MediaTek Dimensity 8050 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.23

MediaTek Dimensity 8050は、台湾のファブレス半導体メーカーであるMediaTekが2023年5月に発表した、スマートフォン向けシステムオンチップ（SoC）です ¹。本レポートでは、このDimensity 8050の公式仕様、主要ベンチマークツールにおけるパフォーマンススコア、競合製品との比較、そして総合的な性能評価について、日本語および英語のWebサイト情報を基に詳細な調査結果を報告します。本チップは、性能と価格のバランスが重視されるアッパーミドルレンジのスマートフォン市場をターゲットとしています ³。

MediaTek Dimensity 8050 公式仕様
Dimensity 8050 ベンチマークスコア
競合プロセッサとの性能比較
性能分析と評価
結論

MediaTek Dimensity 8050 公式仕様

Dimensity 8050の技術仕様は、現代のスマートフォンに求められる多くの機能を網羅しています。以下にその主要なスペックをまとめます。

表1: MediaTek Dimensity 8050 主要仕様

カテゴリ	仕様	出典例
発表日	2023年5月	¹
製造プロセス	TSMC N6 (6nm)	²
CPU	オクタコア (8コア)	⁴
	– 1x Arm Cortex-A78 @ 最大 3.0 GHz	³
	– 3x Arm Cortex-A78 @ 最大 2.6 GHz	³
	– 4x Arm Cortex-A55 @ 最大 2.0 GHz	³
	64-bit, ARMv8.2-A 命令セット	¹
GPU	Arm Mali-G77 MC9 (9コア), Valhall 第1世代アーキテクチャ, 最大 886 MHz	¹
AI (APU)	MediaTek APU 570	³
メモリ	LPDDR4x, 最大 4266 Mbps, 最大 16 GB	⁴
ストレージ	UFS 3.1	⁴
カメラISP	最大 200MP シングルカメラ, 32MP + 16MP デュアルカメラ	¹
	4K/60fps ビデオ撮影, 4K HDR (3-Exposure Fusion), AIカメラ機能	⁴
ディスプレイ	最大 2520 x 1080 解像度, 最大 168 Hz リフレッシュレート	²
	MediaTek MiraVision (HDR10+ 再生, AI SDR-to-HDR)	⁴
接続性 (5G)	内蔵 5G モデム (Sub-6 GHz, SA/NSA), 2CC CA (200MHz), Dual 5G SIM	³
	最大ダウンロード速度 4.7 Gbps, 最大アップロード速度 2.5 Gbps	⁴
接続性 (その他)	Wi-Fi 6 (802.11ax), Bluetooth 5.2	³
	GPS L1CA+L5, BeiDou B1I+B2a, Glonass, Galileo, QZSS, NavIC	⁴
その他機能	MediaTek HyperEngine (ゲーミング技術), AV1 ハードウェアデコーディング, MediaTek 5G UltraSave 2.0	⁴

特筆すべき点として、CPUは高性能なCortex-A78コアを4基搭載し、そのうち1基は最大3.0GHzで動作する「Super Core」として構成されています ³。これにより、シングルスレッド性能の向上が期待されます。GPUには9コアのMali-G77を採用し、高いグラフィックス性能を提供します ⁴。また、最大200MPのカメラセンサーや168Hzの高リフレッシュレートディスプレイに対応するなど、マルチメディア性能も強化されています ²。接続性においては、最新規格のRelease-16に対応した5Gモデムを内蔵し、高速かつ省電力な通信を実現します ⁴。

しかしながら、複数の技術情報サイトで指摘されているように、Dimensity 8050の仕様は、先行するDimensity 1300やDimensity 1200とほぼ同一です ²。この点は後の性能比較や評価において重要な要素となります。

Dimensity 8050 ベンチマークスコア

スマートフォンの総合的な性能を測る上で、ベンチマークスコアは重要な指標となります。ここでは、主要なベンチマークツールであるAnTuTu Benchmark、Geekbench、3DMarkにおけるDimensity 8050のスコアを収集しました。

AnTuTu Benchmark (v10)

