MediaTek Dimensity 9200 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.23

1. はじめに

スマートフォン市場におけるシステムオンチップ（SoC）の性能競争は激化しており、ユーザー体験を左右する重要な要素となっています。MediaTekのDimensityシリーズとQualcommのSnapdragonシリーズは、ハイエンド市場でしのぎを削る主要な製品ラインです。本レポートでは、MediaTekのフラッグシップSoCであるDimensity 9200およびその改良版であるDimensity 9200+に焦点を当て、主要なベンチマークテストにおける性能を詳細に分析します。さらに、主要な競合製品であるQualcomm Snapdragon 8 Gen 2との比較を通じて、Dimensity 9200シリーズの市場における性能ポジショニングを評価します。分析にあたっては、日本語および英語の信頼できるウェブサイトから収集したベンチマークデータを基にし、客観的な評価を目指します。

2. 調査方法

本レポートの分析は、以下の方法論に基づいています。

ベンチマークテストの特定: スマートフォンおよびSoCの性能評価に一般的に使用される標準的なベンチマークテスト（AnTuTu Benchmark、Geekbench、3DMark、AI Benchmarkなど）を調査対象としました ¹。これらのテストは、CPU、GPU、AI、メモリ、ユーザーエクスペリエンス（UX）など、SoCの多角的な性能側面を測定するために広く利用されています。
データ収集: 日本語および英語の主要なテクノロジーレビューサイト、ニュース記事、公開されているベンチマークデータベース（例: Nanoreview, GSMArena, NotebookCheck, MySmartPrice, 91mobiles, AnTuTu Benchmark, Geekbench Browser, UL Benchmarks）を検索し、MediaTek Dimensity 9200、Dimensity 9200+、およびQualcomm Snapdragon 8 Gen 2のベンチマークスコアを収集しました。収集対象は、総合スコア、CPU（シングルコア、マルチコア）、GPU、AI、メモリ、UXなどの個別スコアとしました。
データ整理: 収集した各ベンチマークスコアについて、テストの種類（例: Geekbench 6 CPU Multi-Core）、スコア値、および情報源となったウェブサイト名を記録しました。
比較分析: Dimensity 9200/9200+とSnapdragon 8 Gen 2のスコアを、可能な限り同一のテストバージョンおよび条件下で比較しました。性能差を定量的に評価し、各SoCの強みと弱みを分析しました。
情報源の明記: レポート内で引用するデータや情報には、参照元となったウェブサイト名または情報源ID（例: ⁴）を明記しました。

3. MediaTek Dimensity 9200 詳細分析

3.1. 主要スペック

MediaTek Dimensity 9200は、2022年11月に発表されたフラッグシップSoCです ⁴。TSMCの第2世代4nmプロセス（N4P）で製造され、高性能と電力効率の両立を目指しています ⁴。

CPU: ARMv9-Aアーキテクチャを採用した8コア構成です。

1x ARM Cortex-X3 @ 3.05GHz (プライムコア)
3x ARM Cortex-A715 @ 2.85GHz (パフォーマンスコア)
4x ARM Cortex-A510 @ 1.8GHz (効率コア)
L3キャッシュ: 8MB ⁴

GPU: ARM Immortalis-G715 MC11を搭載し、ハードウェアベースのレイトレーシングに対応しています。GPU周波数は850MHzです ⁴。
AI: MediaTek APU 690 (第6世代AIプロセッサ) を搭載しています ¹。
メモリ: LPDDR5X (最大8533Mbps) をサポートします ⁴。
ストレージ: UFS 4.0およびMCQ (Multi-Circular Queue) をサポートし、高速なデータアクセスを実現します ⁴。
ディスプレイ: WQHD解像度で最大144Hz、Full HD+解像度で最大240Hzのリフレッシュレートをサポートします ⁴。
カメラ: 最大320MPの単一カメラ、8K@30fpsおよび4K@60fpsのビデオ撮影に対応します。18-bit HDR ISPを搭載し、RGBWセンサーをネイティブサポートします ⁴。
接続性: Wi-Fi 7 Ready、Bluetooth 5.3、統合5Gモデム (MediaTek T800) を搭載し、最大7.9Gbpsのダウンロード速度に対応します ⁴。

