1. はじめに
Intel Core Ultra 7 155Hは、IntelのノートPC向けCPUにおける新時代の幕開けを象徴するプロセッサーです。Meteor Lakeアーキテクチャを採用し、高性能なPコア(Performance-cores)、高効率なEコア(Efficient-cores)、そして新たに導入された超低消費電力のLP Eコア(Low Power Efficient-cores)を組み合わせたタイル設計が特徴です 1。さらに、AI処理を専門に行うNPU(Neural Processing Unit)「Intel AI Boost」と、大幅に強化された内蔵グラフィックス「Intel Arc Graphics」を統合しています 2。
本レポートでは、日本のテクノロジーレビューサイトやハードウェア情報サイトの情報を基に、Core Ultra 7 155HのCPUおよびGPU性能、競合CPUとの比較、特定のワークロードにおけるパフォーマンス、そして搭載ノートPCの実使用感について、ベンチマーク結果とレビュー情報を統合し、その実力を徹底的に分析します。
2. CPUパフォーマンス:ベンチマークスコア分析
Core Ultra 7 155Hは、6基のPコア、8基のEコア、2基のLP Eコアを搭載し、合計16コア22スレッド構成となっています 1。TDP(Processor Base Power)は通常28Wに設定されていますが、ノートPCの冷却設計や電力設定によってパフォーマンスは変動します 4。
2.1. Cinebench R23 / 2024
Cinebenchは、CPUのレンダリング性能を測定する定番ベンチマークソフトです。
Cinebench R23:
- レビューサイト「ASCII.jp」のテストでは、マルチコアスコア14150ptsを記録しました 6。これは前世代のCore i7-1360P搭載機と比較して約1.26倍の性能向上に相当します 6。
- 別のレビューサイト「ASCII.jp」によるGALLERIA DL7C-IG-C4(Core Ultra 7 155H搭載)のテストでは、マルチコア15532pts、シングルコア1789ptsという結果も報告されています 1。
- ミニPC「GEEKOM GT1 Mega」でのレビュー(note.com)では、電力制限をかけないフルスロットル状態でマルチコア17310ptsという非常に高いスコアが記録されましたが、CPU温度は102℃に達しました 5。電力制限を45Wに設定するとスコアは約15300pts程度に低下するものの、温度上昇は抑えられる傾向にあります 5。電力効率(ワットパフォーマンス)のピークは24W付近で見られました 5。
Cinebench 2024:
- レビューサイト「for-real.jp」のテストでは、マルチコア784pts、シングルコア92ptsを記録しました 2。マルチコア性能はApple M1 Maxに匹敵するレベルですが、シングルコア性能は他の最新CPUと比較して低い結果となっています 2。
- GALLERIA DL7C-IG-C4のテスト(ASCII.jp)では、マルチコア840pts、シングルコア104ptsと、やや高いスコアが報告されています 1。
- ASUS Zenbook 14 OLED UX3405MAのテスト(yrpc.jp)では、マルチコア673pts、シングルコア108ptsでした 7。
- PC Watchの比較記事では、Snapdragon X Elite (X1E-78-100) がCore Ultra 7 155Hに対してマルチスレッドで1.88倍の性能を示したと報告されています 8。
これらの結果から、Core Ultra 7 155Hのマルチコア性能は、特に電力供給が十分な場合に前世代から大きく向上していることがわかります。しかし、Cinebench 2024におけるシングルコア性能は、競合と比較してやや見劣りする可能性があります。また、TDP設定や冷却性能がスコアに大きく影響することも確認できます 5。
2.2. Geekbench 6
Geekbenchはクロスプラットフォーム対応のベンチマークソフトで、CPUの総合的な性能を測定します。
- レビューサイト「for-real.jp」のテストでは、AIベンチマーク(ONNX)において、単精度(Single Precision)3324、半精度(Half Precision)1334、量子化(Quantized)5850と、テスト時点での最高スコアを記録しました 2。これはNPUの性能を反映していると考えられます。
