MediaTek Dimensity 1200 ベンチマークまとめ

SoC_mediatek CPU・SoC
  1. 1. エグゼクティブサマリー
  2. 2. 序論および技術仕様
    1. 概要と市場背景
    2. コアアーキテクチャ (CPU, GPU, NPU)
    3. 製造プロセス
    4. メモリおよびストレージサポート
    5. 接続機能
    6. Dimensity 1200-AI バリアント
  3. 3. 合成ベンチマーク性能 詳細分析
    1. AnTuTu Benchmark 分析 (v9, v10)
    2. Geekbench CPU Performance (v5, v6 – シングルコア & マルチコア)
    3. 3DMark GPU Performance (Wild Life, Sling Shot, Stability)
  4. 4. 競合分析: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 870
    1. 仕様比較
    2. ベンチマーク性能比較 (CPU, GPU)
    3. ゲーミング性能比較
    4. 相対的なポジショニング分析
  5. 5. 競合分析: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 888
    1. 仕様比較
    2. ベンチマーク性能比較 (CPU, GPU)
    3. ゲーミング性能比較
    4. 電力効率と熱に関する考察
    5. 機能セットの違い (ISP, ビデオ)
  6. 6. 実環境でのゲーミング性能評価
    1. 要求の厳しいタイトルでのパフォーマンス
    2. 達成可能なフレームレートとグラフィック設定
    3. MediaTek HyperEngine 3.0の役割
  7. 7. AI処理能力
    1. MediaTek APU 3.0 概要
    2. AIベンチマーク結果
    3. 競合他社のAIエンジンとの比較
    4. AIがユーザー体験に与える影響
  8. 8. 持続性能とサーマルスロットリング
    1. 負荷時の性能低下分析
    2. スロットリングテスト結果
    3. 競合製品との熱管理比較
  9. 9. デバイス実装がパフォーマンスに与える影響
    1. ケーススタディ: パフォーマンスのばらつき
    2. ばらつきを生む要因
  10. 10. 結論: 強み、弱み、最終評価
    1. パフォーマンスプロファイルの総括
    2. 特定された主な強み
    3. 特定された主な弱み
    4. 市場における意義とレガシー
      1. 引用文献

1. エグゼクティブサマリー

MediaTek Dimensity 1200は、2021年初頭に発表されたハイエンド、ほぼフラッグシップ級のSystem-on-a-Chip (SoC) として位置づけられます。本レポートでは、その性能特性を詳細に分析します。主要なベンチマークスコアにおいて、Dimensity 1200は同世代の競合であるQualcomm Snapdragon 870と非常に近い性能を示し、特定のテストではそれを上回ることもありました。一方で、当時のフラッグシップであるSnapdragon 888と比較すると、特にピークGPU性能においては明確な差が見られましたが、Dimensity 1200はTSMCの6nmプロセスによる優れた電力効率と、それに伴う良好な持続性能の可能性を示唆しました。特にOnePlusとの協業によるDimensity 1200-AIバリアントは、ソフトウェア最適化によるAI性能向上の可能性を示しました。ゲーミング性能は多くのタイトルで高設定でのスムーズなプレイを可能にし、AI機能はカメラやディスプレイ体験の向上に貢献しました。サーマルスロットリングは高負荷時に発生するものの、同世代のハイエンドチップとしては標準的な範囲であり、デバイスの冷却設計が最終的なユーザー体験に大きく影響します。総じて、Dimensity 1200はMediaTekにとってハイエンド市場での地位を確立する重要な製品であり、性能、効率、コストのバランスに優れた選択肢を提供しました。

2. 序論および技術仕様

概要と市場背景

MediaTek Dimensity 1200 (MT6893) は、2021年1月19日に発表されたハイエンドSoCです 1。これは、MediaTekがプレミアムスマートフォン市場への本格参入を目指し、当時のQualcomm Snapdragon 8シリーズと直接競合することを意図した重要な製品でした 3。Dimensity 1200は、多くのアッパーミドルレンジや「フラッグシップキラー」と呼ばれる高性能・高コストパフォーマンスのデバイスに採用され、市場での存在感を高めました 5

コアアーキテクチャ (CPU, GPU, NPU)

  • CPU: Dimensity 1200は、オクタコア(8コア)構成を採用しています。具体的には、1つの高性能「Ultra Core」として最大3.0 GHzで動作するARM Cortex-A78、3つの「Super Cores」として最大2.6 GHzで動作するARM Cortex-A78、そして4つの高効率「Efficiency Cores」として最大2.0 GHzで動作するARM Cortex-A55から構成される1+3+4クラスタ設計です 1。これは当時最新世代のCortex-A78アーキテクチャを採用しており、競合のSnapdragon 870が採用するCortex-A77 3 や、Snapdragon 888が採用するCortex-X1とCortex-A78の組み合わせ 4 と比較されます。キャッシュ構成は、L2キャッシュが320 KB、L3キャッシュが8 MBと報告されており 1、特にL3キャッシュ容量はSnapdragon 870 (4MBまたは7MB 10) やSnapdragon 888 (4MB) 11 よりも大きい点が特徴です。この大容量L3キャッシュは、特定のワークロードにおいて、メインメモリへのアクセス頻度を減らし、性能向上や効率改善に寄与する可能性があります。ただし、実際の性能はアーキテクチャ、クロック速度、メモリ帯域幅、ソフトウェア最適化など多くの要因が絡み合うため、キャッシュ容量だけで性能が決まるわけではありません 4
  • GPU: グラフィックス処理ユニットには、ARM Mali-G77 MP9 (9コア) が搭載されています。これはValhall第1世代アーキテクチャに基づき、最大886 MHzのクロック速度で動作します 1。この構成は、Snapdragon 870のAdreno 650 3 やSnapdragon 888のAdreno 660 4 と比較されます。
  • NPU (AI Processing Unit): AI処理には、6コア構成のMediaTek APU (AI Processing Unit) 3.0が統合されています 9。MediaTekは、前世代と比較して性能が向上していると主張しています 15

