1. Microsoft SQ1: 概要と技術仕様
Microsoft SQ1は、MicrosoftがARMベースのWindows PC市場への再挑戦を示す重要なプロセッサであり、主にSurface Pro Xに搭載されたことで知られています。このチップは、モバイル技術のリーダーであるQualcommとの共同開発によって生まれました 1。
1.1. 開発背景とアーキテクチャ
SQ1の最も顕著な特徴は、PCで支配的だった従来のx86アーキテクチャとは対照的に、Armアーキテクチャに基づいている点です 3。Armアーキテクチャは、組み込みシステムや携帯端末で長年採用されてきましたが、省電力性が重視されるラップトップ分野にも進出し、Surface Pro X(Microsoft SQ1搭載)の登場は、Windowsにおけるこの移行の重要なマイルストーンとなりました 4。
具体的には、SQ1はQualcommのSnapdragon 8cxプラットフォームをベースに、Microsoftによってカスタマイズまたは強化されたものとされています 2。プロセッサ名は「Microsoft SQ1」と明記されており 1、8つのコア 1 を持ち、報告されているベース周波数は3GHzです 9。
この「カスタマイズ」の具体的な内容は公式には詳細が明らかにされていませんが 2、情報源によれば、標準の8cxと比較してCPUやGPUが強化されていると示唆されています 3。しかし、この「カスタムチップ」というブランディングは、ベースとなるSnapdragon 8cxからの大幅な差別化を示唆するものでした。後継のSQ2がSQ1に対して約5%程度のわずかな性能向上にとどまったこと 1 や、後述するベンチマーク結果が同時代のミドルレンジx86チップに常に匹敵するわけではなかったことを考慮すると 10、このカスタマイズは、Surface Pro X特有のデザイン目標(薄型、LTE接続、電力効率)への最適化や、OSとのより緊密な統合に重点が置かれていた可能性が高いと考えられます。純粋な汎用演算性能で画期的な向上を目指すというよりは、プラットフォーム全体の最適化が主眼であったと推察されます。
後に登場したSurface Pro Xモデルでは、後継のMicrosoft SQ2も採用されました 1。SQ2はSQ1のAdreno 685 GPUに対しAdreno 690 GPUを搭載していましたが 13、性能向上は約5%程度と限定的でした 1。
SQ1およびSQ2は、MicrosoftがWindows on Armエコシステムを育成するという広範な戦略の一環として位置づけられます 4。これにより、薄型軽量、常時接続(LTE)、そして潜在的なバッテリー持続時間の向上といった利点を目指しましたが、当時のx86チップに対する純粋な処理性能が最優先の利点ではありませんでした。
表1: Microsoft SQ1/SQ2 仕様概要
項目 | Microsoft SQ1 | Microsoft SQ2 |
アーキテクチャ | ARMv8ベース (Snapdragon 8cx派生カスタムKryoコア) | ARMv8ベース (Snapdragon 8cx派生カスタムKryoコア) |
コア数 | 8コア 1 | 8コア 1 |
ベースクロック周波数 | 3.0 GHz 9 | 非公開 (SQ1より若干高速化) |
GPU | Adreno 685 5 | Adreno 690 1 |
接続性 | 統合型 Snapdragon X24 LTEモデム 7 | 統合型 Snapdragon X24 LTEモデム 7 |
主な搭載デバイス | Surface Pro X 3 | Surface Pro X 1 |
1.2. 主な搭載デバイス: Surface Pro X
SQ1およびSQ2プロセッサは、主にMicrosoft Surface Pro Xに搭載されました 1。Surface Pro Xは、Surface史上最薄となる7.3mmの薄さ 17 と約774gの軽さ 5 を実現した2-in-1デバイスです。13インチの高解像度 (2880×1920) PixelSenseディスプレイを搭載し 1、モビリティと常時接続性(ギガビットLTE Advanced Pro対応 7)を重視した設計となっています。
構成オプションとしては、通常、RAM(8GBまたは16GB LPDDR4x 3)とSSDストレージ(128GB、256GB、512GB 3)のバリエーションが提供されました。
1.3. グラフィックス (Adreno 685/690) とその他の特徴
内蔵GPUは、SQ1がMicrosoft SQ1 Adreno 685 GPU 5、SQ2がMicrosoft SQ2 Adreno 690 GPU 1 です。
