MediaTek Dimensity 1080 ベンチマークまとめ

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本レポートは、MediaTek Dimensity 1080 System-on-Chip (SoC) に関する詳細な分析を提供するものです。Dimensity 1080は、5G対応スマートフォン市場のミドルレンジセグメントにおいて重要な役割を担うプロセッサとして登場しました。

2022年第4四半期に発表されたこのチップセットは 1、好評を博したDimensity 920の後継として位置づけられ 3、性能とカメラ機能の向上が図られています 1

本レポートでは、Dimensity 1080の技術仕様、主要ベンチマークソフトにおける性能測定結果、競合SoCとの比較分析、実機レビューに基づく実使用環境でのパフォーマンス評価、性能上の強みと弱み、市場における位置づけ、そして搭載デバイスの概要について詳述します。最終的に、これらの情報を統合し、Dimensity 1080の総合的な性能評価を行います。

I. MediaTek Dimensity 1080: 技術仕様

Dimensity 1080は、ミドルレンジスマートフォンにバランスの取れた性能と最新機能を提供するために設計されたSoCです。その核心となる技術仕様は以下の通りです。

A. コアアーキテクチャ

Dimensity 1080は、オクタコア構成のCPUを採用しています。高性能タスク向けに最大2.6GHzで動作するArm Cortex-A78コアを2基、電力効率を重視するタスク向けに最大2.0GHzで動作するArm Cortex-A55コアを6基搭載しています 1。このbig.LITTLE構成により、要求される処理負荷に応じて高性能コアと高効率コアを使い分け、パフォーマンスと消費電力の最適なバランスを実現します。

グラフィックス処理ユニット(GPU)には、Arm Mali-G68 MC4が採用されています 3。これはミドルレンジのグラフィックス描画能力を提供し、多くのゲームやグラフィカルなアプリケーションに対応します。

さらに、AI処理に特化したユニットとして、MediaTek APU 3.0を統合しています 1。このAPUは、カメラ機能の強化(例:背景ぼかし、選択的フォーカス)や、チップセット全体の電力効率の最適化に貢献します 4

B. 製造プロセス

Dimensity 1080は、TSMCのN6、すなわち6nmクラスのプロセス技術で製造されています 1。この微細化されたプロセスノードは、従来の7nmや8nmプロセスと比較して、一般的に電力効率の向上に寄与します。これにより、スマートフォンのバッテリー持続時間の延長や 1、より薄型軽量なデバイス設計が可能になります 6。MediaTekはこの点を、電力とパフォーマンスの最適化という同社の伝統を受け継ぐものとして強調しています 1

C. メモリおよびストレージサポート

メモリに関しては、最新規格のLPDDR5と、広く普及しているLPDDR4xの両方をサポートしています 3。LPDDR5はLPDDR4xと比較してメモリ帯域幅が大幅に向上しており(最大51.2 GB/s 10)、マルチタスク性能やデータ集約型アプリケーションの応答性向上に貢献します。

ストレージについても、高速なUFS 3.1規格をサポートしています 3。UFS 3.1は、旧世代のUFS 2.xと比較して読み書き速度が高速化されており、アプリケーションの起動時間短縮や大容量ファイルの転送速度向上につながります。

D. コネクティビティ機能

Dimensity 1080は、Sub-6 GHz帯に対応した5Gモデムを統合しています 3。SA(スタンドアロン)およびNSA(ノンスタンドアロン)の両モードをサポートし、デュアル5G SIM(5G SA + 5G SA構成)やデュアルVoNR(Voice over New Radio)にも対応します 6。キャリアアグリゲーションは最大2波(2CC)、合計120MHz幅まで対応し、理論上の最大下り通信速度は2.77 Gbpsに達します 6

また、MediaTek独自の省電力技術である「5G UltraSave」も搭載されており 6、5G通信時のバッテリー消費を抑制します。

無線LAN規格はWi-Fi 6 (802.11ax) をサポートし 1、Bluetoothバージョンは5.2に対応しています 3

E. マルチメディア機能 (Imagiq ISP)

Dimensity 1080の大きな特徴の一つは、強化されたイメージシグナルプロセッサ(ISP)「Imagiq」による高度なマルチメディア機能です。特に、最大2億画素(200MP)のメインカメラセンサーをサポートする点は、MediaTekが発表時に強調した主要なアップグレードです 1

