1. はじめに
1.1 概要
MSI SPATIUM M570 PRO PCIe 5.0 NVMe M.2 FROZR(以下、M570 PRO FROZR)は、MSIが提供するフラッグシップクラスのソリッドステートドライブ(SSD)であり、最高のストレージ性能を求めるエンスージアスト、ゲーマー、プロフェッショナルユーザーをターゲットとしている 1。PCIe 5.0インターフェースの登場により、SSDの性能は新たな次元に突入したが、同時に発熱という課題も顕在化している 2。M570 PRO FROZRは、この進化する市場において、最先端の速度と安定した動作を両立させることを目指した製品として位置づけられる。
1.2 主要な特徴と位置づけ
M570 PRO FROZRの最大の特徴は、その2つの主要な焦点にある。第一に、2TBモデルにおいて公称シーケンシャルリード最大12,400 MB/s、ライト最大11,800 MB/sという、現行最高クラスの転送速度を実現している点である 1。第二に、その性能を安定して維持するために、MSI独自の大型パッシブ冷却ソリューション「FROZR」ヒートシンクを搭載している点である 1。
この製品が登場する市場では、基盤となるハードウェア、特にPhison E26コントローラーとMicron製232層3D TLC NANDの組み合わせが、多くのハイエンド競合製品で標準的に採用されている 2。この事実は、M570 PRO FROZRのような製品が、単なるコアコンポーネントの性能だけでなく、冷却性能、ファームウェアの最適化、保証、そして価格や入手性といった要素で差別化を図る必要があることを示唆している。公称スペック上の速度が競合と類似している場合、これらの付加価値がユーザーの選択において重要な判断材料となる。
また、「PRO FROZR」という名称自体が、MSIの製品戦略を明確に示している。「PRO」は同社の製品ラインナップにおいて高性能モデルを示し、「FROZR」は確立された冷却技術ブランドである 1。これらを組み合わせることで、単なる高性能SSDではなく、Phison E26コントローラーの発熱問題 4 に正面から取り組み、冷却ソリューションを製品の核となる価値提案の一部として組み込んでいることを強調している。これは、後述するサーマルパフォーマンス分析への期待を高めるものである。
1.3 レポートの目的と範囲
本レポートは、MSI SPATIUM M570 PRO PCIe 5.0 NVMe M.2 2TB FROZRについて、MSI公式サイトの情報、および日本語と英語の主要なウェブサイト(技術レビューサイト、ブログ、ニュースサイト等)から収集したデータを基に、詳細な分析を行うことを目的とする。具体的には、公式仕様、各種ベンチマークテスト結果、FROZRヒートシンクの冷却性能、競合製品との比較、実利用シーンでのパフォーマンス評価を統合し、その性能特性、長所、短所、およびコストパフォーマンスについて総合的に評価する。
2. 公式仕様と搭載機能
2.1 詳細技術仕様
M570 PRO FROZRシリーズの技術仕様は、その高性能な特性を裏付けている。主要なコンポーネントとして、コントローラーにはPCIe 5.0世代のハイエンドSSDで広く採用されているPhison PS5026-E26が搭載されている 2。NANDフラッシュメモリには、公称スペックでは「3D NAND」とのみ記載されているが 6、複数のレビューによりMicron製の232層3D TLC NANDであることが確認されており、これが10 GB/sを超える転送速度を実現する鍵となっている 2。これは、より低速なNANDを採用していた初期のGen5 SSDとは一線を画す点である 13。
性能の一貫性を保つために不可欠なDRAMキャッシュは、2TBモデルでは4GBのLPDDR4が搭載されている 6。インターフェースはPCIe Gen5 x4、プロトコルはNVMe 2.0に準拠しており 1、これが高速データ転送の基盤となる。
フォームファクタは基板自体は標準的なM.2 2280だが 1、FROZRヒートシンクを含む全体の寸法は、長さ94.80mm x 幅24.00mm x 高さ71.65mmと、特に高さが際立っている 3。この物理的なサイズは、後述するように取り付け時の互換性において極めて重要な要素となる。
公称のシーケンシャル速度は、2TBモデルでリード最大12,400 MB/s、ライト最大11,800 MB/sと発表されている 1。一方で、ランダムアクセス性能を示すIOPS(Input/Output Operations Per Second)については、MSIの公式仕様では記載されていない 2。これは競合製品がしばしば公表している点とは対照的である。レビューでは、競合製品に基づきリード/ライト共に約1.5M IOPSと推定されている 2。
耐久性評価であるTBW(Total Bytes Written)は、2TBモデルで1400 TBWとされている 2。これは同クラスのSSDとしては標準的な値であるが、Seagate FireCuda 540のような耐久性を重視したモデル(1000 TBW/TB)と比較すると低い値となる 18。MTBF(平均故障間隔)は最大160万時間 5、保証期間は最大5年間(ただしTBW上限到達が優先)となっている 1。
消費電力は、2TBモデルの最大動作時で11.5Wとされており 2、この比較的高めの消費電力が、強力な冷却ソリューションを必要とする一因となっている。
表2.1: MSI SPATIUM M570 PRO FROZR シリーズ 公式仕様比較
機能 | 1TBモデル | 2TBモデル | 4TBモデル |
容量 | 1TB | 2TB | 4TB |
コントローラー | PHISON E26 | PHISON E26 | PHISON E26 |
NANDフラッシュ | 3D NAND | 3D NAND | 3D NAND |
DRAMキャッシュ | 2GB LPDDR4 | 4GB LPDDR4 | 8GB LPDDR4 |
インターフェース | PCIe Gen5x4, NVMe 2.0 | PCIe Gen5x4, NVMe 2.0 | PCIe Gen5x4, NVMe 2.0 |
フォームファクタ | M.2 2280 (ヒートシンク含む) | M.2 2280 (ヒートシンク含む) | M.2 2280 (ヒートシンク含む) |
