Snapdragon X Elite X1E-80-100 ベンチマークまとめ

SoC_Qualcomm-snapdragon CPU・SoC

1. はじめに

Qualcommが投入したPC向けArmベースSoC(System on Chip)「Snapdragon X」シリーズは、従来のWindows on Armプラットフォームが抱えていた性能面の課題を克服し、IntelやAMD、Appleのプロセッサと本格的に競合することを目指して開発されました。特に「Snapdragon X Elite」は、高性能なOryon CPUコアと強力なAI処理能力を持つNPU(Neural Processing Unit)を統合し、電力効率とパフォーマンスの両立を謳っています 1

本レポートは、Snapdragon X Eliteファミリーの中位モデルにあたる「X1E-80-100」に焦点を当て、主に日本語の技術系ニュースサイトやレビュー記事から収集した情報に基づき、そのベンチマーク性能を詳細に分析することを目的とします。公式仕様の確認から始め、各種ベンチマークテストの結果、競合プロセッサとの比較、実際の使用感、持続性能、情報の信頼性評価、そして特定のユースケースにおける性能までを網羅的に調査し、階層化された構成で報告します。

2. Snapdragon X Elite X1E-80-100の仕様

2.1. 公式仕様

Snapdragon X Elite X1E-80-100の主な公式仕様は以下の通りです。これらの仕様は、Dell XPS 13 (9345)などの搭載製品情報やQualcommの公式情報から確認できます 1

  • CPU: Qualcomm Oryon CPU
  • コア構成: 12コア 1
  • 最大クロック周波数: 3.4 GHz (全コア) 1
  • デュアルコアブースト: 最大 4.0 GHz 1
  • キャッシュ: 42 MB (Total Cache) 1
  • GPU: Qualcomm Adreno GPU
  • 演算性能: 最大 3.8 TFLOPS 1
  • APIサポート: DirectX 12 1
  • NPU: Qualcomm Hexagon NPU
  • AI演算性能: 45 TOPS (Tera Operations Per Second) 1
  • メモリ:
  • タイプ: LPDDR5X 1
  • 転送レート: 8448 MT/s 1
  • 帯域幅: 135 GB/s 1
  • 最大容量: 64 GB 1

2.2. 他のSnapdragon X Elite/Plusモデルとの比較

Snapdragon X Eliteには複数のSKU(Stock Keeping Unit)が存在し、X1E-80-100はその中位に位置づけられます。また、よりコア数の少ないSnapdragon X Plusもラインナップされています。主な違いはCPUのクロック周波数とGPU性能にあり、NPU性能は全モデル共通で45 TOPSとなっています 1

モデル名CPUコア数CPU最大周波数 (全コア)CPUブースト (1-2コア)GPU性能 (TFLOPS)NPU性能 (TOPS)
X1E-84-100123.8 GHz最大 4.2 GHz4.645
X1E-80-100123.4 GHz最大 4.0 GHz3.845
X1E-78-100123.4 GHzなし3.845
X1P-64-100103.4 GHzなし3.845

出典: ASCII.jp 5, Qualcomm 1

X1E-80-100は、最上位のX1E-84-100と比較して全コア動作時の最大周波数とGPU性能が抑えられていますが、下位のX1E-78-100にはないデュアルコアブースト機能を備えています。これにより、シングルスレッド性能や瞬間的な応答性がX1E-78-100よりも高くなることが期待されます。

3. ベンチマーク性能評価

X1E-80-100を搭載したデバイス(主にDell XPS 13 9345やMicrosoft Surface Pro 第11世代)を用いたベンチマーク結果が、複数の日本語レビューサイトで報告されています。

