MediaTek Dimensity 800 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.21

1. はじめに

MediaTek Dimensity 800は、2020年初頭に発表されたミッドレンジスマートフォン向けの5G対応システムオンチップ（SoC）です ¹。Dimensityシリーズの中核を担う製品として、当時のフラッグシップSoCであるDimensity 1000シリーズに次ぐ性能と機能を、より手頃な価格帯のデバイスに提供することを目的として開発されました。本レポートでは、MediaTek Dimensity 800の技術仕様、主要ベンチマークテストにおける性能スコア、実機レビューに基づく使用感、および競合プロセッサとの比較分析を通じて、その総合的なパフォーマンスを詳細に評価します。調査対象は、日本語および英語の技術情報サイト、レビューサイト、ベンチマークデータベースとします。

2. MediaTek Dimensity 800 技術仕様

Dimensity 800（モデルナンバー: MT6873）は、台湾のファブレス半導体メーカーMediaTekによって設計され、TSMCの7nmプロセス技術を用いて製造されています ¹。このプロセスノードの採用は、当時のミッドレンジSoCとしては先進的であり、性能と電力効率の両立に貢献しています ²。

2.1. CPU

CPUは、8コア構成（オクタコア）を採用しています。具体的には、パフォーマンス重視のARM Cortex-A76コアを4基と、電力効率重視のARM Cortex-A55コアを4基搭載するbig.LITTLE構成です ¹。すべてのコアが最大2.0 GHzで動作します ¹。4つの高性能コア（Cortex-A76）を搭載している点は、同世代の競合製品（例：Snapdragon 765Gは高性能コアを2基搭載）と比較して、特にマルチスレッド性能において有利となる設計思想が見られます ²。命令セットアーキテクチャ（ISA）はARMv8.2-Aに対応しています ¹。

2.2. GPU

グラフィックス処理ユニット（GPU）には、ARM Mali-G57 MP4（4コア構成）を採用しています ¹。Mali-G57は、ARMのValhallアーキテクチャに基づくGPUであり、Dimensity 1000シリーズに搭載されたMali-G77と同じ世代のアーキテクチャです ²。GPU周波数は最大748 MHzと報告されていますが ³、発表当初は未公開でした ¹。MediaTek独自のゲーミング最適化技術「HyperEngine 2.0」にも対応しており、ネットワーク遅延の最適化、タッチ応答性の向上、画質改善などを通じて、ゲーム体験の向上を図っています ⁵。

2.3. メモリとストレージ

メモリは、最大16GBのLPDDR4Xに対応し、メモリクロックは最大2133 MHz（LPDDR4X-4266相当）です ¹。デュアルチャンネル（2x 16-bit）構成で、最大メモリ帯域幅は17.07 GB/sです ¹。これは、フラッグシップのDimensity 1000シリーズ（4チャンネル）と比較すると半分の帯域幅となります ²。ストレージはUFS 2.1またはUFS 2.2に対応しています ³。

2.4. AI処理ユニット (APU)

AI処理を担当するニューラルプロセッシングユニット（NPU）として、MediaTek APU 3.0を搭載しています ¹。このAPUは4つのコアで構成され、最大2.4 TOPS（Tera Operations Per Second）のAI演算性能を発揮します ²。これは、AIを活用したカメラ機能（AI-PQによる画質向上、AIノイズリダクション、AIオートフォーカスなど）や、その他のAIアプリケーションの高速化に寄与します ¹。

2.5. 接続性

Dimensity 800の大きな特徴は、5GモデムをSoCに統合している点です 2。これにより、ディスクリートモデム構成と比較して、消費電力の削減が期待できます 6。対応する5GネットワークはSub-6GHz帯で、ミリ波（mmWave）には対応していません 2。スタンドアロン（SA）およびノンスタンドアロン（NSA）の両方のネットワークアーキテクチャをサポートします 1。

5G通信では、2CC（2 Component Carrier）キャリアアグリゲーションに対応し、単一キャリアの場合と比較してより広いカバレッジと高い平均スループット（最大30%向上）を実現します 5。最大ダウンロード速度は2.77 Gbps、最大アップロード速度は1.25 Gbpsとされています 3。VoNR（Voice over New Radio）にも対応し、5Gネットワーク上での高品質な音声・ビデオ通話が可能です 5。

