MediaTek Dimensity 9300+ ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.23

1. はじめに
2. Dimensity 9300+ ベンチマークスコア
3. 競合SoCとの性能比較
4. Dimensity 9300+ 技術仕様
5. Dimensity 9300+ 搭載スマートフォンの実機レビュー
6. 冷却性能とソフトウェア最適化の影響
7. 専門家・メディアの評価と市場での位置づけ
8. まとめ

1. はじめに

MediaTek Dimensity 9300+は、台湾のファブレス半導体メーカーであるMediaTekが2024年5月に発表した、同社のフラッグシップSystem-on-a-Chip（SoC）です ¹。これは、2023年11月に発表されたDimensity 9300の性能向上版であり、主にプライムCPUコアであるArm Cortex-X4の最大クロック周波数が3.25GHzから3.4GHzへと引き上げられ、AI処理能力も強化されています ¹。

Dimensity 9300シリーズは、従来のbig.LITTLE構成とは異なり、高性能コア（Big Core）のみで構成される「All Big Core」アーキテクチャを採用している点が最大の特徴です。Dimensity 9300+では、1基のCortex-X4（最大3.4GHz）、3基のCortex-X4（最大2.85GHz）、そして4基のCortex-A720（最大2.0GHz）という8コア構成を継承しています ¹。この構成により、特にマルチコア性能において高いパフォーマンスが期待されます。

本レポートでは、Dimensity 9300+の性能を、主要なベンチマークテストの結果、競合となるハイエンドSoC（Qualcomm Snapdragon 8 Gen 3、Apple A17 Proなど）との比較、詳細な技術仕様、そしてDimensity 9300+を搭載したスマートフォンの実機レビューや専門家の評価を通じて多角的に分析します。これにより、Dimensity 9300+の実際の性能レベルと市場における位置づけを明らかにすることを目的とします。

2. Dimensity 9300+ ベンチマークスコア

各種ベンチマークテストは、SoCの理論的なピーク性能を測る上で重要な指標となります。Dimensity 9300+の主要なベンチマークスコアを以下に示します。

2.1. AnTuTu Benchmark v10

AnTuTu Benchmarkは、CPU、GPU、メモリ、UX（ユーザーエクスペリエンス）の性能を総合的に評価するテストです。Dimensity 9300+のAnTuTu v10における平均的なスコアは約211万点と報告されています ¹。

その内訳は以下の通りです ¹：

CPU：約505,590点
GPU：約864,600点
Memory：約385,208点
UX：約356,238点

この総合スコア200万点超えは、現在のスマートフォン市場において最高クラスのハイエンド性能を持つことを示唆しています ⁶。

実際にDimensity 9300+を搭載したスマートフォンのスコア例を見ると、デバイスの冷却性能やソフトウェア最適化によってばらつきが見られます。例えば、nanoreview.netに掲載されているスコアでは、Realme Neo 7が約218万点、Xiaomi Redmi K70 Ultraが約215万点、Vivo iQOO Neo 9S Proが約211万点、Vivo X100s Proが約209万点、Xiaomi 14T Proが約205万点を記録しています ¹。

また、日本のレビューサイトGarumaxに投稿された実機計測データでは、Redmi K70 Ultra（12GB RAM）が総合211万点（GPU 86.5万点）⁶、Xiaomi 14T Pro（12GB RAM）が複数の計測で総合176万点から201万点（GPU 69万点から84万点）の範囲で報告されており、同一モデルでも個体差や測定条件による変動があることがわかります ⁷。

2.2. Geekbench 6

Geekbench 6は、CPUのシングルコア性能とマルチコア性能を測定するベンチマークです。Dimensity 9300+のスコアは情報源によって若干異なりますが、おおむね以下の範囲にあります。

nanoreview.net：シングルコア約2302点、マルチコア約7547点 ¹
Notebookcheck.net：シングルコア約2182点、マルチコア約7131点 ²

これらのスコアは、シングルコア性能では競合のSnapdragon 8 Gen 3と同等レベルである一方、マルチコア性能ではそれを上回る傾向があることを示しています ²。これは、Dimensity 9300+が4つの高性能なCortex-X4コアを搭載する「All Big Core」構成を採用していることによるものと考えられます。

nanoreview.netによるGeekbench 6の詳細なCPUタスク別スコアは以下の通りです ¹：

Asset compression: 297.8 MB/sec
HTML 5 Browser: 211.7 pages/sec
PDF Renderer: 256.8 Mpixels/sec
Image detection: 160 images/sec
HDR: 221.7 Mpixels/sec
Background blur: 26.6 images/sec
Photo processing: 61.3 images/sec
Ray tracing: 7.78 Mpixels/sec