3.1. CPU性能

CPU性能は、PCの基本的な処理能力を示す重要な指標です。

  • Geekbench 6:
  • Dell XPS 13 9345 (X1E-80-100) のスコアとして、シングルコアが約2774、マルチコアが約14681という結果が報告されています 6
  • 参考として、下位モデルのX1E-78-100搭載機では、シングルコアが2400~2500点台、マルチコアが11000~14000点台の範囲で報告されており 7、X1E-80-100は特にシングルコア性能で優位性が見られます。
  • Cinebench 2024:
  • ネイティブArm版での測定結果として、シングルコアが121点 (Surface Pro 11) 9 から124点 (Dell XPS 13) 10、マルチコアが837点 (Surface Pro 11) 9 から1027点 (Dell XPS 13) 10 の範囲で報告されています。搭載機種や冷却性能、電源設定によってスコアに幅が見られます。
  • X1E-78-100搭載機では、シングルコアが100点台前半、マルチコアが950~1080点台で報告されており 8、マルチコア性能は近いものの、シングルコアではX1E-80-100がブースト機能により高いスコアを示す傾向があります。
  • なお、x86エミュレーションで動作する旧バージョンのCinebench R23では、X1E-80-100搭載のDell XPS 13がマルチコア11188点、シングルコア1313点を記録しており、ネイティブ版(Cinebench 2024)と比較するとエミュレーションによるオーバーヘッドが存在することが示唆されますが、それでも旧世代Snapdragon (8cx Gen 3) と比較して大幅な性能向上が確認されています 10
  • PassMark CPU Mark:
  • X1E-80-100のマルチスレッドスコアとして23,329点が報告されています 12。これは、比較対象として挙げられているAMD Ryzen 5 8640Uよりも約13%高速である一方、シングルスレッド性能ではRyzen 5 8640Uに約7%劣るとされています 13。これは、コア数の多さがマルチスレッド性能に寄与する一方で、シングルコアのピーク性能では競合に譲る場合があることを示唆しています。
  • CrystalMark Retro:
  • Dell XPS 13 9345での測定では、CPUシングルスコアが8841、CPUマルチスコアが84142と報告されています 6

3.2. GPU性能

内蔵されるQualcomm Adreno GPUの性能は、グラフィックス処理やゲーム、クリエイティブ作業の快適性に影響します。X1E-80-100のAdreno GPUは、理論性能値として3.8 TFLOPSとされています 4

  • Geekbench 6 (GPU Compute):
  • Dell XPS 13 9345 (X1E-80-100) では、OpenCLスコアが20602、Vulkanスコアが24034と報告されています 6
  • これに対し、X1E-78-100搭載機 (ASUS ProArt PZ13) ではOpenCLが9977、Vulkanが11970という報告もあり 14、GPU性能は搭載デバイスのTDP設定や冷却能力、ドライバの最適化状況によって大きく変動する可能性が高いと考えられます。Qualcommのリファレンス機でのテストでは、より高いフレームレート (39-45fps @ 3DMark Wildlife Extreme) が報告されている例もあります 15
  • 3DMark:
  • X1E-78-100搭載のASUS Vivobook S 15では、Time Spy 1898、Fire Strike 6180、Wild Life 19430といったスコアが報告されています 11。X1E-80-100搭載機での同ベンチマークスコアは、GIGAZINEのレビュー 6 によるとPassMark PerformanceTest V11の3D Graphicsスコアが2899とされていますが、直接的な3DMarkのスコアは見当たりませんでした。
  • ファイナルファンタジーベンチマーク:
  • Dell XPS 13 9345 (X1E-80-100) では、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマークで高品質設定でも「とても快適」という評価が得られています 16。また、「黄金のレガシー」ベンチマークでは、1920×1080ドット・標準品質(ノートPC)設定で「快適」評価となっています 6
  • 一方、より負荷の高い「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」ベンチマークでは、1920×1080ドット設定で軽量品質「普通」、標準品質「やや重い」という評価であり 6、最新の高負荷3Dゲームを最高設定でプレイするには性能が不足する場面があることを示唆しています。
  • X1E-78-100搭載機 (ASUS Vivobook S 15) でも、FF14 (暁月のフィナーレ) ベンチマークの標準品質(ノートPC)設定で「快適」(スコア9880) との結果が出ており 11、中程度のゲームであれば十分な性能を持っていることがうかがえます。

3.3. AI/NPU性能

Snapdragon X Eliteシリーズの大きな特徴の一つが、45 TOPSという高い演算能力を持つQualcomm Hexagon NPUの搭載です 1。これにより、AI関連タスクをデバイス上で高速かつ効率的に処理することが可能になります。