製造プロセス

Dimensity 1200の製造には、TSMCの6nmプロセス技術が採用されています 1。これは、競合するSnapdragon 870の7nmプロセス 3 やSnapdragon 888の5nmプロセス (Samsung製) 4 と比較されます。一般的に、より微細なプロセス技術は、トランジスタ密度を高め、性能向上や消費電力削減に寄与します。6nmプロセスは、当時の最先端である5nmには一歩譲るものの、7nmからは進歩しており、性能と電力効率、そして製造コストのバランスを取る戦略的な選択であったと考えられます 4

メモリおよびストレージサポート

  • メモリ: 最大4266 MHzで動作するLPDDR4X RAMをサポートします 2。クアッドチャネル構成を採用し、最大帯域幅は一部の情報源では51.2 GB/sと主張されていますが 2、他の情報源ではより低い値 (例: 34.1 GB/s) も見られます 17。これは、Snapdragon 870 (LPDDR5/LPDDR4xサポート) 3 やSnapdragon 888 (LPDDR5サポート) 4 と比較して、メモリ規格の点で異なります。
  • ストレージ: 高速なUFS 3.1ストレージ規格をサポートしており、アプリの起動やデータの読み書き速度向上に貢献します 1

接続機能

  • 5G: Sub-6 GHz帯に対応した統合5Gモデム (Helio M70) を搭載しています。実装によってはミリ波(mmWave)にも対応可能で、5Gキャリアアグリゲーション (CA) やデュアル5G SIMといった機能もサポートします 9。公称の通信速度は、下り最大4.7 Gbps、上り最大2.5 Gbpsなどとされています 3。これは、Snapdragon 870 (X55モデム、下り最大7.5 Gbps) 9 やSnapdragon 888 (X60モデム、下り最大7.5 Gbps) 12 と比較されます。
  • Wi-Fi / Bluetooth: 最新規格であるWi-Fi 6 (802.11ax) 9 およびBluetooth 5.2 4 をサポートし、高速で安定したワイヤレス接続を提供します。

Dimensity 1200-AI バリアント

Dimensity 1200には、標準モデルとは別に「Dimensity 1200-AI」と呼ばれるバリアントが存在します。これは、特にOnePlusがスマートフォン「Nord 2」向けにMediaTekと協業して開発したものです 28。基本的なハードウェア構成は標準のDimensity 1200と共通ですが、MediaTekのDimensity Open Resource Architecture (DORA) プラットフォームを活用し、ソフトウェアレベルでの最適化やカスタマイズが施されています 28。具体的には、AI Resolution Boost(解像度向上)、AI Color Boost(色彩強調)といったディスプレイ関連機能や、写真処理速度の向上、手ぶれ補正機能の強化などが、このバリアント向けに実現されたと報告されています 28。これは、標準のAPU 3.0の能力を基盤としつつ、特定のユースケースに合わせてAI性能を引き出す試みと言えます 22。このバリアントの存在は、ハードウェア性能だけでなく、ソフトウェアとパートナー企業との連携によって製品の差別化を図るというMediaTekの戦略を示唆しています。

表1: MediaTek Dimensity 1200 主要技術仕様

機能仕様
プロセスノードTSMC 6nm
CPU構成1x Cortex-A78 @ 3.0GHz + 3x Cortex-A78 @ 2.6GHz + 4x Cortex-A55 @ 2.0GHz
GPUARM Mali-G77 MP9
GPUクロック最大 886 MHz
AIプロセッサMediaTek APU 3.0 (6コア)
RAMサポートLPDDR4x (最大 4266 MHz, クアッドチャネル)
ストレージサポートUFS 3.1
5Gモデム統合型 (Helio M70), Sub-6 GHz (ミリ波は実装による), 5G CA, Dual 5G SIM
Wi-FiWi-Fi 6 (802.11ax)
Bluetooth5.2

3. 合成ベンチマーク性能 詳細分析

合成ベンチマークテストは、SoCの理論的な最大性能を測定し、異なるチップセット間の性能を比較するための標準的な指標を提供します。Dimensity 1200の性能を評価するために、主要なベンチマークテストの結果を分析します。

AnTuTu Benchmark 分析 (v9, v10)

AnTuTu Benchmarkは、CPU、GPU、メモリ、UX(ユーザーエクスペリエンス)の性能を総合的に評価する広く利用されているテストです。ただし、テストバージョン(v9とv10)によってスコアリングアルゴリズムが異なるため、スコアの解釈には注意が必要です。

  • AnTuTu v10: Dimensity 1200のスコアは、一般的に75万点台後半 1 から、特定のデバイス(例: Xiaomi 11T)では82万点を超えるスコアも報告されています 6。スコアの内訳例としては、CPUが約21万点、GPUが約22万点~28万点台、メモリが約14万点、UXが約19万点弱となっています 1。一方で、60万点台後半から70万点台という報告もあります 2
  • AnTuTu v9: Realme GT Neo 5 やXiaomi 11T 6 といった具体的なデバイスでは、約60万点台から70万点台前半のスコアが記録されています。興味深い点として、同じXiaomi 11Tでも、OSアップデートなどの影響で時間の経過とともにスコアが変動する様子が観察されています 6