AnTuTu Benchmarkは、CPU、GPU、メモリ、UX（ユーザーエクスペリエンス）の各性能を測定し、総合スコアを算出するツールです。バージョン10におけるDimensity 8050の平均的なスコアは以下の通りです (出典: nanoreview.net ¹)。

総合スコア: 約 763,240
CPU: 約 211,310
GPU: 約 217,151
Memory: 約 150,810
UX: 約 183,969

このスコアは、アッパーミドルレンジのSoCとしては良好な値です。実際にDimensity 8050を搭載するスマートフォン（例: Infinix Note 30 VIP, Tecno Camon 20 Premier）でも、76万点台のスコアが報告されています ¹。

Geekbench

Geekbenchは、CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定するベンチマークツールです。

Geekbench 6 (出典: NotebookCheck.net ³)

シングルコア: 平均 1036 (最小 958, 最大 1114)
マルチコア: 平均 3173 (最小 2926, 最大 3420)
Geekbench 5 (出典: NotebookCheck.net ⁶)

シングルコア: 平均 868 (最小 864, 最大 871)
マルチコア: 平均 2852 (最小 2779, 最大 2925)

Geekbench 6のスコアを見ると、シングルコア性能は約1000点、マルチコア性能は約3200点前後となり、これもミドルレンジ上位の性能を示しています。

3DMark

3DMarkは、主にGPUのグラフィックス性能を測定するベンチマークツールです。特に「Wild Life」テストは、最新のモバイルゲームに近い負荷を想定しています。

3DMark Wild Life (出典: nanoreview.net ¹)

スコア: 約 4531
平均フレームレート (FPS): 約 27 FPS
安定性 (Stability): 約 96%

このスコアは、ミドルレンジSoCとしては健闘していますが、ハイエンドSoCと比較すると差が見られます。安定性が96%と高い点は、長時間のゲームプレイにおいても性能低下が少ないことを示唆しています ¹。

競合プロセッサとの性能比較

Dimensity 8050の性能をより深く理解するために、いくつかの競合製品とのベンチマークスコアを比較します。

表2: Dimensity 8050と競合SoCのベンチマークスコア比較 (代表値)

SoC	プロセス	CPU構成 (代表例)	AnTuTu 10 (総合)	Geekbench 6 (Single)	Geekbench 6 (Multi)	3DMark Wild Life	出典例
Dimensity 8050	6nm	1xA78@3.0 + 3xA78@2.6 + 4xA55@2.0	~763K	~1036	~3173	~4531	¹
Dimensity 1300	6nm	1xA78@3.0 + 3xA78@2.6 + 4xA55@2.0	~753K	–	–	~4594	¹⁰
Dimensity 8020	6nm	4xA78@2.6 + 4xA55@2.0	~742K	–	~3617	~4464	³
Snapdragon 7s Gen 2	4nm	(不明)	–	~1011	~2800	–	³ (GB6 Multi only)
Snapdragon 7 Gen 1	4nm	1xA710@2.4 + 3xA710@2.36 + 4xA510@1.8	–	~958	~2954	–	³ (GB6 Multi only)
Snapdragon 870	7nm	1xA77@3.2 + 3xA77@2.42 + 4xA55@1.8	~820K	~1100	~3357	~4800	³
Google Tensor (G1)	5nm	2xX1@2.8 + 2xA76@2.25 + 4xA55@1.8	~908K	~1050	~2800	~6194	¹³
Snapdragon 888	5nm	1xX1@2.84 + 3xA78@2.42 + 4xA55@1.8	~810K (v9?)	–	~3595	~7200 (v unclear)	³

