Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2 ベンチマークまとめ

CPU・SoC

2025.04.29

1. 概要

Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2は、2022年11月に発表されたハイエンドスマートフォン向けシステムオンチップ（SoC）です ¹。台湾積体電路製造（TSMC）の4nmプロセス技術（N4P）を用いて製造され、前世代からの大幅な性能向上と電力効率改善を実現しています ¹。CPUはARM Cortex-X3をプライムコアとする8コア構成で、GPUにはハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシングに対応したAdreno 740を搭載しています ¹。

スマートフォンの性能を客観的に評価する上で、ベンチマークテストは重要な指標となります。CPU、GPU、AI処理能力、メモリ速度など、多岐にわたる性能を数値化することで、異なるデバイスやプロセッサ間の比較が可能になります。本レポートは、日本語および英語のウェブサイトから収集した情報に基づき、Snapdragon 8 Gen 2の各種ベンチマークスコアを分析し、その性能特性を明らかにすることを目的とします。特に、主要なベンチマークツールにおけるスコア、CPU・GPU・AI性能の詳細、そしてApple AシリーズやMediaTek Dimensityシリーズなどの競合プロセッサとの比較に焦点を当てます。

2. 主要ベンチマークツール

Snapdragon 8 Gen 2の性能測定には、業界標準とされるいくつかのベンチマークツールが広く用いられています。これらのツールは、プロセッサの異なる側面を評価するために設計されています。

AnTuTu Benchmark: スマートフォンの総合的な性能を測定する定番ツールです。CPU、GPU、メモリ（RAMおよびストレージ）、ユーザーエクスペリエンス（UX）の4項目でスコアを算出し、総合点で評価します ¹。特に、異なるコンポーネント間の連携を含む実使用に近いシナリオでの性能評価に利用されます ⁵。バージョン9とバージョン10ではスコアリングシステムが異なるため、比較時にはバージョンを確認する必要があります ¹。
Geekbench: 主にCPUの演算性能を測定するツールで、シングルコア性能とマルチコア性能を個別に評価します ¹。特定のタスク（例：ファイル圧縮、画像処理、HTMLレンダリング）を実行させ、その処理速度を基にスコアを算出します ²。バージョン5とバージョン6が存在し、特にバージョン6ではより現代的なワークロードを反映したテストが追加されています ¹。
3DMark: GPUのグラフィック描画性能を測定するための主要なツールです ¹²。特に「Wild Life」や「Wild Life Extreme」テストは、高負荷な3Dゲームシーンをシミュレートし、フレームレート（FPS）やスコア、テスト中の性能安定性（Stability）を評価します ¹。旧世代のテストとして「Sling Shot」も存在します ³。
その他のツール: 上記以外にも、特定の性能を評価するツールが用いられることがあります。

PCMark: 日常的なタスク（ウェブブラウジング、写真編集、ビデオ再生など）のパフォーマンスを測定します ⁴。
GFXBench: 3DMarkと同様にGPU性能を測定するツールで、特にオフスクリーン（解像度固定）でのテスト結果が比較に用いられます ⁴。
AI Benchmark / Geekbench ML / AImark: プロセッサのAI処理性能（推論速度など）を専門的に測定するツールです ⁵。

これらのツールによる測定結果を総合的に分析することで、Snapdragon 8 Gen 2の性能プロファイルを詳細に理解することが可能となります。

3. CPU性能ベンチマーク

Snapdragon 8 Gen 2のCPUは、TSMCの4nmプロセスで製造され、1つの高性能プライムコア（ARM Cortex-X3 @ 最大3.2GHz）、4つのパフォーマンスコア（2x Cortex-A715 @ 2.8GHz + 2x Cortex-A710 @ 2.8GHz）、3つの効率コア（Cortex-A510 @ 2.0GHz）からなる合計8コア構成を採用しています ¹。この新しいアーキテクチャと高いクロック周波数により、前世代から大幅な性能向上が図られています ³。

