Snapdragon 7c Gen 2 ベンチマークまとめ

SoC_Qualcomm-snapdragon CPU・SoC

1. はじめに

1.1. Snapdragon 7c Gen 2の概要と位置づけ

Qualcomm Snapdragon 7c Gen 2は、主にエントリーレベルのWindows PCおよびChromebook向けに設計されたARMベースのシステムオンチップ(SoC)です 1。2021年5月に発表され、前世代のSnapdragon 7cからの改良版として位置づけられています。主なターゲットは、常時接続性(Always-on, Always-connected)と長時間のバッテリー駆動時間を必要とする、比較的安価なモバイルコンピューティングデバイス市場です。Intel CeleronやMediaTek Kompanioシリーズといった競合プロセッサに対する、特に電力効率と接続性の面での優位性を目指しています 2

1.2. レポートの目的と構成

本レポートは、日本語のウェブサイト情報を中心に収集したデータに基づき、Snapdragon 7c Gen 2コンピュートプラットフォームの性能を多角的に分析・評価することを目的とします。具体的には、各種ベンチマークスコアの収集、競合SoCとの性能比較、搭載デバイスの実機レビューに基づく実使用性能の評価、そして省電力性や接続性といったプラットフォームとしての特徴を明らかにします。

レポートは以下の構成で記述します。

  • 技術仕様:CPU、GPU、AIエンジンなどの主要コンポーネントの詳細。
  • ベンチマークスコア分析:Geekbench, PCMark, Octane, 3DMark, Cinebench等のスコアと評価。
  • 競合SoCとの性能比較:Intel Celeron, MediaTek Kompanio, 旧世代Snapdragonとの比較。
  • 実機レビューに基づく実使用性能:ウェブ閲覧、オフィス作業、メディア再生、ゲーム、Windows on Arm環境での動作評価。
  • プラットフォームとしての特徴:省電力性、バッテリー持続時間、常時接続性、AI機能、セキュリティなど。
  • 総合評価:強みと弱み、ターゲットデバイスと用途の分析。
  • 結論:市場における位置づけと意義、今後の展望。

2. Snapdragon 7c Gen 2の技術仕様

Snapdragon 7c Gen 2は、モバイルコンピューティング向けに最適化されたコンポーネントを統合しています。

  • CPU: Qualcomm Kryo 468 CPUを搭載しています。これは、ARM Cortex-A76ベースの高性能コア(Kryo 468 Gold)4コアと、ARM Cortex-A55ベースの高効率コア(Kryo 468 Silver)4コアからなる、合計8コアの構成です 2。最大動作クロック周波数は、前世代の2.4GHzから2.55GHzへと引き上げられています 1
  • GPU: Qualcomm Adreno 618 GPUを統合しています 1。128基のシェーダープロセッサーを備え、エントリークラスのデバイスとしては標準的なグラフィックス性能を提供します。
  • プロセスルール: 8nmプロセス技術で製造されており、電力効率の向上に寄与しています。
  • AIエンジン: 第5世代のQualcomm AI Engineを搭載し、専用のHexagon NPU(Neural Processing Unit)により、5TOPS(Trillions of Operations Per Second)以上のAI処理性能を実現します 2。これにより、オンデバイスでのセキュリティ機能の高速化、音声認識精度の向上、計算写真技術(背景効果、視線補正など)の効率的な実行が可能になります。
  • 接続性: Snapdragon X15 LTEモデムを統合しており、Wi-Fi環境がない場所でも常時インターネット接続を可能にします。これにより、信頼できるWi-Fiとセルラーネットワーク間をシームレスに切り替え、場所を選ばずに安全な接続を維持できます。Wi-Fi規格としてはIEEE 802.11acに対応しています。

3. ベンチマークスコア分析

各種ベンチマークテストの結果から、Snapdragon 7c Gen 2の性能特性を分析します。

3.1. Geekbench (5/6)

GeekbenchはCPUの演算性能を測定する代表的なベンチマークです。Snapdragon 7c Gen 2を搭載したデバイスのスコアは、複数のレビューサイトで報告されています。

  • IdeaPad Duet 370 Chromebook:
  • Geekbench 5: Multi-Core 1739, Single-Core (言及なし) 3
  • Geekbench 5: Multi-Core 1578, Single-Core 608
  • LAVIE Tab T14 (参考):
  • Geekbench 5: Multi-Core 1629 4注: このスコアは比較表内のデータであり、LAVIE Tab T14自体はDimensity 9000搭載機。

