AMD Ryzen 7 7735HS ベンチマークまとめ

CPU-AMD-Ryzen CPU・SoC

1. はじめに

1.1. レポートの目的

本レポートは、AMD Ryzen™ 7 7735HSモバイルプロセッサーの性能特性を、主に日本語のウェブサイトから収集した情報に基づき、詳細に分析・評価することを目的とします。技術仕様、各種ベンチマークスコア、前世代および競合製品との比較、内蔵GPU性能、実ゲーム環境でのパフォーマンスを網羅的に調査し、その長所と短所を明らかにします。

1.2. AMD Ryzen 7 7735HSの市場における位置づけ

Ryzen 7 7735HSは、AMDのRyzen 7000シリーズモバイルプロセッサーラインナップの一部として展開されています。しかし、その技術的基盤は最新のZen 4アーキテクチャではなく、前世代にあたる「Rembrandt」アーキテクチャ(Zen 3+)を改良した「Rembrandt R」と呼ばれるものです 1。これは、AMDが7000シリーズの命名規則において、モデル番号の3桁目でアーキテクチャ世代を示していることからも確認できます(7735HSの「3」がZen 3/3+世代を示す)2。したがって、同じ7000シリーズ内でもRyzen 7 7840HSのようなZen 4アーキテクチャ採用CPUとは根本的に異なります。

このプロセッサーは、主に薄型・軽量ノートPCや一部のゲーミングノートPC、そして高性能ミニPC市場をターゲットとしています。その背景には、実績のあるZen 3+アーキテクチャによる安定した性能と電力効率、そして特筆すべき強力な内蔵グラフィックス性能があります。市場においては、性能と価格、電力効率のバランスが求められるセグメントにおいて、重要な選択肢の一つとなっています。

2. AMD Ryzen 7 7735HS 技術仕様

2.1. 主要スペック

AMD Ryzen 7 7735HSの技術仕様は、その性能特性を理解する上で基本となります。以下に主要なスペックをまとめます。

  • アーキテクチャ: Zen 3+ (コードネーム: Rembrandt R) 1。これは前世代のRyzen 6000シリーズHSプロセッサー(例: Ryzen 7 6800HS)で採用されたものと同じ基盤技術です 2
  • 製造プロセス: TSMC 6nm FinFET 1。比較的高度なプロセス技術であり、性能と電力効率の両立に貢献します。
  • CPUコア数/スレッド数: 8コア / 16スレッド 1。これにより、複数のアプリケーションを同時に実行するマルチタスク環境や、マルチスレッド処理が重要なタスクにおいて高い性能を発揮します。
  • クロック周波数: ベースクロック 3.2 GHz / 最大ブーストクロック 最大 4.75 GHz 1。負荷に応じてクロック周波数を動的に変動させ、パフォーマンスと電力消費のバランスを取ります。前世代のRyzen 7 6800HS(最大4.70GHz)と比較すると、最大ブーストクロックがわずかに50MHz引き上げられています 2
  • キャッシュ: L1キャッシュ 512KB (64KB/コア)、L2キャッシュ 4MB (512KB/コア)、L3キャッシュ 16MB (共有) 1。キャッシュ構成はRyzen 7 6800HSと同一であり 2、CPUコアへのデータ供給を高速化し、処理性能を高める役割を担います。
  • TDP (Thermal Design Power): 標準 35-54W。AMD Configurable TDP (cTDP) により、ノートPCメーカーは搭載デバイスの冷却能力や設計思想に合わせて35Wから54Wの範囲でTDPを設定できます 1。35W設定は主に薄型軽量ノートPC向け、54W設定はより高性能な冷却機構を持つモデル向けとなり、この設定値が実際のパフォーマンスに大きく影響します。
  • メモリ対応: DDR5-4800, LPDDR5-6400 1。高速なメモリ規格に対応しており、特に帯域幅が重要となる内蔵GPUの性能を最大限に引き出す上で有利です。
  • PCI Expressバージョン: PCIe® 4.0 1。最新の高速NVMe SSDや、一部モデルに搭載されるディスクリートGPUとの高速なデータ転送を可能にします。

2.2. 内蔵GPU (iGPU): AMD Radeon™ 680M

Ryzen 7 7735HSの大きな特徴の一つが、高性能な内蔵GPU「AMD Radeon™ 680M」です。

  • アーキテクチャ: RDNA 2 6。これはAMDのディスクリートGPUでも採用されている比較的新しいグラフィックスアーキテクチャであり、従来のVegaアーキテクチャから大幅な性能向上を実現しています。
  • グラフィックスコア数: 12 CU (Compute Units) 1
  • シェーダー数: 768 1
  • 最大周波数: 2200 MHz 1
  • DirectXサポート: DirectX® 12 1。最新のゲームやグラフィックスAPIに対応します。

このRadeon 680Mは、Ryzen 6000シリーズから引き継がれたものであり、多くの競合するIntel製CPUの内蔵GPU(例: Iris Xe Graphics G7)と比較して、特にゲーミング性能において顕著な優位性を示すことが期待されます 9

2.3. 「リフレッシュ」モデルとしての特性

技術仕様を詳細に見ると、Ryzen 7 7735HSが前世代のRyzen 7 6800HSと極めて類似している点が浮かび上がります。コア数、スレッド数、キャッシュ容量、製造プロセス、TDP範囲、そして内蔵GPUであるRadeon 680Mに至るまで、基本的な構成は同一です 1。唯一の明確な差異は、最大ブーストクロックが4.70GHzから4.75GHzへとわずかに引き上げられた点に留まります 2