これらのスコアは、Dimensity 1200を当時のハイエンドカテゴリに位置づけ、要求の厳しいタスクやゲームにも十分対応可能な性能を持つことを示しています 5

Geekbench CPU Performance (v5, v6 – シングルコア & マルチコア)

Geekbenchは、CPUの純粋な演算性能をシングルコアとマルチコアの両方で測定するテストです。

  • Geekbench 6: シングルコアスコアは約1113点、マルチコアスコアは約3172点と報告されています 1。ファイル圧縮やHTML5ブラウジングなどのサブスコアも利用可能であれば、より詳細な性能特性を把握できます 1
  • Geekbench 5: Xiaomi 11TやOnePlus Nord 2などのデバイスでのテスト結果に基づくと、シングルコアスコアは約809点~857点、マルチコアスコアは約2463点~3023点の範囲にあります 16。デバイス間でのスコアのばらつきも確認されています 18。これらのスコアは、他のSoCとの比較においても、Dimensity 1200のCPU性能レベルを示しています 9

シングルコア性能は3.0GHzのUltra Core (Cortex-A78) が、マルチコア性能はそれに加えて3つのSuper Core (Cortex-A78) が大きく貢献していると考えられます。

3DMark GPU Performance (Wild Life, Sling Shot, Stability)

3DMarkは、GPUのグラフィックス性能を測定するための主要なベンチマークです。特にWild Lifeテストは、最新のAPI(Vulkan/Metal)を用いた高負荷なグラフィックステストとして注目されます。

  • Wild Life: スコアは約4520点~4546点の範囲で報告されています 1。Wild Life Stress Testにおける安定性(Stability)は、81% 1 や、Oppo Reno6 Proでは99% 31 といった比較的高い値が報告されることもありますが、これはテスト条件に依存します。グラフィックステスト中のフレームレート(FPS)は約27 FPSとされています 1
  • Sling Shot: Sling Shot (Unlimited Physics) のスコアは約3813点 10、Sling Shot Extreme (Unlimited Physics) では約4971点といった値が報告されています 10。Oppo Reno6 ProでのSling Shot Graphicsスコアは約10323点でした 31

3DMarkの安定性スコアは、持続的なグラフィックス負荷下での性能維持能力を示す指標となりますが、後述するサーマルスロットリングの議論と関連付けて解釈する必要があります。

ベンチマークスコアは、使用するテストのバージョン(AnTuTu v9 vs v10, GB5 vs GB6)や、テスト対象となるデバイス(冷却性能やソフトウェアのチューニングが異なる)によって大きく変動することが分かります 1。これは、単一のスコアだけでなく、テスト環境やデバイス固有の最適化・制限を考慮することの重要性を示唆しています。平均的なスコアは、Dimensity 1200をその時代のハイパフォーマンス層に位置づけています。

GPU性能(Mali-G77 MP9)は強力であるものの、Qualcommの同世代のハイエンドGPU(Snapdragon 870のAdreno 650、特にSnapdragon 888のAdreno 660)と比較すると、ピーク性能テストでは一般的に後れを取る傾向があります 4。しかし、安定性スコアが比較的高い場合があることは 1、持続性能が良好である可能性を示唆しますが、それでも高負荷下でのスロットリングは発生します 1

表2: MediaTek Dimensity 1200 ベンチマークスコア概要 (平均/範囲)

ベンチマークスコアタイプ報告値 (範囲または代表値)出典例 (Snippet ID)
AnTuTu v10総合スコア約 759K – 828K1
CPU約 211K1
GPU約 218K – 285K1
AnTuTu v9総合スコア約 605K – 706K5
Geekbench 6シングルコア約 11131
マルチコア約 31721
Geekbench 5シングルコア約 809 – 85716
マルチコア約 2463 – 302316
3DMark Wild Lifeスコア約 4520 – 45461
安定性81% – 99% (デバイス・テストによる)1
3DMark Sling Shot (Phys)スコア約 3813 (Unlimited Physics)16

4. 競合分析: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 870

Dimensity 1200の市場における立ち位置を理解するためには、主要な競合製品との比較が不可欠です。特に、同じくハイエンド/サブフラッグシップ市場をターゲットとしたQualcomm Snapdragon 870との比較は重要です。

仕様比較

両チップの主な仕様上の違いは以下の通りです。

  • Dimensity 1200: 6nmプロセス、CPU (1x 3.0GHz A78 + 3x 2.6GHz A78 + 4x 2.0GHz A55)、GPU (Mali-G77 MP9 @ 886MHz)、L3キャッシュ 8MB 1
  • Snapdragon 870: 7nmプロセス、CPU (1x 3.2GHz A77 + 3x 2.42GHz A77 + 4x 1.8GHz A55)、GPU (Adreno 650 @ 670MHz)、L3キャッシュ 4MB/7MB (情報源により異なる) 3

Dimensity 1200はより新しいCPUコア (Cortex-A78 vs A77) と、より微細な製造プロセス (6nm vs 7nm) を採用しており、理論的には電力効率面で有利な可能性があります 3。一方、Snapdragon 870はプライムコアの最大クロック速度がより高く (3.2GHz vs 3.0GHz) 3、GPUアーキテクチャ (Adreno vs Mali) はクロック速度が低くても性能面で優位性を持つ可能性があります 3。また、Snapdragon 870はLPDDR5メモリをサポートすることが多いのに対し、Dimensity 1200は主にLPDDR4xをサポートします 3

ベンチマーク性能比較 (CPU, GPU)

