はじめに
Apple A9チップは、Appleが設計し、2015年に市場に投入した第3世代の64ビットアーキテクチャに基づくモバイル向けSoC(System-on-a-Chip)です。iPhone 6sおよびiPhone 6s Plusに初めて搭載され、その後iPhone SE(第1世代)やiPad(第5世代)にも採用されました 1。このチップは、前世代からの大幅な性能向上を実現し、当時のモバイルコンピューティングの性能基準を大きく引き上げた点で注目に値します。
本レポートは、主に日本語のテクノロジー関連ウェブサイトから収集した情報に基づき、Apple A9チップのベンチマーク性能を深く掘り下げて分析することを目的とします。具体的には、A9チップを搭載したデバイスの特定から始め、GeekbenchやAnTuTuといった主要なベンチマークテストにおけるCPUおよびGPUのスコアを調査します。さらに、同時代の競合チップや、Appleの前世代(A8)・次世代(A10 Fusion)チップとの性能比較を行い、収集したデータに基づいてA9チップの性能特性、市場における強みと弱み、そしてその技術的意義を明らかにします。
Apple A9チップ搭載デバイス
搭載モデルの特定
Apple A9チップは、以下の主要なApple製品に搭載されました。これらのデバイスは、それぞれの発表時期において、性能面での大きな進化をユーザーに提供しました。
- iPhone 6s および iPhone 6s Plus: 2015年9月に発表されたこれらのモデルは、A9チップを最初に搭載したデバイスです 1。
- iPhone SE (第1世代): 2016年3月に発表されたこのモデルは、iPhone 5sと同様の4インチディスプレイ筐体に、iPhone 6sと同等のA9チップを搭載し、コンパクトながら高い性能を実現したことで人気を博しました 1。
- iPad (第5世代): 2017年3月に発表された9.7インチiPadにもA9チップが採用され、より手頃な価格帯で高性能なタブレット体験を提供しました 4。
これらのデバイス群は、スマートフォンからタブレットまで、幅広い製品ラインナップでA9チップの性能が活用されたことを示しています。
製造プロセスとバリエーション
Apple A9チップの製造に関して特筆すべき点は、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)とSamsungという2つの異なる半導体ファウンドリによって製造されたことです 6。これは「マルチファウンドリ製造」と呼ばれ、当時のAppleとしては異例の戦略でした 7。
このデュアルソーシング戦略が採用された背景には、iPhone 6s/6s Plusという主力製品向けの膨大なチップ供給量を確保する必要性があったと考えられます。当時最先端であったFinFET 3Dトランジスタ技術を用いた新しいプロセスノード(TSMCは16nm FinFET、Samsungは14nm FinFET)での製造は、単一のファウンドリに依存するには供給リスクが高いと判断された可能性があります。複数の製造元を利用することで、このリスクを軽減する狙いがあったと推測されます。
しかし、異なるファウンドリが同じ設計仕様に基づいてチップを製造しても、製造プロセスには微細な差異が生じ得ます。実際に、TSMC製とSamsung製のA9チップでは、チップの物理的なサイズ(ダイサイズ)が異なることが確認されました。さらに、一部のユーザーや分析レポートでは、特定の負荷条件下において、両者間でバッテリー消費特性にわずかな差が見られるとの指摘がなされました 6。例えば、garumax.comに掲載されたユーザーレポートでは、iPhone SEにおいてSamsung製A9チップ搭載機の方がTSMC製と比較してバッテリーの減りが早く感じられたという体験談が紹介されています 6。
この製造元による差異は、一般的な使用においては体感できるほどの大きな性能差には繋がらないとされましたが、技術的な関心を集め、PC Watchなどの日本の技術系メディアでも報じられました 8。台湾では、この性能差の問題について国家機関がAppleに対して情報開示を求める動きもあったと報じられています 8。これは、最先端の半導体製造におけるプロセス管理の複雑さと、わずかな差異がユーザー体験や公的な関心事に影響を与えうる可能性を示唆する事例となりました。
