MediaTek Dimensity 1000C ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.21

1. はじめに
2. MediaTek Dimensity 1000C 仕様概要
3. ベンチマーク性能分析
4. 競合プロセッサとの比較
1. 4.1. MediaTek Dimensity ファミリー内での位置づけ
2. 4.2. vs. Qualcomm Snapdragon 765G
5. 特定分野における性能評価
6. 搭載デバイスと実使用評価 (LG Velvet T-Mobile版)
7. 結論

1. はじめに

MediaTek Dimensity 1000Cは、台湾のファブレス半導体メーカーであるMediaTekが2020年9月に発表した、5G対応のシステムオンチップ（SoC）です ¹。特に米国市場への初投入製品として、LGエレクトロニクスのスマートフォン「LG VELVET」のT-Mobile版に搭載され、注目を集めました ³。Dimensity 1000シリーズの一員として、プレミアムな5G体験、高度なAI機能、強化されたディスプレイ機能、そして高速な接続性を提供することを目指して開発されました ⁵。

本レポートでは、MediaTek Dimensity 1000Cの性能プロファイルを詳細に分析します。主要なベンチマークテスト（AnTuTu, Geekbench, 3DMark/GFXBench）の結果を調査し、競合プロセッサ、特にQualcomm Snapdragon 765Gとの比較を行います。さらに、AI処理能力、ゲーミング性能、持続性能といった特定のパフォーマンス領域についても掘り下げ、実際に搭載されたデバイスでの使用感や評価を統合し、Dimensity 1000Cの総合的な性能を明らかにします。調査にあたっては、日本語および英語の技術レビューサイト、ベンチマークデータベース、ニュース記事を主要な情報源とします。

2. MediaTek Dimensity 1000C 仕様概要

MediaTek Dimensity 1000Cは、TSMCの7nmプロセス技術を用いて製造されたオクタコアSoCです ⁸。CPU構成は、4つの高性能コアARM Cortex-A77（最大2.0GHz）と4つの高効率コアARM Cortex-A55（最大2.0GHz）を組み合わせたものです ⁴。これは、同時期のフラッグシップSoCであるDimensity 1000+（Cortex-A77 @ 2.6GHz）と比較して、クロック周波数が抑えられている点が特徴です ¹。

グラフィックス処理には、5コア構成のARM Mali-G57 GPU（Mali-G57 MC5）が搭載されています ⁴。これも、Dimensity 1000+が搭載する9コアのMali-G77と比較すると、コア数が削減されています ¹⁰。

AI処理能力を担うのは、MediaTek独自のAIプロセッシングユニット（APU）であるAPU 3.0です ⁵。このAPU 3.0は、AIカメラ機能、AIアシスタント（Google AssistantやAmazon AlexaのデュアルVoice Wakeup対応）、アプリ内およびOSレベルでの機能拡張など、多様なAIタスクを効率的に処理するように設計されています ⁵。

メモリは最大12GBのLPDDR4X（1866MHz）をサポートし ³、ストレージはUFS 2.2に対応しています ⁴。ディスプレイは、最大解像度FHD+（2520×1080）で、最大120Hzのリフレッシュレートをサポートします ⁴。また、MediaTekのSoCとしては初めてデュアルディスプレイをサポートした点も特筆されます ³。

カメラ機能としては、最大64MPのシングルカメラ、または32MP+16MPのデュアルカメラ構成（ゼロシャッターラグ対応）をサポートする5コアISPを搭載しています ¹⁰。動画関連では、4K HDRビデオ撮影、SDRからHDRへの変換再生、HDR10+再生に対応し、特にAV1コーデックのハードウェアデコーディングに対応している点が特徴で、NetflixやYouTubeなどのストリーミングサービスで高画質・高効率な再生が可能です ³。

通信機能としては、5GモデムをSoCに統合しており、サブ6GHz帯の5G NR（SA/NSAモード）に対応します（ミリ波には非対応）³。MediaTek 5G UltraSave技術により、競合製品と比較して電力効率が高いとされています ⁸。Wi-FiはWi-Fi 5（802.11ac）、Bluetoothは5.1に対応しています ³。

