1. 概要
1.1. 目的とスコープ
本レポートは、MediaTek Dimensity 7020 システムオンチップ(SoC)の技術仕様、ベンチマークテストに基づく性能評価、主要な競合製品との比較、そして実際の使用感に関する情報を包括的に分析し、その特性と市場における位置づけを明らかにすることを目的とする。分析にあたっては、MediaTekの公式情報、主要なベンチマークデータベースサイト、国内外のテクノロジーレビューサイトから収集したデータを基に、客観的な評価を行う。
1.2. Dimensity 7020の位置づけ
MediaTek Dimensity 7020は、主にミドルレンジクラスの5G対応スマートフォン市場をターゲットとして開発されたSoCである 1。複数の情報源から、本チップが先行するDimensity 930のリブランド製品である可能性が指摘されている 5。この事実は、Dimensity 7020が全く新しいアーキテクチャを採用しているのではなく、既存の設計を基盤として市場に再投入されたことを示唆しており、性能特性を理解する上で重要な背景情報となる。この戦略は、コスト効率や市場セグメンテーションを意図したものと考えられるが、Dimensity 930からの革新的な技術的進歩は期待できないことを意味する。
1.3. レポート構成
本レポートは以下の構成でDimensity 7020を分析する。まず、CPU、GPU、製造プロセスなどの技術仕様を詳細に解説する。次に、AnTuTu Benchmark、Geekbench、3DMarkなどの標準的なベンチマークテストの結果を提示し、そのスコアから読み取れる性能特性を分析する。続いて、主要な競合SoCであるQualcomm Snapdragonシリーズの特定モデルと比較評価を行う。さらに、ベンチマークスコアだけでは捉えきれない、実際のゲームプレイやアプリケーション動作、発熱などの実使用感に関するレビュー情報を集約する。最後に、これらの分析結果を統合し、Dimensity 7020の総合的な評価と結論を述べる。
2. 技術仕様
Dimensity 7020の性能を支える基盤となるハードウェア構成について、MediaTek公式サイト 7 および信頼性の高い技術情報サイト 1 から得られた情報を基に詳細を解説する。なお、一部の技術仕様(例:Bluetoothバージョン、GPU周波数)については、情報源によって若干の差異が見られる場合がある。これは、特定のデバイス実装における差異やドキュメント間の不一致による可能性がある。本レポートでは、公式情報や複数のソースで確認された情報を優先し、最も確からしい仕様を記載するが、潜在的な差異が存在する可能性も留意する必要がある。
2.1. CPU
Dimensity 7020は、パフォーマンスと電力効率のバランスを重視したオクタコアCPU構成を採用している。
- コア構成: 高性能コアとしてArm Cortex-A78(最大動作周波数 2.2GHz)を2基、高効率コアとしてArm Cortex-A55(最大動作周波数 2.0GHz)を6基搭載する 1。
- アーキテクチャ: 64ビットアーキテクチャを採用し、命令セットはARMv8.2-Aに対応する 1。異なる特性を持つコアを効率的に運用するHeterogeneous Multi-Processing技術もサポートしている 5。
- 解説: Cortex-A78は、一世代前のハイエンドコアであり、ミドルレンジSoCにおいては十分な性能を提供する。2.2GHzという最大クロック周波数は、このクラスとしては標準的な設定である。競合製品であるQualcomm Snapdragon 695 5Gも同様にCortex-A78を2基搭載しているが、Dimensity 7020は高効率コアであるCortex-A55の最大クロック周波数が2.0GHzと、Snapdragon 695の1.8GHzよりも高く設定されており 3、特定の低負荷処理やマルチタスクにおいて有利に働く可能性がある。
2.2. GPU
グラフィックス処理ユニット(GPU)は、ゲーム性能やユーザーインターフェースの描画品質に直接影響する重要なコンポーネントである。
- モデル: Imagination Technologies製のPowerVR IMG BXM-8-256を採用している 1。
- 周波数: 最大動作周波数は、情報源により900MHz 3 または850MHz 2 と報告されている。複数の比較記事で900MHzが引用されていることから、これがベースクロックまたはブーストクロックの上限である可能性が高い。
- APIサポート: グラフィックスAPIとしてVulkan 1.3およびOpenCL 3.0をサポートする 3。これは、競合のSnapdragon 695がサポートするVulkan 1.1およびOpenCL 2.0よりも新しいバージョンであり 3、最新のゲームやアプリケーションにおける互換性や最適化の面で利点となる可能性がある。
- 解説: IMG BXM-8-256はミドルレンジ向けのGPUであり、その性能は競合するQualcommのAdrenoシリーズ(例:Snapdragon 695のAdreno 619)と比較されることが多い。理論的な演算性能を示すFLOPS値では、Adreno 619(約430 GFLOPS 3)や一部のMediaTek製GPU(例:Mali-G57 MC3、約550 GFLOPS 2)と比較して低い値(約259 GFLOPS 3)が報告されている。しかし、後述するベンチマークや実使用感の評価では、必ずしもFLOPS値が実際の性能を反映しない側面も見られる。
2.3. 製造プロセス
SoCの性能と電力効率を左右する基盤技術として、製造プロセスは重要な要素である。
- プロセス: TSMCのN6、すなわち6nmクラスのプロセス技術を用いて製造されている 1。一部資料で7nmプロセスとの記述 13 も見られるが、MediaTekの公式情報および多数の技術情報サイトで6nmと確認されており、これが正確な情報と判断される。
- 解説: 6nmプロセスは、性能と電力効率のバランスに優れた成熟した技術であり、ミドルレンジSoCに広く採用されている。競合のSnapdragon 695も同じく6nmプロセスで製造されている 3 ため、プロセス技術自体における優位性は限定的である。ただし、より新しい競合製品であるSnapdragon 4 Gen 2は、さらに微細化された4nmプロセスを採用しており 16、理論上の電力効率ではDimensity 7020が不利になる可能性がある。
2.4. メモリ & ストレージ
高速なメモリとストレージのサポートは、アプリケーションの起動速度やマルチタスク性能、システム全体の応答性に大きく貢献する。
- メモリタイプ: LPDDR5およびLPDDR4x規格のRAMをサポートする 3。
