MediaTek Dimensity 920 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.21

1. エグゼクティブサマリー
2. MediaTek Dimensity 920: 概要と仕様
3. 合成ベンチマーク性能分析
1. 3.1 ベンチマークスコア集計
2. 3.2 ベンチマークスコアのばらつき要因分析
4. 競合製品との比較と性能ポジショニング
5. 実環境でのパフォーマンスとユーザーエクスペリエンス
6. 電力効率と熱管理
7. 結論

1. エグゼクティブサマリー

MediaTek Dimensity 920は、2021年8月に発表された6nmプロセス製造のミッドレンジ向け5G対応システムオンチップ（SoC）である ¹。本SoCは、性能、電力効率、そして108MPカメラサポートや4K HDRビデオ録画といった先進機能のバランスを重視し、ミッドレンジスマートフォン市場をターゲットとしている ³。

主要な分析結果として、Dimensity 920は多くのベンチマークテストにおいて競合するSnapdragon 778Gと同等の性能を示すことが多いが、Dimensity 1200のような上位チップには及ばない。実環境での使用感としては、日常的なタスクや中程度の負荷のゲームプレイには十分な性能を提供する。電力効率は設計目標の一つであるが、実際の熱特性やバッテリー持続時間はデバイスの実装に大きく依存する。また、異なる情報源やデバイス間でのベンチマークスコアには顕著なばらつきが見られる。

本レポートでは、主要な競合製品としてSnapdragon 778G、Dimensity 1200、Dimensity 1080/7050、Snapdragon 695との比較分析を行う。

2. MediaTek Dimensity 920: 概要と仕様

2.1 導入と位置づけ

MediaTek Dimensity 920（モデル番号: MT6877T ³）は、Dimensity 900の後継または改良版として位置づけられ、CPUおよびGPUのクロック周波数がわずかに向上している ²。2021年8月11日に発表されたこのチップは ¹、ミッドレンジスマートフォン市場において性能と電力効率のバランスを提供することを目的としている。

2.2 製造プロセスと基本設計

Dimensity 920は、台湾積体電路製造（TSMC）の6nmプロセス技術を採用しており、電力効率の高さが特徴である ¹。推定されるトランジスタ数は約100億個である ¹。

2.3 CPUアーキテクチャ

CPUは、Heterogeneous Multi-Processing（ヘテロジニアスマルチプロセッシング）に対応したオクタコア構成を採用している ²。

高性能コア: 2x ARM Cortex-A78 最大2.5 GHz ¹
高効率コア: 6x ARM Cortex-A55 最大2.0 GHz ¹
命令セット: ARMv8.2-A ¹
キャッシュ: 2 MBのL3キャッシュを搭載すると報告されている ¹。ただし、一部の比較情報 ²² ではL3キャッシュがないと記載されており、情報源による差異が見られる。

2.4 GPUアーキテクチャ

グラフィックス処理ユニット（GPU）には、ARM Mali-G68 MC4（4コア）が採用されている ¹。

GPU周波数: 最大950 MHz ¹。一部情報源 ³ では900MHzと記載されており、これも差異が見られる点である。
アーキテクチャ: Valhall 第2世代 ¹
APIサポート: Vulkan 1.3、OpenCL 2.0に対応 ¹
演算性能 (FLOPS): 約243.2 Gigaflops ¹

2.5 メモリとストレージ

メモリサポート: LPDDR5（最大3200 MHz）およびLPDDR4x（最大2133 MHz）に対応 ²。最大16GBのメモリ容量をサポートする ¹。多くの情報源がLPDDR5/4xまたはLPDDR5 3200MHzを挙げる一方 ¹、³はLPDDR4x 2133MHzのみを記載している。
メモリ帯域幅: LPDDR5使用時、最大51.2 Gbit/s ¹。LPDDR4xの場合、17 GB/s ⁵ や25.6 GB/s ⁴ といった異なる値が報告されており、搭載されるメモリタイプによって帯域幅が大きく変動することを示唆している。
ストレージサポート: UFS 3.1およびUFS 2.2/2.1に対応 ¹。これにより、デバイスメーカーは製品の価格帯や位置づけに応じて柔軟な設計が可能となる ²⁴。