また、GPU演算性能を示すComputeスコアは15475点と報告されています ¹。

2.3. 3DMark

3DMarkは、主にGPUのグラフィック性能を測定するベンチマークです。Dimensity 9300+のスコアは以下の通りです。

Wild Life Performance (Vulkan/Metal):
nanoreview.net：14766点 (Graphics test: 88 FPS) ¹
Wild Life Extreme (Vulkan/Metal):
UL Benchmarks (iQOO Neo 9S Pro実機)：5144点 (Stability: 57%) ⁸
Solar Bay (Ray Tracing):
UL Benchmarks (iQOO Neo 9S Pro実機)：7843点 ⁸

これらのスコアは、Dimensity 9300+が高いGPU性能を有することを示しています。特にWild Life Performanceのスコアは競合のSnapdragon 8 Gen 3に匹敵するレベルです ¹。しかし、より負荷の高いWild Life Extremeやレイトレーシング性能を測るSolar Bayにおいては、Snapdragon 8 Gen 3搭載機の方が高いスコアを出す傾向が見られます ⁸。これは、ピーク性能や特定のグラフィック技術（レイトレーシングなど）において、Snapdragon 8 Gen 3のAdreno GPUが優位性を持つ可能性を示唆しています ¹⁰。

3. 競合SoCとの性能比較

Dimensity 9300+の性能をより深く理解するため、主要な競合SoCであるQualcomm Snapdragon 8 Gen 3およびApple A17 Proと比較分析します。

3.1. vs Snapdragon 8 Gen 3

Snapdragon 8 Gen 3は、Dimensity 9300+と同時期に登場したQualcommのフラッグシップSoCであり、多くのハイエンドAndroidスマートフォンに搭載されています。

