安いから売れているWi-Fi 6ルーター エントリーモデル「WSR-1500AX2S」は、はたして損か得か

Wi-Fi、LAN

はじめに

「WSR-1500AX2S」シリーズは、国内でのWi-Fi製品ぶっちぎりシェアNo.1企業「株式会社バッファロー(名古屋市)から発売された「Wi-Fi 6に対応するWi-Fiルーター親機エントリーモデル。
2021年9月に販売が開始され、2023年現在ではWi-Fi関連製品のランキングで常時上位にランクインし、1位獲得もしばしば見受けられる人気商品になっている。

WSR-1500AX2Sはエントリーモデル、つまりラインナップ中では下位モデルにあたるわけで当然ながら同世代のもっと上位品(お値段も高い)と比べて性能は低い。

つまり、
安いから人気がある。売れている。
安いから上位品よりも性能が低い。
というポジション。

賢い消費者を目指す人にとっては、Wi-Fiルーター選びにおいても安物買いの銭失いは避けたいし、とはいえ安いに越したことはないというジレンマがあるはず。

この記事では、WSR-1500AX2Sについて、コストパフォーマンスの観点でチェックしつつ、どのような人におすすめできるのかをまとめていきたい。

注意!Wi-Fiルーター選びのよくある勘違い

Wi-Fiルーター(親機)を購入する上で気になるのが通信の快適性。特に繋がり続けられる安定性はとても大事。

何が言いたいかというと、Wi-Fiルーターの機種選定においていちばん重視すべきは「自分にとって必要な通信性能を持つこと」の見極め。

例えば、家の間取りが1Kや2DKのようにWi-Fiルーターがほぼ見える場所でしか使わない場合と、マンションで間取りが5LDK(100㎡ぐらい?)とか大きめ戸建てで全部の部屋でWi-Fi使いたいケースでは、チョイスすべき「通信性能」が違ってくる。

ここでWi-Fiルーター選びにおける勘違いについて触れておく。
それは、値段が高いハイエンドモデルは「マニア向け」、価格の安い低価格なエントリーモデルは「初心者向け」というもの。

例えば、Wi-Fiルーターの購入は生まれて初めて、なんの知識もありませんという「超初心者さん」がいたとして、何もわからないから「とりあえず一番安いのにしておこう」は完全に間違った考え方だと声を大にして伝えたい。

上記の勘違いしたまま購入しても、結果としてたまたま問題が起きないケースもあるやもしれないが、使い始めて失敗に気づいてもなんら不思議はない。

まとめると
・Wi-Fiルーターには「安い初心者向け」とか「高いマニア向け」という区分は(ほぼ)ない。したがって、初心者だから安いモデルを買うという判断は間違い。
・設置する住宅ごとに必要とされるWi-Fiルーターの「通信性能」が異なる。「通信性能が低ければ価格は安い」「通信性能が高ければ高価格帯の製品になる」という原則を踏まえた上で、自宅にはどの価格帯のWi-Fiルーターが”適当”なのかを判断する。

WSR-1500AX2Sの通信範囲の目安

この記事で取り上げているWSR-1500AX2SはバッファローのWi-Fiルーターラインナップの下位モデルのため、通信範囲については最小の「1Kや2DK」向けに相当する。

じゃあ、もっと広い家(4LDKとか)に設置したらどうなるんだという疑問も浮かんでくるが、これはケースバイケースとしか言えない。Wi-Fiルーターの設置部屋とすぐ隣の部屋なら通信エリアに入ると思われるが、離れた部屋だと通信が不安定になりそう。

WSR-1500AX2Sをおすすめする人は、ワンルームのお部屋に住んでる単身者。
人数が増えて、家の間取りが大きくなるとより上位機種を使うのが無難。

実は、複数台設置でカバーエリアを拡大も

バッファローのWi-Fiルーター(新規格のWi-Fi 6対応)なら、複数台のWi-Fiルーターを連携させて通信範囲を広げるメッシュWi-Fiの構築が可能。

低価格で購入しやすいWSR-1500AX2Sは、上位機種を使っているユーザーが電波の死角を埋めるためのピースとしても重宝する存在だったりもする。

売上ランキングの上位に君臨しているのは、単体利用もメッシュ利用も両方で使えることも要因になっていそうだ。

侮れないエントリーモデル。トップブランドが性能の底上げを牽引

前述の通り、「WSR-1500AX2S」は2023年のWi-Fi業界におけるまぎれもないヒット商品だ。
Wi-Fi業界の雄、バッファローにおいては「WSR-1500AX2S」は新規格Wi-Fi 6へラインナップの移行を完了させた記念すべき製品でもあった。

Wi-Fi 5からの代替わりで、Wi-Fi 6製品が登場したのは2019年。Wi-Fi 6対応製品は最上位モデルから順に発売され、エントリーモデルWSR-1500AX2Sが発売されたのは実に2年後。