2.6 AI機能

第3世代のMediaTek APU（AI Processing Unit）を搭載している ²。これにより、AIを活用したカメラ機能などが強化される ¹⁶。ただし、提供された情報からはAITuTuのような特定のAIベンチマークスコアは見つからなかった ³。

2.7 接続性

5Gモデム: Sub-6 GHz帯対応の5Gモデムを内蔵。デュアルSIM 5G（SA+SA）、2CCキャリアアグリゲーション（最大120MHz帯域幅）をサポートし、最大下り速度は2.77 Gbps ¹。
Wi-Fi/Bluetooth: Wi-Fi 6 (802.11ax) および Bluetooth 5.2に対応 ¹。

2.8 マルチメディア機能

ディスプレイサポート: 最大解像度2520 x 1080、リフレッシュレート120Hzのディスプレイをサポート ¹。
カメラサポート: シングルカメラで最大108MP、デュアルカメラで20MP+20MPに対応 ¹。
ビデオ機能: ハードウェアアクセラレーションによる4K HDRビデオ録画エンジンを搭載 ¹⁶。最大4K@30FPSでのビデオ撮影および再生が可能 ¹。AV1コーデックのデコードにも対応している ¹。

2.9 ゲーミング機能強化

MediaTek HyperEngine 3.0: ネットワーク遅延を最小化する「Networking Engine」、通話中もデータ接続を維持する「Call & Data Concurrency 3.0」、テザリング時の電力消費を抑える「Super Hotspot」などの機能を搭載 ¹⁶。
MediaTek Smart Adaptive Displays: コンテンツに応じてリフレッシュレートを動的に調整し、電力効率を最適化する ¹⁶。

2.10 TDP（熱設計電力 / 持続電力制限）

Dimensity 920のTDPに関しては、情報源によって報告値に大きなばらつきがある。4W ¹、5W ²⁹、6W ⁶、10W ³ といった値が報告されている。この不一致は、測定方法の違い、デバイスメーカー（OEM）による異なる電力設定プロファイル、あるいはTDPの定義解釈の違いに起因する可能性がある。4Wという値は6nmプロセスの目標とする高い電力効率と一致するが、10Wという値はより高いパフォーマンスを発揮できる可能性を示唆する一方で、発熱量の増加も示唆する。このTDP設定のばらつきは、同じDimensity 920を搭載するデバイスであっても、実際のパフォーマンス、熱特性、バッテリー持続時間に違いが生じる可能性があることを意味する。つまり、単にDimensity 920搭載という情報だけでは不十分であり、デバイスメーカーによる具体的な実装（電力制限の設定など）が、その特性を大きく左右する要因となる。これは、電力効率に関する公式の主張と、一部ユーザーからの発熱やバッテリー消費に関する報告との間に矛盾が生じうる背景を説明するものである。

3. 合成ベンチマーク性能分析

3.1 ベンチマークスコア集計

Dimensity 920の性能を評価するため、複数の合成ベンチマークテストの結果を収集した。以下に主要なベンチマークとそのスコアを示す。

AnTuTu Benchmark:

v10: 総合スコアは約548,000点 ¹。サブスコアの平均的な値は、CPU約170,000点、GPU約114,000点、MEM約112,000点、UX約153,000点 ¹。ただし、情報源によっては大きく異なるスコアも報告されている（例: 総合498,000点 ¹²、470,000点 ³、445,000点 ⁶、530,000点 ⁴、528,000点 ²⁰、485,000点以上 ³⁷）。
v9: 総合スコアの平均は約491,000点 ⁷、CPUスコアの平均は約135,000点 ⁷。約505,000点 ³¹ や416,000点 ³⁵ という報告もある。
Geekbench:

v6: シングルコアスコアは約926点、マルチコアスコアは約2,310点、GPU Computeスコアは約2,393点 ¹。v6の個別タスクスコアも報告されている ¹²。
v5.5 (5.1-5.5): シングルコアスコアの平均は約776点、マルチコアスコアの平均は約2,098点 ²。Realme 9 Pro+では813/2316点という報告もある ⁴⁰。
v4.x: シングルコアスコアは約3,440点、マルチコアスコアは約8,397点 ²。
v3: シングルコアスコアは約2,651点、マルチコアスコアは約7,988点 ⁷。
3DMark:

Wild Life: スコアは約2,293点、安定性99%、グラフィックステストFPSは約13 ¹。ここでも異なる報告値（例: FPS 10 ¹²、安定性98% ³、安定性95% ⁴）が存在する。
Sling Shot Extreme (Unlimited Physics/Graphics): 平均スコアは約3,777点（物理演算スコアは分離されていない可能性あり） ²。
Sling Shot (Unlimited Physics/Graphics): 平均スコアは約3,729点 ²。
PCMark:

Work 3.0 Score: Realme 9 Pro+で12,752点 ⁴³。
Work 3.0 Battery Life: Realme 9 Pro+で13時間16分 ⁴³ または15時間22分 ⁴⁰ と報告されており、ここでもばらつきが見られる。

表1: MediaTek Dimensity 920 ベンチマークスコア集計

ベンチマーク名	平均/報告スコア	スコア範囲 (Min-Max)	情報源 Snippet ID
AnTuTu v10 総合	~548,000	445k – 567k+	¹
AnTuTu v10 CPU	~170,000	139k – 170k	¹
AnTuTu v10 GPU	~114,000	82k – 190k	¹
AnTuTu v10 MEM	~112,000	85k – 146k	¹
AnTuTu v10 UX	~153,000	80k – 156k	¹
AnTuTu v9 総合	~491,000	416k – 505k	⁷
AnTuTu v9 CPU	~135,000	131k – 139k	⁷
Geekbench 6 Single	~926	–	¹
Geekbench 6 Multi	~2,310	–	¹
Geekbench 6 Compute	~2,393	–	¹
Geekbench 5 Single	~776	737 – 814	²
Geekbench 5 Multi	~2,098	2046 – 2316	²
3DMark Wild Life Score	~2,293	–	¹
3DMark Wild Life Stability	99%	95% – 99%	¹
3DMark Wild Life FPS	~13	10 – 13	¹
3DMark Sling Shot Extreme	~3,777	3717 – 3837	²
PCMark Work 3.0 Score	12,752	–	⁴³
PCMark Work 3.0 Battery	13h 16m – 15h 22m	–	⁴⁰

(注: スコアは情報源やテスト条件により変動します。上記は代表的な値や範囲を示します。)

3.2 ベンチマークスコアのばらつき要因分析

収集したデータからは、特にAnTuTuや3DMark、PCMarkバッテリー寿命テストにおいて、Dimensity 920のベンチマークスコアに顕著なばらつきが見られることが確認された ¹。例えば、同じRealme 9 Pro+であっても、AnTuTu v10スコアが50万点台前半から56万点台後半まで変動する例が報告されている ¹。

このばらつきを生む潜在的な要因としては、以下の点が考えられる。

デバイス実装の違い:

搭載されるRAM容量（6GB, 8GB, 12GBなど ¹）やRAMタイプ（LPDDR4x vs LPDDR5 ¹）、ストレージ規格（UFS 2.1/2.2 vs 3.1 ¹）の違いは、特にメモリやUXスコアに影響を与える。
デバイスの熱設計や冷却機構 ⁴⁴ の差は、持続的な負荷がかかるテスト（3DMark安定性テストなど）や実ゲームプレイ時のパフォーマンス維持能力（サーマルスロットリングの発生しやすさ）に影響する。
ソフトウェア最適化:
OSのバージョン（Android 12, 13, 14 ¹⁸）やメーカー独自のUI（Realme UI ¹⁸）、GPUドライバ ⁴⁷ のバージョンによって、パフォーマンスや電力管理が異なる可能性がある。特に、OSアップデート後に性能が低下したという報告 ⁴⁶ は、ソフトウェアの影響が大きいことを示唆している。
テスト環境と条件:
テスト時の周囲温度、バックグラウンドで動作しているプロセス、ベンチマークアプリのバージョン（AnTuTu v8/v9/v10, Geekbench 5/6など）、バッテリーテスト時の画面輝度設定 ⁴³ など、物理的なテスト環境や設定の違いもスコアに影響を与える。
電力モード:
一部のデバイスでは、パフォーマンスを優先するモード（例: ⁶⁰で言及されている「MONSTERモード」）が利用可能な場合があり、これを使用するとベンチマークスコアは向上するが、発熱やバッテリー消費が増加する可能性がある。