- CPUスコアについては、レビューサイト「for-real.jp」の別記事 9 や「the比較」の動画レビュー 10 などで言及がありますが、具体的なGeekbench 6のCPUスコア(Multi/Single)を明記している日本語レビューは、提供された資料の中では限定的でした 8。PC Watchの記事 8 では、Geekbench 6を用いた比較が行われていますが、具体的なスコア数値はグラフに記載されていませんでした。
2.3. PassMark CPU Mark
PassMark CPU Markは、CPUの総合的な処理能力を評価するベンチマークです。
- レビューサイト「for-real.jp」のテストでは、28435という非常に高いスコアを記録しました 2。これはビジネス用途でストレスを感じることのないレベル(目安10000以上)を大幅に上回ります 2。
- しかし、同サイトの別記事や他サイト 9 では、24271というスコアも報告されており、テスト環境や計測時期によるばらつきが見られます。
- 競合との比較では、Ryzen AI 9 HX 370(約35000~36000)やCore Ultra 9 185H(約33000)には及ばないものの、Core Ultra 7 165H(約28700)と同等かやや下回るスコア、Snapdragon X Elite X1E-78-100(約22800~26600)よりは高いスコアを示す傾向があります 2。
PassMarkのスコアは高く、Core Ultra 7 155Hが強力なCPU性能を持つことを示唆していますが、スコアのばらつきには注意が必要です。
3. 内蔵グラフィックス (Intel Arc Graphics) の性能
Core Ultra 7 155Hに統合されたIntel Arc Graphicsは、従来のIris Xe Graphicsから大幅な性能向上を果たしています。Xe-LPGアーキテクチャを採用し、8基のXeコア(128基の実行ユニット)を搭載、レイトレーシングにも対応しました 13。
3.1. 3DMark
3DMarkは、GPUのゲーミング性能を測定する標準的なベンチマークです。
Time Spy (DirectX 12):
- スコアは3000~3900程度が報告されています 1。
- 前世代のIris Xe Graphics(Core i7-1360Pなど)と比較して約2倍の性能向上を示し、大幅に高速化されています 6。
- AMD Radeon 780M(Ryzen 7 7840Uなど)と比較しても高速で、Radeon 780MはArc Graphicsの64~83%程度の速度とされています 6。
- エントリークラスのdGPUであるGeForce GTX 1650 Max-Qと比較しても、テストによっては上回るスコアを記録しています 14。
Fire Strike (DirectX 11):
- スコアは6300~8300程度が報告されています 1。
- Iris Xe Graphicsに対してはTime Spy同様、大幅な性能向上を示しています 6。
- GeForce GTX 1650 Max-Qに対しては、Fire Strikeでは下回る結果も報告されています 14。
Speed Way (DirectX 12 Ultimate):
- スコアは474(PC Watch 15)、940(Core Ultra 7 258Vとの比較記事より、155Hのスコアは約475程度か 15)などが報告されています。Ryzen AI 9 HX 370(549)よりは低いものの、レイトレーシング性能を持つことを示しています 15。
Port Royal (Ray Tracing):
- スコアは1295 1 や1439 15 が報告されており、内蔵GPUとしてはレイトレーシング処理が可能であることを示しています。Ryzen AI 9 HX 370(1809)には劣ります 15。
Intel Arc Graphicsは、内蔵GPUとして飛躍的な性能向上を遂げ、従来のIris Xe Graphicsを大きく引き離し、競合のAMD Radeon 780Mや一部のエントリーdGPUに匹敵、あるいはそれを上回る性能を発揮します。
3.2. ゲーミングパフォーマンス
ベンチマークスコアの向上は、実際のゲームプレイにも反映されています。
軽量~中量級ゲーム:
- ファイナルファンタジーXIVベンチマークでは、最高品質(フルHD)で「やや快適」~「快適」の評価、標準品質(ノートPC)では「快適」以上の評価を得ています 15。Core Ultra 7 155HはRyzen AI 9 HX 370よりも高いスコアを出す傾向があります 15。
- Fortniteでは、パフォーマンス優先設定(フルHD)で平均90fps程度 16、低設定(フルHD)で平均60fps 15 と、十分プレイ可能なフレームレートが出ています。
- Apex Legendsでは、Core i7-1360P (Iris Xe) よりフレームレートが低いという報告もありますが 14、設定次第でプレイは可能です。