寸法 (LxWxH) | 94.80 x 24.00 x 71.65 mm | 94.80 x 24.00 x 71.65 mm | 94.80 x 24.00 x 71.65 mm |
シーケンシャルリード (最大 MB/s) | 11,700 | 12,400 | 12,400 |
シーケンシャルライト (最大 MB/s) | 9,500 | 11,800 | 11,800 |
最大動作電力 (W) | 11 | 11.5 | 11.5 |
耐久性 (TBW) | 700 | 1400 | 3000 |
MTBF | 最大1,600,000時間 | 最大1,600,000時間 | 最大1,600,000時間 |
保証期間 | 5年間 (TBW上限あり) | 5年間 (TBW上限あり) | 5年間 (TBW上限あり) |
データソース: 6
MSIが公式仕様でランダムIOPSの数値を省略している点は注目に値する 2。公式スペックシート 6 や製品ページ 1 にはシーケンシャル速度のみが記載されている。ランダム性能、特に低キュー深度(Low Queue Depth)での性能は、OSの起動やアプリケーションの応答性といった体感速度に直結するため重要である。PCIeの世代が上がってもランダム性能の向上幅はシーケンシャル性能ほど劇的ではないことが指摘されている 4 ことを考えると、この情報の欠落は、システム全体の機敏さを重視するユーザーにとっては気になる点かもしれない。レビューによる推定値 2 がそのギャップを埋めているものの、公式な数値がないことは、MSIがIOPS性能を主要な訴求点としていない可能性を示唆している。
もう一つの重要な点は、その物理的な寸法、特に71.65mmという高さである 3。これはM.2 SSDとしては異例の高さであり、単なる仕様上の数値ではなく、実際の導入における重大な制約要因となり得る。多くのレビューやユーザーコメントで、マザーボード上のM.2スロットの位置(チップセットやGPUに近い場合)、大型のCPUクーラーやグラフィックカードとの物理的な干渉、ケース(特にスモールフォームファクタ、SFF)のスペース制限といった問題点が指摘されている 1。このため、購入前には自身のシステム構成との物理的な互換性を慎重に確認することが不可欠である。
2.2 主要な搭載技術
M570 PRO FROZRは、その性能と信頼性を支えるためにいくつかの重要な技術を搭載している。
- FROZRヒートシンク: 本製品の最も際立った特徴であり、MSIの冷却技術を結集したパッシブ(ファンレス)設計の大型ヒートシンクである。内部には「コアパイプ」と呼ばれる平坦化されたヒートパイプが3本組み込まれており、SSD上のコントローラーやNANDチップとの接触面積を最大化し、熱を効率的にヒートシンク全体に拡散させる構造となっている 1。MSIは、このヒートシンクにより最大で20℃の温度低減効果があると主張している 1。PCIe 5.0 SSDの発熱問題に対処するための、本製品の核となる技術である。
- データ整合性と寿命: 現代のSSDに標準的な機能として、TRIMコマンド(OSサポート要)による効率的なデータ管理、S.M.A.R.T.(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)によるドライブ状態の監視、LDPC(Low Density Parity Check)ECCアルゴリズムによるエラー訂正、End-to-End Data Path Protectionによるデータ転送経路全体の保護機能などが搭載されており、NANDフラッシュメモリの耐久性と寿命を向上させている 1。
- セキュリティ: AES 256ビット ハードウェア暗号化とTCG Opal 2.0に対応しており、データの機密性を保護する機能も備えている 1。
- その他: APST(Autonomous Power State Transition)に対応し、アイドル時の消費電力を低減する機能も持つ 6。
これらの技術により、M570 PRO FROZRは高速性能だけでなく、データの安全性、ドライブの長寿命化、そして安定した動作を実現することを目指している。
3. 合成ベンチマーク性能 詳細分析
合成ベンチマークは、SSDの理論上の最大性能や特定のアクセスパターンにおける挙動を測定するための標準的な手法である。ただし、結果はテストに使用されたシステム構成(CPU、マザーボード、OS、メモリなど)や、テスト実行時のドライブの空き容量(Fill State)によって変動する可能性がある点に留意が必要である 2。ここでは、複数のレビューサイトから報告された結果を集約し、M570 PRO FROZR 2TBモデルの性能傾向を分析する。
3.1 シーケンシャルリード/ライト性能
シーケンシャル性能は、大容量ファイルの読み書き速度を示す指標であり、特に動画編集やゲームデータのロード、大規模なファイルコピーなどで重要となる。
- CrystalDiskMark: このツールでの測定結果は、M570 PRO FROZRが公称スペックに近い性能を発揮することを示している。多くのレビューで、理想的な条件下(高いキュー深度、大きなブロックサイズ)において、リードで12,400 MB/s近く、ライトで11,800 MB/sに近い数値が報告されている 4。例えば、SSD-Tester.comではリード12376.90 MB/s、ライト11697.70 MB/s 23、TechPowerUpではリード11.7 GB/s、ライト11.8 GB/s 13、TweakTownではリード12.4 GB/s達成(ライトは若干下回る)9 と報告されている。Guru3Dもピークレートは12 GB/sを超えると述べている 4。ただし、より一般的な低キュー深度(SEQ1MQ1T1)でのシーケンシャル性能は、ピークよりは低いものの依然として非常に高速である(例: SSD-Tester.comでリード9153.68 MB/s、ライト10522.40 MB/s 23)。
- ATTO Disk Benchmark: このベンチマークでは、ブロックサイズの変化に伴う性能の推移が示される。M570 PRO FROZRは、ブロックサイズが大きくなるにつれて性能が向上し、128KB以上のブロックサイズでピークに近い速度に達する傾向が見られる 12。一部のレビューでは、ドライブが満杯に近い状態での一貫性に若干の変動が見られる可能性も指摘されている 24。
