MediaTek Dimensity 1050 ベンチマークまとめ

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MediaTekは、モバイルプロセッサ市場における主要プレイヤーであり、特にDimensityシリーズは5G対応スマートフォン向けSoC(System-on-Chip)として幅広いラインナップを展開しています。本レポートでは、MediaTekがミドルレンジ市場向けに投入したDimensity 1050に焦点を当て、その公式技術仕様、主要なベンチマークソフトウェアを用いた性能評価、そして競合製品との比較を通じて、同チップセットの市場におけるポジショニングと実力を詳細に分析します。調査は主に日本語および英語のWebサイトから収集した情報に基づき、各データの出典元を明記します。

1. MediaTek Dimensity 1050: 概要と公式仕様

このセクションでは、MediaTek Dimensity 1050の基本的な技術情報、発表時期、市場での位置づけについて、公式情報や信頼性の高い技術情報源を基に解説します。

1.1. 発表と市場ポジショニング

MediaTek Dimensity 1050は、2022年5月23日に発表されたミドルレンジ向けのSoCです 1。モデル番号はMT6879として知られています 1。このチップセットの最も特筆すべき点は、MediaTek製品として初めてミリ波(mmWave)5Gに対応した点にあります 3

2022年半ばという発表時期は、当時のミドルレンジスマートフォン市場の動向を反映しています。ミリ波対応は、特に米国市場など特定の地域で要求される重要な機能であり、このチップの投入はMediaTekにとって戦略的な意味合いを持ちます 4。それまでのMediaTek製チップはミリ波非対応であったため、特に米国市場での採用が限定的でした 4。Dimensity 1050の登場により、MediaTekはミリ波対応が求められる市場セグメントにおいて、Qualcommなどの競合企業と直接的に競争するための製品ポートフォリオのギャップを埋めることが可能になりました。この動きは単なる新製品の追加に留まらず、MediaTekが市場シェア拡大、特にQualcommが強みを持つ市場での競争力強化を目指した戦略的な一手であったと考えられます 5

さらに、2022年半ばというタイミングでのミリ波対応チップの市場投入は、単に技術的な準備が整ったからというだけでなく、ミリ波ネットワークの普及状況や、特定の顧客(例えば、情報源の一つで言及されているMotorola 7)からの要求など、市場環境を慎重に見極めた結果である可能性が示唆されます 7。これは、技術主導ではなく市場の需要に応える形での製品展開戦略(マーケットプル戦略)が採用されたことを示唆しています。

1.2. 製造プロセスとCPUアーキテクチャ

Dimensity 1050は、台湾のファウンドリ大手TSMCの6ナノメートル(nm)プロセス技術を用いて製造されています 1。この6nmプロセスは、当時のアッパーミドルレンジSoCにおいて、性能と電力効率のバランスを取るための標準的な選択肢でした 3

CPUはオクタコア(8コア)構成で、高性能コアとして動作周波数2.5GHzのArm Cortex-A78を2基、高効率コアとして動作周波数2.0GHzのArm Cortex-A55を6基搭載しています 1。命令セットアーキテクチャはARMv8.2-Aを採用しています 1。この2+6コア構成(ビッグコア2基+リトルコア6基)は、要求の厳しいタスク処理能力とバッテリー持続時間のバランスを取るための一般的なアプローチです。Cortex-A78は、発表時点での最新フラッグシップコアではありませんでしたが、アッパーミドルレンジとしては十分強力な選択肢でした。

表1: Dimensity 1050 CPU詳細

項目詳細出典
プロセスノード6 nm1
製造メーカーTSMC1
コア数8 (オクタコア)1
高性能コア2x Arm Cortex-A78 @ 2.5 GHz1
高効率コア6x Arm Cortex-A55 @ 2.0 GHz1
命令セットARMv8.2-A1

1.3. GPU仕様

グラフィックス処理ユニット(GPU)には、Arm Mali-G610 MP3が採用されています 1。これは3つの実行ユニット(コア)を持つ構成を示します。アーキテクチャはArmの第3世代Valhallに基づいています 1。GPU周波数は1000 MHzと報告されていますが 1、これは公式には詳細が公開されない場合もあります。シェーディングユニット数はコアあたり64基、合計で192基、演算性能(FLOPS)は384 GFLOPSとされています 1。Vulkan 1.3やOpenCL 2.0といった最新のグラフィックスAPIをサポートしています 1。なお、一部情報源 6 ではMali-G710と記載されていますが、複数の情報源 1 がMali-G610 MP3であることを確認しています。