3.1. Geekbench スコア

GeekbenchはCPU性能を測る上で重要な指標となります。

シングルコア性能: Geekbench 6を用いたテストでは、Snapdragon 8 Gen 2は概ね1900点台後半から2000点強のスコアを記録しています ¹。例えば、あるテストでは2012点を記録しています ¹。これは、単一のスレッドで実行されるタスクの処理速度を示すもので、アプリの起動速度や応答性などに影響します。
マルチコア性能: 同じくGeekbench 6では、マルチコアスコアは概ね5200点から5400点台の範囲で報告されています ¹。一例として5461点というスコアがあります ¹。これは、複数のコアを同時に利用するタスク（動画編集、マルチタスク処理など）の性能を示しており、前世代のSnapdragon 8 Gen 1（Geekbench 5で約3400点台 ⁴）から顕著な向上が見られます。
Galaxy向け特別版 (Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxy): Samsung Galaxy S23シリーズなどに搭載された特別版は、プライムコアのクロック周波数が標準の3.2GHzから3.36GHzに、GPUクロックも若干向上しています ²。これにより、Geekbench 6のシングルコアスコアが標準版よりわずかに高く、2000点を超えるスコア（例：2048点平均）が報告されています ¹⁶。ただし、この差が実際の使用感に大きな影響を与えるかは限定的と考えられます ²。

3.2. AnTuTu CPU スコア

AnTuTu Benchmark v10におけるCPUスコアは、約38万点から39万点台で報告されています ¹。例えば、387,038点 ¹ や390,233点 ² といった値が見られます。これも前世代からの着実な性能向上を示しています。

これらの結果から、Snapdragon 8 Gen 2は、シングルコア・マルチコア双方において、発表当時のAndroid向けSoCとして最高クラスのCPU性能を有していたことが確認できます ³。

4. GPU性能ベンチマーク

Snapdragon 8 Gen 2は、GPUとしてQualcomm Adreno 740を搭載しています ¹。このGPUは、前世代のAdreno 730（Snapdragon 8 Gen 1搭載）と比較して大幅な性能向上と電力効率改善が図られており、モバイル向けGPUとしては初めてハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシングに対応した点が特筆されます ¹。

4.1. 3DMark スコア

3DMarkはGPU性能を評価する主要なベンチマークです。

Wild Life / Wild Life Extreme: 高負荷テストであるWild Life Extreme (2160p解像度相当) において、Snapdragon 8 Gen 2は概ね3300点から3800点程度のスコアを示します ¹。例えば、iQOO Neo 9 Proでは3342点 ¹、Qualcommのリファレンスデバイスでは3769点 ⁴ が記録されています。これは、当時の競合であるGoogle Tensor G2（約1823点）やApple A16 Bionic（約3377点）と比較しても遜色ない、あるいは上回る性能です ⁴。Wild Life (1440p) では13000点近いスコアも報告されています ¹。
Sling Shot Extreme (Physics): やや古いテストですが、CPUの物理演算性能も影響するこのテストでは、平均して6000点前後のスコアが報告されています ³。
フレームレート (FPS) と安定性 (Stability): Wild Life Extremeテストにおける平均フレームレートは21 FPS程度 ¹³、Wild Lifeテストでは77 FPS程度 ² が報告されています。安定性（Stability）については、テスト環境やデバイスによって変動が見られ、一部の比較ではSnapdragon 8 Gen 3や8 Eliteよりも高い安定性を示す結果もありますが ¹³、Apple A16より低い場合や ⁹、テストによっては90%近い値を示すこともあります ⁶。Xiaomi 13 Ultraの例では、Playストア版3DMarkで89.8%の安定性を示した一方で、パッケージ名を変更したバージョンでは99.6%と、ベンチマーク対策（ブースト）の存在を示唆する結果も見られました ⁶。

4.2. AnTuTu GPU スコア

AnTuTu Benchmark v10におけるGPUスコアは、約61万点から62万点台と非常に高いレベルにあります ¹。例えば、612,954点 ¹ や619,179点 ² といったスコアが報告されており、これはAnTuTu総合スコアを押し上げる大きな要因となっています。

4.3. GFXBench スコア

GFXBenchのAztec Ruinsテストでは、Qualcommのリファレンスデバイスが65fpsを記録し、これは同テストでのPixel 7 Pro (25fps) やGalaxy S22+ (29fps) の2倍以上のフレームレートであり、GPU性能の高さを示しています ⁴。別の報告では、Aztec High Tier OpenGLテストでSnapdragon 8 Gen 1から39%の性能向上を達成したとされています ¹⁸。

4.4. 実ゲーム性能

ベンチマークスコアだけでなく、実際のゲームにおけるパフォーマンスも重要です。Snapdragon 8 Gen 2は、多くの高負荷ゲームを高設定で快適にプレイできる性能を有しています 2。

