AMD Ryzen 9 6900HX ベンチマークまとめ

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1. AMD Ryzen 9 6900HX: 公式仕様

AMD Ryzen 9 6900HXは、ノートPCや小型PC向けに設計された高性能モバイルプロセッサであり、AMDのRyzen 6000シリーズにおける最上位モデルの一つとして位置づけられています 1。その仕様は、高い処理能力と優れたグラフィックス性能の両立を目指して設計されています。

1.1. CPUコア仕様

Ryzen 9 6900HXの心臓部には、改良された「Zen 3+」アーキテクチャが採用されています 1。このアーキテクチャは、TSMCの6nmプロセス技術で製造されており、前世代の7nmプロセスから微細化が進んだことで、トランジスタ密度が向上し、性能と電力効率の両面で改善が図られています 3

コア構成は8コア16スレッドであり、多くの最新アプリケーションやマルチタスク環境で高い並列処理能力を発揮します 1。クロック速度は、ベースクロックが3.3GHz、最大ブーストクロックが4.9GHzに達し、日常的な作業から高負荷な処理まで幅広い要求に応える性能を備えています 1

キャッシュメモリは、L1キャッシュがコアあたり64KB、L2キャッシュがコアあたり512KB(合計4MB)、共有L3キャッシュが16MB搭載されています 1。L2とL3キャッシュの合計は20MBとなり、CPUコアへのデータ供給を高速化し、処理性能の向上に貢献します 7

TDP(Thermal Design Power)は45Wに設定されており、高性能モバイルプロセッサとしては標準的な値です 1。物理的なインターフェースとしては、ノートPCやミニPCで採用されるSocket FP7に対応しています 8

1.2. 内蔵GPU仕様 (Radeon 680M)

Ryzen 9 6900HXの特筆すべき点の一つが、内蔵GPU(iGPU)である「Radeon 680M」です。このGPUは、AMDの最新グラフィックスアーキテクチャ「RDNA 2」に基づいて設計されており、従来のVegaアーキテクチャから大幅な性能向上を果たしています 1

GPUコア数は12基搭載されており 1、グラフィックス周波数は最大2400MHzで動作します 7。これにより、ディスクリートGPU(dGPU)を搭載しないシステムでも、一定レベルのゲーミングやグラフィックス処理が可能になります。ビデオメモリ(VRAM)はシステムメモリと共有され、搭載製品のBIOS設定などによって割り当て量が決まりますが、一例として512MBが初期設定として確認されています 1。DDR5メモリの採用は、iGPUの性能向上にも寄与します 1

1.3. メモリと接続性

メモリは、最新のDDR5規格に対応しており、SO-DIMM形式のメモリモジュールを使用します 1。対応するメモリクロックの一例としてDDR5-4800が挙げられ、デュアルチャネル構成をサポートすることでメモリ帯域幅を最大限に活用できます 1。最大メモリ容量は64GBまで対応しており、メモリを大量に消費するクリエイティブな作業や仮想環境の利用にも十分対応可能です 1。DDR5メモリへの対応は、前世代のDDR4と比較してメモリ帯域幅を大幅に拡張し、システム全体の応答性向上に貢献します 1

ストレージや拡張カードとの接続には、高速なPCIe 4.0インターフェースをサポートしています 5。これにより、PCIe 4.0対応のNVMe SSDを使用することで、OSやアプリケーションの起動、データ転送を極めて高速に行うことができます 5

ネットワーク機能としては、最新のWi-Fi 6EやWi-Fi 6、Bluetooth 5.2または5.3に対応するほか、高速な有線LAN接続を実現する2.5GbEポートをサポートする製品が多く見られます 1。また、高速データ転送や映像出力に対応したUSB4ポートも搭載可能な仕様となっています 1