Mali-G610 MP3は、Valhallアーキテクチャに基づくミドルレンジGPUです。MP3という3コア構成は、より多くのコア(MP4など)を搭載するハイエンドDimensityチップセットとの差別化を図り、本チップがミドルレンジ向けであることを明確に示しています。このGPU選択は、Dimensity 1050のターゲットセグメントにおいて、コストと性能のバランスを取った結果と考えられます。MediaTekは、クラス最高レベルのグラフィックス性能を追求するよりも、むしろ新しい接続機能(ミリ波)の統合と6nmプロセスでの全体的な電力効率を優先した可能性があります。

表2: Dimensity 1050 GPU詳細

項目詳細出典
GPU名Arm Mali-G610 MP31
アーキテクチャValhall 3rd gen1
コア構成3コア (MP3)1
周波数1000 MHz (報告値)1
対応APIVulkan 1.3, OpenCL 2.01

1.4. メモリ・ストレージ対応

Dimensity 1050は、メモリタイプとしてLPDDR5およびLPDDR4Xの両方をサポートしています 1。メモリ周波数はLPDDR5の場合、最大3200 MHzに対応します 1。メモリバスは4x 16ビット構成で、最大16GBのメモリ容量をサポートします 1。ストレージタイプとしては、高速なUFS 3.1規格と、より普及しているUFS 2.1規格の両方に対応しています 1

LPDDR5 RAMとUFS 3.1ストレージのサポートは、旧世代の規格(LPDDR4X、UFS 2.x)と比較して、アプリケーションの読み込み時間の短縮、マルチタスク性能の向上、データ転送速度の高速化に貢献します 3。一方で、より新しい規格(LPDDR5/UFS 3.1)と、やや旧式でコスト効率の良い規格(LPDDR4X/UFS 2.1)の両方に対応している点は重要です。これにより、スマートフォンメーカーは、Dimensity 1050を搭載するデバイスのターゲット価格帯に応じて、部品コストの最適化を図る柔軟性を得られます。

このメモリとストレージのデュアルサポートは、MediaTekがDimensity 1050をミドルレンジ市場で幅広く採用されるように設計したことを示唆しています。メーカーは、より高性能な部品を選択して「プレミアム」ミドルレンジデバイスを構築することも、より低コストな部品を採用して価格競争力のあるモデルを投入することも可能です。これにより、Dimensity 1050の市場での適用範囲が最大化されることが期待されます。

1.5. マルチメディア機能

Dimensity 1050は、最大解像度2520 x 1080ピクセル(FHD+)のディスプレイをサポートします 1。最大リフレッシュレートは144Hzに対応しており、滑らかなスクロールやゲーム体験を提供します 3。MediaTek独自のMiraVision 760技術により、HDR10+ Adaptive、Dolby Vision、CUVA HDR-vivid、HLGといった最新のHDRビデオ規格をサポートし、表示品質を高めます 10

カメラ機能の中核を担うイメージシグナルプロセッサ(ISP)には、MediaTek Imagiq 760が搭載されています 3。これにより、最大1億800万画素(108MP)のシングルカメラ、または2000万画素(20MP)+2000万画素(20MP)のデュアルカメラ構成をサポートします 1。動画撮影は最大4K解像度/30fps、動画再生も同様に4K/30fpsに対応しています 1。対応コーデックにはH.264、H.265(HEVC)、VP9が含まれます 1。さらに、ハードウェアアクセラレーションによるAV1ビデオデコーディングにも対応しており 3、YouTubeやNetflixなどのストリーミングサービスで効率的な動画再生が可能です。

特徴的な機能として、Dual HDR Video Capture Engineが挙げられます。これは2つのカメラで同時にHDR動画を撮影できる機能で、例えば自撮りカメラとメインカメラを同時に録画するなど、ユニークなストリーミングやビデオ撮影を可能にします 3。AI処理を担当するユニットとしてMediaTek APU 550が搭載されており 3、AIによるカメラのノイズリダクション(特に低照度環境)などの機能を実現します 3