動画撮影機能としては、ハードウェアアクセラレーションによる4K HDRビデオ録画エンジンを統合しており 1、あらゆる照明条件下で高品質なビデオキャプチャを可能にします 1。ビデオ再生は4K/30fpsまで対応します 7

ディスプレイに関しては、最大でフルHD+解像度、リフレッシュレート120Hzの表示をサポートし、HDR10+にも対応しています 3。MediaTekの「Intelligent Refresh Rate」技術により、コンテンツに応じてリフレッシュレートを動的に調整し、滑らかな表示とバッテリー寿命の両立を図ります 6

Dimensity 1080の仕様を前世代のDimensity 920と比較すると、CPU/GPUの基本アーキテクチャや6nmプロセスは共通していますが、Cortex-A78コアの最大クロック周波数が2.5GHzから2.6GHzへとわずかに引き上げられ、そして最大200MPカメラのサポートが追加された点が主な違いです 1。これは、既存のシリコン設計をベースに改良を加えることで、開発コストを抑えつつ、カメラ性能のような市場に訴求しやすいポイントを強化する、MediaTekの効率的な製品開発戦略を示唆しています。このアプローチは、Dimensity 920を採用していたデバイスメーカーがDimensity 1080へ容易に移行することを可能にし、製品の市場投入までの時間を短縮する効果ももたらします 1

表1: MediaTek Dimensity 1080 主要技術仕様

仕様項目詳細出典例
CPU2x Arm Cortex-A78 @ 最大2.6GHz + 6x Arm Cortex-A55 @ 最大2.0GHz (オクタコア)1
GPUArm Mali-G68 MC43
AIプロセッサMediaTek APU 3.01
製造プロセスTSMC N6 (6nmクラス)1
メモリサポートLPDDR5, LPDDR4x3
ストレージサポートUFS 3.1, UFS 2.2, UFS 2.13
最大カメラ解像度200MP (2億画素)1
最大動画撮影4K HDR @ 30fps1
最大ディスプレイ解像度2520 x 1080 (FHD+), 120Hzリフレッシュレート対応, HDR10+3
5GモデムSub-6 GHz, SA/NSA, Dual 5G SIM (SA+SA), 2CC CA (120MHz), 最大下り2.77 Gbps, 5G UltraSave3
Wi-Fi / BluetoothWi-Fi 6 (802.11ax), Bluetooth 5.21

II. 合成ベンチマークパフォーマンス

スマートフォンの性能を客観的に評価する上で、合成ベンチマークスコアは重要な指標となります。Dimensity 1080の主要なベンチマークテストにおける結果を分析します。

A. AnTuTu Benchmark 分析

AnTuTu Benchmarkは、CPU、GPU、メモリ、UX(ユーザーエクスペリエンス)の総合的な性能を測定するテストです。Dimensity 1080搭載デバイスにおけるAnTuTu Benchmark v10のスコアは、一般的に約545,000点前後で報告されています 10

ただし、報告されるスコアにはばらつきが見られます。例えば、約514,000点 2、約538,000点 11、約490,000点 8、あるいは約592,000点 9 といった異なる値も存在します。このスコアの変動は、いくつかの要因によって生じると考えられます。第一に、使用されているAnTuTuのバージョン(v9とv10ではスコアリングが異なる)の違い、第二に、テストを実施したデバイス固有の最適化(冷却性能、搭載されているRAMやストレージの速度差など)、第三に、テスト実行時のバックグラウンドプロセスの有無などが影響します。特に、AnTuTu v10はv9よりも全体的に高いスコアが出る傾向があります。したがって、複数の情報源を参照する際には、バージョン情報やテスト条件を考慮する必要があります。NanoReviewなどで報告されている約545,000点 10 は、最適化された一般的なデバイスにおけるAnTuTu v10の代表的なスコアと見なすのが妥当でしょう。

スコアの内訳を見ると、CPU性能やUX(操作感)はミドルレンジとして良好なレベルを示し、メモリ性能もUFS 3.1やLPDDR5のサポートにより高いスコアが期待できますが、GPU性能は競合と比較して突出しているわけではない、バランス型の性能特性が見て取れます 10