  • 理論性能: 全てのSnapdragon X Elite/Plusモデルで共通して45 TOPSのNPU性能を備えています 1。これは、Qualcommによれば競合製品 (Apple M3やIntel Core Ultra 7) と比較してワットパフォーマンスで優位性があると主張されています 2
  • Geekbench AI:
  • Dell XPS 13 9345 (X1E-80-100) での測定結果として、QNN (Qualcomm Neural Network) バックエンドを用いたテストで、単精度 2075、半精度 11251、量子化 22080 というスコアが報告されています 6
  • UL Procyon AI Computer Vision Benchmark:
  • X1E-78-100搭載機 (ASUS Vivobook S 15) でのスコアは1679でした 11。Qualcommは、Snapdragon X EliteがIntel Core Ultra 7 155Hの8倍以上の速度を発揮すると主張しています 5
  • オンデバイスAI:
  • 130億パラメータを超える大規模言語モデル (LLM) をデバイス上で高速に実行できる能力を持つとされています 1。これにより、クラウド接続なしでの高度なAI機能の利用が期待されます。

4. 競合プロセッサとの比較

Snapdragon X Elite X1E-80-100の性能を評価する上で、主要な競合製品であるIntel Core Ultraシリーズ、AMD Ryzenシリーズ、Apple Mシリーズとの比較は不可欠です。Qualcommは公式発表において、Snapdragon X Eliteの優位性を繰り返し主張しています 2

4.1. Intel Core Ultraシリーズ

  • CPU性能:
  • Qualcommの主張によれば、Geekbenchマルチスレッドテストにおいて、Snapdragon X Eliteは同じ消費電力で比較した場合、Core Ultra 7 155Hより最大52%、Core Ultra 9 185Hより最大41%高速であるとされています 5
  • 実際のレビューでも、X1E-78-100搭載機がCinebench 2024でCore Ultra 7 155Hをマルチコア・シングルコア共に上回るケースが報告されています 8
  • 一般的に、マルチコア性能ではSnapdragon X Eliteが12個の高性能コアによりCore Ultraシリーズ(Pコア+Eコア構成)を大きくリードする傾向があります 7。シングルコア性能では、ベンチマークやテスト条件によって結果が変動しますが、X1E-80-100はブースト機能によりCore Ultra 7 155Hと同等かそれ以上の性能を示す場合があります 10
  • GPU性能:
  • Snapdragon X Eliteに統合されたAdreno GPUは、Intel Core Ultraに統合されたIris Xe Graphicsと比較して、特に3DMark Wild Life Extremeのようなクロスプラットフォームベンチマークで高いスコアを示す傾向があります 5。QualcommはCore Ultra 7 155H比で1.6倍の速度と主張しています 5。GeekbenchのGPUテストでもAdreno GPUが有利である可能性が示唆されています 7
  • 電力効率:
  • Qualcommは、同じ性能を発揮する場合、Snapdragon X EliteはCore Ultra 7 155H比で60%、Core Ultra 9 185H比で58%少ない消費電力で済むと主張しています 5。独立したレビューでも、特にシングルコア動作時の電力効率においてSnapdragon X EliteがCore Ultraを上回る結果が示されています 21

4.2. AMD Ryzenシリーズ

  • CPU性能:
  • PassMarkベンチマークの比較では、X1E-80-100はマルチスレッド性能でRyzen 5 8640Uを約13%上回る一方、シングルスレッド性能では約7%下回るとされています 13。これは、コア数の違いがマルチスレッド性能に、クロック周波数やアーキテクチャの特性がシングルスレッド性能に影響している可能性を示唆します。
  • 最新のRyzen AI 300シリーズとの比較に関して、QualcommはSnapdragon Summit 2024において、Snapdragon Xシリーズやスマートフォン向けのSnapdragon 8 Eliteでさえも、性能と電力効率で競合を上回ると主張しています 22

4.3. Apple Mシリーズ

  • CPU性能:
  • Qualcommは発表当初、Snapdragon X EliteがGeekbenchマルチスレッド性能でApple M2よりも最大50%高速であると主張していました 23。その後、Apple M3との比較では最大28%高速であるとしています 5
  • 独立したレビューサイトのベンチマーク (Cinebench 2024) では、X1E-80-100のシングルコア性能はApple M2 Proに匹敵するレベルにあると評価されています 21
  • ただし、最新のApple M4チップは、Geekbench 6でスコア向上に寄与するSME/SVE2命令セットに対応しているため、同ベンチマークのシングルコアスコアではSnapdragon X Elite (Armv8アーキテクチャベース) よりも有利になる可能性が指摘されています 24。マルチコア性能では、コア数の多いSnapdragon X Eliteが依然として優位性を持つ可能性があります 20
  • 電力効率:
  • Apple Mシリーズは依然として非常に高い電力効率を維持しており、特にシングルコア効率ではSnapdragon X Eliteを上回ると評価されています 21。しかし、Snapdragon X Eliteも従来のWindows PC向けプロセッサと比較して大幅な効率改善を実現しており、健闘していると言えます 21