- 原神などの軽いゲームもプレイできる性能があると評価されています 10。
重量級ゲーム:
- Cyberpunk 2077では、Core i7-1360P (Iris Xe) より平均フレームレートは向上していますが、快適なプレイには画質設定の大幅な調整が必要です 14。
- Street Fighter 6では、最低設定でもベンチマークが完走できないという報告もあり 15、重量級格闘ゲームは厳しいようです。
- Call of Duty: Modern Warfare III (dGPU RTX 4060搭載機での参考) では、dGPUがあれば高フレームレートが期待できますが、iGPUのみでは厳しいでしょう 16。
- エルデンリングでは、低~中設定(フルHD)で平均40fps台を記録し、Ryzen AI 9 HX 370よりも高いフレームレートを示す場面もありました 15。
Intel Arc Graphicsにより、多くのゲームが内蔵GPUで現実的にプレイ可能になりました 14。特にDirectX 12世代のゲームで性能を発揮する傾向が見られます 14。ただし、最新のAAAタイトルを高画質でプレイするには依然としてdGPUが必要です。
4. 特定ワークロードにおけるパフォーマンス
Core Ultra 7 155Hは、NPUの搭載によりAI処理能力が強化され、クリエイティブワークや一般的なオフィスワークにおける性能も注目されます。
4.1. AI処理 (NPU: Intel AI Boost)
NPUは、CPUやGPUからAI関連のタスクをオフロードし、効率的に処理することを目的としています。
UL Procyon AI Interface / Computer Vision Benchmark:
- NPU (Intel AI Boost / OpenVINO) を使用した場合、CPUのみで処理した場合と比較して2.8倍~3倍以上高いスコアを記録しました 1。
- テスト中、NPUの使用率は70~80%に達する一方、CPU/GPU負荷は低く抑えられ、システム全体の消費電力もCPU処理時(最大83W)と比較してNPU処理時(最大42.7W)は大幅に低減されました 1。これは電力効率の高さを明確に示しています。
競合 (Snapdragon X Elite) との比較:
- Qualcommが公開したStable Diffusionの画像生成テストでは、Snapdragon X Elite (Qualcomm AI Stack使用) が7.25秒で完了したのに対し、Core Ultra 7 155H (OpenVINO使用) は22.3秒を要し、約3倍の差がつきました 17。さらに、Core Ultraが1枚生成する間にSnapdragon X Eliteは10枚生成できたとし、約10倍の性能差があると主張されています 17。これは、NPU単体の性能差(Snapdragon X Elite: 45 TOPS vs Core Ultra: NPU+GPUで34 TOPS程度)以上に、ソフトウェアスタックの最適化が影響している可能性があります 17。
実用性:
- 現時点では、Windows Studio Effects(背景ぼかし、自動フレーミングなど)での活用が主ですが、対応アプリケーションが増えることで、日常的な作業の効率化が期待されます 2。NPU対応アプリが増えれば、Core Ultraの利点がより明確になるでしょう 1。
NPUは、特定のAIタスクにおいてCPUよりも大幅に高速かつ省電力で処理を実行できる可能性を示しています。ソフトウェアエコシステムの成熟が今後の鍵となります。
4.2. クリエイティブワークロード (動画・写真編集)
強化されたCPU/GPU性能とNPUにより、クリエイティブタスクへの適性も向上しています。
Adobe Photoshop / Lightroom Classic:
- UL Procyon Photo Editing Benchmarkでは、総合スコア5000点台を記録 18。特にPhotoshopでの画像レタッチ(Image Retouching)は高速で、Core Ultra 7 155Hは前世代や競合と比較しても良好な性能を示します 19。
- Lightroom Classicでのバッチ処理(Batch Processing)も実用的ですが、「詳細の強化」のような重い処理には時間がかかる場合があります 18。
- あるレビューでは、RTX 4050搭載ノートPCでGPUを無効化(Core Ultra 7 155HのiGPUのみ使用)した方が、Lightroomの書き出し時間がわずかに速くなった(1分5秒→1分2秒)という結果も報告されています 20。これは、使用ソフトのバージョンやGPU最適化の状況に依存する可能性があります。