B. Geekbench CPU パフォーマンス

Geekbenchは、CPUの純粋な演算性能を測定するベンチマークです。シングルコア性能はアプリケーションの応答性などに、マルチコア性能は複数のタスクを同時に処理する能力に関係します。

Dimensity 1080のGeekbench 6におけるスコアは、シングルコアで約950点から1000点 3マルチコアで約2300点から2400点 10 の範囲で報告されることが多いです。

具体的なデバイスでの測定例としては、Xiaomi Redmi Note 12 ProがGeekbench 5でシングルコア767点、マルチコア2008点を記録したとの報告があります 17。また、Samsung Galaxy A34 5Gでは、Geekbench 6でシングルコア1029点、マルチコア2497点といったスコアが確認されています 3。これらのスコアは、日常的なアプリケーションの操作や一般的なマルチタスクを快適にこなせる、ミドルレンジSoCとして十分なCPU性能を持っていることを示唆しています。

C. 3DMark GPU パフォーマンス評価

3DMarkは、主にGPUのグラフィックス描画性能を測定するためのベンチマークスイートです。特に「Wild Life」テストは、最新のモバイルゲームに近い負荷を想定しています。

Dimensity 1080の3DMark Wild Lifeスコアは、約2300点前後が一般的です 10。より負荷の高いWild Life Extreme Unlimitedでは約621点 18、負荷の変動に対する性能維持能力を示すWild Life Stress Testの安定性(Stability)スコアは、多くのデバイスで99%前後と非常に高い値が報告されており 10、これはGPUが高負荷状態でも性能低下(スロットリング)を起こしにくいことを示唆しています。

旧世代のテストであるSling Shot Extreme (OpenGL ES 3.1) のスコアは約4164点 18、物理演算性能を示すPhysicsスコアは約4229点 3 となっています。これらのスコアから、Dimensity 1080はミドルレンジのゲーミング体験を提供するのに十分なグラフィックス性能を備えているものの、ハイエンドSoCには及ばないレベルであることがわかります。しかし、高い安定性は、長時間のゲームプレイにおいても安定したパフォーマンスが期待できることを示唆しています。

表2: MediaTek Dimensity 1080 主要ベンチマークスコア

ベンチマーク名代表的なスコア範囲 (目安)搭載デバイス例 (スコア)出典例
AnTuTu Benchmark v10約 510k – 590k (中心 ~545k)Xiaomi Redmi Note 12 Pro+ 5G (~545k)2
Geekbench 6 Single-Core約 950 – 1030 点Samsung Galaxy A34 5G (~1029)3
Geekbench 6 Multi-Core約 2200 – 2500 点Samsung Galaxy A34 5G (~2497)3
3DMark Wild Life約 2300 点Samsung Galaxy A34 5G (2302)10
3DMark Wild Life Stability約 99%Xiaomi Redmi Note 12 Pro+ 5G (99%), Samsung Galaxy A34 (99%)10

(注: スコアはテスト環境やデバイスの個体差により変動します)

III. 競合分析

Dimensity 1080の性能をより深く理解するためには、同世代や競合とされる他のSoCとの比較が不可欠です。ここでは、主要な競合製品とのベンチマークスコアに基づいた比較分析を行います。

A. Dimensity 1080 vs. Snapdragon 695 5G

Snapdragon 695 5Gは、Dimensity 1080と同じくミドルレンジ市場で広く採用されているSoCです。比較すると、Dimensity 1080は明確な性能優位性を示します。

AnTuTu v10スコアでは、Dimensity 1080(約545k)はSnapdragon 695(一般的に約400k~430k程度)を大きく上回ります。Geekbenchスコアにおいても、Dimensity 1080がシングルコア、マルチコア共に優位です 21。

特にGPU性能の差は顕著で、3DMark Wild LifeスコアではDimensity 1080(約2300点)がSnapdragon 695(約1200点)のほぼ2倍に近い性能を示します 19。Sling Shot ExtremeのPhysicsスコアでもDimensity 1080が有利です 21。

全体として、Dimensity 1080はSnapdragon 695に対して、特にグラフィックス処理能力において大幅に高性能であると言えます。

B. Dimensity 1080 vs. Snapdragon 778G 5G

Snapdragon 778G 5Gは、Dimensity 1080にとって非常に強力な競合相手です。性能は全体的に拮抗しています。

AnTuTuスコアでは、Dimensity 1080(約545k)とSnapdragon 778G(約525k~550k程度)は非常に近いレベルにあります 2。一部の総合評価ではSnapdragon 778Gがわずかに優位とされることもあります 12。