1.4. その他の特徴

Ryzen 9 6900HXは、Microsoftの最新OSであるWindows 11に公式対応しています 12。モバイル向けCPUとしては最上位クラスに位置づけられ、高性能ノートPCやハイエンドミニPCに採用されることが多いプロセッサです 1。6nmプロセスへの移行とZen 3+アーキテクチャの採用により、電力効率が改善され、性能向上との両立が図られています 4。また、DDR5メモリへの対応は、特に内蔵GPU性能の向上に大きく貢献しています 1

2. CPUベンチマークスコア

Ryzen 9 6900HXのCPU性能を評価するため、主要なベンチマークソフトのスコアを見ていきます。これらのスコアは、プロセッサの演算能力を客観的に示す指標となります。

2.1. Cinebench R23

Cinebench R23は、CPUのレンダリング性能を測定する定番ベンチマークです。Ryzen 9 6900HXを搭載したASUS ROG Strix G15 (2022) での測定結果では、マルチコアスコアが12,521 pts、シングルコアスコアが1,490 ptsでした 3。一方、Geekom社のブログ記事に掲載された比較データでは、マルチコアが14,670 pts、シングルコアが1,662 ptsと、より高いスコアが記録されています 4

このスコアの違いは、テスト環境、特に冷却性能や電力供給設定(Power Limit)の違いによるものと考えられます。ゲーミングノートPCであるROG Strix G15はdGPUとの兼ね合いや筐体の制約がある一方、比較記事のテスト環境ではよりCPU性能を引き出せる設定が用いられていた可能性があります。このように、Cinebenchのスコアは搭載される製品の設計思想によって変動する点に留意が必要です。

2.2. Geekbench

Geekbenchは、クロスプラットフォームで利用可能なCPUベンチマークであり、シングルコア性能とマルチコア性能を測定します。Geekbench 5のスコアを見ると、シングルコア性能は約1,644 pts 4、マルチコア性能はLenovo製のラップトップで測定された例では10,151 pt 2、別のデータソースでは10,609 pts 4 となっています。

特筆すべきは、マルチコアスコアが10,000 ptを超えている点です。これは、一世代前のデスクトップ向けハイエンドCPUであるIntel Core i9-11900KF (約10,218 pt) やAMD Ryzen 7 5800X (約10,341 pt) に匹敵するレベルであり、TDP 45Wのモバイル向けプロセッサとしては非常に高い性能を示しています 2。なお、Geekbench 6に関する具体的なスコアデータは、今回の調査対象資料からは見つかりませんでした 13

2.3. PassMark

PassMark PerformanceTestのCPU Markは、総合的なCPU性能を示す指標として広く参照されています。Ryzen 9 6900HXのCPU Mark(マルチスレッド)スコアは、複数の情報源から約24,000〜24,800の範囲で報告されています 4。シングルスレッド性能を示すSingle Thread Ratingは約3,000〜3,400程度です 14

このスコアは、同じTDP 45Wクラスの競合プロセッサと比較しても高い水準にあります。例えば、Intel Core i7-12700H(マルチ約22,000、シングル約2,800)や、同世代の下位モデルであるAMD Ryzen 7 6800H(マルチ約21,500、シングル約2,750)と比較しても、Ryzen 9 6900HXは明確な性能差を示しています 14。このことから、PCゲーム、動画編集、3Dレンダリングといったマルチスレッド性能が要求されるタスクにおいて、優れたパフォーマンスを発揮することが期待できます 14

2.4. 3DMark CPU Profile

3DMark CPU Profileは、スレッド数に応じたCPU性能を測定するベンチマークです。最大スレッド数を使用した場合の「Max Threadsスコア」において、Ryzen 9 6900HXは6,765というスコアを記録しています 10。このスコアは、UL Solutionsが提供するデータベースの中央値に基づいており、多数のユーザーからの投稿結果を反映したものです 10

3. 競合CPUとの性能比較

Ryzen 9 6900HXの性能をより深く理解するために、同世代の競合プロセッサや前世代モデルとの比較を行います。

3.1. vs Intel Core i9-12900H/HK

Ryzen 9 6900HXの直接的な競合となるのが、Intelの第12世代Coreプロセッサ(Alder Lake)のハイエンドモデルであるCore i9-12900HおよびCore i9-12900HKです。