  • AnTuTu: 総合スコアは非常に拮抗しており、情報源やテストバージョンによってどちらがわずかに優位か変動します。AnTuTu v10ではSnapdragon 870が約82万点、Dimensity 1200が平均約76万点とされる例もありますが 17、他の情報源ではほぼ同等か、一部コンポーネントではDimensity 1200が優位とする記述も見られます 3。Notebookcheckの総合評価ではSnapdragon 870がわずかに高い評価を得ています 9
  • Geekbench: Snapdragon 870は、より高いプライムコアクロック速度により、シングルコアスコアで一貫してDimensity 1200を上回る傾向があります (例: GB5で約990点 vs 約830点、GB6で約1300点 vs 約1113点) 10。マルチコアスコアはより接戦となり、テストによってはDimensity 1200がわずかに上回ることも、Snapdragon 870が上回ることもあります 10。Dimensity 1200の新しいA78コアがマルチスレッド性能に貢献している一方で、Snapdragon 870の高いクロックがシングルスレッド性能を引き上げています。
  • 3DMark: GPU性能も全体的に同等レベルですが、わずかな差が見られます。Wild Lifeスコアでは、Snapdragon 870が約4334点、Dimensity 1200が約4520点と、Dimensity 1200がわずかに高い例があります 17。一方で、Sling ShotのPhysics関連テストではSnapdragon 870がわずかに優位な結果を示すことが多く 10、安定性テストではSnapdragon 870の方が高いスコア(例: 90% vs 81%)を示すこともあります 17

ゲーミング性能比較

実際のゲームプレイにおけるフレームレート(FPS)を見ると、一部のタイトルではSnapdragon 870の方が高いフレームレートを達成したり、同等のFPSをより高いグラフィック設定で実現したりする場合があります。例えば、PUBG MobileではSnapdragon 870がUltra設定で88 FPS、Dimensity 1200が同じくUltra設定で68 FPS、Shadowgun LegendsではSnapdragon 870がUltra設定で102 FPS、Dimensity 1200が71 FPSという報告があります 1。しかし、Genshin Impact(原神)のように、両者ともUltra設定で約50 FPS前後と、非常に近い性能を示すゲームもあります 1。これは、ゲームタイトルごとの最適化状況に性能が左右されることを示唆しており、歴史的にSnapdragon向けに最適化が進んでいるタイトルが多い可能性も指摘されています 17

相対的なポジショニング分析

結論として、Dimensity 1200とSnapdragon 870は、ハイエンド/サブフラッグシップ市場において非常に緊密な競合関係にありました 3。Snapdragon 870はピーク時のCPUシングルコア性能や、より安定したGPU性能、あるいはゲームの最適化においてわずかなアドバンテージを持つ場合がありました 3。対するDimensity 1200は、より新しいCPUアーキテクチャ (A78)、微細な製造プロセス(潜在的な効率性)、そして強力なマルチコア性能で対抗しました 3。どちらを選択するかは、最終的には搭載されるデバイス固有の実装(冷却性能、ソフトウェアチューニング)や価格設定に依存することが多かったと言えます 17。MediaTekがこのレベルでQualcommと互角に渡り合えることを示した点において、Dimensity 1200の登場は市場にとって大きな意味を持ちました。

表3: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 870 ベンチマーク比較

指標MediaTek Dimensity 1200Qualcomm Snapdragon 870
プロセスノード6nm7nm
CPU構成1x 3.0GHz A78 + 3x 2.6GHz A78 + 4x 2.0GHz A551x 3.2GHz A77 + 3x 2.42GHz A77 + 4x 1.8GHz A55
最大CPUクロック3.0 GHz3.2 GHz
GPUMali-G77 MP9Adreno 650
AnTuTu v10 (平均/範囲)約 760K約 820K
Geekbench 6 (Single)約 1113約 1300
Geekbench 6 (Multi)約 3172約 3350
Geekbench 5 (Single)約 830約 990
Geekbench 5 (Multi)約 2700 – 3000約 3100 – 3400
3DMark Wild Life Score約 4520約 4330
3DMark Wild Life Stab.81% (例)90% (例)

(注: ベンチマークスコアはテスト環境やデバイスにより変動します。上記は代表的な値または範囲です。)

5. 競合分析: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 888

次に、Dimensity 1200を当時の絶対的なフラッグシップSoCであるQualcomm Snapdragon 888と比較します。

仕様比較

両チップの主な仕様上の違いは以下の通りです。

  • Dimensity 1200: 6nm TSMCプロセス、CPU (1x 3.0GHz A78 + 3x 2.6GHz A78 + 4x 2.0GHz A55)、GPU (Mali-G77 MP9 @ 886MHz)、L3キャッシュ 8MB、LPDDR4xサポート 1
  • Snapdragon 888: 5nm Samsungプロセス、CPU (1x 2.84GHz X1 + 3x 2.42GHz A78 + 4x 1.8GHz A55)、GPU (Adreno 660 @ ~840MHz)、L3キャッシュ 4MB、LPDDR5サポート 4。Snapdragon 888+はさらにクロックが高いバリアントです 12

Snapdragon 888は、より先進的な5nmプロセス、高性能なCortex-X1プライムコア、強力なAdreno 660 GPU、そして高速なLPDDR5メモリサポートといった点で明確なアドバンテージを持っていました 4。Dimensity 1200は、ピークCPUクロック (3.0GHz vs 2.84GHz/2.995GHz) やL3キャッシュ容量では上回るものの、プライムコアのアーキテクチャ (A78 vs X1) では劣ります 4

ベンチマーク性能比較 (CPU, GPU)