この事実は、7735HSがAMDの最新CPUアーキテクチャであるZen 4を採用したモデルではなく、実績のあるZen 3+(Rembrandt)アーキテクチャをベースとしたマイナーチェンジ版、すなわち「リフレッシュ」モデル(Rembrandt-R)であることを強く示唆しています。後述するベンチマーク比較においても、両者の性能差が僅少であることがこの見方を裏付けています 2

消費者は「7000シリーズ」という名称から最新技術による大幅な性能向上を期待するかもしれませんが、CPUコア性能に関しては、6000HSシリーズからの飛躍的な進化は見込めません。この点を理解しておくことは、製品選択において重要です。性能向上は、主にわずかなクロック向上や、プラットフォーム、ドライバの最適化による限定的なものと考えられます。

2.4. 技術仕様一覧表

表1: Ryzen 7 7735HS 詳細技術仕様一覧

項目仕様出典例
アーキテクチャZen 3+ (Rembrandt R)1
コア数 / スレッド数8 / 161
ベースクロック3.2 GHz1
最大ブーストクロック最大 4.75 GHz1
L1キャッシュ512 KB (64KB/コア)1
L2キャッシュ4 MB (512KB/コア)1
L3キャッシュ16 MB (共有)1
TDP (標準 / cTDP)35-54W / 35-54W1
製造プロセスTSMC 6nm FinFET1
CPUソケットFP71
メモリ対応DDR5-4800, LPDDR5-64001
PCIeバージョンPCIe® 4.01
内蔵GPUAMD Radeon™ 680M1
GPUアーキテクチャRDNA 26
GPUコア数 (CU)121
GPUシェーダー数7681
GPU最大周波数2200 MHz1

この表は、Ryzen 7 7735HSの基本的な能力と特性を一覧で示しており、後続の性能分析や比較の基礎となります。

3. CPU性能ベンチマーク分析

Ryzen 7 7735HSのCPU性能を客観的に評価するため、主要なベンチマークテストの結果を分析します。これらのスコアは、プロセッサーの演算能力や特定のタスクにおける処理速度を示す指標となります。

3.1. Cinebench R23

Cinebench R23は、CPUの3Dレンダリング性能を測定する業界標準のベンチマークの一つです 12。マルチコアスコアはプロセッサー全体の処理能力を、シングルコアスコアは単一スレッドでの処理速度を示し、応答性や一部のゲーム、クリエイティブ作業の快適さに影響します。

  • マルチコア性能: 報告されているスコアは、搭載されるデバイスのTDP設定(電力供給枠)や冷却システムの効率によって変動しますが、概ね13,600点から14,100点程度の範囲に収まることが多いようです 2。例えば、Acer Nitro 5に搭載された際のスコアとして13,862点が報告されています 2。より高いTDP設定(例: 54W以上)が可能なミニPCなどでは、14,000点を超えるスコアも観測されています 8
  • シングルコア性能: スコアは約1,500点から1,550点の間で報告されています 8。nanoreview.netでは1,546点という具体的な数値が示されています 13

3.2. Geekbench 5/6

Geekbenchは、クロスプラットフォームで利用可能なベンチマークツールであり、CPUの演算能力を多角的に測定します。バージョン6のスコアがより新しい指標となります。

  • Geekbench 6 マルチコア性能: 約10,000点から11,600点程度のスコアが一般的です 8。LaptopMediaのテストでは10,295点 14、Beelink SER6 Pro (ミニPC) 搭載時のNotebookcheckのデータでは11,626点 8 といったスコアが報告されています。ただし、TDP設定や冷却性能によりスコアは変動し、一部の高性能構成ではさらに高い値を示す可能性もあります 8
  • Geekbench 6 シングルコア性能: 約1,940点から2,100点程度の範囲で報告されています 14。LaptopMediaでは2,107点 14、Geekbench Browserの平均スコアでは1,941点 15 となっています。

3.3. PassMark CPU Mark

PassMark CPU Markは、様々な種類の演算処理を組み合わせた総合的なCPU性能評価指標です。

  • 総合スコア (CPU Mark): 平均して約23,000点から25,000点の範囲で推移しています。CPUBenchmark.netでは平均23,424点 5、dosparaplus.comの比較表では23,690点 16、komameblog.jpによるMINISFORUM UM773 Liteのレビューではバランス設定で25,556点 17 と報告されており、ここでもデバイスによる差が見られます。
  • シングルスレッド評価 (Single Thread Rating): 約3,300点から3,500点の範囲です。CPUBenchmark.netでは3,316点 5、dosparaplus.comでは3,333点 16、komameblog.jpのレビューでは3,509点 17 となっています。

3.4. TDP設定と冷却性能の影響

これらのベンチマーク結果を横断的に見ると、同じRyzen 7 7735HS搭載機であっても、特にマルチコア性能においてスコアに顕著なばらつきが存在することがわかります 8。この主な要因は、各デバイスに設定されたTDP(Thermal Design Power)の値と、そのTDPを維持するための冷却システムの能力にあります。

Ryzen 7 7735HSは、35Wから54Wの範囲でTDPを設定可能です 1。Notebookcheckのデータ 8 では、搭載デバイスごとにTDP設定値(例: 35W, 45W, 54W, 60W)が記載されており、一般的に高いTDP設定が可能なデバイスほど、Cinebench R23マルチコアやGeekbench 6マルチコアで高いスコアを記録する傾向が見られます。例えば、komameblog.jpで報告されたPassMarkスコア(25,556点)17 が、CPUBenchmark.netの平均値(23,424点)5 よりも高いのは、テストされたUM773 LiteのTDP設定や冷却性能が比較的良好であった可能性を示唆しています。

