MediaTek Dimensity 8350 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.23

MediaTek Dimensity 8350は、2024年後半に発表されたモバイル向けSystem-on-a-Chip (SoC)であり、成功を収めたDimensity 8300の後継として位置づけられています ¹。主にプレミアムミドルレンジのスマートフォン市場をターゲットとしており、Oppo Reno 13シリーズやOppo Pad 3タブレットで初めて搭載されました ¹。本レポートでは、公開されている情報、ベンチマークデータ、および実機レビューに基づき、Dimensity 8350の公式仕様、性能特性、前世代および競合製品との比較、そして実際の使用感におけるパフォーマンスの影響について詳細な分析を行います。

公式仕様
主要ベンチマークスコア
その他のベンチマーク
性能比較
実使用感とゲーミング性能
性能プロファイルの評価と一貫性
結論

公式仕様

Dimensity 8350は、前世代のDimensity 8300と多くの仕様を共有していますが、特にゲーミング技術においてアップデートが見られます。

CPU:

アーキテクチャ: Armv9-A ⁴
コア構成: オクタコア (8コア)

1 x Arm Cortex-A715 @ 最大 3.35GHz
3 x Arm Cortex-A715 @ 最大 3.2GHz
4 x Arm Cortex-A510 @ 最大 2.2GHz ⁵
L3キャッシュ: 4MB ⁴

GPU:

タイプ: Arm Mali-G615 MC6 ⁴
周波数: 1400 MHz ⁵
アーキテクチャ: Valhall 第4世代 ⁵

製造プロセス:

TSMC 4nm (第2世代) ³

メモリ & ストレージ:

RAM: クアッドチャネル LPDDR5X、最大 8533Mbps ¹。最大容量 24GB ⁵。
ストレージ: UFS 4.0 + Multi-Circular Queue (MCQ) ¹

AI (NPU):

MediaTek APU 780 (NPU 780) ¹
性能向上 (MediaTek主張、対前世代): Transformerベース生成AI 8倍高速化、整数/浮動小数点演算 2倍高速化、最大100億パラメータのLLMサポート、AI Benchmark v5で3.3倍のAI性能 ⁴。

カメラ (ISP):

MediaTek Imagiq 980 (14-bit HDR-ISP) ²
最大センサー解像度: シングル 320MP、トリプル 32MP+32MP+32MP ¹
ビデオ撮影: 最大 4K@60fps (HDR、EIS対応) ¹。デュアルカメラ同時4K HDRビデオ撮影対応 ⁴。

ディスプレイ:

最大リフレッシュレート: FHD+ @ 180Hz, WQHD+ @ 120Hz ¹
技術: MediaTek MiraVision 880、AI Region PQ (AIセグメンテーションによる画質最適化)、HDR10+ Adaptive対応 ⁴。

接続性:

5G: Sub-6GHz (最大3CC-CA、下り最大5.17Gbps)、MediaTek 5G UltraSave 3.0+による省電力化 ⁴
Wi-Fi: Wi-Fi 6E (802.11ax)、2T2Rアンテナ ¹
Bluetooth: 5.4 ⁴
GNSS: GPS (L1CA+L5+L1C), BeiDou (B1I+B2a+B1C), Glonass (L1OF), Galileo (E1+E5a), QZSS (L1CA+L5), NavIC ⁴

ゲーミング技術:

MediaTek HyperEngine Adaptive Gaming Technology (Dimensity 8300のHyperEngineから更新、一部資料ではStarSpeed Engineとも呼ばれる) ¹
性能向上 (MediaTek主張、比較対象不明記の場合あり): MAGT対応ゲームで最大10%の消費電力削減、タッチレイテンシ5%向上、ゲームシーン切り替え24%高速化、フルフレームレート時の消費電力24%削減、低ジッターによる安定したフレームレート ²。

仕様概要表:

カテゴリ	仕様	出典例
CPU	1x A715@3.35GHz + 3x A715@3.2GHz + 4x A510@2.2GHz, Armv9-A, 4MB L3	⁵
GPU	Arm Mali-G615 MC6 @ 1400MHz, Valhall 4th gen	⁴
プロセス	TSMC 4nm (第2世代)	³
メモリ	Quad-channel LPDDR5X @ 8533Mbps, Max 24GB	⁴
ストレージ	UFS 4.0 + MCQ	⁴
NPU	MediaTek APU 780	²
ISP	MediaTek Imagiq 980 (14-bit HDR), Max 320MP, 4K@60fps HDR Video	²
ディスプレイ	FHD+@180Hz / WQHD+@120Hz, MiraVision 880, HDR10+ Adaptive	¹
5G	Sub-6GHz (3CC-CA), Peak 5.17Gbps DL, UltraSave 3.0+	⁴
Wi-Fi / BT	Wi-Fi 6E (2T2R) / Bluetooth 5.4	¹
ゲーミング	HyperEngine Adaptive Gaming Technology (StarSpeed Engine)	³

