MediaTek Dimensity 7300 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.22

MediaTek Dimensity 7300は、TSMCの先進的な4nmプロセスで製造された、超高効率を特徴とするミドルレンジのシステムオンチップ（SoC）として位置づけられています。本レポートでは、Dimensity 7300の技術仕様、各種ベンチマークテストにおけるパフォーマンス、競合製品との比較、そして実際のデバイスにおける使用感について詳細に分析します。Dimensity 7300は、特に電力効率と持続的なパフォーマンスにおいて優れた能力を発揮し、最新の接続規格にも対応しています。一方で、前世代のDimensity 7200や競合するQualcomm Snapdragon 7s Gen 2と比較した場合、ピークパフォーマンスやAI処理能力においてはトレードオフが存在します。Dimensity 7300およびその派生モデルであるDimensity 7300Xは、主流のスマートフォンから折りたたみ式デバイスまで、多様な製品群に採用されています。

技術仕様
ベンチマークパフォーマンス評価
比較分析
1. Dimensity 7300 vs. Dimensity 7200シリーズ
2. Dimensity 7300 vs. Qualcomm Snapdragon 競合製品 (主に7s Gen 2)
実環境でのパフォーマンスとデバイス実装
総合評価と市場ポジショニング

技術仕様

MediaTek Dimensity 7300シリーズは、2024年5月下旬から6月にかけて発表されたミドルレンジ向けSoCであり、パフォーマンスとクラス最高の電力効率の両立を目指して設計されています ¹。その効率性の鍵となるのが、フラッグシップグレードとされるTSMCの4nmプロセスノードの採用です ²。これにより、旧世代のDimensity 7050（より古いプロセスノードで製造）と比較して、高性能コア（Cortex-A78）の消費電力を最大25%削減したと報告されています ²。

コアアーキテクチャ: CPU、GPU、NPU

CPU: オクタコア構成を採用しており、最大2.5GHzで動作する4つのArm Cortex-A78パフォーマンスコアと、最大2.0GHzで動作する4つのArm Cortex-A55効率コアで構成されています ¹。命令セットアーキテクチャはARMv8.2-Aです ¹。
GPU: Arm Mali-G615 MC2（2コア）GPUを搭載しています ¹。これはValhall第4世代アーキテクチャに基づいています ¹。GPU周波数は1047 MHzと報告されています ¹。さらに、MediaTek HyperEngineゲーミングテクノロジーにより、ゲーム体験の最適化が図られています ⁵。
NPU (AI Processing Unit): MediaTek APU 655を搭載しています ⁵。これは前世代（Dimensity 7050/7200に搭載されていたAPU）と比較して2倍のパフォーマンス向上を実現したと主張されており ²、効率向上のために新しい混合精度データ型をサポートしています ²。なお、「Pro」バリアントのNPUは4.8 TOPSの性能を持つとされています ¹⁶。

Dimensity 7300において、前世代のDimensity 7200で採用されていた新しいArmv9コア（Cortex-A715/A510）ではなく、実績のあるCortex-A78/A55（ARMv8.2-A）コアを採用した点は、注目すべき設計上の判断です ¹。この選択の背景には、Dimensity 7300が「クラス最高の電力効率」を強く打ち出している点 ²、そしてTSMC 4nmプロセスの利点を最大限に活用しようとしている点 ² が挙げられます。Cortex-A78は成熟したコア設計であり、特にTSMC 4nmのような先進プロセスノードに移植された場合、パフォーマンスと電力のバランスに優れていることが知られています。実際に、Dimensity 7300のTDP（熱設計電力）は4Wであり、Dimensity 7200の5Wよりも低く抑えられています ¹⁰。これは、MediaTekがDimensity 7200で採用された新しいArmv9コアの潜在的なIPC（クロックあたりの命令実行数）向上よりも、TSMC 4nmノード上でCortex-A78の既知の効率特性を活用し、「超高効率」チップ ² を実現することを優先したことを示唆しています。

