Qualcomm Snapdragon 7+ Gen 3 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.30

1. はじめに
1. 1.1. Snapdragon 7+ Gen 3の位置づけ
2. 1.2. 調査目的と範囲
2. Snapdragon 7+ Gen 3: 公式スペック概要
3. ベンチマーク分析
4. 競合プロセッサとの性能比較
5. Snapdragon 7+ Gen 3の強みと弱み
1. 5.1. 強み
2. 5.2. 弱み
6. 結論
1. 6.1. 総合評価
2. 6.2. 市場への影響
  1. 引用文献

1. はじめに

1.1. Snapdragon 7+ Gen 3の位置づけ

Qualcomm Snapdragon 7+ Gen 3（モデル番号: SM7675-AB）は、2024年3月に発表されたモバイルプラットフォームであり、従来のミドルレンジ向けSnapdragon 7シリーズの枠を超え、フラッグシップに迫る性能を提供することを目指した意欲的なチップセット（SoC）です ¹。特に、Snapdragon 7シリーズとしては初めてオンデバイスでの生成AI機能への対応を明示し、CPUアーキテクチャにはフラッグシップ級の「Cortex-X4」コアを採用するなど、性能面での大幅な向上が図られています ¹。これにより、アッパーミドルレンジ市場において、高性能と電力効率、そして先進的なAI体験の新たな基準を打ち立てる存在として位置づけられます。Qualcomm自身も「これまでで最も強力なSnapdragon 7シリーズ」と謳っており、その性能に関心が集まっています ³。

1.2. 調査目的と範囲

本レポートは、Qualcomm Snapdragon 7+ Gen 3の性能を客観的に評価するため、公開されている公式スペック情報と、主要なベンチマークテスト（AnTuTu Benchmark, Geekbench, 3DMarkなど）の結果を日本語および英語の信頼できるウェブサイトから収集・分析することを目的とします。具体的には、以下の点を明らかにします。

Snapdragon 7+ Gen 3の技術仕様と特徴
主要ベンチマークソフトにおけるスコアとパフォーマンスレベル
競合となる主要プロセッサ（Snapdragon 7 Gen 3, Snapdragon 7+ Gen 2, MediaTek Dimensity 8300 Ultraなど）との性能比較
ベンチマーク結果から見える強みと弱み

本調査は、主に公開されているレビューサイトやニュース記事、公式情報を情報源とし、各情報には出典元サイト名を明記します。

2. Snapdragon 7+ Gen 3: 公式スペック概要

Snapdragon 7+ Gen 3は、TSMCの4nmプロセス技術を採用し、性能と電力効率の両立を図っています ²。

2.1. CPU構成

CPUはQualcomm Kryo CPUを採用し、64ビットアーキテクチャに基づいた8コア構成です。特筆すべきは、プライムコアに最大2.8 GHzで動作するARM Cortex-X4を採用している点です。これに加えて、最大2.6 GHzのパフォーマンスコア（Cortex-A720）4基と、最大1.9 GHzのエフィシエンシーコア（Cortex-A520）3基を組み合わせた「1+4+3」構成となっています ¹。この構成は、フラッグシップ向けのSnapdragon 8 Gen 3やSnapdragon 8s Gen 3に近い最新世代のコアを採用しており、従来の7シリーズから大幅な性能向上を実現しています ⁹。

2.2. GPU

グラフィックス処理には、Qualcomm Adreno 732 GPUが搭載されています ²。Qualcommは、前世代（Snapdragon 7+ Gen 2のAdreno 725）と比較して45%の性能向上を謳っています ⁸。APIはOpenGL ES 3.2、Vulkan 1.3、OpenCL 2.0 FPをサポートします ²。さらに、Snapdragon Elite Gaming機能の一部が7シリーズに初めて導入され、「Adreno Frame Motion Engine 2.0」（フレーム補間によるスムーズ化）や「Game Post Processing Accelerator」（ブルーム、被写界深度、モーションブラーなどのポストプロセスエフェクト処理の効率化）に対応し、ゲーム体験の向上が期待されます ³。HDRゲーミング（10bit色深度, Rec. 2020色域）もサポートされます ⁴。