Adobe Premiere Pro / DaVinci Resolve:
- UL Procyon Video Editing Benchmarkでは、GPUアクセラレーションを有効にすることでスコアが大幅に向上し(例: 2826→5221)、特にH.265/4Kのような重い処理で効果を発揮します 18。フルHD編集であれば、iGPUのみでも比較的快適に行えると評価されています 10。
- DaVinci Resolveでの動画書き出しテスト(PC Watch)では、Ryzen AI 9 HX 370 (22.2fps) に次ぐ性能 (18.2fps) を示しました 15。
- RTX 4050搭載ノートPCでGPUを無効化した場合、Vegas Pro 21での書き出し時間が大幅に短縮された(5分58秒→4分42秒)という報告もあります 20。これもソフトウェア側の最適化やQSV(Quick Sync Video)エンコーダーの優秀さを示唆している可能性があります。
- メモリ使用量については、4K動画編集時に18GBを超えるリソースが必要になる場合があり、32GBメモリが推奨される場面もあります 21。
Core Ultra 7 155Hは、写真編集やフルHD程度の動画編集であれば、内蔵GPUのみでも十分に対応可能です。4K編集やAI機能を多用する場合は、メモリ容量やdGPUの有無がパフォーマンスに影響しますが、iGPUの性能向上により、従来よりも幅広いクリエイティブワークをこなせるようになっています。
4.3. 一般的な生産性・オフィスワーク
PCMark 10は、Webブラウジング、ビデオ会議、Officeソフト利用など、日常的なタスクのパフォーマンスを測定します。
PCMark 10:
- 総合スコアは6200~6800程度が報告されています 1。これはミドルハイクラスの性能を示します 2。
- Essentials(通常用途、ビデオ会議)スコアは9600 2、Productivity(Officeソフト)スコアは8182 2 と、いずれも快適なレベルを大きく超えています。
- Digital Content Creation(コンテンツ作成)スコアも8300~10000程度と高く、クリエイティブ用途への適性も示しています 1。
実使用感:
- レビューでは、Windowsの起動やログイン後のデスクトップ表示、Webブラウザ、メール、Officeソフトの動作がキビキビしており、実用上の不満はないと評価されています 23。
- CPU Markスコアの目安(10000以上でビジネス用途でストレスなし)から見ても、Core Ultra 7 155Hは一般的なオフィスワークやビジネス用途には十分すぎる性能を持っています 2。
Core Ultra 7 155Hは、日常的なPC作業やビジネス用途において、非常に快適なパフォーマンスを提供します。
5. 実使用評価:搭載ノートPCレビューから
ベンチマークスコアだけでなく、実際のノートPCとしての使用感も重要です。
5.1. ユーザーエクスペリエンス
- 応答性: 全般的に動作は高速で、Windowsの起動、アプリの立ち上げ、Webブラウジングなどがスムーズであると評価されています 23。
- マルチタスク: 複数のアプリケーションを同時に使用しても、動作が重くなることは少ないようです 2。
- その他: 指紋認証によるログイン 4 や、顔認証 1 に対応するモデルもあり、利便性が高められています。
5.2. バッテリー持続時間
LP Eコアの搭載により、低負荷時の電力効率向上が期待されます 2。
テスト結果:
- the比較のレビュー動画 10 では、YouTube動画連続再生(低負荷)で13時間37分、動画編集ソフトでのプレビュー再生(やや高負荷)で6時間45分という結果が報告されています。これは実用的なバッテリー持続時間と言えます。
- dynabook R9/Xのレビュー(マイナビニュース)では、PCMark 10 Battery Life Benchmark (Modern Office) で15時間2分を記録しました 13。JEITA 3.0基準では動画再生時約11時間、アイドル時約27時間と公表されており、従来モデルから10~14%改善しています 13。
- ASUS Zenbook 14 OLEDのレビュー(yrpc.jp)では、YouTube再生で8時間13分でした 7。ディスプレイ解像度やバッテリー容量(Zenbook: 75Wh vs dynabook: 約65Wh 10)の違いが影響している可能性があります。
- 評価: Core Ultra 7 155H搭載ノートPCは、モデルにもよりますが、一日中持ち歩いても安心できるレベルのバッテリー持続時間を持つものが増えています 26。LP Eコアが低負荷時の電力削減に寄与していると考えられます 2。