表1: MediaTek Dimensity 1000C 主な仕様

Feature	Specification	出典
製造プロセス	TSMC 7nm	⁸
CPU	4x Cortex-A77 @ 2.0GHz + 4x Cortex-A55 @ 2.0GHz	⁴
GPU	ARM Mali-G57 MC5	⁴
AI プロセッサ	MediaTek APU 3.0 (4コア)	⁵
メモリサポート	最大 12GB LPDDR4X @ 1866MHz	³
ストレージサポート	UFS 2.2	⁴
ディスプレイサポート	FHD+ (2520×1080) @ 120Hz, デュアルディスプレイ対応	³
カメラサポート (ISP)	最大 64MP (シングル ZSL), 32MP+16MP (デュアル ZSL)	¹⁰
動画サポート	4K HDR 撮影/再生, AV1 ハードウェアデコード	³
5G モデム	統合型, Sub-6GHz (SA/NSA), 5G-CA	³
Wi-Fi / Bluetooth	Wi-Fi 5 (802.11ac) / Bluetooth 5.1	³

3. ベンチマーク性能分析

Dimensity 1000Cの性能を客観的に評価するため、主要なベンチマークテストの結果を分析します。ただし、調査した情報源の間でスコアにばらつきが見られる点に留意が必要です。これは、ベンチマークアプリのバージョン違い（特にAnTuTu v8とv10）、テスト環境、測定対象デバイスの個体差やソフトウェア最適化の違いなどが原因と考えられます。

3.1. AnTuTu Benchmark

AnTuTuベンチマークは、CPU、GPU、メモリ、UX（ユーザーエクスペリエンス）の総合的な性能を測定します。Dimensity 1000CのAnTuTuスコアについては、複数の情報源から異なる値が報告されています。

Piucellulare.itでは、LG Velvet 5G（Dimensity 1000C搭載モデル）のスコアとしてAnTuTu v8で297,372点が記載されています ¹⁴。これは古いバージョンのスコアであり、近年のSoCと比較する上では参考程度と捉えるべきです。
Bajaj Finservの比較記事では、AnTuTu 10のスコアとして複数の値が見られます。Dimensity 920との比較では427,863点（CPU: 125,000, GPU: 150,000, Memory: 75,000, UX: 77,863）¹⁵、Dimensity 720との比較では509,000点（CPU: 134,000, GPU: 210,000, Memory: 95,000, UX: 70,000）¹⁶、Helio G85との比較では653,000点（CPU: 158,000, GPU: 245,000, Memory: 110,000, UX: 140,000）²、Dimensity 1000との比較では530,000点（CPU: 155,000, GPU: 200,000, Memory: 85,000, UX: 90,000）¹ となっています。

これらのスコアのばらつきは顕著であり、特にHelio G85との比較における653,000点 ² は他のスコアと比較して突出して高く、Dimensity 1000+のスコア（約58万点 ¹⁷）をも上回るため、信憑性には疑問符がつきます。一方で、Dimensity 720やDimensity 920との比較における40万点台後半から50万点台前半のスコア ¹ は、Dimensity 1000Cのアーキテクチャ（Cortex-A77 @ 2.0GHz, Mali-G57 MC5）を考慮すると、より現実的な範囲と考えられます。

このスコア帯は、競合とされたSnapdragon 765G（AnTuTu 10で約42万点 ¹⁸）を上回る性能を示唆しています。

3.2. Geekbench

Geekbenchは、CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定するベンチマークです。

Redditのスレッドに投稿されたLG Velvet（Dimensity 1000C）の実測値によると、Geekbench 5のスコアはシングルコアで601点、マルチコアで2346点でした ²⁰。
Piucellulare.itでは、Geekbench v5.1のスコアとして1905点が記載されていますが、これがシングルコアかマルチコアかは明記されていません ¹⁴。上記のRedditのスコアと比較すると、マルチコアスコアである可能性が高いですが、値には差があります。
Bajaj Finservの比較記事では、Geekbench 6のコンポーネントスコア（Asset compression, HTML5 browseなど）が記載されていますが、標準的なシングルコア・マルチコアの総合スコアは示されていません ¹。