2.3. AIエンジン

Qualcomm AI Engineを搭載し、CPU、GPU、そしてHexagon NPU（Scalar, Vector, Tensorアクセラレータ搭載）を連携させる「Fused AI Accelerator」アーキテクチャを採用しています ⁴。INT4, INT8, INT16, FP16といった多様な精度をサポートし、特にオンデバイスでの生成AI処理能力が強化されています ³。Baichuan-7B、Llama 2、Gemini Nanoなどの大規模言語モデル（LLM）の実行をサポートすることが明記されており、ミドルレンジSoCとしては画期的なAI性能を備えています ³。

2.4. メモリとストレージ

メモリは最大4200 MHz動作のLPDDR5Xに対応し、最大24GBまでの容量をサポートします ¹。これにより、メモリ帯域幅は最大67.2 Gbit/sに達し、高速なデータアクセスを実現します ¹。ストレージは最新規格のUFS 4.0に対応しており、アプリの起動やデータの読み書き速度が大幅に向上します ¹。

2.5. 接続性

モデムにはSnapdragon X63 5G Modem-RF Systemを搭載し、5G通信において下り最大5 Gbps（理論値）の速度を実現します ¹。ただし、一部資料では最大4.2 Gbpsと記載されている場合もあります ⁷。Sub-6 GHz帯とミリ波帯の両方をサポートし、スタンドアロン（SA）およびノンスタンドアロン（NSA）モードに対応します ⁴。Wi-FiおよびBluetoothに関しては、Qualcomm FastConnect 7800システムを搭載し、Wi-Fi 7規格をサポートします ¹。これにより、最大5.8 Gbpsのピーク速度、320 MHzのチャネル幅、4K QAM、High Band Simultaneous (HBS) Multi-Linkなどの最新機能を利用できます ⁶。Bluetoothはバージョン5.4に対応します ¹。

2.6. 製造プロセス

TSMCの4nmプロセス技術で製造されており、高性能ながら優れた電力効率を目指しています ²。

3. ベンチマーク分析

Snapdragon 7+ Gen 3を搭載したデバイス（主にOnePlus Ace 3V / Realme GT Neo 6 SE / Realme GT 6T）のベンチマークスコアを、複数のレビューサイトから収集・整理しました。

3.1. AnTuTu Benchmark v10

AnTuTuベンチマークは、CPU、GPU、メモリ（RAM+ROM）、UX（ユーザーエクスペリエンス）の総合的なパフォーマンスを測定します。

3.1.1. スコア概要

Snapdragon 7+ Gen 3のAnTuTu v10スコアは、複数の情報源で非常に高い値を示しています。

Nanoreview: 平均スコア 1,409,887点 (75テストに基づく) ¹

CPU: 358,880
GPU: 492,256
MEM: 298,705
UX: 260,046
Beebom (OnePlus Ace 3V): 1,456,859点 ⁷

CPU: 377,796
GPU: 494,144
MEM: 324,334
UX: 260,585
91mobiles (Realme GT 6T): 1,450,949点 ²

CPU: 376,759
GPU: 489,792
MEM: 335,562
UX: 248,836

これらのスコアは、140万点から145万点台に達しており、従来のミドルレンジSoCのスコア（例えばSnapdragon 7 Gen 3の約80万点台）を大幅に上回っています ¹。これは、Snapdragon 7+ Gen 3がフラッグシップ級の性能に迫っていることを示唆しています。

3.1.2. 競合との比較

Snapdragon 7 Gen 3: 約80万点台 ¹。Snapdragon 7+ Gen 3はこれに対し約74%高いスコアを記録しています ¹。
Snapdragon 7+ Gen 2: 約112万点台 ¹³。Snapdragon 7+ Gen 3はこれを約25%上回っています。
MediaTek Dimensity 8300 Ultra: 約133万点〜140万点台 ¹⁰。Snapdragon 7+ Gen 3は、これと同等か、テストによってはわずかに上回るスコアを示しています ⁷。特にGPUスコアやメモリ性能で7+ Gen 3が優位な場合がありますが、Dimensity 8300 Ultraも非常に強力な競合相手です。
Snapdragon 8s Gen 3: 約150万点台 ²。Snapdragon 7+ Gen 3と非常に近い性能ですが、わずかに8s Gen 3が上回る傾向にあります。
Snapdragon 8 Gen 2: 約161万点台 ²。旧世代のフラッグシップにはわずかに及ばないものの、非常に近いレベルに達しています。