主要ベンチマークスコア

Dimensity 8350のベンチマークスコアは、測定ソースやテスト対象デバイスによって顕著なばらつきが見られます。

AnTuTu Benchmark (v10):

報告されている総合スコアは、約114万点から約148万点と幅広いです 5。

91mobiles (Oppo Reno 13 Pro実機テスト): 1,146,605 (CPU: 224k, GPU: 490k, MEM: 230k, UX: 201k) ⁶。このスコアは他の報告と比較して著しく低く、テスト時のデバイスの状態（温度、ファームウェア等）が影響した可能性があります。
NanoReview (複数テスト平均): 1,431,343 (CPU: 335k, GPU: 551k, MEM: 249k, UX: 294k) ⁵。
MySmartPrice (リーク情報, Oppo Reno 13 Pro): 1,402,459 (CPU: 308k, GPU: 530k, MEM: 310k, UX: 252k) ¹³。
Oppo公式発表 (Reno 13): 148.7万点 ¹²。
AnTuTu公式ランキング (2025年3月): 15位、総合スコア 800,238 (CPU: 284k, GPU: 515k) ¹⁴。この公式ランキングのスコアは他のソースと比較して異常に低く、テストバージョンや条件が異なる可能性が高いです。

このスコアのばらつきは、テスト環境、デバイスの冷却性能、ソフトウェアの最適化度合い、さらには搭載されているストレージの種類（例：UFS 3.1 vs UFS 4.0 ¹⁵）など、複数の要因によって引き起こされていると考えられます。NanoReviewやMySmartPriceが報告する約140万点というスコアが、このチップのポテンシャルをより反映している可能性があります。

Geekbench (v6):

Geekbenchのスコアもソースによって変動しますが、AnTuTuほどの大きな乖離は見られません。

シングルコア: 1251点～1538点 ⁵。
マルチコア: 3974点～4697点 ⁵。
主な報告例:

91mobiles (Reno 13 Pro): SC 1340, MC 4064 ⁶。
NanoReview (平均): SC 1285, MC 4325 ⁵。
MySmartPrice (リーク, Reno 13 Pro): SC 1463, MC 4504 ¹³。
FoneArena (リーク, Reno 13 Pro): SC 1538, MC 4697 ¹⁶。
NotebookCheck (Honor Pad V9, GB 6.4): SC 1359, MC 4119 ⁹。

FoneArenaのリークでは、同じSoCを搭載するReno 13 ProがReno 13よりも高いスコアを記録しており ¹⁶、これはProモデルにおけるより優れた冷却機構や最適化、あるいはチップの選別（ビンニング）が行われている可能性を示唆しています。全体として、Geekbenchスコアは高性能なミドルレンジチップとしての位置づけと一致しています。

ベンチマークスコア概要表:

ベンチマーク	テスト/ソース	シングルコア	マルチコア	GPU	メモリ	UX	総合スコア	出典例
AnTuTu v10	91mobiles (Reno 13 Pro)	–	–	490,378	230,420	201,654	1,146,605	⁶
	NanoReview (平均)	–	–	551,912	249,594	294,724	1,431,343	⁵
	MySmartPrice (リーク, Reno 13 Pro)	–	–	530,981	310,673	252,782	1,402,459	¹³
	AnTuTu公式 (2025/3)	–	–	515,639	–	–	800,238	¹⁴
Geekbench 6	91mobiles (Reno 13 Pro)	1,340	4,064	–	–	–	–	⁶
	NanoReview (平均)	1,285	4,325	8611 (Compute)	–	–	–	⁵
	MySmartPrice (リーク, Reno 13 Pro)	1,463	4,504	–	–	–	–	¹³
	FoneArena (リーク, Reno 13 Pro)	1,538	4,697	–	–	–	–	¹⁶
	NotebookCheck (Honor Pad V9, GB 6.4)	1,359	4,119	–	–	–	–	⁹

その他のベンチマーク

GPU性能 (3DMark, GFXBench):