CPU性能:
Dimensity 9300+とSnapdragon 8 Gen 3のCPUアーキテクチャは大きく異なります。Dimensity 9300+が4つのCortex-X4と4つのCortex-A720で構成される「All Big Core」設計であるのに対し、Snapdragon 8 Gen 3は1つのCortex-X4、5つのCortex-A720（クロック違い2種）、2つのCortex-A520（効率コア）という、より伝統的なbig.LITTLE構成を発展させた1+5+2の構成を採用しています 1。
この構成の違いはベンチマークスコアにも表れています。Geekbench 6では、シングルコア性能は両者ほぼ同等か僅差ですが、マルチコア性能ではDimensity 9300+がSnapdragon 8 Gen 3をわずかに上回る傾向が見られます ²。AnTuTu v10のCPUスコア比較でも、Dimensity 9300+（約50.5万点）がSnapdragon 8 Gen 3（約46万点）を上回っています ¹。これは、Dimensity 9300+の持つ4つの強力なCortex-X4コアがマルチスレッド処理において有利に働くためと考えられます ¹⁰。一方、Snapdragon 8 Gen 3は効率コアを含むバランスの取れた構成で、様々なタスクに対応することを目指しています ¹⁰。
GPU性能:
GPU性能に関しては、Snapdragon 8 Gen 3のAdreno 750が優位性を示す場面が多いようです。3DMark Wild Lifeのスコアでは、nanoreview.netのデータではDimensity 9300+ (14766) とSnapdragon 8 Gen 3 (14603) は僅差ですが 1、Android Authorityによる実機テストではSnapdragon 8 Gen 3搭載機がDimensity 9300搭載機を約26%上回る結果が出ています 10。また、pokde.netによるXiaomi 14T Pro (Dimensity 9300+) とXiaomi 14 (Snapdragon 8 Gen 3) の比較でも、GPU性能ではSnapdragonに分があると指摘されています 11。
特にレイトレーシング性能を測る3DMark Solar Bayでは、Snapdragon 8 Gen 3がDimensity 9300に対して約21%高いスコアを記録しており ¹⁰、Dimensity 9300+搭載のiQOO Neo 9S Proのスコア ⁸ を考慮しても、この傾向は変わらない可能性が高いです。これは、Adreno GPUのアーキテクチャやドライバ最適化が、特定の高負荷グラフィック処理やゲームにおいて有利に働いていることを示唆しています ¹⁰。
AI性能 (NPU):
AI性能は、Dimensity 9300+のAPU 790とSnapdragon 8 Gen 3のHexagon NPUが競合します。AI Benchmarkのスコアでは、Snapdragon 8 Gen 3 (6971点) がDimensity 9300+ (6276点) を上回っています 16。
機能面では、両者ともオンデバイスでの生成AI処理能力を大幅に強化しており、大規模言語モデル（LLM）のサポートを謳っています。Dimensity 9300+は、MediaTek独自のNeuroPilot Speculative Decode Acceleration技術によりLLMの推論速度を向上させ、70億パラメータのLLMを毎秒22トークンで処理できるとしています ⁴。一方、Snapdragon 8 Gen 3もINT4/INT8/INT16といった混合精度演算に対応し、効率的なAI処理を実現します ¹⁰。ベンチマークスコア上はSnapdragonが優位ですが、実際のアプリケーションにおける性能差は、実行されるAIモデルやタスクの種類、ソフトウェア最適化の度合いによって変わる可能性があります ¹⁷。
持続性能 (Throttling):
Dimensity 9300の初期レビューでは、「All Big Core」構成に起因する発熱と、それに伴うサーマルスロットリング（性能低下）への懸念が指摘されていました 3。高負荷なCPUストレステストにおいて、短時間で性能が大幅に低下する結果が報告されたことがあります 18。
しかし、その後のVivo X100 Pro（Dimensity 9300搭載）の実機テストでは、15分間のCPU負荷テストで性能低下は最大でも27%程度に留まり、比較的安定した動作を見せたという報告もあります ²²。これは、デバイス側の冷却設計が性能維持に大きく影響することを示唆しています。
Dimensity 9300+搭載機に関するレビューを見ると、この点はさらに改善されているようです。Xiaomi 14T ProやiQOO Neo 9S Proなどのレビューでは、大型のベイパーチャンバーといった強化された冷却システムの効果により、長時間のゲームプレイでも過度な発熱は抑えられ、パフォーマンスは安定していると評価されています ¹¹。
一方、Snapdragon 8 Gen 3も高負荷時にはスロットリングが発生しますが、Android Authorityのストレステスト比較では、Dimensity 9300よりも安定性が高い結果となっています ¹⁰。ただし、テストに使用されたREDMAGIC 9 Proは冷却ファンを備えたゲーミングフォンであり、一般的なスマートフォンではより大きな性能低下が見られる可能性も指摘されています ¹⁰。
結論として、Dimensity 9300+の持続性能は、搭載されるスマートフォンの冷却設計に大きく依存します。適切な冷却機構が備わっていれば、「All Big Core」構成の懸念材料であったスロットリング問題は、実用上大きな問題とはなりにくいレベルまで改善されていると考えられます ²⁵。

3.2. vs Apple A17 Pro

Apple A17 Proは、iPhone 15 Proシリーズに搭載されているAppleのハイエンドSoCです。

CPU性能:
Geekbench 6のスコア比較では、シングルコア性能においてApple A17 ProがDimensity 9300+を大幅に上回っています 2。これは、Apple独自のCPUコア設計の高い効率性と性能を反映しています。一方で、マルチコア性能ではDimensity 9300+がA17 Proと同等か、わずかに上回るスコアを示しており、コア数の多さ（8コア vs 6コア）と「All Big Core」構成が有利に働いていると考えられます 2。AnTuTu v10の総合スコアではDimensity 9300+がA17 Proを大きく上回りますが、異なるOSプラットフォーム間のスコアを直接比較する際には注意が必要です 1。
GPU性能:
GPU性能では、Dimensity 9300+がA17 Proを明確に上回っています。3DMark Wild Lifeのスコア比較では、Dimensity 9300+（約14766点）がA17 Pro（約10006点）に対して約47%高いスコアを記録しています 1。これは、Dimensity 9300+に搭載されているArm Immortalis-G720 MP12 GPUの高い性能を示しています 32。
AI性能 (NPU):
AI処理能力においても、Dimensity 9300+がA17 Proを大きくリードしています。AI Benchmarkのスコアでは、Dimensity 9300+（6276点）がA17 Pro（3428点）の約1.8倍のスコアを記録しています 16。これは、Dimensity 9300+に搭載されたAPU 790の高いAI処理能力を裏付けています。