Geekbenchスコアも接戦ですが、Snapdragon 778Gは高性能コア(Cortex-A78相当)を4基搭載しているため(Dimensity 1080は2基)、特定のマルチコア処理ではわずかに有利な場合があります 12。

3DMarkのGPU性能も同等レベルですが、テストによってはSnapdragon 778GのAdreno 642L GPUがわずかに高いスコアを示すことがあります 3。Sling Shot Physicsスコアは近接しています 3。

Snapdragon 778Gはピーク性能でわずかに上回る可能性がありますが、Dimensity 1080はより新しいプラットフォーム機能(LPDDR5/UFS 3.1の採用例が多い)や、高性能コア数が少ないことによる潜在的な電力効率の良さが利点となる可能性があります。両者は非常に近い性能帯にある競合製品です。

C. Dimensity 1080 vs. Exynos 1280 / 1380

Samsung製のExynosチップセットも、特にGalaxy AシリーズなどでDimensity 1080と競合します。

Exynos 1280との比較では、Dimensity 1080がやや優位な傾向が見られます。ある比較では、AnTuTuスコアでDimensity 1080(約490k)がExynos 1280(約465k)を上回り、Geekbenchや3DMarkのサブテストでもわずかにリードしています 8。GPUの理論演算性能(FLOPS)ではExynos 1280がわずかに高いものの、実際のベンチマーク結果ではDimensity 1080が若干有利なようです 8。

Exynos 1380との比較は、より複雑です。ある情報源では、AnTuTuスコアでDimensity 1080(約592k)がExynos 1380(約553k)を上回り、特にGPU性能で差をつけています 9。GeekbenchのサブテストでもDimensity 1080がわずかに有利とされています 9。しかし、別の情報源やユーザーレビューでは、Exynos 1380がDimensity 1080と同等か、わずかに高性能であるとの見方もあります 22。GPUのコア数(Exynos 1380のMali-G68 MP5に対し、Dimensity 1080はMP4)ではExynos 1380が有利であり 9、実際の性能差はデバイスの実装や最適化に大きく依存する可能性があります。

D. 新しいミドルレンジSoCとの比較

Dimensity 1080の発売以降も、新しいミドルレンジSoCが登場しています。

Snapdragon 7s Gen 2は、より新しい4nmプロセスで製造され、AnTuTu(約608k vs 545k)、Geekbench(Single +5%, Multi +22%)、3DMark Wild Life(+31%)の全てでDimensity 1080を上回る性能を示します 13。

Dimensity 7050は、Dimensity 1080とほぼ同一の仕様とベンチマークスコアを示しており 11、実質的にリブランド製品である可能性が極めて高いです。これは、MediaTekが実績のあるシリコンを異なる名称で再投入し、製品ポートフォリオを効率的に管理・拡大する戦略の一環と考えられます。特定の市場やデバイス向けに「新しい」チップとして提供することで、開発投資を抑えつつ市場での存在感を維持する狙いがあるのでしょう。

Dimensity 7300も4nmプロセスを採用しており 14、Dimensity 1080よりも優れた性能と電力効率が期待されます。

Dimensity 8020は、AnTuTu (+36%)、Geekbench (Single +16%, Multi +53%)、3DMark (+94%) の全てでDimensity 1080を大幅に上回る性能を持ち 20、より上位のパフォーマンスセグメントに位置します。

これらの比較から、Dimensity 1080は発売当初(2022年後半~2023年初頭)のミドルレンジ市場において、非常に競争力のあるポジションを確立していたことがわかります。Snapdragon 695のような下位のチップを明確に凌駕し、Snapdragon 778GやExynos 1380とは接戦を繰り広げました。しかし、Snapdragon 7s Gen 2のような新しい世代のSoC、特に4nmプロセスを採用したチップが登場するにつれて、性能面でのアドバンテージは相対的に低下しています。

表3: 主要競合SoCとのベンチマークスコア比較 (目安)