GFXBench (91mobiles, Reno 13 Pro): Manhattan ES 3.0 (Offscreen) で 60fps (3720フレーム)、T-Rex (Offscreen) で 90fps (5045フレーム) を記録しており、旧世代のテストでは高いフレームレートを維持できる性能を示しています ⁶。
3DMark Wild Life Extreme: GPU負荷の高いこのテストでは、搭載デバイスによってスコアに差が見られます。Bajaj FinservはOppo Reno 13 Proで 6,363 点を報告していますが ¹⁷、GSM ArenaはInfinix Note 50 Pro+で 2,905 点を報告しています ¹⁸。この差は、デバイスの冷却性能やソフトウェアチューニングの違いによるものと考えられます。比較対象として、Dimensity 8300 Ultra搭載機では7,156点（最低ループ）から10,041点（最高ループ）が報告されています ¹⁹。
全体として、Mali-G615 MC6 GPUはミドルレンジとしては強力であり、多くのゲームを高設定でプレイ可能ですが、最新の最も要求の厳しいタイトルでは限界が見られる可能性があります。

AI性能 (AI Benchmark, NPU 780):

Dimensity 8350は、前世代から大幅に強化されたAI処理ユニット MediaTek APU 780 (NPU 780) を搭載しています ²。
AI Benchmark スコア: 91mobilesはOppo Reno 13 Proで 3,106 点を報告しています ⁶。これは、AI Benchmark公式サイトに掲載されているDimensity 8300のスコア (2908点 ²⁰) よりも高い値であり、NPUの改善またはテスト条件の違いを示唆しています。MediaTekは、AI Benchmark v5基準で前世代比 3.3倍 のAI性能向上を主張しています ⁴。
機能: このNPUは最大100億パラメータの大規模言語モデル (LLM) をサポートし、音声通話の要約、オフライン翻訳、画像生成といったオンデバイスでの生成AIタスクを可能にします ²。Oppo Reno 13シリーズでは、AIによる写真編集（AI消しゴム、AIブレ補正、AI夜景ポートレート）、生産性向上（AI録音要約、AI要約、AIライター）などの機能に活用されています ²¹。
このクラスのSoCとしては先進的なAI機能を備えており、スマートフォンのインテリジェンスを向上させる上で重要な役割を果たします。

持続性能と熱管理:

持続性能と熱管理に関しては、レビュー間で評価が分かれています。

CPU Throttling Test: MySmartPriceによるOppo Reno 13 Proのテストでは、CPU性能が最大値の 79% まで低下したと報告されています ²³。これは、高負荷が続くとパフォーマンスが抑制されることを示唆します。比較として、Dimensity 8300 Ultra搭載のVivo T3 Ultraでは、テスト条件により63%～84%のスロットリングが報告されています ²⁴。
GPU Stress Test: 3DMark Wild Life Stress Testにおける安定性スコアは、Dimensity 8300で89% ⁵、Dimensity 8300 Ultraで71.3% ¹⁹ と報告されていますが、Dimensity 8350搭載機での明確なスコアは限定的です。Hitech Centuryは、Oppo Reno 13 5GのSteel Nomad Light Stress Testで安定性 34.6% という低い数値を報告し、温度が45°Cに達したとしています ¹⁰。
実使用感: 一部のレビューでは、ベンチマーク実行中や要求の厳しいゲーム（Call of Duty: Mobile、Genshin Impact、Zenless Zone Zero）を長時間プレイした際に、Oppo Reno 13 Proが 顕著に発熱し、パフォーマンスが低下（サーマルスロットリング） したと報告されています ²³。フレームレートが60fpsから30-40fps、あるいは20fps程度まで低下するケースも観察されています ²⁵。一方で、別のレビューでは、ゲーム中の温度が40°Cを超えることはなかった ²⁷、あるいは2時間のゲームプレイ後も35°C程度に留まった ²⁸ といった報告もあり、評価が一貫していません。
この不一致は、テスト環境の差（室温など ²⁷）、個々のデバイスの冷却設計（Reno 13 Proは前世代より大型のベイパーチャンバーを搭載 ²⁹）、ソフトウェアの最適化レベルに大きく依存することを示唆しています。Dimensity 8350自体の持続性能ポテンシャルは存在するものの、それを最大限に引き出すにはデバイス側の実装が鍵となります。

性能比較

vs. Dimensity 8300 / 8300 Ultra:

ハードウェア: CPUコア構成、クロック周波数、GPUタイプと周波数、製造プロセス、メモリ/ストレージ規格など、基本的なハードウェア仕様はDimensity 8300と ほぼ同一 です ²。
主な違い: 最大の違いは、Dimensity 8350が 「StarSpeed Engine」（または更新された「HyperEngine Adaptive Gaming Technology」）と呼ばれる新しいゲーミング最適化技術を搭載している点です ¹。MediaTekは、これによりゲーム中の消費電力が最大10～24%削減され、タッチ応答性やシーン遷移速度が向上し、フレームレートの安定性が増すと主張しています ²。ただし、これらの改善効果の比較対象が明記されていない場合が多い点には注意が必要です ³。
ベンチマーク: 両者のベンチマークスコア差は ごくわずか であり、テストによってどちらが優位になるかが変動します。AnTuTuでは8350が約2%高いスコアを示す例 ⁵ がありますが、Geekbenchでは8300がシングルコア性能やGPU演算性能で約9%高いスコアを示す例 ⁵ もあります。AnTuTu公式ランキングでは8350が8300 Ultraを僅かに上回っています ¹⁴。Redditユーザーからは、ベンチマーク上では8300 Ultraの方が高性能 (+8% AnTuTu) との指摘もあります ¹⁵。
評価: Dimensity 8350は、実質的にDimensity 8300の マイナーチェンジ版またはリブランド と見なすことができます ²。主な改良点はソフトウェアベースのゲーミングエンジンであり、ハードウェア的な性能向上は最小限です。したがって、どちらのチップを選択するかは、搭載デバイスの価格や入手性、あるいはStarSpeed Engineによる電力効率改善への期待値によって決まるでしょう ²。なお、「Ultra」サフィックスが付くモデルも、基本的な技術仕様や性能においてベースモデル（8300/8350）と同一であるとされています ³⁰。

vs. Snapdragon Competitors:

vs. Snapdragon 8s Gen 3: Dimensity 8350と同様にプレミアムミドルレンジに位置づけられます ¹³。ベンチマークスコアでは、Snapdragon 8s Gen 3が概ね優位 です。AnTuTuで約6% ³²、Geekbenchシングルコアで約44%、マルチコアで約30%、GPU演算で約24%高いスコアを示しています ³²。これは、8s Gen 3がより新しいCortex-X4コア（プライムコア）を採用し、L3キャッシュ容量が大きい（8MB vs 4MB）こと、Adreno 735 GPUの特性などが要因と考えられます ³²。一方で、Dimensity 8350はピークCPUクロックが若干高い（3.35GHz vs 3.0GHz）です ³²。ゲームの最適化状況によってはSnapdragonが有利な場合もありますが ³⁴、電力効率はDimensity 8350のStarSpeed Engineが寄与する可能性があります。YouTubeの比較動画では、総合的に8s Gen 3が優れていると評価されています ³⁵。
vs. Snapdragon 8 Gen 2: 旧世代のフラッグシップである Snapdragon 8 Gen 2の方が、依然として多くのベンチマークでDimensity 8350を上回り ます。AnTuTuで約9% ³⁶、Geekbenchシングルコアで約55%、マルチコアで約23%高いスコアです ³⁶。8 Gen 2はCortex-X3コアと大容量L3キャッシュ（8MB）を備えています ³⁶。Dimensity 8350はGPUクロックが高いものの ³⁶、総合的なGPU性能ではAdreno 740に及ばない可能性があります。
vs. Snapdragon 7 Gen 3: Dimensity 8350はSnapdragon 7 Gen 3を大幅に上回る性能 を示します。AnTuTuで約77% ³⁷、Geekbenchマルチコアで約28%高いスコアです ³⁷。メモリ帯域幅、GPU性能（FLOPS）、CPUクロックなど、多くの面でDimensity 8350が優れています ³⁷。Snapdragon 7 Gen 3はミドルレンジの中でも下位に位置づけられます。
評価: Dimensity 8350は、Snapdragon 7 Gen 3よりはるかに高性能ですが、Snapdragon 8s Gen 3や8 Gen 2といった上位のチップにはベンチマークスコアで及ばない、という位置づけになります。特にSnapdragon 8s Gen 3との比較では、ピーク性能では劣るものの、StarSpeed Engineによるゲーミング時の電力効率や安定性で差別化を図っていると考えられます。

性能比較概要表:

SoC	AnTuTu v10 (参考)	Geekbench 6 SC (参考)	Geekbench 6 MC (参考)	主な特徴	出典例
Dimensity 8350	~1.43M	~1285	~4325	A715/A510, Mali-G615, 4nm, LPDDR5X/UFS4.0, StarSpeed Engine	⁵
Dimensity 8300	~1.40M	~1398	~4293	8350とほぼ同等スペック、HyperEngine	⁵
Snapdragon 8s Gen 3	~1.49M	~2019	~5570	X4/A720/A520, Adreno 735, 4nm, LPDDR5X/UFS4.0	³²
Snapdragon 8 Gen 2	~1.56M	~1991	~5299	X3/A715/A710/A510, Adreno 740, 4nm, LPDDR5X/UFS4.0	³⁶
Snapdragon 7 Gen 3	~0.81M	~1139	~3375	A715/A510, Adreno 720, 4nm, LPDDR5/UFS3.1	³⁷

(注: スコアは代表的な値であり、ソースやデバイスによって変動します)

実使用感とゲーミング性能

Dimensity 8350を搭載したデバイス（主にOppo Reno 13シリーズ）のレビューから、実際の使用感とゲーミング性能を分析します。

搭載スマートフォンレビュー:

一般性能: 日常的なタスク（ウェブ閲覧、SNS、動画視聴など）やマルチタスクは非常にスムーズに動作します ¹⁰。Oppo Reno 13シリーズに搭載されているColorOS 15は滑らかな操作感が評価されていますが、プリインストールアプリ（ブロートウェア）が多い点は批判されています ¹⁰。
ゲーミング性能: 評価は分かれています。

比較的軽～中程度の負荷のゲーム: Call of Duty: Mobile, PUBG Mobile, Mobile Legends: Bang Bang (MLBB), CarX Streetなどでは、高設定でも良好なパフォーマンスが報告されています ¹⁵。特定の機能（OppoのAdaptive Frame Boosterなど）を使用することで、90fpsや120fpsといった高いフレームレートでのプレイも可能です ¹⁵。
高負荷なゲーム: Genshin Impact, Zenless Zone Zero, Wuthering Wavesといった特に要求の高いゲームでは、高画質設定での長時間のプレイにおいて、 サーマルスロットリングによるフレームレートの低下 が報告されています ²³。温度が44°C程度に達すると、フレームレートが60fpsから30-40fps、あるいは20fps台まで落ち込むことがあるようです ²⁵。
総合評価: あるレビューでは「驚くほどまとも」「ゲームに十分対応できる」²⁶、別のレビューでは「実際にゲームに適している」³⁸と評価される一方で、「集中的なゲームプレイが優先事項なら最適ではないかもしれない」²³との意見もあります。

熱管理: ここでも評価は一貫していません。ベンチマークやゲーム中に顕著な発熱を指摘するレビュー ¹⁰ がある一方、温度上昇が40°C未満に抑えられた、あるいは35°C程度で安定していたとするレビュー ²⁷ も存在します。これは、デバイスの冷却機構（Reno 13 Proは大型VC搭載 ²⁹）やテスト環境に依存する部分が大きいと考えられます。
AI機能の実用性: NPU 780を活用したAI機能は、Oppo Reno 13シリーズで積極的に搭載されています。写真編集支援（夜景ポートレート、被写体切り抜き、ブレ補正など）、生産性向上（録音要約、ノイズ除去通話、文章要約、テキスト読み上げ、文章作成支援）など、多岐にわたる機能が提供されており ¹⁰、実用的な場面での活用が期待されます。ただし、一部機能（AIブレ補正など）の効果は限定的との報告もあります ²²。

StarSpeed Engine / HyperEngine Adaptive Gaming Technologyの影響:

技術目標: MediaTekはこの技術により、ゲーム中の消費電力削減（最大-24%）、応答性向上（タッチ遅延-5%）、シーン遷移高速化（+24%）、フレームレート安定化（低ジッター）を目指しています ²。CPU、GPU、NPU、ネットワークの状態や温度を監視し、動的にリソースを調整することでこれを実現します ⁴。
実世界での効果: レビューからこの技術単体の効果を明確に切り分けるのは困難です。一部のゲームでは安定したフレームレートが報告されている ²⁷ 一方で、高負荷時にはスロットリングが発生する ²⁵ ことから、効果は限定的か、あるいは特定の条件下（MAGT対応ゲーム ⁴ や特定のデバイス実装）で発揮されるものと考えられます。OppoのAdaptive Frame Boosterのように、SoCの機能を活用したデバイス固有の機能が、体感上の性能向上に大きく寄与している可能性もあります ²⁹。
位置づけ: StarSpeed EngineはDimensity 8300からの主要な差別化要素としてアピールされています ³⁰。ピーク性能を追求するよりも、 熱的な制約の中で電力効率と安定性を高める ことに主眼が置かれている技術であると推察されます。高負荷が続く場面での絶対的な性能維持よりも、バッテリー持続時間や発熱抑制を重視するユーザーにとってはメリットとなる可能性があります。