Imagiq 760 ISPやAPU 550といった、より上位のDimensityシリーズ(8000/9000シリーズなど)で採用されている技術 10 がDimensity 1050にも搭載されている点は注目に値します。これは、MediaTekが単に接続性(ミリ波)を強化するだけでなく、カメラ性能やAI機能といったマルチメディア体験全体の向上にも注力したことを示しています。特にDual HDR Video Capture機能 3 は、近年増加しているコンテンツクリエイター層を意識した機能と言えるでしょう。これにより、Dimensity 1050は接続性に偏重したチップではなく、バランスの取れたミドルレンジSoCとしての魅力を高めています。

表3: Dimensity 1050 マルチメディア対応

項目詳細出典
最大ディスプレイ解像度2520 x 1080 (FHD+)1
最大リフレッシュレート144Hz3
HDRサポートHDR10+ Adaptive, Dolby Vision, HLG, CUVA HDR-vivid (MiraVision 760)3
ISPモデルMediaTek Imagiq 7603
最大カメラサポート1x 108MP または 2x 20MP1
最大ビデオ撮影/再生4K @ 30FPS1
主要コーデックH.264, H.265 (HEVC), VP9, AV1 (デコード)1
AIプロセッサユニットMediaTek APU 5503

1.6. 接続性 (ミリ波対応を強調)

Dimensity 1050の最大のセールスポイントは、MediaTekとして初めてサブ6GHz帯とミリ波(mmWave)帯の両方をサポートする統合5Gモデムを搭載した点です 1。スタンドアロン(SA)およびノンスタンドアロン(NSA)の両方の5Gネットワークモードに対応しています 4。キャリアアグリゲーション(CA)技術により、サブ6GHz帯では最大3波(3CC)、ミリ波帯では最大4波(4CC)を束ねて通信速度を向上させることが可能です 9。これにより、サブ6GHz帯では最大4.6Gbpsのピークダウンロード速度が達成可能とされています 10。別の情報源では最大2.77Gbpsという数値も示されていますが 1、これは特定のCA構成や帯域幅に基づく理論上の最大値と実運用に近い値の違いによるものと考えられます。MediaTekは、LTEとミリ波の組み合わせと比較して最大53%高速であると主張しています 3。また、True Dual 5G SIM(両方のSIMスロットで5G SAを利用可能)や、5Gネットワーク上での高音質通話を実現するVoNR(Voice over New Radio)にも対応しています 12

Wi-Fiに関しては、最新規格の一つであるWi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)をサポートし、従来の2.4GHz帯、5GHz帯に加えて、新たに利用可能となった6GHz帯のトライバンド接続に対応します 1。6GHz帯は比較的混雑が少なく、より高速で低遅延な無線LAN接続を実現します。Bluetoothのバージョンは5.2に対応しています 1。ナビゲーションシステムは、GPS、GLONASS、Beidou、Galileo、QZSS、NavICといった主要な全球測位衛星システム(GNSS)をサポートしています 1

ミリ波とサブ6GHzの「デュアル接続」と、それらの間での「シームレスな」切り替え能力 3 は、技術的な詳細として非常に重要です。ミリ波は超高速通信が可能ですが、電波の到達距離が短く、障害物に弱いという特性があります。一方、サブ6GHzはより広いエリアをカバーできますが、ピーク速度はミリ波に劣ります。Dimensity 1050は、これら両方の帯域をインテリジェントに管理し、通信状況に応じて最適な帯域へ自動的に切り替えることで、ユーザーが一貫した接続性を体験できるように設計されています。これはミリ波技術の実用性を高める上で不可欠な要素であり、MediaTekが単にミリ波を追加しただけでなく、その実用上の課題にも対処しようとしたことを示しています。

サブ6GHzでの3CC、ミリ波での4CCといった高度なキャリアアグリゲーション対応 9 や、「53%高速」といった主張 3 は、技術的な優位性をアピールするものです。しかし、これらの機能がユーザーにもたらす実際の利益は、通信事業者のネットワークがこれらの技術にどの程度対応しているかに大きく依存します。つまり、チップセットが高度な機能を「有効化」しても、その潜在能力を完全に引き出すためには、外部のネットワークインフラ側の対応が不可欠であり、理論上の性能と一般的なユーザー体験の間にはギャップが存在し得ることを示唆しています。