5. 実使用感と性能分析

ベンチマークスコアは性能の一側面を示すものですが、実際の使用感が重要です。日本語レビューサイトの情報から、アプリケーションの動作、マルチタスク、ゲーム、バッテリーへの影響を分析します。

5.1. アプリケーションの応答性と互換性

  • ネイティブArmアプリ: Armアーキテクチャ向けに最適化されたアプリケーションは、Snapdragon X Eliteの高いCPU/GPU性能を活かし、高速かつスムーズな動作が期待されます 11
  • x86エミュレーション (Prism): Windows on Armの大きな課題であったx86/x64アプリケーションの互換性と性能は、Snapdragon X Eliteとエミュレーション技術「Prism」の組み合わせによって大きく改善されました 10。多くの従来のWindowsアプリケーションが実用的な速度で動作するようになったと報告されています 11
  • 互換性の課題: しかし、依然として互換性の問題が残るケースもあります。特に、ATOKのような一部の日本語入力システム (IME) はArm版が提供されておらず、x64版の動作保証もないため、問題が発生する可能性があります 8。また、AVX2命令セットを必須とするアプリケーションはエミュレーションでも動作しない場合があります 11。利用したいソフトウェアがArm版Windowsに対応しているか、あるいはエミュレーションで問題なく動作するかは、事前に確認することが推奨されます。窓の杜などで公開されている「Arm対応」アプリ一覧なども参考になります 26

5.2. マルチタスク性能

Snapdragon X Elite X1E-80-100は12個の高性能なOryon CPUコアを搭載しており 3、これにより高いマルチスレッド性能を発揮します。CinebenchやGeekbenchのマルチコアスコアの高さが示すように 9、複数のアプリケーションを同時に実行したり、バックグラウンドで重い処理を行ったりするマルチタスク環境においても、快適な動作が期待できます。

5.3. ゲーム性能

内蔵Adreno GPUの性能向上により、従来のWindows on Armデバイスと比較してゲーム性能は大幅に向上しました。

  • 「ファイナルファンタジーXIV」のような中程度の負荷のゲームは、標準~高品質設定で「快適」にプレイできるレベルに達しています 6
  • しかし、「FINAL FANTASY XV」のような高負荷なAAAタイトルでは、グラフィック設定を調整しても「やや重い」といった評価となり 6、最新ゲームを高画質設定で楽しむには依然として性能不足です。
  • また、x86/x64エミュレーションでゲームを実行する場合、互換性の問題からクラッシュしたり、そもそも起動しなかったりするリスクも存在します 21。ネイティブArm対応のゲームタイトルが増えることが、今後のゲーム体験向上には重要となります。

5.4. バッテリー持続時間への影響

Armアーキテクチャの採用は、一般的に電力効率の向上に寄与します。Snapdragon X Eliteもその恩恵を受けていると考えられます。

  • 多くのレビューで、長時間のバッテリー駆動が可能であることが報告されています。例えば、ASUS Vivobook S 15 (X1E-78-100) ではYouTube動画の連続再生で11時間以上 11、Dell XPS 13 (X1E-80-100) ではNetflixのストリーミング再生で最大27時間という驚異的な駆動時間がメーカー公称値として挙げられています 3
  • これは、Arm系CPUの特徴であるアイドル時の消費電力の低さが大きく貢献していると考えられます 8。Webブラウジングやドキュメント作成、動画視聴といった比較的負荷の低い作業が中心であれば、一日中バッテリー切れを心配せずに使用できる可能性が高いです。
  • ただし、ベンチマークテスト中のような高負荷状態が続くと、相応の電力を消費することも指摘されています 8。ピーク性能が高い分、ピーク時の消費電力も高くなる傾向があり、ACアダプタの出力によっては性能が制限される可能性も示唆されています 8