報告されているフレームレートの例（最高設定に近い設定）は以下の通りです 2:

PUBG Mobile: 90 FPS [Ultra]
Genshin Impact: 59 FPS [Ultra]
Call of Duty: Mobile: 60 FPS [Ultra]
World of Tanks Blitz: 120 FPS [Ultra]

これらの結果から、Adreno 740 GPUは、ベンチマークスコア、実ゲーム性能ともに、当時のモバイル向けGPUとしてトップクラスの性能を提供していたことがわかります。特に、前世代からの性能向上幅が大きい点が特徴です ¹⁸。

5. AI性能ベンチマーク

Snapdragon 8 Gen 2は、AI処理能力も大幅に強化されています。Qualcomm AI Engineの中核を担うHexagonプロセッサが改良され、マイクロタイル推論や高速化されたTensorアクセラレータにより、前世代（Snapdragon 8 Gen 1）比で最大4.35倍のAI性能向上を謳っています ³。また、モバイルSoCとしては早期にINT4（4ビット整数）精度をサポートし、電力効率を60%向上させたとされています ³。

5.1. AI関連ベンチマークスコア

AI性能を測定する複数のベンチマークで、Snapdragon 8 Gen 2は高いスコアを示しています。

AI Benchmark: プロセッサのAI推論性能を総合的に評価するこのベンチマークにおいて、Snapdragon 8 Gen 2は5192点というスコアを記録しています ¹⁹。これは、当時の競合であるDimensity 9200+ (1161点) やSnapdragon 8+ Gen 1 (3125点) を上回る値です ¹⁹。ただし、テストによっては2046点というスコアも報告されており ⁵、テスト内容やバージョンによる差異が大きい可能性があります。Phone Rankingでは、Snapdragon 8 Gen 2搭載機が6300点から6500点台のスコアでランクインしています ²²。
AnTuTu AI: AnTuTu BenchmarkのAIテスト（v10）では、Snapdragon 8 Gen 2搭載機が約110万点から114万点のスコアを記録しています ²¹。これはSnapdragon 8 Gen 3搭載機の約150万点台と比較すると低いものの、Snapdragon 8+ Gen 1搭載機の約92万点台よりは高いスコアです ²¹。
Geekbench ML: Xiaomi 13 Ultraを用いたテストでは、Geekbench MLのスコアも測定されていますが、具体的な数値は提供された資料からは読み取れませんでした ⁶。
AImark: Qualcommのリファレンスモデルを用いたテストでは、158,794点を記録し、Snapdragon 8+ Gen 1搭載のGalaxy Z Fold4 (120,021点) を上回りました ⁵。

5.2. 競合との比較

AI性能に関しても、競合プロセッサとの比較が行われています。例えば、Samsung Exynos 2400は最大42 TOPS（毎秒兆回の演算）のAI性能を持つとされる一方、Snapdragon 8 Gen 2は約26 TOPSと推定されており、ピーク性能ではExynos 2400が上回る可能性があります ¹⁰。しかし、Snapdragon 8 Gen 2はINT4対応による効率向上や、Qualcomm AI Engine全体の最適化により、実際のAIアプリケーションにおいて優れたパフォーマンスを発揮することが期待されます ³。

総じて、Snapdragon 8 Gen 2は、Hexagonプロセッサの強化とINT4サポートにより、AI処理性能と電力効率の両面で大きな進歩を遂げ、当時のモバイルデバイスにおける高度なAI機能の実現に貢献したと言えます。

6. 競合プロセッサとの比較

Snapdragon 8 Gen 2の性能を評価する上で、同世代の主要な競合プロセッサとの比較は不可欠です。ここでは、Apple Aシリーズ、MediaTek Dimensityシリーズ、Qualcomm自身の他のSnapdragonモデル、Google Tensor、Samsung Exynosとの比較を行います。