Redditのスコア ²⁰ を基にすると、Dimensity 1000Cのシングルコア性能（601点）は、Snapdragon 765G（OnePlus Nordで610点 ²⁰、nanoreview.netの平均で797点 (Geekbench 6) ¹⁸）と同等かやや低いレベルですが、マルチコア性能（2346点）はSnapdragon 765G（OnePlus Nordで1944点 ²⁰、nanoreview.netの平均で1844点 (Geekbench 6) ¹⁸）を明確に上回っています。これは、Dimensity 1000Cが高性能なCortex-A77コアを4基搭載していることによる優位性を示していると考えられます ¹⁰。

3.3. グラフィックス性能 (3DMark / GFXBench)

GPU性能は、主に3DMarkとGFXBenchによって測定されます。Dimensity 1000Cに関するGFXBenchの具体的なスコアは見当たりませんでした ¹⁴。

3DMarkについては、複数の情報源からスコアが報告されています。

UL BenchmarksのLG Velvet（Dimensity 1000C）レビューページでは、以下のスコア（中央値）が記載されています ²²：

Wild Life: 2007 (Graphics test 1: 12 FPS)
Wild Life Extreme: 555 (Graphics test 1: 3 FPS)
Sling Shot Extreme (OpenGL ES 3.1): 3790 (Graphics: 3868, Physics: 3536)
Sling Shot: 5083 (Graphics: 5806, Physics: 3550)
Redditのスレッドでは、LG Velvet（Dimensity 1000C）の実測値として以下のスコアが報告されています ²⁰：

Sling Shot Extreme (OpenGL ES 3.1): 3626
Sling Shot Extreme (Vulkan): 3475
Bajaj Finservの比較記事では、3DMarkのスコアとして、比較対象によって異なる値が示されています（例: Dimensity 720比較でScore 4,200 ¹⁶、Helio G85比較でScore 5,600 ²、Dimensity 920比較でScore 6,800 ¹⁵、Dimensity 1000比較でScore 6,800 ¹）。これらのスコアの定義（どのテストスイートか）が不明確であり、一貫性にも欠けるため、参考程度に留めるのが賢明です。

UL BenchmarksやRedditで報告されているSling Shot Extreme (OpenGL) のスコア（3600〜3800点台）²⁰ は、Snapdragon 765G（nanoreview.netの平均で1666点 ¹⁸）と比較して大幅に高い値です。これは、Dimensity 1000Cに搭載されているMali-G57 MC5 GPUが、Snapdragon 765GのAdreno 620 GPUよりも強力であることを示唆しています。ユーザーコメントでも、Mali-G57がAdreno 620を上回るという指摘が見られます ²³。

4. 競合プロセッサとの比較

Dimensity 1000Cの性能をより深く理解するために、他のMediaTek製SoCおよび競合するQualcomm製SoCと比較します。

4.1. MediaTek Dimensity ファミリー内での位置づけ

Dimensity 1000Cは、Dimensity 1000シリーズに属しますが、その性能はシリーズ内の他のチップとは異なります。

vs. Dimensity 1000 / 1000+: Dimensity 1000Cは、Dimensity 1000や1000+ ¹⁹ と比較して、CPUクロック（2.0GHz vs 2.6GHz）とGPUコア数（Mali-G57 MC5 vs Mali-G77 MP9）が抑えられています ¹。これにより、性能面では1000/1000+に劣りますが、消費電力効率は向上している可能性があります ¹。ベンチマークスコアも、AnTuTu 10で1000Cが約53万点 ¹ に対し、1000+は約58万点 ¹⁷、1000は約55.5万点 ¹ と、1000Cがやや低い値を示しています。
vs. Dimensity 920 / 720: Dimensity 1000Cは、ミドルレンジ向けのDimensity 920やDimensity 720よりも高性能です ¹⁶。例えば、AnTuTu 10スコアでは、1000Cが約43万〜51万点 ¹⁶ であるのに対し、920は約41万点 ¹⁵、720は約40万点 ¹⁶ と報告されており、特にGPU性能で1000Cが優位に立っています ¹⁶。CPUアーキテクチャも、1000CはCortex-A77を採用しているのに対し、920はCortex-A78（2コア）+A55、720はCortex-A76+A55であり、コア構成の違いが性能差に影響しています ¹⁶。
vs. Dimensity 1050 / 8200 Ultimate: より新しい世代のDimensity 1050やDimensity 8200 Ultimateと比較すると、Dimensity 1000Cは性能面で見劣りします ²⁴。Dimensity 1050はより新しいCPUコア（Cortex-A78）とGPU（Mali-G77 MC9）を搭載し、6nmプロセスで製造されているため、性能と電力効率の両面で1000Cを上回ります ²⁴。Dimensity 8200 Ultimateはさらに高性能なCortex-X3コアと4nmプロセスを採用しており、AnTuTu 10スコアで94万点に達するなど、1000C（約43万点）を大幅に凌駕します ²⁵。