- AS SSD Benchmark: AS SSDでのシーケンシャル性能測定値は、CrystalDiskMarkよりも若干低くなる傾向があるが、これはテスト方法の違いによるものである 23。それでも、報告されている数値は極めて高いレベルにある(例: SSD-Tester.comでリード9572.25 MB/s、ライト10126.70 MB/s 23)。
3.2 ランダムリード/ライト性能 (4K)
ランダム性能、特に4KBブロックサイズでの性能は、OSやアプリケーションの起動、ウェブブラウジング、小ファイルの多数アクセスなど、日常的なコンピューティング体験における応答性に大きく影響する。
- 低キュー深度 (Q1T1): システムの体感速度に最も重要とされるこの領域では、M570 PRO FROZRは強力な性能を示すものの、シーケンシャル性能ほどの世代間の飛躍は見られない。SSD-Tester.comのCrystalDiskMark結果では、RND4K Q1T1リードが約775 MB/s、ライトが約556 MB/s 23、AS SSD結果ではリード約78 MB/s、ライト約278 MB/s 23 となっている。Guru3Dは、ランダムIO性能はハイエンドのPCIe Gen4ドライブと同等レベルであると指摘している 4。XDA Developersのレビューでは、M570(非Proモデル)がSamsung 990 Pro(Gen4)とランダム性能で互角に渡り合っていることが示されている 30。
- 高キュー深度 (QD32/64+): 高負荷なマルチタスクやサーバーのようなワークロードにおける処理能力を示す。レビューアによるIOPS測定値は、推定される1.5M IOPSに近い値を示している。TechPowerUpはIometerでリード1.58M IOPS、ライト1.53M IOPSを報告 13、TweakTownはAnvil’s Storage Utilities (Iometerベース) でリードが1.5M IOPSにわずかに届かないものの、リテールE26コントローラ搭載SSDとしては新記録だと評価している 9。SSD-Tester.comのCrystalDiskMark結果では、RND4K Q32T16リードが約2520 MB/s (615k IOPS)、ライトが約4000 MB/s (976k IOPS) 23、AS SSD結果ではリード約2354 MB/s、ライト約4881 MB/s 23 となっている。
- Iometer: Iometerを用いたより詳細なテストでも、M570 PRO FROZRは他のPhison E26搭載ドライブと同等の高い性能を発揮することが確認されている 2。
3.3 性能の一貫性
- ドライブの空き容量: ドライブの空き容量が少なくなった際の性能維持能力については、レビューによって見解が分かれる。一部のレビューでは、特に書き込み速度において、ドライブが90%程度満たされた状態で若干の性能低下や一貫性の揺らぎが見られると報告されている 24。一方で、RealHardwareReviewsは、満杯に近い状態でも性能が堅牢であると評価している 11。これはテスト方法の違いや、テストされたファームウェアのバージョンの違いによる可能性が考えられる。
- データの圧縮率: 現代の高性能SSDコントローラー(Phison E26を含む)では、転送されるデータの圧縮率が性能に与える影響はほとんど無視できるレベルである 12。
表3.1: MSI SPATIUM M570 PRO 2TB FROZR 合成ベンチマーク結果集約
ベンチマークツール | テスト指標 | 報告された結果範囲 (MB/s または IOPS) | 主要ソース |
CrystalDiskMark | Seq Q8T1 Read/Write | 11700 – 12400 / 11700 – 11800 MB/s | 4 |
Seq Q1T1 Read/Write | ~9150 / ~10500 MB/s | 23 | |
Rnd4K Q32T16 Read/Write | ~2500 / ~4000 MB/s (~615k / ~976k IOPS) | 23 | |
Rnd4K Q1T1 Read/Write | ~775 / ~550 MB/s (~189k / ~136k IOPS) | 23 | |
AS SSD | Seq Read/Write | ~9570 / ~10130 MB/s | 23 |
4K Read/Write | ~78 / ~280 MB/s | 23 | |
4K-64Thrd Read/Write | ~2350 / ~4880 MB/s | 23 | |
Score | ~11300 – 12200 (Total) | 23 | |
ATTO Disk Benchmark | Peak Read/Write (@ Block Size) | ~11.7 GB/s / ~11.8 GB/s (@ 128KB+) | 12 |
Iometer / Anvil | Peak Random Read IOPS | ~1.5M – 1.58M IOPS | 2 |
Peak Random Write IOPS | ~1.5M – 1.53M IOPS | 2 |
注: 結果はテスト環境により変動します。IOPS値はMB/sから換算または直接報告された値です。
合成ベンチマークの結果を分析すると、いくつかの重要な点が浮かび上がる。まず、M570 PRO FROZRのシーケンシャルリード/ライト性能は、現行のPCIe 5.0 SSDとして最高レベルにあることは間違いない。しかし、ユーザーエクスペリエンスに直結するランダムアクセス性能、特に低キュー深度での性能向上は、ハイエンドのPCIe Gen4ドライブと比較してそれほど劇的ではない 4。これは、OSの起動やアプリケーションの読み込みといった一般的なタスクにおいて、最速のGen4 SSDとこのGen5 SSDとの間で体感できる速度差が、シーケンシャル性能の数値差ほど大きくない可能性があることを意味する。主な性能向上は、大容量ファイルの転送や、将来的にDirectStorageのような技術を活用するアプリケーションにおいて顕著になると考えられる 4。