3.2. ベンチマークスコア

複数の情報源から収集したDimensity 9200の代表的なベンチマークスコアは以下の通りです。

AnTuTu Benchmark:
v10: 約1,468,431点 ⁶

CPU: 350,846
GPU: 570,425
MEM: 261,583
UX: 285,577
v9: 約1,203,466点〜 1,228,735点 ⁵

CPU: 262,249 (v9) ⁸
GPU: 517,920 (v9) ⁸
Geekbench:

v6: シングルコア約1,949点 / マルチコア約5,281点 ⁴
v5: シングルコア約1,387点 / マルチコア約4,273点 ⁴
3DMark:

Wild Life: 約12,376点 ⁴ (Graphics Test: 73 FPS ⁶)
Wild Life Extreme (offscreen 1440p): 約3,565点〜 3,698点 ⁵ (Graphics Test: 21 FPS ⁹)
Sling Shot Extreme (ES 3.1) Unlimited Physics: 6,894点 ¹⁰
Sling Shot (ES 3.0) Unlimited Physics: 平均 5,726点 ¹⁰

AI Benchmark: 1,052点 ¹
GFXBench:
Manhattan 3.0 (offscreen): 約328 FPS ⁴

これらのスコアは、Dimensity 9200が発表当時のハイエンドSoCとして高い総合性能、特にGPU性能において優れた能力を持つことを示しています。Geekbenchのスコアは強力なCPU性能を示唆し、3DMarkやGFXBenchの結果は高度なグラフィックス処理能力を裏付けています。

4. MediaTek Dimensity 9200+ 詳細分析

4.1. 主要スペックとDimensity 9200からの変更点

Dimensity 9200+は、Dimensity 9200の性能向上版として2023年5月に発表されました ¹¹。基本的なアーキテクチャはDimensity 9200を踏襲しつつ、CPUおよびGPUのクロック周波数を引き上げることでピーク性能を向上させています ¹²。

CPU: Dimensity 9200と同じコア構成ですが、各クラスターの最大クロック周波数が向上しています ¹¹。

1x ARM Cortex-X3 @ 3.35GHz (vs 3.05GHz)
3x ARM Cortex-A715 @ 3.0GHz (vs 2.85GHz)
4x ARM Cortex-A510 @ 2.0GHz (vs 1.8GHz)

GPU: ARM Immortalis-G715 MC11を継続採用していますが、最大周波数が1150MHz (推定、ソースにより異なる可能性あり ¹¹ では1150MHz、¹² では言及なし) に引き上げられています (Dimensity 9200は850MHz ⁴)。MediaTekはGPU性能が10%向上したとしています ¹²。
プロセス: TSMCの第2世代4nmプロセスを採用しています ¹¹。
その他: AIプロセッサ (APU 690)、メモリ (LPDDR5X)、ストレージ (UFS 4.0)、接続性 (Wi-Fi 7 Ready, BT 5.3) など、多くの仕様はDimensity 9200と共通です ¹¹。

MediaTekは、これらのクロック向上により、CPUとGPUの性能がそれぞれ10%向上したと主張しており、一方で消費電力は据え置きであるとしています ¹²。

4.2. ベンチマークスコア

Dimensity 9200+のベンチマークスコアは、Dimensity 9200から着実な性能向上を示していますが、テスト環境や搭載デバイスによってスコアにばらつきが見られます。

AnTuTu Benchmark (v10):
平均的なスコアは約148万点〜152万点の範囲にあります ¹¹。

例: 1,489,987点 (CPU 386k, GPU 530k) ¹¹
例: 1,524,110点 (CPU 392k, GPU 577k) ¹⁴
一部のテストでは146万点台 ¹⁵ や、130万点台前半 ¹⁷、あるいは端末の冷却性能等により150万点台後半 ¹¹ のスコアも報告されています。
Geekbench (v6):

シングルコア: 約2,090点〜2,121点 ¹¹
マルチコア: 約5,532点〜5,655点 ¹¹
一方で、異なるデバイスや条件下では、シングルコア1,811点/マルチコア5,229点 ¹⁴ や、シングルコア1,039点/マルチコア3,460点 ¹⁵ といった低いスコアも報告されており、スコアの解釈には注意が必要です。
3DMark:

Wild Life: 約11,021点 ¹¹ (Graphics Test: 65 FPS ¹¹)
Wild Life Extreme: 3,768点 ¹⁵
Sling Shot Extreme: Maxed Out (測定上限超え) ¹⁵

AI Benchmark: 1,161点 ¹
GFXBench:

Manhattan (30分実行): 119 FPS ¹⁴
Manhattan (通常): 120 FPS ¹⁵
T-Rex: 120 FPS ¹⁴
PCMark:

Work 3.0 Performance: 11,856点 ¹⁴
Work 3.0 Battery Life: 14時間36分 ¹⁴
CPU Throttling Test / Burnout Benchmark:
高負荷時の性能維持率は46.3% ¹⁴ や69% ¹⁵ と報告されており、デバイスの冷却設計によってパフォーマンスの持続性が大きく影響される可能性を示唆しています。これは、ピーク性能は高いものの、長時間の高負荷状態では性能が抑制される可能性があることを意味します。

Dimensity 9200+は、特にCPU性能においてDimensity 9200からの向上が見られ、Geekbenchスコアでは競合としばしば互角以上の結果を示します。しかし、AnTuTuやGeekbenchのスコアには搭載端末によるばらつきが大きく、また高負荷時のスロットリングも報告されているため、実際のパフォーマンスはデバイスの実装に依存する側面が強いと言えます。

5. Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2 詳細分析

5.1. 主要スペック

Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2は、2022年11月に発表されたQualcommのフラッグシップSoCであり、Dimensity 9200/9200+の主要な競合製品です ²¹。多くのプレミアムAndroidスマートフォンに採用されています ²²。

CPU: ARMv9-Aアーキテクチャを採用した8コア構成ですが、Dimensityとは異なるコア構成を採用しています。

1x ARM Cortex-X3 @ 3.2GHz (Kryo Prime)
2x ARM Cortex-A715 @ 2.8GHz (Kryo Performance)
2x ARM Cortex-A710 @ 2.8GHz (Kryo Performance)
3x ARM Cortex-A510 @ 2.0GHz (Kryo Efficiency)
L3キャッシュ: 8MB ⁶

GPU: Adreno 740を搭載し、ハードウェアアクセラレーションによるレイトレーシングに対応しています。GPU周波数は680MHzです ²¹。
AI: 新しいQualcomm AI EngineとHexagonプロセッサを搭載しています ⁷。
プロセス: TSMCの4nmプロセスで製造されています ⁶。
メモリ: LPDDR5X (最大4200MHz、帯域幅67.2 Gbit/s) をサポートします ⁶。
ストレージ: UFS 4.0をサポートします ⁶。
ディスプレイ: 最大4K@60Hz / QHD+@144Hzのオンデバイスディスプレイをサポートします ⁷。
カメラ: 18-bit Triple Cognitive ISP (Spectra) を搭載し、最大200MPの写真撮影、8K HDR@30fps、4K@120fpsのビデオ撮影に対応します ⁷。
接続性: Snapdragon X70 5Gモデムを統合し、最大10Gbpsのダウンロード速度に対応します。Wi-Fi 7、Bluetooth 5.3をサポートします ⁷。

特筆すべき点として、「Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxy」と呼ばれる特別バージョンが存在します。これは主にSamsung Galaxy S23シリーズなどに搭載され、標準版と比較してCPUのプライムコアクロックが3.36GHz、GPUクロックが719MHzと、わずかに高く設定されています ⁶。ただし、実使用上の性能差は小さいとされています ⁶。

5.2. ベンチマークスコア

Snapdragon 8 Gen 2は、多くのベンチマークテストで非常に高いスコアを記録しており、当時の最高レベルのパフォーマンスを提供していました。ただし、Dimensity 9200+と同様に、搭載デバイスやテスト条件によるスコアの変動が見られます。

AnTuTu Benchmark (v10):
平均的なスコアは約155万点〜160万点 ⁶ ですが、一部の高性能デバイスでは170万点を超えるスコアも報告されています ²¹。

例: 1,557,749点 (CPU 390k, GPU 619k) ⁶
例: 1,601,782点 (GPU 608k) ²⁶
例: 1,609,763点 (CPU 387k, GPU 612k) ²⁴
一方で、134万点台 ¹⁵ や120万点台 ⁸ のスコアも報告されており、ばらつきが存在します。
Geekbench:
v6: シングルコア約1,991点〜2,020点 / マルチコア約5,299点〜5,621点 ⁶。