これは、Ryzen 7 7735HSの性能を最大限に引き出すためには、プロセッサー自体の能力だけでなく、それを搭載するデバイス側の設計、特に持続的に高いTDPを許容できる強力な冷却システムが不可欠であることを意味します。薄型軽量ノートPCなど、冷却能力に制約のあるデバイスでは、本来の性能が抑制される可能性がある点に留意が必要です。ユーザーは、7735HS搭載デバイスを選ぶ際、CPU名だけでなく、そのデバイスの冷却設計や公称TDP(可能であればレビュー等での実測値)を確認することが、期待通りの性能を得る上で重要となります。特に、レンダリングや長時間のゲームプレイなど、持続的な高負荷がかかる用途を想定している場合は、冷却能力の高いモデルを選択することが推奨されます。

3.5. 主要CPUベンチマークスコア集計表

表2: Ryzen 7 7735HS 主要CPUベンチマークスコア集計

ベンチマーク名スコア範囲 / 代表値出典例
Cinebench R23 (Multi-Core)約 13,600 – 14,100+ (デバイス依存)2
Cinebench R23 (Single-Core)約 1,500 – 1,5508
Geekbench 6 (Multi-Core)約 10,000 – 11,600+ (デバイス依存)8
Geekbench 6 (Single-Core)約 1,940 – 2,10014
PassMark CPU Mark (Overall)約 23,000 – 25,500+ (デバイス依存)5
PassMark CPU Mark (Single Thread)約 3,300 – 3,5005

注: スコアはテスト環境(搭載デバイスのTDP設定、冷却性能、メモリ構成、OS、ドライババージョン等)により変動します。

この表は、複数の主要ベンチマークにおけるRyzen 7 7735HSのおおよその性能レベルを示しています。スコアに幅があることは、前述の通りデバイス側の要因が大きく影響することを示唆しています。

4. 性能比較分析

Ryzen 7 7735HSの性能をより深く理解するために、前世代モデルおよび競合するIntel製CPUとの比較を行います。

4.1. 前世代モデル (Ryzen 7 6800HS) との比較

前述の通り、Ryzen 7 7735HSはRyzen 7 6800HSのリフレッシュモデルであり、基本的なアーキテクチャ (Zen 3+)、コア/スレッド数 (8/16)、キャッシュ構成、内蔵GPU (Radeon 680M) は共通しています 2。主な違いは、最大ブーストクロックが7735HSでは4.75GHzと、6800HSの4.70GHzからわずかに (+50MHz) 引き上げられている点です 2

この仕様上の類似性は、実際のベンチマーク結果にも反映されています。

  • Cinebench R23: LaptopMediaの比較テスト 2 では、マルチコア性能において6800HSがわずか1%リードするという結果が出ていますが、これは実質的に同等性能であり、誤差の範囲内と考えられます。nanoreview.net 10 では7735HSが約7%優位とするデータもありますが、他の複数の比較結果との乖離を考慮すると、テスト条件による影響が大きい可能性があります。
  • Photoshop: 同じくLaptopMediaのテスト 2 では、画像処理タスクにおいて6800HSが7735HSよりも1.2秒速いタイムを記録しました。これはわずかながら6800HSが有利であることを示唆しますが、テスト環境やソフトウェアバージョンの違いによる影響も考えられます。
  • PassMark CPU Mark: 複数のデータソースで7735HSがわずかに優位な結果を示しています。CPUBenchmark.net 18 の比較では、7735HS (23,424) が6800HS (22,811) を約2.7%上回っています。dosparaplus.com 16 のデータでも同様に、7735HS (23,690) が6800HS (22,884) を約3.5%上回る結果となっています。

これらのベンチマーク結果を総合すると、Ryzen 7 7735HSのCPU性能は、前世代のRyzen 7 6800HSと比較して、測定項目やテスト環境によって僅差で優劣が変わるレベルであり、体感できるほどの明確な性能向上は認められません。わずかなクロック向上やプラットフォームの成熟による微細な改善は見られるものの、基本的には同等の性能を持つプロセッサーと評価するのが妥当です 2

この「リフレッシュ戦略」は、AMDが7000シリーズのラインナップにおいて、最新のZen 4アーキテクチャを採用した高性能モデル(例: Ryzen 7 7840HS 15)と並行して、コストを抑えつつも依然として強力な内蔵GPU(Radeon 680M)を持つ実績あるZen 3+モデルを提供することで、より幅広い価格帯と多様なユーザーニーズに対応しようとする意図の表れと考えられます。Zen 3+プラットフォームは、開発・製造コストの面でZen 4よりも有利である可能性があり、特にRadeon 680Mのグラフィックス性能は依然として高い競争力を維持しています 9。これにより、AMDはハイエンド市場をZen 4でカバーしつつ、Zen 3+ベースの7735HSでミドルレンジからアッパーミドルレンジの価格帯を確保し、特に内蔵GPU性能を重視するユーザー層にアピールする戦略をとっていると推測できます。

ユーザーにとっては、最新のCPUコア性能を最優先する場合はZen 4搭載モデルが適していますが、優れた内蔵GPU性能とCPU性能のバランス、そして(Zen 4モデルと比較して)潜在的に手頃な価格設定を求める場合には、7735HSは依然として魅力的な選択肢となり得ます。ただし、既にRyzen 7 6800HS搭載デバイスを所有しているユーザーが、7735HS搭載デバイスへ買い替えることによるCPU性能面でのメリットは限定的と言えるでしょう。

