1. プロセッサ概要
Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーは、モバイル環境向けに設計された高性能なCPUです。その基本仕様として、4つのパフォーマンスコア(Pコア)と4つの高効率コア(Eコア)の計8コアを搭載し、8スレッドを同時に処理する能力を持ちます 1。最大ターボ周波数は5.1 GHzに達し、高度なタスク処理においても高い応答性を実現します 1。また、内蔵グラフィックス機能としてIntel Arc Graphics 140Vを搭載しており、CPUだけでなくGPU性能も統合されている点が特徴です 1。キャッシュ容量は12 MB Intel Smart Cache、プロセッサーのベースパワーは30 W、最大ターボパワーは37 Wとなっています 1。製品の発売は2024年の第3四半期を予定しています 1。
このプロセッサーのハイブリッドアーキテクチャは、性能と電力効率のバランスを重視した設計思想に基づいています。Pコアは高い処理能力を必要とするタスクに、Eコアはバックグラウンド処理などの電力効率が求められるタスクに最適化されており、これにより、様々なワークロードにおいて効率的な動作が期待できます。内蔵GPUであるIntel Arc Graphics 140Vの性能は、従来のIntel内蔵グラフィックスから大幅に向上しており、日常的な利用だけでなく、よりグラフィカルな処理や軽めのゲームにも対応できる可能性があります。
2. CPU ベンチマーク
2.1. シングルコア性能
CPUの基本的な処理性能を示すシングルコアのベンチマークスコアとして、Geekbench 6では2901という値が複数の情報源から報告されています 2。これは、MSI Prestige 13 AI EVOというノートPCで計測された結果であり、別の情報源であるマイナビニュースの記事でも同様のスコア(2790から2901の間)が示唆されています 4。このように、複数の独立した情報源で類似のスコアが得られていることは、このプロセッサーのシングルコア性能の一貫性を示唆しています。
また、PassMarkによるシングルコアのベンチマークスコアは4345と報告されています 5。GeekbenchとPassMarkは、CPUの異なる側面を評価するベンチマークソフトであり、それぞれのスコアを比較することで、プロセッサーのシングルコア性能をより総合的に理解することができます。Geekbenchが実際のアプリケーションでの動作に近い処理能力を測るのに対し、PassMarkはより理論的な演算能力を評価する傾向があります。
2.2. マルチコア性能
複数のコアを同時に使用するマルチコア性能においては、Geekbench 6で9596というスコアが報告されています 2。一方で、別の情報源ではより高い11408というスコアも記録されており 3、マイナビニュースの記事でも9579から11048の範囲のスコアが示されています 4。このようにマルチコアスコアに幅が見られるのは、テスト時のシステム構成(例えば、搭載されているRAMの容量や速度、冷却性能など)や、ベンチマークソフトの設定、あるいはテスト環境の違いなどが影響していると考えられます。
PassMarkによるマルチコアのベンチマークスコアも5で確認できますが、提供された情報だけでは具体的な数値は明示されていません。より詳細な分析のためには、PassMarkの公式サイトなどで直接的なスコア情報を確認することが望ましいです。
2.3. 競合製品との比較 (CPU)
Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーと競合するAMD Ryzenシリーズとの性能比較に関する情報もいくつか見られます。PC Watchの記事では、Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーと他社製品とのGeekbench比較画像が紹介されていますが、具体的な数値は示されていません 6。ITmediaの記事では、8コア8スレッドのCore Ultra 9 288Vが、12コア24スレッドのRyzen AI 9 HX 370に対して電力効率の面で匹敵する可能性があると指摘されています 7。これは、コア数が多い競合製品に対しても、Intelが電力効率を重視した性能向上を目指していることを示唆しています。
一方、ASCII.jpの記事では、AMDがRyzen AI MAX+ 395はクリエイティブ系アプリで平均2.6倍、グラフィック描画処理で平均1.4倍Core Ultra 9 288Vを上回ると主張していることが述べられています 8。ただし、この比較はAMDのリファレンスボードとASUSのZenbook X 14という異なるプラットフォームで行われている可能性があり、TDP(熱設計電力)の設定も不明なため、この数値を鵜呑みにするのは注意が必要です。このように、競合製品との性能比較は、テスト環境や条件によって結果が大きく変動する可能性があるため、複数の独立した検証結果を総合的に判断する必要があります。
3. GPU ベンチマーク
3.1. 内蔵 GPU の性能 (Intel Arc Graphics 140V)
Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーに内蔵されているIntel Arc Graphics 140Vの性能を測る指標として、3DMarkのベンチマークスコアが参考になります。yrpc.jpの記事では、HP OmniBook Ultra Flip 14というノートPCのレビューにおいて、Fire Strikeスコアが8563、Time Spyスコアが4357と報告されています 9。Fire StrikeはDirectX 11の性能を、Time SpyはDirectX 12の性能をそれぞれ評価するベンチマークであり、これらのスコアから、内蔵GPUが一定のグラフィカルな処理能力を持つことがわかります。
3.2. ゲーム性能