Apple A9チップのベンチマーク性能
Apple A9チップの性能は、各種ベンチマークテストによって定量的に評価されてきました。特にCPUのシングルコア性能とGPU性能の向上が顕著でした。
CPU性能
A9チップは、Appleがカスタム設計した「Twister」と呼ばれるマイクロアーキテクチャを採用したデュアルコアCPUを搭載しています 1。搭載デバイスにおける最大動作クロック周波数は1.85 GHzとされています 4。ただし、日本語版Wikipedia 1 では2.23GHzとの記載も見られますが、本レポートでは複数の情報源で確認される1.85GHzを主たる数値として扱います。
Geekbench シングルコアスコア
A9チップの最も際立った特徴の一つが、その卓越したシングルコアCPU性能です。当時の多くのスマートフォン向けチップがコア数を増やす方向で性能向上を図っていたのに対し、Appleはコアあたりの性能を重視する設計哲学を貫きました。この戦略は、アプリの起動、ウェブページの読み込み、ユーザーインターフェースの操作など、スマートフォンの日常的な利用シーンの多くが単一コアの速度に強く依存するという事実に根差しています。
FinFETプロセスの採用による効率向上 7 と、強力な「Twister」コアの組み合わせにより、A9チップは当時のモバイルSoCとして極めて高いシングルコア性能を達成しました。その結果、iPhone 6s(A9搭載)のGeekbenchスコアは、同時代のローエンドなノートPC、具体的にはIntel Core Mプロセッサを搭載したMacBook (Early 2015)のエントリーモデルに匹敵、あるいは一部のテストでは上回るレベルにあることが、MacFan 9 や applech2.com 10 といった日本語メディアで報じられました。これは、モバイルデバイスの処理能力が従来のPC領域に迫りつつあることを示す象徴的な出来事でした。この高いシングルコア性能は、iOSの応答性の良さや操作の滑らかさといったユーザー体験に直結し、コア数が多くてもコアあたりの性能が低い競合Androidデバイスに対する優位性の一因となりました。
提供された日本語の情報源には具体的なGeekbench 3のスコア数値が直接記載されていませんが、当時の一般的なレポートを参照すると、iPhone 6sにおけるGeekbench 3のスコアは、シングルコアで約2500点、マルチコアで約4400点前後が広く知られています。以下の表は、これらの参考値と、定性的な比較情報を提供した情報源を示します。
表1: Geekbench スコア (参考値, Geekbench 3)
ベンチマーク | デバイス例 | スコア (参考値) | 出典 (定性的情報) |
シングルコア | iPhone 6s (A9) | ~2500 | MacFan 9, applech2.com 10 |
マルチコア | iPhone 6s (A9) | ~4400 | MacFan 9 |
Geekbench マルチコアスコア
A9チップはデュアルコア構成でありながら、最適化されたアーキテクチャと高いシングルコア性能により、マルチコア性能においても前世代のA8チップから大幅な向上を遂げました。MacFanの記事 9 によれば、マルチコア性能においてもMacBook (Early 2015) に肉薄するスコアを記録したとされており、コア数が少なくても効率的な設計により高い総合性能を発揮できることを示しました。
GPU性能
A9チップに統合されたGPUは、Imagination Technologies社のPowerVR Series 7XTファミリーに属する「GT7600」であり、6つのGPUクラスタ(コア)を持つ構成です 1。Appleは公式に、A9チップのGPU性能が前世代のA8チップと比較して最大で90%向上したと発表しています 2。この飛躍的な性能向上は、前述のFinFETプロセス採用による電力効率の改善と動作周波数の向上に加え、GPUコアクラスタ数(演算ユニット数)をA8世代から増加させたことによるものと分析されています 7。
AnTuTu 3D/GPUスコア
GPU性能を測る指標の一つとして、AnTuTuベンチマークの3D(またはGPU)スコアがあります。日本語レビューサイトgarumax.comには、iPhone 6sにおけるAnTuTuベンチマークスコアの推移が、OSやベンチマークアプリのバージョンアップとともに記録されており、非常に貴重なデータを提供しています 12。