3.3. vs Dimensity 9300

Dimensity 9300+は、Dimensity 9300のマイナーアップデート版です。主な違いは、プライムコアであるCortex-X4の最大クロック周波数が3.25GHzから3.4GHzに向上した点と、APU 790の最適化によるAI性能の向上（MediaTekによれば10%向上）です ¹。

ベンチマークスコアの比較では、その差は比較的小さいものとなっています。

AnTuTu v10：9300+ (約211万点) vs 9300 (約208万点) ¹
Geekbench 6：シングルコア、マルチコア共に9300+がわずかに高いスコア ¹

全体として、Dimensity 9300+は9300からの着実な進化版であり、特にAI関連のタスクにおいて性能向上が期待できますが、基本的なCPU/GPU性能における差は限定的と言えます ³。

4. Dimensity 9300+ 技術仕様

Dimensity 9300+の主要な技術仕様は以下の通りです。

CPU: ¹

構成: 1x Arm Cortex-X4 @ 最大 3.4GHz + 3x Arm Cortex-X4 @ 最大 2.85GHz + 4x Arm Cortex-A720 @ 最大 2.0GHz (All Big Core設計)
アーキテクチャ: ARMv9.2-A ¹
キャッシュ: 18MB L3キャッシュ + System Level Cache (SLC), 1MB L2キャッシュ ¹
GPU: ¹

モデル: Arm Immortalis-G720 MP12
クロック周波数: 1300 MHz ¹
アーキテクチャ: Valhall 5th gen ¹
機能: 第2世代ハードウェアレイトレーシングエンジン、可変レートシェーディング (VRS) ¹
AIプロセッサ (APU): ⁵

モデル: MediaTek APU 790
機能: 生成AI特化、NeuroPilot Speculative Decode Acceleration、LoRA Fusion 2.0、ExecuTorch Delegation対応
性能: 70億パラメータLLMで22トークン/秒、最大330億パラメータLLMサポート ⁴
メモリ: ¹

タイプ: LPDDR5T
周波数: 最大 9600 Mbps
帯域幅: 最大 76.8 Gbit/s ¹
ストレージ: ¹
タイプ: UFS 4.0 + Multi-Circular Queue (MCQ)
製造プロセス: ¹
TSMC 第3世代 4nm プロセス (N4P)
接続性: ¹

モデム: MediaTek T830 (5G R16モデム統合)
5G: Sub-6GHz (4CC-CA、最大7.9Gbps ダウンリンク) ※mmWave対応については公式仕様書に明記なし
Wi-Fi: Wi-Fi 7 (802.11be、最大6.5 Gbps)
Bluetooth: 5.4
イメージシグナルプロセッサ (ISP): ²

モデル: MediaTek Imagiq 990
機能: 18-bit RAW処理、AI Semantic Analysis Video Engine (16カテゴリシーン分割)
ディスプレイサポート: ⁵

最大解像度/リフレッシュレート: WQHD @ 180Hz, 4K @ 120Hz
機能: MediaTek MiraVision 990、AIデプスエンジン、デュアルアクティブディスプレイ対応
セキュリティ: ⁵
セキュアプロセッサ (HWRoT)、Arm Memory Tagging Extension (MTE)

この仕様から、Dimensity 9300+がCPU、GPU、AI、メモリ、接続性など多岐にわたる分野で最先端の技術を採用していることがわかります。特に、LPDDR5Tメモリへの対応や強化されたAPU 790は、競合に対するアドバンテージとなり得ます。