さらに、TweakTownのレビュー 9 は、MSIのファームウェアが、他の同様のハードウェア構成(E26コントローラー/232層NAND)を持つ競合製品と比較して、特定の実環境に近い、あるいは複合的なワークロード(例:同サイト独自のゲーミング複合スコア)において、測定可能な優位性をもたらしている可能性を示唆している。彼らはM570 PRO FROZR 2TBを「これまでテストした中で最も高性能なリテール2TB SSD」と評価し 9、ファームウェアによる差別化に言及している 9。これは、MSIが単にピークのシーケンシャル性能を達成するだけでなく、実際の使用状況で一般的な、より複雑な読み書き混合シナリオにおけるパフォーマンスを最適化している可能性を示唆しており、注目に値する。
4. FROZR サーマルマネジメントとヒートシンク分析
PCIe 5.0 SSD、特にPhison E26コントローラーを搭載したモデルは、その高性能と引き換えに高い発熱が課題となっている 4。MSI SPATIUM M570 PRO FROZRは、この課題に正面から取り組むために、大型のパッシブヒートシンク「FROZR」を搭載している点が最大の特徴の一つである。
4.1 ヒートシンク設計
「Towered FROZR Heatsink」と名付けられたこの冷却ソリューションは、ファンレスのパッシブ設計を採用している 1。高さのある多数のアルミニウム製フィンで構成されたヒートシンク本体と、コントローラーやNANDチップからの熱を効率的にフィンに伝えるための3本の平坦化された「コアパイプ」を組み合わせている 1。このコアパイプは、熱源となるチップとの接触面積を最大化するように設計されており、ヒートパイプ・ダイレクトタッチ方式を採用している可能性がある 11。この設計により、熱をヒートシンク全体に迅速かつ広範囲に拡散させ、放熱効果を高めることを狙っている。MSIはこの設計により、最大で20℃の温度低減効果があると主張している 1。このパッシブ冷却アプローチは、ファン付きの冷却ソリューションを採用する一部の競合製品 3 と比較して、騒音や故障リスク、ケーブル配線の複雑さを排除できるという利点がある。
4.2 冷却性能
複数のレビューサイトでのテスト結果は、FROZRヒートシンクが高い冷却性能を発揮することを示している。高負荷な連続書き込みテストなど、SSDにとって厳しい条件下でも、報告されている温度はPCIe 5.0ドライブとしては非常に低いレベルに抑えられている。
- Club386のレビューでは、負荷時の最大温度は55℃と報告されており、「これまでに見た中で群を抜いて低い」と評価されている 2。
- 日本のAkiba PC Watchのレビューでは、室温約20℃、CPUファンの風程度のエアフローという条件下で10分間の連続シーケンシャルライトを行った結果、最大温度はわずか51℃であったと報告されている 34。
- TweakTownのレビューでも、CrystalDiskMarkのシーケンシャルテストを2回連続で実行した後でも、最大温度は58℃に留まったとされている 9。
- TechPowerUpのレビューでは、より高い73℃という温度が報告されているが 13、テスト方法や環境の違いが影響している可能性がある。
- Neweggのユーザーレビューでも、ゲーム中に55℃を超えないという報告がある 25。
これらの結果は、MSIが主張する最大20℃の温度低減効果 1 が、実際の使用環境においても有効であることを裏付けている。
4.3 サーマルスロットリング
サーマルスロットリングは、SSDの温度が一定の閾値を超えた場合に、性能を意図的に低下させて過熱を防ぐ保護機能である。初期のPCIe 5.0 SSDでは、冷却が不十分な場合にこのスロットリングが発生し、性能が大幅に低下することが問題視されていた 4。
M570 PRO FROZRに関しては、レビューでの評価は一致しており、その強力な冷却性能により、高負荷なテスト条件下でもサーマルスロットリングは観察されなかったと報告されている 2。これは、FROZRヒートシンクがコントローラーやNANDメモリの温度を効果的に管理し、性能低下を引き起こすことなく、ドライブが持つポテンシャルを最大限に引き出すことを可能にしていることを示している。
4.4 物理的な考慮事項
FROZRヒートシンクの卓越した冷却性能は、その巨大な物理サイズという代償を伴う。
- 寸法と重量: 前述の通り、寸法は94.80mm (L) x 24.00mm (W) x 71.65mm (H) であり、特に高さが7cmを超える点は特筆すべきである 3。2TBモデルの重量は約138gと報告されている 2。
- 取り付けに関する課題: この高さは、多くのPCシステムにおいて物理的な干渉を引き起こす可能性がある。
- マザーボード上のM.2スロットの位置によっては、チップセットヒートシンクや、特に大型化が進むグラフィックカードと干渉する可能性がある 1。
- 大型の空冷CPUクーラーを使用している場合、クーラー本体やファンと干渉する可能性がある 12。
- 多くのマザーボードに標準で搭載されているM.2ヒートシンクは取り外す必要がある 2。
- ケース、特にMini-ITXなどのスモールフォームファクタ(SFF)ケースでは、高さ方向のクリアランスが不足する可能性が高い 12。
- ユーザーレビューでも、取り付けに苦労した、あるいは特定のコンポーネントとの干渉があったという報告が見られる 8。
- PlayStation 5の拡張スロットには、ヒートシンクを取り外さない限り物理的に搭載できない 2。
このように、FROZRヒートシンクは冷却性能においては非常に効果的である一方で、その極端なサイズがもたらす物理的な互換性の問題は、本製品を評価する上で避けて通れない重要な要素である。MSIは熱問題を解決したが、代わりに物理的な統合という新たな課題を生み出したと言える。購入希望者は、自身のシステム環境における物理的なクリアランスを事前に綿密に確認する必要がある。
一方で、このパッシブ設計は、騒音や小型ファンの故障リスクといった、アクティブ冷却ソリューションが持つ潜在的な欠点を回避できるという明確な利点を提供する 13。静音性を重視するユーザーにとっては、この点は大きな魅力となるだろう。
5. 持続書き込み性能とpSLCキャッシュの挙動