3.2. Geekbench 6

Geekbench 6は、CPUのシングルコア性能とマルチコア性能、およびGPUの演算性能（Compute）を測定します。

3.2.1. CPUスコア

Nanoreview: シングルコア 1913点、マルチコア 5098点 ¹
Beebom (OnePlus Ace 3V): シングルコア 1747点、マルチコア 4511点 ⁷
91mobiles (Realme GT 6T): シングルコア 1826点、マルチコア 4544点 ²
Notebookcheck: 平均シングルコア 1531点、平均マルチコア 4477点 (範囲: Single 1168-1893, Multi 3661-4465) ⁸

スコアにはばらつきが見られますが、シングルコアで1700〜1900点、マルチコアで4500〜5100点程度の性能を発揮するようです。特にシングルコア性能はCortex-X4コアの恩恵を受けて高く、マルチコア性能も従来のミドルレンジを大きく超えています。

3.2.2. GPU Computeスコア

Nanoreview: 8825点 (OpenCL/Vulkan) ¹

GPUの演算性能も非常に高く、Snapdragon 7 Gen 3 (約4167点) の2倍以上のスコアを記録しています ¹。

3.2.3. 競合との比較

Snapdragon 7 Gen 3: シングルコア約1140点、マルチコア約3375点 ¹。Snapdragon 7+ Gen 3はシングルコアで約50-68%、マルチコアで約34-51%高いスコアです ¹。
Snapdragon 7+ Gen 2: シングルコア約1687点、マルチコア約4378点 ⁸。Snapdragon 7+ Gen 3はシングルコアで若干上回り、マルチコアでも同等以上の性能を示します。
MediaTek Dimensity 8300 Ultra: シングルコア約1430点、マルチコア約4500点 ¹⁰。Snapdragon 7+ Gen 3はシングルコアで優位に立つ一方、マルチコアでは同等レベルです。GPU ComputeスコアではDimensity 8300 (Mali-G615 MP6) が約9371点と、7+ Gen 3 (Adreno 732) を上回る結果も報告されています ¹⁴。
Snapdragon 8s Gen 3: シングルコア約1930点、マルチコア約5017点 ²。Snapdragon 7+ Gen 3と非常に近いスコアです。
Snapdragon 8 Gen 2: シングルコア約2023点、マルチコア約5564点 ²。旧世代フラッグシップには及びませんが、差は縮まっています。

3.3. 3DMark

3DMarkは、主にGPUのグラフィックス性能を測定するベンチマークです。Wild LifeおよびWild Life Extremeテストが一般的です。

3.3.1. Wild Life / Wild Life Extremeスコア

Nanoreview (Wild Life): スコア 10829点、平均フレームレート 64 FPS ¹
Beebom (Wild Life Extreme Stress Test – OnePlus Ace 3V): ベストループスコア 2954点、最低ループスコア 2476点、安定性 83.8% ⁷
MySmartPrice (Wild Life Extreme – Realme GT 6T): 3057点 ¹¹ ※ただし、この記事では7 Gen 3のスコアとして記載されている可能性あり。文脈上7+ Gen 3搭載機でのテストと思われるが注意が必要。

Wild Lifeスコアは約1万点を超え、Wild Life Extremeでも3000点近いスコアを記録しており、高いグラフィックス性能を示しています。Beebomのストレステストでは83.8%の安定性を示し、高負荷時でもある程度のパフォーマンス維持が期待できます ⁷。