5. Dimensity 9300+ 搭載スマートフォンの実機レビュー

Dimensity 9300+を搭載した主要なスマートフォンの実機レビューから、実際の使用感やパフォーマンスを見ていきます。

5.1. Xiaomi 14T Pro

Xiaomi 14T Proは、Dimensity 9300+を搭載した代表的なグローバルモデルの一つです。

パフォーマンス: レビューでは、Dimensity 9300+による高速かつ効率的な動作が高く評価されています ²³。Snapdragon 8 Gen 3搭載のXiaomi 14と比較しても、全体的なパフォーマンスは遜色なく、むしろ一部のベンチマークでは上回る結果も示しています ¹¹。
ゲーミング: 高負荷なゲーム（原神、Zenless Zone Zero、PUBG Mobile、Call of Duty Mobileなど）を最高設定に近いグラフィックで、安定して高いフレームレート（タイトルによっては120fps）でプレイ可能です ²⁴。Xiaomi独自の大型冷却システム「Xiaomi 3D IceLoop」の効果により、長時間のプレイでも本体温度は適切に管理され、サーマルスロットリングによる性能低下は最小限に抑えられていると報告されています ²⁵。持続的なゲーミング性能は非常に優れているとの評価です ²⁵。
バッテリー: 5000mAhのバッテリーを搭載し、多くのレビューでバッテリー持ちは良好と評価されています ²³。120Wの超高速有線充電（公称19分、実測約23分で満充電）と50Wの高速ワイヤレス充電に対応している点も大きな特徴です ²³。
カメラ: カメラシステムはLeicaとの協業によるもので、特にメインカメラの画質は良好です。前モデルと比較してズーム撮影時の画質が向上したと評価されています ²³。AIを活用した画像編集機能（AI Magic Erase Proなど）も利用可能です ⁴¹。
総合評価: Xiaomi 14T Proは、Dimensity 9300+の高い性能、優れたディスプレイ品質、超高速充電、Leicaカメラなどを備えながら、比較的手頃な価格設定（欧州で約800ユーロ未満）を実現しており、非常にコストパフォーマンスの高い「フラッグシップキラー」モデルとして高く評価されています ¹¹。

5.2. Vivo X100s / X100s Pro

Vivo X100sおよびX100s Proは、Dimensity 9300+をいち早く搭載したモデルです。

パフォーマンス: Dimensity 9300+へのアップデートにより、CPU性能はわずかな向上ですが、GPU性能は向上し、同時に消費電力が削減されたとレビューされています ⁴³。AnTuTuベンチマークでは220万点を超えるスコアも報告されています ⁴³。
ゲーミング (X100s): Vivo X100sでのゲームテストでは、原神（最高設定、60fpsターゲット）で平均58.7fpsを記録し、その際の平均消費電力はわずか4.8W、デバイス最高温度も39.3℃と、非常に効率的かつ低温での動作が確認されています ⁴³。よりGPU負荷の高い「崩壊：スターレイル」でも平均53.7fps、消費電力6.5Wと、前モデル（X100/Dimensity 9300）よりも改善が見られます ⁴³。Vivo端末の冷却性能は高く評価されており、長時間のゲームプレイでも快適さが維持されるようです ²⁸。
バッテリー: X100sは5100mAhバッテリーと100W有線充電 ⁴⁴、X100s Proは5400mAhバッテリーと100W有線・50W無線充電に対応しています ⁴⁵。バッテリー持ちは良好との評価です ⁴³。
カメラ: カメラシステムはZeissとの共同開発によるものです。X100s Proは大型の1インチセンサーとVivo独自のV3イメージングチップを搭載し、高いカメラ性能を誇ります ⁴⁵。X100sはV2チップを搭載しますが、ポートレートモードやストリートスナップ機能などが特徴とされています ⁴³。
デザイン: X100sは、前モデルX100の曲面ディスプレイからフラットディスプレイに変更され、本体の厚みも7.8mmと薄型化されています ⁴³。
総合評価: Dimensity 9300+による着実な性能向上、特にGPU性能と電力効率の改善が評価されています。Vivoならではの高いカメラ性能と組み合わせることで、魅力的なフラッグシップモデルとなっています ⁴³。

5.3. iQOO Neo 9S Pro

iQOO Neo 9S Proは、Dimensity 9300+を搭載しながら価格を抑えた、ゲーミング性能重視のモデルです。

パフォーマンス: Dimensity 9300+に加えて、Vivo/iQOO独自の独立ゲーミングチップQ1を搭載しており、非常に高速な動作を実現しています ²⁷。
ゲーミング: 高負荷なゲームを高フレームレートでスムーズにプレイできるだけでなく、「Game Frame Interpolation」機能により、対応ゲームではフレームレートを最大144fpsまで向上させることが可能です ²⁶。大型の6K Canopy VC液体冷却システムにより、長時間のゲームプレイでも発熱は効果的に抑制されます ²⁶。優れた触覚フィードバック（4D Game Vibration）もゲーム体験を高めています ²⁷。
バッテリー: 5160mAhの大容量バッテリーと120Wの高速有線充電をサポートしており、バッテリー持ちも良好と評価されています ⁴⁷。
カメラ: リアカメラは50MPのメインセンサーと50MPの超広角センサーのデュアル構成です。画質は良好ですが、特に超広角カメラや低照度性能においては、同価格帯の競合製品に劣る可能性があると指摘されています ²⁷。
総合評価: iQOO Neo 9S Proは、Dimensity 9300+の性能を最大限に引き出し、優れたゲーミング体験を手頃な価格で提供する「ミドルレンジキラー」として高く評価されています ²⁷。ただし、このモデルは主に中国市場向けであり、グローバルでの入手性やGoogleサービスの完全な互換性には注意が必要です ⁵¹。

