AWS Graviton3E ベンチマークまとめ

cpu_aws CPU・SoC
  1. I. AWS Graviton3Eプロセッサ概要
    1. A. AWS Graviton ファミリ入門
    2. B. Graviton3E アーキテクチャと主要機能
    3. C. ターゲットワークロード
    4. D. Graviton2およびGraviton3との比較
  2. II. HPCおよびクラウドプロセッサ向けベンチマーク手法
    1. A. 標準CPUベンチマークの概要
    2. B. HPC特化型ベンチマークの概要
    3. C. アプリケーション特化型ベンチマーク
  3. III. AWS公開のGraviton3E性能データ
    1. A. 公式AWSベンチマークと主張 (ブログ、ホワイトペーパー、re:Invent)
    2. B. 性能比較: Graviton3E vs. 過去のGraviton世代 (AWSデータ)
    3. C. 性能比較: Graviton3E vs. x86インスタンス
  4. IV. 第三者によるGraviton3Eベンチマーク分析 (英語情報源)
    1. A. 技術ニュースおよびレビューサイトの調査結果
    2. B. 独立系ベンチマーク結果
    3. C. 学術研究および技術ブログ
    4. D. 競合分析: Graviton3E vs. Intel Xeon および AMD EPYC
  5. V. 第三者によるGraviton3Eベンチマーク分析 (日本語情報源)
    1. A. 日本の技術メディアおよびブログレビュー
    2. B. クラウド比較サイトのデータ
    3. C. 日本特有のユースケースや観測
  6. VI. 統合的な性能評価
    1. A. 計算集約型ワークロード性能
    2. B. メモリ集約型ワークロード性能
    3. C. 浮動小数点およびベクトル処理性能
    4. D. 特定アプリケーションにおける性能
    5. E. 特定された強みと弱み
  7. VII. コストパフォーマンス分析
    1. A. Graviton3Eインスタンス (Hpc7g, C7gn) の価格設定
    2. B. 同等性能インスタンスとのコスト比較 (x86, 他のGraviton)
    3. C. 主要ワークロードにおける価格性能比の算出
  8. VIII. 結論と要約
    1. A. Graviton3Eの位置づけと能力の再確認
    2. B. ワークロード別ベンチマーク結果の要約
    3. C. 性能とコスト効率に関する主要な考察
      1. 引用文献

I. AWS Graviton3Eプロセッサ概要

A. AWS Graviton ファミリ入門

Amazon Web Services (AWS) は、クラウドワークロード向けに価格性能比とエネルギー効率を最適化することを目的として、カスタムシリコンの開発に乗り出しました。その取り組みの成果が、ArmアーキテクチャをベースとしたAWS Gravitonプロセッサファミリです。2018年に発表された第一世代Gravitonは、オープンソースや性能要件がそれほど厳しくないスクリプティングワークロードをターゲットとし、A1インスタンスファミリーの一部として提供されました 1。この動きの背景には、顧客へのEC2インスタンス選択肢の拡大、Armベースアプリケーションのターゲット化、仮想化コストの削減と高可用性・セキュリティの提供、そして低価格での適切なサーバー性能の実現といった目的がありました 1

Gravitonファミリは世代を重ねるごとに進化を遂げています。Graviton2はArm Neoverse N1コアを採用し、第一世代から性能と機能を大幅に向上させました 1。続くGraviton3はNeoverse V1コアを採用し、Graviton2と比較して最大25%のコンピューティング性能向上、最大2倍の浮動小数点性能向上、DDR5メモリのサポートによるメモリ帯域幅50%向上などを実現しました 1。そして本レポートの主題であるGraviton3Eは、Graviton3をベースに特にHPC(High Performance Computing)ワークロード向けにベクトル演算性能を高めたバリエーションです 1。最新世代のGraviton4はNeoverse V2コアを採用し、さらなる性能向上を実現しています 1

Gravitonプロセッサは、Snap、Twitter、Netflix、Epic Games、Splunk、Nielsenといった業界リーダー企業によって、大規模データ処理からコンテンツストリーミング、AIアシスタントまで、ミッションクリティカルなワークロードに採用されており、その性能と効率性が実証されています 8。AWS Gravitonベースのインスタンスは、同等のx86ベースのAmazon EC2インスタンスと比較して、最大20%のコスト削減と最大60%のエネルギー効率向上を提供すると謳われています 8

B. Graviton3E アーキテクチャと主要機能

AWS Graviton3Eプロセッサは、Graviton3と同じくArm Neoverse V1コアをベースに設計されています 1。Hpc7gインスタンスでは、1ソケットあたり64個の物理コアを搭載しています 1。動作クロック周波数は2.6 GHzです 1

Graviton3Eの最大の特徴は、Graviton3と比較して最大35%向上したベクトル命令処理性能です 5。これは、特にHPCや科学技術計算など、ベクトル演算を多用するワークロードにおいて大きな性能向上をもたらします。この性能向上は、Graviton3と同じくコアあたり2つの256ビットSVE(Scalable Vector Extension)ユニットを搭載しているものの 1、Hpc7gインスタンスにおける特定のチューニングやシステム統合の選択によって実現されていると考えられます。

メモリサブシステムは、8チャネルのDDR5-4800メモリをサポートしており 1、Graviton2で採用されていたDDR4メモリと比較して50%広い帯域幅を提供します 3。これは、メモリ帯域幅が性能のボトルネックとなりやすいHPCアプリケーションにとって極めて重要です。キャッシュ階層は、コアあたり1MBのL2キャッシュ(Graviton3/Neoverse V1と同様)と、ソケットあたり32MBのシステムレベルキャッシュ(SLC)で構成されます 7。これは、コアあたり2MBのL2キャッシュを持つGraviton4/Neoverse V2とは異なります 1

