Ryzen X3Dシリーズ、とりわけZen 5世代のRyzen 7 9800X3Dは、「ゲーム特化型でクリエイティブ作業には不向き」という前世代までの評価を完全に払拭している。従来の3D V-Cache搭載CPUは、積層キャッシュによる熱の滞留を防ぐ目的で動作クロックや供給電力が低く制限されていたため、通常版CPUや競合のIntel製品に対してマルチスレッド性能で明確な後れを取っていた1。しかし、放熱構造を抜本的に改善した第2世代3D V-Cacheの採用により、Ryzen 7 9800X3Dは通常版のRyzen 7 9700Xをマルチスレッド性能で上回る水準へ到達し、日常作業から本格的なコンテンツ制作まで極めて高い実用性能を発揮するに至っている1。
結論として、「ゲーム7割・作業3割」を志向するハイブリッド自作PCユーザーにとって、Ryzen 7 9800X3Dは現在最も死角のない構成パーツである。WebブラウジングやOfficeソフトなどの日常操作では体感速度が完全に頭打ちとなる領域にあり、PhotoshopやLightroomを用いた静止画処理においては、競合のフラッグシップCPUを凌駕するレスポンスを記録する4。趣味のYouTube動画編集やOBSを用いたゲーム実況配信においても、現代の主流であるGPUアクセラレーションを併用する限り、8コア16スレッドの処理能力で一切の支障なく快適に作業を完結できる6。
ただし、約6万〜7万円台の同一価格帯に存在するIntel Core Ultra 7 265KやCore i7-14700K、上位のRyzen 9 9900Xと比較した場合、物理コア数が8コアにとどまることによる性能境界線は依然として存在する1。長時間のCPUフル稼働を強いる3DCGレンダリング、大規模プロジェクトのコードコンパイル、そしてIntel Quick Syncに依存する特殊な動画コーデックの再生環境においては、多コアモデルやIntelプラットフォームが明確な優位性を保ち続けている1。自作PCの用途要件を見極める上では、この「8コアの壁」と「GPUオフロードの実態」を正しく把握することが不可欠となる。
内部構造の刷新がもたらした動作クロック向上と熱設計の実利
X3Dシリーズの作業性能が飛躍した根本的な理由は、半導体の積層レイアウト変更による冷却効率の向上にある。従来のRyzen 7 7800X3Dでは、演算を行うCPUコアダイ(CCD)の上に大容量キャッシュ(3D V-Cache)が物理的に被さる構造を採っていた1。この配置はキャッシュ層が断熱材として働き、コアからCPUクーラーへの熱伝導を阻害するため、熱破損を防ぐ目的で最大ブーストクロックは5.0GHzに抑制され、電力枠やオーバークロックにも厳しい制限が課されていた8。結果として、純粋なクロック周波数が物を言うマルチスレッド処理や動画エンコードにおいて、通常版のRyzen 7 7700Xの後塵を拝する場面が頻発していた2。
Ryzen 7 9800X3Dではこの配置が上下逆転され、キャッシュがコアの下(基板側)へ移動し、発熱源であるCPUコアが金属製ヒートスプレッダ(IHS)と直接ソルダリング接合される構造へと進化した1。放熱効率の劇的な改善に伴い、定格ベースクロックは4.7GHzへと引き上げられ、ブーストクロックも5.2GHzを達成している1。TDP枠120W(PPT上限162W)をフルに活用できるようになったことで、マルチスレッド負荷時でも高クロックを長時間維持可能となり、前世代比でマルチスレッド性能が約34%、シングルスレッド性能が約14%向上した1。
| CPUモデル | コア / スレッド | 定格 / 最大クロック | L3キャッシュ | TDP / PPT | 実売価格帯(税込) | 主要な設計特徴 |
| Ryzen 7 9800X3D | 8C / 16T | 4.7 / 5.2 GHz | 96MB | 120W / 162W | 約72,000円〜 | 新配置の3D V-Cache。作業クロック低下を克服1 |
| Ryzen 7 7800X3D | 8C / 16T | 4.2 / 5.0 GHz | 96MB | 120W / 162W | 約55,000円〜 | 前世代。熱限界により定格・最大クロックが制限14 |
| Ryzen 7 9700X | 8C / 16T | 3.8 / 5.5 GHz | 32MB | 65W / 88W | 約47,000円〜 | 扱いやすい省電力設計。単一スレッドの最大値が高い14 |
| Ryzen 9 9900X | 12C / 24T | 4.4 / 5.6 GHz | 64MB | 120W / 162W | 約58,000円〜 | 2基のCCDに各6コア。マルチ処理で9800X3Dを凌駕10 |