例: シングル 1,991 / マルチ 5,299 ⁶
例: シングル 2,020 / マルチ 5,621 (RedMagic 8 Pro) ²⁵
例: シングル 2,012 / マルチ 5,461 ²⁴

v6 (Galaxy版): シングル約1,881点〜1,930点 / マルチ約4,972点〜5,274点 ¹⁹ (標準版より低い場合もある)
v5: シングルコア約1,486点〜1,537点 / マルチコア約4,876点〜5,217点 ⁵
AnTuTu同様、Geekbenchスコアもデバイス間で変動が見られ、例えばシングル1,559点/マルチ5,100点 ²² などの報告もあります。
3DMark:

Wild Life: 約13,003点 ⁶ (Graphics Test: 77 FPS ⁶)
Wild Life (FPS): 84-87 FPS ²⁵
Wild Life Extreme: 約3,342点〜3,790点 ⁵ (FPS: 22-23 FPS ²⁵)
Solar Bay: 約4,879点〜5,571点 ⁹
Sling Shot Extreme Unlimited Physics: 平均 6,150点 ¹²
Sling Shot Unlimited Physics: 6,200点 ¹²
AI Benchmark: 5,192点 ¹

Snapdragon 8 Gen 2は、特にGPU性能 (Adreno 740) とAI処理性能において、競合に対して強力なアドバンテージを持つことがベンチマークスコアから示唆されています。CPU性能も非常に高いレベルにありますが、Dimensity 9200+と比較するとテストによっては僅差となる場面も見られます。AnTuTuやGeekbenchのスコアに見られるばらつきは、Dimensityと同様に、デバイスの冷却性能やソフトウェアの最適化、そして「for Galaxy」版の存在などが影響していると考えられます。

6. Dimensity 9200/9200+ vs Snapdragon 8 Gen 2 比較分析

Dimensity 9200/9200+とSnapdragon 8 Gen 2は、いずれも2023年頃のハイエンドスマートフォン市場をターゲットとした高性能SoCであり、多くの点で拮抗していますが、性能特性には違いが見られます。

6.1. 総合性能 (AnTuTu)

AnTuTu v10の総合スコアでは、Snapdragon 8 Gen 2がDimensity 9200を約6%上回る結果が報告されています (SD 8 Gen 2: ~155万点 vs D9200: ~146万点) ⁶。Dimensity 9200+はDimensity 9200から性能向上を果たしていますが、Snapdragon 8 Gen 2と比較した場合、テストによってはSnapdragon 8 Gen 2が最大5%程度上回る結果 ¹⁶ や、逆にDimensity 9200+が上回る結果 ¹⁴ もあり、総合性能は非常に僅差であると言えます。ただし、前述の通り、AnTuTuスコアはデバイスやテスト条件によるばらつきが大きいため、絶対的な比較には注意が必要です ¹¹。

6.2. CPU性能 (Geekbench)

Geekbench 6のスコアを見ると、CPU性能における両者の競争はさらに接戦となります。

Dimensity 9200 vs Snapdragon 8 Gen 2: シングルコア性能ではSnapdragon 8 Gen 2が僅かに (約2%) 高いスコアを示す一方、マルチコア性能では両者はほぼ同等です ⁶。XDA-Developersの分析では、Dimensity 9200がシングルコアで優位に立つ場面もあると指摘されています ⁷。
Dimensity 9200+ vs Snapdragon 8 Gen 2: Dimensity 9200+は、クロック向上により、多くのテストでSnapdragon 8 Gen 2をシングルコア (最大5%程度) およびマルチコア (最大4%程度) の両方で僅かに上回る結果を示しています ¹⁶。

ただし、ここでもスコアのばらつきは無視できません。一部のテストではDimensity 9200+のスコアがSnapdragon 8 Gen 2を下回るケースも報告されており ¹⁴、実際のアプリケーションにおける体感差は小さい可能性があります。Snapdragon 8 Gen 2がパフォーマンスコアを4つ (A715 x2 + A710 x2) 搭載しているのに対し、Dimensity 9200/9200+は3つ (A715 x3) である構成の違いも、マルチコア性能の特性に影響を与えている可能性があります ⁷。

6.3. GPU性能 (3DMark, GFXBench)

GPU性能に関しては、Snapdragon 8 Gen 2 (Adreno 740) がDimensity 9200/9200+ (Immortalis-G715) に対して明確な優位性を示す傾向があります。