- メモリ周波数/帯域幅: LPDDR5メモリを使用した場合、最大動作周波数は3200MHzに達し、理論上の最大メモリ帯域幅は51.2 Gbit/sとなる 3。これは、LPDDR4x(最大2133MHz、帯域幅17 Gbit/s)のみをサポートするSnapdragon 695 3 や、同様にLPDDR4x(帯域幅17 GB/s)が主となるSnapdragon 4 Gen 2 2 と比較して、約3倍の帯域幅を持つことを意味する。この差は、特にデータ転送量の多いタスクやマルチタスク環境において、顕著な性能差として現れる可能性がある。
- ストレージタイプ: 高速なUFS 3.1(2-lane)規格およびUFS 2.2規格のストレージをサポートする 3。UFS 3.1は、UFS 2.2のみをサポートするSnapdragon 695 3 と比較して、シーケンシャル読み書き速度が大幅に向上しており、OSやアプリの起動、大容量ファイルの読み込み時間を短縮する効果が期待できる。
- 解説: LPDDR5メモリとUFS 3.1ストレージへの対応は、Dimensity 7020の大きな強みである。これにより、CPUやGPUのクロック周波数が同等レベルの競合製品と比較しても、システム全体の応答性や体感速度で優位に立つ可能性がある。実際に、後述するAnTuTuベンチマークのMemoryスコアやUXスコアにおいて、このアドバンテージが反映されていると考えられる 1。
2.5. ディスプレイ & カメラサポート
スマートフォンの中核機能であるディスプレイ表示とカメラ機能に関するサポート仕様は以下の通りである。
- 最大ディスプレイ解像度: 2520 x 1080ピクセル(Full HD+相当)までの解像度をサポートする 3。
- 最大リフレッシュレート: 最大120Hzのリフレッシュレートに対応しており、滑らかな画面表示を実現する 3。また、HDR10+規格のビデオ再生もサポートし、対応コンテンツにおいて豊かな色彩とコントラスト表現が可能である 7。
- 最大カメラISP: イメージシグナルプロセッサ(ISP)は、シングルカメラ構成で最大108メガピクセル(1億800万画素)のセンサーに対応する 3。
- カメラ機能: ハードウェアレベルでのノイズリダクション技術(MFNR: Multi-Frame Noise Reduction、3DNR: 3D Noise Reduction)や、高速オートフォーカスを実現するPDAF(Phase-Detection Autofocus)、DSDN 3.0、AIを活用した顔検出(AI-FD: AI Face Detection)などをサポートする 7。MediaTekは、これらの機能により、特に低照度環境下での写真撮影性能が最大27%高速化されると主張している 7。
- ビデオ: ビデオのエンコード(録画)およびデコード(再生)は、最大で2K解像度(一般的には1080p Full HDと同等かそれ以上を指すが、ここでは具体的なピクセル数は不明)で、フレームレートは30fpsまで対応する 3。これは、Snapdragon 695が1080p@60fps再生、1K(1080p)@60fps録画をサポートする点 3 と比較して、再生・録画の最大フレームレートが低いことを意味する。
2.6. 接続性
現代のスマートフォンに不可欠な通信機能に関するサポート仕様は以下の通りである。
- モデム: 5G通信に対応したモデムをSoC内部に統合している。5Gの主要な展開方式であるSA(Standalone)モードとNSA(Non-Standalone)モードの両方をサポートする 5。
- 5G: 異なる周波数帯を束ねて通信速度を向上させるキャリアアグリゲーション(CA)に対応しており、最大で2つのコンポーネントキャリア(2CC)を束ねることが可能である(FDD+TDD mixed duplex含む)3。これにより、理論上の最大下り通信速度は2.77 Gbpsに達する 5。また、2枚のSIMカードで同時に5G SAネットワークに接続できるデュアル5G SIM(5G SA + 5G SA)や、5Gネットワーク上で高品質な音声通話を実現するVoNR(Voice over New Radio)にも対応している 5。
- Wi-Fi: Wi-Fi 5(IEEE 802.11 a/b/g/n/ac)規格に対応する 3。より高速な最新規格であるWi-Fi 6(802.11ax)には対応しておらず、この点は競合製品と比較して見劣りする可能性がある。
- Bluetooth: バージョン5.2 4 または 5.3 3 をサポートするとされる。MediaTek公式サイトでは5.2と記載されているため、これが公式仕様である可能性が高い。
- GNSS: 複数の衛星測位システムに対応しており、GPS(L1CA+L5)、BeiDou(B1I+B2a)、Glonass(L1OF)、Galileo(E1+E5a)、QZSS(みちびき、L1CA+L5)、NavIC(インド)を利用した位置情報測位が可能である 3。
2.7. 技術仕様サマリー
Dimensity 7020の主要な技術仕様を以下にまとめる。
表1: MediaTek Dimensity 7020 技術仕様サマリー
カテゴリ | 仕様項目 | 詳細 | 主な情報源 |
CPU | コア構成 | 2x Arm Cortex-A78 @ 最大2.2GHz + 6x Arm Cortex-A55 @ 最大2.0GHz (オクタコア) | 5 |
アーキテクチャ | 64-bit, ARMv8.2-A, Heterogeneous Multi-Processing | 1 | |
GPU | モデル | Imagination PowerVR IMG BXM-8-256 | 5 |
周波数 | 最大 900MHz (または 850MHz) | 3 | |
APIサポート | Vulkan 1.3, OpenCL 3.0 | 3 | |
製造プロセス | プロセスルール | TSMC N6 (6nmクラス) | 1 |
メモリ | 対応タイプ | LPDDR5, LPDDR4x | 7 |
最大帯域幅 (LPDDR5) | 51.2 Gbit/s | 3 | |
ストレージ | 対応タイプ | UFS 3.1 (2-lane), UFS 2.2 | 7 |
ディスプレイ | 最大解像度 | 2520 x 1080 (Full HD+) | 7 |
最大リフレッシュレート | 120Hz | 7 | |
カメラ | 最大ISPサポート | シングル 108MP | 7 |
ビデオ録画/再生 | 最大 2K @ 30fps | 3 | |
接続性 | 5G 最大ダウンロード速度 | 2.77 Gbps (2CC CA対応) | 5 |
Wi-Fi | Wi-Fi 5 (802.11 a/b/g/n/ac) | 7 | |
Bluetooth | 5.2 (または 5.3) | 7 |
3. ベンチマーク性能評価
Dimensity 7020の性能を客観的な数値で評価するため、スマートフォン向けSoCの性能測定に広く用いられている主要なベンチマークテストのスコアを収集し、分析する 13。これらのテストは、CPU、GPU、メモリ性能、および一般的な使用感を総合的に評価するために設計されている。ただし、ベンチマークスコアは、使用されるテストのバージョン、測定対象となるスマートフォンの具体的な実装(搭載メモリ容量や速度、ストレージ性能、冷却機構、ソフトウェアの最適化度合いなど)によって変動する点に留意が必要である。したがって、以下に示すスコアは、絶対的な性能指標ではなく、相対的な性能レベルを把握するための参考値として解釈すべきである。特に、異なる情報源やデバイス間でスコアにばらつきが見られる場合があり、その背景にはこれらの要因が影響していると考えられる。