SoC名AnTuTu v10Geekbench 6 SingleGeekbench 6 Multi3DMark Wild Lifeプロセス出典例
MediaTek Dimensity 1080~545k~1000~2400~23006nm10
Snapdragon 695 5G~420k~900~2100~12006nm19
Snapdragon 778G 5G~550k~1000~2800~24506nm2
Exynos 1380~550k-600k~1000~2800~28005nm9
Snapdragon 7s Gen 2~608k~1010~2940~30004nm13
MediaTek Dimensity 7050~535k~990~2380~22806nm11 (Dimensity 1080とほぼ同等)

(注: スコアは代表的な値であり、テスト環境やデバイスにより変動します。Exynos 1380のスコアは情報源によりばらつきがあります)

IV. 実使用環境でのパフォーマンス評価

合成ベンチマークスコアはSoCの潜在能力を示すものですが、実際のユーザー体験は、ゲームプレイ、日常的なマルチタスク、発熱、バッテリー消費など、様々な要素によって左右されます。

A. ゲーミング性能と体験

Dimensity 1080のGPU、Mali-G68 MC4は、ミドルレンジとして十分な性能を持っています。公開されているゲームプレイのFPSデータを見ると、「PUBG Mobile」や「Call of Duty: Mobile」、「World of Tanks Blitz」といった人気タイトルでは、多くの場合「Ultra」設定(またはそれに準ずる高設定)で快適なフレームレート(例:PUBG Mobile 57 FPS [Ultra], CoD Mobile 38 FPS [Ultra], WoT Blitz 83 FPS [Ultra])が期待できます 10

一方で、「原神 (Genshin Impact)」のような特にグラフィックス負荷が高いゲームでは、最高設定でのプレイは厳しく、設定を調整する必要があります(例:Ultra設定で37 FPS 10)。MediaTekは、ゲーム性能と接続性を最適化する「HyperEngine 3.0」ゲーミング拡張機能を搭載していると述べており 1、これによりスムーズなゲームプレイ体験の向上が図られています。

総じて、Dimensity 1080はほとんどのモバイルゲームを中~高設定で快適にプレイできる性能を持っていますが、最高負荷のゲームを最高設定でプレイするには力不足となる場面もある、典型的なミドルレンジのゲーミング性能と言えるでしょう。

B. 日常使用: マルチタスクとアプリケーションの応答性

日常的なスマートフォンの使用感において、Dimensity 1080は快適なパフォーマンスを提供します。Geekbenchで示された良好なCPU性能(特にシングルコア性能) 3、そして高速なLPDDR5 RAMとUFS 3.1ストレージのサポート 3 は、Webブラウジング、SNSの利用、動画ストリーミング、複数のアプリケーションを切り替えながら使うといった一般的なマルチタスクシナリオにおいて、滑らかで応答性の高い動作に貢献します 1

Samsung Galaxy A34 5Gで測定されたPCMark for Android Work 3.0のスコア(11703点 18)も、Webブラウジング、ビデオ編集、データ操作、文書作成、写真編集といった一般的な生産性タスクをシミュレートしたテストにおいて、良好なパフォーマンスを示していることを裏付けています。

C. 熱管理と持続性能

SoCの性能を長時間維持するためには、適切な熱管理が重要です。Dimensity 1080が採用する6nmプロセスは、電力効率の向上とともに、発熱抑制にも貢献する可能性があります 1

3DMark Wild Life Stress Testにおける高い安定性スコア(多くのデバイスで99%前後 10)は、GPUに高い負荷がかかり続けても、性能が大幅に低下することなく維持されることを示唆しています。これは、適切に設計されたスマートフォンであれば、長時間のゲームプレイなどでも性能の急激な低下(サーマルスロットリング)が起こりにくいことを意味します。

D. 消費電力とバッテリー寿命への影響

バッテリー寿命はスマートフォン選びの重要な要素であり、SoCの電力効率が大きく影響します。Dimensity 1080は、効率的な6nmプロセス 1 に加え、MediaTek 5G UltraSave 6 やIntelligent Refresh Rate 6 といった省電力技術を搭載しており、良好なバッテリー寿命が期待されます。

実際に、Dimensity 1080を搭載したSamsung Galaxy A34 5Gのユーザーからは、競合とされるExynos 1380を搭載したGalaxy A35 5Gと比較して、バッテリー持ちが良いという評価が見られます 22。これは、ベンチマークスコアだけでは測れない、実際の使用環境における電力効率の良さを示唆している可能性があります。