仕様比較:

両者のアーキテクチャは大きく異なります。Ryzen 9 6900HXが8コア16スレッド構成であるのに対し、Core i9-12900H/HKは高性能コア(Pコア)と高効率コア(Eコア)を組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを採用し、合計14コア20スレッド構成となっています 4。製造プロセスは、6900HXが6nm、12900H/HKがIntel 7(10nm Enhanced SuperFin)です 4。クロック速度は、ベースクロックでは6900HX (3.3GHz) が12900H/HK (2.5GHz) を上回りますが、最大ブーストクロックでは12900H/HK (5.0GHz) が6900HX (4.9GHz) をわずかに上回ります 4。TDPはいずれも45Wクラスです 15。

ベンチマーク比較:

主要なCPUベンチマークの結果を見ると、Core i9-12900H/HKがRyzen 9 6900HXを上回る傾向にあります。

  • Cinebench R23: シングルコア、マルチコア共にCore i9-12900Hが優位です 4
  • Geekbench 5: こちらもシングルコア、マルチコア共にCore i9-12900Hが優位です 4。特にマルチコアスコアでは、コア数・スレッド数の差が大きく影響していると考えられます 2
  • PassMark: CPU Mark(マルチスレッド)、Single Thread Rating共にCore i9-12900H/HKがRyzen 9 6900HXを上回っています 4

ゲーム性能 (iGPU):

一方で、内蔵グラフィックス性能に目を向けると、Ryzen 9 6900HXに搭載されたRadeon 680Mが、Core i9-12900H/HKのIntel Iris Xe Graphicsよりも優れた性能を示す傾向があります。軽いゲームタイトルを1080p解像度、中~低設定で比較した場合、Fortniteで50 FPS対45 FPS、The Witcher 3で35 FPS対30 FPSなど、Ryzen 9 6900HXが若干高いフレームレートを記録しています 4。

考察:

純粋なCPU処理能力、特にマルチスレッド性能が重要となるタスク(動画エンコード、高度なレンダリングなど)においては、コア数の多いCore i9-12900H/HKに軍配が上がります 2。しかし、内蔵GPU性能を重視する場合や、電力効率、発熱の観点からは、6nmプロセスを採用するRyzen 9 6900HXが有利となる可能性があります 4。どちらを選択するかは、ユーザーの主な用途によって判断が分かれるでしょう。

3.2. vs AMD Ryzen 9 5900HX (前世代モデル)

次に、前世代のハイエンドモデルであるRyzen 9 5900HXと比較します。

仕様比較:

Ryzen 9 6900HXはアーキテクチャがZen 3+、製造プロセスが6nmであるのに対し、5900HXはZen 3アーキテクチャ、7nmプロセスです 6。対応メモリも異なり、6900HXがDDR5をサポートするのに対し、5900HXはDDR4までの対応となります 6。内蔵GPUも大きく進化しており、6900HXのRadeon 680M (RDNA 2) に対し、5900HXはRadeon RX Vega 8 (Vega) です 6。PCIeのバージョンも、6900HXはPCIe 4.0、5900HXはPCIe 3.0となっています 6。

性能比較:

Geekbench 5のスコア比較では、Ryzen 9 6900HXは5900HXに対してシングルコア性能で約12%、マルチコア性能で約33%もの向上を果たしています 2。これはアーキテクチャの改良(Zen 3+)、プロセス微細化(6nm)、そしてDDR5メモリの採用による相乗効果と考えられます。

ゲームパフォーマンスにおいても、6900HXは5900HXよりもほとんどのゲームで5〜10%高いフレームレートを実現すると報告されています 6。特に内蔵GPU性能の向上は目覚ましく、RDNA 2アーキテクチャを採用したRadeon 680Mは、VegaアーキテクチャのRadeon RX Vega 8と比較して約20%高速なパフォーマンスを発揮します 6。この内蔵GPUの進化は、Ryzen 6000シリーズの大きな特徴の一つと言えます 11