これらの要因から、Dimensity 920のようなミッドレンジSoCのベンチマークスコアは、絶対的な性能指標というよりは、達成可能な性能の範囲を示すものと解釈すべきである。最終的なユーザーエクスペリエンスは、個々のデバイスのハードウェア構成とソフトウェアチューニングによって大きく左右される。OEMは同じSoCを使用しても、電力制限や冷却設計、ソフトウェア最適化を通じて、異なる性能特性を持つデバイスを作り出すことができる。したがって、ベンチマークスコアを比較する際には、テストされたデバイス、ソフトウェアの状態、テスト条件といった文脈を考慮することが重要となる。

4. 競合製品との比較と性能ポジショニング

Dimensity 920の市場における性能上の位置づけを明確にするため、主要な競合SoCとの比較を行う。

4.1 Snapdragon 778G 5Gとの比較

Snapdragon 778G (SD778G) は、Dimensity 920の直接的な競合製品としてミッドレンジ5G市場で広く採用されている ¹。

ベンチマーク: 全体的にSD778GがDimensity 920をわずかに上回る傾向が見られる。AnTuTu v10総合スコアではSD778Gが約9%高い ²²。Geekbench 6では、SD778Gがシングルコアで約10%、マルチコアで約23%高いスコアを示す ²²。Geekbench 5.5でも同様の傾向が見られ、特にマルチコア性能でSD778Gが優位である ³⁹。3DMark Wild Life ²² やSling Shot Extreme ⁹ でもSD778Gのスコアが高い。一方で、Dimensity 920がAnTuTu v10のMemory/UXサブスコアで上回るケース ²² や、Geekbench 6 Compute（GPU）スコアで同等 ²² という結果もある。
仕様: 両チップともにTSMCの6nmプロセスで製造される ⁹。CPU構成は異なり、Dimensity 920が高性能コア2基（最大2.5GHz）であるのに対し、SD778Gは高性能コア4基（最大2.4GHz）を搭載する ⁹。GPUはDimensity 920のMali-G68 MC4の方がクロック周波数が高い（950MHz vs 550MHz ²²）が、ベンチマーク上ではSD778GのAdreno 642Lが優位である ²²。メモリサポートではDimensity 920がLPDDR5に対応し、より高い帯域幅を持つ点で有利である ²²。命令セットはSD778Gの方が新しい（ARMv8.4-A vs v8.2-A ²²）。
評価: ユーザーコメントやレビューでは、SD778Gが全体的な性能やバッテリー効率で優れているとの意見がある一方、Dimensity 920の方が熱管理に優れている可能性が示唆されている ²²。メーカーの訴求点として、SD778GはAIやゲーミング最適化、Dimensity 920は電力効率とバランスの取れた性能が挙げられる ⁴⁹。

4.2 Dimensity 1200との比較

Dimensity 1200は、Dimensity 920よりも上位に位置づけられるSoCである ⁵⁰。

ベンチマーク: Dimensity 1200は、Dimensity 920を全ての主要ベンチマークで大幅に上回る。AnTuTu v10では約39%高いスコア（約759,000 vs 約548,000） ²⁷。Geekbench 6ではシングルコアで約20%、マルチコアで約37%高い ²⁷。3DMark Wild Lifeでは約97%高いスコアを示す ²⁷。旧バージョンのGeekbenchでも同様に大きな性能差が見られる ¹⁷。
仕様: 両チップともに6nmプロセス ¹⁷。Dimensity 1200はより高いCPUクロック（最大3.0GHz vs 2.5GHz）と異なるコア構成（1x A78 @ 3.0GHz + 3x A78 @ 2.6GHz vs 2x A78 @ 2.5GHz）を持つ ¹⁷。GPUもより強力なMali-G77 MP9を搭載する（vs Mali-G68 MC4） ¹⁷。L3キャッシュ容量もDimensity 1200の方が大きい（8MB vs 2MB ²⁷）。メモリタイプはDimensity 920がLPDDR5をサポートする点で有利だが、報告されている帯域幅には矛盾が見られる（²⁷ではD1200が34.1GB/s、D920が51.2GB/sと記載）。
評価: 性能面ではDimensity 1200が明確に上位であり、より高いパフォーマンスを要求する用途に適している。

4.3 Dimensity 1080 / Dimensity 7050との比較

Dimensity 1080はDimensity 920の後継またはリフレッシュ版であり、わずかにCPUクロックが向上している（2.6GHz vs 2.5GHz） ⁶。Dimensity 7050はDimensity 1080と非常に類似した仕様を持つか、リブランド版と考えられる ¹²。