命令セットアーキテクチャ(ISA)はArmv8.4-Aを採用し、SVE、Neon、暗号化処理アクセラレーション、bfloat16、int8などの拡張命令をサポートしています(これらはGraviton3から継承)1

Graviton3E搭載インスタンスは、AWS Nitro System上に構築されています 5。Nitro Systemは、専用のハードウェアと軽量ハイパーバイザーの組み合わせにより、仮想化機能の多くをオフロードし、分離されたマルチテナンシー、プライベートネットワーキング、高速ローカルストレージ(該当する場合)を提供します 5。これにより、CPUコアがアプリケーションワークロードに専念できるようになり、特にノード間通信(MPI)や大規模データI/Oが頻繁に発生するHPCワークロードにおいて、スケーラビリティと性能の達成に不可欠な役割を果たします。また、常時メモリ暗号化、vCPUごとの専用キャッシュ、ポインタ認証のサポートといったセキュリティ強化機能も提供されます 5

エネルギー効率に関しても、同等の性能を持つEC2インスタンスと比較して最大60%少ないエネルギー消費量であると主張されています 4。これはGravitonファミリ全体に共通する特徴です。

Graviton3EがGraviton3と同じNeoverse V1コアを採用し 6、Graviton4が新しいNeoverse V2コアに移行していること 1 を踏まえると、Graviton3Eは根本的なアーキテクチャ変更ではなく、既存のV1プラットフォームをベクトル演算多用型のHPCタスクに特化して戦略的に最適化したものと位置づけられます。主な差別化要因であるベクトル性能の向上 5 は、おそらくHpc7gインスタンス内での特定のチューニングやシステム統合の選択によって達成されており、Graviton4が広く利用可能になるまでの間、HPCユーザー向けの特定の性能ニーズを満たす役割を担っていると考えられます。

C. ターゲットワークロード

Graviton3Eプロセッサの主なターゲットは、密結合型の計算集約的ワークロードを中心としたHPC分野です 3。これは、Hpc7gインスタンスのネーミングやポジショニングからも明らかです。

具体的なアプリケーションとしては、計算流体力学(CFD)12、気象予報 12、金融オプション価格計算 12、科学技術計算 10、ライフサイエンス(例:GROMACS)11 など、高い浮動小数点演算性能、ベクトル処理能力、メモリ帯域幅が求められる分野が挙げられます。

また、C7gnやHpc7gインスタンスが提供する広帯域なEFA(Elastic Fabric Adapter)ネットワーキング 5 により、ネットワーク集約型アプリケーションにも適しています。CPUベースの機械学習(ML)推論もターゲットに含まれますが 3、Graviton3も既にこの分野をターゲットとしており、Graviton3Eのベクトル性能向上が特定のモデルで有利に働く可能性はありますが、主眼はHPCにあると言えます。

D. Graviton2およびGraviton3との比較

Graviton3E vs. Graviton3:

  • 共通点: 同じNeoverse V1コア、クロック周波数(2.6GHz)、コア数(最大64)、メモリチャネル(8xDDR5-4800)1
  • G3Eの利点: 最大35%高いベクトル命令処理性能 5。これが主要な差別化要因です。
  • インスタンスタイプ: G3EはHpc7g、C7gn 1。G3はC7g、M7g、R7g(およびその派生)1

Graviton3E vs. Graviton2:

  • コア: Neoverse V1 (G3E) vs. Neoverse N1 (G2) 1
  • 性能比較 (G3/G3E vs G2):
  • 最大25%高いコンピューティング性能 (G3 vs G2) 3
  • 最大2倍高い浮動小数点性能 (G3/G3E vs G2) 1
  • 最大2倍高速な暗号化処理性能 (G3 vs G2) 1
  • 最大3倍優れたML性能 (G3 vs G2) 1
  • G3Eは特に、計算集約型HPCワークロードにおいて、前世代Gravitonベースインスタンス(おそらくG2ベースのC6gn)と比較して最大70%高い性能を主張 11
  • メモリ: DDR5 (G3E) vs. DDR4 (G2) – 50%広い帯域幅 1
  • ISA: Armv8.4-A + SVE (G3E) vs. Armv8.2-A (G2) 1
  • インスタンス例: Hpc7g (G3E) vs. C6g, C6gn, M6g, R6g (G2) 1

表1: Graviton世代別仕様比較

特徴Graviton2 (例: C6g)Graviton3 (例: C7g)Graviton3E (例: Hpc7g)Graviton4 (例: R8g)
コアタイプNeoverse N1Neoverse V1Neoverse V1Neoverse V2
最大コア数/ソケット64646496
クロック周波数 (GHz)2.52.62.62.7-2.8 (推定)
ISAバージョンArmv8.2-AArmv8.4-AArmv8.4-AArmv9.0-A
主要拡張命令Neon, Crypto, FP16, DotProdNeon, Crypto, SVE, BF16, INT8, RNGNeon, Crypto, SVE, BF16, INT8, RNGNeon, Crypto, SVE2, BTI
メモリタイプ & チャネルDDR4 (8ch)DDR5-4800 (8ch)DDR5-4800 (8ch)DDR5-5600 (12ch)
L2キャッシュ/コア1MB1MB1MB2MB
L3/SLCキャッシュ/ソケット32MB32MB32MB36MB
主なインスタンスファミリC6g, M6g, R6g, T4g, X2gdC7g, M7g, R7gHpc7g, C7gnR8g