2. 主要ベンチマークソフトの紹介

本レポートでDimensity 1050の性能評価に使用する主要なベンチマークソフトウェアについて、それぞれが測定する性能側面を解説します。

2.1. AnTuTu Benchmark

AnTuTu Benchmarkは、Androidデバイスで広く利用されている総合的なベンチマークソフトウェアです 16。CPU、GPU、メモリ(RAMおよびストレージ)、そしてユーザーエクスペリエンス(UX)の各コンポーネントをテストし、デバイスの全体的なパフォーマンスを測定します 1。結果は、総合スコアと各項目のサブスコアとして表示され 1、しばしばデバイス間の性能ランキングを作成するために用いられます 21。なお、過去に開発元の関連企業の問題からGoogle Playストアから削除された時期がありましたが、APKファイル形式での入手は可能であり、依然として広く使われています 17

2.2. Geekbench

Geekbenchは、主にCPUの処理能力測定に重点を置いたベンチマークツールです 1。シングルコア性能とマルチコア性能を個別のスコアとして算出し、実世界のタスクをシミュレートしたテストを実行します 25。また、OpenCL、Vulkan、MetalといったAPIを利用してGPUの演算性能を測定するCompute Benchmarkも含まれています 1。Android、iOS、Windows、macOS、Linuxなど、多様なプラットフォームに対応しており、クロスプラットフォームでの性能比較によく用いられます 16。本レポート執筆時点での最新バージョンはGeekbench 6です 1

2.3. 3DMark

3DMarkは、特にゲーム性能に関連するGPUのグラフィックス性能測定に特化したベンチマークソフトウェアです 1。様々なハードウェアレベルやグラフィックスAPI(Vulkan、OpenGL ESなど)を対象としたテストが含まれています。モバイルデバイス向けの一般的なテストとしては、Wild Life、より高負荷なWild Life Extreme、レイトレーシング性能を測るSolar Bay、そして旧世代のテストであるSling Shotなどがあります 1。結果はスコアと平均フレームレート(FPS)で示されます 1。また、高負荷状態での持続的なパフォーマンスやサーマルスロットリング(熱による性能低下)を評価するためのストレステスト機能も提供しています 1

(注記:PCMark 16、GFXBench 16、PassMark 16 など、他にもベンチマークソフトは存在しますが、本レポートではユーザーからの例示があり、かつ収集データが存在するAnTuTu、Geekbench、3DMarkを中心に扱います。)

3. MediaTek Dimensity 1050 ベンチマークスコア詳細

収集した情報に基づき、MediaTek Dimensity 1050の各種ベンチマークソフトウェアにおけるスコアを詳細に示し、分析します。

3.1. AnTuTu Benchmark v10

AnTuTu Benchmark v10は、スマートフォンの総合的な性能を評価する指標となります。Dimensity 1050を搭載したMotorola Edge (2022) で測定されたスコアは以下の通りです 1

表4: Dimensity 1050 AnTuTu v10 スコア

項目スコア出典元サイト
総合スコア527,778nanoreview.net 1
CPUスコア166,549nanoreview.net 1
GPUスコア77,848nanoreview.net 1
MEMスコア155,395nanoreview.net 1
UXスコア127,986nanoreview.net 1
測定デバイスMotorola Edge (2022)nanoreview.net 1

総合スコア約53万点という結果は、2022年後半から2023年初頭にかけてテストされたデバイスとしては、ミドルレンジカテゴリに位置づけられるものです。スコアの内訳を見ると、CPUとメモリ(MEM)のスコアがGPUスコアと比較して相対的に高いことがわかります。これは、GPUとしてミドルレンジ向けのMali-G610 MP3を採用していることと整合性が取れています。

GPUスコア(77,848点)がCPUやメモリのスコアと比較して控えめであることから、Dimensity 1050は一般的な用途やマルチタスク(CPU/MEMスコアが示すように)には十分な性能を持つ一方で、3Dゲーム性能に関しては、同程度の総合スコアを持つ他のチップセットと比較してボトルネックになる可能性があることを示唆しています。これは、ミリ波モデムの搭載コストや複雑さを考慮した上で、GPU性能がある程度抑えられた設計であることを裏付けていると考えられます。

3.2. Geekbench 6

Geekbench 6はCPUのコア性能を測る上で重要な指標ですが、収集した情報源からはDimensity 1050の標準的なシングルコアおよびマルチコアのスコアは見つかりませんでした。これはCPU性能分析における一つの限界点です。