このデータを見ると、同じiPhone 6s(A9チップ搭載)でありながら、AnTuTuのバージョンが上がるにつれて3D/GPUスコアが大きく上昇していることがわかります。例えば、AnTuTu v6(2017年頃測定)では約3.2万点だったスコアが、v9(2022年頃測定)では約7.5万点へと倍以上に増加しています。最新のv10ではさらに高いスコア(約8万点)も記録されていますが、一方で低いスコア(約5.3万点)も報告されており、v10ではスコアが不安定になる可能性も示唆されています 12。これは、AnTuTu自体のテスト内容やスコアリング方法がバージョンアップによって変化すること 13、そしてiOSのアップデートに伴うグラフィックスドライバの最適化などが影響していると考えられます。
この現象は、ベンチマークスコアがハードウェアの絶対的な性能を示す静的な値ではなく、測定ツールやソフトウェア環境(OS、ドライバ)に大きく依存することを示しています。したがって、異なるバージョンや異なるプラットフォーム間でスコアを比較する際には、その背景にある条件を理解することが極めて重要です。garumax.com 12 のデータは、この点を具体的に示す好例と言えます。
表2: AnTuTu スコア推移 (iPhone 6s)
AnTuTu バージョン | 測定時期 (目安) | 総合スコア | 3D/GPUスコア | 出典 (ウェブサイト名) |
v6 | 2017年6月 | 127,482 | 31,887 | garumax.com 12 |
v7 | 2019年8月-10月 | 155,761 ~ 157,731 | 49,597 ~ 49,860 | garumax.com 12 |
v7 (平均) | (不明) | 144,901 | 46,864 | garumax.com 12 |
v8 | 2020年2月 | 197,772 | 57,169 | garumax.com 12 |
v9 | 2022年5月 | 248,500 ~ 250,551 | 75,168 ~ 75,368 | garumax.com 12 |
v10 | 2023年8月 | 280,017 | 52,600 | garumax.com 12 |
v10 | 2025年2月 | 327,499 | 80,048 | garumax.com 12 |
その他のGPUベンチマーク指標
GIGAZINEの記事 14 では、OpenGL ESに特化したベンチマークソフト「GFXBench 3.0」を用いたテスト結果が紹介されています。これによると、iPhone 6sはグラフィックステストにおいて高い性能を示した一方で、物理シミュレーションのような特定のテストでは異なる傾向(相対的に低いスコア)も見られたと報告されており、ベンチマークの種類によって評価が変わりうることを示唆しています。
総合ベンチマークスコア
AnTuTu総合スコア
CPU、GPU、メモリ、UX(ユーザーエクスペリエンス)など、スマートフォンの総合的な性能を測るAnTuTuベンチマークの総合スコアにおいても、A9チップは高い性能を示しました。前述のgarumax.com 12 のデータ(表2参照)を見ると、iPhone 6sのAnTuTu総合スコアも、ベンチマークバージョンの更新に伴ってv6の約12.7万点からv10では30万点を超えるレベルまで上昇しています。
A9チップが登場した2015年から2016年にかけて、これらのスコアは当時のハイエンドスマートフォンの中でもトップクラスに位置していました。iPhone Maniaの記事 15 は、2016年初頭の時点で、iPhone 6sが他の大手ベンダーのフラッグシップモデルと比較して、ベンチマークスコアで圧倒的な差をつけて1位を獲得したとする分析を紹介しています(ただし、具体的な比較対象モデルやスコアの詳細は元記事での確認が必要です)。また、xiaolongchakan.com 16 の分析(2016年初頭時点と推測)でも、AnTuTuランキングにおいてApple A9チップが依然として非常に強力な性能を維持していると評価されています。
競合チップとの性能比較
当時の主要Androidチップとの比較概要