内蔵GPUの実際のゲーム性能に関する情報も存在します。techfinitive.comのレビューによると、Core Ultra 9 288Vを搭載したシステムで、1080pの中画質設定において、F1 24が平均81 FPS(XeSSパフォーマンスモード有効時は116 FPS)、Far Cry 6とForza Horizon 5がそれぞれ平均57 FPSで動作したと報告されています 10。これらの結果は、Intel Arc Graphics 140Vが比較的軽量なゲームであれば十分にプレイ可能な性能を持っていることを示しています。特に、Intelのアップスケーリング技術であるXeSSを有効にすることで、フレームレートが大幅に向上する可能性があることは注目に値します。
4gamer.netの記事でも、Xe2アーキテクチャ向けのXeSS技術が、ゲームのフレームレートを最大60%向上させると報告されており 11、ソフトウェアによる最適化がゲーム性能向上に大きく貢献することを示唆しています。
3.3. 競合製品との比較 (GPU)
内蔵GPUの性能に関して、note.comの記事では、Core UltraにおいてIntelが統合グラフィックス性能で長らく優位であったAMD Ryzen APUに大きく追いつき、Core Ultraでさらに性能を向上させていると述べられています 12。特に、Core Ultra 200Vシリーズ(288Vを含む)に搭載された「Xe2アーキテクチャ」が重要な進化であると指摘されています。
また、mogalabo-gaming.jpの記事では、「Lunar Lake」(Core Ultra 9 288Vを含む)の内蔵GPU性能が、前世代の「Meteor Lake」と比較して約1.5倍向上していると報告されています 13。さらに、AI性能においては、AMD HX 370やQualcomm XIE-78-100といった競合製品を大きく上回ると主張されています。これらの情報は、Intelの内蔵グラフィックスが着実に進化しており、競合他社に対しても競争力を持つようになっていることを示唆しています。
4. PC 全体のパフォーマンス
4.1. PCMark ベンチマーク
PC全体のパフォーマンスを評価するPCMarkのベンチマークスコアに関する直接的な情報は、提供された情報の中には見当たりません。しかし、jiyunagomataro.comの記事では、他のCore Ultraプロセッサー(Core Ultra 7 165U、Core Ultra 9 185Hなど)やRyzen AIシリーズのプロセッサーのPCMarkスコアが紹介されており 12、Core Ultraアーキテクチャがマルチコア性能の向上により、全体的なシステムパフォーマンスにおいても競争力を持つことが示唆されています。
同じ情報源の記事では、ハイエンドデスクトッププロセッサーのPCMarkスコアも掲載されていますが、Core Ultra 9 288Vのスコアは含まれていません 14。これらの情報を総合的に見ると、Core Ultra 9 288Vも、そのハイブリッドアーキテクチャと高性能な内蔵GPUにより、様々なタスクにおいてバランスの取れた高いパフォーマンスを発揮することが期待されます。
5. 消費電力と発熱
5.1. 消費電力
Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーの消費電力に関する情報は、複数の情報源から得られます。1によると、プロセッサーのベースパワーは30 W、最大ターボパワーは37 Wとされています。また、最小保証電力は17 Wであることも示されています。PC Watchの記事では、30WのCore Ultra 9 288Vが、30Wの熱設計枠だけでなく、より低い17Wの枠、さらには8Wまで設定可能であることが解説されています 15。8W設定では最大クロック周波数は低下しますが、ファンレスのタブレット設計も可能になるとされています。
Dellのウェブサイトでは、Intel Core Ultraプロセッサー(シリーズ2)が最大28Wの持続的なパフォーマンスを提供すると言及されており 16、実際の製品における電力設定の一例が示されています。このように、Core Ultra 9 288Vは、メーカーが製品の設計や冷却能力に応じて、柔軟に消費電力を調整できる特性を持つことがわかります。
5.2. 発熱
プロセッサーの発熱に関する情報としては、1と1で最大動作温度が100℃と明記されています。これは、プロセッサーが正常に動作するための温度上限を示しており、この温度を超えないように冷却システムを設計する必要があります。Weekly ASCIIの記事では、Core Ultra 9 285Tという別のモデルですが、短時間の電力設定(PL2)が112W、長時間の電力設定(PL1)が35Wに設定された試用機が紹介されており 17、同じシリーズのプロセッサーでも電力設定によって発熱量が変動することが示唆されています。これらの情報から、Core Ultra 9 288Vを搭載したデバイスでは、適切な冷却設計が重要であることがわかります。
6. 結論
Intel Core Ultra 9 288V プロセッサーは、モバイル環境において高いパフォーマンスと電力効率の両立を目指したCPUであることが、ベンチマーク結果から示唆されます。シングルコア性能は安定しており、マルチコア性能にはシステム構成によるばらつきが見られるものの、全体として高い処理能力を持つと考えられます。内蔵GPUであるIntel Arc Graphics 140Vは、従来のIntel内蔵グラフィックスから大幅に進化しており、軽めのゲームであれば十分にプレイ可能な性能を持ち、XeSS技術による更なる性能向上が期待できます。
競合製品との比較においては、電力効率でAMD Ryzenシリーズに匹敵する可能性が示唆される一方で、特定のタスクにおいてはAMDが優位であるという主張もあります。そのため、実際の性能差は使用するアプリケーションやワークロードによって異なる可能性があります。消費電力と発熱に関しては、柔軟な電力設定が可能であり、様々なタイプのモバイルデバイスへの搭載が期待されますが、適切な冷却設計が不可欠です。
総合的に見ると、Intel Core Ultra 9 288V は、高性能なモバイルコンピューティング体験を提供する可能性を秘めたプロセッサーであると言えるでしょう。
引用文献