  • AnTuTu: Snapdragon 888は一貫してDimensity 1200よりも大幅に高いスコアを記録します。AnTuTu v10では、Snapdragon 888が約87万点~91万点以上であるのに対し、Dimensity 1200は平均約76万点です 4。CPU、GPU、メモリ、UXの全ての項目でSnapdragon 888がリードしており、その差は約21%~27%に達します 11
  • Geekbench: Snapdragon 888はシングルコア (例: GB6で約1427点 vs 約1113点) およびマルチコア (例: GB6で約3423点 vs 約3172点) の両方でDimensity 1200を大きく上回ります 11。特にシングルコア性能におけるCortex-X1コアの優位性は顕著です。パフォーマンスコアのクロック速度はDimensity 1200の方が高い部分もありますが、全体のアーキテクチャの差がマルチコア性能にも表れています 4。Snapdragon 888+はこの差をさらに広げます 12
  • 3DMark: GPU性能においてもSnapdragon 888の優位性は明らかです。Wild Lifeスコアでは、Snapdragon 888が約5824点であるのに対し、Dimensity 1200は約4520点と、約29%もの差があります 4

ゲーミング性能比較

ピーク性能の差は、ゲームプレイにも反映されます。Snapdragon 888は一般的に、より高いフレームレートを達成したり、より高いグラフィック設定でのプレイを可能にしたりします 11。例として、PUBG Mobile (Ultra設定: 83 FPS vs 68 FPS)、Shadowgun Legends (Ultra設定: 89 FPS vs 71 FPS)、World of Tanks Blitz (Ultra設定: 112 FPS vs 88 FPS) などが挙げられます 11

しかしながら、重要な点として、Snapdragon 888搭載デバイスは、その高いピーク性能と引き換えに発熱しやすく、サーマルスロットリング(熱による性能低下)が発生しやすい、あるいはメーカーが意図的に性能を制限している場合があることが指摘されています 8。AnandTechによるXiaomi 11T (Dimensity 1200) と11T Pro (Snapdragon 888) の比較テストでは、持続的なゲームプレイにおける性能差は、ピークベンチマークが示すほどの大きな差ではなく、約12%程度に留まったと報告されています 8。これは、実際の長時間のゲーム体験においては、両者の差が縮まる可能性を示唆しています。

電力効率と熱に関する考察

Snapdragon 888は先進的な5nmプロセスを採用しているものの、高い消費電力と発熱が課題として知られており、これが顕著なスロットリングにつながる可能性がありました 4。対照的に、Dimensity 1200の6nmプロセスとCortex-A78コアの組み合わせは、実際の使用においてより電力効率が高く、結果としてピーク性能に対する持続性能の低下が穏やかであるか、あるいはバッテリー寿命が長い可能性があると考えられていました 4

機能セットの違い (ISP, ビデオ)

Snapdragon 888は、より高度な画像信号プロセッサ (ISP、Spectra 580) を搭載し、8Kビデオ録画などの先進的な機能をサポートしていました 4。一方、Dimensity 1200のビデオ録画は最大4K/60fpsでしたが、シングルカメラでは最大200MP(2億画素)の解像度をサポートしていました 1。また、Dimensity 1200は効率的なビデオコーデックであるAV1のハードウェアデコードに対応していました 1

Snapdragon 888はピーク性能においてDimensity 1200を明確に上回っていました。これはCortex-X1コア、強力なGPU、そして5nmプロセスといった先進技術の組み合わせによるものです 4。しかし、この高性能は、しばしば顕著な発熱とそれに伴う性能低下(スロットリング)という代償を伴いました。

これに対し、Dimensity 1200は、絶対的な最高性能を追求するのではなく、「ほぼフラッグシップ」と言える高い性能レベルを、より優れた持続性能と電力効率で提供することを目指したチップと言えます。特に、Snapdragon 888の熱問題が顕在化する中で、Dimensity 1200はよりバランスの取れた選択肢として魅力を増し、しばしばより手頃な価格のデバイスを実現しました 4。実際の長時間の使用、特にゲーミングにおいては、ピークベンチマークが示すほどの性能差を感じない可能性がありました 8

表4: Dimensity 1200 vs. Snapdragon 888 ベンチマーク比較

指標MediaTek Dimensity 1200Qualcomm Snapdragon 888
プロセスノード6nm (TSMC)5nm (Samsung)
CPU構成1x 3.0GHz A78 + 3x 2.6GHz A78 + 4x 2.0GHz A551x 2.84GHz X1 + 3x 2.42GHz A78 + 4x 1.8GHz A55
最大CPUクロック3.0 GHz2.84 GHz
GPUMali-G77 MP9Adreno 660
AnTuTu v10 (平均/範囲)約 760K約 870K – 915K+
Geekbench 6 (Single)約 1113約 1427
Geekbench 6 (Multi)約 3172約 3423
Geekbench 5 (Single)約 830約 1100 – 1130
Geekbench 5 (Multi)約 2700 – 3000約 3500 – 3800
3DMark Wild Life Score約 4520約 5820
最大ビデオ録画4K @ 60FPS8K @ 30FPS

(注: ベンチマークスコアはテスト環境やデバイスにより変動します。上記は代表的な値または範囲です。)

6. 実環境でのゲーミング性能評価

合成ベンチマークはチップの潜在能力を示しますが、実際のゲーミング体験は、ゲームの最適化、デバイスの冷却性能、およびソフトウェアのチューニングに大きく依存します。

要求の厳しいタイトルでのパフォーマンス

複数の情報源から報告されている人気ゲームタイトルにおけるDimensity 1200のフレームレート(FPS)データは以下の通りです 1。テストデバイスが特定されている場合は注記します。