3.3.2. 競合との比較

Snapdragon 7 Gen 3: Wild Life スコア約5916点 (平均35 FPS) ¹。Snapdragon 7+ Gen 3は約83%高いスコアです ¹。Wild Life Extremeでは7 Gen 3搭載機 (OnePlus Nord CE 4) が5445点という高いスコアを出す例もありますが ¹⁰、これは特定のテスト環境による可能性があり、一般的には7+ Gen 3が大幅に優位です。
Snapdragon 7+ Gen 2: Wild Life スコア約7530点 (平均45 FPS) ¹³。Snapdragon 7+ Gen 3はこれを約44%上回ります。
MediaTek Dimensity 8300 Ultra: Wild Life スコア約9818点 (平均58 FPS) ¹⁵、Wild Life Extreme ベストループスコア 10041点 ¹⁰。Wild Lifeスコアでは7+ Gen 3が上回る結果 ¹ もありますが、Wild Life ExtremeではDimensity 8300 Ultraが非常に高いスコアを示し、GPU性能では強力なライバルとなります。ただし、Dimensity 8300 Ultraはストレステストでの安定性が71.3%とやや低い結果も報告されています ¹⁰。
Snapdragon 8 Gen 2: Wild Life スコアは13000点を超えるレベルであり、Snapdragon 7+ Gen 3はこれには及びません。

3.4. その他のベンチマーク

GFXBench: 91mobilesによるRealme GT 6Tのテストでは、ManhattanとT-Rexの両方で60FPS（おそらく上限）を記録しており、比較的軽量なグラフィックステストでは性能が飽和していることを示唆します ²。
PCMark: Work 3.0 パフォーマンステストでは、Realme GT 6Tが17,346点という高いスコアを記録しており、日常的なタスク（ウェブブラウジング、ビデオ編集、データ操作など）の快適性を示しています ²。

3.5. ベンチマークスコアの集計

プロセッサ	AnTuTu v10 (総合)	Geekbench 6 (Single)	Geekbench 6 (Multi)	3DMark Wild Life
Snapdragon 7+ Gen 3	~1,450,000	~1,800	~4,800	~10,800
Snapdragon 7 Gen 3	~810,000	~1,140	~3,375	~5,900
Snapdragon 7+ Gen 2	~1,120,000	~1,690	~4,380	~7,500
Dimensity 8300 Ultra	~1,400,000	~1,430	~4,500	~9,800
Snapdragon 8s Gen 3	~1,500,000	~1,930	~5,000	–
Snapdragon 8 Gen 2	~1,610,000	~2,020	~5,560	~13,500+

(注: 上記スコアは複数の情報源 ¹ に基づく代表的な値であり、テスト環境やデバイスによって変動します。特にAnTuTuスコアはデバイス構成（RAM/ROM速度）の影響を大きく受けます。)

4. 競合プロセッサとの性能比較

Snapdragon 7+ Gen 3の性能をより深く理解するために、主要な競合製品と比較分析を行います。

4.1. Snapdragon 7 Gen 3 (SM7550-AB)

Snapdragon 7 Gen 3は、Snapdragon 7+ Gen 3より約4ヶ月早く、2023年11月に発表されたミドルレンジSoCです ¹。

4.1.1. スペック差

CPU: 7+ Gen 3は最新のCortex-X4 (2.8GHz) + A720 (2.6GHz) + A520 (1.9GHz) の1+4+3構成であるのに対し、7 Gen 3はCortex-A715 (Prime 2.63GHz + Gold 2.4GHz) + A510 (1.8GHz) の1+3+4構成です ¹。コアアーキテクチャが新しく、クロック周波数も7+ Gen 3の方が高くなっています。
GPU: 7+ Gen 3はAdreno 732、7 Gen 3はAdreno 720です ¹。シェーダー数や機能面（AFME 2.0対応など）で7+ Gen 3が優位です ¹。
メモリ: 7+ Gen 3はLPDDR5X (4200MHz, 67.2GB/s)、7 Gen 3はLPDDR5 (3200MHz, 25.6GB/s) に対応します ¹。メモリ帯域幅に大きな差があります。
ストレージ: 7+ Gen 3はUFS 4.0、7 Gen 3はUFS 3.1に対応します ¹。
Wi-Fi: 7+ Gen 3はWi-Fi 7、7 Gen 3はWi-Fi 6Eに対応します ¹。

4.1.2. ベンチマーク比較

前述の通り、AnTuTu v10では7+ Gen 3が約140万点超えに対し、7 Gen 3は約80万点台と、約74%の差があります ¹。Geekbench 6でもシングルコアで約50%以上、マルチコアで約34%以上、GPU Computeでは2倍以上の差がついています ¹。3DMark Wild Lifeでも約83%の差があり、全ての面で7+ Gen 3が圧倒しています ¹。