接続性に関しては、Qualcomm Snapdragon X24 LTEモデムによる統合LTE機能が特徴で、nanoSIMとeSIMの両方をサポートします 1。また、Wi-Fi 5 (802.11ac) およびBluetooth 5.0にも対応しています 7。
AI機能については、SQ1に特化した詳細な情報は限定的ですが、ARM SoCは一般的に専用のニューラルプロセッシングユニット(NPU)を搭載する傾向があります。Snapdragonベースであることから、SQ1も何らかのAI処理能力を備えていた可能性はありますが、提供された情報源のベンチマークではこの点はあまり焦点が当てられていませんでした。後継のSnapdragon XシリーズではNPU性能が強くアピールされています 19。
2. ベンチマークによる性能測定 (日本語レビュー基準)
ベンチマークテストはプロセッサの性能を定量化する上で重要ですが、ARM版Windowsデバイスのベンチマーク評価には、ネイティブコード実行とエミュレーションコード実行の違いによる複雑さが伴います。
2.1. 日本語レビューで言及されたベンチマークソフト
レビューされた日本語の情報源で具体的に言及されているベンチマークソフトウェアは以下の通りです。
- Cinebench 10
- PassMark (CPU Mark) 11
- 3DMark 2121
- ドラゴンクエストX ベンチマーク 11
- ファイナルファンタジーXIV ベンチマーク 23 (これらは新しいハードウェアに関する文脈での言及の可能性が高い点に注意が必要です)
- PCMark (コンポーネントスコア) 22 (旧世代Surface Proの文脈ですが、評価手法の参考になります)
Geekbenchのような業界標準ツールも広く使われていますが、今回参照した情報源の中ではSQ1に関する具体的なスコアの記載は見当たりませんでした。
ARM版Windowsにおけるベンチマーク評価には特有の課題が存在します。レビューではCinebench 10 やPassMark 11 といった従来のx86向けベンチマークが使用されていますが、互換性の問題も報告されており、3DMarkの一部テストが実行できないケースがありました 21。さらに、ネイティブARM64コードでの実行とx86エミュレーションでの実行では、性能が大きく異なる可能性があります 1。
したがって、SQ1の性能をx86向けに設計された標準的なベンチマークのみで評価することは、不完全または誤解を招く可能性があります。エミュレーションで実行されたベンチマークスコア 1 は、プロセッサ本来の性能ではなく、変換処理のオーバーヘッドを反映しています。また、互換性の問題 21 は、当時のソフトウェアやドライバエコシステムの未成熟さを示唆しています。包括的な評価のためには、ネイティブ性能(利用可能な場合)とエミュレーション性能の両方、そしてアプリケーションの互換性を考慮に入れる必要があります。標準的なベンチマーク手法は、SQ1のような初期のARM版Windowsデバイスでは限界があり、結果の解釈には、ベンチマークがネイティブで実行されたかエミュレーションで実行されたか、そして一部ツールが動作しないというエコシステムの制約を認識した上で、慎重さが求められます。
2.2. CPU性能評価
2.2.1. ベンチマークスコア (Cinebench, PassMark等)
- Cinebench: 10で報告されているCinebenchスコアは1,917ptsです。これは、当時の比較対象製品の平均スコア(5,246pts)を大幅に下回っており、要求の厳しいタスクには性能が不十分であることを示唆しています 10。
- PassMark CPU Mark: 11で報告されているPassMarkスコアは4,418です。このスコアは、同時代のIntel Core i3/i5/i7やAMD Ryzen 5モバイルプロセッサを下回り、同比較表にリストされている一部の旧世代Ryzen 3モデルよりも低い位置づけとなっています 11。
- ネイティブ vs エミュレーション: 1のテスト結果によると、x86 (32bit) アプリケーションをエミュレーションで実行した場合の性能は、ネイティブARM64での実行時と比較して約半分程度になることが示唆されています(具体的なベンチマーク名は不明ですが、マルチコアスコアでARM64が11482に対し、x86-32bitが6815と報告されています) 1。
2.2.2. 競合CPU (Intel Core i, Ryzen等) との比較表
以下の表は、日本語レビューサイトの情報に基づき、Microsoft SQ1のCPU性能を同時代の主要なモバイルプロセッサと比較したものです。
表2: CPUベンチマーク比較 (SQ1 vs 同時代プロセッサ)
プロセッサ | ベンチマーク (ツール) | スコア (マルチコア) | 出典 | 備考 |