出典: 1

この表は、Graviton3Eがその前後の世代と比較してどのような位置づけにあるかを明確に示しています。G3Eは、G3と同じNeoverse V1コアとDDR5メモリを継承しつつ、ベクトル演算性能を強化したHPC特化型プロセッサであり、G2のN1コア+DDR4や、G4の新しいV2コア+SVE2+大容量L2キャッシュとは異なる特性を持っています。この仕様の違いが、後述するベンチマーク結果の解釈において重要となります。

II. HPCおよびクラウドプロセッサ向けベンチマーク手法

プロセッサの性能を評価するには、標準化されたベンチマークや、特定のアプリケーションに基づいたテストが用いられます。ここでは、Graviton3Eの評価に関連する主要なベンチマーク手法を概説します。

A. 標準CPUベンチマークの概要

  • SPEC CPU: 実際のアプリケーションに基づいたプログラム群(スイート)を実行し、計算集約的な性能を測定する業界標準ベンチマークです 16。各プログラムの実行時間をリファレンスマシンと比較し、その比率(SPECRatio)を算出します 16。スイート全体の性能は幾何平均(例:SPECint, SPECfpのレート指標)で示されることが多いですが、個々のテスト結果も重要視されます 16。ベースラインメトリクス(例:SPEChpc™2021_sml_base)では、言語ごとに同じコンパイルフラグを同じ順序で使用するなどの厳格な規定があります 17。ベンチマークが評価対象のワークロード特性と合致しているかを考慮することが重要です 17。SPECはCPU以外にも、グラフィックス(SPECviewperf)、ワークステーション(SPECworkstation)、アクセラレータ(SPECaccel)など多様なベンチマークを提供しています 18
  • STREAM: 持続可能なメインメモリ帯域幅(MB/s)を測定するためのシンプルな合成ベクトルカーネルベンチマークです(Copy, Scale, Add, Triad)19。CPUキャッシュに収まらない大規模なデータセットを扱うように設計されており、メモリ律速なアプリケーションの性能指標となります 21。結果は、使用する配列のサイズ(キャッシュサイズの合計より十分に大きい必要がある)や、スレッドの配置(CCX/L3キャッシュ単位での最適化が必要な場合がある)に影響されます 19。多くの場合、性能ボトルネックはメモリアクセスであり、浮動小数点演算(FLOPs)ではないことが示されます 20

B. HPC特化型ベンチマークの概要

  • LINPACK (HPL): 密行列の連立一次方程式 (Ax=b) を解く速度を測定し、システムの浮動小数点演算性能(FLOPS)を示すベンチマークです 22。スーパーコンピュータのランキングであるTOP500リストの作成に使用されます 22。問題サイズ (n) はスケーラブルであり(High Performance Linpack – HPL)、マシンの性能を最大限引き出すように調整可能です 22。主にピーク浮動小数点性能を反映し、計算能力によって律速される傾向があります。TOP500では倍精度浮動小数点(FP64)性能が測定されます 22。理論ピーク性能(Rpeak)に対する実測性能(Rmax)の比率(HPL効率)は、システムが理論値にどれだけ近づけるかを示し、ノード数が増えると通信オーバーヘッドにより低下する傾向があります 22。HPLの実行にはMPIとBLASまたはVSIPLの実装が必要です 22。アルゴリズムにはLU分解が用いられます 22
  • HPCG (High Performance Conjugate Gradients): HPLを補完する目的で開発されたベンチマークで、多くの科学技術計算アプリケーションで見られるデータアクセスパターンに近い、疎行列問題を扱います 23。マルチグリッド前処理付き共役勾配法を使用し 23、疎なデータ構造と通信パターン(SpMV, SymGS, Global Dot Productカーネル)により、メモリ帯域幅とネットワークレイテンシが性能に大きく影響します 24。HPLとは対照的に、性能はメモリ帯域幅によって律速されることが多いです 24。HPLとHPCGの性能差が小さいほど、システムは多様な問題に対してバランスが取れていると評価されます 24

C. アプリケーション特化型ベンチマーク

  • CFD (Computational Fluid Dynamics): 有限体積法(FVM)や有限要素法(FEM)などを用いて流体の流れをシミュレーションします 25。ベンチマークは、特定のモデル(例:14のAeroSUV)や標準問題(例:CFDBenchの蓋駆動キャビティ流れ、円柱周り流れ 26)を用いて行われます。性能はメッシュサイズ、乱流モデル、ソルバー設定などに依存します 25。主要な評価指標は、シミュレーション時間、コア数増加に伴うスピードアップ率、スループットなどです 14。CFDBenchは、特に機械学習を用いたCFD手法の標準化された評価を目指しています 26
  • 分子動力学 (MD): 原子や分子の相互作用をシミュレーションします。ベンチマークには、GROMACS(11で言及)、NAMD、LAMMPSなどの特定のソフトウェアパッケージがよく用いられます。性能は、シミュレーション規模(原子数)、力場の複雑さ、ノード間通信効率などに依存します。評価指標としては、1日あたりのシミュレーション時間ステップ数やナノ秒数などが使われます。
  • ML推論: 学習済み機械学習モデルを実行する際の性能を評価します。MLPerf(28で言及)のようなベンチマークが、標準化されたテスト(例:ResNet50画像分類)を提供します。性能は、モデルの複雑さ、バッチサイズ、データ型(FP32, Bfloat16, INT8など)に依存します 28。評価指標には、スループット(推論数/秒)やレイテンシが含まれます 29。Graviton3/3Eは、Bfloat16サポートなどの特定の最適化を備えています 1
  • データベースベンチマーク: sysbench(15で使用)のようなツールは、OLTP(オンライントランザクション処理)ワークロードをシミュレートし、同時接続負荷下でのデータベース性能(秒間クエリ数、レイテンシ)を測定します 15。性能は、インスタンスリソース(CPU、RAM、IOPS)、データベースエンジン(MySQL, PostgreSQL, MariaDBなど)、および設定に依存します 15
  • Webワークロードベンチマーク: Bombardier(30で使用)やwrkのようなツールは、WebサーバーやAPIに対する同時ユーザーリクエストをシミュレートします。評価指標には、秒間リクエスト数(RPS)やレイテンシ(p99、平均)が含まれます 30。性能は、アプリケーションロジック、インスタンスリソース、同時接続数に依存します。NGINXの性能はGravitonでしばしば引用されます 8。TechEmpowerベンチマークも一般的です 30

