDDR5/PCIe 4.0システムに対するコスト優位性に貢献しています。内蔵されたRadeonグラフィックス 1 は、最先端ではありませんが、ターゲットとなる多くのユーザー(ビジネス、学生、ホームユーザー)が必要とする基本的な画面表示やメディア再生能力を十分に満たしており、別途グラフィックカードを追加する必要性(とコスト)を排除しています 1。結果として、Ryzen 7 5825Uは、高いマルチコア性能、十分な内蔵グラフィックス、コンパクト設計に適した消費電力、そして優れたコストパフォーマンスという、魅力的な要素を兼ね備えたプロセッサーとして市場に受け入れられました。これは、必ずしも最先端のシングルコア速度やグラフィックスパワー、最新プラットフォーム機能を必要としない、実用性を重視する多くのユーザー層のニーズに応えることに成功した証左と言えるでしょう。特にミニPC分野での人気の高さ 1 は、この市場セグメントにおける本CPUの成功を明確に示しています。
8. 強みと弱みの分析
これまでの分析に基づき、AMD Ryzen 7 5825Uの主な強みと弱みを整理します。
- 強み (Strengths):
- 優れたマルチコア性能: 8コア16スレッド構成は、同価格帯・同クラスの競合製品と比較して、特にマルチスレッド処理が重要となるタスクにおいて強力なパフォーマンスを発揮します 9。動画エンコード、3Dレンダリング、複数の仮想マシンの実行、ヘビーなマルチタスク環境などで明確なアドバンテージがあります。
- 良好な電力効率: 実績のあるZen 3アーキテクチャと成熟した7nm製造プロセスにより、高い性能を発揮しながらも、消費電力を比較的低く抑えています 3。標準TDP 15Wという設定は、バッテリー駆動時間が重視される薄型ノートPCに適しています。
- 高いコストパフォーマンス: Zen 3アーキテクチャと、DDR4メモリやPCIe 3.0といった確立されたプラットフォーム技術を採用しているため、Ryzen 7 5825Uを搭載したノートPCやミニPCは、同等の性能を持つ最新プラットフォーム採用製品と比較して、価格競争力を持つ傾向があります 14。特にミニPC市場では、このコストパフォーマンスの高さが際立っています。
- 安定性と成熟度: Zen 3アーキテクチャは市場で長期間にわたって広く採用されており、ドライバの安定性やソフトウェア互換性に関する問題が発生するリスクは低いと考えられます。実績のある技術に基づいているため、信頼性が高いと言えます。
- 弱み (Weaknesses):
- シングルコア性能の相対的な限界: 最新世代のIntel Coreプロセッサーが搭載する高性能コア(P-core)と比較した場合、シングルコア性能では見劣りする場面があります 9。これにより、一部のアプリケーションの応答速度や、シングルスレッド性能に大きく依存する特定の古いゲームなどでは、わずかに不利になる可能性があります。
- 内蔵グラフィックス性能の限界: 内蔵されているAMD Radeon Graphics (Vega 8) は、日常的な利用には十分な性能を持っていますが、最新のAAAタイトル級の3Dゲームを高画質設定で快適にプレイしたり、要求水準の高いプロフェッショナルなクリエイティブワークロード(例: 4K動画編集、複雑な3Dモデリング)をスムーズにこなしたりするには、性能が不足しています 8。競合するIntel Iris Xeグラフィックスと比較しても、やや劣る場面が見られます 9。
- 最新プラットフォーム機能の欠如: PCI Express 4.0やDDR5メモリといった、より高速なデータ転送を可能にする最新のプラットフォーム規格に対応していません 3。これは、将来的な拡張性や、最新の高性能コンポーネント(特に高速なPCIe 4.0 NVMe SSD)の性能を最大限に活用したいユーザーにとっては、制限となる可能性があります。
- リフレッシュモデルとしての位置づけ: 基本的な設計は先行するRyzen 7 5800Uとほぼ同じであり、アーキテクチャ的な進化や技術的な目新しさはありません 14。性能向上も限定的であるため、既に5800U搭載機を所有しているユーザーにとっては、買い替えの動機付けにはなりにくいでしょう。
9. 最適な用途とユーザー層
Ryzen 7 5825Uの性能特性、強み、弱みを踏まえると、以下のような用途やユーザー層に特に適していると考えられます。
- 推奨される用途:
- ビジネス・学業用途: Microsoft Officeスイート(Word, Excel, PowerPoint)の利用、ウェブ会議(Zoom, Teamsなど)、複数のPDF資料やウェブサイトを同時に参照しながらのレポート作成など、一般的なビジネスシーンや学業で要求されるタスクには、十分以上の性能を提供します 14。特に、複数のアプリケーションを同時にスムーズに動作させられるマルチタスク性能の高さが活きます。
- 日常利用・ホームユース: インターネットの閲覧、YouTubeなどの動画視聴、SNSの利用、メールのチェック、年賀状作成といった、家庭での一般的なPC利用においては、非常に快適な動作が期待できます 14。
- 軽度のコンテンツ制作: Adobe PhotoshopやLightroomを用いた写真編集 14、あるいはフルHD解像度レベルでの比較的簡単な動画編集(カット編集、テロップ挿入、簡単なエフェクト適用など)8 といった、プロフェッショナルレベルではない、趣味や副業レベルのクリエイティブ作業に適しています。