Microsoft SQ1 | PassMark CPU Mark | 4418 | 11 | |
Microsoft SQ1 | Cinebench (不明バージョン) | 1917 | 10 | 比較対象平均 5246pts |
Microsoft SQ1 | 独自テスト (ARM64 Native) | 11482 | 1 | ネイティブ実行時 |
Microsoft SQ1 | 独自テスト (x86-32 Emulated) | 6815 | 1 | エミュレーション実行時 (ネイティブの約59%) |
Intel Core i5-1035G4 | PassMark CPU Mark | 10844 | 11 | Surface Pro 7搭載例あり 1 |
Intel Core i7-1065G7 | PassMark CPU Mark | 11946 | 11 | |
Intel Core i5-10210U | PassMark CPU Mark | 9584 | 11 | |
AMD Ryzen 5 3500U | PassMark CPU Mark | 8373 | 11 | |
Intel Core m3-8100Y | PassMark CPU Mark | 4172 | 11 | SQ1よりわずかに低い |
注意: ベンチマークスコアはテスト環境やバージョンによって変動する可能性があります。
この比較から、Microsoft SQ1のCPU性能は、特にマルチコア処理において、発売当時の主流であったIntel Core iシリーズやAMD Ryzenモバイルプロセッサと比較して見劣りする傾向があったことがわかります。ネイティブARM64コード実行時の性能は比較的良好ですが、x86エミュレーションでは大幅な性能低下が見られました。
2.3. GPU性能評価
2.3.1. ベンチマークスコア (3DMark, ゲームベンチマーク)
- 3DMark: SQ1搭載のSurface Pro Xでは、多くの3DMarkテストが起動できなかったという報告があります 21。これは、ドライバやソフトウェアの互換性問題を示唆しています。
- ドラゴンクエストX ベンチマーク: 11によると、SQ1は「最高品質」「標準品質」「低品質」のいずれの設定でも評価は「普通」となり、スコアは3039から3451の範囲でした 11。これは、DirectX 9世代の非常に軽量なタイトルであれば動作する可能性を示しますが、高いグラフィック性能を要求しないレベルであることを示唆しています。
2.3.2. 競合GPUとの比較
軽量ゲームベンチマークの結果 11 や3DMarkの互換性問題 21 を踏まえると、SQ1/SQ2に搭載されたAdreno 685/690 GPUは、主に基本的な画面出力、動画再生、そして非常に軽量な旧世代ゲームに適していると評価できます。同時代のIntel統合グラフィックス(例: Iris Plus Graphics G4/G7)と比較した場合、特定の最適化されたシナリオや低負荷な状況では競争力を持つ可能性はありますが、互換性の問題や限定的なベンチマーク結果からは、一般的なタスクや軽めのゲームにおいて明確な優位性を示すには至らなかったと考えられます。
2.4. ストレージ性能
ストレージ性能に関しては、21でNVMe SSDの速度測定結果が報告されています。シーケンシャルリードが約3200MB/s、シーケンシャルライトが約1625MB/sでした 21。これらは当時のNVMe SSDとしては良好な速度であり、ストレージ性能が一般的な応答性のボトルネックにはなっていなかったことを示唆しています。
3. 実利用環境におけるパフォーマンスと互換性
合成ベンチマークスコアだけでなく、実際の日常的なタスクにおけるパフォーマンスと、特に重要となるアプリケーションの互換性について、レビューでの定性的な記述を基に分析します。
3.1. 一般的なタスク (ウェブ閲覧, オフィス作業) の快適性
- ウェブ閲覧: ネイティブARM版のMicrosoft Edgeは、エミュレーションで動作するx86版EdgeやChromeと比較してCPU負荷が低く、良好に動作したとの観察報告があります 25。これは、ネイティブアプリケーションであれば基本的なタスクはスムーズに実行できることを示唆しています。
- オフィス作業: SQ1に関するOffice固有のベンチマークスコアは確認できませんでしたが、特にネイティブARM64版が利用可能になってからは 15、標準的なOfficeアプリケーション(Word, Excel, Outlook)の動作は許容範囲内であったと推測されます。しかし、低いCinebenchスコア 10 から、マルチタスクやエミュレーション下で複雑な機能・マクロを使用する場合には、動作が鈍くなる可能性が考えられます。