これらのスコアを他のSoCと比較すると、以下のようになります。

SoCGeekbench 5 Multi-CoreGeekbench 5 Single-Core出典 (主な情報源)
Snapdragon 7c Gen 21578 – 1739~608pc.watch.impress.co.jp 3, ascii.jp, for-real.jp 4
MediaTek Kompanio 5201319470pc.watch.impress.co.jp 5
MediaTek Kompanio 1300T2864739for-real.jp
Snapdragon 7c (Gen 1)(比較データなし)(比較データなし)
Intel Celeron N4020(比較データなし)(比較データなし)
Intel Celeron N5100~3484 (注1)~1047 (注1)Notebookcheck

(注1: Notebookcheckのデータであり、日本語サイトの直接比較ではない。また、Geekbench 5.1-5.5の範囲での平均値であり、環境により変動。)

Geekbenchスコアからは、Snapdragon 7c Gen 2がMediaTek Kompanio 520を上回るものの、より高性能なKompanio 1300Tや一部のIntel Celeron Nシリーズ(特にN5100など)には及ばないCPU性能であることが示唆されます。

3.2. PCMark

PCMarkは、Webブラウジング、文書作成、写真編集など、より実用的なタスクにおけるパフォーマンスを測定します。

  • Lenovo IdeaPad Duet 560 Chromebook:
  • PCMark Work 3.0: 9660 6
  • ASUS ExpertBook B3 Detachable (Windows):
  • PCMark 10 Applications Benchmark: 実行結果の画像掲載あり、具体的なスコア記載なし 7
  • PCMark 10 Battery Benchmark Applications: 実行結果の画像掲載あり、具体的なスコア記載なし 7

PCMark Work 3.0で9660というスコアは、Chromebookにおける基本的なタスクの快適性を示唆しています。Windows環境でのPCMark 10の具体的なスコアは不明ですが、実使用感のレビュー 7 と合わせて考慮する必要があります。

3.3. Octane 2.0

Octane 2.0はJavaScriptの実行速度を測定するベンチマークで、Webブラウジングの快適さの指標となります。

  • Lenovo IdeaPad Duet 560 Chromebook: 22882 6
  • IdeaPad Duet 370 Chromebook: 21003 3
  • ASUS Chromebook CM14 Flip (Kompanio 520): 21285
  • 競合 (Intel Celeron搭載モデル): 10000 – 15000 6

Snapdragon 7c Gen 2搭載Chromebookは、Octane 2.0で20000を超えるスコアを記録しており、競合となるIntel Celeron搭載モデルのスコア(1万~1万5000)を大幅に上回っています 6。これは、Webブラウジング、特にJavaScriptを多用する現代的なウェブサイトの利用において、よりスムーズな体験が期待できることを示しています。MediaTek Kompanio 520搭載機とも同等のスコアです。

3.4. 3DMark

3DMarkは主にGPUのグラフィック性能を測定します。

  • IdeaPad Duet 370 Chromebook:
  • 3DMark Sling Shot: 3512
  • ASUS ExpertBook B3 Detachable (Windows):
  • 3DMark: 実行結果の画像掲載あり、具体的なスコア記載なし 7

3DMark Sling Shotのスコア3512は、エントリークラスのSoCとしては妥当なレベルですが、高いグラフィック性能を要求する最新の3Dゲームを快適にプレイするには力不足であることを示唆しています。軽いゲームや、描画設定を下げた状態でのプレイが現実的です。

3.5. Cinebench (R23/R20/R15)

CinebenchはCPUのレンダリング性能を測定するベンチマークで、特にマルチコア性能の評価に用いられます。日本語サイトでの直接的なスコア報告は少ないですが、海外のベンチマークサイトの情報が含まれるスニペットがあります。

  • Snapdragon 7c Gen 2 (参考値):
  • Cinebench R23 (Multi Core): 992
  • Cinebench R23 (Single Core): 307
  • Cinebench R20 (Multi Core): 347
  • Cinebench R20 (Single Core): 116.8
  • ASUS ExpertBook B3 Detachable (Windows):
  • CINEBENCH R23: 実行結果の画像掲載あり、具体的なスコア記載なし 7