4.1.3. 分析

Snapdragon 7+ Gen 3とSnapdragon 7 Gen 3は、名前に「Gen 3」と付いていますが、性能クラスが全く異なります。「7+」が付くモデルは、実質的にフラッグシップに近い技術（特にCPUコア）を採用した高性能版であり、無印の7 Gen 3とは大きな性能差があります。これはQualcommの命名規則の分かりにくさを示す一例でもあります ²⁰。7 Gen 3は堅実なミドルレンジ性能を提供しますが ¹¹、7+ Gen 3はそれを遥かに凌駕するパフォーマンスを持っています。

4.2. Snapdragon 7+ Gen 2 (SM7475-AB)

Snapdragon 7+ Gen 2は、2023年3月に発表されたSnapdragon 7+ Gen 3の直接の前世代モデルです ⁹。

4.2.1. スペック差

CPU: 7+ Gen 3はCortex-X4 (2.8GHz) ベースですが、7+ Gen 2はCortex-X2 (2.91GHz) + A710 (2.49GHz) + A510 (1.8GHz) の1+3+4構成です ¹。プライムコアのクロック周波数は7+ Gen 2の方が高いですが、コアアーキテクチャは7+ Gen 3の方が新しく、パフォーマンスコアの数も異なります。QualcommはCPU性能で7+ Gen 3が15%向上したとしています ⁸。
GPU: 7+ Gen 3はAdreno 732、7+ Gen 2はAdreno 725です ¹。QualcommはGPU性能で7+ Gen 3が45%向上したとしています ⁸。AFME 2.0などの新機能も7+ Gen 3のみ対応です ⁹。
メモリ: 7+ Gen 3はLPDDR5X (4200MHz)、7+ Gen 2はLPDDR5 (3200MHz) に対応します ¹。
ストレージ: 7+ Gen 3はUFS 4.0、7+ Gen 2はUFS 3.1に対応します ⁴。
Wi-Fi: 7+ Gen 3はWi-Fi 7 (FastConnect 7800)、7+ Gen 2はWi-Fi 6/6E (FastConnect 6900) に対応します ⁶。
モデム: 7+ Gen 3はSnapdragon X63、7+ Gen 2はSnapdragon X62を搭載します ⁶。

4.2.2. ベンチマーク比較

AnTuTu v10では、7+ Gen 3 (約140万点超) が7+ Gen 2 (約112万点) を約25%上回ります ¹。Geekbench 6では、シングルコア・マルチコア共に7+ Gen 3が若干優位または同等レベルです ⁸。3DMark Wild Lifeでは、7+ Gen 3 (約10800点) が7+ Gen 2 (約7530点) を約44%上回っており、特にGPU性能の向上が顕著です ¹。

4.2.3. 分析

Snapdragon 7+ Gen 3は、前世代の7+ Gen 2と比較しても着実な性能向上、特にGPU性能の大幅な強化を実現しています。CPU性能はクロック周波数こそ若干低下していますが、最新アーキテクチャの採用により、同等以上のパフォーマンスを発揮しつつ、電力効率の改善も期待されます ⁹。メモリ、ストレージ、Wi-Fiなどの周辺機能も最新規格に対応しており、全体として明確なアップグレードとなっています ⁹。

4.3. MediaTek Dimensity 8300 / 8300 Ultra (MT6897)

Dimensity 8300 (およびそのカスタム版であるUltra) は、2023年11月に発表されたMediaTekのアッパーミドルレンジ向けSoCであり、Snapdragon 7+ Gen 3の直接的な競合製品です ¹⁰。

4.3.1. スペック差

CPU: 7+ Gen 3はCortex-X4 (2.8GHz) + A720 (2.6GHz) + A520 (1.9GHz) の1+4+3構成 ¹。Dimensity 8300はCortex-A715 (Prime 3.35GHz + Mid 3.2GHz) + A510 (2.2GHz) の1+3+4構成です ¹⁰。Dimensity 8300はより高いクロック周波数を持ちますが、コアアーキテクチャは7+ Gen 3の方が新しい世代です。
GPU: 7+ Gen 3はAdreno 732 (950MHz) ¹。Dimensity 8300はMali-G615 MP6 (1400MHz) です ¹⁰。GPUアーキテクチャとクロック周波数が異なります。
メモリ: 両者ともLPDDR5Xに対応しますが、Dimensity 8300は最大4266MHz (68.2GB/s) ¹⁴、7+ Gen 3は最大4200MHz (67.2GB/s) ¹ と、わずかにDimensityが帯域で上回ります。
ストレージ: 両者ともUFS 4.0に対応します ¹。
AI: 7+ Gen 3はHexagon NPU、Dimensity 8300はMediaTek APU 780を搭載します ⁷。
Wi-Fi: 7+ Gen 3はWi-Fi 7、Dimensity 8300はWi-Fi 6Eに対応します ¹。