現代のTLC(Triple-Level Cell)やQLC(Quad-Level Cell)NANDを採用するSSDは、書き込み性能を向上させるためにpSLC(pseudo-SLC)キャッシュと呼ばれる技術を利用している。これは、NANDの一部を高速なSLC(Single-Level Cell)モードで動作させ、書き込みデータを一時的に受け入れるバッファとして機能させるものである。M570 PRO FROZRもこの技術を採用しており、その挙動は特に大容量ファイルの連続書き込み時に重要となる。
5.1 pSLCキャッシュサイズ
M570 PRO FROZR 2TBモデルのpSLCキャッシュサイズについては、レビューによって報告されている推定値に幅がある。
- Club386 2 やTechPowerUp 35 は、約200GBと報告している。
- SSD-Tester.com 23 は、240GB以上(240GBのテストファイルではキャッシュを使い切れなかったため)としている。
- TechPowerUpの別の箇所 13 では、グラフから読み取れるキャッシュサイズとして約300GBと示唆されている。
- 日本のAkiba PC Watch 34 は、約600GB強としている。
- Guru3D 4 は、最大で700GB近いSLCキャッシュサイズに達すると測定している。
このように、報告されているキャッシュサイズが200GBから700GB近くまでと大きく異なる。このばらつきは、キャッシュサイズの測定方法(どのようにキャッシュ枯渇を誘発・測定するか)、テスト前のドライブの状態(Secure Eraseの有無など)、あるいはレビュー時期によるファームウェアバージョンの違いなどが原因として考えられる。いずれにせよ、キャッシュサイズが数百GB単位と非常に大きいことは共通しており、日常的な書き込み操作の多くを高速に処理できる容量を持っていると言える。ただし、最も一貫して報告されている範囲は200GBから300GB程度である 2。
5.2 キャッシュ内書き込み性能
pSLCキャッシュが有効な間は、書き込み速度はドライブの最大シーケンシャルライト性能に近い非常に高いレベルで維持される。TechPowerUpはシングルスレッドでの書き込み速度が約7 GB/sに達すると報告 35、Guru3DはpSLC書き込み速度が9-10 GB/sを超えると述べている 4。SSD-Tester.comは、240GBのファイルを平均10044 MB/sで書き込めたとしている 23。
5.3 キャッシュ枯渇後の書き込み性能 (Direct-to-TLC)
pSLCキャッシュが一杯になると、データはNAND本来のTLCモードで直接書き込まれるため、書き込み速度は低下する。このキャッシュ枯渇後の持続書き込み速度(Direct-to-TLC速度)は、非常に大きなファイルを連続して書き込む際の性能を示す重要な指標となる。M570 PRO FROZR 2TBモデルにおけるこの速度は、以下の通り報告されている。
- Akiba PC Watch 34: 約3,600 MB/s
- TechPowerUp 35: 約3.3 GB/s
- TechPowerUp (別箇所) 13: 約3.7 GB/s
- Gigabyte AORUS Gen5 10000 (同等ハードウェアの参考値) 17: 3500 MB/s
これらの報告から、キャッシュ枯渇後の持続書き込み速度は約3.3 GB/sから3.7 GB/sの範囲にあると考えられる。これは、pSLCキャッシュ内の速度と比較すると大幅な低下ではあるが、PCIe Gen3世代のSSDのピーク速度をも上回る非常に高速な値であり、キャッシュが枯渇するような極端な書き込み負荷がかかった場合でも、高いレベルの性能を維持できることを示している。
5.4 キャッシュリカバリ(Folding)速度
キャッシュが一杯になった後、バックグラウンドでpSLC領域からTLC領域へデータを移動させるプロセス(Folding)が発生する。この速度が遅いと、次の書き込みバーストに対するキャッシュの空きがなかなか確保されない。Gigabyte AORUS Gen5 10000のスペック 17 では、Folding速度が1400 MB/sとされているが、M570 PRO FROZRに関する明確な情報は少ない。
5.5 実用上の意味
このpSLCキャッシュの挙動は、特に大容量ファイルのコピーや移動、長時間のビデオキャプチャ、巨大なデータセットの処理など、連続した書き込みが発生するシナリオで重要となる。M570 PRO FROZRの数百GBに及ぶ巨大なpSLCキャッシュは、多くの一般的な大容量書き込みタスクを最高速度で完了させるのに十分な容量を提供する 2。しかし、キャッシュサイズを超えるような極めて長時間の連続書き込み(例えば、ドライブの大部分を一度に書き込むような場合)では、途中で速度が約3.5 GB/s程度に低下することを認識しておく必要がある 4。それでもなお、この低下後の速度自体が非常に高速であるため、要求の厳しいコンテンツ制作やデータ処理タスクにおいても、優れた性能を発揮することが期待できる。
6. 競合製品との比較分析
MSI SPATIUM M570 PRO FROZR 2TBは、高性能PCIe 5.0 SSD市場において、いくつかの強力な競合製品と対峙している。ここでは、主要なライバルであるCrucial T700、Seagate FireCuda 540、およびGigabyte AORUS Gen5 10000/12000シリーズとの比較を行う。
6.1 MSI M570 PRO FROZR vs. Crucial T700
Crucial T700は、M570 PRO FROZRと最も直接的な競合関係にある製品の一つである。
- ハードウェア: 多くの場合、両者は同じPhison E26コントローラーとMicron 232層NANDを採用しており、基本的なハードウェア構成は同一である 2。
- 性能: その結果、ベンチマーク性能も非常に近いものとなることが多い。Club386のレビューでは、ゲーム性能において「互角(neck and neck)」と評価されている 2。ただし、ファームウェアのチューニングやテスト環境の違いにより、特定のベンチマークでわずかな差が見られる可能性はある(例: TweakTownはM570 Proに若干の優位性を見出している 9)。