待たされた甲斐あって、同じエントリーモデルでも前世代のWi-Fi 5世代とWi-Fi 6世代では性能差は歴然。2023年現在、パソコン・スマートフォンではWi-Fi 6対応が当たり前になっているのを考えると、Wi-Fi 6という高速通信規格をエントリーモデルの価格帯でも展開してくれているのはありがたい。

ここで、メーカー発表時のプレス向け資料を見ていきたい。主文は次の通り。

本商品は、高速Wi-Fi規格Wi-Fi 6(11ax)2ストリーム(2×2 )とGigaビットイーサネットに対応したWi-Fiルーターです。Wi-Fiは5GHzが最大1,201Mbps(理論値)、2.4GHzが最大300Mbps(理論値)、有線LANは最大1Gbps(理論値)の高速通信が可能です。

Wi-Fi Alliance®標準規格「Wi-Fi EasyMesh™」に対応予定で、同じく「Wi-Fi EasyMesh™」に対応したWi-Fiルーター・Wi-Fi中継機と、本商品とを自由に組み合わせてメッシュネットワークを構築することができます。

Wi-Fi 6対応端末に対し、通信速度や安定性を向上させる「ビームフォーミング」に対応しており、室内を移動するスマートフォンを的確にとらえて最適に接続、死角の少ない快適な通信環境を構築できます。

また、複数端末の通信を同時に処理できる「MU-MIMO」に対応するほか、Wi-Fi 6高速化技術「OFDMA」により、1度の通信で帯域を細分化し各端末へ同時に通信することが可能となり、優れたレスポンスで、高速かつ遅延のない通信を実現します。

アクセス集中による影響が少ないIPv6(IPoE / IPv4 over IPv6)各通信サービスに対応しています。これにより、複数端末が同時にスマートフォンをWi-Fiにつないだ際も、快適な高速通信を提供します。
さらに強固なセキュリティー「WPA3」に対応しているほか、家族のネットワークを守る「ネット脅威ブロッカー ベーシック」(1年間無料ライセンス付)を搭載し、ご家庭にあるスマート家電をサイバー攻撃から守ります。

株式会社バッファロー プレスリリース より抜粋

専門用語がいろいろ出てきてますが、ざっくり言うとイマドキのWi-Fiルーターにとって必須の機能はだいたい搭載されているので安心してね、って感じ。

とはいえ、ラインナップ中では最下位ではあるので、上位機種のような便利機能はあまりなし。

実は、売れてる理由が報道発表資料に書いてないのであった

ランキング1位になっている「売れてる理由」はプレスリリースにも書いてないので、一応補足しておく。

ぶっちゃけ安い+ブランド力。

Wi-Fiルーターの価格は、下は2千円前後で買えるものから、上は数万円の豪華セットまである。価格差が十倍以上も開いているため、選ぶのもなかなかにハードルが高い。
そんな店頭で、最大勢力の「一番安いのは不安だけど、安くて無難なヤツを買っておくか」の方々に選ばれているのがこのWSR-1500AX2S。

海外メーカーや国内の小規模メーカーではサポートに不安を感じる人にとっては、まさに「安全牌」。
ちなみにバッファローは、名古屋市に本社がある国内メーカー(東証プライム上場のメルコ・ホールディングス100%子会社)。

令和時代のインターネットに必須の機能が一通り揃ってる

売れてる一番の理由が安いからだとして、それだけで売上台数ナンバー1になれるほど甘くないのがビジネス。
満足感を出すためにトレンドの機能はできるかぎり載せていて、最早、ワンランク上のモデルとの違いがよくわからなくなっている。

新規格「Wi-Fi 6」について

報道資料にもあるように「高速Wi-Fi規格Wi-Fi 6(11ax)2ストリーム(2×2 )」に対応してる。

前世代のWi-Fi 5より、Wi-Fi 6で通信した方がスピードが速い。
通信方法が発展進化・弱点を埋めたのがWi-Fi 6なので。

つまり、WSR-1500AX2Sは安いから遅い、ではなく、安くてもそこそこスピード出る。

ちなみに、Wi-Fi 6だけでなく、Wi-Fi 5含め以前のWi-Fi機器とも通信できる。

電波の周波数ごとの最大速度は次の通り。
 5GHz:最大1,201Mbps(理論値)
 2.4GHz:最大300Mbps(理論値)

今どき、エントリーモデルでも有線LANポートは1Gbpsです

Wi-Fi 5世代のWi-Fiルーターだと、最廉価モデルの有線LANポートが速度100Mbps(100BASE-TX)なんてこともありました。ところが、WSR-1500AX2Sならば1Gbps(1000BASE-T)に対応。

今どき、ゲーム機ですら有線は1Gbpsが標準になっているので、しっかり業界標準たる1Gbpsになったのは、トータルな性能の底上げを感じさせる。

WSR-1500AX2Sの有線通信ポートの仕様は
インターネット回線をつなげる端子(WAN)1個搭載、スピードは1Gbps。
パソコンや有線LAN対応家電をつなげる端子(LAN)3個搭載、スピードは1Gbps。

