1. はじめに
本レポートは、AMD Ryzen 7 7735Uモバイルプロセッサーの性能特性について、主に日本語のウェブサイトから収集した公開情報に基づき、詳細な分析を提供することを目的とします。Ryzen 7 7735Uは、近年の薄型軽量ノートPC市場において、要求される性能とバッテリー駆動時間のバランスを実現する上で重要な役割を担う製品です。本レポートでは、その基盤となる技術仕様、各種ベンチマークテストにおけるスコア、競合製品との性能比較、そして実際のアプリケーション利用におけるパフォーマンスを包括的に評価し、その特性を明らかにします。分析にあたっては、国内のテクノロジー解説サイト、製品レビュー記事、ベンチマークデータベース、およびメーカー公式情報などを参照し、得られた情報を統合的に考察します。引用元については、参照した情報源のサイト名を明記します。
2. AMD Ryzen 7 7735U 技術仕様
AMD Ryzen 7 7735Uプロセッサーの性能を理解する上で、その根幹をなす技術仕様の把握は不可欠です。
2.1. アーキテクチャと主要諸元
Ryzen 7 7735Uは、AMDの「Zen 3+」CPUアーキテクチャを採用しています 1。これは、前世代にあたるRyzen 6000シリーズモバイルプロセッサー(開発コードネーム: Rembrandt)で採用されたアーキテクチャをベースとしたリフレッシュ版であり、「Rembrandt-R」とも称されます 3。最新世代のZen 4アーキテクチャ(例: Ryzen 7 7840Uに採用)とは異なる世代のアーキテクチャです 5。Zen 3+アーキテクチャの採用は、絶対的な最先端ではないものの、十分に成熟し最適化された設計に基づいていることを意味します。これは製造プロセスの安定性やコスト効率に寄与する可能性がある一方で、6nmプロセス技術 6 と組み合わせることで、特に薄型ノートPCで重要となる電力効率の最適化が図られていると考えられます。
主要なスペックは以下の通りです。
- 製造プロセス: TSMCの6nm FinFETプロセス技術を採用しています 6。
- コア/スレッド数: 8個のCPUコアと16個の処理スレッドを備えています 1。これにより、複数のタスクを同時に処理するマルチタスク性能に優位性があります。
- 動作クロック周波数: ベース(定格)クロックは2.7GHz、負荷状況に応じて自動的にクロックを引き上げる最大ブーストクロックは最大4.75GHzに達します 2。
- キャッシュメモリ: CPUコアが高速にデータアクセスを行うためのキャッシュメモリとして、L1キャッシュ 512KB、L2キャッシュ 4MB、L3キャッシュ 16MBを搭載しています 2。合計で20MBを超えるキャッシュ容量は、処理性能の向上に貢献します。
- TDP (Thermal Design Power): プロセッサーの熱設計電力の指標となるTDPは、標準で28Wに設定されています 2。しかし、AMD Configurable TDP (cTDP) 技術により、ノートPCメーカーは製品の設計(冷却能力やターゲットとする用途)に応じて、TDPを15Wから30W(または28W)の範囲で調整することが可能です 4。このcTDPの柔軟性は、メーカーがバッテリー駆動時間重視の設計から、より性能を優先する設計まで、幅広い製品展開を可能にする一方で、同じRyzen 7 7735Uを搭載していても、実際の製品によって持続的なパフォーマンスやバッテリー消費特性に差異が生じる要因となります。
- ソケット: ノートPC向けのはんだ付けパッケージであるFP7を採用しています 1。
2.2. 内蔵グラフィックス: AMD Radeon 680M
Ryzen 7 7735Uは、CPUコアに加えて高性能なグラフィックス処理ユニット (GPU) を内蔵しています。
- モデル名: AMD Radeon 680M グラフィックス 3。
- アーキテクチャ: 高度なグラフィックス処理能力を持つ「RDNA 2」アーキテクチャに基づいています 8。これは、従来のモバイル向け内蔵GPU(Vegaアーキテクチャなど)から飛躍的な性能向上を実現した世代です。
- コア数: 12個のグラフィックス演算ユニット (Compute Units, CU) を搭載しています 3。
- 動作周波数: 最大2200 MHz (2.2 GHz) の高い周波数で動作します 3。
- 機能: USB Type-Cポート経由での映像出力 (DisplayPort Alternate Mode) や、最大4台の外部ディスプレイへの同時出力に対応します 6。最新のグラフィックスAPIであるDirectX 12もサポートしています 11。
Radeon 680Mの搭載は、Ryzen 7 7735Uの大きな特徴の一つです。RDNA 2アーキテクチャによる高い性能は、ディスクリートGPU(単体GPUチップ)を搭載しない薄型ノートPCにおいても、従来では難しかった軽度から中程度の3Dゲームのプレイや、GPUアクセラレーションを活用するクリエイティブアプリケーション(写真編集、動画編集など)の実行を可能にします。これは、特に競合となるIntelプロセッサーの内蔵GPU(例: Iris Xe Graphics)と比較した場合に、明確なアドバンテージとなり得る要素です 12。
2.3. メモリおよび接続性
プロセッサーの性能を最大限に引き出すためには、高速なメモリや周辺機器との接続性も重要です。
- メモリサポート: 高速な次世代メモリ規格であるDDR5-4800 (SO-DIMM/UDIMMモジュール形式) および LPDDR5-6400 (マザーボード直付け形式) に対応しています 1。データ転送効率を高めるデュアルチャネル構成をサポートし 1、最大で64GBの大容量メモリを搭載可能です 1。DDR5/LPDDR5への対応は、前世代のDDR4と比較してメモリ帯域幅(単位時間あたりに転送できるデータ量)を大幅に向上させます。この向上した帯域幅は、CPU処理だけでなく、特にシステムメモリをグラフィックスメモリとして共有する内蔵GPU (Radeon 680M) の性能に直接的な好影響を与え、ボトルネックを軽減しグラフィックス性能の向上に大きく寄与します。