3.1. 主要ベンチマークテスト
本レポートで参照する主なベンチマークテストとその評価対象は以下の通りである。
- AnTuTu Benchmark: CPU、GPU、メモリ(MEM)、ユーザーエクスペリエンス(UX)の各項目をテストし、総合的なシステム性能を評価する 1。スマートフォン性能評価の業界標準の一つとされる 12。
- Geekbench: CPUのシングルコア性能(単一タスク処理能力)とマルチコア性能(複数タスク並行処理能力)を測定する 1。
- 3DMark: 主にGPUのグラフィックス描画性能と、高負荷状態での性能持続性(安定性)を評価する。ゲーム性能の指標として用いられることが多い 13。
- PCMark for Android: ウェブブラウジング、文書作成、写真編集など、日常的なタスクをシミュレートし、実用的なパフォーマンスを測定する 1。
- GFXBench: 様々なグラフィックステストを通じて、GPUの3D描画性能を測定する 1。
3.2. AnTuTu Benchmark
AnTuTu Benchmarkは、スマートフォンの総合性能を測る上で最も広く参照されるテストの一つである。
- スコア (v10): Dimensity 7020搭載機のAnTuTu v10スコアは、複数の情報源から報告されており、おおむね 46万点から51万点 の範囲に分布している。
- Tecno Camon 30 5G (91mobilesによるテスト): 513,359点 (CPU: 150,436, GPU: 81,074, MEM: 146,967, UX: 134,882) 1
- Moto G54 (nanoreview.netによる平均/推定値): 462,274点 (CPU: 151,757, GPU: 80,776, MEM: 114,584, UX: 115,157) 3
- その他の情報源: 約47万点 13、約55万点 2、約23万点(AnTuTu公式ランキング? 詳細不明)21
- スコア (v9): 旧バージョンのAnTuTu v9では、約38万点から44万点 のスコアが報告されている。
- Notebookcheck.net (デバイス不明): 436,096点 (CPU: 126,035) 6
- note.com (haruto08): 約38万点 (CPU: 10万点, GPU: 10万点) 22
- 分析: AnTuTu v10のスコアから、Dimensity 7020はミドルレンジSoCの中で中位クラスの性能を持つことがわかる。特に、LPDDR5メモリとUFS 3.1ストレージのサポートが、MEMスコアとUXスコアを比較的高く押し上げる要因となっていると考えられる 1。一方で、GPUスコアはCPUスコアやMEM/UXスコアと比較してやや伸び悩んでおり、グラフィックス性能が相対的なボトルネックとなる可能性を示唆している。テストバージョンや測定デバイスによるスコアのばらつきが大きい点は、結果を解釈する上で考慮すべき重要な点である。
3.3. Geekbench
Geekbenchは、CPUの純粋な処理能力を測定するベンチマークとして広く利用されている。
- スコア (Geekbench 6): 最新バージョンのGeekbench 6では、以下のスコア範囲が報告されている。
- シングルコア: 約880点から920点 1。(例: Tecno Camon 30 5Gで915点 1、Moto G54で916点 6)
- マルチコア: 約2,250点から2,320点 1。(例: Tecno Camon 30 5Gで2,253点 1、Moto G54で2,315点 6)
- スコア (Geekbench 5): 旧バージョンのGeekbench 5では、以下のスコアが報告されている。
- シングルコア: 約690点から700点 5。(例: Moto G54で697点 5)
- マルチコア: 約1,900点 5。(例: Moto G54で1903点 5)
- 分析: シングルコア性能は、Cortex-A78コアを2.2GHzで動作させる構成としては標準的なレベルである。一方、マルチコア性能は、競合するSnapdragon 695(Geekbench 6 マルチコア: 約2,100点前後 3)を安定して上回る傾向が見られる。これは、Dimensity 7020が持つ6基のCortex-A55効率コアのクロック周波数がSnapdragon 695よりも高いことや、メモリ帯域幅の広さが影響している可能性がある。全体として、Dimensity 7020は良好なCPU処理能力、特にマルチタスク環境での性能が期待できることを示唆している。
3.4. 3DMark
3DMarkは、主にGPUのグラフィックス性能と負荷時の安定性を評価するためのベンチマークである。
- スコア:
- Sling Shot Extreme (ES 3.1) Unlimited Physics: 約 3,524点 6。このテストは主にCPUの物理演算性能を反映するため、Geekbenchのマルチコア性能と相関が見られる。
- Sling Shot (ES 3.0) Unlimited Physics: 約 3,474点 6。同様にCPU性能に依存するテストである。
- Wild Life / Wild Life Extreme: Dimensity 7020に関するこれらの最新グラフィックステストのスコア情報は、今回の調査では限定的であった。競合のSnapdragon 695は約1,215点(Wild Life Performance)3 と報告されており、比較のためにはDimensity 7020のスコアが必要となる。
- Stability (安定性): 高負荷状態での性能維持率を示す安定性スコアについては、情報源によって大きなばらつきが見られる。CPU負荷テストであるBurnoutでは70.3% 1 という比較的低い値が報告されている一方で、GPU負荷が中心となる3DMarkの安定性テストでは96% 13 や98% 2 という高い値も報告されている。
- 分析: Physics系のスコアは、Dimensity 7020のCPU性能がミドルレンジとして良好であることを裏付けている。しかし、GPUの純粋な描画性能を測る主要なグラフィックステスト(Wild Lifeなど)のスコアが不足しているため、3DMarkからGPU性能を断定的に評価することは難しい。安定性に関するデータの不一致は、テストの種類(CPU負荷かGPU負荷か)や、測定対象デバイスの冷却性能、テスト時の環境条件などが大きく影響していることを示唆している。特にCPU負荷時のスロットリング(性能低下)が起こりやすい可能性が考えられる。
3.5. その他ベンチマーク (PCMark, GFXBench, etc.)