PCMark for Android Work 3.0のバッテリーライフテスト結果(Galaxy A34で13時間27分 18)も、一般的な使用状況における良好なバッテリー持続時間を示しています。ベンチマークスコアでは競合と互角か僅かに劣る場面があっても、実際の電力効率、特に持続的な負荷がかかる状況や待機時の電力消費において、Dimensity 1080が優れた特性を持つ可能性があり、これがユーザー体験における重要な利点となっていると考えられます。

V. 強みと弱みの分析

これまでの分析に基づき、MediaTek Dimensity 1080の性能上の強みと弱みを整理します。

A. パフォーマンス上の利点と主なセールスポイント

  • 強み 1 (バランスの取れた性能): ミドルレンジセグメントにおいて、日常的なタスクをスムーズにこなし、ほとんどのゲームも快適にプレイできる、全体的にバランスの取れた良好なパフォーマンスを提供します 1。特にCPU性能はこのクラスとしては強力です 10
  • 強み 2 (優れた電力効率): 効率的な6nmプロセスと省電力技術により、良好なバッテリー寿命が期待でき、これは重要な利点としてしばしば強調されます 1。高いベンチマーク安定性は、持続的なパフォーマンス維持能力も示唆しています 10
  • 強み 3 (最新機能のサポート): 最大200MPの高解像度カメラ、4K HDRビデオ撮影、120Hz高リフレッシュレートディスプレイ、LPDDR5 RAM、UFS 3.1ストレージ、Wi-Fi 6といった最新の機能に対応しており、搭載デバイスの商品力を高めます 1
  • 強み 4 (コスト効率 – 推定): 実績のある技術をベースにした改良版であるため、製造メーカーにとってコスト効率が良い可能性があります。これにより、競争力のある価格設定のミドルレンジスマートフォンを実現しやすくなります(例: Redmi Note 12 Proの価格設定 23)。

B. 制限事項と競合が優れる領域

  • 弱み 1 (一部競合に対するGPU性能): GPU性能は十分ですが、Snapdragon 778GのAdreno 642LやSnapdragon 7s Gen 2のAdreno 710など、一部の競合製品と比較すると、特に要求の厳しいグラフィックスタスクでは劣る場合があります 12。また、Dimensity 8020のような上位チップとの差は明確です 20
  • 弱み 2 (漸進的な進化): 前世代のDimensity 920からの大幅な飛躍ではなく、主にクロック周波数の向上とカメラサポートの強化にとどまる、漸進的なアップデートです 3
  • 弱み 3 (新しいSoCによる陳腐化): より新しいプロセスノード(例: 4nm)で製造された新しいミドルレンジSoCは、性能と電力効率の両面でDimensity 1080を上回るものが登場しています 13

VI. 市場での位置づけと搭載デバイス

Dimensity 1080がスマートフォン市場においてどのような位置づけにあり、どのようなデバイスに採用されているかを見ていきます。

A. ターゲットとなるスマートフォンセグメントと提供価値

Dimensity 1080は、明確にミドルレンジ、あるいはアッパーミドルレンジの5Gスマートフォン市場をターゲットとしています 1

その提供価値は、十分なパフォーマンス、最新のカメラやディスプレイ機能、そして優れた電力効率をバランス良く組み合わせ、メーカーが競争力のある価格帯で魅力的な製品を開発できるようにすることにあります 1。特に、200MPカメラサポートは、カメラ性能を重視するユーザー層への訴求力を高める要素となっています。

B. 採用状況と注目すべき搭載デバイス

Dimensity 1080は、複数のメーカーのスマートフォンに採用されています。主な搭載デバイス例としては、以下のものが挙げられます。

  • Xiaomi Redmi Note 12 Pro 5G / Pro+ 5G: 高リフレッシュレート有機ELディスプレイ、高画素カメラ(Pro+は200MP)、大容量バッテリー、高速充電などを特徴とする、コストパフォーマンスに優れたモデルです 2
  • Samsung Galaxy A34 5G: 防水防塵性能、高品質なディスプレイ、良好なバッテリー寿命などを備え、グローバル市場で広く販売されたミドルレンジモデルです 3
  • Realme 10 Pro+ 5G: (Dimensity 1080搭載の代表例としてしばしば言及される) カーブドディスプレイなどを特徴とするデザイン性の高いモデルです 2