- PCI Expressサポート: 高速なデータ転送規格であるPCIe 4.0に対応しています 3。CPUから合計20レーンが提供され、そのうち16レーンがグラフィックスカードやNVMe SSDなどの接続に利用可能です 6。これにより、PCIe 4.0対応の高速NVMe SSDの性能を最大限に引き出すことができ、OSやアプリケーションの起動時間短縮、大容量ファイルの高速な読み書きに貢献し、システム全体の応答性を向上させます。起動ドライブとしての利用や、RAID構成(RAID 0/1/10)もサポートされます 6。
- USBサポート: 最新の高速汎用インターフェースであるUSB4 (最大40Gbps) をネイティブでサポートしており 3、高速なデータ転送や外部ディスプレイ接続、ドッキングステーション利用などを可能にします。加えて、USB 3.2 Gen 2 (10Gbps) や USB 2.0 もサポートします 6。
- ネットワーク: Wi-Fi 6E や Bluetooth 5.1/5.3 といった最新のワイヤレス通信規格に対応したプラットフォームを構築可能です 3。一部の搭載製品では、高速な有線LANである2.5GbEポートも備えています 3。
表1: AMD Ryzen 7 7735U 主要技術仕様
項目 | 仕様 | 主な引用元 |
アーキテクチャ | Zen 3+ (Rembrandt-R) | 1 |
製造プロセス | TSMC 6nm FinFET | 6 |
コア/スレッド数 | 8コア / 16スレッド | 1 |
ベースクロック | 2.7 GHz | 2 |
最大ブーストクロック | 最大 4.75 GHz | 2 |
L1/L2/L3キャッシュ | 512KB / 4MB / 16MB | 2 |
標準TDP | 28W | 2 |
Configurable TDP (cTDP) | 15W – 30W | 4 |
内蔵GPU | AMD Radeon 680M | 3 |
GPUコア数 (CU) | 12 | 3 |
GPU最大周波数 | 2200 MHz | 3 |
メモリサポート | DDR5-4800 / LPDDR5-6400 | 1 |
PCIeサポート | PCIe 4.0 | 3 |
3. CPU性能ベンチマーク分析
Ryzen 7 7735UのCPUとしての純粋な処理能力を評価するため、主要なベンチマークテストの結果を分析します。
3.1. Cinebench R23 (Multi/Single Core)
Cinebench R23は、CPUの3Dレンダリング性能を測定する標準的なベンチマークであり、マルチコア(全コア使用)とシングルコア(1コアのみ使用)の性能を評価します。
- 収集データ:
- Sky7PC.jpは、目安値としてマルチコア約11000点、シングルコア約1490点を提示しています 17。
- Komameblog.jpがレビューしたASUS ZenBook 15搭載機では、マルチコア11379点を記録しました 11。
- LaptopMedia.comがテストした同モデルでは、マルチコア12467点というさらに高いスコアが報告されています 18。
- 一方で、For-Real.jpの比較表ではマルチコア8013点という値も見られます(シングルコアは2031点と他ソースより高い)12。
- MyNavi NewsやMapion Newsの記事では、マルチコア性能はモバイル向けCPUとしては「それなり」としつつも、シングルコア性能はZen 3+アーキテクチャとして「妥当」なスコアであり、特に1kgを切るような軽量ノートPCに搭載されるCPUとしては十分に高い性能であると評価しています 15。
- 分析: Cinebench R23のスコア、特にマルチコア性能は、テストを実行するノートPCのTDP設定(cTDP)や冷却システムの能力に大きく影響されるため、報告される値にはばらつきが見られます。例えば、For-Real.jpで見られる低いマルチコアスコア 12 と、Komameblog.jpやLaptopMedia.comで報告されている高いスコア 11 の差は、テスト時の持続的な電力供給能力や排熱能力の違いを反映している可能性があります。一般的な傾向としては、マルチコアで11000点前後、シングルコアで1500点弱が一つの目安となりそうです 17。これは、薄型ノートPC向けのプロセッサーとしては強力なマルチスレッド性能を示しており、シングルコア性能もZen 3+アーキテクチャの特性を反映した良好なレベルです 15。
このスコアのばらつきは重要な示唆を含んでいます。それは、ユーザーがRyzen 7 7735U搭載ノートPCを選ぶ際には、CPUの型番だけでなく、購入を検討している具体的な製品のレビュー(特に冷却性能や実際のパフォーマンスに関する評価)を確認することが極めて重要であるということです。同じプロセッサーでも、冷却設計が優れていたり、比較的高めのTDP設定(例えば28Wを維持できる設計)が採用されていたりするモデル 11 では、より高いマルチコア性能を継続的に発揮できる可能性があります。逆に、極端に薄型軽量化されたモデル 15 や、バッテリー駆動時間を優先してTDPを低めに設定しているモデルでは、本来の性能ポテンシャルが抑制される場合があると考えられます。
3.2. Geekbench 6 (Multi/Single Core)
Geekbench 6は、CPUの演算性能を、整数演算、浮動小数点演算、機械学習推論など、より多様なワークロードで測定するベンチマークです。
- 収集データ:
- For-Real.jpは、マルチコア7692点、シングルコア2031点とし、「ミドルクラスの性能」と評価しています 12。同サイトの別記事ではマルチコア8013点という言及もあります 20。
- Geekbench公式サイトのプロセッサーページ (Browser.Geekbench.com) では、多数のテスト結果に基づく平均シングルコアスコアとして1776点が示されています 21。
- LaptopMedia.comのテストでは、マルチコア7956点、シングルコア2070点という結果が得られています 18。
- 分析: Geekbench 6のスコアも情報源によって差が見られますが、シングルコア性能ではおおむね1800点から2000点強、マルチコア性能では7700点から8000点あたりが中心的な値と推測されます 12。For-Real.jpによる「ミドルクラス」という評価 12 は、デスクトップ向けやより高TDPのモバイル向けCPUを含めた広い市場の中での位置づけを示唆しています。