6.1. Apple Aシリーズ (A16 Bionic)

iPhone 14 Pro/Pro Maxに搭載されたApple A16 Bionicは、Snapdragon 8 Gen 2の主要な比較対象です。

CPU性能 (Geekbench): Geekbench 6のスコアでは、A16 Bionicがシングルコア（約2600点台 ⁹）およびマルチコア（約6800点台 ⁹）の両方でSnapdragon 8 Gen 2（シングル約2000点、マルチ約5300点）を上回る傾向にあります ⁹。これはA16 Bionicの高いシングルコア性能と最適化されたアーキテクチャに起因すると考えられます。PassMarkのCPU Mark比較でも、A16 Bionicがマルチスレッド（約11000 vs 9362）、シングルスレッド（約4044 vs 3093）ともに優位でした ³³。
GPU性能 (3DMark): 一方、GPU性能ではSnapdragon 8 Gen 2が優位な場面が見られます。3DMark Wild Life Extremeテストでは、Snapdragon 8 Gen 2 (約3769点 ⁴) がA16 Bionic (約3377点 ⁴) を上回る結果が報告されています。nanoreview.netのデータでも、3DMark Wild LifeスコアでSnapdragon 8 Gen 2 (13003点) がA16 Bionic (9874点) を32%上回っています ⁹。これはAdreno 740 GPUの高いグラフィック処理能力と、Androidデバイスの冷却能力が寄与している可能性が指摘されています ³²。
総合性能 (AnTuTu): AnTuTu Benchmarkでは、Snapdragon 8 Gen 2搭載のリファレンスデバイスが約128万点 ⁴、nanoreview.netの平均で約155万点 ⁹ を記録し、A16 Bionic搭載のiPhone 14 Pro Max（約94万点 ⁴）やnanoreview.netの平均（約144万点 ⁹）を上回る結果が報告されています。ただし、OSやテストバージョンの違いから単純比較は難しい側面もあります ⁵。
効率と持続性能: A16 BionicはA15からの性能向上幅が比較的小さく、効率面での改善が主眼であったとされる一方 ¹⁷、Snapdragon 8 Gen 2は高負荷時のスロットリング（性能低下）がA16 Bionicよりも穏やかであるとの指摘もあります ³²。

総じて、CPUのピーク性能ではA16 Bionicが優位ですが、GPU性能や特定のベンチマーク、高負荷時の持続性能ではSnapdragon 8 Gen 2が健闘しており、両者はハイエンド市場で強力なライバル関係にありました ³。

6.2. MediaTek Dimensityシリーズ (Dimensity 9200 / 9200+)

MediaTekのDimensity 9200およびその高クロック版であるDimensity 9200+は、Snapdragon 8 Gen 2の直接的な競合製品です。

CPU/GPUスペック: Dimensity 9200はSnapdragon 8 Gen 2と同様にCortex-X3をプライムコアとする8コア構成ですが、パフォーマンスコアの構成が異なります（D9200: 1+3+4, SD8G2: 1+4+3）³⁰。GPUはARM Immortalis-G715を搭載しています ³⁰。Dimensity 9200+は9200のクロック周波数を向上させたモデルです ²⁷。
ベンチマーク比較:

AnTuTu 10: Snapdragon 8 Gen 2 (約155万点) がDimensity 9200 (約146万点) ²⁶ およびDimensity 9200+ (約149万点) ²⁷ をわずかに上回る傾向が見られます。ただし、別の報告ではSnapdragon 8 Gen 2が86万点、Dimensity 9200が80万点と、差が開くケースもあります ³⁰。
Geekbench 6: シングルコア、マルチコアともに非常に僅差であり、テストによってはDimensity 9200/9200+がわずかに上回ることもあります ²⁶。Snapdragon 8 Gen 2がマルチコアで優位という分析もありますが ³⁵、スコア差は小さいです。
3DMark: Wild Lifeスコアでは、Snapdragon 8 Gen 2 (約13000点) がDimensity 9200 (約12300点) ²⁶ およびDimensity 9200+ (約11000点) ²⁷ を上回る結果が報告されています。Dimensity 9200+のスコアが低い点はやや不可解ですが、テスト条件による可能性があります。別の報告ではSnapdragon 8 Gen 2がDimensity 9200をわずかに上回るとされています ³⁰。
電力効率とピーク性能: ベンチマークによっては、Dimensity 9200がピーク性能では劣るものの、低負荷時の電力効率でSnapdragon 8 Gen 2を上回る可能性が示唆されています ³⁵。全体的に性能差は僅少であり、どちらも非常に高性能なチップセットです ²⁷。

Snapdragon 8 Gen 2とDimensity 9200/9200+は、性能面で非常に拮抗しており、どちらを選ぶかは価格や搭載デバイスの他の特徴に依存すると言えます ²⁷。