マルチメディア機能: ISPとディスプレイサポート

ISP: MediaTek Imagiq 950 ISPを搭載し、12ビットHDR-ISPを特徴としています ²。最大200MP（2億画素）のメインカメラをサポートします ¹。ハードウェアエンジンによるノイズリダクション（MCNR）、顔検出（HWFD）、ビデオHDR機能も強化されています ²。Dimensity 7050と比較して、ライブフォーカス写真性能が最大1.3倍、写真リマスタリングが最大1.5倍高速化されたと報告されています ²（または前世代Dimensity比 ⁵）。競合他社の代替プラットフォームと比較して50%以上広いダイナミックレンジを持つ4K HDRビデオキャプチャ能力も強調されています ²。ただし、ビデオキャプチャは4K@30FPSに制限されます ¹。
ディスプレイ: MediaTek MiraVision 955ディスプレイエンジンを搭載しています ⁵。WFHD+解像度で最大120Hz、またはFull HD+解像度で最大144Hzのリフレッシュレートをサポートします ¹。10ビットトゥルーカラー表示と、グローバルなHDR規格への対応も特徴です ²。

接続性とメモリ

接続性: Wi-Fi 6E（トライバンド）² および Bluetooth 5.4 ¹ をサポートします。MediaTek独自の機能として、Bluetooth接続を高速化するLightning Connect、Wi-FiとBluetoothデバイス（イヤホンやゲームパッドなど）の干渉を防ぎ、遅延やネットワーク速度への影響なくシームレスに連携させるハイブリッド共存技術、そしてデバイスの向きや折りたたみ状態に応じてアンテナ性能を最適化するUAC 2.0（特に折りたたみ式デバイスで有効）などが搭載されています ⁵。
5Gモデム: 3GPP Release-16準拠の5Gモデムを統合しています ⁵。3CCキャリアアグリゲーション（140MHz帯域幅）により、最大3.27Gbpsのダウンリンク速度をサポートします ²。MediaTek 5G UltraSave 3.0+技術により、一般的な5G Sub-6GHz接続シナリオにおいて、競合他社の代替プラットフォームと比較して13～30%優れた電力効率を実現します ²。デュアル5G SIMとデュアルVoNR（Voice over New Radio）にも対応し、高品質な音声・ビデオ通話が可能です ²。
メモリとストレージ: LPDDR5およびLPDDR4x RAMをサポートします ¹。最大RAM周波数は3200 MHz（LPDDR5）です ¹。ストレージはUFS 3.1およびUFS 2.2規格に対応しています ¹。

Dimensity 7300 バリアント (7300X, Energy, Ultra, Pro, Ultimate)

MediaTekはDimensity 7300とDimensity 7300Xを同時に発表しました ²。

Dimensity 7300X: フリップスタイルの折りたたみ式デバイス向けに特別に設計されており、デュアルディスプレイをサポートする点が最大の特徴です ²。その他のコア仕様は、標準のDimensity 7300と共通です ⁷。
その他のバリアント (Energy, Ultra, Ultimate, Pro): これらの名称は、特定のデバイスのマーケティング資料などで確認されています ⁴。「Ultimate」は、コア仕様に変更のないマーケティング上の名称であることが確認されています ²²。「Energy」と「Ultra」も、入手可能な情報からは、標準モデルとの間に顕著な仕様差は見られません ⁴。「Pro」のみが、わずかなパフォーマンス向上（CPU +10%, GPU +5%）と特定のNPU性能（4.8 TOPS）を主張しているバリアントです ¹⁶。

Dimensity 7300シリーズにおける複数のバリアント名（X, Energy, Ultra, Ultimate, Pro）の存在は、実際のハードウェア上の大きな違い（7300Xのデュアルディスプレイ対応と7300 Proのわずかな性能向上主張を除く）が公に文書化されていないことから、マーケティング戦略の一環である可能性が高いと考えられます。複数の名称が存在する一方で ²、公式仕様は主に7300と7300Xに焦点を当てています ²。7300Xの違いはデュアルディスプレイ対応であり ²、7300 Ultimateはマーケティング上の名称と明言されています ²²。7300 Proはわずかな性能向上を主張していますが ¹⁶、EnergyやUltraに関する明確な仕様差の情報は不足しています。これらのことから、MediaTekがOEM（相手先ブランド製造）に対し、ブランディングや市場セグメンテーションのために異なる接尾辞の使用を許可している可能性が示唆されます。多くの場合、これは大幅なシリコンレベルの変更を伴わない、 perceived tier（認識される階層）を作り出すための戦略と考えられます。