Geekbenchは比較的短時間で完了するテストが多く、CPUの瞬間的な最大性能(バースト性能)を反映しやすい傾向があります。ここでもシングルコア性能の高さが確認でき、Zen 3+アーキテクチャの強みが表れています。マルチコア性能も8コア16スレッド構成に見合った堅実なスコアです。Cinebench R23と同様に、ノートPCごとのTDP設定の違いや、OSのバージョン、ドライバの状態などがスコアの変動要因となっている可能性が考えられます。
3.3. PassMark CPU Mark
PassMark CPU Markは、整数演算、浮動小数点演算、素数計算、圧縮、暗号化、物理演算など、多岐にわたるテストを実行し、それらを総合してCPUの全体的な処理能力を評価するベンチマークです。
- 収集データ:
- For-Real.jpは、CPU Markスコアとして19706点を報告しています 12。
- Cpubenchmark.netのCPUページでは、平均スコアとして20,985点が掲載されています 22。 (注: 同ページ内の比較表に表示される低い数値 22 は、おそらくシングルスレッド性能のスコアであり、総合CPU Markとは異なります。)
- Nanoreview.netでは、電力効率の指標としてPassmark CPU MarkスコアをTDPで割った値 (Performance Per Watt) が747.3 PPWであると示されています 23。
- 分析: PassMark CPU Markのスコアは、約20000点前後が期待できるレベルにあるようです 12。For-Real.jpが示す目安 12 によれば、18000点以上のスコアはゲーミングPCや専門的な作業(編集など)を行う機種に搭載されることが多いレベルとされており、このことからRyzen 7 7735Uが薄型ノートPC向けとしては非常に高い総合性能を持っていることがうかがえます。
PassMarkは約20000点というスコアにより、日常的な作業はもちろん、ある程度の負荷がかかるタスクまで快適にこなせる潜在能力があることを裏付けています。電力効率に関する指標 23 も参考になりますが、絶対的な効率(ワットあたりの性能)では、より新しいZen 4アーキテクチャを採用するプロセッサー(例: Ryzen 7 7840U 5)には及ばない可能性があります。これは、7735Uが高い絶対性能を提供する一方で、最新世代と比較すると効率面では若干のトレードオフがある(その分、コスト面での利点がある可能性がある)ことを示唆しています。
表2: AMD Ryzen 7 7735U 主要CPUベンチマークスコア (目安)
ベンチマーク名 | 平均的なスコア範囲 (目安) | 主な引用元サイト名 |
Cinebench R23 Multi | 11000 – 12000 点前後 | Sky7PC.jp 17, Komameblog.jp 11, LaptopMedia.com 18 |
Cinebench R23 Single | 約 1500 点 | Sky7PC.jp 17, MyNavi News 19 |
Geekbench 6 Multi | 約 7800 点 | For-Real.jp 12, LaptopMedia.com 18 |
Geekbench 6 Single | 約 1800 – 2000 点 | For-Real.jp 12, Geekbench Browser 21, LaptopMedia.com 18 |
PassMark CPU Mark | 約 20000 点 | For-Real.jp 12, Cpubenchmark.net 22 |
(注: スコアは搭載PCの設計やテスト環境により変動します)
4. 内蔵GPU (Radeon 680M) 性能評価
Ryzen 7 7735Uの大きな魅力である内蔵GPU、Radeon 680Mのグラフィックス性能を評価します。
4.1. 3DMark ベンチマーク
3DMarkは、GPUのゲーミング性能を測定するための標準的なベンチマークスイートです。
- 収集データ:
- For-Real.jpは、DirectX 12ベースのテストであるTime SpyのGraphics Scoreとして5098点を報告し、NVIDIAのエントリーレベル・ディスクリートGPUであるGeForce MX550と同等レベルであると評価しています 12。
- Videocardbenchmark.netでは、PassMark G3D Markのスコアとして4818点が示されています 25。同サイトのハイエンドGPUリストでは、Radeon Ryzen 7 Pro 7735U(7735Uのビジネス向け版)が5142点としてリストアップされています 26。
- 分析: 3DMark Time Spy Graphicsで5000点を超えるスコア 12 は、CPU内蔵GPUとしては非常に高い水準です。特に、単体のGPUチップであるMX550に匹敵するという評価 12 は、Radeon 680Mの性能の高さを際立たせています。PassMark G3D Markでも約4800点から5100点というスコア 25 は、その高いグラフィックス処理能力を裏付けています。
このRadeon 680Mの性能レベルは、従来のノートPCにおける内蔵GPUのイメージを大きく変えるものです。これにより、これまで別途ディスクリートGPUの搭載が必須と考えられていたような、軽度の3Dゲームや、GPUアクセラレーションを利用するクリエイティブアプリケーション(写真・動画編集ソフトなど)が、追加のGPUチップなしに薄型軽量ノートPCでも実用的な速度で動作する可能性が大きく広がります。これは、携帯性を損なわずに多様な用途に対応できるPCを求めるユーザーにとって、非常に大きなメリットとなります。
4.2. ゲーム性能
ベンチマークスコアだけでなく、実際のゲームにおけるパフォーマンスも重要です。
- 収集データ:
- Komameblog.jpのレビューでは、処理負荷の高い最新の重量級ゲームタイトルを快適にプレイするのは難しいものの、中程度の負荷のタイトルであれば、解像度や画質設定を調整することでプレイ可能なレベルであると評価されています。本格的なゲーミングノートPCの代替にはならないが、作業の合間の息抜き程度であれば十分に対応できる、としています 11。