複数設置でカバーエリアを広げる「メッシュネットワーク」に対応

通信範囲のところで軽く触れたメッシュ通信について。
直近5年ぐらいでWi-Fiメーカー各社が相次いで対応していて、Wi-Fi業界のトレンドになっている機能。

メッシュというのはつまり「網」のこと。
複数台のWi-Fi親機/中継機を連携させて、Wi-Fiの通信範囲を広げたり、電波の死角を無くしましょう、という技術。要は個人戦でダメなら団体戦。毛利家「三本の矢」の故事の通り。

WSR-1500AX2Sは、メッシュの標準規格「Wi-Fi EasyMesh(ワイファイ・イージーメッシュ)」に対応しているので、今後出てくるバッファロー製品はもちろん他社品とのメッシュ環境構築にも使える。

最初はWSR-1500AX2SをWi-Fiルーター(親機)として導入し、数年後にもっと性能の良いWi-Fiルーターを購入したら、WSR-1500AX2Sを捨てずに中継機として使い回すなんてことも想定できる。

なお、Wi-Fi通信の電波を中継する他、メイン機からサブ機まで有線LANケーブルを這わせていく「有線バックホール」という方式でもメッシュネットワークの構築が可能。
住宅によっては通称「情報コンセント」と呼ばれる、壁内LANケーブルを通していることがあるが、終端にWi-Fi中継機をつけることで効率的に強力なWi-Fi環境を実現できる。これは、正直羨ましい。

通信の安定性を高める機能も搭載されている

Wi-Fi通信は「安定性」が重要なのはご存知の通り。プロは途切れないことを重要視しているが、家庭での利用も同じことが言える。継続して安定的な通信ができないWi-Fiではストレスがたまる。

WSR-1500AX2Sに搭載されているWi-Fi通信の安定化機能に注目してみる。

『ビームフォーミング』:通信先の端末の方向に電波送信を最適化する機能。

『MU-MIMO』:元々、複数アンテナで電波を送受信することで通信性能を高める「MIMO」という機能があり、発展させて複数端末(マルチユーザー=MU)に対応。

『OFDMA』:これはWi-Fi 6の特長で、同時に複数の機器と通信することで従来のWi-Fiでやっていた”順番待ち”を無くすもの。

5年前の同価格帯エントリーモデルと比べると格段にレベルアップを果たしている。
Wi-Fi 6製品としては後発な分、こなれてる感じで好印象。

インターネット回線を実質スピードアップ

みんながインターネットを使うようになって、通信網の上でも速度低下が起きてる。
古くからのインターネット通信のルート(IPv4)が渋滞していると傍らで、バイパスを華麗に抜けていくことで実質スピードアップを図る、そんなイメージの技術が、IPv6(IPoE / IPv4 over IPv6)。

出始めの頃は、サービス提供元が少なかったり設定の難易度が高かったりしてたものの、以前に比べると普及が進んでいる印象あり。

このIPv6対応に関してサービス提供における国内独特の事情があり、海外メーカーは苦手としていることから、国内メーカー(バッファローやNEC)が無難とされる理由にもなっている。

Wi-Fi通信の内容を盗聴から守る

Wi-Fiは電波を使った通信。家の外にも飛んでいってしまう。反対に、隣近所の家のWi-Fiがうちでもキャッチできる。
このため欠かせないのが他人に情報を盗み見られないようにする暗号化。
業界標準のセキュリティー規格WPA3にしっかり対応しているのでiPhoneでもWindows PCでも安心して利用できる。エントリーモデルだからってセキュリティーを犠牲にしていない。この点に関しては、10年近く古い機種を現役で使っている環境は相対的に脆弱と言えるので、もし、古いWi-Fiルーターを長年使っているなら、早期の買い替えを検討した方が良い。

まとめ

WSR-1500AX2Sについて見解を書いて連ねてきたので、そろそろタイトルにしている「損か、得か」について見解を述べたい。

ここまで読んだ方なら既にお察しの通り「得」と言えると思う。

  • Wi-Fiルーターのエントリーモデルとしては大幅に性能が引き上げられ、旧世代の同価格帯を完全に過去のものに。実質的にWi-Fi業界の最低廉級の基準を底上げした。
  • そろそろ子機側のスマホ、PCではWi-Fi 6搭載が当たり前になってきていて、現行世代の高速規格でスピード改善を図れる意義は大きい。
  • インターネットの固定回線がすでに光ファイバ・CATVの1Gbpsの速度がスタンダードになっており、有線ポートが1Gbpsなのは自然。エントリーモデルだからという理由で遅い100Mbpsポートにされなかったのはメーカーの英断。有線LAN機器をつなぐために別途1Gbps対応のスイッチングハブを購入する必要もなくなって、旧エントリーモデルで地味に高くついてた問題を解消できててエラい。
  • Wi-Fiルーターとして使わなくなったら、中継機として使いまわしができる。次のWi-Fiルーターを購入した際にWSR-1500AX2Sの使い道がなくなってゴミになるよりもだいぶマシ。
    中継機として考えた場合、速度などの仕様上、向こう数年は十分に一線で活躍が期待できる。