5.3. 発熱と冷却、動作音
TDP 28WクラスのHプロセッサーであるため、発熱と冷却性能、ファンノイズは重要な要素です。
CPU温度:
- 高負荷時(Cinebench実行時など)には、電力制限なしの場合100℃を超えることもありますが 5、電力制限(TDP)を適切に設定することで80℃台に抑えることが可能です 5。
- ThinkPad E14 Gen6 (Core Ultra 5 125H) のレビューでは、「最適なパフォーマンス」モードで約83℃、「バランス」モードで64~74℃程度で推移していました 27。155Hでも同様の傾向が予想されます。
筐体温度:
- 高負荷時(ゲームプレイ中など)にはキーボード上部が48℃程度まで熱くなることがありますが、キー自体はそれほど熱くならず、操作は可能とされています 7。
- 低負荷時にはパームレストなどが熱くなることは少ないようです 10。
ファンノイズ:
- アイドル時や低負荷時は非常に静かです 7。
- 高負荷時(ベンチマーク実行時など)には、パフォーマンスモードで48dB程度まで上昇し、静かな場所では気になる可能性があります 7。静音モード(Whisper Modeなど)を選択すれば、40dB程度に抑えられますが、パフォーマンスは若干低下します 7。
薄型ノートPCに搭載されることが多いため、高負荷時の発熱やファンノイズはある程度発生しますが、電力制御や動作モードの選択により、実用上問題ないレベルに管理されている機種が多いようです。
5.4. 搭載ノートPCのビルドクオリティと特徴
Core Ultra 7 155Hは、様々なメーカーのノートPCに採用されています。
- 筐体: アルミニウム製で質感が良いモデル 10 や、軽量性を重視したモデル(例: 14インチで約1.5kg 1、16インチで軽量 25)などがあります。
- ディスプレイ: 高解像度(2.8K: 2880×1800 1)、高リフレッシュレート(120Hz 1)、広色域(sRGB 100% 10, DCI-P3 100% 4)、OLEDパネル 4 など、高品質なディスプレイを搭載するモデルが増えています。
- キーボード: 日本語配列で打ちやすいと評価されるモデル 10 が多いですが、一部キー配列(例: 電源ボタンの位置)に注意が必要な場合もあります 10。バックライト付きも一般的です 14。
- ポート: Thunderbolt 4 1、USB Type-C (PD対応) 1、HDMI 1、SDカードスロット 14(ただしMicroSDの場合も 10)などを備えます。
Core Ultra 7 155H搭載ノートPCは、性能だけでなく、ディスプレイ品質や携帯性、使い勝手にも配慮された魅力的な製品が多く登場しています。
6. 競合CPUとの性能比較
Core Ultra 7 155Hの立ち位置をより明確にするため、主要な競合CPUと比較します。
6.1. vs Intel 前世代 (Core i7 H/Pシリーズ)
- CPU性能: Cinebench R23マルチコアでCore i7-1360P比で約1.26倍高速 6、PCMark 10でも上回るスコア 14 など、全体的にCPU性能は向上しています。特にマルチスレッド性能の向上が顕著です。
- GPU性能: Intel Arc GraphicsはIris Xe Graphicsに対して約2倍の性能向上を果たしており、グラフィック性能は飛躍的に向上しました 6。
- AI性能: NPU非搭載の前世代に対し、Core Ultra 7 155Hは専用NPUによるAI処理能力を持ちます 3。
- 電力効率: LP Eコアの追加により、低負荷時の電力効率改善が期待されます 2。
Core Ultra 7 155Hは、前世代のCore i7 H/Pシリーズに対して、CPU、GPU、AI性能、電力効率の全てにおいて明確な進化を遂げています。
6.2. vs AMD Ryzen (Ryzen 7/9 H/HSシリーズ, Ryzen AI 9 HX 370)
CPU性能:
- vs Ryzen 7 7840U/HS, 8840HS/U: Cinebench R23マルチコアではCore Ultra 7 155HがRyzen 7 7840Uを上回る結果 6 がありますが、Cinebench 2024マルチコアではRyzen 7 8845HS (867) の方が高いスコアを示す場合も 2。PassMark CPU Markでは、Ryzen 7 8845HS (約30000) や8840HS (約25000) に対して、155H (約24000~28000) は同等かやや下回る傾向が見られます 2。