- 応答性・発熱: 発熱が少なく、ファンレス(静音)動作である点は、肯定的に評価されています 21。これは、一般的な利用環境におけるユーザーエクスペリエンス向上に寄与します。
3.2. クリエイティブ・ゲーミング性能の実態
- クリエイティブ作業: 低いCPU 10 およびGPU 11 のベンチマークスコアから判断すると、SQ1は負荷の高いクリエイティブ作業(本格的な写真編集、動画編集、3Dレンダリングなど)には一般的に不向きです。加えて、後述するアプリケーション互換性の問題も、プロフェッショナル向けクリエイティブスイートの利用においては大きな障壁となりました。
- ゲーミング: ドラゴンクエストXベンチマークの結果 11 や3DMarkの互換性問題 21 が示すように、ゲーミング性能は非常に軽量なタイトルや旧世代のゲームに限定されます。ゲーミングプラットフォームとして意図されたものではありません。
3.3. アプリケーション互換性: ARMネイティブとx86エミュレーション
Surface Pro XとSQ1にとって、アプリケーションの互換性は最も重大な課題でした 1。動作するアプリケーションの種類とその実行方法は以下の通りです。
- ARM64 ネイティブ: 最高のパフォーマンスと効率を発揮します 1。MicrosoftはEdgeやOfficeなどの主要アプリを優先的にネイティブ対応させました 15。サードパーティ製アプリの対応は当初限定的でしたが、徐々に増加しました 4。
- ARM32 ネイティブ: WOW64 (Windows on Windows 64) を介してサポートされ 1、一般的に良好に動作しましたが、ARM64やx86ほど一般的ではありませんでした。
- x86 (32bit) エミュレーション: WOW64とエミュレーションレイヤーを介してサポートされました 1。パフォーマンスは大幅に低下し(ネイティブ比で約半分になる可能性 1)、多くのレガシーアプリケーションをカバーしましたが、動作が遅く感じられることがありました。
- x64 (64bit) エミュレーション: SQ1発売当初のWindows on ARMではサポートされていませんでした。これは、多くの最新アプリケーションやドライバが動作しないという、非常に大きな制約でした。Microsoftは後にx64エミュレーションを導入しました(15で言及されているPrismは後のエミュレーション技術ですが、その必要性はSQ1の時代から明らかでした)。
3.3.1. ネイティブアプリの状況と性能
ネイティブアプリ(例: Edge 25)では、パフォーマンス上の利点が見られました。MicrosoftはOfficeのようなコアアプリをARM64ネイティブで提供する努力を続け 15、サードパーティ開発者を奨励するためのパートナーシップも結びました 15。しかし、SQ1が主流であった時期には、エコシステムはまだ発展途上でした 4。
3.3.2. x86エミュレーション (WOW64, Prism) の性能と制約
x86-32エミュレーションには、顕著なパフォーマンス低下が伴いました 1。そして、発売当初にx86-64エミュレーションが欠如していたことは、多くの最新アプリやドライバを互換性のないものとし、極めて重要な制約となりました 1。MicrosoftがApp Assureプログラム 15 を提供し、互換性問題の解決を支援したことは、この問題の深刻さを認識していたことを示しています。ユーザーはエミュレーション設定をある程度制御することも可能でした 5。
SQ1搭載デバイスにおけるユーザーエクスペリエンスは、使用したいアプリケーションがネイティブARM64で利用可能かどうかに大きく左右されました。ネイティブアプリでは効率的でスムーズな動作が期待できましたが、古い32bitのx86アプリに依存するワークフローでは性能が低下し、さらに重要なことに、最新の64bit x86アプリケーションを必要とするワークフローは、Microsoftが後にx64エミュレーションを導入するまで完全にブロックされていました。この互換性のギャップ、特に発売当初のx64エミュレーションの欠如は、多くの潜在ユーザーにとって、純粋なベンチマークスコア以上に大きな障壁であったと言えます。
表4: アプリケーション互換性概要 (Surface Pro X / SQ1 発売当初)
アプリケーション種類 | SQ1での状況 (発売当初) | パフォーマンスへの影響 | 主な例 |
ARM64 ネイティブ | サポート | ネイティブ速度 | Edge 25, Office (後に対応) 15 |
ARM32 ネイティブ | サポート (WOW64経由) | 若干の低下の可能性 | |