3DMark Wild Life: Snapdragon 8 Gen 2はDimensity 9200を約5% ⁶、Dimensity 9200+を約18% ¹⁶ 上回るスコアを記録しています。
3DMark Wild Life Extreme: Snapdragon 8 Gen 2搭載機 (Galaxy S23 Ultra) がDimensity 9200搭載機 (vivo X90 Pro) を僅かに上回るスコアが報告されています ⁵。別のテストではSD 8 Gen 2がD9200+を上回っています ¹⁵。
GFXBench: XDA-Developersの比較では、Snapdragon 8 Gen 2がAztec RuinsやManhattanといったテストでDimensity 9200を一貫して上回っています ⁷。

Dimensity 9200/9200+のImmortalis-G715も非常に高性能なGPUであり、ハードウェアレイトレーシングにも対応していますが、ピーク性能やベンチマークスコアにおいてはAdreno 740に一歩譲る形となっています。

6.4. AI性能 (AI Benchmark)

AI処理性能においては、Snapdragon 8 Gen 2がDimensity 9200および9200+に対して圧倒的な差をつけています。AI Benchmarkのスコアでは、Snapdragon 8 Gen 2が5192点であるのに対し、Dimensity 9200+は1161点、Dimensity 9200は1052点に留まります ¹。これは、SnapdragonのHexagonプロセッサとAI Engineが、AIに特化したタスクにおいて非常に高い効率と性能を発揮することを示唆しています。画像認識、自然言語処理、AIを活用したカメラ機能など、AIが重要となるアプリケーションにおいて、Snapdragon 8 Gen 2は大きなアドバンテージを持つ可能性があります。

6.5. ゲーミング性能

両SoCともに、高いGPU性能を活かして優れたゲーミング体験を提供します。

Snapdragon 8 Gen 2: PUBG Mobileで90fps (Ultra)、World of Tanks Blitzで120fps (Ultra)、Genshin Impactで59fps (Ultra) といった高フレームレートでの動作が報告されています ²¹。3DMarkのスコアも高く、モバイルゲーム機に匹敵する性能と評価されています ³²。
Dimensity 9200+: Xiaomi 13T Proでのテストでは、PUBG Mobileが最高設定で快適に動作し、Genshin Impactも最高画質+60fps設定で平均57fpsを維持し、快適にプレイ可能と報告されています ³³。電力効率の比較では、特定の人気ゲームタイトルにおいて10〜21%の優位性があるとMediaTekは主張しています ¹³。

GPUベンチマークではSnapdragon 8 Gen 2が優位ですが、Dimensity 9200+も実際のゲームプレイでは最高レベルの設定で快適な動作を実現しており、一般的なゲーミング用途においては両者に大きな差はないと考えられます。ただし、Snapdragonプラットフォームはオープンソースであるため、ゲーム開発者による最適化が進みやすいという指摘もあります ¹⁶。

6.6. 電力効率と発熱・スロットリング

電力効率と発熱制御は、持続的なパフォーマンスに不可欠な要素です。

Dimensity 9200+: クロック周波数を向上させつつ消費電力は据え置きとされていますが ¹³、高負荷時のCPUスロットリングテストでは性能維持率が46.3%〜69%と報告されており ¹⁴、デバイスの冷却性能によってはピーク性能を長時間維持できない可能性があります。
Dimensity 9200: XDA-DevelopersのBurnout Benchmarkテストでは、ピーク時の消費電力はSnapdragon 8 Gen 2よりわずかに高いものの、負荷が下がるとSnapdragon 8 Gen 2よりも低い消費電力で、かつ高いCPU性能を維持する場面が見られました ⁷。
Snapdragon 8 Gen 2: 高いパフォーマンスを発揮する一方で、高負荷時には相応の発熱とスロットリングが発生する可能性があります ²⁸。しかし、多くのデバイスで高いパフォーマンスレベルを維持できています ²⁵。

総じて、両SoCともに高性能ゆえの発熱は避けられませんが、Dimensity 9200+は特にピーク性能と持続性能のバランスにおいて、搭載されるスマートフォンの冷却設計への依存度が高い可能性があります。

6.7. ベンチマークスコアのばらつきについて

本レポートで収集したデータからも明らかなように、同じSoCであってもベンチマークスコアは情報源やテスト対象デバイスによって大きく変動します。例えば、Dimensity 9200+のAnTuTu v10スコアは130万点台から150万点台後半まで ¹¹、Snapdragon 8 Gen 2のAnTuTu v10スコアも120万点台から170万点台まで ⁸ と幅があります。Geekbenchスコアも同様です ¹⁴。