- PCMark for Android Work 3.0: 日常的なタスク処理能力を示すこのテストでは、約11,695点 1 から 13,268点 6 のスコアが報告されており、実用的なパフォーマンスレベルを示している。
- GFXBench: 旧世代のグラフィックステストでは、比較的良好な結果を示している。
- Manhattan (30分間の実行): 53 FPS 1
- T-Rex: 67 FPS 1
- 分析: これらのテストは現在の高負荷ゲームと比較すると要求スペックが低いため、ここでの高フレームレートが必ずしも最新ゲームでの快適性を保証するものではない。しかし、基本的な3D描画能力があることを示している。
- Burnout (CPU Stability): CPUに高負荷をかけ続けるテストでは、パフォーマンスが元の70.3% まで低下するという結果が報告されている 1。これは、持続的な高負荷、特にCPUに負荷がかかる状況下では、サーマルスロットリングにより性能が約30%低下する可能性があることを示唆する。前述の3DMark Stabilityスコアとの違いは、テスト内容(CPU中心かGPU中心か)の違いを反映している可能性がある。
3.6. ベンチマークスコア サマリー
Dimensity 7020の主要なベンチマークスコアを以下にまとめる。スコア範囲は、情報源や測定デバイスによる変動を考慮したものである。
表2: MediaTek Dimensity 7020 ベンチマークスコア サマリー
ベンチマークテスト | スコア範囲 / 平均値 | 主な情報源 | 備考 |
AnTuTu v10 (総合) | 約 460,000 – 510,000 点 | 1 | デバイス差が大きい。MEM/UXスコアが比較的高め。 |
(CPU) | 約 150,000 – 152,000 点 | 1 | |
(GPU) | 約 81,000 点 | 1 | CPU比でやや低い傾向。 |
(MEM) | 約 114,000 – 147,000 点 | 1 | LPDDR5/UFS 3.1サポートが影響か。 |
(UX) | 約 115,000 – 135,000 点 | 1 | |
AnTuTu v9 (総合) | 約 380,000 – 436,000 点 | 6 | 旧バージョン参考値。 |
Geekbench 6 (シングルコア) | 約 880 – 920 点 | 1 | ミドルレンジ標準レベル。 |
Geekbench 6 (マルチコア) | 約 2,250 – 2,320 点 | 1 | 競合(SD695)より優位な傾向。 |
Geekbench 5 (シングルコア) | 約 690 – 700 点 | 5 | 旧バージョン参考値。 |
Geekbench 5 (マルチコア) | 約 1,900 点 | 5 | 旧バージョン参考値。 |
3DMark Sling Shot Ext. Physics | 約 3,524 点 | 6 | CPU性能を反映。 |
3DMark Sling Shot Physics | 約 3,474 点 | 6 | CPU性能を反映。 |
3DMark Stability | 70.3% (Burnout) – 98% | 1 | テスト内容、デバイス依存性大。 |
PCMark Work 3.0 | 約 11,700 – 13,300 点 | 1 | 日常タスク性能。 |
GFXBench Manhattan | 53 FPS | 1 | 旧世代テスト。 |
GFXBench T-Rex | 67 FPS | 1 | 旧世代テスト。 |
4. 性能特性分析
収集したベンチマークスコアに基づき、Dimensity 7020の主要な性能特性であるCPU処理能力、グラフィックス性能、電力効率、および安定性について、より深く分析する。
4.1. CPU処理能力
Dimensity 7020のCPU性能は、ミドルレンジSoCとして注目すべき点を持っている。Geekbenchのマルチコアスコア(約2,250-2,320点 1)やAnTuTu BenchmarkのCPUスコア(約15万点 1)は、このクラスのSoCとしては良好な結果を示している。特に、主要な競合製品であるSnapdragon 695と比較した場合、マルチタスク処理能力を反映するGeekbenchマルチコアスコアで優位に立つ傾向が見られる 4。
この良好なCPU性能の背景には、2つの高性能Cortex-A78コアの搭載に加え、6つの高効率Cortex-A55コアが競合のSnapdragon 695よりもわずかに高い2.0GHzで動作すること 3、そして特筆すべき点として、LPDDR5メモリのサポートによる広帯域なメモリ性能が寄与していると考えられる。これにより、複数のアプリケーションを同時に実行したり、バックグラウンドで処理を行ったりする際のパフォーマンス向上が期待できる。
実使用感においては、これらの特性が、アプリケーションの起動時間の短縮(MediaTekは最大18%高速化を主張 7)や、アプリケーション間のスムーズな切り替え、快適なウェブブラウジング体験などに繋がると推測される。一般的なスマートフォンの利用シナリオにおいては、十分快適な動作レベルを提供できるCPU性能を持っていると評価できる 23。
4.2. グラフィックス性能 (GPU)
Dimensity 7020のグラフィックス性能は、CPU性能と比較すると、やや評価が分かれる側面がある。搭載されているGPU、Imagination PowerVR IMG BXM-8-256は、ミドルレンジ向けのコンポーネントであるが、その性能については、参照するデータによって異なる見方が存在する。
AnTuTu BenchmarkのGPUスコア(約8.1万点 1)は、同テストのCPUスコア(約15万点)と比較して相対的に低い。また、競合するSnapdragon 695のAdreno 619 GPUと比較した場合、AnTuTu GPUスコアで下回る結果 12 や、理論演算性能(FLOPS)で劣るというデータ 3 も存在する。これらのデータは、IMG BXM-8-256の純粋な描画能力が、一部の競合GPUに及ばない可能性を示唆している。
一方で、旧世代のベンチマークであるGFXBenchのManhattan(53 FPS)やT-Rex(67 FPS)テストでは、比較的良好なフレームレートを記録している 1。また、Dimensity 7020は、Snapdragon 695よりも新しいグラフィックスAPI(Vulkan 1.3, OpenCL 3.0)をサポートしており 3、これらのAPIに最適化されたアプリケーションにおいては、理論性能以上のパフォーマンスを発揮する可能性も考えられる。