これらのベンチマークは、計算律速(HPL)からメモリ律速(STREAM, HPCG)、そして特定のアプリケーションにおける複合的な性能(CFD, MD, Web, DB)まで、幅広い特性をカバーしています。Graviton3Eの主な強化点がベクトル演算性能 5 とDDR5メモリ帯域幅 3 であることを考慮すると、Graviton3Eは特に浮動小数点ベクトル演算(SVEを活用)やメモリ帯域幅に敏感なベンチマークやアプリケーションで優れた性能を発揮すると予想されます。これは、特定のCFD/MDシミュレーション、科学技術計算(SPECfp、HPL、HPCGに反映される可能性)、そして特定のMLモデルでの強みを示唆します。一方で、純粋な整数演算(SPECint)やI/O律速のタスクでは、Graviton3に対するアドバンテージは限定的かもしれません。HPLでは、浮動小数点性能の向上によりGraviton2に対して顕著なゲインが期待され(11ではG2比2倍のLINPACK性能を主張)、HPCGではメモリ帯域幅とベクトル演算の両方が寄与するはずです。

III. AWS公開のGraviton3E性能データ

AWSは、ブログ記事、製品ページ、re:Inventなどのイベントを通じて、Gravitonプロセッサの性能に関する情報を公開しています。ここでは、Graviton3Eに焦点を当ててAWSが公開しているデータをまとめます。

A. 公式AWSベンチマークと主張 (ブログ、ホワイトペーパー、re:Invent)

情報源としては、AWSブログ 15、AWS製品ページ 3、re:Inventでの発表 8(ただし、re:Invent関連の情報はG3/G4の発表文脈が多く、G3E固有のベンチマークは少ない)、そして潜在的にはAWSホワイトペーパー 13(ただし、見つかったものはより一般的、またはNitroシステムに焦点を当てたもの)が挙げられます。

Graviton3E(主にHpc7gインスタンス経由)に関する主な性能主張は以下の通りです。

  • 計算集約型HPCワークロードにおいて、前世代Graviton(おそらくC6gn/G2)と比較して最大70%高い性能 11
  • Graviton3と比較して最大35%高いベクトル命令処理性能 5
  • Graviton2と比較して最大2倍高い浮動小数点性能 11(これはG3の主張と一致)。
  • Graviton2と比較して最大2倍のLINPACK性能 11
  • ライフサイエンスアプリケーション(GROMACS)において、Graviton3と比較して20%高い性能 11
  • AVBP(CFDソフトウェア)において、前世代Gravitonと比較してコアあたり1.8倍の高速化 11
  • OSUネットワークベンチマークにおいて、レイテンシ1.2倍削減、帯域幅2.3倍向上(おそらく200Gbps EFAによりG2ベースインスタンスと比較)11

Graviton3E(Hpc7g)に関する主な価格性能比の主張は以下の通りです。

  • 計算集約型HPCワークロードにおいて、前世代Gravitonと比較して約3倍優れた価格性能比 11
  • Simcenter X HPC(CFD)の分析では、Hpc7gは同等の性能をx86と同じコストで提供(インスタンス時間あたりの性能が高いことを示唆)14

B. 性能比較: Graviton3E vs. 過去のGraviton世代 (AWSデータ)

AWSの公式情報源から、G3EとG3、G2を直接比較している主張に注目します(上記A項参照)。特に、G3E対G3でのベクトル性能35%向上、およびG3E対G2での約70%の計算性能向上、2倍の浮動小数点性能、2倍のLINPACK性能向上を強調します。また、G2と比較した際のメモリ帯域幅の優位性(DDR5 vs DDR4)も重要です 11

C. 性能比較: Graviton3E vs. x86インスタンス

AWSの公式資料内で、G3E/Hpc7gとx86を直接比較する主張は比較的少ないですが、いくつかの文脈が存在します。

  • Simcenter X HPCの比較は、Hpc7gがCFDにおいてx86とコストパフォーマンスで競争力があることを示唆しています 14
  • Graviton全般に関する主張として、同等のx86と比較して最大40%優れた価格性能比(G2 vs x86)3、最大20%のコスト削減(Gravitonベース vs x86)8 が挙げられます。G3/G3Eはこの基盤の上に構築されています。
  • エネルギー効率:G3Eは同等のx86と比較して最大60%エネルギー効率が高いとされています 12。これは間接的な性能/TCO要因です。
  • AWSはGraviton世代間の比較に重点を置いているため、x86との比較は主に第三者のデータ(セクションIV)に依存する必要があります。

AWSのブログ記事や製品ページが、G3EのG2やG3に対する性能向上を強く強調している一方で 5、G3Eと特定の最新Intel/AMDインスタンスとの直接的かつ定量的な比較は、提供された情報源の中では少ないように見受けられます。x86に対する一般的な価格性能比の主張は存在するものの、しばしばGraviton全体や旧世代を指しています 3。これは、AWSのGraviton(G3Eを含む)に関する主要なマーケティング戦略が、自社シリコンライン内での継続的な改善と全体的な価値(価格性能比、効率)を示すことに焦点を当てており、最新のx86製品との直接的な競争ベンチマークは、第三者や特定の顧客事例に委ねる傾向があることを示唆しています。