Dimensity 1300/1200との関係: 上記の表および複数の情報源 ² が示す通り、Dimensity 8050はDimensity 1300および1200とCPU/GPU構成、クロック周波数、製造プロセスに至るまでほぼ同一の仕様を持っています。ベンチマークスコアもAnTuTu 10、Geekbench、3DMarkのいずれにおいても誤差の範囲内であり、実質的にリブランド（名称変更）製品であると結論付けられます ¹⁰。わずかな違いとして、サポートされるHyperEngineのバージョンが更新されている可能性 ⁷ やAPUの世代が異なる可能性 ¹⁰ が指摘されていますが、実性能への大きな影響は見られません。このリブランドは、MediaTekが6nmプロセスの余剰在庫を整理する目的や、製品ラインナップの命名規則を整理する意図がある可能性が考えられます ⁷。
Dimensity 8020との比較: Dimensity 8020も6nmプロセスでCortex-A78/A55コアを使用しますが、CPU構成が異なります（8050: 1×3.0GHz + 3×2.6GHz, 8020: 4×2.6GHz）¹¹。ベンチマークスコアは非常に近く、Dimensity 8050がわずかにAnTuTuと3DMarkで上回るものの、Geekbenchマルチコアでは8020が若干高いスコアを示すなど、実使用感での差は小さいと考えられます ³。
Snapdragon 7シリーズとの比較: Snapdragon 7s Gen 2や7 Gen 1と比較すると、Dimensity 8050は特にGeekbenchマルチコアスコアで優位性を示しています ³。アッパーミドルレンジ内での競争において、CPU性能では有利なポジションにあります。
Snapdragon 870との比較: Snapdragon 870はDimensity 8050より古い7nmプロセス、CPUコアも一世代前のCortex-A77ベースですが、最適化が進んでいることやプライムコアのクロックが高いことから、AnTuTu総合スコアやGeekbenchスコアではDimensity 8050をわずかに上回る結果となっています ³。非常に近い性能帯にある競合製品と言えます。
Google Tensor (Gen 1) / Snapdragon 888との比較: これらは発表時期が古いものの、元々フラッグシップ向けSoCであり、より高度な5nmプロセスや高性能なCPUコア（Cortex-X1）、強力なGPU（Mali-G78 MP20 / Adreno 660）を搭載しています。そのため、AnTuTu、Geekbenchマルチコア、特に3DMarkのグラフィックス性能においてはDimensity 8050を大きく上回ります ¹³。

性能分析と評価

収集した仕様とベンチマークデータに基づき、Dimensity 8050の性能特性を分析・評価します。

CPU性能

Dimensity 8050のCPUは、1+3+4構成のクラスタを採用し、シングルスレッド性能とマルチスレッド性能、電力効率のバランスを図っています ³。Geekbench 6のシングルコアスコア（平均約1036点）は、3.0GHzで動作するCortex-A78 Super Coreの恩恵を受け、Snapdragon 7シリーズ上位を上回り、Snapdragon 870に迫るレベルです ³。これにより、アプリの起動やWebブラウジングなど、日常的な操作は非常に快適に行えるでしょう。

マルチコアスコア（平均約3173点）もミドルレンジ上位に位置し、Snapdragon 7s Gen 2や7 Gen 1よりも高い性能を示します ³。しかし、4つの高性能コアを持つSnapdragon 870や、より強力なコア構成を持つTensor G1、Snapdragon 888などと比較すると見劣りします ³。複数のアプリを同時に使用するマルチタスクや、動画編集のようなCPU負荷の高い処理では、これらの上位SoCとの性能差が現れる可能性があります。

GPU性能（ゲーミング性能）

GPUにはArm Mali-G77 MC9が搭載されています ¹。これはDimensity 1200/1300世代ではハイエンドに位置づけられたGPUであり、ミドルレンジとしては依然として強力なグラフィックス性能を提供します。3DMark Wild Lifeのスコア（約4531点）は、多くの最新モバイルゲームを中〜高設定で快適にプレイできるレベルを示唆しています ¹。

ただし、Snapdragon 870 (Adreno 650) や、特にGoogle Tensor G1 (Mali-G78 MP20)、Snapdragon 888 (Adreno 660) と比較すると、グラフィックス性能には明確な差があります ¹²。最高画質設定や非常に要求の高いゲームにおいては、フレームレートの低下や設定の妥協が必要になる場面も考えられます。

一方で、最大168Hzの高リフレッシュレートディスプレイに対応している点 ² や、MediaTek HyperEngineによるゲーム最適化技術 ⁵ は、ゲーム体験の向上に寄与します。特に、対応するゲームにおいては、より滑らかな表示や低遅延でのプレイが期待できます。