実使用感への影響としては、高度なグラフィック設定を要求する最新の3Dゲーム(例:原神)においては、フレームレートの低下や画質の妥協が必要になる可能性が高いというユーザーレビューや評価が複数見られる 3。これは、GPU性能がボトルネックとなっていることを裏付けている。しかし、一般的なカジュアルゲームや、最適化が進んでいるゲーム、動画再生などにおいては、十分な性能を提供できると考えられる。したがって、Dimensity 7020のGPU性能は、用途によって評価が異なり、特に高負荷なゲームを主目的とするユーザーにとっては、性能不足を感じる可能性があると言える。
4.3. 電力効率と安定性
SoCの電力効率はバッテリー持続時間に、安定性は高負荷時のパフォーマンス維持能力に直結する。
- 電力効率: Dimensity 7020は、TSMCの6nmプロセスで製造されており 5、これは一般的に良好な電力効率を提供する。MediaTek独自の省電力技術群である「HyperEngine 5.0 Lite」7 や、「Super Hotspot Power Saving」、「High FPS Power Saving」といった機能 7 も搭載されており、バッテリー消費の抑制が図られている。チップのTDP(熱設計電力、持続的な電力制限の目安)は、4W 3 または5W 15 と報告されており、ミドルレンジSoCとしては標準的な範囲である。これらの要素から、Dimensity 7020は比較的良好な電力効率を持つと期待される。
- 安定性: 一方で、高負荷が持続した場合のパフォーマンス安定性については、評価が分かれている。CPUに高負荷をかけるBurnoutテストでは、性能が元の70.3%まで低下(スロットリング)したという報告 1 がある。これは、長時間のCPU負荷がかかる作業(例:動画エンコード、一部のゲーム)において、性能が大幅に低下する可能性を示唆する。しかし、GPU負荷が中心となる3DMarkの安定性テストでは、96% 13 や98% 2 という非常に高いスコアも報告されている。
この安定性に関するスコアの大きなばらつきは、単にSoC固有の特性というよりも、それが搭載されるスマートフォンの冷却設計や熱管理能力に大きく依存することを示している。優れた冷却機構を持つデバイスであれば、高いパフォーマンスを比較的長く維持できる可能性がある一方、冷却が不十分なデバイスでは、特にCPU負荷が高い場合に、早期にスロットリングが発生し、性能が低下したり、本体が熱を持ったりする可能性が高まる。実際に、後述するユーザーレビューでも、同じDimensity 7020搭載モデル(Moto G54)で発熱に関する評価が分かれている 26。したがって、Dimensity 7020の安定性や発熱特性は、個々のスマートフォン製品ごとに評価する必要がある。
5. 競合プロセッサとの比較
Dimensity 7020の市場における性能レベルと特性をより明確にするため、同クラスの主要な競合製品であるQualcomm Snapdragon 695 5GおよびSnapdragon 4 Gen 2との比較分析を行う。
5.1. Snapdragon 695 5G
Snapdragon 695 5Gは、Dimensity 7020と同じくミドルレンジの5Gスマートフォンに広く採用されているSoCである。
- CPU: 両者ともに高性能コアとしてCortex-A78を2基、高効率コアとしてCortex-A55を6基搭載する構成は共通している。高性能コアの最大クロック周波数も同じ2.2GHzである。ただし、高効率コアの最大クロック周波数はDimensity 7020が2.0GHzであるのに対し、Snapdragon 695は1.8GHzとやや低い 3。この差が、GeekbenchマルチコアスコアにおいてDimensity 7020がSnapdragon 695を上回る傾向 4 に寄与している可能性がある。
- GPU: Snapdragon 695はAdreno 619 GPUを搭載する。理論演算性能(FLOPS)ではAdreno 619がDimensity 7020のIMG BXM-8-256を上回るとされ 3、一部のレビューではSnapdragon 695の方がグラフィックス性能で優れているとの評価もある 12。しかし、AnTuTu BenchmarkのGPUスコアではDimensity 7020が上回るケース 12 や、GFXBenchテストでDimensity 7020が良好な結果を示す 12 など、評価が一貫していない。Dimensity 7020はより新しいグラフィックスAPI(Vulkan 1.3, OpenCL 3.0)をサポートする 3 点も考慮に入れる必要がある。GPU性能の優劣は、特定のゲームやアプリケーションの最適化状況にも依存するため、一概に結論付けるのは難しい。
- メモリ/ストレージ: この点においてはDimensity 7020が明確なアドバンテージを持つ。Dimensity 7020は高速なLPDDR5 RAMとUFS 3.1ストレージをサポートするのに対し、Snapdragon 695はLPDDR4X RAMとUFS 2.2ストレージまでのサポートにとどまる 3。この差は、メモリ帯域幅(D7020: 最大51.2 Gbit/s vs SD695: 最大17 Gbit/s)やストレージアクセス速度に大きく影響し、AnTuTuの総合スコアでDimensity 7020がSnapdragon 695を上回る主な要因 4 となっている可能性が高い。
- その他: 製造プロセスは両者ともにTSMCの6nmプロセスである 3。ビデオ録画・再生能力には差があり、Dimensity 7020が最大2K@30fpsに対応するのに対し、Snapdragon 695は最大1K(1080p)@60fpsの対応となる 3。
- 総合評価: CPUのマルチコア性能と、メモリおよびストレージの対応規格においてはDimensity 7020が優位である。GPU性能については評価が分かれるものの、総合的なベンチマークスコア(特にAnTuTu)ではDimensity 7020がSnapdragon 695を上回る傾向が見られる 4。したがって、全体的なシステムパフォーマンスやマルチタスク性能を重視する場合はDimensity 7020が、特定のゲームにおけるAdreno GPUの最適化を期待する場合はSnapdragon 695が選択肢となりうるが、総合力ではDimensity 7020に分があると言える。