- AMDの公式情報では、競合するIntel Core i7-1280Pプロセッサーと比較して、特定のゲームタイトルにおいて最大108%高いゲーミング性能を発揮すると主張しています 27。(ただし、比較対象のCPUやテスト条件の詳細には注意が必要です。)
- NECのLAVIE N16製品紹介ページでは、「ゲームでも快適な動作を実現します」との記載が見られます 28。(これはマーケティング上の表現として捉えるべきですが、一定のゲーム性能を持つことを示唆しています。)
- 分析: 実ゲームのプレイにおいては、最新のAAAタイトルを高画質・高フレームレートで楽しむことは困難ですが、Radeon 680Mは比較的軽量なeスポーツタイトル(例: Valorant, League of Legends, Counter-Strike 2)や、少し前の世代の人気ゲーム、あるいはグラフィックス負荷が中程度のタイトルであれば、解像度(例: フルHD / 1920×1080 以下)やゲーム内の画質設定を適切に調整(例: 中~低設定)することで、プレイ可能なフレームレートを維持できる性能を持っていると評価できます 11。AMD自身も競合製品に対するゲーミング性能の優位性をアピールしています 27。
Radeon 680Mは、「本格的なゲーミング体験」を提供するものではありませんが、「カジュアルゲーミング」や「ライトゲーミング」と呼ばれる領域を十分にカバーできる能力を持っています。普段は仕事や学業にPCを使用しつつ、たまに息抜きでゲームを楽しみたい、といったユーザー層のニーズによく合致すると言えます。さらに、AMDのアップスケーリング技術であるFidelityFX Super Resolution (FSR) に対応しているゲームであれば、描画負荷を軽減しつつ画質を維持し、より高いフレームレートを得られる可能性もあります。
表3: AMD Radeon 680M グラフィックス性能指標
項目 | 指標・評価 | 主な引用元サイト名 |
3DMark Time Spy Graphics | 約 5100 点 (MX550相当) | For-Real.jp 12, Videocardbenchmark.net 26 |
PassMark G3D Mark | 約 4800 – 5100 点 | Videocardbenchmark.net 25 |
ゲーム性能評価 | 中量級タイトルを画質・解像度調整でプレイ可能 | Komameblog.jp 11, AMD.com 27, NEC LAVIE 28 |
(注: スコアやプレイ可否はゲームタイトル、設定、ドライババージョンにより変動します)
5. 競合・関連CPUとの性能比較
Ryzen 7 7735Uの市場における位置づけを理解するため、競合するIntelプロセッサーや、他のAMD Ryzenプロセッサーとの性能比較を行います。
5.1. vs Intel Core プロセッサー (e.g., i7-1355U, i7-1260P)
- 収集データ:
- HP Directplusの比較表では、Core i7-1355U (10コア/12スレッド, 最大5.0GHz, 12MBキャッシュ) と並記されています 1。コア数はIntelが多いですが、スレッド数は7735U (8コア/16スレッド) の方が多くなっています。
- For-Real.jpのベンチマーク比較 12 では、PassMark CPU Markにおいて Ryzen 7 7735U (19706) が Core i7-1355U (16378) を上回っています。Geekbench 6 シングルコアでは、Core i5-1335Uが2183点であることから、i7-1355Uはおそらく7735U (2031) を上回るか同等レベルと推測されます。PCMark 10総合スコアでは、7735U (7159) がCore i5-1235U (4716) を大きく上回っています。最も差が大きいのはグラフィックス性能で、3DMark Time Spy Graphicsにおいて 7735U (Radeon 680M: 5098) が Core i7-1260P (Iris Xe: 3263) を大幅に上回っています。
- Komameblog.jpの比較 11 では、Cinebench R23 マルチコアで 7735U (11379) が Core i7-1260P (9254) を上回る結果となっています。
- AMDは、ゲーム性能においてCore i7-1280P(i7-1260Pより上位のPシリーズ)に対して優位性があると主張しています 27。
- 分析: CPUの処理性能に関して、マルチスレッド性能を重視するタスク(例: 動画エンコード、複数アプリ同時実行、Cinebench R23 Multi, PassMark CPU Mark)においては、Ryzen 7 7735Uは競合するIntelの同クラスUシリーズプロセッサー(例: Core i7-1355U)や、一世代前のPシリーズ(例: Core i7-1260P)に対して優位性を示す傾向が見られます 11。一方で、シングルスレッド性能が重要となるタスク(例: 一部の古いアプリケーション、一部のゲーム、Geekbench 6 Single)では、Intel CPUが同等か、わずかに上回る場合もあるようです 12。
しかしながら、両者の最も大きな差別化要因は内蔵GPUの性能です。Ryzen 7 7735Uに統合されたRadeon 680Mは、Core i7-1260Pやi7-1355Uなどに搭載されているIntel Iris Xe Graphicsと比較して、グラフィックス処理能力で大幅なアドバンテージを持っています 12。
この比較から、どちらのプロセッサーが適しているかはユーザーの主な用途によって異なると言えます。純粋なCPUのシングルスレッド性能が最優先で、内蔵GPUの性能をあまり問わない用途(特定業務ソフトや軽微なオフィス作業など)であれば、Intel CPUも有力な選択肢となり得ます。しかし、マルチタスク処理、GPUアクセラレーションを活用するクリエイティブ作業(特にグラフィックス負荷が高いもの)、そして何よりもゲームやその他のグラフィックス性能を重視する場合には、Ryzen 7 7735U(とRadeon 680Mの組み合わせ)の方が、総合的なパフォーマンスとユーザー体験において優位に立つ可能性が高いと考えられます。