- vs Ryzen AI 9 HX 370: 最新世代のRyzen AI 9 HX 370は、CPU性能でCore Ultra 7 155Hを大きく上回る傾向があります。Cinebench 2024/R23マルチコアで約1.5倍 15、PassMark CPU Markで約1.3~1.5倍 2、実アプリケーション(Adobe Camera Raw, DaVinci Resolve, HandBrakeなど)でもRyzen AI 9 HX 370が高速です 15。シングルコア性能でもRyzen AI 9 HX 370が優位です 15。
GPU性能 (iGPU):
- vs Radeon 780M (Ryzen 7040/8040シリーズ): Intel Arc GraphicsはRadeon 780Mよりも高速であると評価されています 6。
- vs Radeon 890M (Ryzen AI 300シリーズ): 最新のRadeon 890M (Ryzen AI 9 HX 370に搭載) は、多くの3DMarkテストやゲームでIntel Arc Graphicsを上回る性能を示します 2。ただし、FFXIVベンチマークやエルデンリングの一部設定ではArc Graphicsが優位な場面もあり、ドライバやゲームの最適化によって変動する可能性があります 15。
AI性能 (NPU):
- Ryzen AI 300シリーズ (XDNA 2アーキテクチャ) は最大50 TOPSのNPU性能を持ち、Core Ultra (シリーズ1) のNPU性能を上回ります 11。
CPUのマルチスレッド性能や最新のiGPU性能ではAMD Ryzen、特に最新のRyzen AI 300シリーズがCore Ultra 7 155Hに対して優位性を持つ場面が多く見られます。ただし、特定のゲームやシングルスレッド性能が重要な場面、あるいはソフトウェア最適化によってはCore Ultraが健闘する場合もあります。
6.3. vs Snapdragon X Elite
CPU性能:
- Cinebench 2024マルチスレッドでは、Snapdragon X Elite (X1E-78-100) がCore Ultra 7 155Hの1.88倍の性能を示したと報告されています 8。
- PassMark CPU Markでは、Snapdragon X Elite (約22800~26600) はCore Ultra 7 155H (約24000~28000) と比較して同等かやや低いスコアが出ていますが 12、これはベンチマークソフトがArmネイティブで動作しているか、x86エミュレーション経由かによって大きく変動する可能性があります 8。
GPU性能:
- GFXBench 5や3DMarkの比較では、Core Ultra 7 155HのIntel Arc Graphicsの方がSnapdragon X EliteのAdreno GPUよりも高いスコアを示す傾向が報告されています 8。
AI性能 (NPU):
- Stable Diffusionのテストでは、Snapdragon X EliteがCore Ultra 7 155Hに対して大幅に高速な処理能力(3倍~10倍)を示しました 17。これはNPU性能(45 TOPS vs NPU+GPUで34 TOPS程度)とソフトウェアスタックの最適化の差によるものと考えられます 17。
その他:
- Snapdragon X EliteはArmアーキテクチャであるため、従来のx86アプリケーションの動作にはエミュレーションが必要となり、互換性やパフォーマンスに影響が出る可能性があります 8。
CPUのマルチスレッド性能やNPU性能ではSnapdragon X Eliteが優位性を示す可能性がありますが、GPU性能ではCore Ultra 7 155Hが有利な場面が多く、またArmアーキテクチャ特有の互換性の問題も考慮する必要があります。
競合CPUとのベンチマークスコア比較 (代表値)
ベンチマーク | Core Ultra 7 155H | Core i7-1360P | Ryzen 7 7840HS | Ryzen AI 9 HX 370 | Snapdragon X Elite (X1E-78-100) | 出典例 |
Cinebench R23 Multi | ~14000-17000 | ~11000 | ~16000 | ~16500 | – | 1 |
Cinebench 2024 Multi | ~700-800 | ~570 | ~900 | ~950 | ~920 | 1 |
Cinebench 2024 Single | ~90-110 | ~85 | ~100 | ~115 | ~107 | 1 |
PassMark CPU Mark | ~24000-28000 | ~17000 | ~25000 | ~35000 | ~23000-27000 | 2 |