- 冷却: Crucial T700は、大型パッシブヒートシンク付きモデル、小型ファン付きのアクティブ冷却モデル、ヒートシンクなし(ベア)モデルなど、複数の冷却オプションを提供している場合がある 33。これに対し、M570 PRO FROZRは独自の大型パッシブヒートシンク「FROZR」に特化している。ユーザーは、冷却方式の好み(静音性、サイズ、冷却能力)や価格に応じて選択することになる。
- 価格: 価格設定は変動するが、冷却ソリューションの違いなどが価格差に影響する可能性がある。
6.2 MSI M570 PRO FROZR vs. Seagate FireCuda 540
Seagate FireCuda 540は、性能だけでなく耐久性にも重点を置いた製品として位置づけられている。
- ハードウェア: FireCuda 540もPhison E26コントローラーとMicron 232層NANDを採用していると推測される(NASComparesの比較 18 はM570非Proモデルとの比較だが、コントローラ/NANDは共通)。
- 性能: FireCuda 540の公称スペックは10 GB/sクラスであり 18、M570 PRO FROZR(12 GB/sクラス)より低い。XDA Developersの比較 24 では、ドライブが満杯に近い状態での書き込み性能維持において、FireCuda 540がM570(非Pro)よりも優れていることが示唆されている。
- 耐久性: 最大の違いは耐久性評価(TBW)にある。FireCuda 540は1TBあたり1000 TBWという非常に高い耐久性を誇るのに対し、M570 PRO FROZRは1TBあたり700 TBWである 18。書き込み負荷が極めて高いユーザーにとっては、FireCuda 540の耐久性が大きな魅力となる。
- 冷却: FireCuda 540は通常、統合されたヒートシンクを持たず、マザーボード側のヒートシンクの使用を前提としている 18。これは、大型ヒートシンクが付属するM570 PRO FROZRとは対照的である。
- 保証: FireCuda 540は標準の5年保証に加え、3年間のデータ復旧サービスが付帯している場合がある 18。
6.3 MSI M570 PRO FROZR vs. Gigabyte AORUS Gen5 10000 / 12000
GigabyteもAORUSブランドで高性能PCIe 5.0 SSDを展開している。
- ハードウェア: AORUS Gen5 10000はPhison E26コントローラーを採用しているが、NANDが初期の低速なものである可能性があり、公称スペックは10 GB/sクラスである 17。一方、AORUS Gen5 12000は、M570 PRO FROZRと同様にPhison E26と高速なNAND(Micron 232層)を組み合わせ、公称12.4 GB/sクラスの性能を持つ直接的な競合製品となる 8。
- 性能: M570 PRO FROZRは、AORUS Gen5 10000に対してシーケンシャル性能で明確な優位性を持つはずである。AORUS Gen5 12000とは、非常に近い性能を示すと予想される 37。
- 冷却: AORUSシリーズは、大型の「Thermal Guard Xtreme」ヒートシンクを搭載していることが多く、モデルによってはファン付きの場合もある 17。冷却性能やヒートシンクのサイズ、デザインがM570 PRO FROZRとの比較ポイントとなる。
6.4 総合的な位置づけ
これらの比較から、M570 PRO FROZRは、Crucial T700やGigabyte AORUS Gen5 12000といった同クラスの競合製品に対して、基本性能ではほぼ互角であると言える。選択の決め手となるのは、主に以下の点である。
- 冷却ソリューション: M570 PRO FROZRの巨大で静音なパッシブヒートシンクは、確実な冷却性能と静音性を最優先するユーザーにとっては大きな利点となる。一方で、そのサイズによる物理的な制約を受け入れられるかが鍵となる。競合製品は、より小型のパッシブヒートシンク、ファン付きのアクティブ冷却、あるいはヒートシンクなしといった多様な選択肢を提供している。
- 耐久性: Seagate FireCuda 540と比較した場合、M570 PRO FROZRのTBWは低い。書き込み耐性が最重要であればFireCuda 540が有利となる。
- ファームウェア/細かな性能差: TweakTownが示唆するように 9、MSI独自のファームウェアチューニングが特定のワークロードで優位性をもたらす可能性もあるが、これはベンチマークや使用状況によって評価が分かれる可能性がある。
- 価格と付加価値: 価格設定、保証内容(データ復旧サービスの有無など)、バンドルソフトウェアなども比較検討の要素となる。
表6.1: 主要競合製品との比較 (2TBモデル)
機能 | MSI M570 PRO FROZR | Crucial T700 (HS) | Seagate FireCuda 540 | Gigabyte AORUS Gen5 12000 |
コントローラー | Phison E26 | Phison E26 | Phison E26 (推定) | Phison E26 |
NAND | Micron 232L 3D TLC | Micron 232L 3D TLC | Micron 232L 3D TLC (推定) | Micron 232L 3D TLC |
Seq Read (公称 MB/s) | 12,400 | 12,400 | 10,000 | 12,400 |
Seq Write (公称 MB/s) | 11,800 | 11,800 | 10,000 | 11,800 |
Random Read IOPS (推定) | ~1.5M | ~1.5M | 1.5M | 未確認 |
Random Write IOPS (推定) | ~1.5M | ~1.5M | 1.5M | 未確認 |
耐久性 (TBW) | 1400 | 1200 | 2000 | 1400 |
冷却ソリューション | 大型パッシブ (FROZR) | 大型パッシブ (HSモデル) | なし (マザーボード依存) | 大型パッシブ (Thermal Guard) |