考察:

Ryzen 9 6900HXは、前世代の5900HXからCPU、GPU共に大幅な性能向上を遂げています。特に内蔵GPU性能の飛躍的な向上は、ディスクリートGPUを搭載しない薄型ノートPCやミニPCにとって大きなメリットとなります。プロセス微細化による電力効率の改善も期待でき、全体としてバランスの取れた進化を遂げたプロセッサと言えるでしょう 6。

4. 内蔵GPU (Radeon 680M) の性能

Ryzen 9 6900HXの大きな魅力である内蔵GPU、Radeon 680Mの性能を詳しく見ていきます。RDNA 2アーキテクチャの採用により、従来の常識を覆すパフォーマンスが期待されます 3

4.1. 3DMark ベンチマーク

グラフィックス性能の標準的な指標である3DMarkのスコアを確認します。ASUS ROG Strix G15 (2022) において、ディスクリートGPUを無効化し、Radeon 680Mのみで動作させた場合のTime Spyスコアは2,553でした 3。これは、前世代のVegaベースの内蔵GPUや、競合となるIntel Iris Xe Graphicsと比較しても大幅に高いスコアであり、RDNA 2アーキテクチャのポテンシャルの高さを示しています 3

もちろん、ミドルレンジ以上のディスクリートGPU(同機種に搭載されていたGeForce RTX 3070 Ti Laptop GPUのTime Spyスコアは約9,973)には及びませんが、内蔵GPUとしては非常に高性能であることは間違いありません 3。これにより、「1080p解像度でのゲーミングに真に対応した初の統合グラフィックスソリューション」となる可能性が指摘されています 16

4.2. ゲームベンチマーク (FPS)

実際のゲームにおけるフレームレート(FPS)を見てみましょう。テスト環境や設定によって変動しますが、日本語レビューサイトなどで報告されている主な結果は以下の通りです。

  • 軽いゲーム:
  • 『ドラゴンクエストX オンライン』のような軽量級タイトルでは、フルHD・最高品質設定でも平均75 FPSと非常に快適な動作が可能です 17
  • 『Valorant』(85 FPS)、『League of Legends』(105 FPS)、『Counter-Strike』(75 FPS) といった人気のeスポーツタイトルも、1080p、中~低設定で高いフレームレートを維持できます 4
  • 『ストリートファイターV』は中画質設定でほぼ60 FPS、『レインボーシックスシージ』は低画質設定で平均89 FPSと、格闘ゲームやタクティカルシューターも快適にプレイできる性能です 17
  • 中程度のゲーム:
  • 『ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ』は、フルHD・標準品質(ノートPC設定)で平均61 FPSを記録し、「快適」なプレイが可能と評価されています 17
  • 『エーペックスレジェンズ』は最低画質設定で平均60 FPS、『原神』は低画質設定で平均50 FPS、『モンスターハンターライズ』は中画質設定で平均83 FPSと、人気のアクションRPGやバトルロイヤルゲームも設定次第で十分に楽しめます 17
  • 『崩壊:スターレイル』のような比較的新しいタイトルでも、高画質設定で50FPS後半から60FPSを維持できる場面があり、最適化が進んでいるタイトルでは高いパフォーマンスを発揮します 17
  • 重いゲーム:
  • 『Fortnite』は1080p、中~低設定で50 FPS、『The Witcher 3』は同設定で35 FPSと、AAAタイトルでも設定を調整すればプレイ可能な範囲です 4
  • 『サイバーパンク2077』や『エルデンリング』といった非常に負荷の高いタイトルも、低設定であればプレイ可能レベルで動作するとの報告があります 18

考察:

これらの結果から、Radeon 680Mは多くの人気ゲームタイトルをフルHD解像度でプレイ可能な実力を持っていることがわかります。特にeスポーツタイトルや比較的負荷の軽いゲームでは、画質設定を調整することで高いフレームレートでの快適なプレイが期待できます 4。一部の重量級AAAタイトルについては画質設定の大幅な妥協が必要になるものの、内蔵GPUでありながら幅広いゲームに対応できる汎用性の高さは特筆に値します 4。

5. 実アプリケーション性能

ベンチマークスコアだけでなく、実際のアプリケーションにおけるRyzen 9 6900HXのパフォーマンスも重要です。

5.1. クリエイティブ・生産性タスク

  • 動画編集: 8コア16スレッドの高いマルチスレッド性能 14 を活かし、フルHD解像度の動画編集であれば比較的スムーズにこなせるとの報告があります 18
  • 写真編集: Adobe Photoshopのようなアプリケーションでの切り抜きなど、比較的軽い作業であれば不自由なく行えます 18
  • レンダリング: Cinebench R23で12,000〜14,000 pts台のマルチコアスコアを記録していることから 3、CPUベースのレンダリング作業においても一定のパフォーマンスが期待できます。
  • プログラミング・開発: 高いCPU性能と、最大64GBまで搭載可能なDDR5メモリ 4 により、コンパイルや仮想環境の実行など、開発作業も快適に行える環境を構築できます。
  • DAW (音楽制作): 高い処理能力が求められるDAWソフトウェアにおいても、再生音が途切れることなく安定して動作するとの評価があります 5

5.2. 一般的な利用

  • ブラウジング、動画視聴: Webブラウジングや高解像度の動画再生は極めてスムーズです。複数のタブを開いたり、ストリーミングサービスを利用したりする場合でも、動作が重くなることはほとんどありません 11
  • OS操作・起動: PCIe 4.0対応の高速SSDと組み合わせることで、Windows 11の起動やアプリケーションの立ち上げは非常に高速です。待ち時間が大幅に短縮され、快適な操作感を実現します 5
  • マルチタスク: 8コア16スレッドのCPUパワーと高速なDDR5メモリにより、複数のアプリケーションを同時に起動して作業を行うマルチタスク環境でも、ストレスなく快適に動作します 4

総じて、Ryzen 9 6900HXは、クリエイティブな作業から日常的な利用まで、幅広い用途で高いパフォーマンスを発揮する能力を持っています。

6. 消費電力と発熱

モバイルプロセッサにとって、性能だけでなく消費電力と発熱の管理も重要な要素です。Ryzen 9 6900HXのTDPは45Wですが、実際の消費電力や動作温度は搭載されるデバイスの設計に大きく左右されます。

6.1. 消費電力

Minisforum製のミニPCでの測定例では、アイドル時の消費電力は約10〜15W程度、ゲームベンチマーク(FF15)実行中のような高負荷時には約70〜75W程度まで上昇しています 18。これは公称TDPの45Wを超える値ですが、ブースト動作時の瞬間的な電力消費や、CPU以外のコンポーネントの消費電力も含まれていると考えられます。

デスクトップPCと比較すれば大幅に低い消費電力ですが 18、高性能モバイルCPUとしては標準的か、やや高めの消費電力と言えます。

6.2. 発熱と冷却

温度:

搭載される冷却システムの性能によって動作温度は大きく変わります。

  • 液体金属グリスを採用したMinisforum HX99Gの例では、アイドル時や動画視聴時は約30℃と低温で安定していますが、CPUベンチマークを10分間実行すると最大68℃、ゲームなどでCPUとGPUの両方に負荷がかかると77℃程度まで上昇します 20
  • 別のMinisforum UM560 (6900HX搭載モデルのレビュー動画より類推) の例では、ゲーム中のiGPU温度が最大75℃近辺で推移しており、このあたりで性能制御(サーマルスロットリング)が行われている可能性が示唆されています 18
  • Minisforum UM690でCinebench R23を10分間連続実行した場合、スコアの低下は比較的小さかったとの報告もあり、冷却が適切であれば持続性能は高いと考えられます 21