これらの比較から、Dimensity 1000Cは、発表当時のDimensityファミリーにおいて、フラッグシップである1000/1000+の下位に位置しつつ、ミドルレンジの800/900シリーズよりも高性能な、アッパーミドルレンジ向けのSoCであったことがわかります。

4.2. vs. Qualcomm Snapdragon 765G

Dimensity 1000Cの主要な競合製品は、同じくアッパーミドルレンジの5Gスマートフォンに広く採用されていたQualcomm Snapdragon 765Gです。LG Velvetも、T-Mobile版以外ではSnapdragon 765Gを搭載していました ⁴。

ベンチマーク結果やスペック比較から、Dimensity 1000Cは多くの面でSnapdragon 765Gを上回る性能を持っていることが示されています。

CPU性能: Geekbenchのマルチコアスコア比較では、Dimensity 1000C（2346点）がSnapdragon 765G（1944点）を約20%上回っています ²⁰。これは、1000Cが4つの高性能Cortex-A77コアを搭載しているのに対し、765Gは2つのCortex-A76ベースのコアしか持たないためです ¹⁰。シングルコア性能は同等レベルです ²⁰。ユーザーコメントでも、1000Cの方がマルチコア性能で高速であるとの指摘があります ²³。
GPU性能: 3DMark Sling Shot Extreme (OpenGL) のスコア比較では、Dimensity 1000C（約3600-3800点）がSnapdragon 765G（約1666点）を2倍以上上回っています ¹⁸。これはMali-G57 MC5 GPUがAdreno 620 GPUよりも大幅に強力であることを示しており、ユーザーコメントでも同様の指摘が見られます ²³。
AnTuTu 10 総合スコア: Dimensity 1000C（約50万点台前半）はSnapdragon 765G（約42万点）を約20-30%上回っています ¹⁶。
総合的な評価: 複数のレビューサイトやユーザーコメントで、Dimensity 1000CはSnapdragon 765Gよりも強力なSoCであると評価されています ²¹。一部では、その性能をSnapdragon 845+や855に匹敵すると比較する声もあります ²⁰。

このように、Dimensity 1000Cは、直接の競合製品であったSnapdragon 765Gに対して、特にマルチコアCPU性能とGPU性能で明確なアドバンテージを持っていました。これは、当時のアッパーミドルレンジ市場において、MediaTekがQualcommに対して性能面で競争力のある選択肢を提供していたことを示しています。

5. 特定分野における性能評価

5.1. AI処理能力 (APU 3.0)

Dimensity 1000Cは、MediaTek APU 3.0と呼ばれるAIプロセッシングユニットを搭載しています ⁵。これは4つのヘテロジニアスコアで構成され ⁸、AIカメラ（顔検出、シーン認識、画質向上など）、AIアシスタント（デュアルVoice Wakeup対応）、ディスプレイ表示の最適化（MiraVision AI-PQ）¹⁰、電力効率の最適化（5G UltraSave）⁸ など、スマートフォンの様々な機能強化に貢献します ²。

Dimensity 1000シリーズ全体のAPU 3.0は、最大4.5 TOPSの性能を持つとされていますが ¹²、Dimensity 1000C स्पेसिफिकなAIベンチマークスコアは、調査した資料からは見つけることができませんでした ²。しかし、APU 3.0の搭載により、当時のミドルレンジ〜ハイエンドSoCとして競争力のあるAI機能を提供していたと考えられます。特に、AIを活用したカメラ機能や、NetflixのAV1 HDRストリーミング認定 ³ などは、APU 3.0の能力を活かした特徴と言えます。