IV. 第三者によるGraviton3Eベンチマーク分析 (英語情報源)

AWS以外の情報源からも、Graviton3Eの性能に関する分析やベンチマーク結果が公開されています。

A. 技術ニュースおよびレビューサイトの調査結果

HPCwireのようなサイトは、G3E/Hpc7gの発表を報じ、AWSの主張を再掲することがあります 12。多くの場合、仕様やターゲットワークロードに焦点が当てられ、独自の独立したベンチマークが含まれることは少ない傾向にあります。

B. 独立系ベンチマーク結果

  • OpenBenchmarking.org: ユーザーが投稿したベンチマーク結果を提供しています。一例として 37 では、c7gn.16xlarge (G3E) と c7g.16xlarge (G3)、c6g.16xlarge (G2)、m7g.16xlarge (G3)、そして c6a.16xlarge (AMD EPYC Zen3) が比較されています。このデータは、G3E、G3、G2、およびAMD EPYCとの直接的かつ独立した比較を行う上で非常に重要であり、セクションVIでの詳細な分析が必要です。
  • Phoronix: (提供された情報には含まれていないが、一般的な情報源) しばしばLinuxベースの広範なベンチマークを実施し、Graviton世代とIntel/AMDを比較しています。追加の外部調査対象となります。
  • Community.arm.com Blog: パフォーマンス分析に関する投稿が含まれることがあり、Graviton世代間やGraviton対x86の比較が行われる場合があります。例として 7 では、Graviton4とGraviton3E、およびGraviton4とAMD EPYC Genoaが比較されており、G3EのHPCワークロードにおける相対的な性能データポイントを提供しています(ただし、焦点はG4の優位性)。この分析では、対象となったHPCワークロード群の幾何平均で、Graviton4がGraviton3Eに対してコアあたり+24%の性能優位性を持つことが示されています。また、36 では、G3/G3Eに関連するNeoverse V1の性能評価手法に関するホワイトペーパーに言及しています。

C. 学術研究および技術ブログ

専門的なベンチマークや特定のアプリケーションにおける性能研究が含まれる可能性があります。(提供された情報にG3Eの具体例はないが、外部調査の対象領域)。

D. 競合分析: Graviton3E vs. Intel Xeon および AMD EPYC

OpenBenchmarking 37 やArm Communityブログ 7(G4経由の間接比較)などの独立した情報源からのデータを統合して分析します。

37 はG3E (c7gn) とAMD Zen3 (c6a) を直接比較しています。どちらがどのテストで優れているかを判断するには、実行された特定のテスト内容の分析が必要です。

7 はGraviton4とAMD EPYC Genoa (c7a) を比較し、G4が15.2%の幾何平均優位性を持つことを見出しています。これはG3Eの直接比較ではありませんが、Arm Neoverse (V2) と同時代のAMD EPYCとの比較文脈を提供します。これから推測すると、G3E (V1) は多くの領域でG4やGenoaに劣る可能性がありますが、そのHPCへの注力から、特定のベクトル/浮動小数点演算が重いタスクでは競争力を持つ可能性があります。

比較の際には、インスタンス構成(vCPU数、メモリ、ネットワーク)を考慮する必要があります。37 はGraviton/AMDともに16xlarge(64 vCPU)を使用し、7 は192 vCPUインスタンス(G4 vs Genoa)を比較しています。

G3Eがx86に対して強み(おそらくHPC/ベクトル演算)と弱みを示すワークロードを特定することに焦点を当てます。

Graviton3EはNeoverse V1をベースとしていますが、最新のAMD(Genoa/Bergamo)やIntel(Sapphire Rapids)は、より新しい、潜在的により強力なマイクロアーキテクチャ(IntelのAVX-512やAMDの高いコア数など)を採用しています。Graviton4(Neoverse V2)はG3Eに対して大幅な性能向上(7 でコアあたり+24%)を示し、AMD Genoaと良好に競合しています 7。これは、G3Eがそのニッチ(G3に対するベクトル性能向上)においては強力であるものの、汎用または全てのHPCワークロードにおいて、同時代のトップティアx86 CPU(GenoaやSapphire Rapidsなど)を普遍的に上回るわけではない可能性を示唆しています。したがって、G3Eのハイエンドx86に対する競争力は、そのHPCへの注力と一致するように、SVEベクトル能力とDDR5帯域幅を効果的に活用する特定のベンチマークやアプリケーションに大きく依存すると考えられます。たとえ絶対性能で常にトップでなくても、価格性能比では依然として魅力的な選択肢となり得ます。

V. 第三者によるGraviton3Eベンチマーク分析 (日本語情報源)

日本語の情報源からも、Graviton3Eや関連技術に関する情報が発信されています。

A. 日本の技術メディアおよびブログレビュー

  • Zenn.dev: ある記事 28 では、Graviton3がGraviton2に対して少なくとも25%の性能向上を達成していると論じています。MLPerf ResNet50推論ベンチマークにおいて、Graviton3 (Bfloat16使用) がGraviton2 (FP32使用) に対して約3.5倍の性能を示したことに言及しつつ、元となったグラフの表記に誤植の可能性があると指摘しています。これはGraviton3に関する情報ですが、G3Eが継承するML能力の文脈を提供します。
  • AWSブログ (日本語): 38 はRDSベンチマークに関するブログ記事 15 の日本語版であり、RDSにおいてG3 (m7g) がG2 (m6g) に対して最大27%の価格性能比向上を示すと述べています。31 はHpc7g発表ブログ 12 の日本語版です。これらは、AWSの公式な主張を日本の読者向けに再構成したものです。