- コンパクトPCの構築: 省スペース性が重視されるミニPC 1 や、性能とバッテリー駆動時間のバランスが求められる薄型ノートPCのCPUとして、非常に良い選択肢となります。
- ターゲットユーザー層:
- コストパフォーマンスを重視するユーザー: 最新の技術や最高の性能には必ずしもこだわらないが、日常的な作業やマルチタスクを快適にこなせる、しっかりとした基本性能を求めているユーザー。手頃な価格で高性能なPCを手に入れたいと考えている層に最適です 14。
- マルチタスクを多用するユーザー: 仕事や勉強で、複数のアプリケーション(例: ブラウザ、オフィスソフト、コミュニケーションツール、資料)を同時に立ち上げて作業することが多いビジネスユーザーや学生。8コア16スレッドの恩恵を直接的に受けられます。
- コンパクトなPC環境を求めるユーザー: デスク上のスペースを有効活用したい、あるいは持ち運び可能な小型PCを求めているミニPCユーザーや、薄型軽量ノートPCを好むユーザー。
- セカンドマシン/サブマシン用途のユーザー: すでに高性能なメインPCを所有しているが、リビングでの利用、外出先での簡単な作業、あるいは特定の用途(メディアサーバーなど)に特化した、比較的手頃で十分な性能を持つサブマシンを探しているユーザー。
Ryzen 7 5825Uが、最新アーキテクチャのリフレッシュ版であり、最新プラットフォーム機能を欠いているにも関わらず、これほど広範な実用的用途に推奨され、多くのユーザーから肯定的な評価を得ている 8 という事実は、注目に値します。これは、PC市場の大部分を占めるメインストリームユーザーにとって、必ずしも最先端のスペックが必須ではないことを示唆しています。多くのユーザーにとって重要なのは、日常的なタスクがストレスなく実行できること、複数の作業を同時に行っても動作が安定していること、そしてそれが手頃な価格で実現できることです。成熟した8コアのZen 3プロセッサーが提供する性能は、これらの要求を十分に満たしています。特に、旧世代の4コアCPUや、一部の低価格帯の現行CPUと比較した場合、マルチタスク時の快適さや全体的な応答性において、体感できるメリットを提供します 14。PCIe 4.0やDDR5への非対応 3 は、ターゲットとなる用途においては、多くの場合、実用上の大きな問題とはなりません。PCIe 3.0接続の標準的なNVMe SSDでもOSやアプリケーションの起動は十分に高速であり、DDR4メモリもGPU負荷の高くない作業には十分な帯域幅を提供します。また、内蔵グラフィックスはゲーミングには不向き 8 ですが、一般的なビジネス、学業、家庭での利用に必要な画面表示やメディア再生能力は備えており 1、追加のグラフィックカードのコストと消費電力を不要にします。結果として、Ryzen 7 5825Uは、多くのユーザーにとって「必要十分」あるいは「十分以上」の性能を、最新CPU搭載システムよりも低い価格帯で提供することができました 14。この事実は、市場には常に、マルチコア性能、十分な統合機能、そして手頃な価格という「バランスの取れた価値」を求める大きな需要が存在することを示しています。すべてのユーザーが最高のシングルコア速度や最新技術にプレミアムを支払いたいわけではないのです。Ryzen 7 5825Uは、この実用性を重視する広範なユーザー層のニーズに効果的に応えたプロセッサーと言えるでしょう。
10. 結論
AMD Ryzen 7 5825Uは、高い評価を得ているZen 3アーキテクチャを基盤とした、8コア16スレッド構成のモバイル向けプロセッサーです。その最大の魅力は、優れたマルチタスク性能と、搭載製品の価格競争力によってもたらされる高いコストパフォーマンスにあります。実質的には先行するRyzen 7 5800Uのリフレッシュ版であり、アーキテクチャ的な進化や性能面での飛躍的な向上は見られませんが、メインストリームのノートPCおよびミニPC市場において、依然として非常に競争力のある選択肢であり続けています。
その強力なマルチコア性能は、複数のアプリケーションを同時に利用するビジネスや学業、ウェブブラウジングや動画視聴といった日常的なホームユース、さらには写真編集や軽度の動画編集といったコンテンツ制作まで、多様な用途において快適なコンピューティング体験を提供します。一方で、最新のIntel Coreプロセッサーと比較した場合のシングルコア性能や、要求の高いゲームやクリエイティブワークロードに対する内蔵グラフィックス性能には限界があります。また、PCI Express 4.0やDDR5メモリといった最新プラットフォーム機能に対応していない点は、将来性や特定の高性能コンポーネントの利用を考慮する上で留意すべき点です。
特にミニPC市場においては、そのコンパクトなフォームファクタに適した消費電力と、十分な性能、そして手頃な価格のバランスが高く評価されており、省スペースで高性能なデスクトップ環境を求めるユーザーにとって、依然として魅力的な選択肢の一つとなっています。
最終的に、AMD Ryzen 7 5825Uは、最先端の技術や最高のピーク性能を追求するユーザーよりも、実用的な性能とコストのバランスを重視するユーザーにとって、検討に値する優れたプロセッサーであると言えます。自身の主な用途、予算、そして最新技術への要求度を総合的に判断した上で、Ryzen 7 5825Uは多くのユーザーにとって満足度の高い選択となる可能性を秘めています。
引用文献
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