ベンチマーク: Dimensity 1080/7050は、Dimensity 920に対してAnTuTu ¹² およびGeekbench ¹² でわずかに高いスコアを示す傾向がある。3DMarkのスコアは非常に近い ¹²。
仕様: 主な違いはCPUの最大クロック周波数（2.6GHz vs 2.5GHz）である。GPU（Mali-G68 MC4）や製造プロセス（6nm）は共通している ⁶。Dimensity 7050は200MPカメラをサポートする点がDimensity 920（最大108MP）と異なる ¹²。
評価: Dimensity 1080/7050はDimensity 920からのマイナーアップデート版であり、性能差は比較的小さい。

4.4 Snapdragon 695との比較

Snapdragon 695は、Dimensity 920よりも下位に位置づけられる競合製品である。

ベンチマーク: Dimensity 920はSnapdragon 695をAnTuTu v10総合スコアで約24% ²³、Geekbench 6マルチコアで約8% ²³、Geekbench 6 Compute（GPU）で約96% ²³、3DMark Wild Lifeで約89% ²³ 上回るなど、多くのテストで明確な性能差を示す。Geekbench 6シングルコア性能は非常に近い ²³。
仕様: 両チップともにTSMCの6nmプロセス ²³。Dimensity 920はより高いCPUクロック（2.5GHz vs 2.2GHz）を持つ ²³。メモリ帯域幅はDimensity 920がLPDDR5サポートにより大幅に高い（51.2 GB/s vs 17 GB/s） ²³。GPUは、Dimensity 920のMali-G68 MP4がSnapdragon 695のAdreno 619よりもベンチマーク性能で大幅に優れている ²³。
評価: Dimensity 920はSnapdragon 695に対して明確な性能アドバンテージを持つ。

表2: MediaTek Dimensity 920 vs. 主要競合製品ベンチマーク比較

ベンチマーク名	MediaTek Dimensity 920 (平均スコア)	Snapdragon 778G (平均スコア)	Dimensity 1200 (平均スコア)	Dimensity 1080/7050 (平均スコア)	Snapdragon 695 (平均スコア)	情報源 Snippet ID
AnTuTu v10 総合	~548,000	~597,000	~759,000	~588,000	~442,000	¹
Geekbench 6 Single	~926	~1,017	~1,113	~956	~908	¹
Geekbench 6 Multi	~2,310	~2,841	~3,172	~2,343	~2,134	¹
3DMark Wild Life Score	~2,293	~2,439	~4,520	~2,294	~1,215	¹

(注: スコアは平均値であり、テスト環境やデバイスにより変動します。)

4.5 ポジショニング分析の要約

Dimensity 920は、アッパーミドルレンジのSoCとして位置づけられる。Snapdragon 695のようなローワーミドルレンジチップに対しては明確な性能向上を提供する。市場で人気の高いSnapdragon 778Gとは競合関係にあり、多くのベンチマークでわずかに劣るものの、同等の性能を発揮する場面もある。Dimensity 1200やSnapdragon 870 ³ といった高性能ミッドレンジや旧フラッグシップチップには及ばない。Dimensity 900からの順当な進化版であり ⁸、わずかにクロックアップされたDimensity 1080/7050とは非常に近い性能を持つ ⁶。

MediaTekのDimensity 9xx/1xxxシリーズにおける戦略は、Dimensity 900、920、1080、7050といったコア仕様（6nm、A78/A55構成、Mali-G68 MC4）が類似し、クロック周波数にわずかな差があるチップを複数展開している点から ²、特定の性能帯において、大規模なアーキテクチャ変更ではなく、既存プラットフォームの改良と細分化に重点を置いていることがうかがえる。ベンチマーク結果もD920とD1080/7050の間で比較的小さな差しか示していない ¹²。これは、MediaTekがOEMに対し、完全に新しいチップ設計を必要とせずに、特定の価格帯や機能要件（例：D7050の200MPカメラサポート ¹²）を満たすためのバリエーションを提供していることを示唆している。このアプローチはMediaTekにとってコスト効率が高く、スマートフォンメーカーにとっても多様な選択肢を提供するものと考えられる。