B. クラウド比較サイトのデータ

(提供された情報に具体例なし。外部調査の対象領域)。

C. 日本特有のユースケースや観測

入手可能な日本語の情報源 28 は、主に英語のAWS発表や一般的なGraviton3に関する議論を反映したものであり、提供された情報の中からは、日本市場に特化したGraviton3Eのユニークなユースケースやベンチマークは見つかりませんでした。メッセージングはグローバルなものと一貫しているようです。

見つかった日本語の情報源 28 が、英語のAWSブログや一般的なG3に関する議論で提示された情報やベンチマーク結果(例:RDS G3 vs G2、MLPerf G3 vs G2、Hpc7g発表時の主張)をほぼそのまま反映していることから、AWSはGraviton3/3Eの性能と価値提案に関して、一貫したグローバルメッセージを維持していると考えられます。少なくともこの情報サンプルに基づけば、地域特有のベンチマークデータを用いるのではなく、主に言語によって地域対応を行っているようです。

VI. 統合的な性能評価

AWS公式情報と第三者によるベンチマーク結果を統合し、異なるワークロードタイプにおけるGraviton3Eの性能を評価します。

A. 計算集約型ワークロード性能

Graviton3E(Hpc7gインスタンス)は、これらのワークロードを主ターゲットとしており 11、G2ベースのC6gnと比較して最大70%の性能向上を主張しています 11

SPEC CPUの結果が見つかれば、一般的な整数演算および浮動小数点演算の計算能力を示す指標となります。Graviton3はGraviton2に対して約25%の性能向上を示しました 3。Graviton3Eは、SPECintではGraviton3と同等か若干優位、SPECfpではベクトル性能向上の恩恵により、より大きなゲインを示す可能性があります。

OpenBenchmarkingの結果 37 における計算負荷の高いテスト(コンパイル、エンコーディング、特定の科学技術計算コードなど)について、G3E、G3、G2、AMD Zen3間の比較分析が必要です。

また、Graviton4とGraviton3Eの比較 7 では、HPCワークロードにおいてG4がコアあたり大幅に高速(幾何平均+24%)であることが示されており、これはArmアーキテクチャにおける性能の上限を示唆しています。

B. メモリ集約型ワークロード性能

STREAMベンチマークにおいて、Graviton3Eは(Graviton3と同様に)8チャネルのDDR5-4800メモリ 1 の恩恵を受け、G2のDDR4と比較して理論上50%広い帯域幅を提供します 3。高いSTREAMスコアが期待され、クロックやチューニングの違いがなければG3と同等レベルになるでしょう。x86インスタンスとの比較は 37 の結果(STREAMが含まれていれば)を参照する必要があります。

HPCGの性能はメモリ帯域幅に大きく影響されるため 24、G3EはG2と比較して良好な性能を示し、x86のメモリサブシステムによっては競争力を持つ可能性があります。

データベース(RDS)に関しては、G3(m7g/r7g)がsysbenchにおいてG2(m6g)に対して最大34%の性能向上(レイテンシ削減)を示しました 15。G3Eは直接テストされていませんが、R7g(G3)はメモリ集約型データベースをターゲットとしています 3。G3Eインスタンス(Hpc7g, C7gn)は、これらのメモリ最適化ロールよりもHPCに焦点を当てています。

大規模なインメモリキャッシュやデータベース向けには、Xシリーズインスタンス(G2/G4向けに言及あり 1)やRシリーズインスタンス(G2/G3/G4向けに言及あり 1)が提供されています。G3Eインスタンスは通常、これらの役割には位置づけられていません。

C. 浮動小数点およびベクトル処理性能

これはGraviton3Eの主要な差別化領域です。Graviton3比で最大35%高いベクトル性能 5、Graviton2比で最大2倍高い浮動小数点性能 11 を持ちます。

HPL (LINPACK) では、G3EはG2比で最大2倍の性能を主張しており 11、浮動小数点スループットを反映した大幅な向上を示すはずです。可能であればx86のHPL結果と比較します。

科学技術計算アプリケーションでは、GROMACS (MD) がG3E対G3で20%の性能向上 11、AVBP (CFD) が前世代Graviton比でコアあたり1.8倍の高速化 11、Simcenter STAR-CCM+ (CFD) がHpc7g上で良好に動作する 14 など、浮動小数点/ベクトル演算への注力が実証されています。

37 の結果における浮動小数点/ベクトル演算が重いベンチマークの分析も重要です。

これらの性能向上を支える技術がSVE(Scalable Vector Extension)であり 1、その性能はソフトウェアがSVEを効果的に利用しているかどうかに依存します。

D. 特定アプリケーションにおける性能

  • HPC (CFD, 気象, 金融など): G3Eの主要ターゲットであり、Hpc7gインスタンスは200Gbps EFAと共にこの目的のために設計されています 11。AVBP、GROMACS、Simcenterなどのベンチマークで高い性能が示されています 11。Simcenter AeroSUVモデルでのスケーラビリティも良好(ほぼ線形のスピードアップ)であることが報告されています 14
  • ML推論: Graviton3は(Bfloat16使用時)G2比で最大3倍の性能向上を提供しました 3。Sprinklrの事例 29 では、混合AIワークロードをx86からG3 (c7g) に移行することで、20%のスループット向上、30%のレイテンシ削減、25-30%のコスト削減を達成しました。G3EはG3のML能力(BF16, INT8)を継承しており、ベクトル性能向上が特定のモデルでさらに役立つ可能性がありますが、ML推論にはG3インスタンス(C7g)がしばしばハイライトされます 5
  • データベース (RDS): G3 (m7g) はG2 (m6g) に対して顕著な価格性能比向上を示しました 15。G3EインスタンスはRDSの主要ターゲットではありません。
  • Web/アプリケーションサーバー: G3 (c7g) は、.NETワークロードにおいて同世代のIntel (c7i) と比較して、特に高負荷時に高い性能と価格性能比を示しました 30。Cadenceワークフローベンチマークでは、M7g (G3) がM5ad (x86/Zen2相当?) の約2倍の性能を示し、最大58%のコスト削減の可能性が示唆されました 39。G3E (C7gn) はEFA/帯域幅によりネットワーク集約型のWebワークロードを処理できますが、ベクトル性能が不要な場合はC7g (G3) の方がコスト効率が良い可能性があります。