5.4. Redmi K70 Ultra

Redmi K70 Ultraは、Xiaomi傘下のRedmiブランドから登場したDimensity 9300+搭載モデルです。

パフォーマンス: AnTuTuベンチマークで210万点を超えるスコアを記録しており ¹、一部のシナリオではSnapdragon 8 Gen 3を上回る性能を発揮するとも評価されています ⁵²。
ゲーミング: 高負荷なゲームプレイ時においても、発熱は適切に管理されているとのレビューがあります ⁵⁴。
バッテリー: 5500mAhの大容量バッテリーと120Wの高速有線充電に対応しています ⁵⁵。バッテリー管理の効率が良いとのユーザー評価もあります ⁵²。
ディスプレイ: 6.67インチの1.5K解像度OLEDディスプレイを搭載し、144Hzのリフレッシュレートに対応しています ⁵³。
総合評価: Redmi K70 Ultraは、Dimensity 9300+の高い性能と大容量バッテリー、高速充電などを備えながら、非常に高いコストパフォーマンスを実現しているモデルです ⁵⁴。このモデルは、グローバル市場ではXiaomi 14T Proとして展開される可能性が高いと見られています ⁵³。

これらの実機レビューから、Dimensity 9300+は搭載されるデバイスにおいて、総じて高いパフォーマンスを発揮し、特にゲーミング性能やバッテリー効率の面で優れた結果を示していることがわかります。初期のDimensity 9300で懸念された発熱やスロットリングの問題も、デバイス側の冷却設計の進化により、実用上は大きく改善されているようです。

6. 冷却性能とソフトウェア最適化の影響

Dimensity 9300および9300+が採用する「All Big Core」アーキテクチャは、理論上高いピーク性能を発揮できる一方で、すべてのコアが高性能コアであるため、発熱と消費電力の管理が極めて重要になります ¹⁸。このため、搭載されるスマートフォンの冷却設計とソフトウェアによる最適化が、実際のパフォーマンスとユーザー体験を大きく左右します。

初期のDimensity 9300搭載デバイスに関するレビューでは、高負荷時にサーマルスロットリングが発生しやすいという懸念が示されました ³。しかし、その後の詳細なテスト、特にVivo X100 Proを用いたレビューでは、デバイスに搭載されたベイパーチャンバーなどの冷却機構が効果的に機能し、CPU負荷テストにおいても性能低下は限定的で、比較的安定した動作を見せることが確認されました ²²。

Dimensity 9300+を搭載する新しいモデルでは、この冷却性能がさらに重視されています。Xiaomi 14T Proに搭載された「Xiaomi 3D IceLoop」 ²⁵ や、iQOO Neo 9S Proの「6K Canopy VC液体冷却システム」 ⁴⁹ など、各メーカーは大型のベイパーチャンバーや効率的な熱拡散構造を採用することで、Dimensity 9300+の高いパフォーマンスを持続的に引き出すことに成功しているようです。実機レビューにおいても、長時間のゲームプレイ中の発熱が抑えられ、性能が安定しているとの報告が多数見られます ²⁴。Xiaomi 14T Proのレビューでは、Dimensity 9300+チップ自体が効率的であり、発熱も少ないと評価されています ²³。

ハードウェア的な冷却設計に加え、ソフトウェアによる最適化も重要な役割を果たしています。MediaTekは「HyperEngine」と呼ばれる一連のゲーミング最適化技術を提供しており、Dimensity 9300+では「MediaTek Adaptive Gaming Technology (MAGT)」や「Network Observation System (NOS)」などが搭載されています ⁵。MAGTは対応ゲームにおいて電力効率を高め、バッテリー寿命を延ばしつつデバイスを低温に保つ効果があり ²⁸、NOSはWi-Fiとモバイル通信の同時接続を最適化し、遅延を低減しつつ電力消費とデータ通信量を削減します ⁴。iQOO Neo 9S Proのように、独自のゲーミングチップ（Q1チップ）を搭載し、フレーム補間などの機能でゲーム体験をさらに向上させている例もあります ²⁶。