4.3.2. ベンチマーク比較

AnTuTu v10では、両者ともに140万点前後を記録し、非常に拮抗しています ¹。テストによっては7+ Gen 3がわずかに上回るケース ⁷ も、Dimensity 8300 Ultraが上回るケース ¹⁰ も見られます。Geekbench 6では、シングルコアは7+ Gen 3 (Cortex-X4) が優位ですが、マルチコアではクロックの高いDimensity 8300が同等かやや優位な結果を示すことがあります ⁷。3DMarkでは、Wild Lifeスコアは7+ Gen 3が高い結果 ¹ もありますが、Wild Life ExtremeではDimensity 8300 UltraのMali-G615 MP6が非常に高いピーク性能を示す一方、安定性では7+ Gen 3のAdreno 732が優れる傾向が見られます ⁷。AIベンチマークでは、Dimensity 8300 Ultraが7 Gen 3を大きく上回る結果があり ¹⁰、7+ Gen 3との比較でもAI性能はDimensityが有利な可能性があります。

4.3.3. 分析

Snapdragon 7+ Gen 3とDimensity 8300 Ultraは、アッパーミドルレンジ市場における強力なライバル関係にあります。総合的なパフォーマンスは非常に近く、一概にどちらが優れているとは言えません ⁷。CPU性能では最新コアを持つ7+ Gen 3、ピークGPU性能やAI性能ではDimensity 8300 Ultraが有利な場面がある可能性があります。ただし、GPUの持続性能（安定性）や、エミュレーターなど特定の用途でのドライバサポートの観点では、伝統的にAdreno GPUを搭載するSnapdragonが有利とされる場合があります ²⁵。Wi-Fi 7対応も7+ Gen 3のアドバンテージです。最終的な選択は、搭載されるスマートフォンの価格、冷却性能、ソフトウェア最適化、そしてユーザーが重視する要素（ピーク性能か持続性か、AI機能か、最新規格への対応か）によって左右されるでしょう。

4.4. Snapdragon 8s Gen 3 / 8 Gen 2

Snapdragon 8s Gen 3は7+ Gen 3と同時期に発表され、スペック構成が非常に似ています（CPUコア構成は同じだがクロックが若干高い）。Snapdragon 8 Gen 2は一つ前のフラッグシップモデルです。

4.4.1. ベンチマーク比較

Snapdragon 8s Gen 3: AnTuTuで約150万点、Geekbench 6シングル/マルチで約1930/5017点と、7+ Gen 3よりわずかに高いスコアを示します ²。両者は実質的に兄弟チップであり、性能差は小さいと考えられます。
Snapdragon 8 Gen 2: AnTuTuで約161万点、Geekbench 6シングル/マルチで約2023/5564点と、7+ Gen 3や8s Gen 3よりも一段高いパフォーマンスを持っています ²。特にGPU性能 (3DMark Wild Life 13500点超) では明確な差があります。

4.4.2. 分析

Snapdragon 7+ Gen 3は、最新の8s Gen 3とほぼ同等の性能を持ちながら、わずかに性能を抑えることでコストパフォーマンスを高めたモデルと言えます。旧フラッグシップの8 Gen 2と比較すると、CPU性能ではかなり肉薄していますが、GPU性能ではまだ差があります。しかし、7+ Gen 3の登場により、ミドルレンジ上位のスマートフォンでも、少し前のフラッグシップ機に匹敵する、あるいは部分的には凌駕する体験が可能になったことは注目に値します ²。