性能プロファイルの評価と一貫性

総合評価:

MediaTek Dimensity 8350は、プレミアムミドルレンジ市場において競争力のあるSoCです。基本的な性能はDimensity 8300と同等であり 2、Snapdragon 7 Gen 3を明確に上回りますが、Snapdragon 8s Gen 3や8 Gen 2にはベンチマーク上では及ばないレベルに位置します 32。

強み:

クラス最高レベルのCPU性能（特にマルチコア）。
高速なLPDDR5XメモリとUFS 4.0ストレージのサポート。
強力なMali-G615 GPU。
先進的なAPU 780によるオンデバイスAI機能の実現。
Wi-Fi 6EやBluetooth 5.4などの最新接続規格への対応。
StarSpeed Engineによるゲーミング時の電力効率と安定性向上への期待。 ¹

弱み・不確実性:

ベンチマークスコアの不一致: 報告されるスコアに大きなばらつきがあり、チップの真の性能ポテンシャルを把握しにくい ⁵。
持続性能と熱管理: 高負荷時のサーマルスロットリングや発熱に関する報告が複数あり、デバイスの冷却設計や最適化への依存度が高い ¹⁰。
Dimensity 8300との差: ハードウェア的な性能向上が最小限であり、実質的にゲーミングエンジンのアップデートに留まるため、「リブランド」との見方も強い ²。

情報源間の一貫性:

コア仕様（CPU構成、GPU、プロセス等）については、情報源間で概ね一致しています。しかし、ベンチマークスコア（特にAnTuTu）と、実機レビューにおけるゲーミング性能や熱管理の評価には顕著な不一致が見られます。これは、テスト方法論の違い、デバイス固有の実装差（冷却性能、ソフトウェア最適化）、およびレビュー対象がOppo Reno 13シリーズに偏っていることなどが影響していると考えられます。StarSpeed EngineがDimensity 8300との主な違いである点は一貫して述べられていますが、その具体的な効果測定や体感に関する評価は一様ではありません。

結論

MediaTek Dimensity 8350は、プレミアムミドルレンジスマートフォン向けSoCとして、堅実な性能を提供するチップです。その核心的な性能は前世代のDimensity 8300とほぼ同等ですが、新たに「StarSpeed Engine」（または更新されたHyperEngine Adaptive Gaming Technology）を搭載し、ゲーミング時の電力効率とフレームレート安定性の向上を狙っています。

CPUおよびGPU性能はクラス標準を満たし、日常的なタスクや多くのゲームを快適に動作させることが可能です。LPDDR5XメモリやUFS 4.0ストレージ、Wi-Fi 6Eといった最新規格への対応も、全体的な体験価値を高めています。特筆すべきはAPU 780による強力なAI処理能力であり、オンデバイスでの生成AI機能を実現し、スマートフォンのインテリジェンスを向上させています。

ベンチマークスコアではSnapdragon 7 Gen 3を大きく引き離し、Snapdragon 8s Gen 3や8 Gen 2に近い性能を示す場面もありますが、総合的にはこれらの上位チップには及ばない位置づけです。

最大の懸念点は、持続性能と熱管理に関する報告のばらつきです。一部のレビューでは高負荷時に顕著なスロットリングと発熱が指摘されており、StarSpeed Engineによる効率改善効果が、デバイスの実装によっては相殺されてしまう可能性を示唆しています。

総じて、Dimensity 8350は、AI機能や最新の接続性を重視し、ピーク性能よりもゲーム中の電力効率や安定性を求めるユーザーにとって魅力的な選択肢となり得ます。ただし、その真価は、スマートフォンメーカーによる冷却設計やソフトウェア最適化に大きく左右されるため、最終的なユーザー体験は搭載されるデバイスによって異なる点に留意が必要です。Dimensity 8300搭載機と比較した場合、性能差は僅少であるため、価格やデバイスの他の特徴を考慮して選択することが推奨されます。