5. 実環境でのパフォーマンスとユーザーエクスペリエンス

合成ベンチマークスコアが実際の使用感にどのように反映されるかを分析する。

5.1 アプリケーション性能

レビューによれば、Dimensity 920はウェブブラウジング、SNSの利用、アプリの切り替えといった日常的なタスクにおいて、スムーズで応答性の高いパフォーマンスを提供する ¹。オクタコア設計、十分なRAM容量（最大16GBサポート、実デバイスでは6GB/8GBが多い ¹⁸）、高速なメモリタイプ（LPDDR5/UFS 3.1対応）により、マルチタスクも快適にこなせると期待される。

5.2 ゲーミング性能分析

総合的なゲーミング能力: ミッドレンジのゲーミングには十分対応可能と評価されている ⁵。公式にはDimensity 900と比較して最大9%のゲーミング性能向上が謳われている ¹⁶。多くの人気ゲームを快適にプレイできる ⁵¹。
特定タイトルでの性能:

表3: MediaTek Dimensity 920 ゲーミング性能概要

ゲームタイトル	報告されている設定	平均FPS	情報源 Snippet ID / 備考
PUBG Mobile	Ultra / HDR Ultra / Smooth Extreme	~64	¹ (スムーズなプレイ感を報告)
原神 (Genshin Impact)	Medium / Low (デフォルト)	~46 (Medium) / ~30 (Low)	¹ (高設定では発熱・ラグ報告あり)
Call of Duty: Mobile	High	~59	¹ (スムーズなプレイ感を報告)
Fortnite	Low	~27	¹
World of Tanks Blitz	Ultra	~59	¹
Mobile Legends: Bang Bang	Ultra	~53	¹
Asphalt 9 Legends	–	スムーズ	⁵⁵
Pokémon GO	–	通常動作 (オンライン対戦は重い)	⁵¹

ゲーミング関連機能: HyperEngine 3.0はネットワーク遅延の低減や通話とデータ通信の両立を目指す ¹⁶。Adaptive Displaysはリフレッシュレートを動的に調整する ¹⁶。しかし、Realme 9 Pro+のレビューでは高リフレッシュレート（HRR）ゲーミングへの対応がない点が指摘されており ¹⁸、デバイス側の実装による制限があることを示唆している。
エミュレーション: MediaTek製チップ（Mali GPU搭載）は、歴史的に高性能なゲーム機（Switchなど）やWindowsゲームのエミュレーションにおいて、Qualcomm製チップ（Adreno GPU搭載）と比較してドライバの安定性や性能面で課題があるとされることがある。ただし、エミュレータ側の改善により互換性は向上する傾向にある ⁴⁷。カスタムドライバがサポートされていない点も指摘されている ⁴⁷。

5.3 デバイス固有の評価 (Realme 9 Pro+, Redmi Note 11 Pro+ 5G, iQOO Z7)

Dimensity 920を搭載した代表的なスマートフォンのレビューから、実機での評価を考察する。

Realme 9 Pro+:

全体評価: 概ね肯定的なレビューが多い ¹⁸。特にメインカメラ（OIS搭載）の品質 ¹⁸、特徴的なデザイン（フォトクロミック背面） ¹⁸、良好なディスプレイ（ただし90Hz） ¹⁸、高速充電 ¹⁸、良好なスピーカー ¹⁸、優れた触覚フィードバック（ハプティクス） ⁵² が高く評価されている。
性能: 日常使用には十分快適 ⁴⁰。ゲーミングも可能だが、HRRには非対応 ¹⁸。
バッテリーと熱: バッテリー持続時間は概ね良好（1～2日）との評価 ⁴⁰。しかし、Android 13/14へのアップデート後にバッテリー消費が著しく悪化した、あるいは性能が低下したというユーザー報告が複数存在する ⁴⁵。ゲーミング中 ⁵² やアップデート後 ⁴⁶ の発熱も指摘されている。
弱点: microSDカードスロット非搭載、防水性能の欠如が短所として挙げられている ¹⁸。
ベンチマーク: AnTuTu v8/v9で約41万～49万点 ³⁵、Geekbench v5.1で約2335点（マルチ） ³⁵、GFXBench ES 3.1（オンスクリーン）で27fps ³⁵、PCMark Work 3.0で12752点、同バッテリーテストで13時間16分 ⁴³ と報告されている。
Redmi Note 11 Pro+ 5G:

性能: 日常動作は良好。PUBG MobileはHDR/UltraまたはSmooth/Extreme設定でプレイ可能。原神は低設定/30fpsでプレイ可能だが、負荷は高い ⁵¹。
バッテリーと熱: PUBG Mobile 30分プレイでバッテリー約8%消費、本体温度35.3度 ⁵¹。原神プレイ時はより顕著な発熱とラグが発生する ⁵¹。
ベンチマーク: ユーザー報告によるAnTuTu v10スコアは約55万～56万点 ¹。
iQOO Z7:

ベンチマーク: AnTuTuスコアは48万5千点以上 ³⁷、あるいはユーザー報告で56万点以上 ¹ とされている。
特徴: 64MP OISカメラ、AMOLEDディスプレイ、44W急速充電などが特徴として挙げられている ³⁷。

これらのデバイスレビューは、Dimensity 920が堅実なミッドレンジ体験を提供することを確認するものである。しかし同時に、カメラ、ディスプレイ、充電速度、ソフトウェアアップデート、熱設計といったSoC以外の要素が、最終的なユーザー満足度に大きく影響することも示している。特に、Realme 9 Pro+におけるOSアップデート後の性能低下 ⁴⁶ は、初期のベンチマークスコアだけでは捉えきれない、実使用における重要な要素である。これは、SoCの長期的な性能とユーザーエクスペリエンスが、OEMのソフトウェアメンテナンスと最適化戦略に大きく依存することを示唆している。デバイスのライフサイクル全体を通じての価値提案は、初期のハードウェア仕様だけでなく、ソフトウェアサポートによっても変化しうるため、購入検討時にはこの点を考慮する必要がある。

6. 電力効率と熱管理

Dimensity 920の電力効率と発熱特性について評価する。

6.1 電力効率に寄与する設計要素

製造プロセス: 先進的なTSMC 6nmプロセス技術の採用は、旧世代のプロセスと比較して本質的に電力効率向上に貢献する ¹。Dimensity 920はしばしば電力効率が良い、あるいはバランスが取れていると評される ²。
省電力機能:

MediaTek 5G UltraSave: 5Gモデムの電力消費をSA（スタンドアロン）およびNSA（ノンスタンドアロン）ネットワークの両方で最適化する技術 ¹⁶。
MediaTek Smart Adaptive Displays: 表示コンテンツに応じてリフレッシュレートを動的に変更し、不要な電力消費を削減する ¹⁶。
Super Hotspot: 5GモデムとWi-Fiモジュールをチップに統合することで連携を強化し、テザリング時に最大33%の電力削減を実現するとされる ¹⁶。
GPU設計: Mali-G68 GPUは、上位のG78の技術を取り入れつつ、電力効率に最適化された設計となっている ¹⁶。

6.2 熱性能の実態

通常使用時: レビューによれば、通常の使用や軽度のゲーミングでは、本体温度は穏やかに保たれることが多い ⁵¹。Realme 9 Pro+のレビューでは、ゲーム中の温度が35～37℃程度と報告されている ⁵⁵。
高負荷時: 原神のような要求の高い3Dゲームを最高設定でプレイするなど、高負荷が持続する状況では、顕著な発熱が報告されている ⁵¹。
ユーザー報告: 特定のデバイス（Xiaomi 11i ²³、Realme 9 Pro+ ²³）では、短時間のゲームプレイ ²³ やソフトウェアアップデート後 ⁴⁶ に過度の発熱が発生するというユーザーコメントが見られる。
サーマルスロットリング: 高負荷が続くと、過熱を防ぐためにパフォーマンスが抑制されるサーマルスロットリングが発生する可能性がある。原神をスムーズにプレイするにはスマートフォンクーラーが必要との意見 ⁵⁸ は、この可能性を示唆している。Dimensity 9200+（Dimensity 920ではない）のBurnoutベンチマーク結果 ⁵⁹ でもスロットリングによる性能低下が見られており、これは高性能チップに共通する課題である。

6.3 バッテリー持続時間

ベンチマークテスト: PCMarkのバッテリー寿命テストでは、Realme 9 Pro+で13時間超から15時間超という良好な結果が報告されている ⁴⁰。YouTube連続再生テストでは約17時間の持続が示唆されている ⁴⁰。
実使用感: ユーザー体験は様々である。1～2日間持続するという優れたバッテリー寿命を報告する声がある一方で ⁴⁵、特にOSアップデート後に著しいバッテリー消費を経験したという報告もある ⁴⁵。連続ゲームプレイでは約4時間持続したとの報告もある ⁵⁵。