このばらつきの要因としては、以下が考えられます。

デバイス固有の要因: スマートフォンの冷却機構（ベイパーチャンバーの有無やサイズ、内蔵ファンの有無など）、メモリやストレージの速度、ソフトウェア（OSバージョン、ドライバ、メーカー独自のチューニング）などがスコアに影響します ⁵。
テスト環境: 室温、バッテリー残量、バックグラウンドで動作しているアプリなどが影響します。
ベンチマークアプリのバージョン: AnTuTu v9とv10、Geekbench 5とv6ではスコアリングの基準が異なります。
SoCのバリエーション: Snapdragon 8 Gen 2には「for Galaxy」版が存在し、わずかにクロックが高いです ⁶。

したがって、特定のベンチマークスコアだけでSoCの性能を断定するのではなく、複数の情報源からのデータを参照し、デバイスやテスト条件の違いを考慮に入れることが重要です。

7. 市場ポジショニング

ベンチマーク分析に基づくと、MediaTek Dimensity 9200および9200+は、Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2と直接競合するフラッグシップレベルのSoCです。

Dimensity 9200/9200+: Snapdragon 8 Gen 2に対して、CPU性能では同等か、Dimensity 9200+の場合は僅かに優位に立つ場面もあります。これにより、一般的なアプリケーションの動作やマルチタスク処理において、非常に高いパフォーマンスを提供します。ゲーミング性能も高く、多くの要求の厳しいゲームを快適にプレイできます。一方で、GPUのピーク性能や、特にAI処理性能においてはSnapdragon 8 Gen 2に後れを取っています。MediaTekは伝統的にコストパフォーマンスに優れた選択肢を提供することが多く、Dimensity 9200/9200+もSnapdragon 8 Gen 2搭載機と比較して、同等クラスの性能をより手頃な価格帯のデバイスで実現する可能性があります ⁶。Xiaomi 13T Pro、Vivo X90シリーズ、iQOO Neo 8 Proなどが搭載機種として挙げられます ⁵。
Snapdragon 8 Gen 2: 総合的なベンチマークスコア、特にGPU性能とAI性能において優位性を持っています。これにより、最高のグラフィックス設定でのゲーミングや、AIを活用した高度な機能においてアドバンテージがあります。Samsung Galaxy S23シリーズ、OnePlus 11/Open、Xiaomi 13シリーズ、iQOO Neo 9 Proなど、幅広いメーカーのプレミアムフラッグシップモデルに採用されており、市場での存在感は非常に大きいです ²¹。

Dimensity 9200シリーズは、Snapdragon 8 Gen 2に対する強力な対抗馬であり、特にCPU性能を重視するユーザーや、コストパフォーマンスを求めるユーザーにとって魅力的な選択肢となります。しかし、最高のGPU性能や最先端のAI機能を求める場合は、Snapdragon 8 Gen 2に軍配が上がると言えるでしょう。

8. 結論

本調査により、MediaTek Dimensity 9200および9200+は、Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2と並ぶ高性能なフラッグシップSoCであることが確認されました。

Dimensity 9200/9200+ は、強力なCPU性能（特にDimensity 9200+はGeekbenchスコアでSnapdragon 8 Gen 2を上回る場合がある）と優れたグラフィックス性能を持ち、要求の厳しいアプリケーションやゲームにも十分対応可能です。Dimensity 9200+は、Dimensity 9200から着実な性能向上を実現しています。
Snapdragon 8 Gen 2 は、全体的なベンチマークスコア、特にGPU性能 (Adreno 740) とAI処理性能において、Dimensity 9200シリーズに対して優位性を示します。幅広いフラッグシップデバイスへの採用実績があり、市場での評価も確立されています。
両SoCともに高性能ですが、ベンチマークスコアは搭載デバイスの設計やテスト条件によって変動するため、個々のスマートフォンのレビューも参考にすることが推奨されます。特にDimensity 9200+は、高負荷時のスロットリングに関する報告があり、持続性能はデバイスの冷却能力に左右される可能性があります。

最終的に、どちらのSoCが最適かは、ユーザーが重視する性能側面（CPU、GPU、AI、持続性能、価格など）によって異なります。Dimensity 9200シリーズは、Snapdragon 8 Gen 2に匹敵する性能を提供しつつ、市場における選択肢の多様化に貢献していると言えるでしょう。