6.3. Snapdragon 上位/下位モデル

Qualcomm自身のラインナップ内での位置づけも重要です。

Snapdragon 8 Gen 1 / 8+ Gen 1: Snapdragon 8 Gen 2は、前世代の8 Gen 1およびその改良版である8+ Gen 1に対して、CPU、GPU、AI性能の全てにおいて明確な向上を示しています ¹。特にGPU性能の向上幅は大きく、30%以上の向上が報告されています ¹⁸。電力効率も改善されています ¹。AnTuTuスコアでは、8 Gen 1の約90万点に対し、8 Gen 2は約127万点（v9）⁴ または約155万点（v10）² と大幅に向上しています。
Snapdragon 8 Gen 3: 次世代の8 Gen 3は、CPUコア構成の変更（1+5+2）とクロック向上により、8 Gen 2に対してさらに性能を向上させています ⁷。AnTuTu v10スコアで約205万点 ⁷、Geekbench 6マルチコアで約7300点 ⁷ と、それぞれ約32%、約38%高いスコアを記録しています。GPU性能も25%以上高速化され ²⁹、AI性能も強化されています ²⁹。ただし、高負荷時の持続性能では8 Gen 2の方が安定しているとの指摘もあります ²⁹。
Snapdragon 8 Elite (Gen 4): さらに将来のモデルである8 Elite (Snapdragon 8 Gen 4相当) は、AnTuTu v10で約274万点 ⁸、Geekbench 6マルチコアで約9700点 ⁸ と、8 Gen 2から飛躍的な性能向上を示すと予測されています。ただし、消費電力が増加する可能性も指摘されています ¹³。
Snapdragon 8s Gen 3: 8 Gen 3の廉価版と位置づけられる8s Gen 3は、AnTuTu v10 AIスコアで約74万点 ²¹ と、8 Gen 2（約110万点台）よりも低く、性能的には8 Gen 2の下位に位置づけられます ⁷。

Snapdragon 8 Gen 2は、8 Gen 1からの確実な進化を示し、後継モデルが登場するまでの間、Qualcommのフラッグシップとしての地位を確立しました。

6.4. Google Tensorシリーズ (G2, G3, G4)

Google Pixelシリーズに搭載されるTensorチップとの比較です。

Tensor G2 (Pixel 7 Pro): Snapdragon 8 Gen 2は、Tensor G2に対してCPU、GPUともに圧倒的な性能差を示します ⁴。Geekbench 5では、8 Gen 2 (Single: 1489, Multi: 5178) に対し、G2 (Single: 1050, Multi: 3190) ⁴。AnTuTu v9でも、8 Gen 2 (約127万点) に対し、G2 (約75万点) と大差がついています ⁴。GFXBench Aztec Ruinsでも8 Gen 2 (65fps) がG2 (25fps) を大きく上回ります ⁴。AI Benchmarkでも8 Gen 2 (2046点) がG2 (624点) より高性能です ⁵。
Tensor G3 (Pixel 8): Tensor G3はG2から性能向上していますが、Geekbench 6シングルコアで約1700点 ¹⁶、マルチコアで約4400点（推定）と、依然としてSnapdragon 8 Gen 2には及びません。
Tensor G4 (Pixel 9): リーク情報に基づくTensor G5（G4の可能性あり）のAnTuTu v10スコアは約144万点と予測されており ²⁸、Snapdragon 8 Gen 2（約155万点）に近づくものの、まだ差がある可能性があります。Geekbench 6シングルコアでは1800点台後半が報告されており ²³、シングルコア性能は肉薄するかもしれません。AI BenchmarkではG4搭載機が1117点と、8 Gen 2 (5192点) には大きく劣ります ²²。

TensorシリーズはAI処理に特化している側面がありますが、純粋なCPU/GPUベンチマーク性能ではSnapdragon 8 Gen 2が明らかに優位です。

6.5. Samsung Exynosシリーズ (Exynos 2400)

SamsungのExynos 2400は、一部地域のGalaxy S24シリーズに搭載されています。

CPU/GPUスペック: Exynos 2400は10コアCPU（1x Cortex-X4 + 5x Cortex-A720 + 4x Cortex-A520）とAMDと共同開発したXclipse 940 GPUを搭載しています ¹⁰。
ベンチマーク比較:

Geekbench 6: Exynos 2400はシングルコアで約2100-2200点、マルチコアで約6500-7000点と報告されており ¹⁰、特にマルチコア性能においてSnapdragon 8 Gen 2 (約5300点) を上回る可能性があります ¹⁰。
GPU性能: Xclipse 940 GPUは、初期のベンチマークではAdreno 740にわずかに劣ると評価されています ¹⁰。
AI性能: Exynos 2400は最大42 TOPSとされ、Snapdragon 8 Gen 2 (約26 TOPS) よりも高いAI演算能力を持つと報告されています ¹⁰。

Exynos 2400はCPU性能、特にマルチコア性能とAI性能でSnapdragon 8 Gen 2を凌駕する可能性を示していますが、GPU性能ではSnapdragon 8 Gen 2に分があると考えられます。

以下の表は、主要な競合プロセッサとのベンチマークスコア（代表値）をまとめたものです。

プロセッサ	AnTuTu v10 (総合)	Geekbench 6 (Single)	Geekbench 6 (Multi)	3DMark Wild Life	AI Benchmark
Snapdragon 8 Gen 2	~1,550,000 ²	~1,990 ⁷	~5,300 ⁷	~13,000 ⁷	5192 ¹⁹
Apple A16 Bionic	~1,440,000 ⁹	~2,630 ⁹	~6,840 ⁹	~9,870 ⁹	3428 ¹⁹
Dimensity 9200	~1,460,000 ²⁶	~1,950 ²⁶	~5,280 ²⁶	~12,300 ²⁶	1052 ¹⁹
Dimensity 9200+	~1,490,000 ²⁷	~2,090 ²⁷	~5,530 ²⁷	~11,000 ²⁷	1161 ¹⁹
Snapdragon 8 Gen 3	~2,050,000 ⁷	~2,190 ⁷	~7,300 ⁷	~14,600 ⁷	–
Exynos 2400	–	~2,190 ¹⁰	~6,970 ¹⁰	–	–
Google Tensor G2	~750,000 ⁴	~1,050 (GB5) ⁴	~3,190 (GB5) ⁴	–	–

注意: スコアはテスト環境やデバイスにより変動します。上記は参考値です。

7. 結論

本調査の結果、Qualcomm Snapdragon 8 Gen 2は、2022年末の発表時点で、Androidスマートフォン向けSoCとして極めて高い性能を有していたことが確認されました。

CPU性能: Cortex-X3プライムコアを含む新しい1+4+3構成により、シングルコア・マルチコア性能ともに前世代から大幅に向上し、当時の競合であるMediaTek Dimensity 9200/9200+と互角以上の性能を示しました。Apple A16 BionicにはCPUピーク性能で劣るものの、依然として最高クラスのパフォーマンスを提供しました。
GPU性能: Adreno 740 GPUは、ハードウェアレイトレーシングへの対応に加え、3DMarkやGFXBenchなどのベンチマークでApple A16 Bionicをも上回るスコアを記録するなど、卓越したグラフィック性能を発揮しました。高負荷なゲームも高設定で快適に動作させる能力を持ち、当時のモバイルゲーミング体験を大きく向上させました。
AI性能: 改良されたHexagonプロセッサとINT4精度のサポートにより、AI処理能力と電力効率が大幅に向上しました。AI Benchmarkなどのテストで高いスコアを記録し、デバイス上での高度なAI機能の実現に貢献しました。

競合製品との比較では、Apple A16 Bionicに対してはCPU性能で譲るもののGPU性能で優位に立ち、MediaTek Dimensity 9200/9200+とは全体的に僅差の性能でした。Google Tensor G2/G3に対しては明確な性能差を示し、Samsung Exynos 2400に対してはGPU性能で優位性を持つと考えられます。

特筆すべき点として、Samsung Galaxy S23シリーズなどに搭載された「Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxy」は、標準版よりもわずかにクロック周波数が引き上げられていますが、その性能差は限定的であり、実使用感に大きな影響を与えるものではないと評価されます ²。

2024年時点においても、Snapdragon 8 Gen 2は依然として非常に高性能かつ電力効率に優れたチップセットであり、多くのユーザーにとって満足のいくパフォーマンスを提供します ¹。後継のSnapdragon 8 Gen 3や8 Eliteが登場した現在でも、型落ちのフラッグシップモデルや高性能ミドルレンジモデルの選択肢として十分に価値のある存在と言えるでしょう。