これらのスコアは、特にマルチコア性能において、動画編集や高度なレンダリングのようなCPU負荷の高いタスクには限界があることを示しています。

3.6. AnTuTu (参考情報)

いくつかの情報源でAnTuTuスコアに言及がありますが、注意が必要です。例えば、8 や for-real.jp で報告されている59万点台の総合スコアや11万点台のGPUスコアは、Snapdragon “7s” Gen 2 のものであり、本レポートの対象であるSnapdragon “7c” Gen 2 とは異なる、より高性能なスマートフォン向けSoCです。Snapdragon 7c Gen 2のAnTuTuスコアに関する信頼できる日本語の情報は見当たりませんでした。

3.7. AIベンチマーク

Snapdragon 7c Gen 2は第5世代Qualcomm AI Engineを搭載し、5TOPS以上のAI処理性能を持つとされています 2。これは、デバイス上でのAIタスク(顔認識、音声アシスタント、背景ぼかしなど)を効率的に実行する能力を示します。ただし、Geekbench AI やその他の具体的なAIベンチマークスコアに関する日本語の情報は限定的です。

4. 競合SoCとの性能比較

Snapdragon 7c Gen 2の性能を、エントリーPC市場における主要な競合SoCと比較します。

4.1. Intel Celeron Nシリーズ (N4020, N5095, N5100)

Intel Celeron Nシリーズは、低価格帯のWindowsノートPCやChromebookで広く採用されています。

  • 性能比較:
  • Octane 2.0: Snapdragon 7c Gen 2 (約21000-23000) は、Celeron搭載モデル (約10000-15000) よりも大幅に高いスコアを示し、Webブラウジング性能で優位です 6
  • CPU Mark (PassMark): Snapdragon 7c Gen 2 (Multi: 3853, Single: 1476) は、Celeron N4020 (Multi: ~22.5k?, Single: ~16.7k? – 注: S_24の単位不明瞭) や Celeron N5095 (Multi: ~2174, Single: ~73.8 – 注: Cinebench R15?) と比較して、シングルスレッド性能は同等かやや優位、マルチスレッド性能ではコア数の多さ(8コア vs 2コア/4コア)から有利な傾向が見られます。ただし、ベンチマークの種類や環境によって結果は変動します。例えば、Cinebench R23 Single CoreではSnapdragon 7c Gen 2 (307) がCeleron N5095 (データなし) やN4020 (Cinebench R15 Single: ~74) より高い可能性がありますが、Multi CoreではCeleron N5095 (Cinebench R15 Multi: ~343) の方が高い場合もあります。Celeron N5100 (4コア/4スレッド) と比較した場合、Geekbench 5 Multi-CoreではN5100が優位な結果も報告されています。
  • 特性: Celeron Nシリーズは一般的にTDP(熱設計電力)が低く(例: N4020 6W, N5100 データなし)、バッテリー持ちが良いとされます。Snapdragon 7c Gen 2もTDP 7W と低消費電力ですが、ARMアーキテクチャの特性もあり、実際のバッテリー駆動時間ではさらに優位性を示すことが多いです 2
  • 用途: Celeronは書類作成やWeb検索などの一般的な用途には十分とされています。Snapdragon 7c Gen 2も同様の用途に適していますが、Webブラウジング性能やバッテリー持続時間でアドバンテージがあります。

4.2. MediaTek Kompanioシリーズ (Kompanio 520, MT8183)

MediaTek Kompanioシリーズは、特にChromebook市場でSnapdragon 7c Gen 2と競合します。

  • 性能比較:
  • Geekbench 5 Multi-Core: Snapdragon 7c Gen 2 (1578-1739) は、Kompanio 520 (1319) 5 やMT8183 (1384) 4 よりも高いスコアを示します。Kompanio 1300T (2864) 4 のような上位モデルには及びません。
  • Octane 2.0: Snapdragon 7c Gen 2 (約21000-23000) は、Kompanio 520 (21285) と同等のスコアです。MT8183との比較データは少ないですが、QualcommはMT8183に対する性能優位性を主張しています 2
  • 特性: KompanioシリーズもARMベースであり、省電力性に優れています。Kompanio 520は電力効率の改善が図られており、搭載デバイスは良好なバッテリー持続時間を示します。
  • 用途: Kompanio 520搭載機もSnapdragon 7c Gen 2搭載機と同様に、Webブラウジングや軽作業を中心とした用途に適しています 9。性能的にはSnapdragon 7c Gen 2がやや有利な場面が多いと考えられます。