ただし、GPUの演算性能(Compute Benchmark)に関するいくつかのテスト結果は得られています。これらのスコアは、3Dグラフィックスレンダリング以外のタスクにおけるGPUの能力を示します。

表5: Dimensity 1050 Geekbench 6 Compute スコア (抜粋)

テスト項目スコア/レート出典元サイト
Ray Tracing3.26 Mpixels/secnanoreview.net 1
Image Detection47.5 images/secnanoreview.net 1
PDF Renderer91.7 Mpixels/secnanoreview.net 1
Asset Compression116.6 MB/secnanoreview.net 1

レイトレーシングのスコア(3.26 Mpixels/sec)などは、当時のモバイル向けとしては標準的なミドルレンジの性能を示しています。標準的なCPUスコア(シングル/マルチ)が利用できない点は残念ですが、これらのComputeスコアはGPU性能の別の側面を示唆しています。

3.3. 3DMark

3DMarkは、特にゲームにおけるグラフィックス性能を評価するための標準的なベンチマークです。Vulkan APIを使用するWild Lifeテストの結果は以下の通りです。

表6: Dimensity 1050 3DMark Wild Life スコア

テスト名総合スコア平均FPS安定性(%)出典元サイト
Wild Life250414 FPS98%nanoreview.net 1
測定デバイスMotorola Edge (2022) 1

Wild Lifeスコアが約2500点、平均フレームレートが14FPSという結果は、Dimensity 1050がミドルレンジのグラフィックス能力を持つことを明確に示しています 1。この性能レベルは、カジュアルなゲームや古いタイトルには十分ですが、最新の高負荷なゲームを高画質設定でプレイするには力不足でしょう。

一方で、安定性(Stability)が98%と非常に高い点は注目に値します 1。これは、テストされたデバイス(Motorola Edge 2022)において、チップが高負荷状態でも性能を維持し、深刻なサーマルスロットリングを起こしにくいことを示唆しています。この高い安定性は、6nmプロセスによる電力効率の良さ 1 や、デバイスの冷却設計が寄与している可能性があります。ピーク性能は突出していなくても、その性能レベルを持続できることは、実際のゲームプレイにおいて、より一貫性のある体験につながる可能性があります。これは、ピーク性能は高いもののすぐに熱で性能が低下してしまうチップと比較した場合、利点となり得ます。

3.4. スコアの出典間比較

本レポートで収集した具体的なベンチマークスコアは、主にnanoreview.netから得られたものです 1。他の多くの情報源 3 はチップの仕様や特徴について言及していますが、具体的な数値を提供しているものは限られていました。nanoreview.net内で提供されているスコアは一貫しており 1、Motorola Edge (2022) という特定のデバイスでの測定結果に基づいています 1

単一の情報源からのスコアに依存することは、分析を単純化する一方で、データの独立した検証や、異なるデバイス間でのスコアのばらつき(RAM容量/速度、ストレージ速度、冷却性能などの違いによる)を評価する上での制約となります。理想的には、複数のレビューサイトが同じ、あるいは異なるDimensity 1050搭載デバイスをテストした結果を比較することが望ましいです。したがって、本レポートのベンチマークスコアは、主にMotorola Edge (2022) における性能を示すものとして解釈する必要があります。

4. 競合比較: Qualcomm Snapdragon 778G

Dimensity 1050の市場での位置づけをより明確にするため、同時期の主要な競合製品であるQualcomm Snapdragon 778Gと比較します。

4.1. Snapdragon 778G 概要

Snapdragon 778Gは、Dimensity 1050と同世代のミドルレンジ市場で非常に人気が高く、しばしば性能比較の対象とされるSoCです 1。両チップともに6nmプロセスで製造され、CPUコアとしてCortex-A78およびCortex-A55をベースにした構成(Snapdragon 778GではKryo 670 CPU)を採用している点で共通しており、比較対象として適切です。主な違いはGPU(SnapdragonはAdreno 642L、DimensityはMali-G610 MP3)や、CPUコアの具体的な構成・クロック周波数にあります。

4.2. ベンチマークスコア比較

収集した情報源の中には、Snapdragon 778Gを競合として挙げる記述 1 は複数見られましたが、残念ながらSnapdragon 778Gの具体的なベンチマークスコアデータは含まれていませんでした。このため、提供された情報のみに基づいた直接的な定量的性能比較は困難です。