表1: Dimensity 7300 主要技術仕様

特徴	仕様
プロセス	TSMC 4nm
CPU	4x Arm Cortex-A78 @ 2.5GHz + 4x Arm Cortex-A55 @ 2.0GHz
GPU	Arm Mali-G615 MC2 @ 1047MHz
NPU	MediaTek APU 655
ISP	MediaTek Imagiq 950, 200MPサポート, 4K@30FPS HDRビデオ
ディスプレイ	MediaTek MiraVision 955, WFHD+@120Hz / FHD+@144Hz
メモリ	LPDDR5 / LPDDR4x (最大3200MHz)
ストレージ	UFS 3.1 / UFS 2.2
Wi-Fi	Wi-Fi 6E (トライバンド)
Bluetooth	5.4
5G モデム	Release-16準拠, 最大3.27Gbps ダウンリンク, 3CC CA, UltraSave 3.0+
引用元	¹

表2: Dimensity 7300 バリアント機能概要

バリアント	主な差別化要因	搭載デバイス例 (一部)
7300	ベースモデル	Oppo Reno 12, Motorola Edge 50 Neo, Xiaomi Poco X7, ThinkPhone 25, DOOGEE V40 Pro/S200 Plus, Vivo V40e/iQOO Z10x/Z9s, Tecno Camon 40 Pro, Infinix Note 50s
7300X	デュアルディスプレイ対応 (折りたたみ式向け) ²	(該当デバイスの情報は限定的)
7300 Pro	CPU +10%, GPU +5% (主張) ¹⁶	CMF Phone 2 Pro ²¹
7300 Energy	ブランディング/OEM固有の可能性が高い	realme 14 Pro ⁴
7300 Ultra	ブランディング/OEM固有の可能性が高い	Xiaomi Redmi Note 14 Pro ²⁰
7300 Ultimate	マーケティング上の名称 ²²	Infinix Note 50x ²²
引用元	¹

ベンチマークパフォーマンス評価

ベンチマークスコアはSoCの性能を測る上で重要な指標ですが、実際のデバイスにおけるパフォーマンスは、冷却設計、搭載メモリの種類や容量、ソフトウェアの最適化など、様々な要因によって変動する点に留意が必要です。

合成ベンチマーク概要

Dimensity 7300の代表的なベンチマークスコアの範囲を以下の表にまとめます。スコアはテスト環境やデバイスによって変動するため、あくまで目安として捉えるべきです。

表3: Dimensity 7300 ベンチマークスコア概要 (代表的な範囲)

ベンチマーク	スコア範囲
AnTuTu v10 (総合)	約 640,000 – 740,000
AnTuTu v10 (CPU)	約 180,000 – 220,000
AnTuTu v10 (GPU)	約 140,000 – 150,000
AnTuTu v10 (MEM)	約 140,000 – 200,000
AnTuTu v10 (UX)	約 160,000 – 170,000
Geekbench 6 (シングルコア)	約 1,010 – 1,060
Geekbench 6 (マルチコア)	約 2,800 – 3,050
Geekbench 6 (Compute – GPU)	約 2,500 – 2,600
3DMark Wild Life (スコア)	約 3,100 – 3,150
3DMark Wild Life (安定性)	約 99%
引用元	¹

AnTuTuスコアが約63.7万点 ¹⁵ から約73.9万点 ⁸ までと、報告されているスコアに幅があることは、SoCのベンチマークが特定のデバイス実装に大きく依存することを示しています。Nanoreviewのデータ ¹ でも、同じDimensity 7300を搭載する複数のデバイスでスコアが異なることが示されています。これは、RAMの量や速度（LPDDR4x vs LPDDR5）、ストレージ速度（UFS 2.2 vs 3.1）、熱設計、ソフトウェアチューニングなどがデバイスごとに異なるためです。したがって、ベンチマークスコアはSoC単体の性能だけでなく、システム全体のパフォーマンスを反映していると解釈すべきです。そのため、ベンチマーク結果を示す際には範囲を示し、可能であればテストデバイスを特定することが、単一のスコアを決定的なものとして提示するよりも適切です。

CPUパフォーマンス: Geekbench分析 (シングル & マルチコア)

Geekbench 6のスコアを見ると、シングルコア性能は通常1015点から1058点の範囲に収まります ¹。マルチコア性能は、通常2830点から3025点の範囲です ¹。