5.2. vs 他のAMD Ryzen プロセッサー (e.g., R7 6800U, R7 7840U, R7 7730U)
- 収集データ:
- vs Ryzen 7 6800U: Ryzen 7 7735Uは、Ryzen 7 6800Uのリフレッシュ版であり、同じZen 3+アーキテクチャとRadeon 680Mグラフィックスを搭載しています 3。基本的な設計は共通しており、動作クロック周波数がわずかに向上している可能性はありますが 2、実際の性能差は小さいと考えられます。Sky7PC.jpのCinebench R23比較では、7735U (マルチ11000/シングル1490) と6800U (マルチ10800/シングル1470) は僅差です 17。Komameblog.jpのGPU性能評価でも「あまり変わらない」とされています 11。
- vs Ryzen 7 7840U: Ryzen 7 7840Uは、より新しい「Zen 4」CPUアーキテクチャと、「RDNA 3」ベースのRadeon 780M GPUを採用しています。アーキテクチャの世代が新しいため、CPUのクロックあたりの性能 (IPC) と電力効率の両面で、7735Uを上回ることが期待されます 5。Redditでの議論 5 では、性能面で約20%の向上を示すベンチマーク情報に触れつつ、バッテリー効率においても7840Uが優れているとの見解が示されています。
- vs Ryzen 7 7730U: Ryzen 7 7730Uは、さらに前の世代である「Zen 3」アーキテクチャ(開発コードネーム: Barcelo-R、Ryzen 5000シリーズのリフレッシュ版)に基づいており、内蔵GPUも旧世代のRadeon Vegaグラフィックスです。CPU性能(特にマルチコア)では7735Uに劣り 20、内蔵GPU性能においてはRadeon 680M (7735U) とRadeon Vega (7730U) の間にアーキテクチャレベルでの大きな性能差が存在します。Note.comの記事 29 では、特定の機種比較において、シングルスレッド性能が重要となる軽作業では7730U搭載機の方がキビキビ動く感触があったとしつつ、マルチスレッド性能では7735Uがやや優勢だったと報告されています。(ただし、これはOS設定、SSD性能、ドライバなど、CPU以外の要因が影響している可能性も考慮する必要があります。)
- 分析:
- 対 6800U: 性能差はごくわずかであり、実用上はほぼ同等と考えてよいでしょう。搭載製品の価格や入手性、その他のスペック(ディスプレイ、メモリ容量など)で選択するレベルの違いです。
- 対 7840U: 7840UはCPU・GPUともに明確に上位の性能と効率を持ちます。パフォーマンスと電力効率の両方を最大限に追求するならば7840Uが望ましい選択肢ですが、一般的に搭載製品の価格も7735U搭載機より高くなる傾向があります。
- 対 7730U: 7735UはCPU性能(特にマルチコア処理)、そしてGPU性能の両面で7730Uを大きく上回ります。7730Uはより低価格帯の製品に採用されることが多く、性能要求が高くない用途向けです。29でのシングルスレッドの体感差に関する記述は、特定の環境下での結果である可能性が高く、総合的な性能では7735Uが有利です。
これらの比較から、Ryzen 7 7735Uは、AMDのモバイルCPUラインナップにおいて、最新・最高の性能を持つZen 4世代(7040シリーズ)と、よりコストを抑えたZen 3世代(7030シリーズ)の中間に位置づけられる、性能とコストのバランスを重視したモデルであると理解できます。特に、前世代(6000シリーズ)で高い評価を得た強力なRadeon 680Mグラフィックスを、おそらく最新のZen 4世代よりも抑えられたコストで提供できる点が、このプロセッサーの戦略的な価値と言えるでしょう。Ryzen 7 6800U搭載機からの乗り換えによる性能向上メリットは小さいですが、Ryzen 7 7730Uやそれ以前の世代(Ryzen 5000シリーズなど)からのアップグレードであれば、明確な性能向上が期待できます。
表4: AMD Ryzen 7 7735U と主要競合/関連CPUの性能比較 (目安)
CPUモデル | アーキテクチャ | 内蔵GPU | Cinebench R23 Multi (目安) | PassMark CPU Mark (目安) | 3DMark Time Spy Gfx (目安) | 総合評価 (7735U比) | 主な引用元 |
Ryzen 7 7735U | Zen 3+ | Radeon 680M | ~11500 | ~20000 | ~5100 | 基準 | 12 |
Core i7-1355U | Raptor Lake-U | Iris Xe (96EU) | ~10000 (?) | ~16000 | ~1800 | CPU Multi: やや劣る, CPU Single: 同等以上, GPU: 大幅に劣る | 1 |
Core i7-1260P | Alder Lake-P | Iris Xe (96EU) | ~9300 | ~17000 | ~1800 | CPU Multi: 劣る, CPU Single: 同等, GPU: 大幅に劣る | 11 |
Ryzen 7 6800U | Zen 3+ | Radeon 680M | ~10800 | ~19000 | ~5000 | ほぼ同等 | 11 |
Ryzen 7 7840U | Zen 4 | Radeon 780M | ~14000+ | ~25000+ | ~6000+ | CPU Multi/Single/GPU/効率 全てで優れる (価格も高い傾向) | 5 |
Ryzen 7 7730U | Zen 3 | Radeon Vega 8 | ~9300 | ~14000 | ~1500 | CPU Multi: 劣る, CPU Single: やや劣る可能性, GPU: 大幅に劣る (低価格帯向け) | 11 |
(注: スコアは目安であり、搭載PCや環境により大きく変動します。Intel CPUのCinebenchスコアは推定値を含む場合があります。)
6. 実アプリケーションにおけるパフォーマンス
ベンチマークスコアだけでなく、実際のソフトウェア利用におけるパフォーマンスも重要です。
6.1. 生産性タスク
日常的なオフィスワークや学習活動におけるパフォーマンスを評価します。
- 収集データ:
- PCMark 10のテスト結果では、「Essentials」(Web会議、ブラウジング、アプリ起動など)および「Productivity」(表計算、文書作成)のコンポーネントスコアが非常に高いことが報告されています 12。Mapion Newsの記事では、これらのスコアが快適さの目安とされる基準値を2倍以上上回っていると指摘しています 15。For-Real.jpでも高いスコア(Essentials 7590, Productivity 8540)が示されています 12。
- PC Watchのレビュー記事では、類似のプロセッサーであるRyzen 7 7735HS(ミニPC向け)搭載機について、8コア16スレッド、16GBメモリ、M.2 SSDの組み合わせにより「ストレスなく作動する」と評価しています 3。
- 一方で、Note.comの記事では、特定の軽作業においてRyzen 7 7730U搭載機の方が体感的にキビキビ動いたとの記述もあります 29。(ただし、前述の通り、これは特定の環境やチューニングによる可能性が考えられます。)
- 分析: PCMark 10の結果が示すように、Ryzen 7 7735Uは、Webブラウジング、Microsoft Officeスイート(Word, Excel, PowerPointなど)の利用、オンライン会議といった日常的な生産性タスクにおいて、非常に高いパフォーマンスを発揮します 12。8コア16スレッドの高いマルチタスク性能と、DDR5/LPDDR5メモリ、高速なPCIe 4.0対応SSDといった最新プラットフォーム技術の組み合わせにより、複数のアプリケーションを同時に起動したり、多数のブラウザタブを開いたりするような使い方でも、快適な動作が期待できます 3。
この高い基本性能は、一般的なビジネス用途や学生の利用においては、十分すぎるほどの能力を持っていると言えます。複数の作業を並行して行う場合でも、動作が遅延したり、応答性が低下したりする場面は少ないでしょう。29で見られた体感に関する記述は、特定の低負荷シナリオでの応答性チューニングの違いなど、限定的な状況を反映している可能性があり、全体的な生産性タスクにおける処理能力は高いと評価するのが妥当です。
6.2. クリエイティブ作業
写真編集、動画編集、グラフィックデザインなどのクリエイティブな作業における適性を評価します。
- 収集データ:
- PCMark 10の「Digital Content Creation」(写真編集、動画編集、3Dレンダリング/ビジュアライゼーション)コンポーネントにおいても、高いスコアが報告されています 12。Mapion Newsでは目安の2倍以上 15、For-Real.jpでも7159点と高評価です 12。
- Komameblog.jpは、このDigital Content Creationスコアの高さを特筆し、「軽めの作品作りであれば、旧世代のゲーミングノートPCに匹敵するほどの性能」と評価しています 11。
- NEC LAVIE N16の製品紹介では、「クリエイティブ作業でも快適な動作を実現」と謳われています 28。
- For-Real.jpは、Geekbench 6のスコア分析から、3Dレンダリングやエンコード(マルチコア性能が重要)およびモデリングやCAD、編集中(シングルコア性能も重要)の性能を推測し、マルチコア・シングルコアともにミドルクラスの性能を持つと評価しています 12。
- 分析: PCMark 10のDigital Content Creationスコアや、Cinebench/Geekbenchで示された良好なマルチコア性能から、Ryzen 7 7735Uは、写真編集(例: Adobe Photoshop, Lightroom)、比較的軽度な動画編集(例: フルHD解像度レベルの編集)、簡単な3Dレンダリングやグラフィックデザインなど、ある程度のクリエイティブ作業に対応できる性能を持っていることが示唆されます 11。特に、強力なRadeon 680M内蔵GPUによるハードウェアアクセラレーションが有効に機能するアプリケーション(多くの写真・動画編集ソフトが対応)では、その恩恵を大きく受けることができます。
もちろん、プロフェッショナルレベルの非常に負荷の高いクリエイティブワーク(例: 4K/8K動画の複雑な編集、大規模な3Dモデリングや高画質レンダリング)には、専用のワークステーションや高性能なディスクリートGPUを搭載したPCが依然として適しています。しかし、趣味の範囲での利用や、比較的軽度な業務レベルの作業であれば、Ryzen 7 7735Uを搭載した薄型ノートPCでも十分にこなせる可能性があります。これは、携帯性とクリエイティブ性能の両立を求めるユーザーにとって魅力的な選択肢となり得ます。
6.3. ゲーミング
ゲームという実アプリケーションにおけるパフォーマンスを再確認します。
- 収集データ: (Section 4.2 と重複する部分がありますが、実アプリケーションの文脈で整理します)
- Komameblog.jpは、中程度の負荷のゲームタイトルであれば、画質設定を調整することでプレイ可能であると評価しています 11。
- AMDは、競合のIntelプロセッサーと比較してゲーム性能で優位性があると主張しています 27。
- NEC LAVIE N16の製品紹介では、ゲームでも快適な動作が可能であると記載されています 28。
- 分析: Section 4.2で詳述した通り、Radeon 680Mの強力なグラフィックス性能により、Ryzen 7 7735UはディスクリートGPUを搭載しないノートPCでありながら、多くのゲームを(設定調整を前提として)楽しむことを可能にします。特に、比較的負荷の軽いeスポーツタイトル(例: Valorant, CS2, League of Legends)や、少し前の世代の人気タイトル(例: GTA V)、インディーゲームなどは、解像度や画質設定を最適化することで、比較的快適なフレームレートで動作することが期待できます。
このことから、Ryzen 7 7735U搭載ノートPCは、「本格的なゲーミングノートPC」とは異なりますが、「ゲームもプレイできる高性能な薄型ノートPC」という独自のカテゴリーを形成します。外出先やリビングなどで気軽にゲームを楽しみたい、しかし重くて高価な専用ゲーミングPCは必要ない、というユーザーのニーズに応えることができます。AMD FSRのようなアップスケーリング技術に対応するゲームが増えていることも、内蔵GPUでのゲーミング体験を向上させる上で追い風となります。