  • Genshin Impact (原神): Ultra設定で約51 FPS 1。Medium設定/60fpsで快適に動作するとの報告もあります 7 (Xiaomi 11T)。
  • PUBG Mobile: Ultra設定で約68 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。
  • Call of Duty: Mobile: HighまたはUltra設定で約60 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。
  • Fortnite: パフォーマンスが低い傾向があり、Low設定で約28 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。これはゲーム側の最適化の問題も考えられます。
  • World of Tanks Blitz: Ultra設定で約88 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。
  • Shadowgun Legends: Ultra設定で約71 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。
  • Mobile Legends: Bang Bang: Ultra設定で約60 FPS 1 (Realme GT Neoなど)。

達成可能なフレームレートとグラフィック設定

これらのデータから、Dimensity 1200は多くの人気タイトルにおいて、高グラフィック設定であっても、一般的にスムーズな(多くの場合60fpsに近い)ゲーミング体験を提供できることがわかります 1。ただし、Genshin Impactのような極めて要求の高いタイトルや、Fortniteのように最適化が進んでいない可能性のあるタイトルでは、安定した60fpsを維持するためにはグラフィック設定を下げる必要があるかもしれません 1。Realme GT Neoでは、一部のゲームで120fpsモードの解除に問題があるとの報告もありました 35

MediaTek HyperEngine 3.0の役割

MediaTek HyperEngine 3.0は、Dimensity 1200に搭載されたゲーム体験向上のための技術スイートです 15。これは単なるCPU/GPU性能向上だけでなく、ゲームプレイ全体を最適化することを目的としています。主な機能としては、ネットワーク接続の信頼性向上(5G環境での安定性、通話とデータ通信の同時利用)、タッチレスポンスの改善(Multi-Touch Boost)、ワイヤレスイヤホン使用時の音声遅延低減、そしてゲーム中の電力効率改善(Super Hotspot Power Saving, High FPS Power Saving)などが挙げられます 15。モバイルゲームやARにおけるレイトレーシング機能への言及もありますが、Dimensity 1200が登場した当時は、モバイル環境での実用的な応用は限定的でした 15。HyperEngineは、フレームレート以外の要素、例えばネットワーク遅延やバッテリー消費なども含めて、総合的なゲーミング体験の質を高めようとするMediaTekの取り組みを示しています。

総じて、Dimensity 1200は、絶対的な最高性能を必要としないモバイルゲーマーにとって、堅実なハイエンドゲーミング体験を提供します。ほとんどのタイトルを高設定でスムーズにプレイ可能ですが 1、極めて負荷の高い、あるいは最適化が不十分なタイトルにおいては、Snapdragon 888のような最上位フラッグシップSoCと比較した場合の限界も見られます 1

表5: Dimensity 1200 搭載デバイスにおける主要ゲームのFPS

ゲームタイトルテスト設定 (例)平均FPS (例)出典例 (Snippet ID) / デバイス (判明分)
Genshin Impact (原神)Ultra約 51 FPS1 (Realme GT Neo)
PUBG MobileUltra約 68 FPS1 (Realme GT Neo)
Call of Duty: MobileHigh / Ultra約 60 FPS1 (Realme GT Neo)
FortniteLow約 28 FPS1 (Realme GT Neo)
World of Tanks BlitzUltra約 88 FPS1 (Realme GT Neo)
Shadowgun LegendsUltra約 71 FPS1 (Realme GT Neo)
Mobile Legends: Bang BangUltra約 60 FPS1 (Realme GT Neo)

(注: FPSはゲームのバージョン、デバイス、設定、測定条件により変動します。)

7. AI処理能力

近年、スマートフォンにおけるAI(人工知能)処理能力は、カメラ機能、ディスプレイ画質、音声認識、バッテリー管理など、多岐にわたるユーザー体験向上の鍵となっています。

MediaTek APU 3.0 概要

Dimensity 1200には、MediaTekの第3世代AIプロセッシングユニットであるAPU 3.0が搭載されています。これは6コア構成で 9、スマートフォン内の様々なアプリケーションにおけるAI関連タスクを高速化する役割を担います 14。MediaTekは、前世代と比較して12.5%の性能向上を実現したと主張しています 15

AIベンチマーク結果

AI性能を客観的に評価するためのベンチマークテスト結果は以下の通りです。

  • AI Benchmark (ai-benchmark.com): このベンチマークでは、Dimensity 1200のスコアは315点、Dimensity 1200-AI(OnePlus Nord 2に搭載)のスコアは306点と報告されています 22。このスコアは、Snapdragon 888やExynos 2100、後のDimensity 9000などよりは低いものの、Kirin 980やSnapdragon 855といった旧世代フラッグシップよりも高い位置づけとなります。
  • ETH Zurich AI Benchmark: OnePlus Nord 2に搭載されたDimensity 1200-AIは、この包括的なベンチマークテストにおいて172.7点というスコアを記録し、テスト実施時点でのランキングでトップ10に入る高性能を示しました 28。このベンチマークは、物体認識、顔認識、光学文字認識(OCR)、セマンティックセグメンテーション、写真画質向上シミュレーションなど、46種類のAIおよびコンピュータビジョン関連テストを含み、速度、精度、初期化時間など100以上の側面を測定するものです 28

異なるAIベンチマーク間でスコアやランキングが異なる可能性があること、そして単一の数値だけでAI能力全体を捉えることの難しさには留意が必要です。

競合他社のAIエンジンとの比較

QualcommのHexagon DSP(例: Snapdragon 888搭載のHexagon 780は公称26 TOPS)9 や、AppleのNeural Engineなどと比較されます。ただし、TOPS(Tera Operations Per Second)のような単純な性能指標だけでは、実際のAI性能を完全には反映しません。アーキテクチャ、ソフトウェアサポート、そして実行されるタスクの種類によって、実際のパフォーマンスは大きく異なります。Dimensity 1200-AIの事例が示すように、たとえ公称TOPS値がクラス最高でなくても、特定のタスクに対する最適化によって高いパフォーマンスを引き出すことが可能です 28