これらのデバイスは、多くの場合、3万円台後半から5万円程度の価格帯(発売時)で提供され 23、Dimensity 1080の性能と機能を活かしたバランスの取れた構成となっています。

表4: MediaTek Dimensity 1080 搭載の注目デバイス例

デバイス名主な特徴 (例)出典例
Xiaomi Redmi Note 12 Pro 5G120Hz有機EL, 50MPメインカメラ, 5000mAhバッテリー, 67W充電3
Xiaomi Redmi Note 12 Pro+ 5G120Hz有機EL, 200MPメインカメラ, 5000mAhバッテリー, 120W充電2
Samsung Galaxy A34 5G120Hz Super AMOLED, 48MPメインカメラ (OIS), 5000mAhバッテリー, IP67防水防塵3
Realme 10 Pro+ 5G120Hzカーブド有機EL, 108MPメインカメラ, 5000mAhバッテリー, 67W充電2 (Dimensity 1080搭載機として言及)

(注: 上記は代表例であり、他の搭載デバイスも存在します。仕様は地域やモデルにより異なる場合があります)

VII. 総合評価と結論

A. 調査結果の統合

本レポートで収集・分析した情報に基づき、MediaTek Dimensity 1080を総合的に評価します。合成ベンチマークスコアは、Dimensity 1080をミドルレンジSoCとして確固たる地位に位置づけています 8。Snapdragon 695のような下位チップを明確に上回り、Snapdragon 778GやExynos 1380といった強力な競合製品とも互角に渡り合える性能を示しています。

しかし、ベンチマークスコアだけが全てではありません。報告されるスコアには、テストバージョンやデバイスの最適化によるばらつきが存在します。さらに重要なのは、実際の使用感です。Dimensity 1080は、6nmプロセスや省電力技術により、優れた電力効率を実現している可能性が高く、これがバッテリー寿命の観点からユーザー体験に大きく貢献していると考えられます 1。ベンチマークでは測りにくい持続性能や効率性が、Dimensity 1080の隠れた強みとなっている可能性があります。

また、200MPカメラや120Hzディスプレイ、4K HDRビデオといった最新機能への対応力も、搭載デバイスの商品価値を高める上で重要な要素です 1

B. 競争力と市場における妥当性の最終評価

結論として、MediaTek Dimensity 1080は、その発表時点において非常に競争力の高いミドルレンジSoCでした。十分な処理性能、最新のマルチメディア機能、そして特筆すべき電力効率をバランス良く提供し、メーカーとユーザー双方にとって魅力的な選択肢となりました。

その主な強みは、バランスの取れた性能、優れた電力効率、そして豊富な機能サポートにあります。一方で、GPU性能は一部の競合製品に劣る場合があり、より新しい4nmプロセスを採用したSoCの登場により、性能面での優位性は相対的に低下しています。

しかし、Dimensity 1080は依然として多くのミドルレンジデバイスにとって十分な能力を持つチップであり、特に電力効率を重視するユーザーにとっては魅力的な選択肢であり続けます。さらに、Dimensity 7050としてリブランドされた可能性が高いことから 11、実質的には異なる名称で市場での寿命を延ばし、今後も新しいデバイスに搭載される可能性があります。Dimensity 1080は、ミドルレンジスマートフォン市場の進化において、重要な役割を果たしたSoCであると評価できます。