Apple A9チップが登場した2015年後半から2016年にかけて、Androidスマートフォンのハイエンド市場における主要な競合チップとしては、Qualcomm社のSnapdragon 810およびその後継のSnapdragon 820、そしてSamsung社のExynos 7420およびその後継のExynos 8890などが挙げられます。
これらの競合チップとの性能比較において、A9チップは特にシングルコアCPU性能で際立った優位性を示しました。これはGeekbenchスコアの比較 9 や当時の一般的な評価からも裏付けられます。Appleが採用した強力なデュアルコア「Twister」設計は、多くの日常的なタスクにおける応答性で高い評価を得ました。
一方、競合チップはコア数を増やす戦略(Snapdragon 810やExynos 7420は8コア構成、Snapdragon 820はカスタム4コア構成、Exynos 8890はカスタム8コア構成)を採用していました。これにより、高度に並列化されたタスクを実行する際のマルチコア性能や、特定のベンチマークテストにおいては、これらの競合チップがA9に匹敵、あるいは上回る場面もありました。xiaolongchakan.com 16 の分析では、AnTuTuベンチマークにおいてSamsung Exynos 8890がA9チップに肉薄している状況にあると述べられています。
GPU性能に関しては、Apple A9に搭載されたPowerVR GT7600 1 に対し、Qualcommは自社設計のAdreno GPU(Snapdragon 810/820)、Samsung ExynosはARM社のMali GPUを採用しており、それぞれが一長一短を持つ競争関係にありました。ベンチマークの種類やテスト内容によって優劣が入れ替わることもありました。
重要な点として、xiaolongchakan.com 16 も指摘しているように、単にハードウェアのベンチマークスコアだけでiOSデバイスとAndroidデバイスの性能を比較することには限界があります。Appleはハードウェア(A9チップ)とソフトウェア(iOS)を密接に連携させて開発しており、この垂直統合による最適化が、実際の使用感、すなわち「ユーザーエクスペリエンス」において、ベンチマークスコアの数値以上に高いパフォーマンスとして現れる場合があるためです。A9チップの強みは、純粋な演算能力だけでなく、この統合設計によるシステム全体の応答性の高さにもあったと言えます。
世代間性能比較
Appleは自社製チップを着実に進化させており、A9チップもその系譜の中に位置づけられます。前世代のA8チップ、次世代のA10 Fusionチップとの比較を通じて、A9チップの性能向上とその技術的な特徴をより明確に理解することができます。
Apple A8チップとの比較
A9チップの直接の前世代にあたるのが、iPhone 6/6 Plusなどに搭載されたA8チップです。Apple自身の発表によれば、A9チップはA8チップと比較して、CPU性能で最大70%、GPU性能で最大90%という大幅な性能向上を実現したとされています 2。
この飛躍的な性能向上の最大の要因は、製造プロセス技術の革新、すなわちFinFETトランジスタ技術の採用にあります 7。A8チップが採用していた従来のプレーナー型トランジスタから、立体的な構造を持つFinFETへの移行は、半導体技術における大きな進歩でした。FinFETはトランジスタのゲートがチャネルを3方向から囲む構造により、電流のリーク(漏れ)を効果的に抑制します。これにより、同じ消費電力であればより高いクロック周波数での動作が可能になり、同じクロック周波数であれば消費電力を低減できるという利点があります 7。この基盤技術の進化が、より高性能な「Twister」CPUコアや強化されたPowerVR GT7600 GPUの実装を可能にし、Appleが公表したような劇的な性能向上に繋がったと考えられます。
実際の使用感においても、この性能差は明確でした。ASCII.jpの記事 17 では、iPhone SE (A9) とiPhone 5s (A7) の比較において「比較にならないくらい処理性能が向上している」と述べられており、A7からA8、そしてA9へと続く性能向上の大きさがうかがえます。また、ケータイ Watchの記事 3 では、iPhone SE (A9) がA8以前のチップ(システムメモリ1GB)を搭載したモデルと比較して、文字入力時のキーボード表示のタイムラグ短縮や、システムメモリが2GBに倍増したことによるタスク切り替え時のスムーズさ向上など、体感できるレベルでの高速化が実現したと指摘されています。