Wi-FiはWi-Fi 5（802.11 a/b/g/n/ac）に対応し 5、Bluetoothはバージョン5.1に対応します 1。測位システムはGPS、GLONASS、BeiDou、Galileo、QZSSをサポートします 3。

2.6. マルチメディア

ディスプレイは、最大解像度2520 x 1080ピクセル（Full HD+）で、最大120Hzのリフレッシュレートに対応します 5。これにより、滑らかな画面表示やゲーム体験が可能になります。MediaTek MiraVision技術により、HDR10+コンテンツの再生や、SDRコンテンツをHDR品質にアップコンバートする機能（HDR Composer）もサポートします 5。

カメラISP（Image Signal Processor）は、最大64MPのシングルカメラ、または32MP+16MPのデュアルカメラ構成に対応します 1。4K解像度（3840 x 2160）でのビデオ撮影が可能ですが、フレームレートは30fpsまでとなります 2。ビデオデコードは4K/60fps（H.264/H.265/VP9）に対応しますが、エンコードは4K/30fps（H.264/H.265）までとなります 2。

表1: MediaTek Dimensity 800 主な仕様

カテゴリ	仕様	出典
製造プロセス	TSMC 7nm	¹
CPU	4x ARM Cortex-A76 @ 2.0 GHz + 4x ARM Cortex-A55 @ 2.0 GHz (Octa-core)	¹
GPU	ARM Mali-G57 MP4 (@ 748 MHz reported)	¹
AI (APU)	MediaTek APU 3.0 (4 cores, 2.4 TOPS)	¹
メモリ	LPDDR4X-4266 (最大16GB, 2ch, 17.07 GB/s)	¹
ストレージ	UFS 2.1 / UFS 2.2	³
5Gモデム	統合型 (Sub-6GHz, SA/NSA, 2CC CA, DL: 2.77Gbps, UL: 1.25Gbps)	³
Wi-Fi	Wi-Fi 5 (802.11ac)	⁵
Bluetooth	5.1	¹
ディスプレイ	最大 2520×1080, 120Hz	⁵
カメラISP	最大 64MP (シングル), 32MP+16MP (デュアル)	¹
ビデオ	エンコード: 4K@30fps (H.264/H.265), デコード: 4K@60fps (H.264/H.265/VP9)	²
発表時期	2020年1月	¹

3. ベンチマーク性能

Dimensity 800の性能を客観的に評価するため、主要なスマートフォンベンチマークテスト（AnTuTu Benchmark, Geekbench, 3DMark）のスコアを収集・分析します。スコアはテストバージョンや測定デバイスによって変動するため、複数の情報源から得られた値を参考にします。

3.1. AnTuTu Benchmark

AnTuTu Benchmarkは、CPU、GPU、メモリ、UX（ユーザーエクスペリエンス）の性能を総合的に測定するベンチマークアプリです ¹⁰。

AnTuTu Benchmark v10:

nanoreview.netによると、Dimensity 800搭載デバイス（Oppo A92s 5G）の総合スコアは約481,286点と報告されています ³。
内訳は、CPU: 165,670点、GPU: 96,534点、MEM: 101,588点、UX: 117,494点です ³。
AnTuTu Benchmark v9:
GSM Arenaのレビューによると、Oppo Reno4 Z 5G（Dimensity 800搭載）のスコアは約430,765点です ¹²。v10と比較して低いスコアですが、バージョン間のスコアリングの違いを考慮する必要があります。
AnTuTu Benchmark v8:

Huawei Enjoy Z 5G（Dimensity 800搭載、RAM 6GB）のスコアは316,328点と報告されています ¹³。
Oppo Reno4 Z 5G（Dimensity 800搭載）のスコアは362,450点と報告されています ¹²。

これらのスコアから、Dimensity 800は当時のミッドレンジSoCとして十分な総合性能を持っていることがわかります。特にAnTuTu v10のスコアは約48万点であり、後継のDimensity 800U（約43万点）¹⁴ やDimensity 6100+（非公開だが比較対象として下位）¹⁵ よりも高いスコアを示しています。一方で、Dimensity 1000L（約70万点）¹⁶ やDimensity 1100（約75万点）¹⁷ といった上位モデルとは明確な性能差があります。

3.2. Geekbench

Geekbenchは、CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定するベンチマークアプリです ¹¹。

Geekbench 6:
nanoreview.netによると、Dimensity 800のスコアはシングルコア638点、マルチコア2,255点です ³。
Geekbench 5:

Oppo Reno4 Z 5Gの実機レビュー（YugaTech）では、シングルコア517点、マルチコア2,156点と報告されています ¹⁹。
notebookcheck.netのデータベースでは、Oppo Reno4 Z 5Gでシングルコア523点、マルチコア2,143点という記録があります ²⁰。

Geekbenchのスコアを見ると、Dimensity 800のマルチコア性能は、4つの高性能コア（Cortex-A76）を搭載していることから、同世代のミッドレンジSoCと比較して優位性があることが示唆されます ²²。例えば、Snapdragon 765G（2つの高性能コア）のGeekbench 6マルチコアスコアは約1844点であり、Dimensity 800の約2255点を下回っています ²²。ただし、シングルコア性能では、クロック周波数が2.0GHzに抑えられているため、より高いクロックを持つ競合（例：Snapdragon 765Gのプライムコアは最大2.4GHz）に劣る場合があります ²²。

3.3. 3DMark

3DMarkは、主にGPUのグラフィックス性能を測定するベンチマークアプリです ¹¹。特に「Wild Life」や「Sling Shot」といったテストがモバイルデバイスでよく用いられます。

Wild Life (Vulkan):
Blackview BL6000 Pro（Dimensity 800搭載）のスコアは1,680点と報告されています ²⁴。
Wild Life Extreme (Vulkan):
Blackview BL6000 Proのスコアは501点です ²⁴。
Sling Shot Extreme (OpenGL ES 3.1):
Oppo Reno4 Z 5Gのスコアは3,273点 ¹⁹、Blackview BL6000 Proのスコアは3,378点 ²⁴ と報告されています。notebookcheck.netのデータベースでは、最小3626点、最大4427点という記録もあります ¹⁵。
Sling Shot Extreme (Vulkan):
Oppo Reno4 Z 5Gのスコアは3,155点 ¹⁹、Blackview BL6000 Proのスコアは3,137点 ²⁴ と報告されています。
Sling Shot (OpenGL ES 3.0):
Blackview BL6000 Proのスコアは4,691点です ²⁴。notebookcheck.netのデータベースでは、最小3593点、最大4455点という記録もあります ¹⁵。

Mali-G57 MP4 GPUを搭載するDimensity 800のグラフィックス性能は、ミッドレンジとしては標準的です。Snapdragon 765GのAdreno 620と比較すると、テストによって優劣が変わる可能性がありますが、概ね同等か、やや下回る傾向が見られます ²²。例えば、3DMark Sling Shot Extreme (OpenGL) のスコアでは、Dimensity 800がSnapdragon 765Gを上回る結果 ²⁶ もありますが、Wild Lifeのような新しいテストでは、Snapdragon 765Gの方が高いスコアを示す場合があります（直接比較データは限定的）。

3.4. AI Benchmark (参考)

AI性能を示す指標として、nanoreview.netではDimensity 800のAPU 3.0の理論性能を2.4 TOPSとしています ³。これはDimensity 800Uと同等 ¹⁴ ですが、Dimensity 1000シリーズ（4.5 TOPS）²⁷ やSnapdragon 780G（5.4 TOPS）²⁸、Snapdragon 765G（非公開だが比較対象）²² と比較すると、当時のミッドレンジとしては標準的な性能と言えます。実際のAI Benchmarkアプリでのスコアは確認できませんでしたが、APU 3.0の搭載により、AI関連タスクの処理能力は確保されていると考えられます ²⁹。

4. 実機レビューにおける評価

ベンチマークスコアは理論上の性能を示すものですが、実際の使用感はデバイスの最適化やソフトウェア、発熱管理など多くの要因に影響されます。ここでは、Dimensity 800搭載スマートフォンの実機レビューから、実際の使用感に関する評価を収集します。

4.1. 日常操作・マルチタスク性能

Dimensity 800を搭載したOppo Reno4 Z 5Gなどのレビューでは、日常的な操作（Webブラウジング、SNS、アプリ切り替えなど）はスムーズであると評価されています ¹⁹。8GB程度のRAMと組み合わせることで、複数のアプリを同時に起動しても動作が遅くなることは少ないようです ¹⁹。120Hzリフレッシュレート対応ディスプレイとの組み合わせにより、画面遷移やスクロールが非常に滑らかに感じられるという利点も指摘されています ¹⁹。