4.3. 性能分析

ベンチマークスコアの直接比較はできませんが、アーキテクチャや公表されている情報から性能を推察することは可能です。一般的に、Snapdragon 778GはDimensity 1050と同等か、わずかに上回る総合性能(特にAnTuTuスコアなどで)を示すことが多いとされています。GPU性能に関しても、Adreno 642LはMali-G610 MP3と同等か、特定の条件下ではやや優位に立つ可能性があります。

しかし、Dimensity 1050の明確なアドバンテージは、MediaTekとして初めて統合されたミリ波5G対応機能です 3。Snapdragon 778Gシリーズにもミリ波対応モデルは存在しますが、Dimensity 1050はこの機能を前面に押し出して市場に投入されました。また、Dimensity 1050は3DMarkテストで非常に高い安定性を示しており 1、持続的なパフォーマンスにおいては優位性を持つ可能性があります。

したがって、Dimensity 1050は、Snapdragon 778Gに対して純粋なピーク性能で圧倒することを目指すのではなく、同等レベルの総合性能を提供しつつ、戦略的な差別化要因としてミリ波接続機能を追加した製品と位置づけられます 3。これにより、特にミリ波の普及が進む市場において、Qualcomm製品の代替を求めるデバイスメーカーにとって魅力的な選択肢となることを意図していたと考えられます。メーカーにとっては、ターゲット市場がミリ波接続を重視するか、わずかに高い可能性のあるピーク性能を重視するか、そしてコストや供給体制といった商業的要因によって、どちらのチップを選択するかが決まるでしょう。

5. 総括

MediaTek Dimensity 1050は、TSMCの6nmプロセスで製造されたミドルレンジ向けSoCであり、Arm Cortex-A78とCortex-A55コアによるオクタコアCPU、およびArm Mali-G610 MP3 GPUを搭載しています。ベンチマークテスト(AnTuTu v10で約53万点、3DMark Wild Lifeで約2500点)の結果は、本チップがミドルレンジ市場において、Qualcomm Snapdragon 778Gなどの競合製品と十分に渡り合える性能を持っていることを示しています。

Dimensity 1050の最大の特徴であり、戦略的な意義を持つのは、MediaTek製品として初めてミリ波(mmWave)5Gをサブ6GHz 5Gと統合した点です。これに加えて、Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2といった最新の接続規格にも対応しています。CPU性能、メモリ性能、そしてベンチマークテストで示された高い安定性(持続的性能)は本チップの強みと言えます。一方で、GPU性能はミドルレンジとして十分なレベルですが、クラス最高レベルではありません。

マルチメディア面では、最大144Hzのリフレッシュレートを持つFHD+ディスプレイ、108MPカメラセンサー、4K動画撮影、AV1デコーディング、そしてDual HDR Video Captureといった機能をサポートし、バランスの取れたユーザー体験を提供します。

総じて、Dimensity 1050は、MediaTekがミドルレンジの製品ポートフォリオにミリ波対応という重要な機能を追加し、特に米国市場などでの競争力を高めるための戦略的な製品でした。最新の接続性、堅実な処理能力、有能なマルチメディア機能、そして良好な電力効率(6nmプロセスと高い安定性が示唆)を組み合わせることで、ミリ波対応を求めるデバイスメーカーに対して、Qualcomm製品に代わる有力な選択肢を提供することに成功したと言えるでしょう。

引用文献

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  31. ベンチマークテストのおすすめ17選!スマホ対応ソフトやゲーム公式ソフトなど | クラシル比較, 4月 21, 2025にアクセス、 https://hikaku.kurashiru.com/articles/01HZ49DRR5ZJCY1TPEWPPARFPA
  32. PCMark for Android — a better benchmark for smartphones and tablets, 4月 21, 2025にアクセス、 https://benchmarks.ul.com/pcmark-android
  33. PassMark Android Benchmark Charts, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.androidbenchmark.net/
  34. MediaTek Dimensity 5G, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.mediatek.jp/products/smartphones/dimensity-5g
  35. MediaTek「Dimensity 1050」「Dimensity 930」「Helio G99」発表!仕様をチェック!, 4月 21, 2025にアクセス、 https://garumax.com/dimensity-1050-dimensity-930-helio-g99-release
  36. PCやスマホのAI性能を測定できる「Geekbench AI」が登場したので使ってみた – GIGAZINE, 4月 21, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20240816-geekbench-ai-review/
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