冷却システム:

Ryzen 9 6900HXの性能を最大限に引き出すには、効果的な冷却システムが不可欠です 5。ミニPCなどでは、大型ヒートシンクや冷却ファン、製品によっては液体金属グリスやアクティブ冷却機能を備えた高度な冷却ソリューションが採用されています 5。

  • AOOSTAR GEM12というミニPCでは、ベンチマーク中のファン騒音が40dB以下と非常に静かで、熱処理性能が高いと評価されています 19
  • 一方で、Minisforum製のミニPCでは、アイドル時は静かでも高負荷時にはファン音がやや目立つ(約43〜45dB)というレビューもあります 18
  • ゲーミングノートPCであるROG Strix G15では、高負荷時にかなりの発熱とファン騒音が発生するとの報告があり、フォームファクタによる制約も影響します 3

サーマルスロットリング:

高負荷が長時間続くと、CPU温度上昇を抑えるために動作クロックや電力供給が制限されるサーマルスロットリングが発生する可能性があります。しかし、前述の通り、冷却設計が優れた製品では、Cinebench R23の連続実行でもスコア低下が比較的小さい例も報告されており 21、持続的なパフォーマンスは搭載デバイスの冷却能力に大きく依存します。

考察:

6nmプロセスとZen 3+アーキテクチャにより電力効率は改善されていますが、Ryzen 9 6900HXは依然としてTDP 45WクラスのハイエンドCPUです。そのため、特に小型筐体のデバイスや、長時間にわたる高負荷運用では、発熱と冷却が性能維持の鍵となります 3。ユーザーは、購入を検討する製品の冷却設計やレビューを参考に、自身の用途に適した冷却性能を持つデバイスを選ぶことが重要です 22。

7. 総括: Ryzen 9 6900HXの性能特性

これまでの分析を踏まえ、AMD Ryzen 9 6900HXの全体的な性能特性、長所、短所をまとめます。

7.1. 長所

  • 高いCPU性能: Zen 3+アーキテクチャに基づく8コア16スレッド構成と最大4.9GHzのブーストクロックにより、マルチタスク処理、要求の厳しいクリエイティブワークロード、そしてもちろんゲーミングにおいて、モバイル環境ながら優れたCPUパフォーマンスを提供します 4
  • 卓越した内蔵GPU性能 (Radeon 680M): RDNA 2アーキテクチャを採用したRadeon 680Mは、内蔵GPUの性能水準を大きく引き上げました。これにより、ディスクリートGPUを搭載しない薄型のノートPCやコンパクトなミニPCでも、フルHD解像度であれば多くのゲームタイトルを快適にプレイすることが可能になりました 3
  • 最新技術への対応: DDR5メモリ、PCIe 4.0、USB4といった最新のインターフェース規格に対応しており、システム全体のデータ転送速度を向上させるとともに、将来的な拡張性や互換性も確保されています 1
  • 電力効率の向上: 6nmプロセスへの移行とアーキテクチャの改良により、前世代のRyzen 9 5900HXと比較して電力効率が改善されており、性能向上とバッテリー駆動時間のバランスが向上しています 4

7.2. 短所

  • 競合 (Intel 12世代Core i9) 比でのCPU性能: 純粋なCPU処理能力、特にコア数・スレッド数が効いてくるマルチスレッド性能においては、Intelの第12世代Core i9-12900H/HKに及ばない場面が見られます。CPU負荷が極めて高いタスクを最優先する場合は、競合製品が有利になる可能性があります 2
  • 発熱と冷却の重要性: 高性能なCPUであるため、その性能を安定して引き出すには効果的な冷却システムが不可欠です。特に薄型ノートPCやミニPCのようなスペースに制約のあるフォームファクタでは、冷却設計が不十分な場合、サーマルスロットリングによる性能低下を招く可能性があります。搭載製品の冷却能力を事前に確認することが推奨されます 3
  • 価格: Ryzen 9 6900HXはハイエンド向けのプロセッサであるため、搭載するノートPCやミニPCは比較的高価な価格帯になる傾向があります 6