一方で、MediaTek製チップ全般の課題として、アプリケーションレベルでの最適化がSnapdragonに比べて遅れているという指摘も依然として存在します ¹¹。これは、市場シェアの高いSnapdragon向けに最適化されたアプリが多いことが背景にありますが、MediaTekチップの性能向上と採用拡大に伴い、この状況も徐々に改善されつつあると考えられます ¹¹。

7. 専門家・メディアの評価と市場での位置づけ

テクノロジーメディアや専門家によるDimensity 9300+の評価は、総じて肯定的です。

性能評価: Dimensity 9300+は、競合のQualcomm Snapdragon 8 Gen 3と互角か、特定の側面ではそれを上回る性能を持つ、極めて強力なフラッグシップSoCであると認識されています ³。特に、4つのCortex-X4コアを搭載することによるCPUマルチコア性能の高さは際立っており ¹²、Apple A17 Proに対してもマルチコア性能で健闘しています。GPU性能も非常に高いレベルにありますが、ピーク性能や特定の最適化が求められる場面では、Snapdragon 8 Gen 3のAdreno GPUに一歩譲る可能性があると見られています ¹⁰。AI性能に関しては、APU 790の大幅な強化により、オンデバイスでの生成AI処理能力が飛躍的に向上しており、今後のAIアプリケーションの普及において重要な役割を果たすと期待されています ⁴。懸念された「All Big Core」設計に伴う発熱とスロットリングの問題については、搭載デバイス側の冷却技術の進歩とソフトウェア最適化により、実用上の大きな欠点とはみなされなくなってきているようです ²²。
市場での位置づけ: Dimensity 9300+は、ハイエンドスマートフォン市場において、長らく優位性を保ってきたQualcomm Snapdragonに対する強力な対抗馬としての地位を確立しました ¹¹。MediaTekのフラッグシップSoCが、性能面でSnapdragonと互角以上に渡り合えることを証明した点で、市場における意義は大きいと言えます。特に、Xiaomi 14T ProやiQOO Neo 9S Proといった、高い性能を持ちながら価格を抑えた「フラッグシップキラー」と呼ばれるセグメントのスマートフォンでの採用が目立っており、コストパフォーマンスを重視するユーザーにとって魅力的な選択肢を提供しています ¹¹。今後の課題としては、依然として残るアプリケーション最適化の問題を解消し、より多くのグローバルメーカーに採用されることが挙げられます ¹¹。しかし、Dimensity 9000シリーズ以降の目覚ましい性能向上により、消費者の間でのMediaTekに対する「安価だが性能は劣る」というイメージは払拭されつつあり、ハイエンド市場での存在感は着実に高まっています ¹¹。

8. まとめ

MediaTek Dimensity 9300+は、先行するDimensity 9300をベースに、CPUのプライムコアクロック周波数とAI処理能力を向上させた、MediaTekの現行最上位フラッグシップSoCです。

ベンチマークテストにおいては、競合するQualcomm Snapdragon 8 Gen 3と互角以上のスコアを示し、特にCPUマルチコア性能では優位性を見せます。Apple A17 Proに対しては、CPUシングルコア性能では劣るものの、マルチコア性能、GPU性能、AI性能において明確なアドバンテージを持っています。

特徴的な「All Big Core」CPUアーキテクチャは、高いピーク性能を実現する一方で、発熱と消費電力の管理が課題とされていました。しかし、Dimensity 9300+を搭載するスマートフォンでは、メーカー各社による冷却設計の強化とソフトウェア最適化が進んでおり、実使用におけるパフォーマンスの持続性や安定性は高いレベルで確保されています。GPU性能に関しては、依然としてSnapdragon 8 Gen 3にわずかに及ばない場面も見られますが、全体としては極めて高性能です。

Xiaomi 14T Pro、Vivo X100sシリーズ、iQOO Neo 9S Pro、Redmi K70 UltraといったDimensity 9300+搭載スマートフォンは、市場において高い評価を得ています。これらのモデルは、Dimensity 9300+の持つ高いパフォーマンスを活かしつつ、優れたカメラ機能や高速充電、魅力的な価格設定などを組み合わせることで、消費者に多様な選択肢を提供しています。

総じて、Dimensity 9300+は、ハイエンドスマートフォン市場におけるMediaTekの技術力と競争力を示す重要な製品です。Snapdragonが長らく支配してきた市場構造に変化をもたらし、高性能SoC市場の活性化に貢献する存在と言えるでしょう。