保証期間 | 5年 | 5年 | 5年 + 3年データ復旧 | 5年 |
参考価格 (レビュー時点) | $299 3 | ~$270 (ベア) 11 | $299 18 | ~$310 8 |
主な差別化要因 | 巨大パッシブ冷却, 静音性 | 多様な冷却オプション | 高耐久性, データ復旧 | 大型ヒートシンク |
データソース: 2
注: Crucial T700のTBWは1200TBW。価格は変動するため参考値。IOPSは公称値またはレビューからの推定値。
結論として、M570 PRO FROZRと直接的な速度競合製品(T700, AORUS 12000)との選択は、多くの場合、冷却ソリューションの好み(巨大なパッシブ冷却 vs 他の選択肢)と、それに伴う物理的な制約、そして価格や細かなファームウェアの差によって決まることになる。一方で、FireCuda 540との比較では、耐久性を取るか、M570 PRO FROZRの統合された冷却ソリューションと(公称スペック上の)ピーク性能を取るか、という明確なトレードオフが存在する。
7. 実用アプリケーションにおける性能評価
合成ベンチマークはSSDの理論性能を示す上で有用だが、実際の使用感はOSの起動、アプリケーションの読み込み、ゲームのロード、ファイルコピーといった日常的なタスクや、コンテンツ制作のような特定のワークロードにおけるパフォーマンスによって左右される。
7.1 ゲーミング性能
- ロード時間: M570 PRO FROZRは非常に高速なロード時間を提供するが、多くの現行ゲームにおいては、すでに高速なPCIe Gen4 SSDと比較して体感できるほどの劇的な短縮にはならない場合がある 4。レビューでは、Crucial T700と同等のロード時間を示すと報告されている 2。Neweggのユーザーレビューでは、Gen3 SSDからのアップグレードでゲームのロードが速くなったとの声がある 25。TweakTownの独自のゲーミングベンチマークでは、ファームウェアの最適化により、他の同等ハードウェア構成のSSDよりも優れたスコアを示したと報告されており 9、特定のゲームやシナリオでの優位性を示唆している。
- DirectStorage: MicrosoftのDirectStorage APIは、高速なNVMe SSDの帯域幅を活用してGPUへのテクスチャデータ転送を高速化し、CPU負荷を軽減することで、将来的にゲームのロード時間短縮やより詳細なゲーム世界の実現に貢献すると期待されている 4。M570 PRO FROZRは、その高い転送速度とPhison I/O+テクノロジー 9 により、この技術の恩恵を最大限に受ける準備ができていると言える 13。しかし、現時点ではDirectStorageに最適化されたゲームはまだ少なく、その真価が発揮されるのはこれからである。
7.2 ファイル転送効率
- 大容量ファイル: M570 PRO FROZRの最も得意とする分野の一つである。巨大なpSLCキャッシュにより、数百GBまでのファイルであれば、ドライブの最大書き込み速度に近いスピードで転送を完了できる 22。Akiba PC Watchのテストでは、条件次第で約2分で800GB、約7分で1600GBのデータを記録できたと報告されている 34。キャッシュサイズを超えると速度は低下するが、低下後の速度(約3.5 GB/s)も依然として高速である 34。AS SSD Copy Benchmark 23 やTechPowerUpのファイルコピーテスト 39 の結果も、ISOファイル、プログラムファイル、ゲームファイルといった異なる種類のデータコピーにおいて高い効率を示している。
- 小容量ファイル: 多数の小ファイルをコピーする場合、ランダムアクセス性能が重要となる。M570 PRO FROZRのランダム性能は強力だが、シーケンシャル性能ほどの圧倒的なアドバンテージはないため、Gen4ハイエンドSSDとの差は比較的小さくなる可能性がある。
7.3 システム応答性
- OS起動/アプリケーション読み込み: これらのタスクは主に低キュー深度のランダムリード性能に依存するため、M570 PRO FROZRは非常に高速に応答するものの、最速クラスのGen4 SSDからのアップグレードで劇的な変化を感じることは少ないかもしれない 4。Neweggのユーザーレビューでは、Gen3からのアップグレードで起動が速くなったと報告されている 25。PCMark 10 Storageのような総合的なベンチマーク 9 は、様々なアプリケーションシナリオにおける応答性を評価する上で参考になる。
7.4 コンテンツ制作への適合性
- 動画編集、3Dレンダリング、大規模な写真編集、CAD作業など、巨大なファイルを頻繁に読み書きするコンテンツ制作ワークロードにおいて、M570 PRO FROZRの高いシーケンシャル性能と、キャッシュ内外での高速な持続書き込み性能は大きなメリットとなる 1。Neweggのユーザーレビューでは、AutoCAD Civil3DにおいてSamsung 980 Pro (Gen4) からのアップグレードで大きな違いを感じたと報告されている 25。
実用アプリケーションにおける性能を評価すると、M570 PRO FROZRのPCIe 5.0による速度向上の恩恵が最も顕著に現れるのは、現状では大容量ファイルのシーケンシャル転送と、要求の厳しいコンテンツ制作ワークロードであると言える。一般的なゲームのロード時間やOS/アプリケーションの応答性においては、ハイエンドのPCIe Gen4 SSDからの向上幅は比較的小さい。したがって、ユーザーがどのようなタスクを主に行うかによって、このドライブの価値は大きく変わってくる。巨大なファイルを日常的に扱うユーザーにとっては、その速度は生産性を大幅に向上させる可能性がある。
また、ゲーミングに関しては、DirectStorageのような将来の技術を見据えた投資という意味合いが強い。現行ゲームのロード時間を劇的に短縮するためだけにGen4の最速モデルから乗り換える理由は限定的かもしれないが、将来のゲーム体験の向上に備えるという意味では、M570 PRO FROZRは有力な選択肢となるだろう。
8. 総合評価と結論