3DMark Time Spy (GPU) | ~2800-3900 | ~1800 (IrisXe) | ~2800 (780M) | ~3400 (890M) | – | 1 |
注意: スコアはテスト環境(TDP設定、冷却性能、メモリ速度など)やソフトウェアバージョンにより変動します。上記は各レビューからのおおよその範囲を示したものです。
7. 分析と結論
収集したベンチマークデータとレビュー情報を統合し、Intel Core Ultra 7 155Hの強み、弱み、および適した用途を分析します。
7.1. 強み
- 大幅に向上した内蔵GPU性能: Intel Arc Graphicsは、前世代のIris Xe Graphicsから飛躍的な進化を遂げ、AMD Radeon 780MやエントリークラスのdGPUに匹敵、あるいはそれを上回る性能を発揮します 6。これにより、薄型軽量ノートPCでも軽めのゲームやクリエイティブ作業がより快適に行えるようになりました。
- 強力なマルチコアCPU性能: 特に電力供給が十分な場合、前世代のCore i7 H/Pシリーズを上回るマルチコア性能を発揮します 5。
- 専用NPUによるAI処理能力: Intel AI Boostにより、特定のAIタスクをCPUやGPUよりも効率的(高速かつ省電力)に処理できます 1。将来的に対応ソフトウェアが増えれば、大きなアドバンテージとなる可能性があります。
- 電力効率の改善: LP Eコアの導入により、アイドル時や低負荷時の消費電力が削減され、バッテリー持続時間の向上に貢献します 2。
7.2. 弱み
- シングルコア性能のばらつき: ベンチマークによっては(特にCinebench 2024)、競合の最新CPUと比較してシングルコア性能がやや低い結果が見られます 2。
- iGPU性能の限界: 大幅に向上したとはいえ、最新のAMDハイエンドiGPU(Radeon 890M)やミドルレンジ以上のdGPUには及びません 15。AAAタイトルの高画質プレイは依然として困難です。
- NPUエコシステムの発展途上: NPUの性能を最大限に活かせるアプリケーションはまだ限られており、その真価が発揮されるのはこれからです 1。競合(Snapdragon X Elite)と比較してAI処理性能で劣る場面も報告されています 17。
7.3. 適した用途
これらの強みと弱みを踏まえると、Core Ultra 7 155Hは以下のような用途に適しています。
- ビジネス・学業用途: 高いCPU性能と優れた電力効率により、Officeソフトの使用、Web会議、資料作成などを快適にこなせます。バッテリー持続時間も長く、持ち運びにも適しています 2。
- ライト~ミドルクリエイティブワーク: 写真編集(Photoshop, Lightroom)、フルHD動画編集(Premiere Pro, DaVinci Resolve)、簡単なグラフィックデザインなど、内蔵GPUの性能向上により、従来よりも快適に作業できます 10。
- カジュアルゲーミング: ファイナルファンタジーXIV、Fortnite、エルデンリング(低~中設定)など、多くのゲームが設定次第でプレイ可能です 10。
- AI活用: Windows Studio EffectsのようなOS標準機能や、将来登場するNPU対応アプリケーションを活用したいユーザーに適しています 1。
7.4. 総合評価
Intel Core Ultra 7 155Hは、IntelのモバイルCPU戦略における重要な転換点を示すプロセッサーです。タイルアーキテクチャ、強化されたArc Graphics、そして専用NPUの統合により、性能、グラフィックス能力、AI機能、電力効率のバランスが大きく向上しました。特に内蔵GPU性能の飛躍的な向上は、薄型軽量ノートPCの可能性を広げるものです。
競合と比較すると、CPUマルチコア性能や最新iGPU性能ではAMDのRyzen AI 300シリーズに、NPU性能ではSnapdragon X Eliteに後れを取る場面も見られます。しかし、前世代からの着実な進化と、CPU/GPU/NPUを組み合わせた総合的なプラットフォームとしての完成度は高く評価できます。
Core Ultra 7 155Hを搭載したノートPCは、ビジネスユーザーからクリエイター、カジュアルゲーマーまで、幅広い層にとって魅力的な選択肢となるでしょう。今後のソフトウェア最適化とNPUエコシステムの発展により、その価値はさらに高まることが期待されます。
引用文献
- Core Ultra 7 155Hで約1.5kgのモバイル14型ノートPCの実力を知る! – ASCII.jp, 4月 9, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/218/4218833/