5.2. Snapdragon 4 Gen 2
Snapdragon 4 Gen 2は、エントリークラスからミドルレンジ下位をターゲットとする比較的新しいSoCであり、Dimensity 7020としばしば比較される。
- CPU: 驚くべきことに、Snapdragon 4 Gen 2はDimensity 7020とほぼ同一のCPUコア構成(2x Cortex-A78 @ 2.2GHz + 6x Cortex-A55 @ 2.0GHz)を採用している 16。そのため、Geekbenchのシングルコアおよびマルチコアスコアも非常に近い値を示しており 6、CPUの基本性能はほぼ互角と言える。
- GPU: Snapdragon 4 Gen 2はAdreno 613 GPUを搭載している。これは、前世代のSnapdragon 4 Gen 1に搭載されていたAdreno 619よりも性能が低いとされており 16、エントリーレベルの位置づけとなる。Dimensity 7020のIMG BXM-8-256と比較した場合、直接的な性能比較データは少ないものの、Adreno 613の性能は限定的である可能性が高く、GPU性能ではDimensity 7020が有利であると考えられる。
- プロセス: Snapdragon 4 Gen 2はSamsungの4nmプロセスで製造されており、Dimensity 7020の6nmプロセスよりも微細化されている 16。これは、理論上、Snapdragon 4 Gen 2の方が電力効率に優れている可能性を示唆する。
- メモリ/ストレージ: Snapdragon 4 Gen 2もLPDDR5およびLPDDR4x RAMをサポートする 16 とされているが、最大メモリ帯域幅は17 GB/sとDimensity 7020より低いとの比較情報 2 もある。ストレージについては、UFS 2.2までのサポート 2 との情報があり、この点ではUFS 3.1をサポートするDimensity 7020が有利である。
- その他: AnTuTu v10の総合スコアは、Dimensity 7020(約46万~51万点)とSnapdragon 4 Gen 2(約43万点 16 ~50万点 2)で、非常に近い範囲で報告されており、全体的な性能レベルが拮抗していることを示している。
- 総合評価: CPU性能はほぼ互角。GPU性能とストレージ対応規格ではDimensity 7020が有利な可能性が高い。一方で、Snapdragon 4 Gen 2はより微細な4nmプロセスによる電力効率の潜在的な利点を持つ。全体的なパフォーマンスは非常に近いレベルにあると見られ 6、どちらを選択するかは、GPU性能やストレージ速度を重視するか、あるいは電力効率を重視するかによって判断が分かれる可能性がある。
5.3. その他の競合
Dimensity 7020の周辺には、他にも比較対象となりうるSoCが存在する。
- Dimensity 7025: Dimensity 7020の高性能コア(Cortex-A78)のクロック周波数を2.2GHzから2.5GHzに引き上げたマイナーチェンジ版 5。性能向上は限定的であり、基本的な特性はDimensity 7020とほぼ同じである。
- Dimensity 7050 / Dimensity 1080: これらはDimensity 7020よりも上位に位置づけられるSoCである。Dimensity 7050はDimensity 1080のリネーム版とされ、AnTuTu v10スコアで55万点以上を記録する 19。CPUクロックが高く(最大2.6GHz)、GPUも異なる(Mali-G68 MC4)19。
- Dimensity 6080 / Dimensity 6020: これらはDimensity 7020よりも下位に位置づけられるSoCである。AnTuTu v10スコアで約43万点前後 20 となり、Dimensity 7020よりも性能は低い。
5.4. 競合製品との比較サマリー
Dimensity 7020と主要な競合製品であるSnapdragon 695 5G、Snapdragon 4 Gen 2の主な仕様とベンチマークスコアを比較した結果を以下に示す。
表3: Dimensity 7020 vs Snapdragon 695 5G vs Snapdragon 4 Gen 2 比較
項目 | MediaTek Dimensity 7020 | Qualcomm Snapdragon 695 5G | Qualcomm Snapdragon 4 Gen 2 | 比較ノート |
CPU (コア/クロック) | 2xA78@2.2GHz + 6xA55@2.0GHz | 2xA78@2.2GHz + 6xA55@1.8GHz | 2xA78@2.2GHz + 6xA55@2.0GHz | D7020/SD4Gen2のA55クロックが高い。CPU性能はD7020≒SD4Gen2 > SD695。 |
GPU (モデル) | IMG BXM-8-256 | Adreno 619 | Adreno 613 | SD695が潜在的に最も高性能か? SD4Gen2はエントリー。D7020は中位?評価分かれる。 |
製造プロセス | 6nm TSMC | 6nm TSMC | 4nm Samsung | SD4Gen2が最も微細。電力効率で有利な可能性。 |
メモリサポート | LPDDR5 / LPDDR4x (最大51.2 Gbit/s) | LPDDR4x (最大17 Gbit/s) | LPDDR5 / LPDDR4x (最大17 Gbit/s?) | D7020が帯域幅で明確に優位。 |
ストレージサポート | UFS 3.1 / UFS 2.2 | UFS 2.2 | UFS 2.2 | D7020が最速規格に対応。 |
AnTuTu v10 (総合) | ~460k – 510k | ~400k – 410k | ~430k – 500k | D7020 ≧ SD4Gen2 > SD695 の傾向。 |
(CPU) | ~150k – 152k | ~120k | ~160k (情報源による) | D7020/SD4Gen2 > SD695 |
(GPU) | ~81k | ~100k | ~140k (情報源による、SD4Gen2が高すぎる可能性あり) | SD695 > D7020 の傾向。SD4Gen2はデータに疑問。 |
(MEM) | ~114k – 147k | ~73k | ~90k (情報源による) | D7020 >> SD4Gen2 > SD695 |