4.3. 旧世代Snapdragon (Snapdragon 7c Gen 1)

Snapdragon 7c Gen 2は、Snapdragon 7c (Gen 1) の改良版です。

  • 性能向上:
  • CPU Mark (PassMark): Snapdragon 7c Gen 2 (Multi: 3853, Single: 1476) は、Snapdragon 7c (Multi: 3423, Single: 1242) に対して、マルチスレッドで約11%、シングルスレッドで約16%高速化しています。
  • Octane 2.0: IdeaPad Duet 370 (7c Gen 2) のスコア (21003) は、前モデル IdeaPad Duet Chromebook (7c Gen 1搭載、スコア不明だがOctane 2.0が約2倍向上したとの記述あり) と比較して大幅に向上しています 3
  • CPUクロック: 最大クロックが2.4GHzから2.55GHzへ向上しています 2
  • その他: 基本的なアーキテクチャ (Kryo 468コア、Adreno 618 GPU、AI Engine) は共通ですが、クロック向上により着実な性能アップが図られています。LTEモデムも同じSnapdragon X15です。Acer Chromebook Spin 513のレビュー 10 はGen 1モデルに関するものであり、Gen 2での改善点を考慮する必要があります。

5. 実機レビューに基づく実使用性能

Snapdragon 7c Gen 2を搭載した実際のデバイス(ChromebookやWindows PC)のレビューから、日常的な利用シーンにおける性能を評価します。

5.1. 搭載デバイス例

  • Chromebook:
  • Lenovo IdeaPad Duet 560 Chromebook
  • Lenovo IdeaPad Duet 370 Chromebook
  • ASUS ExpertBook B3 Detachable B3000DQ1A (Chromebook版も存在)
  • ASUS Chromebook Flip CM3 (CM3200) – 注: レビュー対象はMediaTek搭載モデルの可能性あり
  • Acer Chromebook Spin 513 (CP513) – 注: レビュー対象はSnapdragon 7c Gen 1モデル
  • Windows PC (Windows on Arm):
  • ASUS ExpertBook B3 Detachable B3000DQ1A 7

これらのデバイスは、主に2-in-1のデタッチャブル型やコンバーチブル型が多く、タブレットとしてもノートPCとしても利用できる携帯性の高いデザインが特徴です。

5.2. 一般的なユースケースでの評価

  • ウェブ閲覧: 複数のレビューで、Chromeブラウザで多数(数十個)のタブを開いても比較的快適に動作すると報告されています 3。Octane 2.0のスコアが示すように、Webブラウジング性能は良好です。メモリ容量(4GB vs 8GB)がマルチタスク性能に影響を与えるため、多くのタブを開く場合は8GBメモリ搭載モデルが有利です 9
  • オフィスアプリケーション: Google Workspace(ドキュメント、スプレッドシートなど)やMicrosoft OfficeのWeb版など、クラウドベースのオフィスアプリはストレスなく利用できると評価されています。基本的な書類作成や編集作業には十分な性能です。
  • メディア再生: 動画視聴(YouTubeなど)はスムーズに行えます。多くの搭載機が高解像度ディスプレイ(Full HDや2K)を採用しており、特に有機ELディスプレイ搭載モデル では、鮮やかな映像を楽しめます。ただし、内蔵スピーカーの音質については、Web会議程度なら十分だが、映画や音楽鑑賞には物足りないという評価もあります。
  • マルチタスク性能: メモリ容量に依存しますが、8GBメモリ搭載モデルであれば、複数のアプリケーションを並行して使用するマルチタスクも比較的快適にこなせます 9。4GBモデルでは、タブを多く開いたり、重い処理を同時に行うと動作が遅くなる可能性があります。
  • 起動速度: ChromebookはOSの特性上、起動が非常に高速です。スリープからの復帰も速やかです。