AI性能

Dimensity 8050はMediaTek APU 570を搭載しており ³、カメラ機能（AIによる背景ぼかし、ノイズリダクション、被写体認識など）やディスプレイ表示（AIによるSDRからHDRへの変換）など、様々な場面でAI処理を活用しています ⁴。具体的なAI処理能力を示すTOPS値は公開されていませんが、Dimensity 1300に搭載されていたAPU 3.0（4.5 TOPSと推定 ¹⁰）から更新されている可能性があります。しかし、ベンチマーク比較からはDimensity 1300との顕著な性能差は見られず、AI性能が大幅に向上したとは考えにくい状況です ¹⁰。

電力効率

TSMCの6nmプロセスは、7nmプロセスと比較して電力効率が改善されており、成熟した技術でもあります ³。これに加えて、MediaTek独自の省電力技術「5G UltraSave 2.0」 ⁴ が搭載されているため、5G通信時を含め、良好なバッテリー持続時間が期待できます。ただし、プロセスルール自体では、Google TensorやSnapdragon 888などが採用する5nmプロセスの方が一般的に有利です ¹³。

リブランディングの影響

前述の通り、Dimensity 8050はDimensity 1200/1300のリブランド製品です。これは、既にDimensity 1200/1300搭載スマートフォン（例: OnePlus Nord 2T, Realme GT Neoなど ¹⁹）を使用しているユーザーにとっては、Dimensity 8050搭載機への乗り換えによる性能向上はほとんど期待できないことを意味します ²。

しかし、Dimensity 1200/1300は発表当時、ハイエンドに近い性能を持つSoCでした。そのため、Dimensity 8050も現在の基準で見れば、アッパーミドルレンジとして十分な性能と機能を提供します ⁷。問題は、新しい型番が付与されたことで、旧世代チップからの大幅な性能向上を期待してしまう可能性がある点です。また、Dimensity “8000”番台でありながら、Dimensity 8000 (5nmプロセス採用) より古い6nmプロセスを採用している点は、命名規則の観点から混乱を招く可能性があります ⁷。

結論

MediaTek Dimensity 8050は、TSMCの6nmプロセスで製造されるアッパーミドルレンジ向けのSoCです。詳細な仕様とベンチマークスコアの分析から、以下の結論が導き出されます。

実質的なリブランド製品: Dimensity 8050は、CPU、GPU、製造プロセスなど主要な仕様において、先行するDimensity 1200およびDimensity 1300とほぼ同一であり、実質的なリブランド製品と評価できます ²。
バランスの取れたCPU性能: 3.0GHzで動作するCortex-A78 Super Coreを含む1+3+4構成により、シングルスレッド性能は高く、全体的なCPU性能はSnapdragon 7シリーズ上位やSnapdragon 870に匹敵するレベルにあります ³。日常的な使用や多くのアプリケーションにおいて快適な動作を提供します。
良好なGPU性能: Mali-G77 MC9 GPUは、ミドルレンジとしては優れたグラフィックス性能を持ち、多くのモバイルゲームを快適にプレイ可能です ¹。ただし、最新のハイエンドSoCと比較すると性能差は存在します。
充実した機能: 最大200MPカメラサポート、4K HDRビデオ撮影、最大168Hzのリフレッシュレート、UFS 3.1ストレージ、Wi-Fi 6、Dual 5G対応など、現代のスマートフォンに求められる機能は一通りサポートしています ¹。AV1デコーディング対応もストリーミング再生において利点となります ⁴。
アッパーミドルレンジにおける位置づけ: Dimensity 1200/1300からの性能的な進化は限定的ですが、元々がハイエンド寄りの性能であったため、Dimensity 8050は現在のアッパーミドルレンジ市場において、依然としてコストパフォーマンスに優れた選択肢となり得ます。ただし、製品選択時には、これが最新設計のチップではなく、既存チップのリブランドであることを認識しておく必要があります。

総じて、Dimensity 8050は、最新技術ではないものの、実績のあるアーキテクチャをベースに、高いCPU性能と十分なGPU性能、豊富な機能をバランス良く提供するSoCと言えます。アッパーミドルクラスのスマートフォンにおいて、安定したパフォーマンスと幅広い機能を手頃な価格で実現するための有力な選択肢の一つです。