x86 (32bit) エミュレーション | サポート (エミュレーション) | 大幅な低下 (~50%減の可能性 1) | Chrome (x86版), iTunes 16, 多くの旧アプリ |
x86 (64bit) エミュレーション | 非サポート | N/A (動作不可) | Adobe CCの多く, 主要な最新アプリ, 多くのドライバ 1 |
4. SQ1発表当時の競合分析
SQ1の性能を、その発売時期(2019年後半~2020年初頭)に利用可能だったIntelおよびAMDのモバイルプロセッサと直接比較することで、その位置づけを明確にします。
4.1. 同世代モバイルプロセッサ (Intel/AMD) との比較
ベンチマーク比較 1 からわかるように、SQ1は純粋なCPU処理能力において、当時の主流であった第10世代Intel Core i3/i5/i7プロセッサ(例: i5-1035G4, i7-1065G7)や同時代のAMD Ryzenモバイルプロセッサ(例: Ryzen 5 3500U)に一般的に劣っていました。
SQ1は薄型・軽量・常時接続デバイスをターゲットとしていましたが、特にソフトウェアをエミュレーションで実行する場合、同価格帯(あるいはそれ以下)の従来のラップトップに搭載されていた競合プロセッサと同等の性能を提供するには至りませんでした。Surface Pro 7(Intel第10世代Core i5搭載 1)との比較では、幅広い互換性と性能の点でIntelモデルが有利とされることが多くありました。また、後の世代になりますが、Surface Pro 8 (Intel第11世代) がPro X (SQ1/SQ2) よりも好意的に比較されるレビューも見られました 27。
GPU性能に関しても、Adreno 685/690を同時代のIntel統合グラフィックス(例: Iris Plus G4/G7)と比較すると、互換性の問題 21 や限定的なゲームベンチマーク結果 11 から、一般的なタスクや軽量ゲームにおいて、当時の高性能なIntel iGPUに対して明確な優位性を示すことは困難でした。
4.2. 他ARMチップとの比較評価
SQ1はSnapdragon 8cxを強化したものであるとされています 2。直接的な比較データは限定的ですが、性能は他の8cx搭載デバイスと同等クラスであり、Microsoftによるチューニングによってわずかな利点があった可能性が考えられます。
Apple Siliconとの比較については、今回の情報源ではIntel/AMDとの比較が中心でした。しかし、文脈として触れると、SQ1発売の約1年後(2020年後半)に登場したApple M1チップ 4 は、ARMラップトップの性能と効率を大幅に引き上げ、Appleの緊密なハードウェア・ソフトウェア統合とRosetta 2エミュレーション技術により、SQ1が達成したレベルを大きく超える基準を打ち立てました。これはSQ1とM1の直接比較ベンチマークに基づくものではなく、市場における技術的インパクトの比較です。
5. 総括: Microsoft SQ1 の性能と市場での位置づけ
本レポートの分析結果を以下に要約します。Microsoft SQ1は、Qualcommと共同開発されたARMベースのSoCであり、Surface Pro Xに搭載され、薄型・軽量・LTE接続性を優先した設計でした。ベンチマークテストでは、特にエミュレーション下において、同時代のIntel/AMD製CPUに比べて性能が劣る傾向が見られました。GPU性能は基本的なタスクや非常に軽量なゲームには十分でしたが、限定的でした。最大の課題はアプリケーションの互換性であり、特に発売当初のx64エミュレーションの欠如は大きな制約となりました。
SQ1搭載デバイスの設計目標(携帯性、接続性、ARMへの移行)は、この最初の主要な試みにおいて、x86との性能同等性を達成することよりも優先されたように見受けられます。SQ1は、Intel/AMDに対するベンチマーク競争に勝つことを意図したというよりは、異なる種類のWindowsデバイスの足がかりを築き、エコシステムを前進させるためのものでした。
このプロセッサは、その性能指標だけでなく、Windows on Armプラットフォームの戦略的イネーブラーとしての役割においても評価されるべきです。SQ1が露呈した限界(特にソフトウェア互換性とエミュレーション性能)は、Microsoftが将来のARMベースWindowsデバイス(Snapdragon X搭載機などで期待される成功 15)に向けて対処すべき課題を明確にしました。妥協点はあったものの、これは必要な一歩であったと考えられます。
強み:
- ファンレス設計による静音動作 21
- 良好なSSDパフォーマンス 21
- 優れた携帯性(薄型・軽量)17
- 統合されたLTE接続機能 7
- ネイティブARM64アプリケーションでのスムーズなパフォーマンス 25