5.3. ゲーム性能

Adreno 618 GPUは、高度なグラフィック処理能力を要求しません。

  • 評価: 『原神』は画質設定「低」でなんとか遊べるレベル、『ウマ娘 プリティーダービー』は起動しない場合がある、一方で『Fate/Grand Order』は問題なくプレイ可能といった報告があります。『PUBG Mobile』も実用的な速度でプレイ可能との評価もあります。
  • 結論: 最新の3Dゲームを高画質で楽しむには性能不足ですが、カジュアルなゲームや、グラフィック設定を調整すればプレイ可能なゲームもあります。ゲーム目的での購入には向きません。

5.4. Windows on Arm 環境での動作

Snapdragon 7c Gen 2搭載のWindowsタブレット(例: ExpertBook B3 Detachable)では、ARMアーキテクチャ特有の注意点があります。

  • x86/x64 アプリケーション: 従来のWindows向けに作られた多くのアプリケーション(x86/x64アプリ)は、エミュレーションを通じて動作します。このエミュレーション処理のため、アプリの初回起動に時間がかかったり、動作が重く感じられたりする場面が多いと報告されています 7。全体的にアプリ起動で待たされる印象があるとされています 7
  • Arm64 ネイティブアプリ: 一方で、Microsoft Edge、Teams、Zoomなど、Arm64にネイティブ対応したアプリケーションは、素早く起動し、きびきびと動作するため快適に利用できます 7
  • 現状: Arm64ネイティブアプリはまだ数が限られているため、利用したいアプリが快適に動作するかどうかは事前に確認が必要です 7。性能面では、省電力性を重視しているため、高い処理能力を求める作業には不向きであり、動作のもたつきを感じる可能性があると評価されています 11

6. プラットフォームとしての特徴

Snapdragon 7c Gen 2は、単なるCPU/GPU性能だけでなく、プラットフォーム全体としていくつかの特徴を持っています。

6.1. 省電力性とバッテリー持続時間

ARMアーキテクチャと8nmプロセス技術により、優れた電力効率を実現しています。

  • 評価: 多くの実機レビューで、バッテリー持続時間の長さが高く評価されています 11
  • 公称値: デバイスによって異なりますが、12時間 3 や15.5時間、Windowsタブレットでは約18.6時間 7 といった長時間の公称駆動時間が示されています。
  • 実測値: 輝度中程度でYouTubeを連続再生した場合、約12時間動作したという報告 3 や、通常使用で実働7~8時間程度持つというレビュー 9 があります。スリープ時の消費電力も非常に少ないとされています。
  • 比較: 競合のIntel Celeronと比較しても、性能あたりの消費電力比で優位性があるとQualcommは主張しています 2

この優れたバッテリー持続時間は、ACアダプタを持ち運ばずに一日中使用できるモバイル利用において大きな利点となります 11

6.2. 常時接続性 (Always-on, Always-connected)

統合されたSnapdragon X15 LTEモデムにより、Wi-Fiがない環境でもインターネット接続が可能です。

  • 利便性: どこでもすぐにネットワークに接続できるため、外出先での作業や情報収集が容易になります。
  • 対応: LTE対応モデルでは、物理SIMカードスロットや、一部モデルではeSIMにも対応しており 10、柔軟な回線選択が可能です。
  • 市場: ChromebookにおけるLTE対応はまだ珍しく、この機能は大きな差別化要因となります 10

6.3. AI機能と活用例

5TOPSの性能を持つAI Engine により、様々なオンデバイスAI機能を実現します。

  • 用途:
  • セキュリティ: デバイス上での脅威検出などを高速化。
  • 音声認識: より正確な音声コマンドや文字起こし。
  • カメラ機能: 背景ぼかし、視線補正、AIによる画質向上 (AI補光、ペット撮影補正など)。
  • その他: 今後、NPUを活用するアプリケーションが増えることで、さらに多様なAI体験が期待されます。

AI PCのトレンドの中で、エントリークラスのデバイスにおいてもオンデバイスAI処理能力を持つ点は重要です。

6.4. セキュリティ機能

チップレベルからの多層的なセキュリティ機能が組み込まれています。

  • 機能: セキュアブート、ハードウェアベースのデータ暗号化、実行環境の分離(サンドボックス)などが含まれます。
  • OS連携: 特にChrome OSと組み合わせることで、自動更新、確認付きブート、復元モードなどと連携し、高いセキュリティレベルを実現します。