7. Ryzen 7 7735U搭載ノートPC実機レビュー分析
プロセッサー単体の性能だけでなく、実際に搭載されたノートPC製品におけるパフォーマンスや使用感を分析します。
7.1. 実性能、発熱、消費電力、バッテリー駆動時間
- 収集データ:
- HP Pavilion Aero 13-be2000: Ryzen 7 7735U (TDP 28W) を搭載し、約957gという軽量ボディを実現しています 2。PCMark 10やCinebench R23のスコアは良好で、軽量ながら高い性能を持つことが示されています 15。バッテリー駆動時間はJEITA 2.0基準で公称約12時間と長く、USB PD充電にも対応しており、携帯性に優れています 15。
- Lenovo Yoga 7 Gen 8: Ryzen 7 7735Uを搭載し、高画質な14インチOLEDディスプレイ、16GB LPDDR5メモリを備えたプレミアムモデルです 10。バッテリー容量は71Whrと大きく、公称駆動時間は約14.4時間 (JEITA 2.0) とされています。質量は約1.49kgで、USB4ポートも搭載しています 10。
- ASUS ZenBook 15 OLED (UM3504DA): 15.6インチの大型OLEDディスプレイを搭載したモデルで、Ryzen 7 7735U, 16GBメモリ, 512GB SSDという構成です 14。レビューサイトによってCinebench R23 Multiスコアに幅があり、Komameblog.jpでは11379点 11、LaptopMedia.comでは12467点 18 と報告されています。これは、同じモデル名でも個体差やテスト環境、あるいはBIOS/ドライババージョンの違いによる可能性、またはTDP設定のチューニング差を示唆します。GPU性能も高く評価されています 11。
- MINISFORUM UM773 Lite: これはミニPCですが、Ryzen 7 7735HS(7735Uより高TDP設定の兄弟分, 35-54W)を搭載しており参考になります 3。良好なパフォーマンスに加え、2.5GbE有線LANやUSB4ポートを備えています。ただし、The Hikakuのレビュー 31 では、このHSモデルが期待されるほどのスコアが出ず、省電力なUシリーズ(7735U)と大差ないケースがあったと言及されており、冷却性能やTDP設定が実際のパフォーマンスに与える影響の大きさを示唆しています。
- Acer Swift Edge 16 (SFE16-42): Notebookcheck.netのデータでは、Ryzen 7 7735Uを搭載し、TDP設定が28W/20W(おそらく高負荷時/持続時)の例として、Cinebench R23 Multiスコアが10085点と報告されています 8。
- バッテリー効率に関する考察: Redditの議論 5 では、より新しいZen 4アーキテクチャを採用するRyzen 7 7840Uの方が電力効率が良いとの見解が示されています。これは、7735U (Zen 3+) が高い絶対性能を持つ一方で、最新世代ほどのワットあたりの性能は達成していない可能性を示唆します。
- 分析: 実機レビューを横断的に見ると、Ryzen 7 7735Uは、1kgを切るような超軽量モバイルノートPC 15 から、14~15インチクラスのプレミアムノートPC 10 まで、幅広い製品に採用されていることがわかります。実際のパフォーマンスは、前述の通り、搭載されるノートPCの設計、特に冷却システムの能力とメーカーによるTDP設定に大きく依存します。同じCPUを搭載していても、ベンチマークスコアには顕著な差が見られることがあります 11。
バッテリー駆動時間については、JEITA 2.0基準で12時間から14時間超といった公称値を持つモデルが存在し 10、実際の使用状況によって変動するものの、モバイル用途として良好なレベルが期待できます。ただし、最新のZen 4世代プロセッサーと比較した場合、電力効率の面ではやや譲る可能性があるという指摘 5 は留意すべき点です。
発熱や冷却ファンの動作音に関しては、個々の製品レビューで詳細を確認する必要がありますが、標準TDPが28Wクラスのプロセッサーであるため、持続的に高い負荷がかかる状況では、ある程度の発熱とそれに伴うファンの回転音が発生することは想定されます。
これらの分析から導かれる重要な点は、Ryzen 7 7735U搭載ノートPCを選ぶ際には、単にCPUの型番を見るだけでなく、購入を検討している具体的なモデルのレビューを熟読することが不可欠であるということです。特に、薄型軽量を追求したモデルでは、持続的な高負荷時のパフォーマンス(サーマルスロットリングによる性能低下の有無)、冷却ファンの騒音レベル、そして実際のバッテリー駆動時間が、携帯性とのトレードオフになる可能性があります。また、USB4対応 3 や、高リフレッシュレートのOLEDディスプレイ 10 など、CPU以外の付加価値も、モデル選定における重要な判断材料となります。Ryzen 7 7735Uは、高い「性能」と、優れた「携帯性・バッテリーライフ」という、しばしば相反する要素のバランスを取るための選択肢であり、そのバランスの取り方は製品ごとに異なっているのです。
8. 総合評価と考察
これまでの分析を踏まえ、AMD Ryzen 7 7735Uプロセッサーの総合的な評価と考察を行います。
8.1. 長所と短所
- 長所 (Strengths):
- 卓越した内蔵GPU性能 (Radeon 680M): CPU統合型グラフィックスとしてはクラス最高レベルの性能を提供し、ディスクリートGPUなしでの軽~中程度のゲームプレイや、GPUアクセラレーションを利用するクリエイティブ作業を実用的なレベルで可能にします 11。これは、競合するIntelの内蔵GPUに対する明確なアドバンテージです 12。
- 堅牢なマルチコアCPU性能: 8コア16スレッド構成により、高いマルチタスク処理能力を発揮し、多くのアプリケーション、特に並列処理が有効なソフトウェアにおいて優れたパフォーマンスを提供します 11。
- 最新プラットフォームへの対応: DDR5/LPDDR5メモリ、PCIe 4.0インターフェース、USB4といった最新規格に対応しており、高速なメモリやストレージ、周辺機器との接続をサポートし、システム全体の応答性や将来性を高めています 2。