AIがユーザー体験に与える影響

APU 3.0(およびDimensity 1200-AIでの強化)は、以下のような形でユーザー体験の向上に貢献します。

  • 写真撮影: AIによるシーン認識、ノイズリダクション、HDR処理(AI SDR-to-HDR)、暗所撮影性能の向上 15
  • ディスプレイ: MediaTek MiraVisionによるAIベースの画質調整(AI SDR-to-HDR)、AI Resolution BoostやAI Color Boost(1200-AIバリアント)による表示品質向上 15
  • その他: 音声処理、リアルタイム翻訳、AR(拡張現実)アプリケーションの高速化 14

標準的なAIベンチマーク 22 ではDimensity 1200のAPU 3.0はハイエンドながら最上位には及ばないものの、カスタマイズされたDimensity 1200-AIバリアント 28 と、それがETH Zurichのような包括的ベンチマークで示した高い性能 28 は、メーカーとの協力やソフトウェア最適化が実用的なAI性能を引き出す上で重要な役割を果たすことを示唆しています。MediaTekがAPU 3.0やMiraVisionのAI機能を、カメラやディスプレイ品質といった具体的なユーザー体験の向上に結びつけて積極的にアピールしたこと 15 は、単なる処理能力競争から、AIによる付加価値提供へと重点を移す戦略の表れと言えるでしょう。

8. 持続性能とサーマルスロットリング

高性能SoCは、特にスマートフォンという限られたスペースと冷却能力の筐体に搭載される場合、高負荷が続くと発熱し、性能を抑制して温度を管理する「サーマルスロットリング」と呼ばれる現象が発生します。

負荷時の性能低下分析

Dimensity 1200も例外ではなく、長時間の高負荷状態では性能低下が見られます。

スロットリングテスト結果

具体的なテストデータからは、以下のような傾向が読み取れます。

  • CPU Throttling Test: 長時間(例: 30分以上)の負荷をかけるとスロットリングが発生し、性能が低下するとの報告があります 37。あるテストでは、Poco F3 GT (Dimensity 1200搭載) が元の性能の76%までスロットリングしたとされています 37
  • Burnout Benchmark: このベンチマークのサーマルスロットリングランキングでは、Xiaomi 11T (Dimensity 1200搭載) がスロットリング下で元の性能の82.4%を維持したと評価されています(CPU Max FPS 7.5 → Under 4.9; GPU Max FPS 12.8 → Under 10.8)32。これは、この特定のテスト条件下で約18%の性能低下が発生したことを意味します。
  • 3DMark Stability: Wild Life Stress Testにおける安定性スコアは、81% 1 や99% 31 といった値が報告されています。これはCPU負荷テストとは異なる側面からの評価ですが、持続的なグラフィックス性能の指標となります。ただし、テストの負荷強度や時間は異なるため、他のテスト結果と合わせて総合的に判断する必要があります。

競合製品との熱管理比較

Snapdragon 870と比較した場合、ある3DMarkテストではSnapdragon 870の方が高い安定性 (90% vs 81%) を示した例があります 17。一方、Snapdragon 888は顕著な発熱とスロットリングが広く知られており 8、この点においてはDimensity 1200の方が実際の持続性能で有利になる可能性がありました 8。前述のAnandTechによるXiaomi 11Tシリーズの比較で、持続ゲーミング性能の差がピークベンチマークほど大きくなかった(約12%差)という結果も、これを裏付けています 8。一部の情報源で引用されているTDP(熱設計電力)の値も、Dimensity 1200の方が低い(例: 4.3W vs 8W)ことが示唆されており、効率性の高さを裏付ける可能性がありますが 1、TDPの値は情報源によって一貫性がない場合もあります 4

Dimensity 1200は、効率的な6nmプロセスを採用しているにも関わらず、長時間の高負荷下ではサーマルスロットリングの影響を受け、性能が約18%~25%程度低下する可能性があることが示されています 32。これは当時のハイパフォーマンスSoCとしては一般的な挙動ですが、デバイスの冷却設計がいかに重要であるかを強調しています。Snapdragon 888の顕著な熱問題と比較すると、Dimensity 1200はピーク性能に対する持続性能の維持率が相対的に良好である可能性があり、長時間の使用においては、ピークベンチマークの差ほど大きな性能差を感じさせない、よりバランスの取れたチップであったと考えられます 8

9. デバイス実装がパフォーマンスに与える影響

SoCの性能は、それが搭載されるスマートフォンの設計、特に冷却システムとソフトウェアの最適化によって大きく左右されます。同じDimensity 1200を搭載していても、デバイスによってユーザーが体験するパフォーマンスは異なります。

ケーススタディ: パフォーマンスのばらつき

Dimensity 1200を搭載した異なるスマートフォンモデル間で、ベンチマークスコアや性能特性に違いが見られます。

  • Xiaomi 11T: AnTuTuスコアはテストバージョンや時期によって変動が見られ (v9: 605K-706K; v10: 777K-828K) 6、Geekbench 5のスコアも報告されています 13。スロットリングに関するデータもあり 32、特定のゲーム(Genshin Impact)でのパフォーマンスも言及されています 7
  • Realme GT Neo: 多くのベンチマークテストで参照デバイスとして使用されています 1。AnTuTu v9スコアは約67万点台 5、ゲームFPSデータも豊富です 1。一部ゲームでの120fps解除に関する問題も指摘されています 35
  • OnePlus Nord 2 (Dimensity 1200-AI): 特殊なAIバリアントを搭載し、特定のAIベンチマークでの高性能が報告されています 28。Geekbench 5のスコアもあり 18、全体的な性能はSnapdragon 870に匹敵すると主張されています 28
  • Oppo Reno6 Pro 5G: 3DMarkのスコアと安定性が報告されています 31