6.4 電力効率と熱管理の評価

Dimensity 920は、6nmプロセスや特定の省電力機能など、効率を重視した設計要素を取り入れている。しかし、実際の熱性能とバッテリー持続時間は、デバイスの冷却システム、ソフトウェアの最適化レベル、そしてユーザーの使用パターンに大きく左右される。このチップは効率的に動作する潜在能力を持っているが、要求の厳しいワークロードやデバイス側の実装が不十分な場合、発熱やバッテリー消費の問題につながる可能性がある。

高負荷タスク（特に3Dゲーミング）の実行は本質的に多くの電力を消費し、熱を発生させる。もしデバイスの放熱システム（ミッドレンジ機ではコスト削減の対象となりやすい）が不十分であれば、チップは容易に発熱し、サーマルスロットリング（過熱防止のための性能低下）を引き起こし、バッテリー消費も増加する。さらに、ソフトウェアアップデート ⁴⁶ が電力管理プロファイルを変更し、熱特性とバッテリー寿命の両方に影響を与える可能性もある。したがって、Dimensity 920の「電力効率」は、チップ自体の設計だけでなく、それが搭載されるデバイス全体の設計とソフトウェア管理、そして実行されるタスクとの複雑な相互作用の結果として現れるものである。

7. 結論

7.1 性能プロファイルの総括

MediaTek Dimensity 920は、発表当時において堅実なアッパーミドルレンジの性能を提供したSoCである。日常的なスマートフォンの使用においてはスムーズな動作を実現し、多くの人気ゲームを適切な画質設定でプレイする能力を持つ。搭載されている2基のCortex-A78高性能コアと6基のCortex-A55高効率コアは、そのターゲットセグメントにおいて良好な性能バランスを提供する。

7.2 強みの再確認

バランスの取れた性能: CPUとGPUの能力が、ミッドレンジ市場の要求に対して適切に調整されている。
電力効率への配慮: 6nmプロセス採用に加え、5G UltraSaveやAdaptive Displayといった省電力機能が組み込まれている。
最新機能への対応: 統合された5G、Wi-Fi 6、高解像度カメラ（最大108MP）、4K HDRビデオ録画、LPDDR5メモリやUFS 3.1ストレージといった最新規格に対応している。
競合製品との比較: Snapdragon 778Gのような主要な競合製品に対しても、多くのテストで互角またはそれに近い性能を示す。

7.3 弱点の再確認

ハイエンドではない性能: Dimensity 1200やSnapdragon 8シリーズのような上位SoCと比較すると、性能面では明確に劣る。
ゲーミングの限界: 最も要求の厳しいゲームタイトルでは画質設定の妥協が必要となる。高リフレッシュレート（HRR）ゲーミングへの対応はデバイスの実装に依存する。エミュレーション性能はSnapdragon搭載機に劣る可能性がある。
熱特性のばらつき: デバイスや負荷によっては顕著な発熱が見られ、サーマルスロットリングにつながる可能性がある。
性能・体験の変動性: デバイスの実装やソフトウェアアップデートによって、ベンチマークスコアや実際のバッテリー寿命、パフォーマンスが大きく変動する可能性がある。報告されているTDPの不一致も、この曖昧さを助長している。

7.4 最終評価

MediaTek Dimensity 920は、発売時点では成功したミッドレンジSoCであり、その価格帯に対して魅力的な機能セットと性能レベルを提供した。OEMにとっては、メモリやストレージの選択肢が用意された柔軟なプラットフォームであり、競争力のあるミッドレンジ5Gデバイスを構築するための基盤となった。

2024年から2025年にかけても、一般的な用途には依然として十分な能力を持つが、新しいミッドレンジチップの登場により、その競争上の地位は相対的に低下している。現在の価値提案は、特定のデバイスにおける実装（特に熱設計）、ソフトウェアサポートの長期性、そして新しいSoCを搭載したデバイスとの価格比較に大きく依存する。

Dimensity 920搭載デバイスを検討する際には、初期のベンチマークスコアだけでなく、デバイス固有のレビュー、特に熱管理能力や長期的なソフトウェアアップデートの影響に関する評価を重視することが推奨される。