- Core Ultra 7 155Hのベンチマーク – パソコンガイド, 4月 9, 2025にアクセス、 https://for-real.jp/core-ultra-7-155h-benchmarks/
- 【2025年版】 Intel Core Ultra 7とi7:どちらを選ぶべきか, 4月 9, 2025にアクセス、 https://blog.geekom.jp/intel-core-ultra-7-vs-i7/
- Core Ultra搭載で最強2in1ノートだ = 「HP Spectre x360 16」実機レビュー – ASCII.jp, 4月 9, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/limit/group/ida/elem/000/004/185/4185995/
- Core Ultra 7 155H搭載ミニPC!GEEKOM GT1 Mega実機レビュー|重藤 六 – note, 4月 9, 2025にアクセス、 https://note.com/heavywisteriasix/n/n1c6464bb3c91
- ASCII.jp:速報!!インテルの新世代CPU「Core Ultra」の速度をAcer …, 4月 9, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/175/4175855/
- 「ASUS Zenbook 14 OLED UX3405MA」実機レビュー!これは強力 …, 4月 9, 2025にアクセス、 https://yrpc.jp/review/asus-zenbook-14-oled-ux3405ma/
- 【笠原一輝のユビキタス情報局】やっぱり速かった … – PC Watch, 4月 9, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1601037.html
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- 【Xiaomi Redmi Book Pro 16 2024】Intel Core Ultra 7 155Hに3.1Kディスプレイを搭載した16インチノートPC, 4月 9, 2025にアクセス、 https://chinadap.jp/2024/08/xiaomi-redmi-book-pro-16-2024.html
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- バッテリーは実測20時間超え!! ついに発売となったCoreUltra2搭載ノートPC「Zenbook S14」 実機レビュー – ASCII.jp, 4月 9, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/226/4226189/
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- Acer Swift Go14(Core Ultra)のレビュー|ぱるちゃん – note, 4月 9, 2025にアクセス、 https://note.com/paru877/n/n15ec3ec12c73
- 【2024年版】 Intel Core Ultra 7とi7:どちらを選ぶべきか(中)|GEEKOM公式サイト – note, 4月 9, 2025にアクセス、 https://note.com/geekompc/n/nfc746a89d26c
- Core Ultra 5 226Vのベンチマーク – the比較, 4月 9, 2025にアクセス、 https://org.thehikaku.net/pc/other/CoreUltra5-226V.html
- クアルコムのSnapdragon X EliteとIntel Core Ultra 7 155Hのゲーミング性能比較 – LaptopMedia, 4月 9, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/news/qualcomm-shares-snapdragon-x-elite-vs-intel-core-ultra-7-155h-gaming-performance-comparison/
- Intel Core Ultra完全ガイド!最新CPUの魅力と性能を徹底解説(下)|GEEKOM公式サイト – note, 4月 9, 2025にアクセス、 https://note.com/geekompc/n/n9ba0ee874f57