ベンチマークスコアの比較からも、この性能差は裏付けられます。Weblio辞書 18 に掲載されているA8搭載iPhone 6のAnTuTu v8スコア(約8万点)と、garumax.com 12 にあるA9搭載iPhone 6sの同バージョン(v8)スコア(約19.8万点)を比較すると、総合スコアで約2.45倍もの差があり、Appleの公称値(CPU 70%向上、GPU 90%向上)から想定される以上の大きな性能ギャップが存在することを示唆しています(ただし、デバイス間の仕様差やOSバージョンの違いも影響するため、あくまで参考値です)。
Apple A10 Fusionチップとの比較
A9チップの次世代にあたるのが、iPhone 7/7 Plusに搭載されたA10 Fusionチップです。A10 Fusionは、Appleとして初めてARMのbig.LITTLE技術(高性能コアと高効率コアを組み合わせる技術)を採用したチップであり、高性能な「Hurricane」コアを2つ、電力効率に優れた「Zephyr」コアを2つ搭載するヘテロジニアス(異種混合)構成を取りました。
性能面では、A10 FusionはA9から着実な進化を遂げました。ITmediaの記事 19 によると、Webアプリケーションの実行速度において、iPhone 7 Plus (A10 Fusion) はiPhone 6s Plus (A9) と比較して約20%高速であったと報告されています。また、Spotry.me 20 は、iPhone 7発売前にリークされたGeekbenchスコアに基づき、iPhone 7 (A10 Fusion) がiPhone 6s (A9) に対して約35%の性能向上を示す可能性があると伝えていました。YouTubeチャンネルでの性能比較動画を要約した情報 21 によれば、Geekbenchスコアにおいて、A10世代はA9世代に対してシングルコアで約1.3倍以上、マルチコアでは約1.5倍以上の性能向上を示したとされています(ただし、これらは二次情報であり、解釈には注意が必要です)。
A9からA10への進化は、単なる処理速度の向上(クロック向上やコア設計の改善によるもの)だけでなく、アーキテクチャの大きな転換点であったことが重要です。A9の同一性能コア2基構成に対し、A10 Fusionでは高性能コアと高効率コアを組み合わせることで、高いピーク性能と優れた電力効率の両立を目指しました。これにより、負荷の高いタスクでは高性能コアが動作し、バックグラウンド処理や軽負荷時には高効率コアが動作することで、バッテリー駆動時間を改善しつつ、必要な場面ではA9を上回るパフォーマンスを発揮できるようになりました。このヘテロジニアス・マルチプロセッシングへの移行は、その後のAppleシリコンの設計思想に大きな影響を与え、モバイルSoC開発の方向性を示すものでした。
表3: 世代間性能比較 (A8 vs A9 vs A10)
比較対象 | 指標 | A9 vs A8 | A10 vs A9 | 出典 (ウェブサイト名/情報源) |
Apple公称値 | CPU性能向上率 | 最大 +70% | – (A10はアーキテクチャ変更が主眼) | Weblio 2 |
Apple公称値 | GPU性能向上率 | 最大 +90% | – | Weblio 2, PC Watch 7 |
AnTuTu v8 (総合) | 実測スコア比 (参考) | 約 2.45倍 (iPhone 6s vs iPhone 6) | – (同バージョンでの直接比較データ不足) | garumax.com 12, Weblio 18 |
Webアプリ速度 | 実測比較 | – | 約 +20% (iPhone 7 Plus vs 6s Plus) | ITmedia 19 |
Geekbench (推定) | ベンチマークスコア向上率 | – (A8からの大幅向上は確実) | 約 +35% (iPhone 7 vs 6s, リーク情報ベース) | Spotry.me 20, MacFan 9, ケータイ Watch 3 (A8比較) |
Apple A9チップの性能分析
収集したベンチマークデータと技術情報に基づき、Apple A9チップの性能特性を分析します。