表3: Ryzen 7 7735HS vs Ryzen 7 6800HS ベンチマーク比較

ベンチマーク名Ryzen 7 7735HS スコアRyzen 7 6800HS スコア性能差 (%) (7735HS基準)出典例
Cinebench R23 Multi1386214000+? (1%リード)約 -1%2 (LaptopMedia)
Cinebench R23 Multi1359812728+6.8%10 (nanoreview.net)
Photoshop (秒)(6800HSより1.2秒遅い)(7735HSより1.2秒速い)(6800HSが有利)2 (LaptopMedia)
PassMark Overall2342422811+2.7%18 (CPUBenchmark.net)
PassMark Overall2369022884+3.5%16 (dosparaplus.com)
PassMark Single Thread33333200+4.2%16 (dosparaplus.com)

注: スコアや性能差はテスト環境により変動します。Photoshopは処理時間が短い方が高性能です。

この表は、両CPU間の性能差が僅かであることを定量的に示しています。

4.2. 競合Intel CPU (Core i7 Hシリーズ) との比較

Ryzen 7 7735HSの市場における競争力を評価するため、同等のTDPクラス(標準45W)を持ち、パフォーマンスノートPC市場で直接競合するIntel Core i7 Hシリーズ(主に第12世代Alder Lake-Hおよび第13世代Raptor Lake-H)との性能比較を行います。代表的な比較対象として、Core i7-12700H、Core i7-12650H、Core i7-13700Hなどが挙げられます。

仕様面では、例えばCore i7-12700Hと比較すると、7735HSが8つの高性能コア(P-core)で構成されるのに対し、i7-12700Hは6つのP-coreと8つの高効率コア(E-core)を組み合わせたハイブリッド構成(合計14コア/20スレッド)を採用しています 9。また、L3キャッシュ容量もi7-12700H (24MB) の方が7735HS (16MB) よりも大きくなっています 9。標準TDPはi7-12700H (45W) の方が高いですが、7735HSも最大54Wまで設定可能です 9

これらの仕様の違いは、ベンチマーク結果にも影響を与えています。

  • 対 Core i7-12700H:
  • CPUの純粋な処理能力では、i7-12700Hが優位な場面が多く見られます。Cinebench R23マルチコアテストでは、LaptopMediaの比較 9 でi7-12700Hが7735HSを約32%上回るスコアを記録しています。シングルコア性能においても、nanoreview.net 13 ではi7-12700Hが約13%優位としています。Photoshopのような特定のアプリケーション処理でも、i7-12700Hの方が高速(LaptopMediaでは2秒以上速い)という結果が報告されています 9。PassMark CPU Markにおいても、dosparaplus.comのデータ 16 ではi7-12700Hが約9.7%高いスコアを示しています。
  • 対 Core i7-12650H:
  • i7-12650HはP-core数が6つ、E-core数が4つ(合計10コア/16スレッド)20 と、i7-12700Hよりも少ない構成です。このため、マルチコア性能では7735HSが有利になる場合があります。LaptopMediaのCinebench R23マルチコア比較 20 では、7735HSがi7-12650Hを約15%上回っています。一方で、Photoshop処理では依然としてi7-12650Hの方が1.5秒速いという結果も出ています 20。PassMarkスコア 16 では両者は比較的近い値となっています。
  • 対 Core i7-13700H (第13世代):
  • 第13世代のCore i7 Hシリーズは、第12世代からさらに性能が向上しています。PassMark CPU Mark 16 では、i7-13700Hが7735HSをマルチコアで約13%、シングルスレッドで約8.8%上回っています。

これらの比較から、CPUの純粋な処理能力、特にシングルコア性能や特定のアプリケーション(例: Photoshop)における応答性や処理速度においては、同世代および新世代のIntel Core i7 HシリーズがRyzen 7 7735HSを上回る傾向にあることがわかります。ただし、マルチコア性能に関しては、Intel側のコア構成(特にP-core数)によって優劣が変わる可能性もあります。

しかしながら、このCPU性能比較だけでは全体像は見えません。重要なのは、Ryzen 7 7735HSが搭載する内蔵GPU「Radeon 680M」の性能です。後述するように、グラフィックス性能においては、Radeon 680MがIntelの同世代内蔵GPU(Iris Xe Graphics G7 96EUなど)を大幅に凌駕します 9

これは、Ryzen 7 7735HSと競合するIntel Core i7 Hシリーズが、それぞれ異なる強みを持っていることを示しています。Intel CPUは純粋なCPU演算能力で優位に立つことが多い一方、Ryzen 7 7735HSは統合グラフィックス能力において明確なアドバンテージを持っています。したがって、ユーザーの主な用途によって最適な選択肢は異なります。CPU負荷の高いタスク(プログラミング、一部の科学技術計算、特定のクリエイティブワークフローなど)を最優先する場合はIntel Core i7 Hシリーズが有利な選択となる可能性があります。一方で、ディスクリートGPUなしで軽〜中程度のゲームを楽しみたい、あるいは内蔵GPUの性能が重要となるマルチメディア系の作業(動画再生支援、一部のエンコード/デコード処理)やカジュアルなクリエイティブ作業を行いたい場合には、Ryzen 7 7735HSの方が優れた体験を提供する可能性が高いと言えます。

表4: Ryzen 7 7735HS vs Intel Core i7 Hシリーズ ベンチマーク比較

ベンチマーク名Ryzen 7 7735HSCore i7-12700HCore i7-12650HCore i7-13700H出典例
Cinebench R23 Multi1386218244 (+32%)12071 (-13%)9 (LaptopMedia)
Cinebench R23 Single15461744 (+13%)13 (nanoreview.net)
Photoshop (秒)(i7より遅い)(7735HSより速い)(7735HSより速い)9 (LaptopMedia)
PassMark Overall2369025998 (+9.7%)22391 (-5.5%)26869 (+13%)16 (dosparaplus.com)
PassMark Single Thread33333569 (+7.1%)3571 (+7.1%)3628 (+8.8%)16 (dosparaplus.com)