6. 持続性能と消費電力

ノートPCでは、瞬間的なピーク性能だけでなく、負荷がかかり続けた場合の性能維持能力(持続性能)や、その際の消費電力、発熱も重要になります。

6.1. サーマルスロットリング

高負荷が続くとCPU/GPUの温度が上昇し、性能を抑制するサーマルスロットリングが発生することがあります。

  • Dell XPS 13 9345 (X1E-80-100) のレビューでは、Cinebench 2024のような高負荷テストを長時間実行した場合、CPUクロック周波数が初期の3.81GHzから平均2.12GHzまで低下する傾向が見られました 28。これは、薄型筐体における熱設計の制約から、持続的な高負荷状態ではサーマルスロットリングが発生し、性能が抑制される可能性を示唆しています。
  • ASUS Vivobook S 15のように、より大型の筐体で高性能な冷却システム(例: ASUS IceCoolサーマルテクノロジー) 11 を搭載するモデルでは、持続性能がより高く維持される可能性があります。
  • Snapdragon X Elite搭載デバイスの持続性能は、個々の製品の冷却設計やTDP設定に大きく依存すると考えられます。

6.2. 消費電力

Snapdragon X Eliteは高い電力効率をアピールしていますが、性能とのトレードオフが存在します。

  • アイドル時や低負荷時の消費電力は低いと評価されています 8。これにより、一般的な利用シーンでのバッテリー持続時間の長さにつながっています。
  • 一方で、ピーク性能を発揮する際の消費電力は、従来の低消費電力Armチップと比較して高くなっている可能性があります。ASUS Vivobook S 15 (X1E-78-100) のレビューでは、付属のACアダプタが90W出力であることや、一般的な65WのUSB PD充電器では性能が十分に発揮できない可能性が指摘されており 8、ピーク時には相応の電力を要求することを示唆しています。
  • Qualcommは、競合のIntel Core Ultraと比較して、同じ性能をより低い消費電力で実現できる(ワットパフォーマンスが高い)と主張しています 2。また、バッテリー駆動時でも電源接続時と同等の性能を発揮しやすいとも主張していますが 19、一部レビューでは、省電力モードとパフォーマンスモードで性能とバッテリー寿命に大きな差があるとの指摘もあります 29。実際の消費電力特性は、利用状況やデバイスの電源設定によって変動すると考えられます。

7. 情報の信頼性と評価

Snapdragon X Eliteに関する情報は、Qualcommによる公式発表、リーク情報、そしてメディアやレビュアーによる実機テストなど、様々な形で提供されています。これらの情報を解釈する際には、いくつかの注意点があります。

7.1. 公式発表データ vs リーク情報/初期レビュー

  • Qualcomm公式発表: Qualcommは、Snapdragon Summitなどのイベントやプレスリリースを通じて、Snapdragon X Eliteの性能データを積極的に公開しています 2。これらのデータは、多くの場合、競合製品との比較において自社製品の優位性を強調する内容となっています。比較対象の選定やテスト条件(特定のベンチマーク、特定の消費電力下など)がQualcommに有利な設定になっている可能性があり、鵜呑みにせず、独立した第三者のレビューと比較検討することが重要です。
  • リーク情報: 製品発売前には、Geekbenchのデータベースなどにベンチマークスコアとされる情報がリークされることがありました 30。これらの情報は話題性がありますが、テスト環境が不明確であったり、意図的に操作されたりしている可能性もあり、信憑性の判断は慎重に行う必要があります。
  • 初期レビュー/ベンチマークサイト: 実際に市販されているデバイスを用いたレビューやベンチマークサイトの結果は、より現実的な性能を知る上で貴重な情報源です 6。しかし、これらの結果も、テストに使用されたデバイスの個体差、OSやドライバのバージョン、バックグラウンドプロセスの状況、室温、電源モードの設定(例: バランス、最高のパフォーマンス、メーカー独自のモード 28)、そしてエミュレーションで動作しているかネイティブで動作しているかによって、スコアが大きく変動する可能性があります。特にGPU性能やエミュレーション下での性能は、ばらつきが大きい傾向が見られます。