| Ryzen 9 9950X3D | 16C / 32T | 4.3 / 5.7 GHz | 128MB | 170W / 200W | 約105,000円〜 | 片側CCDにのみV-Cache搭載。ゲームと重作業の頂点10 |
| Core Ultra 7 265K | 20C / 20T | 3.9 / 5.5 GHz | 30MB | 125W / 250W | 約55,000円〜 | 8P+12E構成。高いレンダリング力とQuick Syncを内蔵8 |
日常運用とオフィス作業におけるレスポンス性とPCMark 10の実測検証
Webブラウジング、動画視聴、表計算や文書作成、複数ウィンドウを展開した同時作業において、Ryzen 7 9800X3Dは現代のデスクトップCPUとして最上位の応答性を発揮する。日常的なPC利用の実効速度は、コア数よりも「瞬時のクロック立ち上がり速度」と「シングルスレッド性能」に左右されるためである9。
PC全体の総合的な実用性能を数値化するベンチマーク「PCMark 10」の実測において、Ryzen 7 9800X3D搭載機は総合スコアで10,000〜10,500ポイント台を安定して記録する19。ゲーミングPCにおいて個別テストが10,000を超える例は珍しくないが、総合スコアが10,000を突破する構成はごく一部のハイエンド機に限られる19。
- Essentials(アプリ起動、Web巡回、ビデオ会議):実測値は11,800〜13,000ポイントに達する19。ChromeやEdgeで数十個のタブを開いた状態でのタブ切り替えや、Electronベースの重量級アプリ(Discord、Slack等)の立ち上がりは完全に瞬間的であり、描画の遅延は体感できない。
- Productivity(表計算、ワープロ文書作成):実測値は10,500〜13,100ポイントをマークする19。数万行を超えるExcelシートの再計算、巨大なVBAマクロの実行、複雑なフィルター処理においても、息継ぎのない高速処理を維持する。
- Digital Content Creation(日常的な画像補正、簡易レンダリング):実測値は17,900〜21,000ポイントを記録する19。
前世代のRyzen 7 7800X3Dでは、シングルスレッドのクロック上限(5.0GHz)により、高クロックな通常モデル(7700X等)やIntel第14世代Coreプロセッサと比較して、細かなファイル展開やUIレスポンスでわずかな数値上の遅れが見られた15。これに対し、9800X3DはZen 5アーキテクチャによるIPC向上と5.2GHzへのブースト拡大により、この微細な差を完全に埋めている1。ゲームの裏でブラウザや配信ツール、ボイスチャットを同時に立ち上げる過密なマルチタスク環境でも、システム全体の操作感は極めてスムーズに保たれる6。
クリエイティブ処理の適性と制約:静止画現像・動画プレビュー・エンコード
クリエイティブソフトウェアにおけるX3Dシリーズの挙動は、タスクが「シングルスレッド・キャッシュ重視」か「多コア並列・専用ハードウェアデコーダ重視」かによって二極化する。
静止画編集・RAW現像(Photoshop / Lightroom Classic)
PhotoshopやLightroom Classicなどの静止画編集スイートは、Ryzen X3Dシリーズの強みが最も発揮される分野の一つである。ワークステーション評価の業界標準であるPuget Systemsの「PugetBench for Photoshop」において、Ryzen 7 9800X3Dは通常版のRyzen 7 9700Xと並び、多コアを誇るRyzen 9 9950Xや競合のCore Ultra 9 285K、Core i9-14900Kを抑えてデスクトップ最上位の総合スコアを叩き出している1。
Photoshopのレイヤー合成、フィルター適用、色空間変換といった処理は、16コア以上の多コアへ負荷を分散させることが難しく、1コアあたりのIPCとキャッシュ容量の大きさが処理速度を強く牽引する4。9800X3Dの96MBに及ぶL3キャッシュは、メインメモリとの往復データ転送を劇的に減少させるため、高画素RAWデータ(4,500万画素超)のレタッチや拡大縮小表示が極めて滑らかに動作する9。純粋な現像作業のみを目的とする場合、実売価格が2万円以上安価なRyzen 7 9700Xの方が費用対効果は高いものの、「ゲーム用CPUを選んだために写真現像速度を犠牲にする」という従来のトレードオフは完全に消失した4。