ばらつきを生む要因

  • 冷却ソリューション: スマートフォン内部のベイパーチャンバー、グラファイトシートなどの熱管理システムの効率が、持続性能とスロットリングの程度に直接影響します。より優れた冷却システムを持つデバイスは、チップの性能をより長く高く維持できます。
  • ソフトウェア最適化: メーカー独自のOSスキン、カーネルチューニング、電源管理プロファイルなどが、ベンチマークスコアや実際の操作感に影響を与えます 8。Dimensity 1200-AIは、ソフトウェア最適化が性能に与える影響の好例です 28
  • RAM/ストレージ速度: Dimensity 1200は高速なUFS 3.1ストレージとLPDDR4xメモリをサポートしますが、デバイスごとに採用されるコンポーネントのわずかな速度差や構成の違いが、理論的には微小な性能差を生む可能性があります。
  • バックグラウンドプロセスとOSアップデート: テスト実行中にバックグラウンドで動作しているアプリや、OSアップデートによって導入される変更も、スコアに影響を与える可能性があります 6

これらの要因から、Dimensity 1200搭載スマートフォンの最終的なユーザー体験は、チップ自体の性能だけでなく、デバイスメーカーによる設計(特に冷却)とソフトウェアチューニングによって大きく左右されることがわかります 6。アグレッシブな性能設定は高いピークスコアをもたらすかもしれませんが、冷却が不十分な場合は早期にスロットリングが発生する可能性があります 32。逆に、保守的な設定はピーク性能を抑える代わりに、より安定したパフォーマンスを提供するかもしれません 8。したがって、SoCの分析と並行して、個々のデバイスレビューを参照することが重要です。

また、MediaTekがDORAプラットフォーム 28 を通じてパートナー企業(OnePlusなど)にカスタマイズの余地を与え、Dimensity 1200-AIのようなバリアントが生まれたことは、SoCベンダーが純粋なハードウェア競争だけでなく、ソフトウェアと協業を通じて製品を差別化するトレンドを示しています。これは、SoCの性能と機能においてソフトウェアの重要性が増していることを示唆しています。

10. 結論: 強み、弱み、最終評価

パフォーマンスプロファイルの総括

MediaTek Dimensity 1200は、2021年における高性能SoCとして、近代的な6nmプロセス、強力なCortex-A78コア、そして十分な能力を持つMali-G77 MP9 GPUを搭載していました。ベンチマークテストでは、Snapdragon 870と互角に競り合い、Snapdragon 888に対してはピーク性能で劣るものの、効率性や持続性能の面で有力な代替案となる性能を示しました。

特定された主な強み

  • 強力なCPU性能: 1+3構成のCortex-A78コアにより、優れたマルチコア性能と競争力のあるシングルコア速度を実現 1
  • 電力効率: 6nm TSMCプロセスとCortex-A78コアの組み合わせにより、比較的良好な電力効率を示し、Snapdragon 888と比較してバッテリー寿命や熱管理の面で有利な可能性 1
  • 競争力のある価格設定: 高性能デバイスをより手頃な価格帯で実現可能にし、「フラッグシップキラー」市場の形成に貢献 7
  • 堅実なゲーミング能力: ほとんどの要求の厳しいゲームを高設定でスムーズにプレイ可能 1
  • 近代的な機能セット: 統合5G、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、UFS 3.1サポート、高性能AIプロセッサ (APU 3.0) を搭載 1
  • カスタマイズの可能性: Dimensity 1200-AIバリアントが示すように、DORAプラットフォームを通じたパートナーによるカスタマイズが可能 28

特定された主な弱み

  • ピークGPU性能: Mali-G77 MP9は、Qualcommの同世代Adreno GPU(特にAdreno 660)と比較して、ピーク時のグラフィックスベンチマークで後れを取る 4
  • サーマルスロットリング: 高負荷が持続すると性能低下が発生するため、デバイス側の優れた冷却設計が不可欠 32
  • ゲームの最適化: 歴史的に、一部のゲーム開発者はSnapdragon SoC向けの最適化を優先する傾向があった可能性 17
  • 最上位機能との差: LPDDR5メモリの非サポート(一般的)や8Kビデオ録画機能の欠如など、絶対的なフラッグシップSoC(Snapdragon 888)と比較していくつかの最先端機能に欠ける 4
  • AIベンチマークの立ち位置: 標準的なAIベンチマークでは最上位の競合製品に及ばないが、カスタマイズされたバリアントは高い潜在能力を示す 22

市場における意義とレガシー

Dimensity 1200は、MediaTekにとって画期的なチップであり、ハイエンドスマートフォン市場における同社の信頼性を大幅に向上させ、Qualcommに対する強力な競争相手としての地位を確立しました。このチップは、性能、効率、機能のバランスが取れた、価値の高いスマートフォンを数多く実現し、人気を博しました。Dimensity 1200の成功は、その後のDimensity 8000/9000シリーズといったさらなるハイエンドチップへの道筋をつけました。

最終的に、Dimensity 1200は、市場において重要な地位を築くことに成功しました。それは、絶対的な最高性能を追求するのではなく、全体的に高いパフォーマンス、強力なゲーミング能力、そして最上位フラッグシップよりも優れた可能性のある効率性と熱管理を、しばしばより魅力的な価格帯で提供するという、説得力のあるバランスを実現したからです。このバランスの取れたアプローチは広く受け入れられ、MediaTekの技術的進歩と戦略的な市場ポジショニングの成功を証明するものとなりました。

引用文献

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