7.3. 総合評価

AMD Ryzen 9 6900HXは、強力なマルチスレッドCPU性能と、内蔵GPUとしては画期的なグラフィックス性能を高次元で両立した、非常にバランスの取れたモバイル向けハイエンドプロセッサです 2

その最大の強みは、Radeon 680Mによる卓越した内蔵GPU性能にあります。これにより、従来はディスクリートGPUが必須であったフルHD解像度でのゲームプレイや、ある程度のグラフィックス処理を、内蔵GPUのみで快適に行えるようになりました。これは、薄型軽量ノートPCや省スペースなミニPCの可能性を大きく広げるものです 16

CPU性能に関しても、前世代から着実な進化を遂げており、多くのユーザーにとって十分以上のパフォーマンスを提供します。競合のIntel Core i9プロセッサに対してマルチスレッド性能で劣る点はありますが、内蔵GPU性能や電力効率を含めた総合的なパッケージとしては、非常に魅力的で競争力のある選択肢と言えるでしょう 4

ただし、その高性能を最大限に活かすためには、搭載されるデバイスの冷却設計が極めて重要になります。潜在能力をフルに引き出せるかどうかは、ノートPCやミニPCメーカーの設計手腕にかかっている部分も大きいと言えます 3

引用文献

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  2. AMD Ryzen 9 6900HXのベンチマーク出現。Alder Lakeより30%以上低い性能に – ギャズログ, 4月 12, 2025にアクセス、 https://gazlog.jp/entry/amd-ryzen-9-6900hx-benchmark-22jan/
  3. 【西川和久の不定期コラム】最上位のRyzen 9 6900HX、DDR5 …, 4月 12, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/nishikawa/1416958.html
  4. AMD Ryzen 9 6900HXとIntel Core i9-12900H: どちらを選ぶべき? – GEEKOM(ギコム)ミニPC, 4月 12, 2025にアクセス、 https://blog.geekom.jp/amd-ryzen-9-6900hx-vs-intel-i9-12900h/
  5. Amazon.co.jp: MINISFORUM UM690Slim ミニpc AMD Ryzen 9 6900HX DDR5-4800MHzデュアルチャネル PCIE4.0 SSDスロット ベアボーンPC Radeon 680M グラフィック HDMI2.1 |DP1.4|USB4 4K@60Hz 3画面出力 2.5Gbps LAN/Wi-Fi6E/BT5.3 ミニパソコン, 4月 12, 2025にアクセス、 https://www.amazon.co.jp/MINISFORUM-UM690Slim-DDR5-4800MHz%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB-PCIE4-0-SSD%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88/dp/B0DJSNC2DK
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  18. 【コスパ最高】遂に内蔵GPUだけで快適にゲームが出来る時代が来た!?Ryzen9 6900HXを搭載したコンパクトなミニPCの性能がマジで凄い… MINIS FORUM UM690 をレビュー – YouTube, 4月 12, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=oFjzXY3nVbE
  19. 【コスパ最強!】Ryzen 9 6900HX搭載!AOOSTAR GEM12の魅力 …, 4月 12, 2025にアクセス、 https://note.com/juku_support/n/n389243626950
  20. 【怪物】Ryzen9 6900HXとRX6600Mを搭載したモンスタームゲーミングミニPC!ゲーミング性能はミニPCとしては抜群だが正直〇〇と違いが… MINIS FORUM HX99G をレビュー – YouTube, 4月 12, 2025にアクセス、 https://m.youtube.com/watch?v=2eE8m0RCcJU
  21. 【MINISFORUM提供】極小なのにそのへんのパソコンより性能高すぎ・Ryzen 9 6900HX搭載ミニ … – YouTube, 4月 12, 2025にアクセス、 https://m.youtube.com/watch?v=GTufGvxWAaE
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