6.5. カメラ・オーディオ機能

Qualcomm Spectra ISP (Image Signal Processor) と Qualcomm Aqstic Audio技術が統合されています。

  • カメラ: クリアで高品質な映像を提供し、ビデオ会議などに適しています。搭載デバイスのレビューでも、Webカメラの画質はビデオ会議用途には十分であると評価されています。
  • オーディオ: クリアな音声を提供し、ビデオ会議での聞き取りやすさを向上させます。

7. 総合評価

収集した情報に基づき、Snapdragon 7c Gen 2プラットフォームの強みと弱み、そして最適な用途を評価します。

7.1. 強み

  • 優れた省電力性とバッテリー持続時間: ARMアーキテクチャと低TDPにより、一日中使える長いバッテリー駆動時間を実現しており、モバイル用途に最適です 3
  • 常時接続性 (LTE): 内蔵LTEモデムにより、Wi-Fi環境に依存しないシームレスな接続性を提供します 10
  • 基本的なタスクにおける快適性: Webブラウジング(特にJavaScript多用サイト)、オフィスアプリ、動画再生といった日常的なタスクは、特にChromebook環境においてスムーズにこなせます 3
  • ファンレス設計と静音性: 低発熱のため、多くの搭載デバイスでファンレス設計が可能となり、静かな動作環境を提供します。
  • コストパフォーマンス: エントリーレベルのデバイス向けであり、比較的安価な製品に搭載されています。

7.2. 弱み

  • 高負荷タスクでの性能限界: CPUおよびGPU性能はエントリーレベルであり、動画編集、高度な画像処理、最新3Dゲームなどの重いタスクには向きません 7
  • Windows on Arm環境での互換性と性能: Windows環境では、従来のx86/x64アプリの多くがエミュレーション動作となり、パフォーマンスが低下する可能性があります 7。Arm64ネイティブアプリの普及が課題です。
  • 限定的なグラフィック性能: Adreno 618 GPUは、基本的な表示や動画再生には十分ですが、ゲームやグラフィックデザイン用途には力不足です。

7.3. ターゲットデバイスと用途

これらの強みと弱みを踏まえると、Snapdragon 7c Gen 2は以下のデバイスと用途に最適です。

  • ターゲットデバイス:
  • エントリーレベルのChromebook (特にデタッチャブル/コンバーチブル型)
  • エントリーレベルのWindows on Arm PC (主にタブレット/2-in-1)
  • 主な用途:
  • 教育: GIGAスクール構想などで導入される学習用端末として、バッテリー持ち、携帯性、セキュリティ、コストが重視される場合に適しています。
  • 軽作業: Webブラウジング、メール、文書作成、簡単な表計算、オンライン会議など、基本的な生産性タスク。
  • モバイル利用: 外出先での情報収集、簡単な作業、コンテンツ消費など、バッテリーと接続性が重視されるシーン。
  • セカンドデバイス: メインPCの補助として、携帯性を活かしたサブ機としての利用。

8. 結論

Snapdragon 7c Gen 2コンピュートプラットフォームは、エントリーレベルのモバイルPC市場において、特に省電力性長時間のバッテリー持続時間、そして**常時接続性(LTE)**という点で強力な価値を提供するSoCです。Chromebookにおいては、競合のIntel CeleronやMediaTekのエントリーSoCに対して、Webブラウジング性能やバッテリーライフで優位性を示し、快適な基本的なコンピューティング体験を実現します。

一方で、性能面では限界があり、CPU負荷の高いタスクやグラフィック処理能力を要求する用途には向きません。特にWindows on Arm環境においては、アプリケーションの互換性やエミュレーションによる性能低下が課題となります。

Snapdragon 7c Gen 2は、性能よりもバッテリーライフ、携帯性、接続性を重視するユーザー、具体的には教育現場の生徒や、外出先での軽作業・コンテンツ消費を主目的とするモバイルワーカー、あるいは手軽なセカンドデバイスを求める層にとって、魅力的な選択肢となります。Qualcommは後継としてSnapdragon 7c+ Gen 3 なども発表しており、今後もARMベースのPC向けプラットフォームの進化が続くことが予想されます。Snapdragon 7c Gen 2は、Windows on ArmおよびChromebookのエコシステム拡大において、エントリークラスの選択肢を広げる重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

引用文献

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