- 潜在的な良好なバッテリー持続時間(本調査範囲では詳細データ限定的)
弱み:
- x86競合製品と比較して劣るCPUパフォーマンス 10
- エミュレートされたx86アプリでの大幅なパフォーマンス低下 1
- 重大なアプリケーション互換性の問題(特に発売当初のx64エミュレーション欠如)1
- 限定的なGPU能力 11
- ベンチマークツールの互換性問題 21
市場での位置づけ:
Microsoft SQ1を搭載したSurface Pro Xは、純粋なパフォーマンスや広範なアプリケーション互換性よりも、究極の携帯性と常時接続性を最優先するユーザーをターゲットとしたニッチな製品でした。Microsoftの長期的なWindows on Arm戦略 4 において、不完全ながらも重要な一歩となりました。
引用文献
- Surface Pro Xの実機レビュー!スマホのごとくサッと使えて空き時間が有効活用できるタブレットPC!, 4月 19, 2025にアクセス、 https://yrpc.jp/review/surface-pro-x/
- Surface Pro 7・Pro X・Laptop 3、ファーストレビュー – どれを選ぶか悩ましい, 4月 19, 2025にアクセス、 https://news.mynavi.jp/article/20191017-surface/2
- 【笠原一輝のユビキタス情報局】Arm版Windows搭載「Surface Pro X」をレビュー【前編】, 4月 19, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1225456.html
- ARMアーキテクチャ時代のWeb開発環境をクラウド型RPA屋さんが考察してみた – Qiita, 4月 19, 2025にアクセス、 https://qiita.com/thgm3116/items/e068b9c29dbe0b55a553
- Microsoftが満を持してリリースした「Surface Pro X」はARMアーキテクチャへのリベンジを果たせたのか実際に触るとわかってきた – GIGAZINE, 4月 19, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20200211-surface-pro-x/
- Surface Pro XはデュアルコアのPentiumより高性能で長時間駆動, 4月 19, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1225616.html
- Surface Pro X の機能と仕様 – Microsoft サポート, 4月 19, 2025にアクセス、 https://support.microsoft.com/ja-jp/surface/surface-pro-x-%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%A8%E4%BB%95%E6%A7%98-f4b9bd8d-af25-8c56-c9a5-3c56d860d7f6
- Surface Pro X 本日 1 月 7 日 (火) より予約受付を開始、 1 月 14 日 (火) より発売開始, 4月 19, 2025にアクセス、 https://blogs.windows.com/japan/2020/01/07/surface-pro-x-starts-accepting-reservations/
- Surface Pro X プラチナ [13.0型 /Windows11 Home /Microsoft SQ1 /メモリ:8GB /SSD:128GB] E4K-00011 【在庫限り】 – ビックカメラ, 4月 19, 2025にアクセス、 https://www.biccamera.com/bc/item/9833121/
- Surface Pro Xの口コミ・評判は?Laptopと比較してよい点・気になる点を徹底レビュー!, 4月 19, 2025にアクセス、 https://my-best.com/products/193992
- Surface Pro X 本音レビュー:機能とデザインの完成度は抜群のLTE対応13インチタブレット, 4月 19, 2025にアクセス、 https://komameblog.jp/review/surface-prox/
- Surface Pro Xとは?特徴や 7との比較、注意点まで徹底解説, 4月 19, 2025にアクセス、 https://www.cloud-for-all.com/m365/blog/what-is-surface-pro-x