動画編集(Premiere Pro / DaVinci Resolve)
動画編集環境における作業快適性は、タイムラインの再生滑らかさ(プレビュー性能)と、最終ファイルの書き出し(エンコード性能)に二分される。
| 評価項目 | Ryzen 7 9800X3D の挙動 | 自作PC構築上の留意点 |
| タイムラインプレビュー | 4K 60fps(一般的なH.264/H.265素材)をドロップフレームなく滑らかに再生可能18 | 編集ソフトの再生エンジンはGPU支援を活用するため、GeForce等の併用でCPU負荷は極めて軽微18 |
| PugetBench Premiere Pro | スコア約1,140〜14,600点(テスト基準により変動)。9700Xと9900Xの間に位置4 | 7800X3D比で約25%スコアが向上。8コアCPUとして非常に優秀な実用値をマーク5 |
| ハードウェア書き出し | GeForceのNVENC等を用いた出力により、4K動画も高速に書き出し完了6 | 通常の動画制作ではGPU書き出しが標準のため、CPUのコア数差による時間差は生じにくい6 |
| ソフトウェア書き出し | Handbrake等でのCPU完結エンコードでは多コアCPU(9900X/265K)に劣る1 | 最高画質を追求する純CPUレンダリングでは、コア数が多い上位モデルに対して20〜30%遅い1 |
| 特殊コーデックの扱い | ミラーレス一眼の「4:2:2 10-bit」素材はCPUによる力任せのソフトウェア展開となる10 | Intel Quick Sync非搭載のため、プレビューが引っ掛かる場合はプロキシ(低解像度代理ファイル)生成が必須11 |
動画編集において自作ユーザーが最も注意すべき要素は、Intel製CPU(内蔵GPU有効モデル)が備えるIntel Quick Sync Videoの存在である4。Sony αシリーズ、Canon、Panasonic等のミラーレス一眼カメラで多用される高画質Log撮影フォーマット「H.264 / H.265の10-bit 4:2:2」は、GeForce RTX 40シリーズやRadeon RX 7000シリーズなどのディスクリートGPUではハードウェアデコードに対応していない11。この素材を編集する場合、Intel環境であれば内蔵GPUのQuick Syncによりタイムラインをコマ落ちなく軽快に再生できるが、AMD環境ではCPUの全スレッドを動員したソフトウェアデコード(力任せの計算)を強いられる11。
そのため、業務用ミラーレスカメラの撮って出し素材をカラーグレーディングしながら多重に重ねるプロフェッショナル用途では、Core Ultra 7 265KやCore i7-14700Kを選定した方がプレビューのレスポンス面で有利となる18。一方で、スマートフォン(iPhone等のProResや4:2:0 HEVC)で撮影した素材、ゲーム画面のキャプチャ映像、アクションカム映像などを編集する標準的な制作環境であれば、GeForce側のハードウェアデコーダが完全に機能するため、Ryzen 7 9800X3Dで何らストレスなく編集が可能である25。
フルスレッド負荷時の限界:3DCGレンダリングとコードコンパイルの立ち位置
日常ユースや静止画編集で優れた適性を見せるRyzen 7 9800X3Dだが、全CPUコアを100%稼働させ続ける高負荷ワークロードにおいては、物理8コア16スレッドという設計上の限界線が明確に現れる。
3DCGレンダリング(Cinebench / Blender)
CPUによるオフラインレンダリングは、キャッシュ容量の恩恵をほとんど受けず、「コア数×動作周波数」の絶対量がそのまま完了時間を決定する4。
| ベンチマーク指標 | Ryzen 7 9800X3D | Ryzen 7 7800X3D | Ryzen 9 9900X | Core Ultra 7 265K |
| Cinebench 2024 Multi | 約1,308 pts15 | 約1,096 pts15 | 約1,768 pts26 | 約2,047 pts26 |
| Cinebench 2024 Single | 約135 pts15 | 約109 pts15 | 約137 pts26 | 約139 pts26 |
| Cinebench R23 Multi | 約23,000〜23,437 pts15 | 約17,762〜18,000 pts15 | 約33,500 pts27 | 約35,760 pts17 |