5. Snapdragon 7+ Gen 3の強みと弱み

これまでの分析に基づき、Snapdragon 7+ Gen 3の主な強みと弱みをまとめます。

5.1. 強み

CPU性能: フラッグシップ級のCortex-X4コアを含む最新のARMv9.2アーキテクチャを採用し、従来のミドルレンジを大幅に超える高いCPUパフォーマンスを実現しています ¹。シングルコア、マルチコア共に競合と比較しても遜色ないレベルです。
GPU性能: Adreno 732 GPUは、前世代の7+ Gen 2から大幅に強化され、Dimensity 8300 Ultraとも互角以上に渡り合える高いグラフィックス性能を持ちます ¹。AFME 2.0やGame Post Processing AcceleratorといったElite Gaming機能の搭載により、ゲーム体験の質も向上しています ³。
AI性能: オンデバイスでの生成AI（LLM）実行をサポートし、AI関連機能のパフォーマンスと電力効率が向上しています ³。これは今後のスマートフォンにおける重要な差別化要素となり得ます。
最新機能の搭載: LPDDR5Xメモリ、UFS 4.0ストレージ、Wi-Fi 7といった最新規格に対応しており、システム全体の応答性やデータ転送速度、ネットワーク接続性が向上しています ¹。

5.2. 弱み

消費電力/発熱の可能性: 高性能なCortex-X4コアや高クロックGPUを搭載するため、高負荷時の消費電力や発熱が懸念されます。Geekerwanのテストでは、特定のゲーム（原神）で7W近い電力を消費する場面も指摘されており、これは最近の他のSoCよりも高い値です ²⁷。ただし、Beebomのストレステストでは84%程度のCPU持続性 ⁷、83.8%のGPU安定性 ⁷ を示しており、搭載デバイスの冷却設計やソフトウェア最適化によって実際の挙動は変わる可能性があります ²⁷。
価格帯: フラッグシップに近い性能を持つため、搭載スマートフォンの価格も従来のミドルレンジより高くなる可能性があります。Snapdragon 8s Gen 3や旧フラッグシップ（8 Gen 2）搭載機と価格帯が重なる場合、コストパフォーマンスの点で比較検討が必要になります ²。
競合との差別化: MediaTek Dimensity 8300 Ultraという非常に強力な競合が存在し、性能面で明確な優位性を常に保てるとは限りません ¹⁰。また、わずかに性能が高いSnapdragon 8s Gen 3との棲み分けも、消費者にとっては分かりにくい可能性があります。

6. 結論

6.1. 総合評価

Snapdragon 7+ Gen 3 (SM7675-AB) は、Qualcommがミドルレンジ市場に投入した画期的なSoCです。フラッグシップ級のCPUコア (Cortex-X4) と大幅に強化されたGPU (Adreno 732)、そしてオンデバイス生成AIへの対応は、従来の「ミドルレンジ」の概念を覆すものです。ベンチマークスコアは前世代のSnapdragon 7+ Gen 2や無印の7 Gen 3を大きく上回り、競合のMediaTek Dimensity 8300 Ultraと互角、あるいはそれ以上の性能を発揮する場面もあります。旧世代フラッグシップであるSnapdragon 8 Gen 2にも肉薄するパフォーマンスレベルに達しており、「サブフラッグシップ」と呼ぶにふさわしい実力を持っています。

LPDDR5X、UFS 4.0、Wi-Fi 7といった最新規格への対応も、将来性を見据えた魅力的なポイントです。一方で、高性能化に伴う消費電力や発熱、そして搭載スマートフォンの価格上昇の可能性は考慮すべき点です。

6.2. 市場への影響

Snapdragon 7+ Gen 3の登場は、アッパーミドルレンジスマートフォンの性能基準を大きく引き上げ、ユーザー体験を向上させるでしょう。特に、これまでフラッグシップ機でしか快適に楽しめなかったような高負荷ゲームや、先進的なオンデバイスAI機能が、より手頃な価格帯のデバイスで利用可能になることが期待されます。MediaTekとの競争はさらに激化し、メーカーは冷却設計やソフトウェア最適化で差別化を図る必要が出てくるでしょう。消費者にとっては、高性能なスマートフォンをより多くの選択肢の中から選べるようになるというメリットがあります。Snapdragon 7+ Gen 3は、2024年以降のアッパーミドルレンジ市場を牽引する重要なSoCとなる可能性が高いです。