(UX) | ~115k – 135k | ~109k | ~110k (情報源による) | D7020 > SD695 ≒ SD4Gen2 |
Geekbench 6 (Single) | ~880 – 920 | ~830 – 910 | ~920 | ほぼ同等レベル。 |
Geekbench 6 (Multi) | ~2250 – 2320 | ~2000 – 2130 | ~2120 – 2250 | D7020 ≧ SD4Gen2 > SD695 |
(注: ベンチマークスコアは情報源や測定デバイスにより変動するため、あくまで傾向を示す参考値です。)
6. 実使用感レビュー
ベンチマークスコアはSoCの潜在的な性能を示す有用な指標であるが、実際のユーザー体験を完全に反映するものではない。ここでは、国内外のレビューサイトやユーザーフォーラムから収集した、Dimensity 7020搭載スマートフォンに関する実使用感、特にゲーム性能、アプリケーション動作、発熱、バッテリー持続時間についての情報を集約する。
6.1. ゲーム性能
Dimensity 7020のゲーム性能に関する評価は、プレイするゲームの種類によって大きく異なる。
- 軽〜中程度の負荷のゲーム: 「Roblox」25 や「Jetpack Joyride」23 のような比較的負荷の軽いカジュアルゲーム、あるいは「PUBG Mobile」23、「Call of Duty: Mobile」、「メタルスラッグ」24 のように、多くのデバイス向けに最適化が進んでいるゲームについては、適切な画質設定(中〜高設定程度)であれば、多くの場合、快適にプレイできるとの評価が見られる 23。ミドルレンジSoCとして、一般的なゲーム体験には十分対応できるレベルと言える。
- 高負荷ゲーム: 一方で、「原神 (Genshin Impact)」のような、高いグラフィックス性能を要求する最新の3Dゲームにおいては、性能不足が指摘されることが多い 3。レビューによると、最低画質設定にしてもフレームレートが不安定になったり、動作がカクついたりする場合があるという。Dimensity 7020のクロックアップ版であるDimensity 7025搭載機でも、原神の高負荷時のフレームレートは低いと報告されており 24、GPU性能がボトルネックになっている可能性が高い 3。
- 競合比較と互換性: Snapdragon 695搭載機と比較した場合、ゲームによってはDimensity 7020の方が10-20%高速であるというユーザーレビュー 26 も存在するが、前述のGPU性能の懸念から、一概に優れているとは言えない。インドで人気の「BGMI (PUBG Mobile)」では、Snapdragon 695搭載機と同等の設定(HD-High)で動作したとの報告もある 12。ただし、特定のゲーム(例:「Wizardry Variants Daphne」)では、Dimensity 7020搭載機(Moto G54)でグラフィック表示に不具合(ビジュアルバグ)が発生し、プレイできなかったという事例も報告されている 26。これは、特定のゲームエンジンや描画処理との相性問題が存在する可能性を示唆している。
- 結論: Dimensity 7020は、日常的なゲームプレイや、負荷の低い、あるいは最適化されたゲームを楽しむには十分な性能を持っている。しかし、最新の高負荷3Dゲームを最高設定で、あるいは安定した高フレームレートでプレイしたいと考えるユーザーにとっては、力不足を感じる場面が多いだろう。ゲーム性能を最優先事項とする場合は、より上位クラスのSoC(例えばDimensity 8000シリーズやSnapdragon 7+ Genシリーズなど)を搭載したスマートフォンを検討することが推奨される 24。
6.2. アプリケーション動作
ゲーム以外の一般的なアプリケーションの動作については、Dimensity 7020は良好な評価を得ている。
- 一般用途: ウェブサイトの閲覧、SNS(Twitter, Facebook, Instagramなど)の利用、YouTubeなどの動画視聴、メッセージングアプリの操作といった、日常的に行うほとんどのタスクにおいて、非常に軽快でスムーズな動作を提供するとのレビューが多い 23。動作の引っかかりや遅延を感じることは少ないと考えられる。
- マルチタスク: 高速なLPDDR5 RAMをサポートしていること 3 は、複数のアプリケーションをバックグラウンドで起動したまま切り替えて使用するようなマルチタスク環境においても、比較的快適な動作に寄与すると期待される 27。メモリ帯域幅の広さが、アプリの再読み込み頻度の低減などに繋がる可能性がある。
- アプリ起動速度: MediaTekは、Dimensity 7020において、最適化によりアプリケーションの初回起動速度が最大18%高速化されると主張している 7。UFS 3.1ストレージのサポートも相まって、アプリの起動やデータの読み込みは、ミドルレンジとしては高速な部類に入ると考えられる。
6.3. 発熱とバッテリー
スマートフォンの快適性を左右する重要な要素である発熱とバッテリー持続時間についての評価は以下の通りである。
- 発熱: Dimensity 7020搭載機の発熱に関しては、ユーザーレビューで評価が分かれている。特にMoto G54について、ゲームプレイ中などに本体が熱くなる、あるいはオーバーヒートするという報告が見られる 26。これらの報告の中には、特定の地域向けモデル(例:インド版)で問題が発生している可能性を示唆するものもある。一方で、同じMoto G54を使用している他のユーザーからは、長時間のゲームプレイでもオーバーヒートは経験しておらず、全く問題ないという正反対のレビューも存在する 26。また、比較対象として、Snapdragon 695搭載機はゲーム中でも発熱しないという意見もある 26。