E. 特定された強みと弱み

強み:

  • ベクトル処理とメモリ帯域幅に敏感なHPCワークロード(CFD、特定の科学技術計算コード)における卓越した性能 11
  • Graviton2と比較して高い浮動小数点性能 11
  • 広いメモリ帯域幅 (DDR5) 5
  • EFAによる広帯域(Hpc7g/C7gnで200Gbps)かつ低レイテンシなネットワーキング 5
  • ターゲットとするHPCアプリケーションにおける競争力のある価格性能比 11
  • 高いエネルギー効率 11
  • Arm向けの成熟したソフトウェアエコシステムサポート(OS、コンパイラ、ライブラリ、Graviton Readyプログラム経由のISV)3

弱み/考慮事項:

  • Graviton3に対する性能上の利点は、ベクトル演算が重いワークロードに特化しており、汎用タスクでは顕著でない可能性がある。
  • Neoverse V1ベースであり、Graviton4(Neoverse V2)や、場合によっては最新のx86のような新しいアーキテクチャには一部の領域で劣る可能性がある(7 から推測)。
  • 性能はソフトウェアの最適化、特にSVEの活用度に大きく依存する。
  • Hpc7gインスタンスは、極端なネットワーク帯域幅やベクトル性能を必要としないワークロードには過剰スペック/低コスト効率となる可能性がある。
  • 利用可能なAWSリージョンが限定的である可能性や、Hpc7gが単一AZに限定される可能性がある 11

表2: Graviton3E 性能概要(対前世代比較)

ワークロードタイプ対 Graviton2対 Graviton3
一般計算 (整数)顕著な改善 (G3ベース) 3同等~軽微な改善
浮動小数点計算大幅な改善 (最大2倍) 11同等~軽微な改善
ベクトル処理大幅な改善 (SVE導入 & FP性能向上) 1ターゲットを絞った改善 (最大35%向上) 5
メモリ帯域幅 (STREAM)顕著な改善 (DDR5) 5同等 (同じDDR5)
HPCアプリ (CFD/MDなど)大幅な改善 (最大70%向上、AVBP 1.8倍/コア) 11ターゲットを絞った改善 (GROMACS 20%向上) 11
ML推論大幅な改善 (最大3倍、BF16活用時) 3同等~ベクトル性能依存の改善
データベース (RDSなど)顕著な改善 (G3ベースで最大34%レイテンシ減) 15G3Eは非主要ターゲット
Web/アプリサーバー顕著な改善 (G3ベースで.NET/Cadenceで大幅向上) 30同等~ネットワーク性能依存の改善 (C7gn)

この表は、Graviton3Eが異なるタスクタイプにおいて、先行するGraviton世代と比較してどのような性能プロファイルを持つかを統合的に示しています。G3Eが最も大きなアドバンテージを発揮するのは、G2比での浮動小数点/ベクトル/HPC性能、およびG3比でのベクトル性能であり、他の領域でのゲインはより限定的であることがわかります。これは、G3Eの特定の強みを特定するのに役立ちます。

VII. コストパフォーマンス分析

Graviton3E搭載インスタンスの価値を評価するには、性能だけでなくコストも考慮に入れる必要があります。

A. Graviton3Eインスタンス (Hpc7g, C7gn) の価格設定

Hpc7g(4xlarge, 8xlarge, 16xlarge)およびC7gnインスタンスの最新のオンデマンド料金は、AWSの公式料金ページで確認する必要があります(提供された情報には相対比較や特定例 15 しか含まれていないため、外部参照が必要)。料金はAWSリージョンによって異なる場合があることに注意が必要です 6

また、リザーブドインスタンスやスポットインスタンスといったコスト削減オプションも利用可能ですが 4、Hpc7gのような特殊なインスタンスへの適用可能性は異なる場合があります。

B. 同等性能インスタンスとのコスト比較 (x86, 他のGraviton)

性能比較対象として、vCPU、メモリ、ネットワーク仕様に基づいて、同等のx86インスタンス(例:Hpc6a/AMD, Hpc6id/Intel, C7i/Intel, C7a/AMD)および他のGravitonインスタンス(C7g/G3, C6g/G2, C6gn/G2)を特定します。

これらのインスタンスのオンデマンド料金をHpc7g/C7gnと比較します。

一般的にGravitonインスタンスは同等のx86インスタンスより最大20%低コストであるという主張 8 が、G3Eと最新のx86 HPCインスタンスの間でどの程度当てはまるかを確認する必要があります。

C. 主要ワークロードにおける価格性能比の算出

ベンチマーク結果(AWS公式または第三者)と価格データを組み合わせて、価格性能比を評価します。

  • HPC: AWSは、Hpc7gが前世代Gravitonに対して約3倍優れた価格性能比を持つと主張しています 11。Simcenterの分析では、Hpc7gが同等の性能をx86と同じコストで提供することを示唆しており、これはインスタンス時間あたりの価格性能比が高いことを意味します 14
  • Web/一般: C7g (G3) での.NETベンチマークでは、C7i (Intel) と比較してドルあたりのリクエスト数が23-85%向上しました 30。Cadenceベンチマークでは、M7g (G3) がM5ad (x86) と比較してインスタンスあたりの性能が高いため、最大58%のコスト削減の可能性が示されました 39。これらはG3Eの直接的な結果ではありませんが、Graviton3世代の価値に関するベースラインを提供します。
  • データベース (RDS): G3 (m7g) はG2 (m6g) に対して最大27%優れた価格性能比(ドルあたりのクエリ数)を示しました 15
  • ML推論: Sprinklrは、x86からC7g (G3) に移行することで、20%高いスループットにより25-30%のコスト削減を達成しました 29