7.2. ベンチマーク結果の解釈における注意点

ベンチマークスコアを比較する際には、以下の点に留意する必要があります。

  • ベンチマークソフトの種類とバージョン: Cinebench 2024 (ネイティブArm版) と Cinebench R23 (x86エミュレーション版) ではスコアの意味合いが異なります 7。また、Geekbench 6のようにバージョンアップでスコアが変動することもあります。
  • ネイティブ vs エミュレーション: ネイティブArmアプリの性能と、x86/x64アプリをエミュレーション (Prism) で動作させた際の性能は異なります 11。特定のアプリの性能を知りたい場合は、そのアプリがどちらで動作するかを確認することが重要です。
  • テスト対象SKU: 同じSnapdragon X Eliteでも、X1E-80-100とX1E-78-100ではブースト機能の有無など仕様が異なり、性能差が出ます 9
  • 搭載デバイスの設計: デバイスメーカーが設定するTDP(熱設計電力)枠や冷却システムの性能は、特に持続性能に大きな影響を与えます 8。同じSoCを搭載していても、薄型軽量ノートと大型ノートではパフォーマンスが異なる可能性があります。
  • ソフトウェア環境: OSのバージョン、チップセットドライバ、GPUドライバ、アプリケーションの最適化状況なども性能に影響します。特に新しいプラットフォームでは、ソフトウェアの成熟度が性能を左右する要因となります 8

8. 特定のユースケースにおける性能

ベンチマークスコアだけでなく、具体的な利用シーンでどの程度の性能を発揮できるかが重要です。

8.1. クリエイティブ作業

  • 動画編集: DaVinci ResolveのようなネイティブArm対応が進んでいるソフトウェアでは、特定の処理(例: Magic Maskのトラッキング)において、従来のIntel Core i7 (第13世代Uシリーズ) 搭載機と比較して大幅な高速化 (4.5倍) が報告されています (X1E-78-100搭載機) 11。高いマルチコア性能と、最適化されたソフトウェアの組み合わせにより、快適な編集作業が期待できます。
  • 写真編集: Luminar NeoのようなNPUを活用するソフトウェアでは、AI機能による編集処理の高速化が期待されます 17
  • 3Dレンダリング: Cinebenchのスコアが示すように、高いマルチコア性能は3Dレンダリング作業において有利に働きます 9

8.2. オフィス業務

  • Webブラウジング、メール、ドキュメント作成、表計算といった一般的なオフィス業務においては、Snapdragon X Elite X1E-80-100は十分すぎる性能を持っています。
  • ただし、Microsoft Officeアプリケーションなどを利用するPCMark 10 Applicationsベンチマークでは、Intel Core Ultra搭載機に劣る結果も報告されています 20。これは、テスト環境やエミュレーションの影響を受けている可能性も考えられますが、特定のOfficeマクロや連携機能など、高度な使い方をする場合には注意が必要かもしれません。

8.3. AI関連タスク

Snapdragon X Eliteは、Copilot+ PCの要件を満たす強力なNPUを搭載しており、AI機能の実行に強みを発揮します 9

  • Windows Studio Effects (背景ぼかし、自動フレーミングなど) や、今後登場するRecall(履歴検索)、ライブキャプション(リアルタイム翻訳)といったOSレベルのAI機能を、CPU/GPUに負荷をかけずにNPUで効率的に処理できます。
  • 画像生成AI (Stable Diffusionなど) や超解像技術 (Automatic Super Resolution) 17 など、NPUに対応したサードパーティ製アプリケーションにおいても、高速な処理が期待されます。
  • デバイス上で130億パラメータを超える大規模言語モデルを実行できる能力は 1、オフライン環境での高度なAIアシスタント機能や、プライバシーに配慮したAI処理の実現につながる可能性があります。

9. 結論

Snapdragon X Elite X1E-80-100は、QualcommがPC市場に本格参入するために投入した意欲的なSoCであり、従来のWindows on Armのイメージを覆す性能と効率性を実現しています。