注: 性能差 (%) はRyzen 7 7735HSを基準とした概算値。スコアや性能差はテスト環境により変動します。Photoshopは処理時間が短い方が高性能です。

この表は、主要な競合Intel CPUに対するRyzen 7 7735HSの相対的なCPU性能を示しています。

5. 内蔵GPU (AMD Radeon 680M) 性能評価

Ryzen 7 7735HSの最も注目すべき特徴は、その強力な内蔵GPU「AMD Radeon 680M」です。ここでは、そのグラフィックス性能をベンチマークスコアと実際のゲームにおける描画性能から評価します。

5.1. グラフィックスベンチマーク

標準的なグラフィックスベンチマークテストにおいて、Radeon 680Mは内蔵GPUとしては非常に高いスコアを示します。

  • 3DMark Time Spy (Graphics Score): このDirectX 12ベンチマークにおいて、Radeon 680Mはおおむね2,300点から2,400点前後のスコアを記録します。komameblog.jpのレビュー 7 では、MINISFORUM UM773 Lite搭載時で2,363点、NucBox M7搭載時で2,358点、そしてRadeon 680M搭載機の平均値として2,343点が示されています。このスコアレベルは、一世代前のエントリークラスのディスクリートGPU、例えばNVIDIA GeForce GTX 1050 Ti 17 やGTX 1650 Max-Qに匹敵、あるいはそれを上回る場合もある性能を示しており、内蔵GPUとしては画期的です。
  • 3DMark Fire Strike (Graphics Score): より古いDirectX 11ベンチマークであるFire Strikeにおいても、Radeon 680Mは高い性能を発揮します。pc.watch.impress.co.jpのレビュー 6 では、Beelink SER6 Pro 7735HS搭載機のFire Strikeスコアが、Intel NUC 12 Pro(Core i5-1240P搭載、Iris Xe Graphics)の約2倍に達しており、競合に対する明確な優位性を示しています。
  • PCMark 10 (Gaming Score): 総合ベンチマークであるPCMark 10のGamingテストグループにおいても、Radeon 680Mの性能が反映されます。pc.watch.impress.co.jpのレビュー 6 では、SER6 Pro 7735HSが他のミニPC(Ryzen 9 5900HXやCore i5-1240P搭載機)と比較してGamingスコアで大きく差をつけており、内蔵GPU性能の高さが総合的なゲーミング関連タスクのパフォーマンスに寄与していることを示しています。

5.2. 主要ゲームタイトルにおける描画性能

ベンチマークスコアだけでなく、実際のゲームタイトルにおけるフレームレート(FPS: Frames Per Second)も、実用的な性能を判断する上で重要です。以下は、主にフルHD (1920×1080) 解像度におけるRadeon 680Mのゲームパフォーマンス例です。

  • 軽量級ゲーム (例: ドラゴンクエストX): このクラスのゲームでは、最高品質設定でも非常に快適なプレイが可能です。レビューサイトでは、「とても快適」(平均75FPS)や「すごく快適」(平均105FPS)といった評価と共に高いフレームレートが報告されています 21
  • 中量級ゲーム (例: FFXIV, レインボーシックス シージ, Apex Legends, 原神, モンスターハンターライズ):
  • ファイナルファンタジーXIV: フルHD・標準品質(ノートPC)設定であれば、「快適」評価(平均60FPS超)でのプレイが可能です 21。ただし、高品質設定にするとフレームレートが低下し、「普通」評価(平均37FPS程度)となるため、快適なプレイには設定調整が必要になります 21。ミニPCのレビュー 24 では、標準品質でスコア4015(普通)という結果もあり、デバイスの冷却性能やTDP設定が影響する可能性も示唆されます。
  • レインボーシックス シージ: 比較的負荷の軽いeスポーツタイトルであり、フルHD・最高画質設定でも平均56FPS 21 や、レビューによっては平均110FPS 6 といった非常に高いフレームレートでの快適なプレイが報告されています。
  • Apex Legends: フルHD・最低画質設定であれば平均60FPS以上を維持できますが、画質設定を上げるとフレームレートは低下します 21。一方で、同じRadeon 680Mを搭載するRyzen 9 6900HSを用いたレビュー 25 では、1920×1200解像度・最高画質でも平均60fpsオーバーが可能としており、ドライバやゲームの最適化状況によっても結果が変わる可能性があります。
  • 原神: フルHD・低〜中画質設定で、平均50FPSから60FPS程度でのプレイが可能です 17
  • モンスターハンターライズ: フルHD・中画質設定であれば、平均80FPSを超えるような快適なプレイが可能です 21。高画質設定ではフレームレートが低下するため、設定調整が推奨されます。
  • 重量級ゲーム (例: ファークライ6, サイバーパンク 2077):
  • ファークライ6: フルHD・最高設定ではフレームレートが低く、快適なプレイは困難です。しかし、画質設定を「中」程度に下げ、さらにAMDのアップスケーリング技術であるFidelityFX Super Resolution (FSR) を「バランス」設定で併用することにより、平均65FPSでのプレイが可能になるという報告があります 6
  • サイバーパンク 2077: 非常に高いグラフィックス負荷を要求するため、Radeon 680Mのような内蔵GPUでは、低画質設定でも動作しない、あるいは極めて低いフレームレートとなり、プレイは現実的ではありません 21