これらのスコアを比較すると、シングルコア性能はDimensity 7200よりも低く ¹⁰、Snapdragon 7s Gen 2と同等レベルです ¹¹。一方、マルチコア性能はDimensity 7200よりも高く ¹⁰、Snapdragon 7s Gen 2と同等レベルです ¹¹。PassMark CPU Markスコア（Ultraバリアント）は約6118点と報告されており、他のモバイルCPUとの相対的な位置づけも示されています ¹⁹。

GPUパフォーマンス: 3DMarkとゲーミングポテンシャル (Mali-G615 MC2)

3DMarkのテスト結果では、GPUの持続性能の高さが際立っています。CMF Phone 1を用いたWild Life Stress Testでは、99.1%という非常に高い安定性を示しました ¹⁵。このテストでの最高ループスコアは約3137点です ¹⁵。Sling Shot Extreme (ES 3.1) Unlimited Physicsの平均スコアは5464点ですが、デバイスによって変動が見られます ⁶。

GPU性能を比較すると、ピークスコアはDimensity 7200のGPU（Mali-G610 MP4、Wild Lifeスコア約4166点 ¹⁸、4000点超 ¹⁵）よりも低いことが分かります。AnTuTuのGPUスコア比較でも、Dimensity 7200（約18.3万点）に対してDimensity 7300（約14.3万～14.8万点）は低く ¹⁰、Snapdragon 7s Gen 2（約11.7万点）に対しては高い結果となっています ¹¹。

これらの結果から、Dimensity 7300に搭載されたMali-G615 MC2は、ピーク性能こそ前世代に劣るものの、極めて高い安定性を実現していることがわかります ¹⁵。これは、最高のフレームレートを瞬間的に達成することよりも、熱的に管理された一貫性のあるGPUパフォーマンスを優先するという設計思想を反映していると考えられます。これはチップ全体の効率重視の方針とも一致しており、超高画質設定を追求するよりも、適切な設定で安定した長時間のゲームプレイに適していることを示唆しています。

システムパフォーマンス: AnTuTu内訳とPCMark

AnTuTu v10の総合スコアは、デバイスによって約64万点から74万点の範囲で変動します。スコアの内訳例としては、総合約67.5万点の場合、CPU 20.3万点、GPU 14.3万点、MEM 15.9万点、UX 16.9万点 ¹、総合約73.9万点の場合、CPU 22.0万点、GPU 14.8万点、MEM 20.2万点、UX 16.7万点 ⁸ などがあります。特にMEM（メモリ）スコアが高い傾向が見られ、これはUFS 3.1ストレージのサポートによる影響が大きいと考えられます ¹。

PCMarkのスコアも、日常的なタスクにおける応答性やバッテリー持続時間の指標となります。例えば、CMF Phone 1では、PCMark Work 3.0 Performanceスコアが15104点、Battery Lifeスコアが10時間37分と報告されており ⁸、一般的な生産性タスクにおける良好な応答性と、負荷がかかった状態での堅実なバッテリー持続時間を示唆しています。

AIパフォーマンス: NPU能力 (APU 655)

AI性能を測るAITuTuベンチマークスコアは、約9.9万点と報告されています ¹¹。MediaTekは、前世代と比較して2倍の性能向上を主張していますが ²、競合するSnapdragon 7s Gen 2（AITuTuスコア約34.6万点 ¹¹）と比較すると、その差は歴然としています。

この大きな性能差は、この価格帯におけるMediaTekとQualcommのAI処理に対する優先順位やアーキテクチャ能力の違いを示唆しています。Dimensity 7300は他の多くの点で優れていますが、デバイス上で強力なAI機能を必要とするユーザーにとっては、Snapdragon搭載の代替製品の方が魅力的に映る可能性があります。

比較分析

Dimensity 7300 vs. Dimensity 7200シリーズ

Dimensity 7300と前世代のDimensity 7200を比較すると、いくつかの重要な違いが見られます。プロセスノードは同じTSMC 4nmですが、CPUアーキテクチャが異なります（7300: Cortex-A78/A55 vs 7200: Cortex-A715/A510）。GPUも異なり（7300: Mali-G615 MC2 vs 7200: Mali-G610 MP4）、TDPも7300の方が低い（4W vs 5W）です ¹⁰。

パフォーマンス面では、Dimensity 7200がシングルコア性能とピークGPU性能で優位に立つ一方、Dimensity 7300はマルチコア性能と電力効率（低TDP）で勝っています ¹⁰。