  • 性能サマリー: 12コアのOryon CPUは、特にマルチスレッド性能においてIntel Core Ultraシリーズや一部のAMD Ryzenプロセッサを凌駕する場面があり、シングルスレッド性能もブースト機能により健闘しています。Adreno GPUは統合型GPUとしては良好な性能を示し、中程度のゲームやクリエイティブ作業に対応可能です。45 TOPSのNPUは、オンデバイスAI処理において明確な強みとなります。
  • 競合に対する強みと弱み: 強みは、高いマルチスレッド性能、優れた電力効率(特に低負荷時とワットパフォーマンス)、そして強力なNPU性能です。これにより、長時間のバッテリー駆動とAI機能の活用を両立しやすい点が魅力です。弱みとしては、依然として存在するx86/x64アプリケーションの互換性リスク、高負荷ゲームにおける性能限界、そして登場から日が浅いためソフトウェア最適化が途上である点が挙げられます。シングルコアのピーク性能では、最新のApple MシリーズやIntel/AMDのハイエンド製品に及ばない場合もあります。
  • 実用性と将来性: 日常的なオフィスワーク、Webブラウジング、動画視聴はもちろん、ある程度のクリエイティブ作業やAIを活用したタスクまで、多くの用途で快適なパフォーマンスを提供します。特にバッテリー持続時間を重視するモバイルユーザーや、Copilot+ PCのAI機能を活用したいユーザーにとっては有力な選択肢となります。今後、ネイティブArm対応アプリケーションが増え、OSやドライバの最適化が進むことで、プラットフォームとしての魅力はさらに高まる可能性があります。
  • 購入検討者への示唆: Snapdragon X Elite X1E-80-100搭載PCは、バッテリー寿命、マルチタスク性能、AI機能を重視するユーザーに適しています。ただし、特定のレガシーソフトウェアや高負荷な3Dゲームの利用が主目的である場合は、互換性や絶対性能の面で注意が必要です。購入前には、自身の利用目的に合ったソフトウェアがArm版Windowsで問題なく動作するかを確認することが推奨されます。また、搭載するデバイスの冷却性能やTDP設定によってパフォーマンスが変動するため、個別の製品レビューを参考にすることが重要です。