| Cinebench R23 Single | 約2,095〜2,100 pts15 | 約1,800〜1,811 pts15 | 約2,150 pts | 約2,288 pts17 |
| Blender 4.x (BMW27等) | 約323〜326 pts2 | 約265 pts2 | 約450 pts 前後 | 約450〜460 pts5 |
前世代のRyzen 7 7800X3D(Cinebench R23で約18,000 pts)と比較した場合、Ryzen 7 9800X3D(約23,000 pts強)は約30%以上の性能向上を達成している1。しかし、同価格帯で購入可能な20コア構成のCore Ultra 7 265K(約35,700 pts)や、同世代の12コアモデルであるRyzen 9 9900X(約33,500 pts)と比較すると、マルチスレッド性能において約30〜35%の開きをつけられている4。
もっとも、現在のBlender等の3DCGワークフローでは、CPUではなくGPU(GeForce RTXのOptiX機能)を用いてレンダリングを行う手法が完全に主流である6。グラフィックボード側にレンダリングを委託する場合、CPU性能による最終出力時間の差はわずか数秒にとどまるため、個人制作の範囲であれば8コアの9800X3Dでも実用上の支障は生じない6。
ソフトウェア開発・コードビルド(C++ / Unreal Engine)
プログラミングやゲームエンジン開発におけるビルド処理では、タスクの性質によって挙動が分岐する。
Unreal Engine 5を用いたシェーダーコンパイルテスト(Puget Systems検証)においては、大容量L3キャッシュが極めて効果的に機能する4。Ryzen 7 9800X3Dは、通常版のRyzen 7 9700Xに対して完了時間を約23%短縮(所要時間比率77%)し、8コアでありながら12コアのRyzen 9 9900Xに対して約14%遅い程度の位置に踏みとどまる4。
しかし、数百万行規模のC++ソースコードやLinuxカーネルを全スレッド並列でビルドするような作業では、純粋なスレッド総数が処理時間を決定づける31。日常的に大規模プロジェクトのコンパイルを繰り返すソフトウェア開発者の場合、コンパイル待ち時間が直接的な作業効率低下に直結するため、Ryzen 9 9950X(16コア)やCore Ultra 9 285K(24コア)などの多コアCPUを選定することが合理的である1。
ゲーム実況配信におけるCPU負荷とマルチCCDモデルのスケジューリング課題
PC1台で高負荷なゲームをプレイしながら、OBS Studio等を用いてTwitchやYouTubeへ同時配信・録画を行う「シングルPC配信環境」において、X3Dシリーズは非常に高い実用性を誇る。
配信エンコードにおけるGPU処理の実態
かつてはCPUの演算能力を用いて配信映像を圧縮する「x264ソフトウェアエンコード」が主流であり、配信とゲームの両立には8コア以上の多コアCPUが強く推奨されていた。しかし現在の配信現場では、GeForce RTXシリーズに搭載されているハードウェアエンコーダ「NVENC(AV1 / HEVC / H.264)」を利用することが事実上の標準となっている6。
GPUエンコードを適用した場合、CPUが負担するのはOBSのシーン描画管理、音声ミキシング、コメント連携ツール等のバックグラウンド処理のみとなり、CPU使用率は全体で数%〜10%程度しか増加しない。このため、8コア16スレッドを備え、1コアあたりの基礎体力が向上したRyzen 7 9800X3Dであれば、ゲームの最小フレームレート(1% Low)を高い水準に保ったまま、ドロップフレームのない安定したライブ配信を成立させることができる1。
単一CCD(Ryzen 7)とデュアルCCD(Ryzen 9)の挙動の違い
「配信や作業をより強固にするため、上位のRyzen 9 X3Dモデル(7950X3D / 9950X3D)を導入すべきか」という点は、自作PCユーザーが直面する重要な判断基準である。ここにはCPUの物理構造に起因する制御上の留意点が存在する。
| 構造分類 | 該当モデル | 内部構造とキャッシュ構成 | スケジューリングの挙動と自作実用上の留意点 |
| 単一CCD | Ryzen 7 9800X3D Ryzen 7 7800X3D | 8コアすべてが1つのダイに集約され、全コアが96MB L3キャッシュに直結8 | 完全自動・トラブルフリー OSがどのコアにスレッドを割り振っても性能低下が発生せず、追加の設定なしに常に最大性能を発揮する9。 |