この比較から、Dimensity 7300は、Dimensity 7200が採用した新しいコアによるピーク性能追求から、実績のあるTSMC 4nmノード上で効率とマルチコア処理能力を最適化する方向へと戦略的にシフトしたことがうかがえます。Dimensity 7300は、より多くの高性能コア（4つのCortex-A78）を持つことでマルチスレッド性能を高め、同時に低TDPと成熟したコア設計によって電力効率を優先しています。これは、Dimensity 7200の新しいアーキテクチャが提供する絶対的なシングルスレッド速度やピークGPUパワーとは異なるアプローチです。

表4: Dimensity 7300 vs. Dimensity 7200 主な違い

特徴	Dimensity 7300	Dimensity 7200	差分分析
プロセス	TSMC 4nm	TSMC 4nm	同じ
CPUアーキテクチャ/コア/クロック	ARMv8.2-A / 4xA78@2.5GHz + 4xA55@2.0GHz	ARMv9-A / 2xA715@2.8GHz + 6xA510@2.0GHz	7300は旧世代コアだが高性能コア数が多い。7200は新世代コアで高クロック。
GPUモデル/周波数/パイプライン	Mali-G615 MC2 / 1047MHz / 2	Mali-G610 MP4 / 1130MHz / 4	7200の方が高周波数・多パイプラインでピーク性能が高い。
TDP	4W	5W	7300の方が低消費電力。
AnTuTu v10 (総合)	約 675K	約 718K	7200が約6%高い。
Geekbench 6 (シングル)	約 1058	約 1187	7200が約12%高い。
Geekbench 6 (マルチ)	約 3025	約 2643	7300が約14%高い。
Geekbench 6 (Compute)	約 2606	約 3549	7200が約36%高い。
引用元	¹⁰

Dimensity 7300 vs. Qualcomm Snapdragon 競合製品 (主に7s Gen 2)

Dimensity 7300の主要な競合製品であるQualcomm Snapdragon 7s Gen 2との比較は、特に興味深い洞察をもたらします。Beebom ¹¹ および Nanoreview ²⁸ のテストデータに基づくと、以下の点が挙げられます。

プロセスノードの影響: Dimensity 7300はTSMCの4nmプロセス、Snapdragon 7s Gen 2はSamsungの4nmプロセスで製造されています ¹¹。
パフォーマンス: GeekbenchのCPUスコアは両者ほぼ同等ですが、AnTuTuの総合スコアではDimensity 7300が上回ります（特にGPU/MEM/UXで優位）。ただし、AnTuTuのCPUスコアではSnapdragon 7s Gen 2がわずかに高い結果を示しています ¹¹。
持続性能: Dimensity 7300は、CPUスロットリングテスト（94% vs 72%）およびGPU安定性テスト（99.1% vs 89.7% ¹¹ または 98% ²⁸）において、Snapdragon 7s Gen 2を大幅に上回る結果を示しています ¹¹。
AI性能: AI処理能力に関しては、Snapdragon 7s Gen 2がAITuTuスコアで約34.6万点を記録し、Dimensity 7300（約9.9万点）を圧倒しています ¹¹。
接続性: 直接比較テストでは、Dimensity 7300の方が高速な5G通信速度を記録しました ¹¹。理論上の最大ダウンリンク速度もDimensity 7300の方が高く（3.27Gbps vs 2.9Gbps ¹¹）、Bluetoothも新しいバージョン（5.4 vs 5.2 ¹¹）をサポートしています。

Dimensity 7300がSnapdragon 7s Gen 2に対して示した、特にCPUスロットリングとGPU安定性における優位性は、製造プロセスノードの違いに起因する可能性が高いと考えられます。両チップは類似したCPUコアタイプを採用していますが ¹¹、TSMC 4nmプロセスで製造されたDimensity 7300は、Samsung 4nmプロセスで製造されたSnapdragon 7s Gen 2よりもはるかに優れた持続性能を示しています ¹¹。Beebomの記事 ¹¹ では、Snapdragon 7s Gen 2のスロットリング問題がSamsungのノードに起因する可能性が明確に指摘されています。このことから、このクラスのチップにおいては、製造プロセスが実際の持続性能に大きな影響を与える重要な差別化要因であり、この比較においてはDimensity 7300に有利に働いていると結論付けられます。