この発熱に関する評価の不一致は、4.3節で述べたように、SoC自体の特性だけでなく、搭載されるスマートフォンの筐体設計、内部の冷却機構(ヒートシンクやベイパーチャンバーの有無など)、ソフトウェアによる電力制御、さらには使用環境(気温など)や使い方(負荷の高さ、連続使用時間)といった要因が、実際の温度上昇に大きく影響することを示している。したがって、「Dimensity 7020は発熱しやすい/しにくい」と一概に断定することはできず、個々のスマートフォン製品ごとに熱管理性能を評価する必要がある。 - バッテリー: 電力効率に関しては、6nmプロセス技術の採用やMediaTek HyperEngine 5.0 Liteなどの省電力機能 5 により、良好なバッテリー持続時間が期待できる。実際に、PCMark for Androidのバッテリーライフテストでは、5000mAhのバッテリーを搭載したTecno Camon 30 5Gで11時間10分という結果が報告されている 1。これは、画面を点灯させた状態で連続して標準的なタスクを実行した場合の持続時間であり、ミドルレンジとしては良好な数値である。また、Moto G54(6000mAhバッテリーモデルも存在)のユーザーからは、1回の充電で8時間以上持続するという声も聞かれる 26。これらの情報から、Dimensity 7020搭載スマートフォンは、適切なバッテリー容量と組み合わせることで、標準的な使用状況において1日以上のバッテリー持続時間を実現できる可能性が高いと考えられる。
7. 搭載スマートフォン例
MediaTek Dimensity 7020は、主に2023年後半から2024年にかけて発売されたミドルレンジクラスのスマートフォンに採用されている。以下に、本レポートの調査でDimensity 7020の搭載が確認された代表的なモデルを挙げる。なお、一部の情報源 30 で挙げられていたモデル(例: Xiaomi Redmi Note 13 Pro, realme Narzo 60 Pro)は、一般的に他のSoCを搭載していると認識されており、情報の正確性に疑問があるため、以下のリストからは除外している。
表4: MediaTek Dimensity 7020 搭載スマートフォン例
ブランド | モデル名 | 主な仕様(RAM/ストレージ) | 情報源 |
Motorola | Moto G54 5G | 8GB/128GB, 12GB/256GB | 5 |
Motorola | Moto G Power 5G (2024) | 8GB/128GB | 18 |
Motorola | Moto G64y 5G | 8GB/128GB, 12GB/256GB | 18 |
Infinix | Note 40 Pro 5G | 8GB/256GB, 12GB/256GB | 4 |
Infinix | Note 40 5G | 8GB/256GB | 18 |
Tecno | Camon 30 5G | 8GB/256GB, 12GB/512GB | 1 |
Vivo | Y77t | 8GB/256GB, 12GB/256GB | 18 |
Vivo | Y78m | 12GB/256GB | 18 |
Oppo | F27 Pro 5G | 8GB/128GB, 8GB/256GB | 18 |
このリストは網羅的なものではないが、Dimensity 7020がターゲットとしている市場セグメント(主に価格帯が1万円台後半から3万円台程度のミドルレンジ)と、採用しているメーカーの傾向(Motorola, Infinix, Tecno, Vivo, Oppoなど)を理解する一助となるだろう。これらのモデルを選択する際には、SoCの性能だけでなく、カメラ性能、ディスプレイ品質、バッテリー容量、ソフトウェア、デザインなども含めて総合的に比較検討することが重要である。
8. 結論
本レポートにおけるMediaTek Dimensity 7020の技術仕様、ベンチマーク性能、競合比較、実使用感の分析結果を統合し、以下の結論を導き出す。
- 性能サマリー: MediaTek Dimensity 7020は、TSMCの6nmプロセスで製造され、LPDDR5 RAMやUFS 3.1ストレージといった比較的高速なメモリ・ストレージ規格をサポートするミドルレンジ向けの5G対応SoCである。CPU性能、特にマルチコア性能は、主要な競合製品であるSnapdragon 695 5Gを上回る場面が多く、日常的なアプリケーション操作やマルチタスク処理においては快適なパフォーマンスを提供する。
- 強み:
- 優れたメモリ・ストレージ性能: LPDDR5とUFS 3.1への対応は、同クラスの競合製品に対する明確なアドバンテージであり、システム全体の応答性向上に寄与する。
- 良好なCPUマルチコア性能: 複数のアプリケーションを同時に利用する際の快適性が期待できる。
- 最新の5G機能: デュアル5G SA SIMやVoNRといった比較的新しい5G関連機能をサポートしている。
- 弱み:
- 控えめなGPU性能: CPU性能と比較して、GPU(IMG BXM-8-256)の性能はやや見劣りし、特にグラフィックス負荷の高い最新の3Dゲームにおいては力不足となる可能性が高い。
- Wi-Fi 6非対応: 最新のWi-Fi規格に対応していない点は、将来的なネットワーク環境を考慮するとマイナス要素となりうる。
- 実装依存の安定性・発熱: 高負荷時のパフォーマンス維持能力や発熱は、搭載されるスマートフォンの冷却設計に大きく左右されるため、デバイスによって評価が分かれる。
- 市場ポジショニング: Dimensity 7020は、主に2万円〜3万円台の価格帯のスマートフォンに搭載され、Qualcomm Snapdragon 695 5GやSnapdragon 4 Gen 2と直接競合する。コストパフォーマンスを重視しつつ、ゲーム性能よりも日常的な操作の快適性やマルチタスク性能を求めるユーザーにとって、魅力的な選択肢となりうる。一方で、モバイルゲーム、特に高負荷なタイトルを快適にプレイしたいユーザーには、より上位のGPU性能を持つSoC(例: Dimensity 8000シリーズ、Snapdragon 7+ Genシリーズなど)を搭載した製品が推奨される。
- 将来性: Dimensity 930のリブランド製品であるため、アーキテクチャ自体に目新しさはないものの、LPDDR5やUFS 3.1といった比較的新しいインターフェース規格をサポートしている点は強みである。これにより、今後もしばらくの間は、ミドルレンジ市場において一定の競争力を維持し続けると考えられる。ただし、GPU性能の限界やWi-Fi 6非対応といった点は、将来的に陳腐化が早まる要因となる可能性もある。
総じて、MediaTek Dimensity 7020は、メモリ・ストレージ性能に強みを持つ、バランスの取れたミドルレンジSoCであると言える。ただし、その性能を最大限に活かせるかどうかは、用途と、搭載されるスマートフォンの全体的な設計(特に冷却性能)に依存する部分が大きい。
引用文献
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