4.2. ゲーム性能

ゲーム性能に関しては、ミッドレンジSoCとしての期待に応えるレベルと評価されています。Oppo Reno4 Z 5Gのレビューでは、「Call of Duty: Mobile」や「Asphalt 9」といったグラフィックス負荷の高いゲームも、最高設定でなければ比較的快適にプレイできると報告されています 19。ただし、最高設定ではわずかなカクつきが見られる場合があるとも述べられています 19。

Dimensity 800U（Dimensity 800の派生モデル）を搭載したRealme X7のレビュー動画では、ゲームプレイは一貫して良好であり、Snapdragonの同クラスチップセットに匹敵するか、それを上回る場面もあると評価されています 32。MediaTekのHyperEngine 2.0技術も、ゲーム中のネットワーク接続安定化やタッチ応答性向上に寄与していると考えられます 5。

4.3. 発熱とバッテリー消費

7nmプロセスで製造されているため、電力効率は比較的良好と期待されます 6。Oppo Reno4 Z 5Gのバッテリーテスト（PCMark Work 2.0）では11時間19分 19、Blackview BL6000 Proでは13時間18分 24 という結果が報告されており、実使用においても十分なバッテリー持続時間が見込めます。

ただし、高負荷なゲームを長時間プレイした場合などには、本体が温かくなるという報告もあります 19。Dimensity 800U搭載機のレビューでも、高負荷時には発熱が見られるものの、極端な温度上昇や深刻なサーマルスロットリング（熱による性能低下）は抑制されている傾向が示唆されています 32。一般的な使用範囲であれば、発熱が大きな問題になることは少ないと考えられますが、長時間の高負荷利用では注意が必要かもしれません 34。

5. 競合プロセッサとの比較 (vs. Snapdragon 765G)

Dimensity 800の主な競合製品として、Qualcomm Snapdragon 7シリーズ、特にSnapdragon 765Gが挙げられます。両者は同時期に発表され、ミッドレンジ5Gスマートフォン市場で競合しました。

5.1. CPU性能比較

アーキテクチャ: Dimensity 800は高性能コアCortex-A76を4基搭載するのに対し、Snapdragon 765GはCortex-A76ベースのKryo 475 Primeコア1基（最大2.4GHz）とKryo 475 Goldコア1基（最大2.2GHz）の計2基を搭載しています ²²。低消費電力コアはいずれもCortex-A55ベースです。
マルチコア性能: 高性能コア数の違いから、マルチコア処理においてはDimensity 800がSnapdragon 765Gを上回る傾向があります。Geekbench 6のマルチコアスコア比較では、Dimensity 800（2255点）がSnapdragon 765G（1844点）を約22%上回っています ²²。
シングルコア性能: 一方、シングルコア性能では、Snapdragon 765GのPrimeコアの最大クロック周波数（2.4GHz）がDimensity 800の最大クロック周波数（2.0GHz）よりも高いため、Snapdragon 765Gが有利になる場合があります。Geekbench 6のシングルコアスコア比較では、Snapdragon 765G（797点）がDimensity 800（638点）を約25%上回っています ²²。
AnTuTu 10: 総合スコアでは、Dimensity 800（約48万点）がSnapdragon 765G（約42万点）を上回る結果が報告されています ²²。これは、CPUのマルチコア性能やメモリ性能などが影響している可能性があります。

5.2. GPU性能比較

Dimensity 800はMali-G57 MP4、Snapdragon 765GはAdreno 620を搭載しています。3DMarkなどのベンチマークスコアでは、テストによって優劣が入れ替わることがあり、一概にどちらが優れているとは言えません ²²。AnTuTu 10のGPUスコア比較では、Snapdragon 765G（約9.9万点）がDimensity 800（約9.7万点）をわずかに上回っていますが、その差は小さいです ²²。実ゲームでのパフォーマンスは、ソフトウェアの最適化度合いにも左右されるため、ベンチマークスコアだけで判断するのは難しい側面があります ³⁶。

5.3. 接続性比較

両者とも5Gモデムを統合していますが、Dimensity 800はSub-6GHzのみ対応に対し、Snapdragon 765GはSub-6GHzとミリ波（mmWave）の両方に対応するバージョンが存在します（ただし、ミリ波対応は主に北米市場向け）²。最大通信速度は、公称値ではSnapdragon 765G（DL: 3.7Gbps）の方がDimensity 800（DL: 2.77Gbps）よりも高速です ²²。Wi-Fi規格は、Dimensity 800がWi-Fi 5対応であるのに対し、Snapdragon 765GはWi-Fi 6に対応しています ²²。BluetoothバージョンはDimensity 800が5.1、Snapdragon 765Gが5.0です ²²。