主要な強み
- 卓越したシングルコア性能: A9チップ最大の強みは、その圧倒的なシングルコアCPU性能にありました。当時のモバイル向けチップとしては最高クラスの性能を誇り、アプリ起動、Webブラウジング、UI操作など、ユーザーが体感する速度に直結する多くの場面で、非常に快適な操作感を提供しました。MacBookに匹敵するレベルに達したことは、その性能の高さを物語っています 9。
- 大幅なGPU性能向上: 前世代A8比で最大90%向上したGPU性能は、よりリッチなグラフィックス表現や、要求スペックの高いモバイルゲームのプレイを可能にしました 2。これにより、iPhone 6s/SEはゲームプラットフォームとしての魅力も高まりました。
- FinFET技術の早期採用: 先進的な14nm/16nm FinFETプロセス技術をいち早く量産製品に採用したことで、性能向上と消費電力抑制(あるいはバッテリー持続時間向上)を高いレベルで両立させました 7。これが、A8からの飛躍的な性能向上を実現する上での技術的な基盤となりました。
- M9モーションコプロセッサの統合: 従来は別チップとして実装されていたモーション処理用のコプロセッサ「M9」を、A9チップのダイ上に統合しました 2。これにより、センサーからのデータを常時効率的に処理することが可能になり、例えば「Hey Siri」による音声起動を、デバイスがスリープ状態(画面オフ)でも低消費電力で待機させることができるようになりました。
潜在的な弱みと比較上の注意点
- デュアルコアCPU構成: A9チップは高性能なカスタムコアを採用していましたが、物理的なコア数は2つでした。同時期、Android陣営のハイエンドチップでは4コアや8コア構成が主流となりつつありました。そのため、理論上は、高度に並列処理が最適化された特定のタスクや、マルチコア性能を重視するベンチマークテストにおいては、コア数の多い競合チップにスコアで劣る可能性がありました。ただし、前述の通り、iOSの最適化と高いシングルコア性能が、実際の多くの利用シーンにおけるパフォーマンスを補っていた側面も考慮する必要があります 16。
- ベンチマークスコアの変動性: 特にAnTuTuベンチマークのスコアは、テストに使用するアプリのバージョンや、デバイスのOSバージョンによって大きく変動することが、garumax.comのデータ 12 からも明確に示されています。異なる時期や条件で測定されたスコアを単純比較することは誤解を招く可能性があるため、比較の際には必ずバージョン情報を確認し、その文脈を理解することが不可欠です。
- 製造元による特性差: TSMC製とSamsung製で、わずかながらダイサイズや消費電力特性に差異が存在したことは、最先端プロセスにおける製造管理の難しさを示唆しています 6。ユーザーが体感できるほどの大きな性能差ではなかったとされていますが、技術的な観点からは注目すべき点でした。
発表当時の市場における技術的意義
Apple A9チップは、その登場によってモバイルコンピューティングの性能水準を新たな段階へと引き上げ、いくつかの重要な技術的意義を持ちました。
第一に、モバイルデバイスの処理能力が、従来のデスクトップPCやラップトップPCの領域に本格的に迫る可能性を示した点です。特に、シングルコア性能においてエントリーレベルのMacBookに匹敵するスコアを記録したこと 9 は、スマートフォンやタブレットが単なる情報消費端末から、より高度な作業もこなせる生産性ツールへと進化していく流れを加速させました。
第二に、FinFETプロセス技術を大規模に採用した初期のモバイルSoCの一つであり、その成功によって、その後のモバイルプロセッサ開発におけるプロセス微細化と性能向上のトレンドを強力に牽引した点です 7。A9の登場は、高性能と低消費電力を両立させる上でFinFETがいかに重要であるかを業界に示す形となりました。
第三に、Apple独自のカスタムCPUコア設計(Twisterアーキテクチャ)の高い能力を改めて証明した点です。汎用的なARMコアライセンスに頼るのではなく、自社でマイクロアーキテクチャレベルから設計・最適化を行うことで、競合に対して明確な性能的アドバンテージを築けることを示しました。これは、ハードウェアとソフトウェアの両方を自社で開発する垂直統合モデルの強みを象徴するものでした。
まとめ