表5: Dimensity 7300 vs. Snapdragon 7s Gen 2 比較

特徴	Dimensity 7300	Snapdragon 7s Gen 2	分析/勝者
プロセスノード	TSMC 4nm (N4P)	Samsung 4nm (4LPE)	D7300 (持続性能で優位)
CPUアーキテクチャ/クロック	4xA78@2.5GHz + 4xA55@2.0GHz	4xA78@2.4GHz + 4xA55@1.96GHz	ほぼ同等
GPUモデル	Arm Mali-G615 MC2	Adreno 710	D7300 (AnTuTu GPUスコア、安定性で優位)
AnTuTu v10 (総合)	約 637K	約 584K	D7300
AnTuTu v10 (CPU)	約 184K	約 200K	SD7s G2
AnTuTu v10 (GPU)	約 146K	約 117K	D7300
Geekbench 6 (シングル)	約 1018	約 1032	ほぼ同等
Geekbench 6 (マルチ)	約 2920	約 2978	ほぼ同等
CPU スロットリング (%)	94%	72%	D7300
GPU 安定性 (%)	99.1%	89.7% / 98%	D7300
AITuTu スコア	約 99K	約 346K	SD7s G2 (圧倒的)
5G速度テスト (Beebom)	DL: 339Mbps / UL: 3.09Mbps	DL: 260Mbps / UL: 1.76Mbps	D7300
5G 最大DL速度 (理論値)	3.27 Gbps	2.9 Gbps	D7300
Bluetooth	5.4	5.2	D7300
引用元	¹¹

Snapdragon 7 Gen 3 ¹、Snapdragon 7s Gen 3 ¹、Snapdragon 6 Gen 4 ¹ といった他の競合製品との比較情報も存在しますが ¹、これらは一般的にDimensity 7300よりもわずかに高性能であるか、より新しいアーキテクチャを採用していると予想されます。

実環境でのパフォーマンスとデバイス実装

ゲーム体験とエミュレーション

実際のゲームプレイにおける評価を見ると、Dimensity 7300は安定したパフォーマンスを提供します。CMF Phone 1を用いたBGMI（Battlegrounds Mobile India）のテストでは、HDRグラフィック/Ultraフレームレート設定でスムーズに動作し、平均約37 FPSを維持、発熱も軽微であったと報告されています ⁸。これは、ベンチマークテストで見られた高い安定性 ¹⁵ や効率重視の設計思想と一致します。Garumaxの評価 ⁹ でも、画質を多少調整すれば、ほとんどのゲームは快適にプレイ可能であるとされています。

一方で、Dimensity 7300 Pro搭載機でBGMIが120fpsで動作するという主張 ¹⁶ については、Proバリアントの性能向上が比較的小幅であること ¹⁶、そしてBGMIで安定した120fpsを達成すること自体の難しさ ³⁵ を考慮すると、懐疑的な見方が必要です。特定の条件下でのみ達成可能か、あるいはマーケティング的な誇張が含まれている可能性があります。

エミュレーション性能に関しては、Redditでの議論 ³⁶ によると、PlayStation 2やWii程度までのエミュレーションは可能であるものの、Nintendo SwitchやWindowsエミュレーションでは苦戦が予想されます。特にMali GPUは、一部のエミュレータや互換レイヤー（例: WinlatorのDirectX 9制限）で性能を発揮しにくいという制約も指摘されています ³⁶。

これらの実環境でのテスト結果は、Dimensity 7300がピークFPSの記録更新を目指すのではなく、適切な設定でスムーズかつ熱的に安定したゲーム体験を提供することに重点を置いていることを裏付けています。これはベンチマークでの安定性の高さ ¹⁵ や効率重視の設計と一致します。Proバリアントの120fpsという主張 ¹⁶ は、非常に限定的な条件下でのみ可能か、マーケティング的な側面が強いと考えられます。

パフォーマンスの一貫性とスロットリング

Dimensity 7300は、持続的なパフォーマンスにおいて優れた特性を示します。前述の通り、CPUスロットリングテストでは最大性能の94%を維持し ¹¹、GPU安定性テストでは99.1%という高いスコアを記録しています ¹⁵。

この強力な持続性能は、主にTSMC 4nmプロセスの効率性と、成熟したCortex-A78コアの組み合わせによるものと考えられます。これは、競合製品との比較で示されたTSMCノードの優位性とも一致しています。