引用文献

  1. Snapdragon X Elite | Our Newest Laptop Processor – Qualcomm, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.qualcomm.com/products/mobile/snapdragon/laptops-and-tablets/snapdragon-x-elite
  2. Snapdragon X Series is the Exclusive Platform to Power the Next Generation of Windows PCs with Copilot+ Today | Qualcomm, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.qualcomm.com/news/releases/2024/05/snapdragon-x-series-is-the-exclusive-platform-to-power-the-next-
  3. 薄型ノートパソコン – XPS 13 – Dell, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.dell.com/ja-jp/shop/dell%E3%81%AE%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%91%E3%82%BD%E3%82%B3%E3%83%B3/xps-13-%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%91%E3%82%BD%E3%82%B3%E3%83%B3/spd/xps-13-9345-laptop
  4. 87-71417-1_REV_F_Snapdragon_X_Elite_Product_Brief.pdf – Login – Qualcomm, 4月 14, 2025にアクセス、 https://docs.qualcomm.com/bundle/publicresource/87-71417-1_REV_F_Snapdragon_X_Elite_Product_Brief.pdf
  5. ASCII.jp:QualcommがWindows PCの新世代CPU「Snapdragon X …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/196/4196149/
  6. Dellの薄型Copilot+ PC「XPS 13 9345」でいろいろなベンチマーク …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20240915-dell-xps-13-9345-benchmark/
  7. 「Snapdragon X Elite」って結局どうなのよ? ASUS JAPANの …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2408/15/news105_5.html
  8. 【笠原一輝のユビキタス情報局】やっぱり速かった … – PC Watch, 4月 14, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1601037.html
  9. 【Surface Pro 第11世代】Snapdragon X Elite 搭載!使い心地はどう …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://sunmattu.jp/archives/66820
  10. ASCII.jp:デルのフラッグシップも「スナドラX」搭載で「Copilot+ …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/limit/group/ida/elem/000/004/213/4213621/
  11. ついにベンチマーク解禁の「Snapdragon X」搭載「Copilot+PC」=「ASUS Vivobook S 15」実機レビュー – ASCII.jp, 4月 14, 2025にアクセス、 https://ascii.jp/elem/000/004/204/4204647/
  12. Qualcomm Snapdragon X Plus X1P-64-100 vs Qualcomm Snapdragon X Elite – X1E-80-100, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.cpubenchmark.net/compare/6063vs6110/Qualcomm-Snapdragon-X-Plus-X1P-64-100-vs-Qualcomm-Snapdragon-X-Elite—X1E-80-100
  13. AMD Ryzen 5 8640U vs Qualcomm Snapdragon X Elite – X1E-80-100 – CPU Benchmarks, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.cpubenchmark.net/compare/6089vs6110/AMD-Ryzen-5-8640U-vs-Qualcomm-Snapdragon-X-Elite—X1E-80-100
  14. Snapdragon X Plus 8コア新チップの実力は?ASUS ProArt PZ13 HT5306QAを実機レビュー!電池持ちが半端ないWindows Copilot+ PC! | MATTU SQUARE, 4月 14, 2025にアクセス、 https://sunmattu.jp/archives/68351
  15. 「Snapdragon X Elite」のベンチマーク結果をQualcommが公開 – GIGAZINE, 4月 14, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20231031-snapdragon-x-elite-benchmark/
  16. Dell XPS 13 9345(2024年モデル)レビュー:Snapdragon搭載のAI対応「「Copilot+PC」。13.4インチモバイルPCでCNC削り出しアルミボディを採用しています – YouTube, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=KZJU_OAtm8w
  17. Qualcomm releases official Snapdragon X Plus and Snapdragon X Elite benchmarks for 45 TOPS Hexagon NPU – NotebookCheck.net News, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/Qualcomm-releases-official-Snapdragon-X-Plus-and-Snapdragon-X-Elite-benchmarks-for-45-TOPS-Hexagon-NPU.841811.0.html
  18. ライバル完封のSnapdragon X Elite、ベンチマークでその実力が明らかに – PC Watch – インプレス, 4月 14, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1543148.html
  19. Qualcomm says its Snapdragon Elite benchmarks show Intel didn’t tell the whole story in its Lunar Lake marketing | Tom’s Hardware, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.tomshardware.com/laptops/qualcomm-says-its-snapdragon-elite-benchmarks-show-intel-didnt-tell-the-whole-story-in-its-lunar-lake-marketing
  20. Snapdragon X Elite vs Intel Core Ultra 7 155H: We ran the benchmarks – XDA Developers, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.xda-developers.com/snapdragon-x-elite-vs-intel-core-ultra-7-155h/
  21. Qualcomm Snapdragon X Elite Analysis – More efficient than AMD & Intel, but Apple stays ahead – Notebookcheck, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.notebookcheck.net/Qualcomm-Snapdragon-X-Elite-Analysis-More-efficient-than-AMD-Intel-but-Apple-stays-ahead.850221.0.html
  22. Snapdragon XとRyzen/Coreではどちらが速い?互換性という最大の課題の現状は?, 4月 14, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1633577.html
  23. IntelやAppleを超越したSnapdragon X EliteのCPU性能。今度こそArm版Windows普及に弾み?, 4月 14, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1542491.html
  24. Snapdragon X EliteはApple M4にベンチマークテストで勝てないかもしれない、その理由とは?, 4月 14, 2025にアクセス、 https://gigazine.net/news/20240527-snapdragon-x-elite-apple-m4-benchmark/
  25. We’ve tested Qualcomm Snapdragon X Elite and here’s what we found out – Reddit, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/hardware/comments/1dbnmrm/weve_tested_qualcomm_snapdragon_x_elite_and_heres/
  26. Dell XPS13(9345)Snapdragon X Elite レビュー | Qualcomm/AMD/Intel プロセッサー搭載AI PC 3台を比較 – YouTube, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=LJnOqojHOXE
  27. WindowsにスマホのCPU載せたらどうなるの?|DELL XPS13(9345) – 右ねじの法則, 4月 14, 2025にアクセス、 https://rightscrew.com/ja/posts/2025-01-04-dell-xps-snapdragon/
  28. Dell XPS 13 9345 レビュー – 完璧なウルトラポータブル …, 4月 14, 2025にアクセス、 https://laptopmedia.com/jp/review/dell-xps-13-9345-review-the-perfect-ultraportable/
  29. Snapdragon X Elite In-depth Review : r/hardware – Reddit, 4月 14, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/hardware/comments/1djotky/snapdragon_x_elite_indepth_review/
  30. x86はなくなるの? = 今年6月にQualcomm「Snapdragon X Elite」採用の「AI PC」が一斉発売の予定 – 週刊アスキー, 4月 14, 2025にアクセス、 https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/193/4193782/
  31. 3度目の正直、それとも2度あることは3度ある?次世代Snapdragon、命名規則変更の噂, 4月 14, 2025にアクセス、 https://smhn.info/202410-snapdragon-naming-rumors
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