MSI SPATIUM M570 PRO PCIe 5.0 NVMe M.2 2TB FROZRは、現行世代における最高レベルの性能と、それを安定して維持するための強力な冷却ソリューションを組み合わせた意欲的な製品である。詳細な分析に基づき、その性能特性、長所、短所、そして価値について総合的に評価する。
8.1 パフォーマンス概要
本ドライブは、Phison E26コントローラーとMicron 232層NANDの組み合わせにより、公称値に近い最大12.4 GB/sのシーケンシャルリード、11.8 GB/sのシーケンシャルライトという、クラス最高水準の転送速度を実現する。ランダムアクセス性能も非常に強力であるが、その向上幅はシーケンシャル性能ほど劇的ではなく、ハイエンドGen4 SSDとの差は比較的小さい。特筆すべきは、巨大なFROZRヒートシンクによる卓越した冷却性能であり、高負荷時でもサーマルスロットリングを発生させることなく、安定したパフォーマンスを持続できる点である。数百GBに及ぶ大容量pSLCキャッシュと、キャッシュ枯渇後も約3.5 GB/s前後を維持する高速なDirect-to-TLC書き込み性能も、その実力を裏付けている。
8.2 長所 (Pros)
- クラス最高のシーケンシャル性能: 公称12.4/11.8 GB/s (リード/ライト) に迫る、現行最高レベルの転送速度 2。
- 卓越した冷却性能と安定性: 大型FROZRヒートシンクにより、高負荷時でも低温を維持し、サーマルスロットリングを効果的に防止 2。
- 静音動作: ファンレスのパッシブ冷却設計により、動作音が無い 2。
- 大容量pSLCキャッシュ: 数百GB規模のキャッシュにより、書き込みバーストを高速に吸収 2。
- 高速な持続書き込み性能: キャッシュ枯渇後のDirect-to-TLC書き込み速度も約3.3-3.7 GB/sと高速 13。
- 標準的な保証と耐久性: 5年間の保証と1400 TBW (2TBモデル) の耐久性評価 2。
- 潜在的なファームウェアの優位性: 特定のレビューでは、実環境に近いワークロードで競合より優れた性能を示す可能性が示唆されている 9。
8.3 短所 (Cons)
- プレミアム価格: 高性能なGen5 SSDとして、価格設定は高め 2。
- 物理的なサイズと互換性: 巨大なヒートシンク(高さ71.65mm)は、多くのシステムで物理的な干渉や取り付けスペースの問題を引き起こす可能性がある 2。
- ランダム性能の向上幅: Gen4ハイエンドSSDと比較して、ランダムIOPS性能の向上はシーケンシャル性能ほど顕著ではない 4。
- 耐久性: Seagate FireCuda 540のような耐久性特化モデルと比較するとTBWは低い 18。
- 公式IOPS値の欠如: MSIは公式仕様でランダムIOPS性能を公開していない 2。
8.4 価値提案
M570 PRO FROZRの価値は、その絶対的な性能と、それを保証する冷却ソリューションにある。特に、サーマルスロットリングによる性能低下を懸念することなく、常に最高のパフォーマンスを発揮できるという安心感は、他の冷却が不十分なSSDにはない大きな利点である。しかし、その性能と安定性を得るためには、プレミアムな価格と、物理的な互換性という大きなハードルをクリアする必要がある。
多くのユーザーにとって、日常的なタスクや現行ゲームにおいては、より安価なハイエンドGen4 SSDでも十分な性能が得られるため、コストパフォーマンスの観点からはGen4が依然として魅力的である 4。Gen5 SSDを選択する場合でも、M570 PRO FROZRの巨大なヒートシンクが不要(マザーボードの冷却で十分、あるいは物理的に搭載不可)であれば、より小型のヒートシンクを持つ競合製品や、耐久性を重視した製品(FireCuda 540)などが代替候補となり得る。
したがって、M570 PRO FROZRの価値は、その価格と物理的制約を受け入れ、かつ、その卓越した冷却性能による持続的なパフォーマンスと静音性を最大限に評価するユーザーにとって最も高くなる。
8.5 推奨されるユーザー像
以下の条件に合致するユーザーに、MSI SPATIUM M570 PRO 2TB FROZRを推奨する。
- 現在利用可能な最高のシーケンシャル転送速度を求めるユーザー。
- 大容量ファイルの頻繁なコピー/移動、または要求の厳しいコンテンツ制作(4K/8Kビデオ編集、大規模CAD/CAEなど)を行うユーザー。
- 動作中の騒音を嫌い、静音なパッシブ冷却を重視するユーザー。
- サーマルスロットリングによる性能低下を絶対に避けたい、安定性を最優先するユーザー。
- 自身のPCシステム内に、この巨大なヒートシンクを搭載するための十分な物理的スペースがあることを確認済みのユーザー。
- 最先端技術に対してプレミアム価格を支払うことを厭わないアーリーアダプター。
一方で、PCケース内のスペースが限られているユーザー、予算を重視するユーザー、主な用途が一般的なウェブブラウジングやオフィスワーク、現行ゲームプレイであり、大容量ファイルの頻繁な転送を行わないユーザーにとっては、他の選択肢(ハイエンドGen4 SSDや、より小型/安価なGen5 SSD)の方が適している可能性が高い。
8.6 結論
MSI SPATIUM M570 PRO 2TB FROZRは、PCIe 5.0 SSDの性能を最大限に引き出し、かつその性能を安定して維持するために、冷却に徹底的にこだわった製品である。その結果、クラス最高のシーケンシャル性能と、サーマルスロットリングとは無縁の卓越した安定性を、静音なパッシブ冷却で実現している。
しかし、その冷却ソリューションは、M.2 SSDとしては異例の巨大な物理サイズという代償を伴い、多くのユーザーにとって導入前の互換性確認が不可欠となる。これは、本製品が万人向けの「最高のSSD」というよりも、特定のニーズ、すなわち「物理的な制約を受け入れてでも、最高の持続性能と静音性をパッシブ冷却で実現したい」と考えるユーザーに向けた、ある種特化したソリューションであることを示している。
最終的な選択は、ユーザー自身のワークロード、システム環境(特に物理スペース)、予算、そして冷却に対する要求レベルによって左右される。M570 PRO FROZRは、その条件が合致するならば、現時点で最も強力かつ安定したストレージ体験を提供する選択肢の一つとなるだろう。
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