5.3. 対 Intel Iris Xe Graphics G7 (96EU)

競合するIntel Core i7 Hシリーズ(第12世代)などに搭載される代表的な内蔵GPUであるIris Xe Graphics G7 (96EU) と比較すると、ゲーム性能においてはRadeon 680Mが明確な優位性を示します。LaptopMediaの比較テスト 9 によれば、CS:GOやDOTA 2といったタイトルにおいて、多くの設定条件でRadeon 680MがIris Xe G7よりも10%から最大で50%程度高いフレームレートを記録しています。

5.4. 「カジュアルゲーミング」の実現

これらの結果から、Radeon 680Mは内蔵GPUとしては卓越した性能を持っていることがわかります。3DMarkスコアは旧世代のエントリークラス・ディスクリートGPUに匹敵し 7、軽量級ゲームは最高設定でも余裕で動作します 21。さらに重要なのは、ファイナルファンタジーXIV、Apex Legends、原神といった人気のある中量級タイトルも、フルHD解像度で画質設定を中程度以下に調整すれば、平均60FPSに近い、あるいはそれを超えるフレームレートでプレイ可能になる点です 6。これは、従来の多くの内蔵GPUでは達成が難しかったレベルであり、ディスクリートGPUを搭載しない薄型ノートPCや小型のミニPCでも、本格的なPCゲームを「カジュアルに」楽しむことを可能にします。

もちろん、最新のAAAタイトルを高画質・高フレームレートでプレイするには依然として高性能なディスクリートGPUが必要ですが、Radeon 680Mは「設定を妥協すれば多くのゲームが遊べる」というレベルを内蔵GPUで実現した点で画期的です。これにより、ディスクリートGPUは不要だが、時々PCゲームを楽しみたい、あるいはグラフィックス性能がある程度要求される作業(軽い動画編集や写真編集など)もこなしたい、といったユーザーにとって、Ryzen 7 7735HS(およびRadeon 680M)を搭載したデバイスは非常に魅力的な選択肢となります。結果として、より薄型・軽量で、バッテリー持続時間にも配慮されたデバイスでも、従来よりも幅広い用途に対応できる可能性が広がりました。

表5: Radeon 680M ゲームベンチマーク結果 (代表例)

ゲームタイトル解像度画質設定平均FPS / 評価/スコア出典例
ドラゴンクエストXフルHD最高品質75 FPS (とても快適)21 (okiniiripasokon.com)
ドラゴンクエストXフルHD低品質105 FPS (すごく快適)21 (okiniiripasokon.com)
FFXIV 暁月のフィナーレフルHD標準品質(ノートPC)61 FPS (快適)21 (okiniiripasokon.com)
FFXIV 暁月のフィナーレフルHD標準品質(デスクトップ)61 FPS (快適) / 86326 (pc.watch.impress.co.jp)
FFXIV 暁月のフィナーレフルHD標準品質(デスクトップ)4015 (普通)24 (tikgadget.jp)
FFXIV 暁月のフィナーレフルHD最高品質37 FPS (普通)21 (okiniiripasokon.com)
レインボーシックス シージフルHD最高品質110 FPS (非常に快適)6 (pc.watch.impress.co.jp)
レインボーシックス シージフルHD低画質89 FPS21 (okiniiripasokon.com)
Apex LegendsフルHD最低画質60 FPS21 (okiniiripasokon.com)
Apex Legends1920×1200最高画質60 FPS 超25 (pc.watch.impress.co.jp)*
原神フルHD中画質60.1 FPS17 (komameblog.jp)
原神フルHD低画質50 FPS21 (okiniiripasokon.com)
モンスターハンターライズ1920×1200中画質83 FPS21 (okiniiripasokon.com)
ファークライ6フルHD中 + FSRバランス65 FPS6 (pc.watch.impress.co.jp)
ストリートファイターVフルHD中画質ほぼ 60 FPS21 (okiniiripasokon.com)
Counter Strike 2フルHD低画質114.3 FPS17 (komameblog.jp)

*注: Ryzen 9 6900HS (同じRadeon 680M) での結果。FPSは平均値。結果はテスト環境やゲームのバージョンによって変動します。

この表は、Radeon 680Mがどの程度のゲームをどの設定でプレイできるかの目安を示しています。

6. 実環境でのゲームパフォーマンス (Ryzen 7 7735HS搭載システム)

ここでは、Ryzen 7 7735HSを実際に搭載したノートPCやミニPCにおけるゲームパフォーマンスに関するレビュー結果をまとめ、実用的な観点からの評価を行います。これらのテストの多くは内蔵GPUであるRadeon 680Mを使用して行われていますが、一部、ディスクリートGPU (dGPU) を搭載したシステムの結果も含まれる場合があります 8。本セクションでは、特に断りのない限り、内蔵GPUによるパフォーマンスに焦点を当てます。