5.2. ゲーミング性能

Dimensity 1000Cは、5コアのMali-G57 GPUを搭載しており ⁴、MediaTekはこれを「強力なゲーミングコア」と位置づけています ⁸。3DMarkのベンチマークスコア（Sling Shot Extremeで3600〜3800点）²⁰ は、Snapdragon 765G（約1666点）¹⁸ を大幅に上回っており、グラフィックス処理能力の高さを示しています。

実際にDimensity 1000Cを搭載したLG Velvetのレビューでは、ゲームプレイは概ねスムーズであると評価されています ³⁴。ただし、最高設定でのプレイには限界がある可能性も示唆されています ³⁴。具体的なゲームタイトルでのフレームレート（FPS）に関する詳細なテストデータは限定的です ²²。比較として、より高性能なGPU（Mali-G77 MP9）を持つDimensity 1000+は、PUBG MobileをUltra設定で45 FPS、Call of Duty: Mobileを高設定で55 FPSで動作させると報告されています ¹⁷。Dimensity 1000Cはこれよりやや低い設定でのプレイが快適になると予想されますが、Snapdragon 765G（PUBG Mobileを高設定で57 FPS、Call of Duty: MobileをUltra設定で38 FPS ¹⁸）よりは良好なゲーミング体験が期待できるでしょう。

また、Dimensity 1000Cは最大120Hzのリフレッシュレートに対応したディスプレイをサポートしており ⁴、対応ゲームにおいてはより滑らかな表示が可能です。

5.3. 持続性能とサーマルスロットリング

高負荷時の持続性能やサーマルスロットリング（熱による性能低下）に関するDimensity 1000C स्पेसिफिकな詳細なテストデータは、今回の調査では見つかりませんでした ³⁷。

しかし、いくつかの間接的な情報から、その持続性能を推測することは可能です。

まず、Dimensity 1000Cは7nmプロセスで製造されており、CPUクロックも高性能コアで2.0GHzと、Dimensity 1000+（2.6GHz）19 やSnapdragon 865（2.84GHz）17 と比較して控えめに設定されています 1。一般的に、製造プロセスが微細で、クロック周波数が過度に高くないSoCは、発熱が抑えられ、スロットリングが発生しにくい傾向があります。

また、Bajaj Finservの比較記事やnanoreview.netのデータでは、Dimensity 1000Cや近しいDimensity 1000+の3DMarkにおける安定性（Stability）スコアが95%〜99.5%と非常に高く報告されています ¹。これは、高負荷が連続してかかった状態でも性能低下が少ないことを示唆しています。

これらの点から、Dimensity 1000Cは、ピーク性能はDimensity 1000+に劣るものの、比較的良好な持続性能を発揮し、極端なサーマルスロットリングは起こりにくいSoCであったと推測されます。

6. 搭載デバイスと実使用評価 (LG Velvet T-Mobile版)

MediaTek Dimensity 1000Cが搭載された主要な市販デバイスは、米国T-Mobile向けに発売されたLG Velvet 5G（モデル G900UM1）です ³。一部の情報源 ¹¹ では、TCL 10 5G UW、ZTE Axon 11 SE 5G、Coolpad Legacy 5G、T-Mobile Revvl 5GなどもDimensity 1000C搭載機としてリストアップされていますが、これらのデバイスのスペックを他の情報源で確認すると、実際にはSnapdragon 765G ⁴⁴ やDimensity 800 ⁵⁷ を搭載していることが示唆されており、Dimensity 1000Cの搭載は確認できませんでした。したがって、Dimensity 1000Cの評価は、実質的にT-Mobile版 LG Velvet 5Gの評価に集約されます。