Apple A9チップは、2015年の登場時において、モバイルSoCの性能に新たな地平を切り開いた画期的なプロセッサでした。特に、卓越したシングルコアCPU性能と大幅に強化されたGPU性能は、同時代の競合製品に対して明確な優位性を示し、モバイルコンピューティングの可能性を大きく広げました。
この性能向上は、先進的なFinFET製造プロセスの採用と、Appleによる優れたカスタムコア設計(Twisterアーキテクチャ)の組み合わせによって実現されました。これにより、前世代のA8チップからの飛躍的な進化を遂げ、iPhone 6s、iPhone SE(第1世代)、iPad(第5世代)といった搭載デバイスのユーザー体験を著しく向上させました。
競合チップとの比較においては、シングルコア性能でのリードが際立ち、iOSとの緊密な統合による最適化も相まって、ベンチマークスコアの数値以上に、実際の使用感において高いパフォーマンスと応答性を実現しました。AnTuTuなどのベンチマークスコアは、テストバージョンやOSによって変動するものの、garumax.com 12 など日本語サイトに残された長期的なデータは、A9搭載デバイスが発売後も長期間にわたって比較的高水準の性能を維持し続けたことを示唆しています。
製造プロセスにおけるデュアルソーシングやそれに伴う微細な特性差 6 といった技術的な課題も存在しましたが、全体としてA9チップは、モバイルデバイスの性能限界を押し上げ、その後のAppleシリコンのさらなる進化へと繋がる重要な布石となった、歴史的に意義深いチップとして評価されるべきでしょう。
引用文献
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- Apple A9 – Wikipedia, 4月 17, 2025にアクセス、 https://en.wikipedia.org/wiki/Apple_A9
- Apple、A9プロセッサ搭載で“これまでで最もお求めやすい”「iPad」 – PC Watch – インプレス, 4月 17, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1050585.html
- iPhone SEもサムスン製のA9が流通してるのか調べてみた。 – ガルマックス, 4月 17, 2025にアクセス、 https://garumax.com/iphone-se-samsung-tsmc-a9
- 【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】新トランジスタアーキテクチャを採用したiPhone 6sの「A9」, 4月 17, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaigai/721217.html
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- iPhone 8/Xの「A11 Bionic」はMacBook ProのIntel Core i5を凌駕する性能を持つ – GIGAZINE, 4月 17, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20170914-a11-bionic-geekbench/
- 週刊アスキー No.1046(2015年9月29日発行, 4月 17, 2025にアクセス、 https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/636/2636467/
- 詳細表でわかる】iPhone 16eとiPhone 14/15/16/SEを詳しくスペック比較 – ASCII.jp, 4月 17, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/252/4252562/
- iOS15.6のバッテリーとCPU、9モデルのiPhoneでベンチマークテスト, 4月 17, 2025にアクセス、 https://iphone-mania.jp/news-471734/
- iOS15.6.1を入れたiPhone、バッテリーとベンチマークをテスト – iPhone Mania, 4月 17, 2025にアクセス、 https://iphone-mania.jp/news-481633/