6.1. レビューサイトからの報告例

複数のレビューサイトやYouTubeチャンネルで、Ryzen 7 7735HS搭載デバイスのゲーム性能が検証されています。

  • MINISFORUM UM773 Lite (ミニPC): komameblog.jpのレビュー 17 によると、このミニPCは「中規模クラスのタイトルであれば、画質をかなり落とすことで普通に遊べそうな結果(平均60 fps超)」が出ていると評価されています。具体例として、Apex Legends(最低画質 112.5fps)、Counter Strike 2(低画質 114.3fps)、原神(中画質 60.1fps)などのフレームレートが報告されており、「ゲーミングPCと言えるほどではないが、息抜きとしてカジュアルに楽しむには十分」と結論付けられています。
  • Beelink SER6 Pro 7735HS (ミニPC): pc.watch.impress.co.jpのレビュー 6 では、FFXIV(標準品質で快適/平均61fps)、レインボーシックス シージ(最高品質で非常に快適/平均110fps)、ファークライ6(中画質+FSRバランス設定で平均65fps)といった具体的なベンチマーク結果が示され、内蔵GPUとしては高いゲーミング性能を持つことが確認されています。YouTubeのレビュー動画 26 でも、そのゲーミング性能の高さが取り上げられています。
  • GMKtec NucBox K2 (ミニPC): tikgadget.jpのレビュー 24 では、FFXIVベンチマークにおいて、フルHD・標準品質設定でスコア4015(評価:普通)を記録し、「FF14クラスの大規模MMOMRPGを、ある程度快適なパフォーマンスで遊ぶことが可能」と評価されています。ただし、高品質設定ではスコアが大幅に低下し(2343点、評価:設定変更を推奨)、快適なプレイは難しいとも指摘されています。一方で、ウェブサイト閲覧や動画視聴、Officeソフト利用といった一般的なデスクトップPCとしての用途は非常に快適で、4K/60fpsの動画再生もスムーズであると報告されています。
  • その他のミニPC/ノートPC: Amazonのカスタマーレビュー 27 では、MINISFORUM製の7735HS搭載ゲーミングミニPCについて、「サイズに対しての性能がとんでもないレベル」といった高評価が見られる一方で、冷却ファンの音やWiFiの通信速度に関しては意見が分かれる様子も伺えます。YouTubeチャンネルでも、様々な7735HS搭載ミニPCのレビューが行われており 28、FFXIVベンチマーク(例: 最高品質で平均36fps、軽量品質で平均41fps 28)や、他のゲーム(例: Japanese Drift Master 30)での動作状況、コストパフォーマンスの高さなどが議論されています。

6.2. 解像度・画質設定別のプレイアビリティ

レビュー結果を総合すると、Ryzen 7 7735HS(Radeon 680M)のゲームパフォーマンスは、解像度と画質設定に大きく依存します。

  • フルHD (1920×1080): ほとんどのレビューで標準的なテスト解像度として採用されています。
  • 低〜中設定: Apex Legends, Counter Strike 2, Valorant, FFXIV, レインボーシックス シージ, 原神, モンスターハンターライズなど、多くの人気タイトルやeスポーツタイトルにおいて、平均60FPS前後の比較的快適なプレイが可能です 6
  • 高〜最高設定: ドラゴンクエストXのような軽量なゲームや、レインボーシックス シージのように最適化が進んだタイトルでは高設定でも快適な場合があります 6。しかし、中量級以上の多くのゲームではフレームレートが60FPSを割り込むことが多く、スムーズなプレイのためには画質設定を下げる必要が出てきます 6
  • WQHD (2560×1440) 以上: 内蔵GPUのみでこの解像度でゲームを快適にプレイすることは、ほとんどのタイトルで困難です。

6.3. 留意点

実環境でのパフォーマンスを評価する際には、以下の点に留意する必要があります。

  • 冷却とTDP: ミニPCやノートPCでは、筐体サイズや設計によって冷却能力に差があります。高負荷が長時間続くと、CPUやGPUの温度上昇を抑えるために性能が制限される「サーマルスロットリング」が発生し、フレームレートが不安定になったり低下したりする可能性があります 17。デバイスのTDP設定もパフォーマンスに直接影響します。
  • メモリ: Radeon 680MはシステムメモリをVRAMとして共有するため、メモリの速度と容量がグラフィックス性能に影響を与えます。特に、LPDDR5-6400のような高速なメモリを搭載している場合、性能を引き出しやすくなります 1。デュアルチャネル構成であることも重要です。
  • ドライバ: AMDは定期的にグラフィックスドライバを更新しており、新しいドライバによって特定のゲームのパフォーマンスが改善されたり、互換性が向上したりする可能性があります。

6.4. ミニPCにおけるゲーミングの可能性拡大

Ryzen 7 7735HSと、その強力な内蔵GPUであるRadeon 680Mの組み合わせは、特にミニPCの分野において新たな可能性を切り開きました。従来、ミニPCは主に事務作業、ウェブブラウジング、メディア再生といった比較的負荷の軽い用途が中心でした。しかし、7735HSの登場により、これらの小型デバイスでも、設定を調整すれば多くのPCゲームをプレイできるようになりました 6

これは、省スペース性を重視するユーザーや、リビングルームなどで気軽にPCゲームを楽しみたいユーザーにとって大きなメリットとなります。7735HS搭載ミニPCは、設置場所を取らずに、仕事や学習からエンターテイメント、そしてカジュアルなゲーミングまで、一台で幅広い用途をこなせる多目的デバイスとしての価値を高めています。ただし、本格的な高画質・高フレームレートでのゲーミング体験を求める場合は、依然として高性能なディスクリートGPUを搭載したゲーミングPCやゲーミングノートPCが必要であることは言うまでもありません。また、ミニPCというフォームファクタの制約上、高負荷時の冷却性能がパフォーマンスの持続性を左右する重要な要素となる点も考慮すべきです 17