- 成熟したアーキテクチャの採用: Zen 3+は、前世代で実績のあるアーキテクチャであり、安定性や製造コストの面でバランスが取れている可能性があります。これにより、高性能な機能を比較的抑えた価格帯で提供できる可能性があります。
- 短所 (Weaknesses):
- 最新世代アーキテクチャではない点: より新しいZen 4アーキテクチャを採用するプロセッサー(例: Ryzen 7 7840U)と比較すると、CPUのクロックあたりの命令実行数 (IPC) や、電力効率(ワットあたりの性能)の面で見劣りする可能性があります 5。
- 搭載製品による性能のばらつき: ノートPCメーカーによるTDP設定や冷却システムの設計によって、同じRyzen 7 7735Uを搭載していても実際のパフォーマンス(特に持続性能)が大きく変動する可能性があります 8。
- シングルスレッド性能の比較: 一部のベンチマークテストや特定のワークロードにおいては、競合するIntelの最新世代CPUに対して、シングルスレッド性能でわずかに及ばない場合があります 12。
8.2. 最適な用途とユーザー層
- 最適な用途:
- 高性能な一般用途: 日常的なPC作業、複数のアプリケーションを同時に使用するマルチタスク、多数のタブを開くWebブラウジング、オフィススイートの利用などを、ストレスなく快適に行いたい用途。
- 軽度のクリエイティブ作業: Adobe PhotoshopやLightroomを用いた写真編集、フルHD解像度程度までの動画編集(例: Premiere Pro, DaVinci Resolve)、簡単なグラフィックデザインやイラスト作成。
- カジュアルゲーミング: eスポーツタイトルや、比較的グラフィックス負荷の低いゲーム、少し前の世代の人気タイトルなどを、解像度や画質設定を調整した上で楽しみたい用途。
- マルチメディアコンテンツ消費: 高精細なOLEDディスプレイなど 10 と組み合わせた、高画質な動画ストリーミング視聴やローカルファイルの再生。
- 推奨ユーザー層:
- 大学生やビジネスパーソン: 講義ノート作成、レポート執筆、オンライン授業/会議、プレゼンテーション作成から、息抜きのゲームや動画視聴まで、一台で多様なタスクに対応できる、携帯性とパフォーマンスを両立したノートPCを求めるユーザー。
- コンテンツクリエーター入門者・ホビイスト: プロレベルの性能は不要だが、趣味の写真編集や動画作成、ブログ執筆などで、ある程度のクリエイティブ性能を必要とするユーザー。
- カジュアルゲーマー: 本格的なゲーミングPCを所有するほどではないが、普段使いのノートPCで、気軽にゲームも楽しみたいと考えているユーザー。
- コストパフォーマンスを重視するパワーユーザー: 絶対的な最先端の性能は求めないものの、強力な内蔵GPU性能を含む高い総合性能を、最新世代のハイエンドモデルよりも比較的手頃な価格帯で実現したいユーザー。
Ryzen 7 7735Uは、特定の分野で最高の性能を追求するのではなく、多くのユーザーにとって「必要十分以上」の性能を、特にグラフィックス能力において高いレベルで提供することにその価値があります。絶対的な最先端技術を常に追い求めるユーザーよりも、実用的な高性能と多用途性を、バランス良く、かつ合理的なコストで手に入れたいユーザーに適していると言えるでしょう。製品を選択する際には、CPUの性能ポテンシャルだけでなく、搭載されるノートPC全体の品質、特にディスプレイの質、冷却機構の能力、実際のバッテリー駆動時間、そして筐体の質感やキーボードの使い心地なども含めて、総合的に判断することが重要です。
9. 結論
AMD Ryzen 7 7735Uは、実績のあるZen 3+アーキテクチャと、クラスをリードするRDNA 2ベースのRadeon 680M内蔵グラフィックスを組み合わせることにより、薄型軽量ノートPCのカテゴリーにおいて、高いレベルの総合性能、特に卓越したグラフィックス能力を提供するモバイルプロセッサーです。
CPU性能においては、8コア16スレッドによる堅牢なマルチスレッド性能が特徴であり、競合するIntelのUシリーズプロセッサーに対しても、多くのマルチタスクや並列処理で優位性を示します。これにより、日常的なコンピューティングタスクから、ある程度の負荷がかかる軽度のクリエイティブ作業まで、幅広い用途に快適に対応可能です。
最大の強みであるRadeon 680M内蔵GPUは、従来のCPU内蔵グラフィックスの性能水準を大きく超え、ディスクリートGPUを搭載しないノートPCでも、設定調整次第で多くのカジュアルゲームを楽しめる体験を提供します。これは、ノートPCの用途を大きく広げる可能性を秘めています。
アーキテクチャとしては最新のZen 4世代には及ばないものの、成熟した技術基盤の上に、DDR5メモリ、PCIe 4.0、USB4といった最新のプラットフォーム機能を統合することで、性能、機能、そして(期待される)コストのバランスが取れた、市場において魅力的な選択肢となっています。
ただし、その性能ポテンシャルがどの程度引き出されるかは、搭載される個々のノートPC製品の熱設計(冷却能力)や電力設定(TDP)に大きく左右されます。したがって、Ryzen 7 7735U搭載ノートPCの購入を検討する際には、スペックシート上のCPU名だけでなく、関心のある具体的なモデルに関する詳細なレビュー(特にパフォーマンスの持続性、冷却、バッテリーライフに関する評価)を十分に参照し、自身の利用目的や要求水準に最も合致する製品を選択することが強く推奨されます。
引用文献
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- AMDのRyzenシリーズはIntelのCPUとは何が違うの?おすすめはどれ? – NEC・Lavie, 4月 12, 2025にアクセス、 https://www.nec-lavie.jp/products/contents/ryzen_pc.html
- 65W給電最強!Ryzen 7 7735U 搭載 Zenbook 15 有機EL 10キー 薄型軽量 – YouTube, 4月 12, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=-xdRB6RLa1Q