| デュアルCCD | Ryzen 9 9950X3D Ryzen 9 7950X3D | 8コアのダイを2基搭載(計16コア)。3D V-Cacheは片側のダイ(8コア)にのみ積層10 | OS・ドライバ依存の制御が必要 ゲーム時はXbox Game Barとドライバが連携し、キャッシュ非搭載側のコアを休止(コアパーキング)させてゲームをX3D側に集約する32。 |
デュアルCCDモデルにおいてゲームとOBS配信を同時稼働させた場合、Windowsのスケジューラーが配信ソフトを「ゲームの関連プロセス」と誤認してX3D側のコアに集中させてしまい、ゲーム側のキャッシュを奪い合ってフレームレートのスタッター(突発的な引っ掛かり)を生じさせる事例が報告されている32。この問題を完全に排除するためには、「Process Lasso」等のユーティリティを用いて手動でOBSを通常コア(CCD1)へ、ゲーム本体をX3Dコア(CCD0)へと割り振る詳細なチューニングを要する場合がある32。
したがって、「OSやドライバの挙動に気を揉むことなく、ゲームと配信を完全にプラグ&プレイで安定稼働させたい」という自作ユーザーにとっては、単一CCDで完結しているRyzen 7 9800X3Dの方が実運用上の扱いやすさで勝っている9。
システム消費電力とサーマル密度に基づくCPUクーラー選定要件
X3Dシリーズを自作PCに組み込む際、消費電力の特性と熱密度の挙動を正しく把握しておくことは、電源ユニットおよび冷却パーツの費用を最適化する上で極めて有益である。
実稼働時の消費電力特性
Ryzen 7 9800X3Dは、負荷の種類によって消費電力のプロファイルが大きく変化する。
- ゲームプレイ中:平均消費電力は約60W〜75W前後にとどまる1。同等以上のフレームレートを維持するために150W〜200W以上を消費する競合のハイエンドCPUと比較して、FPS-per-Watt(電力効率)は市場トップクラスである1。
- 動画エンコード・レンダリング時:全コアがフルブーストされるため、PPT上限値である約150W〜162Wまで電力を使い切る1。前世代の7800X3Dが全負荷時でも約80Wで頭打ちになっていたのに比べると消費電力は増加しているが、これは動作クロックの引き上げによって作業性能を大幅に底上げした直接的な結果である3。
- アイドル時:チップレット構造および大容量L3キャッシュの維持により、常時15W〜25W前後を消費する36。数Wまで電力が下がるモノリシック構造のCPUに比べると、待機電力はやや高めとなる。
発熱挙動と推奨CPUクーラー
Zen 5のX3Dプロセッサは、熱設計上の上限温度(TjMax)が95℃に設定されている1。CPUは冷却能力の許す限り高クロックを維持し、限界温度または電力上限に達するまで自律的にブーストをかける仕様となっている35。さらに、わずか約70平方ミリメートルの微細なコアダイから150W以上の熱が発生するため「熱密度」が非常に高く、どれほど高性能なクーラーを用いても全負荷時には80℃台半ば〜90℃近くまで瞬時に温度が跳ね上がる14。これはパーツの冷却不良ではなく、近年の高密度CPUにおける正常な動作特性である35。
自作PC構成における冷却パーツの選定基準は以下の通りである。
- 大型空冷クーラー(推奨・コスト重視): Thermalright「Phantom Spirit 120 SE」やNoctua「NH-D15」などのツインタワー型空冷クーラーで十分な冷却が可能である35。ゲームプレイ時は60℃〜70℃台の安定した低温度を維持でき、長時間の全コアレンダリング時でもサーマルスロットリングによる著しい性能低下を防ぐことができる19。
- 240mm〜360mm簡易水冷クーラー(推奨・静音・高負荷重視): 長時間のBlenderレンダリングや頻繁な動画書き出しを想定し、ファン回転数を抑えて高負荷時の静音性を確保したい場合は、240mmまたは360mmラジエーターを備えた水冷クーラーの導入が適している1。
- BIOS設定によるチューニング(Curve Optimizer): マザーボードのBIOSからAMD Precision Boost Overdrive(PBO)内の「Curve Optimizer」を利用し、全コアに「-20」〜「-30」程度の負のオフセット電圧を設定することで、マルチスレッド性能を落とすことなくピーク時温度を5℃〜8℃低下させることが可能である13。これは自作ユーザーにとって定番かつ効果的な最適化手法となっている13。
「ゲーム7割・作業3割」ユーザーに向けた用途別構成判断マトリクス
これまでに検証した実測性能、機能差、熱設計を総合し、「ゲーム7割・作業3割」のハイブリッドユーザー、および競合CPUとの間でパーツ選定に悩む自作ユーザー向けの決定マトリクスを提示する。