5.4. 製造プロセスと消費電力

Dimensity 800はTSMCの7nmプロセス、Snapdragon 765GはSamsungの7nm EUVプロセスで製造されています ¹。どちらも当時としては先進的なプロセスですが、製造メーカーやプロセスの詳細な違いが、実際の消費電力や発熱特性に影響を与える可能性があります。Dimensity 800のTDP（Sustained Power Limit）は8Wと報告されているのに対し、Snapdragon 765Gは5Wとされています ³。TDPの定義はメーカーによって異なるため単純比較は難しいですが、Snapdragon 765Gの方が持続的な電力消費の上限が低く設定されている可能性があります。実機レビューでは、Dimensity 800U搭載機がSnapdragon 765G搭載機よりも若干発熱しやすい傾向が指摘されている例もあります ³⁷。

5.5. その他の機能

Dimensity 800は最大120Hzのリフレッシュレートに対応しますが、Snapdragon 765Gも同様に120Hzに対応可能です ⁵。カメラISPの最大対応解像度は、Dimensity 800が64MPであるのに対し、Snapdragon 765Gは192MPまで対応しており、より高画素なセンサーをサポートできます ¹。

表2: MediaTek Dimensity 800 vs. Qualcomm Snapdragon 765G 主要比較

項目	MediaTek Dimensity 800	Qualcomm Snapdragon 765G	備考・出典
製造プロセス	TSMC 7nm	Samsung 7nm EUV	¹
CPU (高性能コア)	4x Cortex-A76 @ 2.0GHz	1x Kryo 475 Prime (A76) @ 2.4GHz + 1x Kryo 475 Gold (A76) @ 2.2GHz	¹ Dimensityがマルチコア有利、SDMがシングルコア有利傾向
GPU	Mali-G57 MP4	Adreno 620	¹ 性能はテストにより優劣変動
AnTuTu 10 (参考)	~481K	~423K	²² Dimensity優位
Geekbench 6 (SC)	~638	~797	²² Snapdragon優位
Geekbench 6 (MC)	~2255	~1844	²² Dimensity優位
5G対応	Sub-6GHz (SA/NSA)	Sub-6GHz / mmWave (SA/NSA)	² SDMはミリ波対応版あり
Wi-Fi	Wi-Fi 5	Wi-Fi 6	²²
最大リフレッシュレート	120Hz	120Hz	⁵
最大カメラ解像度	64MP	192MP	¹
TDP (参考)	8W	5W	³

6. 結論

MediaTek Dimensity 800は、2020年のミッドレンジ5Gスマートフォン市場において、非常に競争力のある選択肢でした。TSMCの7nmプロセスを採用し、4つの高性能Cortex-A76コアを含むオクタコアCPU構成により、特にマルチタスク性能において同クラスの競合製品（Snapdragon 765Gなど）に対して優位性を示しました。統合された5Gモデム（Sub-6GHz対応）は、当時のトレンドであった5G通信を手頃な価格帯のデバイスにもたらす上で重要な役割を果たしました。

GPU性能（Mali-G57 MP4）やシングルコア性能は、競合と比較して突出しているわけではありませんが、HyperEngine 2.0などの最適化技術と組み合わせることで、多くのゲームや日常的なタスクを快適にこなせるレベルを実現しています。120Hzの高リフレッシュレートディスプレイに対応している点も、ユーザー体験の向上に貢献しました。

実機レビューからは、一般的な使用においてはスムーズな動作と良好なバッテリー持続時間が評価されている一方で、長時間の高負荷時には発熱が見られる可能性も指摘されています。

総合的に見て、Dimensity 800は、性能、機能、価格のバランスが取れたミッドレンジSoCであり、MediaTekが5G市場での存在感を高める上で重要な製品であったと言えます。Snapdragon 765Gと比較した場合、マルチコア性能やAnTuTuスコアで優位に立つ場面がある一方、シングルコア性能、Wi-Fi 6対応、ミリ波対応（一部市場）といった点ではSnapdragon 765Gに譲る部分もありました。ユーザーの重視するポイントによって、どちらのSoCが適しているかは異なると考えられます。Dimensity 800の登場は、ミッドレンジスマートフォン市場における選択肢を広げ、性能競争を促進する上で大きな意義を持ちました。