- Intel® Core™ Ultra 9 プロセッサー 288V, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/products/sku/240961/intel-core-ultra-9-processor-288v-12m-cache-up-to-5-10-ghz/specifications.html
- Core Ultra 9 288V flagship “Lunar Lake” processor debuts on Geekbench – VideoCardz.com, 4月 8, 2025にアクセス、 https://videocardz.com/newz/core-ultra-9-288v-flagship-lunar-lake-processor-debuts-on-geekbench
- Intel Lunar Lake最上位モデル Core Ultra 9 288Vのベンチマークが登場。シングルコア性能はノートPC向けでトップに – ギャズログ, 4月 8, 2025にアクセス、 https://gazlog.jp/entry/lunarlake-coreultra9-288v-gb6/
- 来たぞLunar Lake最上位Core Ultra 9 288Vベンチマーク速報 #ミニpc #intel #lunarlake, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=NdKZeGFP_S8
- Intel Ultra 9 288V vs Ultra 7 256V [cpubenchmark.net] by PassMark Software, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.cpubenchmark.net/compare/6290vs6294/Intel-Core-Ultra-9-288V-vs-Intel-Core-Ultra-7-256V
- AI性能強化が目立つが、CPUコアも強化されたIntelCore Ultra …, 4月 8, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1622253.html
- 「Core Ultraプロセッサ(シリーズ2)」は驚きの内蔵GPU性能に メモリ帯域が当初発表から“倍増”, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2409/05/news084.html
- AMD、CES 2025にて「Ryzen 9 9950X3D」「Radeon RX 9000シリーズ」の概要を発表, 4月 8, 2025にアクセス、 https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/244/4244069/4/
- 「HP OmniBook Ultra Flip 14-fh」実機レビュー!バッテリー駆動も長くてパワーもある2in1ノートパソコン!, 4月 8, 2025にアクセス、 https://yrpc.jp/review/hp-omnibook-ultra-flip-14/
- Intel Core Ultra 9 288V review: everything you need to know in six minutes – TechFinitive, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.techfinitive.com/reviews/core-ultra-9-288v-review/
- Lunar Lakeこと薄型ノートPC向け新型CPU「Core Ultra 200V」が正式発表。9月中にも搭載製品が発売に – 4Gamer, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.4gamer.net/games/804/G080491/20240904033/
- Intel Core Ultra完全ガイド!最新CPUの魅力と性能を徹底解説(下)|GEEKOM公式サイト – note, 4月 8, 2025にアクセス、 https://note.com/geekompc/n/n9ba0ee874f57
- デル「New XPS 13」新製品発表会レポート!Intel「Core Ultra 200V」シリーズ搭載で大きく進化 | モガラボ, 4月 8, 2025にアクセス、 https://mogalabo-gaming.jp/new-xps-13-new-product-presentation/
- 【眠れる獅子?】Core Ultra 9 285Kをレビュー!ベンチマーク比較 – こまたろPC, 4月 8, 2025にアクセス、 https://jiyunagomataro.com/pc_smartphone/core-ultra-9-285k/
- Intel、Core Ultra シリーズ2正式発表。Armより低消費電力で高性能 – PC Watch, 4月 8, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1620997.html
- XPS 13ノートパソコン – 薄型軽量ノートパソコン | Dell 日本, 4月 8, 2025にアクセス、 https://www.dell.com/ja-jp/shop/dell%E3%81%AE%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%91%E3%82%BD%E3%82%B3%E3%83%B3/xps-13-%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%91%E3%82%BD%E3%82%B3%E3%83%B3/spd/xps-13-9350-intel-laptop
- 本当に電源入ってるの? Core Ultra 9をファンレスで運用できるほぼ無音のゲーミングPC, 4月 8, 2025にアクセス、 https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/256/4256185/3/