| 想定される利用シナリオ | 最適な推奨CPU | パーツ選定の理由と自作における実践アドバイス |
| ゲーム7割 + 日常利用・写真現像・YouTube動画編集3割 | Ryzen 7 9800X3D | 【本命の選択肢】 現行最強のゲーム性能を享受しつつ、Photoshopや普段使いでもトップクラスの快適性を両立。8コアの処理能力とGPU支援により動画編集も極めて快適に動作する1。 |
| ゲーム7割 + ミラーレス一眼の4:2:2 10-bit動画編集3割 | Core Ultra 7 265K (または Core i7-14700K) | ミラーレス一眼のLog素材編集において、Intel Quick Syncによるハードウェア再生が必須となる場合。ゲーム性能はX3Dに譲るが、タイムラインの操作性で優位に立つ8。 |
| ゲーム5割 + 業務レベルの3DCG制作・大規模ビルド5割 | Ryzen 9 9950X3D | 予算を惜しまず、単一PCで最強のゲームフレームレートと16コア32スレッドの圧倒的レンダリング速度を妥協なく共存させたいパワーユーザー向け13。 |
| 作業7割 + ゲーム3割(予算対効果・省電力重視) | Ryzen 9 9900X (または Ryzen 7 9700X) | 9800X3Dよりも安価ながら、12コアのパワーでレンダリングや純CPU書き出しが高速。ゲームも標準以上の快適さで動作し、コストパフォーマンスに優れる4。 |
Ryzen 7 9800X3Dの登場によって、自作PC市場における「X3Dは作業用途を犠牲にする」という構図は完全に過去のものとなった1。純粋な物理コア数が求められる専門的な3DCGスタジオ環境や、Intel Quick Sync特有のデコード環境を必要とする映像編集者でない限り、「ゲーム7割・作業3割」という現実的なハイブリッド用途において、Ryzen 7 9800X3Dを選んで作業性能に失望することはまずあり得ない。日常のあらゆる操作における軽快な応答性と、他の追随を許さない圧倒的なゲーミング性能を両立するプロセッサとして、本製品は現行の自作PC構成における最高峰の投資価値を備えている。
引用文献
- AMD Ryzen 7 9800X3D Review: Devastating Gaming Performance, https://www.tomshardware.com/pc-components/cpus/amd-ryzen-7-9800x3d-review-devastating-gaming-performance/3
- AMD Ryzen 7 9800X3D beats the 7800X3D by 26% in leaked, https://www.tomshardware.com/pc-components/cpus/amd-ryzen-7-9800x3d-beats-the-7800x3d-by-26-percent-in-leaked-blender-benchmarks-outpaces-even-the-current-generation-ryzen-7-9700x-by-11-percent
- [TechPowerUp] AMD Ryzen 7 9800X3D Review – The Best Gaming, https://www.reddit.com/r/hardware/comments/1gkza8y/techpowerup_amd_ryzen_7_9800x3d_review_the_best/
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- 9800X3D vs 9950X3D: The Definitive Late-2025 Buyer’s Guide, https://acegamingpc.com/9800x3d-vs-9950x3d-2025-buyers-guide/
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- AMD Ryzen 9 9950X3D and 9900X3D Content Creation Review, https://www.pugetsystems.com/labs/articles/amd-ryzen-9-9950x3d-and-9900x3d-content-creation-review/
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