Dimensity 7300搭載デバイス

Dimensity 7300シリーズは、様々なメーカーのスマートフォンに採用されています。以下に主な搭載デバイス（確認済みまたは噂を含む）を挙げます。

表6: Dimensity 7300シリーズ搭載デバイス例

メーカー	モデル名	Dimensity バリアント	主な特徴/タイプ
Nothing (CMF)	CMF Phone 1	7300	主流
Nothing (CMF)	CMF Phone 2 Pro	7300 Pro	主流 (Proモデル)
Oppo	Reno 12 / 12 Pro	7300	主流
Motorola	Edge 50 Neo	7300	主流
Motorola	ThinkPhone 25	7300	ビジネス/高耐久性
Xiaomi	Poco X7	7300	主流
Xiaomi	Redmi Note 14 Pro	7300 Ultra	主流
realme	realme 14 Pro	7300 Energy	主流
DOOGEE	V40 Pro / S200 Plus	7300	高耐久性 (Rugged)
Vivo	V40e / iQOO Z10x / iQOO Z9s	7300	主流
Tecno	Camon 40 Pro	7300	主流
Infinix	Note 50s	7300	主流
Infinix	Note 50x	7300 Ultimate	主流
引用元	¹

Xiaomi、Oppo、Vivo、Motorola、CMF、Infinix、Realme、Doogeeなど、幅広いメーカー ¹ がDimensity 7300を採用していることは、競争の激しいミドルレンジ市場における本チップの魅力を示しています。特に、DOOGEEのような高耐久性（Rugged）スマートフォン ²³ に採用されている点は注目に値します。高耐久性スマートフォンはバッテリー寿命と信頼性が重視される分野であり、Dimensity 7300の優れた電力効率 ² と実証された安定性 ¹¹ は、これらの要求によく合致しています。このことから、Dimensity 7300は主流のミドルレンジ市場のニーズに応えるだけでなく、効率性と持続性能が特に重視されるニッチな市場セグメントにも適していることがわかります。

総合評価と市場ポジショニング

パフォーマンスサマリー (強みと弱み)

強み: 優れた電力効率 ²、クラス最高の持続性能と安定性 ¹¹、良好なマルチコアCPU性能 ¹⁰、最新の機能（ISP、ディスプレイ、接続性）¹、TSMC 4nmプロセスの利点 ¹¹。
弱み: Dimensity 7200と比較してピーク時のシングルコア/GPU性能が低い ¹⁰、Snapdragon競合製品と比較してAI性能が大幅に劣る ¹¹、旧世代のCPUコアを採用している ¹⁰。

電力効率分析

電力効率はDimensity 7300の設計における中核的な目標であり、その達成度は顕著です。4nmプロセス、Dimensity 7200よりも低いTDP ¹⁰、5G UltraSave 3.0+技術 ²、そして競合製品との比較 ² などが、その効率性の高さを裏付けています。これは、良好なバッテリー寿命（例: PCMarkバッテリーテスト ⁸）や安定した熱管理 ⁸ に貢献します。

市場セグメントと結論

Dimensity 7300は、ミドルレンジ市場において確固たる地位を築いています。特に、バッテリー寿命、スムーズなマルチタスク、そしてピークパワーや最先端のAI機能よりも一貫したパフォーマンスを重視するユーザーにとって、魅力的なバランスを提供します。

結論として、Dimensity 7300は、製造プロセスの利点（TSMC 4nm）と成熟したコア設計（Cortex-A78）を活用し、卓越した効率性と信頼性を実現するために戦略的に設計されたチップです。これにより、特に持続性能が重要視される場面において、Snapdragon 7s Gen 2のような競合製品に対して強力な対抗馬となります。また、Dimensity 7300Xバリアントは、このクラスにおける成長市場である折りたたみ式デバイスのニーズにも効果的に対応しています。

Dimensity 7300の開発は、計算されたトレードオフに基づいた戦略の表れと言えます。TSMCの4nmノードと実績のあるCortex-A78コアを用いて効率性と持続性能を最優先する一方で、前世代と比較したピークシングルコア/GPU性能や、Qualcommと比較したAI性能でのリードは譲っています。この強みと弱みの組み合わせは偶然ではなく、ベンチマークでのトップスコアよりもバッテリー寿命や日常使用でのスムーズさを重視する、ミドルレンジユーザーの最大セグメントをターゲットとした設計思想を反映していると考えられます。