これらの結果を総合すると、Graviton3Eの価格性能比の優位性は、そのターゲットであるHPC分野で最も顕著であり、Gravitonファミリ全体のコスト効率の傾向を引き継いでいると考えられます。

AWSが一貫してGravitonの価格性能比を強調している一方で 3、具体的なベンチマークは、ワークロードによって価格性能比の優位性の度合いが異なることを示しています(一部の.NETテストでの大幅な向上 30、RDSでの顕著な向上 15、MLでの高い向上 29、HPCでの大きな向上主張 11)。しかし、この利点を享受するには、ワークロードがGravitonアーキテクチャ上で効率的に実行され、その特定の強み(コア数、ベクトルユニット、メモリ帯域幅など)から恩恵を受ける必要があります。したがって、G3Eは適切なHPCタスクに対して魅力的な価格性能比を提供する可能性が高いものの、ユーザーは代替手段(他のGraviton、x86)と比較したコスト削減効果を検証するために、自身の特定のアプリケーションでベンチマークを実施する必要があります。汎用的な主張が普遍的に当てはまるとは限りません。最適な選択は、性能要件、インスタンス価格、そしてソフトウェアライセンスコスト(12 で小規模なHpc7gサイズを選択する理由として言及)の組み合わせによって決まります。

表3: 価格性能比較分析(代表例)

ワークロード比較インスタンス例価格性能指標例 (相対値または指標)出典/注記
HPC – CFD (Simcenter)Hpc7g (G3E) vs. x86同性能を同コストで達成 (G3E優位)14
HPC – 計算集約型Hpc7g (G3E) vs. 前世代Graviton (G2)約3倍の価格性能比 (G3E優位)11
Web API (.NET 暗号化処理)C7g (G3) vs. C7i (Intel)+85.6% リクエスト/ドル (G3優位)30
Web API (.NET TE MultipleQueries)C7g (G3) vs. C7i (Intel)+32.7% リクエスト/ドル (G3優位)30
データベース – OLTP (RDS MariaDB)db.m7g (G3) vs. db.m6g (G2)+27% クエリ/ドル (G3優位)15
データベース – OLTP (RDS 全体平均)db.m7g (G3) vs. db.m6g (G2)+22% クエリ/ドル (G3優位)15
ML推論 (混合AIワークロード)C7g (G3) vs. x8625-30% コスト削減 (G3優位)29
ワークフロー (Cadence)M7g.xlarge (G3) vs. M5ad.xlarge (x86)57.5% 潜在的コスト削減 (G3優位)39

注意: 上記は報告されている結果の抜粋であり、実際の価格性能比は具体的なワークロード、構成、リージョン、価格モデルによって変動します。相対値は報告された改善率や削減率に基づきます。

この表は、異なるワークロードとインスタンスタイプ間での価格性能比を比較することで、G3E(およびG3)が代替手段と比較してどこで最も価値を提供するかをユーザーが理解するのに役立ちます。これは、評価と意思決定プロセスを直接サポートします。

VIII. 結論と要約

A. Graviton3Eの位置づけと能力の再確認

AWS Graviton3Eは、Graviton3(Neoverse V1)をベースとし、HPCおよびベクトル演算集約型ワークロード向けに最適化された特殊なプロセッサです。主な特徴として、強化されたベクトル性能、DDR5メモリ、そしてHpc7g/C7gnインスタンスを介した広帯域EFAネットワーキングが挙げられます。

B. ワークロード別ベンチマーク結果の要約

ベンチマーク分析の結果、Graviton3EはターゲットとするHPCアプリケーション(CFD、科学技術計算など)において、そのベクトル/浮動小数点演算能力の強化と広いメモリ帯域幅を活用し、高い性能を発揮することが示されました。これらの分野では、競争力のある価格性能比も期待されます。一方で、汎用的なワークロードにおいては、Graviton3との差別化は限定的です。AWSにおけるArm性能の次のステップはGraviton4が担うことになります。

C. 性能とコスト効率に関する主要な考察

  • Graviton3Eは、HPCワークロードにおいてGraviton2に対して大幅な性能向上を提供します。
  • Graviton3Eは、Graviton3に対してターゲットを絞ったベクトル/浮動小数点演算性能の向上をもたらします。
  • コストパフォーマンスは、特に適切なHPCワークロードにおいて引き続き主要な強みですが、アプリケーション固有の検証が必要です。
  • エネルギー効率の高さは注目すべき利点です。
  • 多くのアプリケーション、特にインタプリタ言語やArmコンパイラサポートが良好なものでは移行の労力は一般的に低いですが 33、C/C++/Goなどのコンパイル言語では再コンパイルが必要です 33。AWSはGravitonテクニカルガイド 33 やPorting Advisor 9 などのリソースを提供しています。

総じて、AWS Graviton3Eは、特定の高性能コンピューティングニーズを持つユーザーにとって、性能、コスト効率、エネルギー効率のバランスが取れた強力な選択肢となります。ただし、その採用にあたっては、ターゲットワークロードとの適合性、および代替となる他のGraviton世代やx86インスタンスとの慎重な比較検討が不可欠です。

引用文献

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