- Surface Pro X features and specs – Microsoft Support, 4月 19, 2025にアクセス、 https://support.microsoft.com/en-us/surface/surface-pro-x-features-and-specs-f4b9bd8d-af25-8c56-c9a5-3c56d860d7f6
- Surface Pro Xに搭載されたMicrosoft SQ2 CPUの正体を実機で探る – PC Watch – インプレス, 4月 19, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1282785.html
- Arm ベースの Surface デバイスに関する FAQ – Learn Microsoft, 4月 19, 2025にアクセス、 https://learn.microsoft.com/ja-jp/surface/surface-arm-faq
- 本日発売「Surface Pro X」日本版の実力。MS独自CPUとアプリ互換性を速攻レビュー, 4月 19, 2025にアクセス、 https://www.businessinsider.jp/article/205684/
- Surface ファミリーがさらに充実し多様なニーズに対応 – Microsoft News, 4月 19, 2025にアクセス、 https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/10/03/191003-new-surface-devices/
- 「Surface Pro X」日本マイクロソフトがWin10搭載13型着脱式2-in-1発売、SoCにMicrosoftSQ1採用 – 「最高のタブレット」を求めて! – ATY-JAPAN, 4月 19, 2025にアクセス、 https://aty800.com/tablet/maker/microsoft/surface-prox-202001.html
- 新しいCopilot+ PC、Surface Pro (第 11 世代) の登場 | Microsoft Surface, 4月 19, 2025にアクセス、 https://www.microsoft.com/ja-jp/surface/devices/surface-pro-11th-edition
- 【Surface Pro 第11世代】Snapdragon X Elite 搭載!使い心地はどう進化?開封の儀レビュー, 4月 19, 2025にアクセス、 https://sunmattu.jp/archives/66820
- Surface Pro 9」 5Gモデル実機レビュー = 最強タブレットPCが最新CPUで最速化していた!, 4月 19, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/110/4110141/
- Surface Pro Core m3/Core i5モデルのベンチマーク結果-メモリー4GBでも意外に使える!, 4月 19, 2025にアクセス、 https://komameblog.jp/review/surface-pro-2017-bench/
- Surface Pro 9をレビュー!ノートPCでもタブレットでも完成度高い2in1の決定版 – マクリン, 4月 19, 2025にアクセス、 https://makuring.jp/pc/surface-pro9/
- 「Copilot+ PC」に搭載されたCPU「Snapdragon X」は、EliteとPlusのどっちを選ぶべき? – 窓の杜, 4月 19, 2025にアクセス、 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/usecopilotpc/1610653.html
- 【レビュー】「PCである」ことの価値。Surface Pro Xで2週間仕事した – Impress Watch, 4月 19, 2025にアクセス、 https://www.watch.impress.co.jp/docs/review/review/1233026.html
- Surface Pro Xレビュー、コレが未来のWindowsの姿 – うっしーならいふ, 4月 19, 2025にアクセス、 https://usshi-na-life.com/2020/02/24/surface-pro-x-review/
- Surface Pro X,9試した末に8に決定!|degai / Hashikami-cho – note, 4月 19, 2025にアクセス、 https://note.com/maru_hashikami_/n/n4362c45ffb69