7. 総合評価と分析

ここまでの技術仕様、ベンチマーク結果、比較分析、実環境でのパフォーマンス評価を踏まえ、AMD Ryzen 7 7735HSの総合的な評価を行います。

7.1. 性能特性の要約

  • CPU性能: 前世代のRyzen 7 6800HSとほぼ同等の、堅実な8コア16スレッド性能を提供します。マルチタスク処理や一部のCPU負荷が高い作業(例: 動画エンコード 6)には十分な能力を持ちますが、最新のZen 4世代CPUや、競合するIntel Core i7 Hシリーズ(特に第13世代以降)と比較すると、特にシングルコア性能において見劣りする場面が見られます。パフォーマンスは搭載デバイスのTDP設定と冷却能力に大きく左右される点も特徴です。
  • iGPU性能 (Radeon 680M): このプロセッサー最大の強みであり、現行の内蔵GPUとしてはトップクラスの性能を誇ります。多くの競合製品の内蔵GPUを凌駕し、フルHD解像度であれば、画質設定を調整することで多くの人気PCゲームをプレイ可能なレベルにあります。
  • 電力効率: TSMC 6nmプロセスと成熟したZen 3+アーキテクチャにより、性能に対する電力効率は良好ですが、絶対的な最高性能を追求するタイプのプロセッサーではありません。

7.2. 長所

  • 卓越した内蔵GPU性能: Radeon 680Mにより、ディスクリートGPUなしでもカジュアルゲーミングや、ある程度のグラフィックス処理能力を要する作業(軽い写真・動画編集など)が可能です。これは、薄型ノートPCやミニPCの用途を大きく広げます。
  • 堅実なマルチコア性能: 8コア16スレッド構成は、現代的なコンピューティング環境におけるマルチタスク処理や、複数のアプリケーションを同時に利用する際に十分な能力を発揮します。
  • 実績のあるアーキテクチャ: Zen 3+は、市場で広く採用され、安定性と効率性において定評のあるアーキテクチャです。
  • 幅広い採用実績: 薄型ノートPCからゲーミングノートPC、高性能ミニPCまで、多様なフォームファクタの製品に搭載されており、選択肢が豊富です 8

7.3. 短所

  • 前世代からの限定的なCPU性能向上: CPUコア性能に関しては、Ryzen 7 6800HSからの進化がごくわずかであり、実質的にはリフレッシュモデルに過ぎません。6800HSからの買い替えメリットは小さいです。
  • 競合に対するCPU性能: 最新世代のIntel Core i7 Hシリーズ(例: 13世代)や、同じAMD 7000シリーズ内でもZen 4アーキテクチャを採用するモデル(例: Ryzen 7 7840HS)と比較すると、CPUの絶対的な処理能力、特にシングルコア性能では劣る場面が多くなります 9
  • 「7000シリーズ」という名称による誤解の可能性: シリーズ名から最新アーキテクチャ(Zen 4)を期待するユーザーにとっては、CPU性能面で期待外れとなる可能性があります 2。製品選択時には、モデル番号の3桁目(7735HS)を確認するなど、注意が必要です。

7.4. 推奨される用途シナリオ

以上の長所と短所を踏まえると、Ryzen 7 7735HSは以下のようなユーザーや用途に適していると考えられます。

  • カジュアルゲーマー: 高価なディスクリートGPU搭載機は必要ないが、設定を調整してでも様々なPCゲーム(特にeスポーツタイトルや中量級ゲーム)を楽しみたいユーザー。
  • マルチメディア用途: 高解像度動画のストリーミング再生 24 や、趣味レベルでの写真編集・軽い動画編集など、ある程度のグラフィックス性能を必要とするユーザー。
  • 省スペースPCユーザー: 設置場所を取らず、かつ内蔵GPU性能が高いミニPCを求めているユーザー。リビングPCとしても適しています。
  • バランス重視のノートPCユーザー: CPU性能、グラフィックス性能、バッテリー持続時間(電力効率)のバランスが取れた、比較的手頃な価格帯の薄型〜標準ノートPCを探しているユーザー(ただし、CPU性能を最優先する場合は他の選択肢も検討すべき)。

8. 結論

AMD Ryzen 7 7735HSは、前世代の成功モデルであるRyzen 7 6800HSをベースとした改良版プロセッサーです。CPUコアのアーキテクチャはZen 3+(Rembrandt R)であり、CPU性能自体には前世代からの大きな飛躍はありません。しかし、その最大の特長は、クラス最高レベルの性能を持つ内蔵GPU「Radeon 680M」を継承している点にあります。

この強力な内蔵GPUにより、Ryzen 7 7735HSは、ディスクリートGPUを搭載しないシステムにおいても、フルHD解像度であれば画質設定を調整することで多くの人気PCゲームをプレイ可能なレベルのグラフィックス性能を提供します。これは、薄型ノートPCや特にミニPCの用途を、従来の事務作業やマルチメディア鑑賞から、カジュアルなゲーミングへと大きく広げるものです。

CPU性能については、8コア16スレッドによる堅実なマルチタスク能力を持ちますが、最新の競合Intel CPU(特に第13世代以降)や、AMD自身の最新アーキテクチャであるZen 4を搭載したCPUと比較すると、特にシングルコア性能において劣る場合があります。

したがって、AMD Ryzen 7 7735HSは、CPUの絶対性能よりも統合グラフィックス性能を重視するユーザー、ディスクリートGPUなしでPCゲームを楽しみたいカジュアルゲーマー、マルチメディア用途が中心のユーザー、そして高性能なミニPCを求めるユーザーにとって、コストパフォーマンスに優れた非常に魅力的な選択肢となります。一方で、CPU処理能力を最優先するタスク(高度なクリエイティブワーク、プログラミング、科学技術計算など)が主目的である場合は、他の最新CPUを検討する価値があります。

最終的な製品選択においては、単にCPU名だけでなく、搭載されるデバイスのTDP設定、冷却システムの能力、メモリ構成なども考慮に入れることが、期待通りのパフォーマンスを得る上で重要です。

引用文献

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