引用文献

  1. MediaTek’s New Dimensity 1080 Brings a Performance Boost to 5G Smartphones, 4月 21, 2025にアクセス、 https://corp.mediatek.com/news-events/press-releases/mediateks-new-dimensity-1080-brings-a-performance-boost-to-5g-smartphones
  2. MediaTek Dimensity 1080 5G Antutu score and release date – Blackview Blog, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.blackview.hk/blog/tech-news/dimensity-1080-antutu
  3. MediaTek Dimensity 1080 Processor – Benchmarks and Specs – NotebookCheck.net Tech, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/MediaTek-Dimensity-1080-Processor-Benchmarks-and-Specs.706749.0.html
  4. 2億画素カメラに対応した「Dimensity 1080」が発表されたぞ! – ガルマックス, 4月 21, 2025にアクセス、 https://garumax.com/dimensity-1080-announcement
  5. MediaTek、5Gスマートフォンの性能を向上する新しいチップセットDimensity 1080を発表, 4月 21, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000088630.html
  6. Dimensity 1080 Infographic – MediaTek, 4月 21, 2025にアクセス、 https://newsletter.mediatek.com/hubfs/Dimensity-1080-Infographic.pdf
  7. MediaTek Dimensity 1080, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.mediatek.jp/products/smartphones-2/mediatek-dimensity-1080
  8. MediaTek Dimensity 1080 vs Samsung Exynos 1280 Comparison | Bajaj Finserv, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.bajajfinserv.in/mediatek-dimensity-1080-vs-samsung-exynos-1280
  9. MediaTek Dimensity 1080 vs Samsung Exynos 1380 Comparison | Bajaj Finserv, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.bajajfinserv.in/mediatek-dimensity-1080-vs-samsung-exynos-1380
  10. Helio G99 vs Dimensity 1080: tests and benchmarks – NanoReview, 4月 21, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/soc-compare/mediatek-helio-g99-vs-mediatek-dimensity-1080
  11. MediaTek Dimensity 1080 vs MediaTek Dimensity 7050 Comparison | Bajaj Finserv, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.bajajfinserv.in/mediatek-dimensity-1080-vs-mediatek-dimensity-7050
  12. MediaTek Dimensity 1080 vs Qualcomm Snapdragon 778G 5G vs MediaTek Dimensity 930, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.com/Dimensity-1080-vs-SD-778G-5G-vs-Dimensity-930_15003_13821_15012.247552.0.html
  13. Snapdragon 7s Gen 2 vs Dimensity 1080: tests and benchmarks – NanoReview, 4月 21, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/soc-compare/qualcomm-snapdragon-7s-gen-2-vs-mediatek-dimensity-1080
  14. MediaTek Dimensity 1080 vs MediaTek Dimensity 7300 – Notebookcheck, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/Dimensity-1080-vs-Dimensity-7300_15003_18020.247596.0.html
  15. Qualcomm Snapdragon 685 4G vs MediaTek Dimensity 1080 vs MediaTek Dimensity 900 – Notebookcheck, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/SD-685-vs-Dimensity-1080-vs-Dimensity-900_15021_15003_13835.247596.0.html
  16. MediaTek Dimensity 1080 vs Qualcomm Snapdragon 6 Gen 1 vs MediaTek Dimensity 1100 – Notebookcheck, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/Dimensity-1080-vs-SD-6-Gen-1-vs-Dimensity-1100_15003_17352_13242.247596.0.html
  17. Redmi Note 12 Pro Spotted on Geekbench with MediaTek Dimensity 1080 SoC Hours Before the Launch | Xiaomi Community, 4月 21, 2025にアクセス、 https://new.c.mi.com/global/post/453377
  18. Samsung Galaxy A34 Review – UL Benchmarks, 4月 21, 2025にアクセス、 https://benchmarks.ul.com/hardware/phone/Samsung+Galaxy+A34+review
  19. Snapdragon 695 vs Dimensity 1080: tests and benchmarks – NanoReview, 4月 21, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/soc-compare/qualcomm-snapdragon-695-vs-mediatek-dimensity-1080
  20. Dimensity 8020 vs Dimensity 1080: tests and benchmarks – NanoReview, 4月 21, 2025にアクセス、 https://nanoreview.net/en/soc-compare/mediatek-dimensity-8020-vs-mediatek-dimensity-1080
  21. MediaTek Dimensity 1080 vs Qualcomm Snapdragon 695 5G vs MediaTek Dimensity 8200-Ultra – Notebookcheck, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.com/Dimensity-1080-vs-SD-695-5G-vs-Dimensity-8200-Ultra_15003_14148_15120.247552.0.html
  22. Samsung Galaxy A35 – User opinions and reviews – page 40 – GSMArena.com, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.gsmarena.com/samsung_galaxy_a35-reviews-12705p40.php
  23. 「Redmi Note 12 Pro」発表!新型SoCのDimensity 1080搭載でディスプレイは10億色表示に対応, 4月 21, 2025にアクセス、 https://garumax.com/redmi-note-12-pro-announcement
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