T-Mobile版 LG Velvet 5Gに関するレビューやユーザーのフィードバックをまとめると、以下の点が挙げられます。

パフォーマンス: 日常的な操作やマルチタスクは非常にスムーズで、Snapdragon 765G搭載機と比較しても遜色ない、あるいはより高速であると感じるユーザーが多いようです ²⁰。ベンチマークスコアが示す通り、Snapdragon 765Gよりも強力なパフォーマンスを提供していることが実使用感にも反映されていると考えられます。ゲーミング性能も、価格帯を考慮すれば良好と評価されています ³⁴。
ディスプレイ: 6.8インチの大型P-OLEDディスプレイは、鮮やかで明るいと評価されています ⁶¹。解像度はFHD+（2460×1080）で、リフレッシュレートは標準的な60Hzですが、没入感のある視聴体験を提供します ⁶¹。
バッテリー: Dimensity 1000C版のバッテリー容量は4000mAhで、Snapdragon版（4300mAh）より若干少ないですが ⁴、バッテリー持ちは良好であるとの評価があります ²⁷。当初は平凡だったが、アップデートで改善されたという報告もあります ²⁷。
ソフトウェアアップデート: 最大の懸念点として、ソフトウェアアップデートの遅延や打ち切りの可能性が指摘されています ²¹。MediaTek製SoC搭載モデルは、Qualcomm製SoC搭載モデルよりもアップデートの提供が遅れる傾向があり、さらにLGがスマートフォン事業から撤退したことで、将来的なサポートへの不安が大きくなっています ²⁷。
価格: T-Mobile版は、発売当初588ドルと、他のキャリアのSnapdragon版（例: Verizon版 700ドル）よりも安価に設定されていました ⁶²。この価格設定が、性能面での魅力と相まって、コストパフォーマンスの高い選択肢と見なされる要因となりました ²⁷。

総じて、T-Mobile版 LG Velvet 5Gは、Dimensity 1000Cの搭載により、Snapdragon 765G搭載の競合機を上回るパフォーマンスを手頃な価格で提供する魅力的なデバイスでした。しかし、ソフトウェアアップデートに関する懸念と、LGの事業撤退により、その評価は限定的なものとならざるを得ませんでした。Dimensity 1000C自体の市場での採用例が極めて少なかったことも、このSoCの評価を難しくしている一因です。

7. 結論

MediaTek Dimensity 1000Cは、2020年後半のアッパーミドルレンジスマートフォン市場向けに投入された、意欲的な5G対応SoCです。主な特徴と性能プロファイルは以下のようにまとめられます。

性能: 4つの高性能Cortex-A77コアと5つのMali-G57 GPUコアを搭載し、主要な競合製品であったQualcomm Snapdragon 765Gに対して、特にマルチコアCPU性能とGPU性能で明確な優位性を示しました。AnTuTu 10ベンチマークでは50万点台前半、Geekbench 5マルチコアでは2300点台、3DMark Sling Shot Extremeでは3600点台後半を記録し、当時のアッパーミドルレンジとしては高いパフォーマンスレベルを実現していました。その性能は、一部でSnapdragon 845+や855に匹敵すると評価されるほどでした。
機能: 統合5Gモデム（Sub-6GHz）、高度なAI処理を可能にするAPU 3.0、最大120HzのFHD+ディスプレイサポート、AV1ハードウェアデコーディング、デュアルディスプレイサポートなど、先進的な機能を備えていました。特にAPU 3.0は、AIカメラ機能や電力効率の向上に貢献しました。
位置づけ: Dimensity 1000シリーズの中では、フラッグシップの1000/1000+からCPU/GPUクロックやコア数を抑えたモデルであり、性能とコスト、電力効率のバランスを重視した設計でした。ミドルレンジのDimensity 800/900シリーズよりは高性能という位置づけです。
課題: ベンチマークスコア、特にAnTuTuと3DMarkにおいて、情報源によるばらつきが大きい点が観測されました。これは、テスト環境やバージョンの違いによるものと考えられますが、一貫した評価を難しくしています。また、市場での採用例が極めて限定的（主にT-Mobile版 LG Velvet 5Gのみ）であったため、実世界での広範な評価データが不足しています。搭載デバイスにおけるソフトウェアアップデートの遅延懸念も、SoC自体の評価とは別に、ユーザー体験に影響を与える要因となりました。

総括すると、MediaTek Dimensity 1000Cは、技術的にはSnapdragon 765Gを凌駕する性能を持ち、当時のアッパーミドルレンジ市場において非常に競争力のあるSoCでした。しかし、市場での採用が限定的であったこと、ベンチマークスコアの報告に一貫性が欠けることなどから、そのポテンシャルを十分に発揮する機会は限られました。MediaTekがハイエンド市場での存在感を高めていく過程における、重要な一歩であったと評価できます。